ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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もうすぐクリスマス。

そして年末へ。

そんな訳で初投稿です。


物語20

 

 

 

 それは正邪決戦より数日後の話、ディアンケヒト・ファミリアの本拠地(ホーム)にて。

 

「退院した?」

 

「はい。彼女、リリルカ・アーデさんはあの後ソーマ・ファミリアの団長さんが引き取っていきましたよ」

 

 未だ戦いの爪痕が深く残り、冒険者を含めた人々が懸命に復興作業に勤しんでいた頃、その日の門の修繕作業を終わらせたベジットは、あの日路地裏で倒れていた小人族の少女の顔を見る為に、帰りの途中でディアンケヒト・ファミリアの本拠地へ脚を運んでいた。

 

 そこで偶々遭遇したアミッドにちょうど良いから話を聞こうとするが、まさかの言葉にベジットは目を丸くさせるが………同時に、納得もしていた。

 

「まぁ、アミッドの治癒魔法は凄いからなぁ。そんな長い間入院しているとは思わなかったけど……」

 

「傷を一瞬で治すふざけた豆を造り出している貴方がそれを言いますか」

 

 ベジットとしては純粋に褒めたつもりなのに、何故かジト目で睨まれてしまっている。が、それはアミッドを含めた医療従事者にとって至極当然の感情なので仕方がない。

 

 ベジットの造り出す“仙豆擬き”は、四肢の欠損等の大怪我以外は大抵傷を癒す優れもの。

 

しかも原材料が市販されている豆だけで、生み出せるのはベジットのみというオラリオの医療業界を激震させる劇物だったのだ。

 

 何故ベジットが己の主神たるディアンケヒトと懇意にしているかは分からない。が、それでもあのふざけた効力を発揮する豆粒を見せられた時は、久し振りにガチギレしそうになった。

 

「ディアンケヒト様が憤る筈です。あんなモノを市販されては、我々医療系派閥は最悪路頭に迷う事もあり得ます」

 

「お、大袈裟だなぁ。傷を癒すってんなら、アミッドの方が何倍も凄いじゃんか」

 

「ひっぱたきますよ?」

 

 どうしよう。この幼女、アイズとそう歳が変わらない筈なのに貫禄がやべぇ。

 

実際、ベジットの仙豆擬きはディアンケヒトともう一人の医神のミアハによって情報を封じて貰っている事から、公には広まっていない。だが、彼等の派閥の間では仙豆擬き───その完成形を目指すべく医療の発展を目指すため、ベジットが造ったソレを直々に手にしている。

 

「材料はただの豆。食べたら丸三日は空腹に悩む事はなく、傷も癒せる。この劇物を生み出しておいてよくもぬけぬけと………しかもベジットさん、あなたこれの対病に特化した代物も作ったらしいじゃないですか」

 

「いい!? ディアンケヒト様、そこまで言ったのかよ!? で、でもよ、アレは二柱の医神とウチの主神の協力もあってやっと作れた代物なんだ。流石に量産は……」

 

「当たり前です! そんな規格外の一品、そうポンポンと造り出されて堪るものですか! アレを見たディアンケヒト様は今も自室に引きこもってるんですよ!?」

 

 ザルドは兎も角、アルフィアの病は先天的で医神とされる彼等ですら進行を遅らせても完治させるには至らなかった。

 

医神の敗北。アルフィアとその妹であるメーテリアの病は、神の力を使えない彼等にとって、初めての敗北であり、絶望の象徴だった。

 

 それをディアンケヒト、ミアハ、そして浄化のヘスティアの三柱の神から教えを受けただけでアッサリと造り出したベジットに、アミッドは初めて挫折というものを経験した。

 

 ディアンケヒトもその事実に最初こそは愕然となって意気消沈していたが、後に触発され、人の身で自分を超えたベジットに対抗心を燃やし、今では研究の為に自室に引きこもってしまっている。

 

「何が一番許せないって、ディアンケヒト様が毎日毎日私達に豆を食べさせてくるんですよ!? お陰で私の体重は………」

 

「で、でぇじょうぶだ。少し位太っても一部の人からは需要があるさ」

 

