ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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昨今、マジで四季が二極ている気がする。

僕達の春と秋はどこ?


そんな訳で初投稿です。




物語18

 

 

 

 正邪決戦もオラリオ側が勝利を納め、現在は復興に勤しんでいる迷宮都市。

 

今日も朝早くからトントンと街を立て直す耳心地の良い鎚の音が聞こえてくる。

 

 闇派閥の脅威も去り、漸く手に入れた安寧の日常。その有り難さを噛み締めるように人の営みを耳にしている一方で。

 

「ど、どうぞ。粗茶ですが……」

 

「感謝する。女神ヘスティア」

 

 見る者を圧倒する巨漢の猪人(ボアズ)。かのフレイヤ・ファミリアの団長ことオッタルが、ヘスティア・ファミリアの本拠地(ホーム)にてソファーに座り差し出された粗茶を啜っていた。

 

(いやなに呑気に茶ァ出してんだよヘスティアァッ!? そこは追い出せよ! お前仮にも女神だろうがおぉん!?)

 

(出来るかァッ!? あんなゴッツイ眷族()、僕の細腕でどうやって追い出すって言うんだよ! 君は僕の眷族でしょ!? 君こそ何とかしてよ!)

 

(だってコイツのガチムチさを見れば分かるだろ! あの丸太みてぇな脚で蹴られたら扉が吹っ飛ぶわ! 修繕費だってタダじゃねぇんだぞ!!)

 

 一度は扉を閉めて追い出したものの、オッタルはあの場から動こうとしなかった。裏口から逃げ出すのもアリだったが、それだと万が一強行手段に出られた場合、現在の住処である廃教会が破壊し尽くされてしまう。

 

 ダンジョンで纏まった資金が手に入るまで、可能な限り余計な出費を抑えたい零細派閥としては、オッタルの訪問を受け入れざるを得なかった。

 

「────馳走になった。それで、本題だが………ベジット、だったな。お前には俺と戦ってもらいたい」

 

「………はぁ?」

 

 オッタルからの突然の宣戦布告。今まで呑気に茶を啜っていたとは思えない男の言葉に、ベジットは思わず間の抜けた言葉を吐いてしまう。

 

「た、戦うって……穏やかじゃないね。それってフレイヤからの命令なのかい?」

 

「……いや、これは俺の独断だ。が、既に我が女神には許可を戴いているが、そちら側からはまだ話を聞いていない」

 

 だから来た。無遠慮とかそんな次元ではない、口下手なオッタルにベジットはある種の感心すらしてしまった。

 

「───因みに、何で俺なんだ? このオラリオには他にも強い奴は沢山いるだろ」

 

「………先の戦いで、俺はザルド達と同じ、Lv.7になった」

 

「あー、確かそんな話もあったね。おめでとう」

 

 先の正邪決戦にてオッタルはザルドを降し、その経験値と格上を倒した偉業で、都市唯一のLv.7へと至った。

 

あの戦いを征し、生き残った多くの眷族達がランクアップを果たしている中、オッタルはその中でも随一とされる高みへと辿り着いた。

 

猛者(おうじゃ)】。最強派閥の眷族を打ち倒し、名実ともに“王者”へとなったオッタルだが、その顔付きは暗い。

 

「………何も、めでたい事などない。毒に侵され、死にかけの相手を嬲っただけの、卑怯者だ」

 

「ひ、卑怯者って、流石に自分を卑下し過ぎだと思うぜオッタル君」

 

 事実、ザルドはオッタルが打ち倒した事で正邪決戦での戦局をこちら側に傾け、反撃の切っ掛けをもたらした。

 

正に大金星。嘗ての幾度となく打ちのめされ、倒されてきたオッタルにとってその勝利は自身が崇拝している女神に対し唯一胸を張れる偉業と言えただろう。

 

 しかし、オッタルは頷かない。頷ける訳がない。あの時ザルドは確かに自分の勝ちだと言い、陸の王者(ベヒーモス)の毒に侵された己を憐れむなと激怒した。

 

だが、それでもオッタルが納得する事はなかった。仮令(たとえ)それがザルドに対する侮辱だとしても、10年前のザルドを超えられたと、自分自身が受け入れられないのだ。

 

