ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

19 / 124

もう布団から出たくない。

そんな訳で発投稿です。


物語19

 

 

 

 最初に仕掛けたのはアレンだった。身を低くさせ、殺意を滲ませながら一直線へ奴───ベジットに肉薄していくその様は、さながら獲物を仕留めにいく豹。

 

牙を突き立て、その首を噛み切ろうと迫るアレンの槍を、ベジットは一瞥すらせずに回避する。

 

 地を槍の穂先が突き刺さり、それを軸に蹴りを放つ。物理的加速に俊敏さを上乗せしたしなやかなLv.6の蹴りは、ベジットの手の甲で軽く逸らされる。

 

 ここで漸く、アレンとベジットの視線が交わった。片や憎悪を滾らせ、殺意を募らせた眼光。もう片方はどこまでも涼やかな“凪”の眼差し。

 

己は殺意を以て奴の命を刈り取ろうとしているのに、相手はそれを知っている上で笑っている。見下し、嘲笑うのではなく、本心から相手の出方を、戦いを楽しんでいる強者の余裕。

 

 それを、見下していると言うのなら。

 

「そのにやけ面を歪めてやる!」

 

「やってみろよ。出来るもんならな」

 

 アレン・フローメルは吼える。その身が【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】であるが故に、決して退くわけにはいかない。

 

 そして、それは他の眷族達も同様で。

 

「オォォォォッ!!」

 

「「「邪魔だ、アホ猫!!」」」

 

「ッ!?」

 

 入れ代わる様に現れた四人の小人族。青、黄、緑、赤とそれぞれ異なる色を施された鎧と兜を身に纏う彼等の連携は際限無く獲物を屠る為に奮われる。

 

炎金の四戦士(ブリンガル)】のガリバー兄弟、女神に絶対の忠誠を誓う者達の連撃は、しかしてベジットに届くことはなかった。

 

「へぇ四つ子の連携か、コイツは面白い。四身一体の連撃とは恐れ入る」

 

(こ、コイツ!)

 

(((平然と避けやがって!)))

 

 相手に反撃の暇を与えない無限の連携。油断もなければ慢心もない、Lv.1を相手にするには過剰すぎる彼等の連携は、ベジットの余裕の笑みすら消すことは出来なかった。

 

 一方的に武器を振るっているのは此方なのに、服一枚すら当たらない。初見でありながら動きを読みきっているベジットの眼に長男のアルフリッグは寒気を覚えた。

 

「良いぜ、そんなお前らに良いものを見せてやるよ」

 

「後ろに下がった!?」

 

「「「逃がすかァッ!!」」」

 

 間合いを開けるように宙返る。無防備な着地を狙って突貫を慣行するガリバー兄弟だが………。

 

「な、」

 

「「「何だとッ!?」」」

 

 突然、ベジットが四人に増えた(・・・)。地を掛け、ガリバー兄弟のそれぞれに肉薄するベジット、奴の振るってくる拳と蹴りを防ぐと、確かな重さを感じ取れた。

 

「こ、コイツ、魔法か!?」

 

「分身する魔法なんて聞いたことが無いぞ!?」

 

「だが、詠唱している様子もなかった!」

 

「なんなんだコイツは!?」

 

 唐突に現れた四人のベジットにガリバー兄弟は迎え撃つが、ベジットの振るわれる一撃一撃が重く、鋭い。

 

まるであの猪の様だと、ガリバー兄弟は自分達の忌々しい団長を想起させた。

 

「「「「そら、どんどん加速していくぞ」」」」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 遂には、ベジットの速さに付いて来られなくなったガリバー兄弟が一人、また一人と倒されていく。

 

四男のグレールが、三男のベーリングが、次男のドヴァリンが、それぞれベジットの手刀で意識を刈り取られていく。

 

 残された長男のアルフリッグ、倒された弟達の仇を取ろうと、猛烈な勢いで起死回生の一撃を放つが、彼の振るわれた槍は空を切るだけに終わり、彼の意識も暗闇へと沈んでいく。

 