「フンッ!!」

 

 謝罪どころかまさかのノンデリ発言に、堪らず拳をぶつけるアミッド。しかし悲しいかな、彼女の渾身の一撃(ファーストブリット)はベジットの腹筋を貫くに至らなかった。

 

「と、兎も角。リリルカ・アーデさんはソーマ・ファミリアの団長、ザニス・ルストラ様が引き取って行きましたので、大丈夫かと思います」

 

「っ! 待て、今………何て言った?」

 

「ですから、ここには彼女はもういないと……」

 

「違う。誰が、連れて行ったって?」

 

「………ザニス様、ですが?」

 

 初めて、ベジットの表情が変わった。困惑、戸惑い、そして………義憤。

 

ソーマ・ファミリアの団長の名を聞いた瞬間、彼の様子が変わった事に今度はアミッドが戸惑った。

 

「まさか、奴がいるのか。奴が────ザスが!」

 

「ザニスです」

 

 その後、ディアンケヒト・ファミリアの本拠地を後にしたベジットは願う。彼女の、リリルカ・アーデがどうか元気で過ごしている事を。

 

「………何事もなければいいんだけど」

 

 その呟きは誰にも届くことはなく、オラリオでの日常は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、ダンジョン5階層。

 

「クギャァァァウッ!!」

 

「よっ」

 

「ギッ!?」

 

 襲い来るコボルト。牙を剥き出し、鋭い爪を立てて飛び掛かるモンスターの群れを、ベジットは手刀の横凪で打ち払う。

 

首がスルリと落ち、地に落ちるそれを見て後ろに控えていた小人族の少女から拍手が送られる。

 

「す、凄いですベジット様! 遭遇するモンスターを全て一蹴! この調子でドンドン進んでいきましょう!」

 

「お、おう」

 

 ………リリルカ・アーデは、ベジットの事を覚えてはいなかった。まぁ、あの時の彼女は気絶していたし、無理に思い出させて怖かった記憶を想起させるのも酷だろう。

 

だから、あの時の対面はお互い初対面という事にして、ベジットは彼女を自分のサポーターとして契約する事にした。

 

 “サポーター”。同じ冒険者でありながら、裏方に回って探索を支援する者だとベジットは聞いている。

 

ベジットの感覚で言えば所謂補欠。けれど冒険者達の戦闘以外の負担を可能な限り軽減してくれる等、いて損はない相方と認識している。

 

戦っているのに夢中で、回復薬を渡してくれたり、その都度状況に合わせて支援してくれるのだから、ベジットとしては普通に有難いと思わせる人達だ。

 

 現に、ベジットの死角から襲い掛かるゴブリンをボウガンで援護してくれたりと、その視野はかなり広い。お陰でモンスターの攻撃をワザと受けて【耐久】を伸ばそうとした自分の計画がご破算した程だ。

 

リリルカ・アーデは間違いなく優秀な逸材。少なくともベジットはそう思えた。

 

 ただ……。

 

「一人じゃ大変だろう。手伝うよ」

 

 一人でせっせとモンスターの死骸から魔石を取り出すリリルカを見て、ベジットも手伝おうと歩み寄る。

 

周囲にはモンスターの影はないし、一人よりも二人でやった方が効率はいい。そう、ベジットは自分なりの善意で近付こうとして……。

 

「ヒッ!」

 

 リリルカ・アーデはベジットから後退った。フードに覆われたその顔に一瞬目にしたのは恐怖に染まった彼女の顔。

 

目を見開かせ、解体用のナイフをギュッと握りしめている。その様子にベジットは困惑に目を丸くさせた。

 

「リリちゃん?」

 

 出来るだけ相手を刺激しないよう、平坦な声音で声を掛けた。すると、リリルカも正気に戻り、ハッとベジットの顔を見上げ……。

 

「も、申し訳ありませんベジット様! リリは、リリは……!」

 

「いや、俺もいきなり声を掛けて悪かった。……そうだな、折角今日はサポーターがいてくれるんだ。お言葉に甘えて任せるとしようかな」

 

「は、はい。ありがとうございます。頑張ります」

 

