前回、数々の感想ありがとうございます。
嘗て無い数の感想に物凄く嬉しく思うのですが、大変申し訳ありませんが、すべての感想に返信出来る自身が無いので返信が遅れ、また出来ない場合がございます。
こんな情けない作者ですが、これからも応援していただければ幸いです。
そんな訳で初投稿です。
翌日、迷宮都市オラリオは未だ復興の途中だというのに既にお祭り同然の賑やかさになっていた。
ソーマ・ファミリアの団長、ザニス・ルストラからの一方的な
ヘスティア・ファミリアに奪われた自分達の団員を取り戻す。というお題目を掲げて……。
「いや、それはねぇだろ。幾らなんでも無理がある」
いい加減自分達の
タイミング良く途中で合流したライラとアーディを連れて行くと、本拠地にて事の顛末を聞いたライラの第一声が上記である。
「第一、八歳の子供に親の借金で生き方を決められるなんておかしいよ。私、お姉ちゃんに相談してこようか?」
「……どうかな、ソーマ・ファミリアの連中は狡いから自分達の派閥に口出しするなと一蹴されちまうだけに終わりそうだ」
「なんか含みのある言い方だが、ライラはソーマ・ファミリアについてなんか知ってるのか?」
アーディが団長である姉に相談を持ち掛けようとするが、ライラはそれを制止する。何やら意味深な彼女の言動にベジットが訊ねると、ライラは一瞬だけ考える素振りを見せてポツポツと話し出す。
「これは大抗争以前の話なんだがな、どうも連中、神酒を使って荒稼ぎをしていたみたいなんだ」
「神酒?」
「神ソーマが造る非常に高価なお酒です。余りにも美味しいモノだから、中毒性も結構危険視されているんだとか」
中毒性、アーディから聞かされる神酒なるモノを聞かされたベジットの眉が僅かに動く。
「アーディが言うように、その中毒性がヤバくてな。神酒に酔った連中が度々問題を起こしたりと、ギルドからも問題視されていたらしいんだ。ま、闇派閥の動きが活発化した時は流石に自重したそうだが」
「でも、ここ最近また話がチラホラ聞き出したよ。この間も、他派閥の冒険者とトラブルを起こしたってお姉ちゃんが言ってたし」
「成る程、典型的な小悪党って訳ね」
恐らくはリリルカの両親もその神酒の中毒性とやらと関係性があるのだろう。本人の口から聞いたわけではないから、まだそこら辺はなんとも言えないが……。
「で、ベジットの旦那はその小悪党達に喧嘩を売られたって訳か」
「まぁな」
「………因みになんだけど、ベジットさんは
「合法的に相手を遠慮なくブチのめせる素敵な催し」
「デスヨネー、知ってた」
ニシシと笑うライラにアーディが窘めるが、実際ベジットの言葉に然程違いが無いから否定し辛い。
「因みに今、その手の界隈では既に競りが始まっててな、アタシの全財産の半分を注ぎ込んである」
「ほほう? 因みにライラさん、
「当然旦那が大穴枠でさぁ。どうだい旦那、今アタシに任せてくれたらファミリアの資金を50倍にしてやれるけど?」
「くぅ、賭け事が苦手な俺が此処で大勝負に出る、か! 嫌いじゃないぜそう言うの!」
「二人とも、ここにガネーシャ神の眷族がいること、忘れないでね?」
「「すんませんでした」」
アーディの年相応の割に圧のある微笑みに、ベジットとライラは揃って頭を垂れる。如何に悪ノリ出来る二人だろうと、引き際は弁えていた。
「戦争遊戯になる事は避けられない。残る問題は戦争の内容だけど……」
「ただいまー!」
「来たか」
二人と駄弁っていて少しの時間が経ち、廃教会に自分の主神が帰ってきたことを察知する。地下室を出て出入り口を見れば、護衛のシャクティと共にヘスティアが戻ってきた。
「ああもう! 疲れたー! アイツらここぞとばかりに質問責めしてきやがって~!」
「随分と憤慨してんなぁヘスティア。シャクティも悪かったな、付き合わせて」
「礼はいらん。公平さを保つ為に女神ヘスティアの安全を確保せよと主神からの命令だ」
