ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今年最後の投稿です。
皆様、良いお年を。


そんな訳で初投稿です。


物語23

 

 

 

 ヘスティア・ファミリアとソーマ・ファミリアによる戦争遊戯(ウォーゲーム)から既に三日が経過。

 

 あの日、ベジットが見せた超サイヤ人の姿は神も人も問わず、オラリオに住まう全ての存在がその眼に焼き付け、三日経った今でもその反響は凄まじい事になっている。

 

平時は黒髪黒目な普通の人間(ヒューマン)が、突然金髪碧眼へと姿が変われば、神も人も驚くのは当然だろう。

 

戦争遊戯直後のオラリオの賑わい様はそれは凄まじく、一時は周辺諸国から何事かと伝令が届く程だったとか。

 

 他にも二つの派閥の勝敗を賭け事に費やしていた者達は阿鼻叫喚の地獄絵図を描き、それはもう酷い有り様だったとか。

 

賭けに参加していた人数もさることながら、潤沢な資金で魔剣をかき集めていたソーマ・ファミリアに懸けていた者は『ノーカン! ノーカン!』と騒ぎ、ヘスティア・ファミリア……いや、ベジットの強さをある程度察していた者達は『所がどっこい現実です!』と、煽り散らかしていた。

 

 剰りにも酷い有り様だったので、ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアが総出で鎮圧に掛かったのは此処だけの話。

 

 そして、そんなオラリオのあちこちで今も騒ぎが続いている中、渦中の中心人物であるヘスティア・ファミリアはと言うと……。

 

「ヘスティア、リリ、準備出来たかぁ?」

 

「ちょっと待ってー! ……よし、綺麗におめかし出来たね。リリ君!」

 

「あ、ありがとうございます、ヘスティア様!」

 

 未だ騒ぎが収まらないオラリオとは違い、彼等の本拠地(ホーム)である廃教会は穏やかな朝を迎えていた。

 

「ったく、朝からボーッとして、そんなにリリの抱き枕が心地良いのかよ」

 

「だってー、リリ君てば凄い温かいんだもん。ついつい寝坊しちゃうのも仕方ないだろー」

 

「はぁ、リリも嫌なら嫌ってちゃんと言えよ? その駄女神、甘やかすとすぐ調子に乗るんだからな」

 

「い、いえ! リリはヘスティア様には本当に良くして貰っているので!」

 

「くー! なんて良い子なんだリリ君は! ベジット君も少しはリリ君を見習って、僕を甘やかしてくれよー!」

 

「コイツ、早速調子に乗りやがって!?」

 

 リリルカという少女と過ごして少し、既に自分の眷族のつもりでいるヘスティアは、今もリリルカに抱きつき、小人族(パルゥム)特有の小柄な身体を堪能している。

 

 普段からロリ巨乳と神々から揶揄されているだけあって、自分よりも小さなリリルカに親近感を抱いているのだろう。

 

「やーい。ベジット君の高長身ー、仲間外れー」

 

「本当にひっぱたいてやろうか?」

 

 朝から煽ってくるヘスティアにいい加減雷を落とそうか悩むベジットだが、運が良い事にこの掛け合いは途中で中断する事になる。

 

近付いてくる幾つかの気配、それが見知ったものだと分かると、ベジットは溜め息を吐いてそちらに視線を向ける。

 

「よぉ、朝からお疲れさん。【象神の杖(アンクーシャ)】」

 

「全くだ。誰かさんが派手に暴れてくれたお陰で、我々はこの三日マトモに休めていないんだぞ。……お早うございます、女神ヘスティア。そしてリリルカ・アーデ」

 

「や、お早うシャクティ君。ホントごめんね、ウチのベジット君が迷惑掛けて」

 

「お、お早うございます!」

 

 都市派閥の中でも上位に位置するガネーシャ・ファミリア。その団長から直々に挨拶してくるのは、リリルカ・アーデのこれ迄の生活の中で初めての出来事。

 

つい言葉がたどたどしくなってしまうが、そんなリリルカに気にもせず、シャクティは変わらない笑みを彼女に向けた。

 

「では、本日はこれよりヘスティア・ファミリアの皆様をソーマ・ファミリアの本拠地まで護衛させて戴きます。準備の方は宜しいか?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。お手洗いは既に済ませてある」