(中々面白い奴らだったな。お陰で対人の駆け引きってやつもある程度学べたし、次もあったら相手してもいいかな)

 

 初めての多対戦。モンスター相手とは違う洗練された連携はベジットに思いがけない収穫を与えてくれた。

 

技の駆け引き、連携の崩す穴とタイミング。ガリバー兄弟を通じて更に自身の動きが洗練された事を実感したベジットは残りの面子にも期待を抱く。

 

「【永浄せよ、不滅の雷兵】!」

 

「おっ」

 

 早速、頭上から飛来してくる幾つもの物体に、ベジットの目が輝く。その物体は鏃状の形をしていて、まるで雷の様に空気を焼きながらベジットに向けて弾幕となって押し寄せてくる。

 

飛来するのは無数の雷、一つ一つが人一人を殺すには余りある威力が秘められたそれを、ベジットは最小限の動きで避けていく。

 

 間断無く降り注いでくる雷の弾幕、魔法を担う白いエルフ───ヘディン・セルランドは忌々しく思いながら次の手を思考する。

 

 ベジットとの距離は約480M程、奴であればその気になれば瞬きで詰められる事をヘディンは確信していた。

 

そうしないのは此方の出方を………いや、手の内を楽しむ為、次はどんな手を使ってくるのか、どんな魔法で仕掛けてくるのか、不敵な笑みを浮かべているベジットの真意をヘディンは確信していた。

 

 なんたる不敬、なんたる不遜。女神フレイヤに忠を誓い忠を捧げて来た己にとって、何よりも屈辱的であった。

 

だが、同時に認めなければならない。それだけの差が自分達と奴の間にはあるのだと、隔絶され、推し量るのも億劫になる程の実力差。

 

最弱(Lv.1)が、自分達(Lv.6)を圧倒している。その信じがたき現実を咀嚼し、飲み下さなければならない。

 

故に。

 

「ヘグニ、力を貸せ!」

 

「ッ!?」

 

 ヘディンは己の宿敵に頭を垂れてでも力を示す道を示した。

 

 アレンの強襲をいなし、ガリバー兄弟の連撃を圧倒し、己の宿敵(ライバル)であるヘディンの魔法が通用していない事実に、半ば打ちのめされ掛けていたヘグニ。

 

 なのに宿敵はそんな自分に手を貸せと叫んでいる。普段は決して口に出さない他者への懇願、プライドが高く、他の眷族達と同様に何を差し引いても女神の為にしか行動しないヘディンが、初めて自分の為にヘグニに助力を求めている。

 

 いや、或いはそれも女神の為なのだろう。それはつまり、このままでは何の力も示せないままあの男───ベジットに敗北するという事。

 

それだけは許されないと、ヘグニはヘディンの助力を言葉もなく了承した。

 

 剣を構え、吶喊する。ヘディンの魔法の射程に自ら飛び込み、横から降り注いでくる雷の鏃を回避し、ベジットにその剣を振るう。

 

「おっ、さっきの奴」

 

「────死ね」

 

 既に、魔法で自己改造(・・・・)は済ませてある。今のヘグニは冷徹無慈悲な戦王、先程とは雰囲気の変わるヘグニに目を丸くさせるベジットだが、そんな事はお構いなしに彼の剣が振るわれる。

 

彼の持つ剣は、体力と引き換えにして斬撃範囲を拡張する特殊武装(スペリオルズ)。後ろに下がれば餌食になるのは確実なこの間合いを、ベジットは喜んで詰めてくる。

 

 が、これも予想通り。ベジットが詰めてきたタイミングでヘグニは自身の得物を放り投げてみせた。この時、初めてベジットの顔から明確に笑みが崩れた。

 

「おぉ?」

 

 その隙を見逃さないと、ヘグニはベジットの後ろに回り込み、その両腕を掴む。その時、ヘグニはベジットの内に眠る力の脈動を感じた。

 

(無理だ。こんなもの、いつまでも拘束できん!)