「それでもちゃんと愚痴を聞いてくれる辺り、シャクティ君はホント良い子だよ」
愚痴聞かせてたンかい。うへへと笑うヘスティアに呆れつつ、ベジットはバベルで聞いた話を促した。
「それで、向こうで何があったんだ?」
「……まぁ、大体そっちの想像通りだと思うけど……」
そう言って
「兎に角、お祭り騒ぎだったよ」
「だよな」
「想像できる」
「あ、アハハ……」
ウンザリした顔からの第一声、流石にそれは分かっていたというベジットとライラの二人に、アーディは苦笑い。
「やれヘスティア・ファミリアは血の気が多いとか、戦力差が酷いとか、
「よし、取り敢えず最後に宣った神の名前はあとで教えてな。塵一つも残さんから」
「「「やめてあげて」」」
笑顔で神の殺害を宣言するベジットに、ヘスティアと三人は全力で聞かなかった事にした。
「まぁ、その後はアストレアが進行してくれたお陰で何とか話も進んでさ、お陰で戦争遊戯の事とか、今回行われる種目とか色々聞けたよ」
「種目って、興行扱いかよ」
神と神との代理戦。眷族同士の戦いは時にオラリオにとって新たな話題の呼び水となっている。
娯楽に飢えた神々が必死に盛り上がろうと各々画策する。特に今回は街の復興で疲れた市民達のガス抜きという一面もあるのだろう、ソーマ・ファミリアからベジットへの批難の声も素材にし、現在オラリオでは打倒ベジットを掲げた横断幕も作られている。
「あらら、完全に悪役だな俺」
「何を呑気に言ってるんだベジット君! 君はなにも悪いことなんてしていないじゃないか! それなのに一方的に悪者にされて、僕はプンプンだよ!」
呑気に他人事のように語るベジットにヘスティアは頬を脹らませて憤慨する。ツインテールの髪がブンブンと回っている事から、その荒ぶり様は凄まじい。
尤も、力の無い神がそんな事をしてもただの小動物にしかみえないのだが……。
「別に全員が全員そう思ってる訳じゃねぇだろ? ミアハ様とかヘファイストス様とか、アストレア様だってそんな話は鵜呑みにしてないだろ?」
「それは………そう、だけどさぁ」
「ならいいさ、気にする必要はねぇよ。俺をロリコン呼ばわりする奴と同様にそんな奴とは関わらなければ良いだけさ」
「ベジット君………」
「それよりも、そろそろ例の種目を教えてくれよ」
「それよりも!?」
頭を撫で、落ち着かせようとするベジットだが、ぶっちゃけそれよりも戦争遊戯の種目が気になるようだ。
そんなベジットにヘスティアも憤慨するのもどうかと思い、深い溜め息と共に手にした用紙を広げる。
「戦争遊戯の開催は一週間後、内容は……攻城戦。受け手はソーマ・ファミリア、攻め手が君だ」
「へぇ、城とかあんのか。凄いなオラリオ」
ヘスティアから用紙を受け取り、内容を確認する。
「本当は攻城戦じゃなく、もっと別のモノにしたかったんだけどね。これじゃあ実質、ソーマ・ファミリアとベジット君の総力戦だ。人数の差は絶望的と言っても良い」
勝敗の行方は堅く閉ざされた城門を如何に突破し、相手の大将を仕留めるかに懸かっている。少人数処か、たった一人の眷族しかいないベジットには端から見れば勝率ゼロ、勝ち目なしな無謀な戦いにしか思えない。
「僕はもっと違うのにしろって言ったんだけど……ロキの奴、その方が面白いって聞かないんだ!」
「ロッキーが?」
「ロッ!?………ゲフン、他にもヘルメスやフレイヤ、挙げ句にディアンケヒトまで乗り気でさ! 僕の意見は通らなかったんだよ! 酷いや!」
再び怒り出すヘスティアだが、ライラやヴァルマ姉妹は全く別の事を危惧していた。
「ま、大丈夫だろ。相手が城にいるってのなら、態々探さなくて良いって事さ。………シャクティ」
「なんだ?」
「リリ………リリルカ・アーデの身柄は?」
「彼女の事は我々の方で丁重に保護している。彼女も当事者だが、戦争遊戯の日まで公正さを保つ為に我々が保護する事にした。無論、ソーマ・ファミリアの誰にも会わせはしない」