 そういって、リリルカは再びモンスターの死骸から魔石を取り出す作業に戻る。リリルカに仕事の邪魔をして悪かったと、軽く謝罪して周囲の見張りに専念する事にしたベジットは思う。

 

(あの脅えた目、モンスターに向けているものとは別のモノ、あれは虐待されてきた者の眼差しだ)

 

 思い返すのはオラリオに辿り付く前の旅、ヘスティアと出会う前の頃に何度か見てきたモノ、小柄だと蔑まれ、非力だと罵倒され、弱小種族と虐げられてきた小人族(パルゥム)特有の濁った目だ。

 

(ああ言うのはオラリオの外では良くある話で、ここではそうでもない………なんて思っていたけど、違うのか?)

 

 てっきりフィンやガリバー兄弟なのがいるから、オラリオでは小人族は其処まで待遇悪く扱われる事はないと、心の何処かで思っていた。アストレア・ファミリアのライラも、派閥のみんなと仲良くしている所を見ているから、このオラリオではそういった差別は無いのだと、何処かで思い込んでいた。

 

 そもそも、リリルカの年齢はまだ数えて八歳。事実上の七歳児である。子供も子供、本来ならダンジョンに潜らず、両親に家で甘えていたい年頃だろうに。

 

(この子も、アイズと同じ訳アリか)

 

 しかもリリルカの場合、ファミリア内にすら居場所がない可能性が高い。彼女が派閥の人間ではなく、他人である自分に声を掛けてきたのが何よりの証拠だ。

 

考えれば考える程、嫌な想像が頭に浮かぶ。明らかに痩せ細った体躯、女の子なのに何一つ着飾れず、ボロボロのフード一つに身を包み、自分達(冒険者)に媚びて生きていく。

 

 それがどれだけ屈辱的で自らの尊厳を傷付けているのか、ベジットには想像すら出来なかった。

 

「お、終わりました! お待たせしまって、申し訳ありません!」

 

 全ての魔物から魔石を取り出し、此方に駆け寄ってくる。先程よりは平静さを取り戻しているが、それでも何処かその瞳にはまだ怯えの色が消えずにいる。

 

「気にすんな。さ、次に進もう」

 

 今はまだ、自分に出来ることはない。この契約を可能な限り続け、彼女の信頼を勝ち取り話を聞き出す。今の自分に思い付くのはこれくらいしかない。

 

(帰ったらヘスティアにも相談するか。流石に見て見ぬふりは出来ん)

 

 最悪、ガネーシャ・ファミリアやアストレア・ファミリアに事情を話して相談に乗ってもらうとしよう。

 

 そんな事を考えている内に階層は進み………。

 

「リリちゃんリリちゃん」

 

「はいリリルカです」

 

「今、俺達がいる階層は?」

 

「…………10階層ですね」

 

「「…………………」」

 

 いつの間にか二人は二桁の階層まで脚を進めていた。

 

「イヤだって、仕方なくね? リリルカさんがあまりにもスムーズに魔物解体して魔石取り出すんだもの、俺もつい脚が軽くなっちまったよ」

 

「ンなっ!? リリの所為にするつもりですか!? そもそも、ベジット様がポンポンポンポンモンスターを倒していくもんだから、こんなに進んでしまったんでしょ!?」

 

「あ~、どうすんべこれ~、ローズにバレたらまた叱られるよ~。アイツ無関心に見えて世話焼きだから、絶対反省文書かせようとしてくるよ~」

 

「どんな惚気ですか!?」

 

 あの狼人(ウェアウルフ)、反省文とかマジで書かせて来るんだよ。この間なんて適正階層一つだけ無視したらそれだけで反省文10枚書かせようとするんだもん。実際書いたし。

 

あの“冒険者はどうせすぐ死ぬんだから、目を掛けても仕方ないよね”の諦観な姿勢からあんな熱血指導が入るとか予想出来ないって普通。

 

 まぁ、入った以上仕方ないよね。黙っておくしかないね。

 

「ま、バレなきゃいいだろ。リリちゃん、10階層の特徴は?」

 