 

 レベルの差なんて、あってないようなもの。ここに来てヘグニもまたオッタルがベジットに拘る意味と理由を理解した。

 

「ヘディン!!」

 

「分かっている!!」

 

 込められる魔力の渦、周囲が静電気で弾ける程の稲妻を携えて、ベジットに肉薄したヘディンがその手を翳す。

 

「【永伐せよ、不滅の雷将】ヴァリアン・ヒルド!!

 

 ゼロ距離での雷撃。迸る雷の光が戦いの野(フォールクヴァング)を覆っていく。

 

マトモに受ければ第一級の冒険者ですら塵に変える雷撃、正邪決戦の時はこれで闇派閥の幹部を討ち滅ぼしたヘディンの最大火力の魔法。

 

 ヘグニ諸とも打ち込んではいるが、宿敵である奴ならば自分の対策として耐性のある装備を身に付けているため、大事には至っていない筈。

 

(これで、少しは通ったか!?)

 

 階層主すら呑み込み屠る雷の砲撃。それをゼロ距離で受ければ、流石のベジットも無傷では済むまい。

 

すっかりベジットを格上の敵として認識しているヘディンだが、彼の意識はそこで途絶えた。

 

何故なら。

 

「流石は大派閥、中々思い切った戦法を取るな」

 

 ゼロ距離で魔法を受けた筈のベジットが、焦げ目一つ付くこと無くヘディンの背後に現れ、手刀で彼の首筋に当てて気絶させていたからだ。

 

 もう片方には同様に気絶しているヘグニが掴まれていて、二人を重なるように地に置いた。

 

「さて、残る幹部はあと一人」

 

「【金の車輪、銀の首輪】」

 

「うん?」

 

「【憎悪の愛、骸の幻想、宿命はここに】」

 

 詩が聞こえる。見れば走りながら詠唱しているアレンを見て、ベジットは面白そうに笑みを浮かべた。

 

「【消えろ光輪(こうりん)、轍がお前を殺すその前に】」

 

「あら、なんか凄いオサレポエム」

 

 ベジットとしては普通に褒めたつもりなのだが、アレンからの殺気が三割増しになった気がした。

 

「【栄光の鞭、寵愛の唇、代償はここに。回れ銀輪(ぎんりん)、この首落ちるその日まで】」

 

「【天の彼方、車輪の(ユメ)を聞くその死後(とき)まで───駆け抜けよ、女神の神意を乗せて】」

 

 銀輪がアレンなのは聞いていて何となく分かった。なら、光輪とやらは誰を指しているのか。

 

何だか、この男も面倒臭そうなモノ(地雷)を抱えている気がする。無意識に踏み抜かないよう気を付けよ、ベジットはそう思った。

 

 そんな、ゲンナリ顔のベジットを尻目に彼は唱える。

 

グラリネーゼ・フローメル!!

 

 瞬間、戦車は加速する。劇的に、爆発的に、音を置き去り、その軌跡と地を抉る轍だけを残して。

 

「おっと」

 

 アレンの速さが増す程威力が増し、そこに上限はない。速ければ速い程に威力は増していき、その速度も天井知らずに伸びていく。

 

既に上級冒険者程度では視界にも映らないアレンの速さ、地を抉り、轍だけを残していく彼の突進を、やはりベジットは簡単に避けてしまう。

 

(分かっていた事だ! 野郎が強ぇのは。あの日、大抗争であの化物を相手に平然としていやがった時から!)

 

 脳裏に浮かぶのはオラリオが闇派閥によって火の海と化した時。オラリオ中から聞こえてきた悲鳴と断末魔の声で満ちた地獄の中で、アレンは見た。

 

 オッタルを圧倒した最強派閥(ゼウス・ファミリア)。黒騎士のザルドを相手に奴は一歩も引かなかった。

 

(───いや、違う!!)