「アタシの方でも気に掛ける様にするからさ、旦那、ソーマ・ファミリアに同胞を渡されないようにしてくれよ」
「おう、任せろ」
シャクティからリリルカの安全を確保され、ライラもそれとなく気に掛けてくれる。頼もしい人達の言葉に憂いを無くしたベジットはやる気に満ちた様子で拳を握る。
「でも、本当に良かったのかい?」
「何がだ?」
「この戦争遊戯を乗り越えたら、君は間違いなくオラリオ……いや世界中から注目される。その後、どんな厄介ごとが降り掛かるかは、僕にも分からない」
この戦い、どう転んでもベジットが世界の注目に晒されるのは避けられないだろう。そうなれば今後、他の神々が娯楽目的で絡んでくるのは想像に難くない。
ベジット自身も必要以上の注目は避けたかった筈、それでも知り合った女の子の為に自分から進んで拘りを捨てようとしている。
眷族の成長。主神であるヘスティアにとって嬉しくもあり、少しだけ悲しくもあった。
そんな女神にベジットはフッと笑みを浮かべ。
「大丈夫さヘスティア、俺に一つ考えがある」
「え?」
「お前が言う通り、戦争遊戯の後の俺はきっと悪目立ちするんだろう。だったら───」
「だ、だったら?」
ベジットの笑みが邪悪に歪み。
「他の神々が手を出すことを躊躇う位、ド派手に暴れればいい。簡単だろ?」
そこいらの邪神も裸足で逃げ出す凶悪な笑みを浮かべるベジットに、ヘスティアは思った。
(あ、これアカン事になる)
そして、それは他の三名も同様で。
(((私、知ーらね)))
自分達ではどうしようもないので、匙を思い切りぶん投げた。
戦争遊戯まで後七日、ヘスティア・ファミリアの本拠地での一コマである。
「所でヘスティア」
「ん、なんだい?」
「俺が相手する向こうの主神とは会ったのか?
神々が集う神会。戦争遊戯に伴い急遽開かれる事になったその場には相手側の主神も来ている筈。
何か今回の件に関して一言無いのか、そう訊ねるベジットに対し、ヘスティアの表情は暗い。
「────来なかった」
「なに?」
「来なかったんだよ、ソーマは。自分達の子供が戦うって言うのに、神会が終わるその時まで姿を見せることはなかったんだ」
悲しそうに溢すその言葉、そこから伝わってくる感情を察した時、ベジットはこの日一番の怒りを覚えた。
◇
そして、あれから七日。戦争遊戯当日。
いよいよ始まる戦争遊戯、ロキ・ファミリアのホーム【黄昏の館】の大広間にてロキの幹部達が集まっていた。
「リヴェリア、まだなの?」
「落ち着けアイズ。まだ時間じゃない」
ソワソワしているアイズを宥め、自身の膝の上に乗せる。最近になって感情豊かになったアイズに幹部達の顔に笑みが浮かぶ。
「やれやれ、すっかり懐きおったなアイズは」
「一時は自分も
ソーマ・ファミリアからの宣戦布告により、一方的に開催される事になった戦争遊戯。これをロキから聞かされたアイズは先輩としてベジット達に助太刀しようとし、実際にヘスティア・ファミリアの本拠地まで駆け込んできた。
「でも、ベジットから言われた。これは俺達の戦いだから、迷惑は掛けられないって」
「流石にそこは弁えとるか。自分の戦いに望まぬ横槍が入れられるのを嫌う気持ちは儂にも分かる」
「尤も、彼には助太刀なんて必要ないと思うけどね」
ソーマとヘスティア、それぞれが抱える眷族の数の差は凄まじく、その人数の差はそのまま互いの戦力差を表している。
本来であればアイズの様な上位の冒険者の助太刀は喉から手が出る程欲しがるのが普通なのに、ベジットはこれを一蹴。自分一人で戦う事を今日という日まで譲らなかった。
常識ある者から見れば、死傷者も出かねない戦争遊戯に於いてベジットの選択は自殺願望にも等しい愚行である。
「ベジットの担当、ローズは随分と悩ましげに頭を抱えていたな。命知らずのバカはこれ以上面倒見きれないと、気炎を吐いていたよ」