「全く、呑気なんですから………10階層からはダンジョンで仕掛け(ギミック)が発生します。進めば霧で視界が塞がり、オークやインプ、バッドバットと言ったモンスターが集団で襲ってくる危険性があります」

 

「おぉ、ここでギミックとか出てくんのか。いよいよダンジョンらしくなってきたな」

 

 正邪決戦の時は必死で駆け抜けたから、ベジットはそういう仕掛けとかは体験しておらず、リリルカの言う仕掛けにワクワクしていた。

 

そんな呑気なベジットにリリルカは呆れの溜め息を漏らす。

 

「いいですかベジット様、ここからは本気で危険度が増していきます。決して慢心せず、油断無く慎重に進み、少しでも体力が削れたら即座に撤退するようにしますからね」

 

「はーい」

 

 いつの間にか立場が逆転し、リリルカもすっかり先輩気質が出るようになっている。

 

(アレ? 俺もしかして一番冒険者として下なのでは?)

 

 推定八歳のアイズからは後輩扱いされ、推定七歳のリリルカは先輩風を吹かせている。フィンやオッタル、リヴェリア達が最上位だとするなら、自分は幼女よりも………下?

 

 

(いやいやまさかね)

 

 それ以上冒険者のヒエラルキーに考える事なく、二人は先へと進んだ。リリルカの言う通り辺りは霧に覆われ、見るからに視界が塞がっていく。離れないよう隣り合わせで、歩調もリリルカに合わせて歩き続ける事数十分、不思議な事にモンスターとはこの間全く出会わなかった。

 

「………いねぇな、モンスター」

 

「……………」

 

 リリルカから教えられた話では10階層からはモンスターの同時多数発生、所謂“怪物の宴(モンスターパーティー)”が起こると言われている。なのに、この階層に来てからモンスターは一匹も目にしていない。

 

流石にここまでモンスターが出てこないのは不自然が過ぎる。辺りを見渡してもモンスターの姿は見えず、ただ沈黙が続くだけ。

 

 どうしたもんかと考えるベジットに対し、リリルカは何か心当たりがあるのか、その顔には冷や汗が浮かんでいる。

 

「──ベジット様、逃げましょう」

 

「ん?」

 

 やたら深刻な様子のリリルカにベジットが首を傾げた。

 

その時だ。

 

「う、ウワァァァァッ!!」

 

「「!?」」

 

 ベジット達が向かおうとしている先から、男の悲鳴が聞こえてくる。リリルカを守るようにベジットが前に出ると、霧の向こうから三人の男が死に物狂いな勢いでこちらに走ってくる。

 

「アレは、この間の」

 

 名前は確か……モルカー? モル、モル……ダメだ名前が思い浮かばない。顔と名前が一致しない事にモヤモヤしていると、リリルカがベジットの服の袖を引っ張る。

 

「ベジット様! 怪物進呈(パスパレード)です!」

 

「ぱ、パス?」

 

 何やら急にバスケ用語が出てきてベジットは面喰らう。え、この世界にバスケとかあるの? なんて呑気な事を考えていると、三人の男はベジット達の横を通り過ぎていく。

 

「済まねぇ、済まねぇ!」

 

「赦してくれ、赦してくれぇ!」

 

「ウワァァァァッ!!」

 

「え、なんで謝罪?」

 

 何やら泣きわめきながら懺悔の言葉を撒き散らし、三人組は物凄い速さで去っていく。良い脚してんなと感心しているのも束の間、リリルカの様子を感じ取ったベジットが前に振り返ると……。

 

モンスターの軍勢。10や20ではきかない夥しい数のモンスターが、ベジットとリリルカを呑み込もうと押し寄せてきた。

 

「あ、あぁ……」

 

 オークやインプ、他にも大多数のモンスターを前にリリルカはすっかり腰が引けてしまっている。そんな彼女を見てベジットは漸く怪物進呈の意味を理解した。

 

「あ、あー。なる、程? モンスターをパスするからパスパレードね。そう言えばローズがそんな事も言ってた様な」

 

「べ、ベベベジット様、に、逃げましょう。今ならまだ!」

 

「そんな慌てんなよリリ」

 

「で、ですが!」

 

「大丈夫、俺最強だから」

 