「────ベジット。あの日、お前はザルドを連れて何処に消えた?」

 

「………え~~~っと」

 

「別に追及しようとは思わん。お前が奴に何をしようとも、今の俺には問い詰める資格はない」

 

「─────」

 

「だが、あの時奴は言った。強くなり続けろと。驕らず、己を騙らず、我欲に強さを求めろと。既に壁は出来ている。遥か高い頂に挑み続けろと」

 

 立ち上がり、巨漢のオッタルはベジットを見下ろす。その目は遥か頂を目指す挑戦者のソレ、既にベジットを自分より遥か上の強者であることを認めている。

 

Lv.7とLv.1。本来なら歯牙にも掛けられない圧倒的開きがある両者である筈なのに………何故だろう、ヘスティアにはその開きが逆のように見えた。

 

「ベジット、どうか俺と戦ってくれ。俺は………強くなりたい」

 

 現在の最強が、最弱(Lv.1)に懇願している。頭こそ下げないものの、その目は貪欲に餓えた餓鬼の様だ。

 

 ここで彼の願いを無下にしてしまえば、後々面倒な事になりそうだ。それに、自分がザルドをあの時にオラリオから逃がした事は既に相手にも知られている筈。

 

この1ヶ月、ギルドからこの件について何の音沙汰もない事から、どうやらこの情報はフレイヤが独占しているのだろう。

 

「────その話、何処まで知られてる?」

 

「俺と、俺が信仰する女神フレイヤ様のみ。他言はしていない。誓って」

 

 裏も取れ、同時に断れない事実にベジットは深い溜め息を吐いて、隣のヘスティアに視線を向ける。

 

ヘスティアは、ただ微笑んで頷くだけ。好きにしろ、と言いたいのだろう。確かにザルドの件を抜きにしても、此処まで真摯に頼み込んでくる相手を無下にするのも気分が悪い。

 

「………仕方ねぇな。わぁーったよ」

 

「っ、感謝を……」

 

「礼なんていらねーよ。それに、今の都市最強様の実力ってのも確認しておきたい………が、予め言っておくぞ」

 

「?」

 

「負けても、泣いたりすんなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、オッタルの案内のもとに辿り着いたのは宮殿とも思える巨大建造物、広大な敷地を持つフレイヤ・ファミリアの本拠地【戦いの野(フォールクヴァング)】。

 

「ふぇ~、広い平原~。建物もまるで宮殿みたいだよ」

 

「維持費とかヤバそう」

 

 派閥として圧倒的な格差を見せ付けられたベジットとヘスティア(ヘスティアは本日バイトは休み)、唖然としながら平原を歩く二人の前に一人の猫人が現れる。

 

「オッタル、テメェなんの真似だ。何でウチの本拠地に他所の派閥が入ってきてやがる」

 

「アレン、護衛の方はどうした」

 

「質問してるのは俺だ!」

 

 いきなり出てきて、声を荒げて罵倒する。仮にも団長相手に其処まで言うのかと、朝から元気な猫人に驚いた。

 

「て言うか小樽さん、アンタ説明していないのかい」

 

「これはあくまで俺の問題。ワザワザ話す必要は無いと………」

 

「マジで言ってる?」

 

 仮にも大派閥の団長が、そんな感じで良いの? せめて幹部の人達には話すべきなんじゃないの? ロキ・ファミリアはそこら辺確りしてたよ?

 

「此処はあの御方に見初められた者だけが立てる【戦いの野】! 何処ぞの馬の骨とも知らねぇ雑魚が立ち入って───ッ!?」

 

 口の悪い猫人が、その鋭い視線をオッタルの後ろにいるヘスティア達に向けるが、彼の視界がベジットを捉えると、その目を大きく見開かせて驚きを露にしている。

 

「て、テメェは!?」

 

「うん? お宅は………どっかで会った?」

 

 ベジットから見れば初対面の相手、なのにオッタルに向けているのと同様、殺意マシマシで睨み付けてくる猫人にベジットは困惑するしかなかった。

 

「朝から何を騒いでいる愚猫。発情期か」

 

「あ”ぁ”!?」

 

(いやいや、もう完全にやりとりが不良学校なんよ。ク◯ーズとかワー◯トの世界観なんだけど)

 