「ハハハ、まぁ彼女の気持ちも分かるよ。ギルドならこの蛮行は何としても止めたいだろうしね」
赤い髪の狼人が鋭い目付きで吼え散らかす様は、端からみても怖い。事情を訊ねに言ったリヴェリアですらその迫力に若干尻込みした程だ。
因みに、戦争遊戯を承諾してからベジットはローズに顔を出していない。理由は………察しろ。
「ドチビから話を聞いた限りだと、非があるのはソーマ・ファミリアやからなぁ、あの兄ちゃんからすれば退く理由がないやろ」
「しかしソーマ・ファミリアめ、よもやあの様な幼子を金稼ぎの道具にするとはな。フィン、お前からすれば業腹モノじゃろ」
「そうだね。事情を知れば僕も動いたかもしれない」
現在、オラリオではベジットが幼子を拐かした悪として知られているが、そんなもの少し調べたらすぐにばれる嘘でしかない。
同胞が金に汚い連中に利用され、踏みにじられ、尊厳を破壊される。【勇者】として一族の誇りとなる事を決めたフィン・ディムナにとって、ソーマ・ファミリアの醜聞は聞くに耐えないモノだった。
だが、派閥の長である
「ホント、羨ましいよ、彼が」
羨望に似た眼差しを、中継の鏡へと向ける。映し出されるその映像には巨大な城が聳え立っていた。
「いずれにせよ、うちらが期待しているのはただ一つ、如何にして勝つのかや。ケケケ、稼がせて貰うでぇ」
人知れず………いや、神知れずの内に
そんな主神の悪い所を見せないように、リヴェリアはアイズの視界を戦争遊戯が始まるまでそっと閉じた。
◇
『サァ! いよいよやって来ましたこの時が! 正邪決戦から約1ヶ月! 未だ戦いの傷が癒えていないこの時期に、二つの派閥が乗り出した
『俺がガネーシャだ! あとイブリ、ゴメン無理だ』
『チクショー!!』
オラリオ全土に映し出されている映像、其処には要塞と見間違う巨大な城が聳え立っている姿が晒されている。
その奥の玉座にはソーマ・ファミリアの団長のザニスが、口許を三日月の形に歪めてほくそ笑んでいた。
「さて、もうじきヘスティア・ファミリアが我が派閥の傘下に加わる事になるのだが……リリルカ・アーデ、君から一言何かあったりしないのかい?」
「…………」
「酷い娘だ。君の為にその身を奴隷に費やそうとしている者がいるというのに、関心すら湧かないか。正にソーマ・ファミリアの寵児として相応しい振る舞いだ」
ソーマと同じ。暗に自らの主神を貶しているザニスに初めてリリルカは自分を今日まで苦しめた元凶を睨み付ける。
「……あなたがそれを言うのですか。神ソーマが私達に無関心な事を良いことに、好き放題しているあなたが」
「失礼だな。これでも私は私なりにファミリアの未来を考慮しているとも、ただ我等が主神は神酒を造る事にしか興味を示さない。派閥を運営していく為には金が必要なことは、君も良く知っているだろ?」
「どの口が………!」
ソーマが自分達に目を向けないのは、神の身ではない自分ではその真意を推し量る事は出来ない。
だが、ザニスがしてきた事は越権行為でしかなく、
酒に溺れたリリルカの両親も神酒の欲しさに身の丈に合わない冒険を決行し命を落とした。何故あんな酒に惑わされるのか、
ソーマに溺れた所為で両親は死に、自分もファミリアでの居場所はない。自分から何もかもを奪った神酒に対してリリルカは軽蔑し、憎悪していた。
そして、神酒を悪用しているザニスもリリルカの怒りの対象でもあった。
「ベジット様は、あなた達なんかには負けません。必ず、勝ちます」
「ハッハッハ、そうかそうか。必ずか。随分とあの男の事を信頼しているのだ………なぁっ!!」
「ギャウッ!?」
初めて見せたリリルカの反抗、幼い彼女の成長にとても
「
「いぎっ、あぶ、ヒギュ!」
幼子相手にも関わらず、ザニスの振り抜かれた蹴りがリリルカの腹部へ捩じ込まれる。痛みに悶える彼女の声、しかしそれすらもザニスにとっては己を満たす悦楽の一つでしかない。