 

 今日は、リリルカ・アーデの改宗(コンバージョン)の日。ソーマ・ファミリアとの戦争遊戯に勝利したヘスティア・ファミリアはリリルカの身柄と、ソーマ・ファミリアの内部調査を要求。

 

今日は、その両方が執り行われる日。自分の古巣との別れの日を前に、リリルカ・アーデはヘスティアの手を握り。

 

 ヘスティアもまた安心させる為にリリルカの手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、やってきたソーマ・ファミリアの本拠地。道中で神々が懲りずにベジットの勧誘を強行してきたり、とある戦車の猫が勝負を挑んできたりしてきたが、それら全てをベジットが一蹴。

 

死屍累々を大通りに築きながら辿り着いたソーマ・ファミリアの本拠地は、他の派閥に比べれば地味で一見すればオラリオでも見慣れた物件の一つではあった。

 

が。

 

「うっ、これは……」

 

「酷い臭いだな。ちょっとキツイかも……」

 

 内部へ踏み入った瞬間、充満した酒の臭いがヘスティア達の鼻腔を擽る。

 

「リリ、ほれ。これで口元を塞いどけ」

 

「あ、ありがとうございます。ベジット様」

 

「ヘスティアも」

 

「ありがとうベジット君」

 

 予め用意していた綺麗な布切れをリリルカとヘスティアに手渡す。その際、ベジットから僅かばかりの怒気をヘスティアは感じ取ったが、次の瞬間には気のせいだと思える程にベジットの態度は平静だった。

 

 取り敢えずそのまま進むことにした。通路を進みソーマの酒造室の扉の前に辿り着いたヘスティア達は、遂にその扉を開ける。

 

中から感じられるのは先程以上の酒気にヘスティア達の顔が歪む。

 

 そして、部屋の中心にその神はいた。

 

「………誰だ?」

 

乱雑に伸びた髪。目元も見えず、衛生面が欠片も感じられないその風貌は、酒の神というより貧乏神の類いに見える。

 

「私はガネーシャ・ファミリアの団長シャクティ・ヴァルマ。此方はヘスティア・ファミリアの方達です。本日は戦争遊戯の敗者としての責務を全うして貰うため、参上しました」

 

 オラリオの秩序を担う長としての口上。しかし、ソーマは一瞥すらせず、相変わらず自身の手元にある酒壺を見下ろしている。

 

「……ザニスを通せ、全てはアイツに任せてある」

 

「ザニス・ルストラは、オラリオの公序良俗に反した疑いに伴い、此方で身柄を拘束しております。他の眷族も同様です」

 

「そう言えば、静かだな。酒を作るのに集中できて良かったんだが……はぁ、仕方がない」

 

 深い溜め息と共に、漸く此方に身体を向ける。その眼は何物も映しておらず、ただ無気力な瞳が此方を見つめていた。

 

「………それで、俺に何の用だ?」

 

「リリルカ君の改宗だ! さっさとリリルカ君を解放しろ!」

 

「ヘスティア? 下界に降りていたのか?」

 

「其処からかよ!?」

 

 ワザとなのか天然なのか、ソーマの悪意なき(・・・・)振る舞いにヘスティアのツッコミが炸裂する。

 

無気力無感情な顔付きとは違い、纏っている雰囲気は悪くない。このまま事が済むまで穏便に話が進めば良いのだが……。

 

(問題は、ベジットの方だ)

 

 チラリと隣に視線を向ければ、腕を組んで沈黙しているだけのベジットにシャクティは内心で冷や汗を滝のごとく流している。

 

ベジットの人柄は先の闇派閥との戦いで知り得たし、彼が無闇に力を振り翳す者ではない事も知っている。

 

 けれど、戦争遊戯で腕の一振で一つのファミリアを壊滅に追い込んだのも、また事実。幸い怪我人こそいても死傷者は出ていないが………それだけ(・・・・)

 

ソーマ・ファミリアの殆どは派閥からの脱退を懇願し、冒険者には戻らず只人に戻る事を選んでいる者が殆どで、脱退を望んでいる全ての眷族が一種の恐慌状態に陥ってしまっている。

 

中でも団長であるザニスの有り様は酷い。光に呑まれ、光の中に消えていく事を体験したザニスは、戦争遊戯の日からずっと廃人に近い状態で今もディアンケヒト・ファミリアのベッドで介護を受けている。

 

 尚、大抗争に続き送られてきた二人目の廃人にアミッドもブチ切れているのは割愛とする。

 

(彼が普段は温厚な人物なのは私も知っている。しかし……いや、だからこそ怒った時(・・・・)は何よりも恐ろしい!)