 新たに現れる金髪白肌の眼鏡エルフ。言葉遣いそのものは丁寧だが、言葉の節々にある棘は鋭い。

 

そんなエルフの後ろから付き人らしき少女を連れた女神が宮殿の方からやって来た。

 

「ようこそヘスティア、待っていたわ。そしてベジット、あなたもよく来てくれたわね。歓迎するわ」

 

「あ、うん。お招き………ありがとう?」

 

「疑問符付けんな、気持ちは分かるけど。……あの、こちらつまらないモノですが」

 

 神も人も魅了する美の女神。見つめれば魂すらも虜になるとされる美の概念そのものとも呼べる彼女を前にして、ヘスティアとベジットは至って普通だった。

 

処女神であるヘスティアは兎も角、眷族のベジットも平然としている事実に金髪エルフは目を僅かに見開かせるが、フレイヤ自身は当然の事のように受け入れている。

 

 一方で、望んでいなかったとは言え招かれてしまった以上最低限の礼儀は必要だと、ベジットは予め買っておいた粗品(お菓子)をフレイヤに渡そうとするが。

 

「止まれ」

 

「何をするつもりだ?」

 

 何処からともなく現れた三人の小人族(パルゥム)が、ベジットに前と背中から剣と槍を突きつける。いきなり現れ、明らかな殺意を向けてくる彼等にヘスティアは驚愕する……。

 

「いや、ご挨拶に粗品をと………」

 

 対して落ち着いた様子のベジットは、苦笑いを浮かべて箱の中身を見せる。中にあるのは単なるクッキー、一応高級品のそれを確認した小人族は、互いに顔を見合わせると、得物を抑えて道を開ける。

 

ただ、直接渡させるつもりはないのか、四人目の小人族が代理に受け取ろうとしてくる。まぁ、渡せれば良いかと特に気にしなかったベジットは、素直に彼に渡して引き下がった。

 

「ごめんなさい。ウチの子達ってば過保護で、ついこうして威嚇しちゃうの。悪く思わないでくれると助かるわ」

 

「まぁ、それは別にいいんですけどね」

 

 この空気どうする? 今のでなんかやたらと注目されてるし、いつの間にか他の眷族達も何事かと集まってきているし、あとなんかキョドッている褐色のエルフもいるし。

 

「フレイヤ様」

 

「えぇ、準備をさせておくわ。思う存分彼と戦いなさい」

 

 

 ザワッと、周囲が騒ぎだす。フレイヤ・ファミリアの団長は、オラリオ唯一のLv.7。それが名前も知らない黒髪の人間(ヒューマン)と戦おうとしている。

 

その事に動揺を隠せないのは、構成員達だけではない。幹部と思われる猫人達も驚きを顕にしていた。

 

「オッタル、何のつもりだ!?」

 

「俺がより強くなる為だ。アレン、聞き入れろ」

 

 猫人───アレンと呼ばれるその男は即答で答えるオッタルにより驚きを顕にし、同時に納得する。あの日、大抗争の時に奴が見せた威圧は見間違いではなかった。

 

最強派閥の眷族(ゼウス・ファミリア)ですら退ける者、ソイツが今日オッタルを鍛えるためにやって来た。

 

 直感でそう悟ったアレンは、フレイヤの前に跪く。

 

「フレイヤ様、この戦い俺も参加させて下さい」

 

「アレン、何の真似だ」

 

 突然のアレンの行動に、今度はオッタルが目を剥いた。

 

そして。

 

「フレイヤ様。不躾ながら私も参加させて戴きたく」

 

「じゃ、じゃあ俺も……」

 

白と黒、それぞれのエルフも膝を付き。

 

「我等も是非に、戦列に加えさせて戴きたく……」

 

「「「どうか、お慈悲を」」」

 

 四つ子の小人族も次々に主神の前で頭を垂れる。

 

彼等も、薄々気付いていた。オッタルが直々に連れてきたとされる客人、その逆立った黒髪がオッタルにとって強くなるのに必要な人材なのだと。

 

強くなることは女神の寵愛を受けるのに此処では必須条件、ならば恥知らずでもこの流れに乗っかるしかない。

 

 フレイヤ・ファミリアの幹部がオッタルを除いて全員が頭を垂れている。その光景に他の眷族達が呆気に取られる中、オッタルは蟀谷に青筋を立てている。

 