「ガネーシャ・ファミリアに保護されてその気になったか!? バカめ、オラリオでの他派閥への干渉は奴等であってもそう簡単に踏み込む事はできん! 他ならぬギルドがそれを証明している!」
嗤う。どれだけ抵抗しようと、どれだけ反発しようと、リリルカ・アーデは小汚ない小人でしかない。非力な小娘が幾ら泣いて喚いた所で、誰も助けやしない。
それが、この街の暗黙のルールなのだから。
「どれだけ足掻いた所で無駄だ。お前は死ぬまで私の為に金を集めるだけ、冒険者に縋るだけの、ただの寄生虫だ!」
「ッ!」
「あの男、ベジットもそうだ! 幾ら腕に覚えがあろうと所詮
腹を何度も蹴られ、痛みで意識が朦朧とする。それでも眷族としての頑強な肉体が、リリルカの意識を繋ぎ止めている。
普段なら忌まわしく思う神との繋がりも、今は虚勢を張るのに役立てる。
言葉に出来なくても、睨むことは出来る。出来損ないの
「我が傀儡どもが魔剣で奴を打ちのめす。その後は三日三晩
先の戦争遊戯宣言により、ザニスが提示したのはただ一つ。ベジットの身柄の要求、あの鍛えられた肉体やカヌゥ達の話を聞いて相当腕に自信があることは予想できる。
ならば、奴を倒した後は神酒で心身共に堕落させ、自分にだけ従う怪物に仕立て上げれば良い。奴であれば己の更なる欲望を満たしてくれるだろう、神酒という得難い商品の価値を見出だし、一つの派閥の頂点に立つザニスの野心は止まらない。
「さぁ、そろそろ開演の時間だ。貴様もいい加減言うことに従え、薄汚い
「……………」
ザニスの言葉に、返事を返さないリリルカは無言のまま立ち上がる。
そして……。
『それでは
“ピシュン、シュンッ”
何処からか聞こえてくる銅鑼の音を合図に、遂に戦争遊戯が開始される。
「聞こえなかったか? 如何に無能と言えど返事くらい………」
しかし、振り返った視線の先には誰もいなかった。無能を謗ったパルゥムの姿は何処にもなく、玉座の間に残されたのはザニスただ一人。
「──────は?」
音も無く消えた己の道具がいなくなった事実に、理解が追い付かないザニスはただ一言、間抜けな顔を晒してそう溢した。
◇
「よっと、取り敢えずここなら大丈夫だろ」
「え、え? あ、あれ?」
ついさっきまで自分はザニスと共に城の玉座にいた筈。なのに今自分が立っているのは城の外れ、土の上に立っている。
「よ、久し振りだなリリ」
「べ、ベジット様ッ!? え、ど、どうしてリリは外に? え?」
しかも目の前にはベジットが初めて会った時と変わらない笑みを浮かべて佇んでいる。突然の状況に頭が追い付かないリリルカにベジットは笑って頭を撫でる。
「今まで良く頑張ったな。後は俺に任せて休んでろ」
何もかもが分からない。今自分に何が起きたのか、これから何が起きようとするのか、リリルカ・アーデは分からない。
ただ、一つだけ言える事があるとすれば……。
「………どうして、ですか?」
「ん?」
「どうして、ベジット様はリリを相手に其処まで出来るんですか?」
ただ、疑問をぶつける事しか出来なかった。
「リリは役立たずな小人族です。愚図で、ノロマで、冒険者様達に迷惑ばかり掛けているお荷物……いいえ、寄生虫です」
助けてくれるのは同情か、憐れみか。何れにせよ強者特有の驕りでしかない。
「ベジット様は偽善者です。リリの様な子供は他にもいるのに、リリだけを特別扱いする。酷い人です、女誑しです!」
「おいこら」
いつ俺が女を誑かした。そんなベジットの言葉も今のリリルカには届かない。
「私は、私には、ベジット様が手を差し伸べる価値が無いんです。だから、だから……!」
嘘だ。
初めて人の温かさを知り、初めて人の優しさを知った。
こんな言葉なんて言いたくなかった。恩を仇で返す態度なんてしたくなかった。
それでも過去の自分が、もう一つの自分の本心がリリルカを傷付けるなと叫んでいる。
同情もいらない、憐れみもいらない。ただ意味もなく優しくするのは止めてくれと、荒んだ彼女の心が表面に出た拒絶反応。