 

 聞けば、ソーマの無関心にベジットは一度キレ掛けたらしい。あの時は女神ヘスティアがいたから怒りに我を忘れたりする事はなかったが、それでも雰囲気の変わった彼にアーディもライラも戦慄したという。

 

 闇派閥との戦いで第二級(Lv.4)の上澄みへ到達した二人、そんな二人がベジットの人柄を知りながら怖いと言ったのだ。

 

もし、万が一ソーマの振る舞いがベジットの逆鱗に触れてしまったら……周囲一帯は消し炭になる。Lv.5の自分でも、止められる自信は皆無だ。

 

圧倒的力。他の神々は知らないがベジットを知る一部の派閥はベジットの予想を大きく越えた実力に驚いている。

 

 故に、ギルドもそんなヘスティア・ファミリアに対して慎重にならざるを得ず、今もどのようにして接触するか迷っているのだ。

 

(頼む、頼むから早まった事をしないでくれよ!?)

 

 静かにソーマを見下ろしているベジットが、却って恐ろしい。こんな事ならロキ・ファミリアの誰かを道連れに連れてくるんだったと、シャクティ・ヴァルマは後悔した。

 

「それで、結局俺に何がさせたいんだ?」

 

「だーかーらー! リリルカ・アーデ君の改宗(コンバージョン)だよ! 彼女は僕のファミリアに移籍させるんだ!」

 

 隣のリリルカに抱き付き、これでもかと撫でくり回すと、漸くそちらにソーマの視線が向けられる。暫く向けられることの無かった主神の関心、緊張しながら一歩前に出るリリルカは……。

 

「リリルカ、いつの間にそんな大きくなったんだ?」

 

「ッ!」

 

 何気なく呟いたソーマの一言に、足が止まる。

 

 泣きそうで、怒りそうで、でもこの無関心なソーマに何を言っても無意味だと子供ながら思い知ったリリルカは、表情を二転三転歪めると、うっすらと笑みを浮かべた。

 

「……ソーマ様、本日はお別れを言いに来ました。リリをソーマ・ファミリアから脱退させて下さい」

 

「──────」

 

 仮令(たとえ)無関心であろうと、両親を失ったばかりの自分を育ててくれたのは目の前の主神だ。恩を感じる事はあっても、恨むのは筋違いだろう。

 

若干八歳の子供が抱くには剰りにも惨い諦観、自分の主神が今の今まで自分には無関心だった事実は、リリルカの心を本人の自覚なく傷付けた。

 

これには、流石のヘスティアも怒りを顕にする。

 

だが……。

 

「ほれ、さっさと済ませてくれよ。これから俺達には祝勝会が控えてんだ。街の連中も五月蝿ぇしよ」

 

 軽い口調でそう溢したのはベジットだった。

 

「………誰だ、お前は?」

 

「テメェん所の団員をブチのめした男だ」

 

「─────そうか」

 

 自分達の眷族を倒されたと言うのに、やはりソーマは揺るがない。

 

その後、リリルカ・アーデはソーマに改宗可能な状態にして貰った事で、無事にヘスティア・ファミリアへと移籍を果たした。

 

 これで、ソーマ・ファミリアとの因縁は決着が付き、ヘスティア達もソーマの酒蔵から出ようとするが……。

 

「───なぁ、帰る前に一つ質問してぇんだがよ」

 

「………なんだ?」

 

「お前、何しに下界に降りてきたワケ?」

 

 去り際の一言、リリルカの知るソーマなら碌に返事をしないだろうが。

 

「………神酒を造るためだ」

 

 意外なことに、ソーマは応えた。

 

「神酒ってこれ?」

 

 そして彼の手には赤い付箋が張られた瓢箪がいつの間にか握られていた。共通語で神酒と書かれ、やっぱりそうかと蓋を開けたベジットは、周囲が反応する前に一気に呷る。

 