「お前ら………!」

 

「いや、俺の自由意思は?」

 

 今更ながらの疑問だが、それに答えられる者は此処にはいなかった。

 

沙汰を下せるのはただ一柱、彼等が崇拝している美の女神のみ。

 

「あらあら、困ったわね。皆の願いを叶えて上げたいのは山々だけど……」

 

 そう言って此方を見てうっすら微笑むフレイヤを見て、ベジットは僅かに苛立った。

 

そして、拒否は許さないと睨み付けてくる眷族達。仮にも君達俺と初対面でしょ? 何でそんな殺気立てるの? ベジットは訝しんだ。

 

(あ、そう。そういう態度なのね。よし、良いだろう。そっちがその気なら………)

 

「はぁ、まぁ………別に良いけどね。全員が相手でも」

 

「「「「ッ!?!?」」」」

 

 此方も、相応の態度で相手をしてやる。

 

 一人ずつではなく、まさかの全員を相手してやると豪語するベジットにフレイヤ・ファミリア全員が目を剥く。

 

同時に、濃厚な殺意がベジットへ叩き付けられる。彼等は全員が先の決戦にて前線に立ち、幹部全員がランクアップを果たしている。

 

その戦力はオラリオ最強の一角を担い、純粋な戦闘力はロキ・ファミリアを凌駕する。

 

 そんなフレイヤ・ファミリアを支える最大戦力を一同に相手をしてやる。大言壮語が過ぎるその一言に、ヘスティアはアタフタと慌て始めた。

 

「ちょ、ちょちょちょちょーい!? そんな事言って大丈夫なのかいベジット君!? 相手はオッタル君一人じゃないんだぜ!?」

 

 そしてこの女神もサラッと無自覚に挑発している。その口振りはオッタル一人ならどうとでもなるような言い回しで、ナチュラルにフレイヤ・ファミリアを煽っているのをヘスティアは気付かない。

 

そんな、ヘスティアの心配を他所にベジットは睨んでくる幹部達を見回して。

 

「ま、余裕だろ」

 

 そう、不敵に笑って吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(───我ながら、軽率な事をした)

 

 フレイヤ・ファミリアの幹部、【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】のヘディン・セルランドは、己の軽率な行動に自己嫌悪していた。

 

相手は己が崇拝し、己の全てを捧げると誓った女神の客人。無礼な対応はそのまま女神への無礼であると言うのに、アレン(愚猫)の即決する行動につい対抗してしまった。

 

 本来なら有り得ざる蛮行。愚猫を殺し、己もその命を捧げなければ許されないというのにどうしてか、今はそんな事をしている場合ではないと、冒険者の己がそう叫んでいる。

 

恐らくは、他の連中も同じなのだろう。

 

(それもこれも、あの人間(ヒューマン)が来てからだ。なんだ、この気持ちは? 焦燥、それとも高揚?)

 

 自分達フレイヤ・ファミリアの最大戦力を相手に、纏めて相手をしてやると豪語する人間、ベジット。そんな奴は嘗ての最強派閥(ヘラ・ファミリア)しかいない。

 

だが、目の前で呑気に準備運動している奴は、Lv.1だと聞く。最弱の冒険者、少なくともウチの幹部共なら自分も含め歯牙にも掛けない弱者。

 

(その弱者である筈の人間に、オッタルは拘っている。一体、奴には何があるというのだ)

 

 アレンに視線を向ければ、普段の凶暴さは鳴りを潜め、その手に槍を握り、静かにベジットを観察している。如何なる格上にも噛み付く奴が。

 

(それ程の相手、なのか)

 

 冒険者の中でも上位に位置する自分達が、相手の力量を推し量れていない。最弱である筈のベジット一人に、既に翻弄されている。

 

あの不敵な態度は単なるブラフ? それとも特殊なスキル? 或いは魔法? 何れにせよ、最弱(Lv.1)最強(Lv.7)の差を覆す程の何かを隠しているとは思えない。

 

 女神は………眷族達に用意された椅子に座り、優雅に紅茶を嗜んでいる。其処にどんな意図が隠されているのか、神ならぬヘディンには測りきれなかった。

 