「へ?」

 

 数多のモンスターが迫り、窮地に立たされているのにベジットは何処までも平静で、リリを落ち着かせるように頭を撫でる。

 

冒険者にとって死地である筈なのに、不敵に笑うベジットを見上げて、何故かリリルカは安心していた。

 

「さて、折角の団体様だ。相手してやるよ、盛大にな」

 

 モンスターの群れ、理性もない破壊の怪物達は自分達の前に立つ人間一人を殺す為に進軍し。

 

次の瞬間辺りは血の海と化し、辺りを埋め尽くしたモンスターは唐突に消え去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリー、換金終わったぞー」

 

「あ、はい。お疲れ様です」

 

 その後、地上に戻ったベジットは手に入れた魔石やドロップアイテム等を換金し、近くのテーブルに腰掛けていたリリルカに歩み寄る。

 

「驚けー、今回は稼いだ金額はなんと合計50万ヴァリス! 過去最高の金額だ! いやー、受付の奴も驚いたあの顔、見物だったぜ」

 

 ベジットの手には三つのズタ袋がぶら下がっていて、ホクホク顔で自慢している。そんな彼にハハハと乾いた笑みしか出なかったリリルカの前に、ドサリとズタ袋が置かれた。

 

「べ、ベジット様? これは、一体?」

 

「え、普通に分け前だけど?」

 

 ちょうど25万ヴァリス。子供に渡すには大きすぎる金額だが、リリルカはこう見えてしっかり者なのはベジットも今回の探索で理解している。

 

彼女なら変に散財とかしないだろう。そう思ってキッカリ半分を渡したのだが……リリルカの反応は思ったモノではなかった。

 

「な、なんでリリにこんな……」

 

「なんでって、一緒に探索しただろ。ちょうど綺麗に山分け出来たのに、何が不満なんだ?」

 

 まさか、もっと欲しいと!? こちらも主神を抱える身だから、正直値段交渉は勘弁して欲しい。

 

「ち、違います! リリは、リリはベジット様のお役に立っていません! こんな施しを受ける資格は……」

 

「いや施しって……実際リリがモンスターから魔石取ってくれたじゃん。モンスターの匂いとか結構キツいのに、イヤな顔一つもしないでやってくれたじゃん」

 

「で、ですが!」

 

「いいからいいから、なら俺とリリの初めての探索記念って事でさ。また明日も頼むよ、な?」

 

 ズタ袋の口を開けば、多くの金貨が顔を覗かせている。嘘偽りもなく、本当にこれだけの額をベジットは渡してくれた。

 

受け取ってくれと笑う彼に、リリルカの目から大粒の涙が溢れそうになった時。

 

「て、テメェ!?」

 

「あん? あ、さっきの三人組」

 

 先程、自分達に怪物進呈(パスパレード)をしてくれた三人組の男が、ワナワナと震えた様子で二人を指差している。

 

「な、なんでテメェ等が生きてんだ!? モンスターは、あの化け者共はどうしたんだよ!?」

 

「あぁ、俺が片付けた」

 

「はぁ!? あの数のモンスターを!? ホラ吹いてンじゃねぇぞ!!」

 

「いや嘘吐いてどうすんだよ。それよりもちょうど良かった」

 

「な、何がだよ。俺達に仕返しするつもりか!?」

 

 何やら怯えている様子の三人、仕返しなんて考えてないし、寧ろ急遽収入が増えて嬉しいくらいだ。と言うのがベジットの本音だが、話が拗れそうなので本人達の前ではあまり口にしない事にする。

 

「ンな事しねぇよ。それよりもホレ、お前らの取り分だ」

 

「「「……………は?」」」

 

「…………は?」

 

 三人組が仲が良いのは兎も角、何故リリルカまで合わせちゃうのか。

 

「一応お前らのお陰で収入が増えたからな。ざっと15万って所だ。そっちも三人だし、ちょうど分けられるだろ」

 

 今回の収入の七割が三人組の怪物進呈によるもの、悪意の有無はさておき、こうしてある程度金品を分配すれば、コイツらも変にイチャモン付けたりはしてこないだろ。

 