 

 正邪決戦の時、死を覚悟してオッタルの戦いを護ろうとした老兵達を、奴は黄金の炎を纏って護り抜いた。

 

 あの光景を、アレンは忘れない。蒼く輝く光を放ち……悉くを、一切合切を文字通り消し飛ばした────(スーパー)ベジットの姿を。

 

「なりやがれベジット! テメェの本気を、出して見せろやァッ!!」

 

「っ!」

 

 未知を踏破する。あの黄金の炎を、未知なる輝きを、真っ正面から攻略してやる。

 

 そう吼えるアレンにベジットは初めて驚いて見せた。自分との力の差は分かっている筈、それでも力をもとめて更に上を所望するアレンの意思を、ベジットは笑って受け入れた。

 

「だったら出させて見ろよ。俺の本気を」

 

「っ! 上、等ッ!!!」

 

 どこまでも上から目線、心底気に入らないがそれでもアレンもまた笑っていた。

 

最高速度。天井知らずの高まりに到達したアレンは、そのまま地を蹴り空へ翔ぶ。遥か上空から見下ろす彼の視線の先には、未だ不敵に笑うベジットが逃げる素振りも見せないで佇んでいる。

 

 アレンも、笑った。宙を蹴り、最高速度を更に更新し、女神の戦車はこの日一筋の流星と化した。

 

その時、一瞬………いや、瞬きにも満たない刹那の合間。

 

 金髪碧眼のベジットを、アレンは見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────嘘でしょ?」

 

 美の女神フレイヤの従者であるヘルンの呟きは、フレイヤ・ファミリアの団員達全ての総意だった。

 

自分達を代表する幹部達は何れも自分達には歯牙にも掛けない強者ばかり。正邪決戦を勝ち残り位階(レベル)も上昇させ、その強さはオラリオでも上澄みとなっている。

 

 敵う者は誰もいない。そう思い、そう信じてきた彼等の願望はこの日、砂城の如く脆く崩れ落ちた。

 

ガリバー兄弟が倒れ、ヘディンが地に堕ち、ヘグニが打ち倒され、魔法まで使ったアレンは小細工無しに正面から凌駕された。

 

 残されたのは団長たるオッタルのみ、敢えて一対一を望んで手出ししなかった【猛者】は、瞬く間に倒された幹部達を前に冷や汗を流している。

 

対して、この悪夢を造り出した本人……黒髪(・・)のベジットは、相も変わらず涼しい顔で不敵に笑っている。

 

 凡人な自分には一見隙だらけにも見えるベジット、しかしオッタルは踏み込めず、ただ剣を構えている。そんな状況に見かねて……。

 

「────来いよ」

 

ベジットは指先でチョイチョイと挑発する。それは冒険者の頂点でもあるオッタルのプライドを、この上なく刺激させた。

 

「オオオオォォォォォォッ!!!」

 

 気炎を吐き、ベジットへ踏み込む。素手の相手に一切の遠慮無く振り下ろされるオッタルの一撃を、ベジットは己の指一本で受け止める。

 

 そんなふざけた光景を目の当たりにしながら、我等が美の女神、フレイヤは口を開く。

 

「───ねぇ、ヘスティア」

 

「なんだい?」

 

「貴女、どうして下界に降りてきたの?」

 

 女神同士の会話、端から聞けば目の前の戦い(最早戦いではない)とは無関係、しかしオッタルの勇姿を見つめながら訊ねるフレイヤの目は真剣だった。

 

それを横目で見たヘスティアも分かっているから、彼女も嘘偽り無く口を開く。

 

「どうしてそんな事を聞くんだい?」

 

「だって貴女、自分の役割ばかりに夢中で他には余り関心無かったじゃない。十二神の席を譲った時も元から興味が無かったからでしょ?」

 

 少なくとも、天界にいた頃のヘスティアは自分と自分の役割以外興味を抱くことは余り無かった。下界のことも「大変そうだなー」と、気の毒に思うことはあっても変に肩入れすることはなかった。

 

ある種の無関心。だからこそとある神が殺し合おうとしてまで奪おうとしていた神の席を彼女はアッサリと手放し、譲ったのだから。

 

 それを知るフレイヤは何故と問う。そんな彼女にヘスティアは少しだけ考えるように頭の中の言葉を整理させる。

 