だから、もう自分には構わないで欲しい。そんな、リリルカの心の叫びを聞いて。
「───確かに、リリの言う通り偽善かも知れないな」
ベジットは、それでも笑って受け入れた。
「こんな事をするのは俺が強いからと言うのも間違いじゃないし、現に余裕もある。リリ、お前の言うことは間違いじゃなく、正しく真実その通りだ。……でもな」
「お前を助けたい。お前とまた冒険したいのも、本音なんだ」
いつの間にか、リリルカの視線に合わせるようにベジットは膝を折って視線を合わせる。
「リリは、こんな俺とまた冒険してくれるか?」
「っ! そんな、そんなの……」
卑怯だ。狡い言い回しをしてくるベジットにリリルカの眼から涙がこぼれ落ちる。
「冒険したいです。リリは、リリはまだベジット様に恩を返せていません!」
「恩なんていらないさ。お前はただ、お前らしく冒険すればいい。一緒にダンジョンを攻略しようぜ」
「はい!」
号泣するリリルカの頭を撫で、抱きついて来るリリルカの背中を撫でる。その様子は父娘の様で、中継を通して目にしている神々の何柱かは貰い泣きしていた。
すると、城の方から騒ぎが聞こえてくる。どうやら自分達に気付いた様だ。本来なら迎え撃つ筈の城壁から此方を見て指差しをしてくる。
「さて、そろそろ始めるか。リリ、少し下がって待ってろ」
「ベジット様!」
「ん?」
「あなた様の勝利を、願っています!」
「ハハハ、おう。任せろ」
両手を結び、まるで巫女の様に祈っているリリルカにベジットは笑って応える。
一歩、二歩と進み、要塞の城の前に立つ。城門が開かれ、中からソーマ・ファミリアが押し寄せてくる様子を、ベジットは不敵な笑みを浮かべて見据えた。
「さて、子供が応援してくれたんだ。張り切って応えてやらなきゃな」
幾つもの剣を振り下ろし、炎やら雷やら撒き散らしてくる。一つでも当たればダメージは免れない状況で、それでもベジットは揺るがない。
そして……。
「ハァァァァァ───」
力を溜める。全身に力を込め始めるベジットに呼応し、大地が震え出す。
突然の地震に狼狽え始めるソーマ・ファミリア。だが、ベジットの力を溜める余波はオラリオ中へ広がり、それはただ中継を眺めていた人々と神々にも伝わっていく。
ミアハもディアンケヒトも、ヘファイストスもフレイヤも、ヘルメスにロキも、アストレアも、ベジットに関わる人と神がその様子に他の神々と一緒に度肝を抜かれる中。
「───やっちゃえ、ベジット君」
ヘスティアだけは、変わらず己の眷族を応援していた。
そして……。
「ハァァァァ────ダァッ!」
金髪に碧眼、黄金の炎を纏う超ベジットが顕現する。
その姿に、神々は慄いた。その異様に人々は仰天した。
神も人も目が奪われ、正も邪も言葉を失った。ただ一人、ベジットだけは震え上がっているソーマ・ファミリアを見て不敵に笑っている。
「さぁ、とっとと終わらせてやるか」
手を上へと掲げる。指を伸ばし、手刀の形へ変えるベジットに誰もが不思議に思ったのも束の間、瞬く間に伸びていく光。それはまるで剣の様で、伸びる勢いは何処までも続いていく。
軈て、要塞全てを覆う迄に巨大化した光の剣。命の危険を感じたソーマ・ファミリアはそのまま転進して逃げ出すが……。
「見せてやるよ。コイツが超ベジットの───【スピリッツ・エクスカリバー】だ!!」
振り下ろされた光の剣。鋭く、速く振り抜かれたその一閃は、要塞をまるごと両断し。
一瞬、世界が
刹那、要塞を中心に光が溢れ、爆発。
天地を揺るがす大爆発、その余波はオラリオ全土に広がり。
この日、ソーマ・ファミリアは壊滅した。
Q.これ、ソーマ・ファミリア死んだ?
A.お前の出番だぞ、アミッド!
「ひっぱたきますよ?」
Q.今回の話で何人の脳が焼かれてる?
A.ヒントつ狼人
後は……剣姫ちゃんとか?(笑)
次回、眷族二人目。