 唖然としている三人組、彼らのリーダー格と思われるモル某に袋を渡すと、三人はそのまま回れ右をして去っていく。

 

そんな彼の後ろ姿を見守っていると。

 

「べ、ベジット様、宜しかったのですか?」

 

「あぁ、良いんだ。あのまま全部持っていけば後々“アレは俺のお陰だー”、なんて言われなくて済むだろ?」

 

 受け取った以上、少なくともそんな言い分は通らない筈。それでも絡んできた時は………その時考えよう。

 

問題の先送り? うっさいわ。

 

「………ベジット様は、変なお人ですね」

 

「そうか?」

 

「そうですよ」

 

 先程まで泣きそうにしていた癖に、今ではすっかり年相応に笑っている。やっぱりね、子供ってのは笑ってこそだよな。ベジットはしみじみそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いのか? 本当にここで」

 

「はい。ここまでくれば大丈夫です」

 

 すっかり日も落ち、冒険者達も自分達の本拠地へと帰る時間帯。ベジットとリリルカの二人もそれぞれの本拠地へ戻ろうとしていた。

 

「もう夜だし、流石に子供一人で帰すのは俺としては憚れるんだが……」

 

「もう、いけませんよベジット様。リリ達はあくまで他派閥、他所のファミリアの一個人にそこまで肩入れはするべきではありません」

 

 この世界の価値観で言えばそうなのだろうが、未だ現代の価値観を根強く持っているベジットとしては中々呑み込むのに苦労する。

 

ギルドでも他派閥との必要以上の接触は出来る限り控えるように言っているが、それだってあくまで口約束みたいなモノだろう。

 

「しかしなぁ……」

 

「リリは今年でもう八歳ですよ? ベジット様もあまり子供扱いしないでください!」

 

「いや八歳は子供だろう」

 

 実際アイズとかそうだし。………いや、この場合あの娘を引き合いに出すのは違うか。

 

「兎に角、同じダンジョンで探索した間柄なんです。リリの事は気にせず、ベジット様もお家に帰った方が宜しいかと」

 

「あれ、俺が窘められてる?」

 

 まぁ、防犯の事とかこの世界なりにあるのだろう。一人の子供をしつこくつけ回すのも外聞的にアレだし、下手したらガネーシャ案件にもなりかねない。

 

「はぁ、わーったよ。ったく、………そんじゃあリリ、また明日な」

 

「はい。また明日」

 

 一先ず今日の所は引き下がる事にしよう。信頼関係の構築もまだ道半ば、焦る事なくやっていこう。

 

彼女の助言に従い、ベジットもその場を後にする。

 

 彼の背中を見えなくなるまで見送ったリリルカは一人溢す。

 

「………本当に、変な冒険者ですね」

 

 これまでサポーターとして生きてきて、ここまで自分を考えてくれた冒険者はリリルカにとって生まれて初めての経験だった。

 

サポーターを対等な相方として認め、リリルカを人として見てくれる。分け前もキチンと分配し、不等な扱いはしなかった。

 

 ………報酬代わりの蹴りや罵倒、憂さ晴らしに殴ってきたりもしなかった。

 

「………ベジット様、か」

 

 あの人みたいな冒険者がいるなら、と。ふと思ってしまう。全うな人生を送れるかもと、そう、心の何処かで期待してしまった。

 

だから……。

 

「よぉ、リィ~リィ~。随分と景気良さそうじゃねぇか」

 

「ッ!?」

 

 これは、きっと罰なのだろう。

 

「ちょっくら、面貸せや」

 

「カヌゥ、様……」

 

 賎しくも浅ましい小人族の自分が、分不相応な夢を抱いてしまった事への……罰。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「金を稼いでこい」それがリリルカ・アーデが両親から最初に与えられた言葉だった。

 

 生まれた時からソーマ・ファミリアの眷族として働き、ただひたすら金を集める機械として使われた。

 

少しでも作業が遅ければ罵倒よりも先に蹴りや拳が飛んできて、どれだけお腹が空いたと訴えても、彼等は嘲笑うだけ。

 

 見下し、脅し、唾を吐き捨てる。リリルカ・アーデは若干八歳で、自分がいらない存在であると思い知らされた。

 