「んー、別に無関心って訳じゃなかったよ? 天界にいた頃はアルテミスとかとよく水浴びしに行ったし、ヘファイストスにも色々と世話になったしね」

 

「…………」

 

「下界の事も、他の神々同様にそんなに面白いのかなー? って、多少は興味を持ったさ。………ただ」

 

「ただ?」

 

「流れ星を見たんだ」

 

 その日もいつもと変わらず、いっそ怠惰ですらあるヘスティアの日常。下界に興味はあっても降りる踏ん切りが付かず、この日もただ降りるべきかそうでないかを自問自答を繰り返すだけ。

 

そんな時、彼女は見た。天界よりも遥か高い所から下界に落ちる一筋の流れ星を。

 

「綺麗だった。見惚れていた。美しいとは少し違う輝きを放つその流れ星は、どこか寂しそうで、儚げだった。そんな流れ星を追い掛けていたら、気付いたら下界に落ちちゃってたんだ」

 

 間抜けだよね。舌を出し、照れ臭そうに笑うヘスティアはヘルンから見ても可愛らしい童女だった。

 

 対して、女神フレイヤはと言うと……。

 

「………そう、良い出会いをしたのね。ヘスティアは」

 

「そうだね。出会い方はちょっとアレだったけど」

 

 あっけらかんと応えるフレイヤではあるが、その表情は少し変化があった。嫉妬? いや、これは羨望か。とある事情で女神と通じている(・・・・・)ヘルンはフレイヤに対して口を挟むこと無く、目を瞑って見ないことにした。

 

「羨ましいわね。貴女が」

 

「何を言ってるんだい。君の眷族(子達)だって凄いじゃないか」

 

「………そうね」

 

 二柱の女神の視線が、ベジットとオッタルに向けられる。己の得物を手放しはしまいと、必死に握り締めながら肩で息をしているオッタル。

 

そして、ベジットはやはりどこまでも平静でどこまでも余裕を崩さなかった。端から見ても決着は着いた、それでも戦うことを止めないオッタルを他の団員達は静かに見守っている。

 

「随分頑張るな。大したもんだぜ、お前の女神に対する忠誠心ってのは。素直に尊敬するよ」

 

「─────それだけじゃない」

 

「ん?」

 

「俺は、これからも強くなり続けなければならない。ザルドを、嘗ての最強達に引導を渡した俺達は、立ち止まる訳にはいかない」

 

 これまでの人生で、オッタルは常に泥にまみれ、泥に被さってきた。何度も挑み、幾度も敗れ、己に先人たる“奴ら”の背中をオッタルは誰よりも目にしてきた。

 

そんな彼等が、ザルドが言うのだ。現状に満足するなと、常に挑戦し続けろと。女神の信頼に応え、超える為にも自分は強くなり続けなければならない。

 

 座して待つだけの王者をオッタルは望まない。彼の進む道は何時だって泥にまみれた先にあるのだと、彼は言う。

 

「────勝負だ」

 

 剣を構える。息を整え、次の一合に全てを懸けるオッタルにベジットは笑い。

 

「良いぜ、そういうのは嫌いじゃない」

 

 初めて、構えを見せた。これ迄不敵に笑って佇むだけで全く見せてこなかったベジットの構え。それは相手を好敵手と認めたベジットなりの誠意の表れだった。

 

 オッタルも、少しだけ笑う。自分と隔絶した実力差があっても、自分を一人の冒険者として認めてくれたベジットに対する感謝の表れ。

 

故に、全霊で挑む。【戦いの野(フォールクヴァング)】に轟く猛者の咆哮、地を蹴り、跳躍し、ありったけの力を込めて振り下ろされた剣はこの日、オラリオ全土を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー、食った食った。フレイヤ・ファミリア、やっぱ良いもん食ってんだな」

 

「もー、食べ過ぎだよベジット君。ヘイズ君達ギャン泣きしてたよ」

 

 すっかり日も落ち、夜になったオラリオをヘスティアとベジットは往く。満腹になった腹を擦り、満足に笑うベジットをヘスティアは呆れながら諌めた。

 