「ちょ、ベジット君!?」

 

「何を!?」

 

 下界の人類(子供達)では一瞬にして酩酊し、一種の洗脳状態になってしまう神酒(ソーマ)。それを一瞬にして飲み干したベジットは……。

 

「────なんか、言う程味気ないな。これなら前に呑んでたほろ◯いの方がまだ旨かったぜ」

 

 ポイッと乱雑に捨て、完全に興味を無くしたベジットはみんなと一緒に部屋を後にしようとするが、先程までの態度とは異なり、驚いた様子のソーマがベジットを呼び止めた。

 

「ま、待て!」

 

「あぁ、なんだよ酒代かぁ? そんなの戦争遊戯(ウォーゲーム)勝者の特権という事で」

 

「そんな事はどうでも良い! それよりもお前は、なんともないのか?」

 

「何が言いてぇんだよ」

 

「………俺の酒を呑んだ眷族(子供)は、みんな堕落した。だが、お前は違う。お前となら、俺は最上の神酒(ソーマ)を!」

 

「丁重にお断りする。そもそも、眷族達は堕落したんじゃねぇ、堕落させた(・・・)んだろうがよ。言葉は正しく使え」

 

 ベジットから見て、ソーマ・ファミリアの団員達は主神ソーマのある意味で被害者とも言えた。ソーマが酒造りにしか関心がなかった為、ファミリアは団長のザニスが私物化し、眷族達を体のいい使い捨ての道具にした。

 

眷族同士で蹴り落とし、神酒の為なら他人だって利用し、蹴落としていく。彼等の実態を考えれば下手な闇派閥(イヴィルス)より質が悪いかもしれない。

 

「碌に眷族を見もしねぇで一方的に見限りやがって、自分のやってることが闇派閥並みに酷い事をしてるって自覚してるのか?」

 

「……………」

 

「都合が悪くなると黙りか。つくづく癪に障るなテメェは」

 

 下界に降りて、人類と触れあった事で変わった神も存在する。中でも女神ロキはその最たる例だろう。

 

天界では大層な悪タレで知られた彼女も下界の人類達(子供達)に触れ、知った事で今ではスッカリ人類に夢中な面白い神になっている。

 

 かの正義の女神が言う程にロキは変わった。けれどその一方で変わらない神もいる。不変であるがゆえに、変わる必要も意味も知らない……今のソーマの様な神が。

 

「酒を造りてぇなら一人でやれ。これ以上犠牲者を出させるな」

 

 酒造りに固執し、酒造り以外に関心の無いソーマに贈られるその言葉は、神には計り知れない重みがあった。

 

 それを最後にヘスティア・ファミリアはソーマ・ファミリアの本拠地を後にし、リリルカ・アーデも一度だけ頭を下げた後、二度と振り返る事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから更に数日。街の喧騒も漸く収まり、表面上は何時もの日常を取り戻した。

 

夜明けと共に本拠地を出て、復興の金槌の音を耳にしながらダンジョンに向かって歩く二人。

 

 ベジットとリリルカは戦争遊戯のゴタゴタも終わり漸くダンジョン探索へと乗り出した。

 

「さて、久し振りの探索だ。張り切ってやろうな」

 

「はい!」

 

 あれから、リリルカの口からソーマ・ファミリアに関する言葉は出さなくなった。あの時に本当の意味であの神を見限ったのか、それともまだ心の何処かで拠り所にしているかは定かではない。

 

けれど、隣で笑うリリルカの笑顔も初めて会った時と比べて随分自然体になったと思う。

 

 ただ、それでも………仮にも()眷族(子供)の前で貶すのはやり過ぎたなと、ベジットは反省する。

 

「ベジット様?」

 

そんなベジットの普段は見せないしおらしい様子を、リリルカは持ち前の鋭さで察知する。

 

 やはり、この娘は聡い。ベジットはこれ以上誤魔化すのは却って不誠実だなと、本心をさらけ出す事にした。

 

「その、悪かったなリリルカ。仮にも()をその……悪く言って」

 

「あぁ、そんな事を気にしてたんですか」

 

「そんな事ッ!?」

 

 予想に反して呆気らかんとしているリリルカに、ベジットは眼を剥いた。

 