「ほっほう! こりゃスゲェ、あの冒険者一度の探索でこんなに稼げんのか!」

 

「コイツは良いカモを見付けたな! 次も頼むぜリリルカさんよぉ」

 

「上手く取り入って、精々甘い蜜を啜ってきな!」

 

 だから、これもいつも通り。殴られ、蹴られ、小さなリリルカではどうやっても太刀打ち出来ない冒険者。

 

だから、笑ってすませるしかない。自分の為、生きる為にこれは必要なことなのだと、自分の中にある大事な何かを切り売りして生きていくしかない。

 

 それが私、リリルカ・アーデが選んだ生き方なのだから……。

 

「………して、」

 

 イヤだ。

 

「あ?」

 

「かえ、して………」

 

 イヤだ。

 

「なんだぁ? なにか言ったか?」

 

「返して下さい!」

 

 イヤだ!

 

「それは、そのお金は、ベジット様が私に与えて下さったモノなんです! 返して下さい!」

 

「あぁ!?」

 

 そのお金は、ただのお金じゃない。彼が自分を認めてくれた信頼の証。

 

「あなた達の汚い手で、触れて良いモノじゃないんです!」

 

 だから返せ。叫び、抵抗するリリルカは必死に奴らの掴む金貨の入った袋に手をのばす。

 

「この、図に乗りやがって!」

 

「ゲゥッ!?」

 

 しかし、どれだけ勇気を振り絞っても体格差で劣るリリルカに敵う道理はなかった。蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられ、地面に倒れ伏すリリルカに犬人(シアンスロープ)が踏みつける。

 

「テメェごとき小人族が、俺達人間様に抵抗してんじゃねぇよ!」

 

「どうやら躾し直さなきゃいけないみてぇだなぁ」

 

 既に身体の至る所の骨が折れている。それでも蹴り続け、嘲笑ってくるカヌゥ達にリリルカは自分のいる場所を認識する。

 

ここは地獄だ。人を貶め、辱しめ、貪り喰らう暗き地獄。

 

(私は、もう二度とここから出られない)

 

 分かっていたことだ。知っていた事だ。あの日、両親から金の無心をされた時点でこの世界に自分の居場所など無いことは。

 

とっくに、知っていた筈なのに。

 

 でも……。

 

「……だれ、か……」

 

『スゲェじゃねぇか、リリ。その若さで大したもんだ』

 

でも……。

 

「誰か………」

 

『気にすんなよ。お前は良くやってるさ』

 

 それでも………!

 

『また明日』

 

 あの人に、もう一度会いたい。

 

「助け、て………」

 

 血塗れの、小汚ない小人族の小さな慟哭。そんなモノ、理不尽な冒険者の嗤い声に掻き消されるだけの声は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────おい」

 

「「「ッ!?」」」

 

 確かに、一人の男の耳に届いた。

 

「テメェ等、その娘に何をしている」

 

 薄暗い路地裏、光の届かない暗闇に現れるのは逆立った黒髪の男。

 

 

 

 

 逆光で影しか見えないのに、何故かその瞳だけは翡翠色にギラついていた。

 

 





嘘予告!

次回、ソーマ死す!

デュエルスタンバイ!




オマケ


もしもフレイヤ・ファミリアに所属していたら?Extra1

「ヘスティア。ウォーゲームよ」

「「ッ!?」」

「幾らでも参加者を募って貰って構わないわ。ロキ・ファミリアだろうと、学区だろうと好きなだけ助力を請いなさい。その悉くを叩き潰してあげるわ」

 フレイヤの魅了を打ち破り、オラリオは事実上フレイヤの敵となった。

しかし、彼女は揺るがない。何故なら、彼女には数多くの強き勇士が控えていて、中でも最強の眷族が自分の側に控えているのだから。

 いつの間にかフレイヤの隣に立っているベジットが口を開く。

「悪いなベル君。こんな奴でも一応俺の主神なんだ」

「ベジット……さん」

「さぁ、始めましょう。私達のウォーゲームを」

 尚、ベジットは決戦当日に裏切る模様。






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