ならば奴の主神たるヘスティアは………此方もただ呆然と女神フレイヤの隣で座っているだけ。

 

 分からない。困惑に思考が乱れる頭を横に振って正気に戻る。そうしている内に相手の準備は終わった様だ。

 

「っと、準備運動はこんなもんか。さて、そちらの方は大丈夫か?」

 

「────我等は強靭な勇士(エインへリヤル)。常に戦場に立つ事を心得ている。助言は無用だ」

 

「へぇ? 大した気構えだ。成る程、伊達に都市最強派閥を名乗って無いわけだ」

 

 体を解し、何時でも始めていいと口にするベジットに、フレイヤ・ファミリアの幹部達は動かない。

 

最初は得体の知れない奴としか見ていなかったのに、今はその佇まいに攻め入れる余地を探すのに手一杯だった。

 

(クソが! あんな飄々としているのに……隙がねぇ!!)

 

 迂闊に飛び込んだら、その瞬間やられる。冒険者としての直感。長年培ってきた経験が奴の間合いに入るなと叫んでいる。

 

「とは言え、これじゃあただのお見合いだ。とっとと終わらせたい俺としては、少しいただけないな」

 

 そういってベジットが歩き出す。奴が向かう先にいるのは………ヘグニ・ラグナール、ヘディンと対を成すエルフであり、【黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】の名を冠するダークエルフ。

 

そんな彼に向かってベジットが歩み寄る。悠然と、周囲から第一級冒険者達の殺意の混じった視線をものともせず、剣を振れるヘグニの間合いまで詰めていく。

 

「どうした? 間合いだぜ」

 

「な、ななななな何故汝は我が剣域に足を踏み入れる!? 我が剣が振るえば、その魂は冥府に堕ちるのは必定! 軽率且つ蛮勇に等しい!!」

 

「ハッ、声が震えているお前に何を恐れろと? それとも、美の女神の眷族ってのは舌戦が取り柄なのか? だったら、お前らの女神は虚仮威しも良いところだな」

 

 瞬間、女神を愚弄され、ヘグニの顔が憤怒に染まる。先程までの挙動不審から一変し、一切の躊躇無くその剣を振るう。

 

「っ、貴様ァッ!!」

 

 怒りに染まりながら冷徹な一閃。これ迄数多のモンスター、或いは人間を屠ってきたLv.6の一撃は、しかしてベジットの素手によって鷲掴みにされる。

 

刃を素手で掴む蛮行、しかしベジットの手からは血はおろか、薄皮一枚も、装備しているグローブすら切れている様子はなかった。

 

 それどころか、ヘグニは掴まれたまま剣ごとベジットに引き寄せられ。

 

「もっと本気でやって欲しいな」

 

「ッ!?」

 

ただ一言、そう告げる。

 

 舐めている。下に見ている。バカにしている。これ迄長年女神フレイヤの下で研鑽を重ねてきた自分が、たった一人の人間(ヒューマン)に侮られている。

 

これだけの暴言は、女神の眷族となって初めてだ。本気を出せ? 言質は取った。ならばお望み通り消し炭にしてやると、ヘグニは剣を振ってベジットの手を振りほどき、後ろへ跳躍する。

 

「【永久(とわ)に滅ぼせ、魔の剣威をもって!】 バーン・ダイン!!

 

 ヘグニが唱えた瞬間、ベジットを中心に周囲が爆炎に包まれる。効果範囲の敵を根刮ぎ吹き飛ばす彼の超短文詠唱、受ければオッタルも負傷は免れないその魔法は……。

 

「バカなッ!?」

 

 抉れた大地、その中心で無傷に佇むベジットが不敵な笑みを崩さずに其処にいた。

 

直撃した筈。避ける事も、防ぐ素振りも見せなかったヘグニの魔法、しかし事実としてベジットは服一枚燃やすこと無くそこに立っている。

 

 ベジットは笑う。

 

「俺を倒して女神様に証明してみせな。お前らの強さを」

 

 そう挑発しクイッと手招きをしてくるベジット、そんな彼を前に彼等の中からブチリと何かが切れる音が聞こえた。

 

 

 

 

 





次回、女神の語らい。

「あの日、僕は見たんだ。下界に落ちる一つの流れ星を」



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