「良いじゃねぇか。こちとらまる1日時間を潰して付き合ってやったんだ。これくらい役得なければやってらんねぇよ」

 

「いや、こっちはお金も貰ってるからね? バイト代ってフレイヤから軽くない金額貰っちゃってるからね? これ絶対フラグだよね。次もヨロシクって意味だよね!?」

 

「よし、次は瞬殺したろ。フレイヤ・ファミリアから金品全部巻き上げてやる」

 

「止めろォッ! 僕達のイメージが悪くなるだろォォッ!?」

 

 カラカラと笑うベジットにヘスティアは全力で止める。当然自分の眷族がそんな事する筈もないのは分かっているから、その言葉にはそこまで重みはなかった。

 

「………でも、意外だったな」

 

「ん? 何が?」

 

「フレイヤだよ。彼女は美の女神と呼ばれる神だ。神々すら魅了する彼女を前にしたら流石の君でも多少揺れるのかなと不安だったけど、その気配が全く無いから……少し、驚いちゃった」

 

 女神フレイヤはその美貌で多くの下界の人類を魅了し、虜にしてきた。フレイヤ・ファミリアの中には嘗て別の派閥に属していた者もいたが、彼女の魅了に取り込まれ、フレイヤ・ファミリアに改宗(コンバージョン)した者も少なくはない。

 

そんな美の女神を相手にしても魅了される処か意にも介していないベジットにヘスティアは少し安堵した。

 

「あー、まぁ確かに女神フレイヤは綺麗っちゃあ綺麗だけど。ぶっちゃけお前と大して変わらなくね?」

 

「…………え?」

 

「それに、俺はどちらかと言えば綺麗系よりも癒し系………ておい、なにニヤついてんだよ」

 

 見れば、自分の腕に抱き付いてくるヘスティアが物凄く顔を緩ませて笑みを浮かべている。照れっ照れである。

 

「うへへ~。嬉しいなぁ、僕は君から見てフレイヤと同じくらい綺麗に見えるんだ?」

 

「あとは……美の女神を見慣れているってのもあるな」

 

「…………へ?」

 

「黒竜をぶちのめす以前、なんとかって街でしつこく勧誘された事があるんだよ。アフロなんとかって女神から」

 

「アフロって、アフロディーテかい!? 何それ僕初耳なんだけど!?」

 

「そりゃ聞かれなかったからな。ただ、美しさは兎も角、面白さでは女神フレイヤより上をいってたな。あの小物っプリは見ていて飽きなかったわ」

 

「う、うううう浮気者! ベジット君の浮気者ォッ!!」

 

 クツクツと笑うベジットの背中をヘスティアがポカポカと叩く。女神と眷族の他愛ないやりとりは彼等が本拠地に着くまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。特に予定もなく、いよいよ単独でダンジョン探索に乗り出したベジットは、バベルの前で屈伸していた。

 

「オシ、身体の調子も良好。今日こそ纏まった資金をゲットするぞー」

 

 アイズという先輩冒険者の手助けはなく、自分一人の探索にワクワクしてくる。どんな未知が待っているのだろうかと、一歩足を踏み出そうとして。

 

「あ、あの! 冒険者様!」

 

 不意に、背後から呼び止められる。周囲には他の冒険者がいないことから自分に言っているのだろう、何だと思い振り返ると……。

 

「さ、サポーターは如何ですか!?」

 

 あの日、路地裏で倒れていた小人族の少女がそこにいた。

 

 

 

 

 





次回、支援(サポーター)




Q.フレイヤ・ファミリアの幹部達はランクアップしたの?

A.流石にランクアップは出来ていないが、物凄い経験値は得られた模様。
あと何回かバトれば或いは?

「金取んぞ」

「それくらいなら安いものよ」

「くっ、強い!」


Q.ベジットはいつアフロさんと知り合ったの?

A.黒竜を倒す………大体2ヶ月くらい前。

Q.しつこいって、どれくらい?

A.「私はまだ諦めてないからねぇ!」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。