「確かにソーマ様の無関心さにはドン引きしましたけど、今のリリはヘスティア・ファミリアの一員ですからね。知ったこっちゃねー! って感じですよ」

 

「知ったこっちゃって………」

 

「良いんです。結局あそこにはリリの居場所はありませんでしたから……」

 

 でも、と。過去と決別するようにリリルカは一区切りを於いて。

 

 

「今のリリには、最強無敵のベジット様とヘスティア様がいますから、平気へっちゃらです!」

 

 そう言って笑うリリルカ・アーデは、やはり年相応の女の子だった。

 

逞しいな。改めてこの世界の人達の強さを噛み締めながら、ベジットは進む。

 

 迷宮都市オラリオ。今日もベジットは新たなワクワクを求めてダンジョンに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ベジット!」

 

「あれ、アイズ? リヴェリアも……今日って何か約束してたっけ?」

 

「その、それなんだがな………」

 

「ベジット、今日は私とダンジョンに行こ!」

 

「んなッ!? 後から出てきて何を言っているんですか! ベジット様はリリと冒険するんです! 他所様の派閥は引っ込んでて下さい!」

 

()ッ! ベジット、あの光の剣教えて!」

 

「アイズ様はロキ・ファミリアでしょうが!」

 

「私はベジットの先輩だからいいの!!」

 

「どういう理屈ですか!?」

 

 ダンジョンを目前に、ベジットの腕を引っ張り合う幼女達。朝から元気な彼女たちにベジットは早くも匙を投げ捨てた。

 

「あ、あのアイズたんが同年代の幼女と戯れている。────尊ッ!!

 

「どうしたいきなり」

 

 迷宮都市オラリオは今日も元気です。

 

 

 

 

 

 

 

RESULT

 

 

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

 

 

Lv.1

 

力 :I9

 

耐久:I10

 

器用:I25

 

敏捷:I12

 

魔力:I5

 

《魔法》

 

【シンダー・エラ】

 

変身魔法。

 

体格が大体同じなら、どんな姿にでも変身が可能で変身像は詠唱時のイメージに依存し、具体性が欠如していた場合は失敗する。

 

詠唱式: 【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

 

解呪式:【響く十二時のお告げ】

 

【】

 

【】

 

《スキル》

 

縁下力持(アーテル・アシスト)

 

一定以上の装備過重時における能力補正がかかる。能力補正は重量に比例する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、僕の眷族は何時だって驚かせてくれるなぁ」

 

 二人を見送り、一人教会に残っていたヘスティアは一人愚痴る。

 

 彼女の手に握られた一枚の用紙、そこには新たに眷族となったリリルカのステイタスと能力が事細かに綴られていて。

 

その中には一つだけ、無理に消した様な奇妙な空欄があった。

 

《スキル》

 

憧憬追走(リアリス・フレーゼ)

 

早熟する。

 

想いが続く限り効果持続。

 

想いの丈により効果上昇。

 

 あの日、黄金の炎を纏い金髪碧眼のベジットにリリルカ・アーデは憧憬を抱いた。

 

恋慕? 否、最早狂信とも呼べる“それ”は彼女にどんな未来をもたらすのか。

 

「これも下界の可能性、か」

 

 相変わらず零能たる自分には未来なんて到底分からない。

 

けれど、これから起きる未知にヘスティアもまたワクワクするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────竜の谷。

 

 迷宮都市の遥か北の大地。辛酸を舐め、泥を啜り、命からがら逃げ出した敗北の記憶がアルフィアの脳裏に甦る。

 

マキシム(最強)を殺し、女帝(最恐)を殺し、ゼウス・ヘラ(自分達)の悉くを踏み砕いてきた忌まわしき【黒き終末】の住処。

 

 自分達では勝てないと断言し、失意に沈み自らを次代の英雄に託そうと、一度はその身を薪に変える腹つもりでいた。

 

 嘗ての分岐点。自分達の、世界の行く末を決めた決戦の大地は……。

 

「なんだ………これは」

 

 見る影………処か面影すらない、アルフィアの記憶とは剰りにもかけ離れた世界が広がっていた。

 

 谷だった絶壁は半分近くが砕けて視界が広がり、遥か彼方の地平線が見える。というか、まるで丸く抉られた様な痕が地平の彼方まで続いている。

 

そこには嘗て身を置くだけで蝕まれる瘴気はなく、蔓延る竜の姿は何処にもなかった。

 

「これが、竜の谷……だと?」

 

 その光景にザルドは呆然としていた。そうなるしかなかった。

 

黒竜を封じていた結界も無ければ、黒竜の姿自体が見えない。

 

 あれだけの暴威を振り撒き、自分達を絶望の底へ叩き落とした奴がいない。ここにあるのは、黒竜と黒竜が戦った誰か(・・)がいたという痕跡のみ。

 

そして、その誰かにアルフィアは既に目星が付いていた。

 

「く、ククク……」

 

「アルフィア?」

 

「アハハ、アーハッハッハッ!」

 

 突然の笑い声。病が治り、すっかり見た目相応の女帝と化したアルフィアは、声を張り上げて笑い出す。

 

長い付き合いのザルドでも、初めて見たアルフィアの姿に別の意味で唖然としていると……。

 

「なんだ……これは」

 

 先程のザルドの焼き増しかな? 新たに聞こえてきた第三者に振り返ると、獅子の鬣の様な髪の青年が愕然とした様子でそこにいた。

 

「お前は………【海の覇者(リヴァイアサン)】の時にいた小僧か」

 

「【静寂】!? ……アルフィア、さんか。生きていたのか」

 

「俺もいるんだがな」

 

「【暴食】……」

 

「フフ、あの時のクソガキが、随分としおらしくなったな。確か……今は“学区”で教鞭を執っているんだったか?」

 

「そういう貴女は随分と顔色が良さそうだ。一時は死んだモノかと思っていたが……いや、今はそれよりもだ」

 

 獅子の青年とアルフィアとザルド、共に浅からぬ因縁がある両者だが、今は其処に追求するところではない。

 

 獅子のごとき青年が気に掛けているのは、目の前の有り得ざる光景。

 

「結界が消え、黒竜も消えている。一体竜の谷に何が起きたと言うんだ」

 

「……………」

 

 瘴気にまみれ、厄災が眠る破滅の終点地。しかし今はその面影はなく、地形そのものが変わってしまっている今の竜の谷は、谷というより爆心地に近い。

 

特に、遥か地平の彼方まで続く抉れた痕は何なのか。目測だけでは測りきれない破壊規模。周囲一帯………いや、この大陸そのものが消し飛びかねない程の戦いがあったのではないかと、青年は思考を巡らせる。

 

 しかし、有り得るのか? これだけの破壊を、黒竜と対を成す程の怪物が今の世界に存在していると? 

 

レオン(・・・)

 

「ッ!」

 

 思考の海から引き上げる凛とした声。顔を上げれば灰色の髪の女性が、眼前に広がる光景を両眼を開けて見つめている。

 

「済まないな。お前達に託す筈だった負債は奴に奪われてしまった」

 

「奴? ……まさか、知っているのか!? これをやった存在を!!」

 

「あぁ、それもごく最近に、な。奴から見て私達はさぞかし滑稽に映ったろうよ」

 

 それまで紳士然と振る舞っていたレオンと呼ばれた青年だったが、今はなりふり構わず、まるで気性の荒い獅子のようにアルフィアに食って掛かってしまう。

 

そんな自分をすぐに糺すが、それでも言葉に出来ない焦りがレオンの胸中を掻き乱す。

 

「レオン、オラリオに行け。【黒き終末】、黒竜を屠った者(・・・・・・・)を知りたければな」

 

「ッ!?」

 

 遂に口にしたザルドからの一言に今度こそレオンの紳士の仮面が剥がされる。

 

黒竜。【黒き終末】にして【生きた厄災】。三大冒険者依頼(クエスト)を阻んだこの世界最大の脅威。

 

 それが、人知れず倒されている。その事実にレオン・ヴァーデンベルクの脚が震える。

 

それは恐怖か、それとも未知への好奇心か。レオンの顔を見たザルドは………フッと笑みを溢した。

 

「……さて、私はもう行くとしよう。ザルド、お前はどうする?」

 

「ここまで来た以上俺も付き合うさ。あの馬鹿の……俺達の息子の顔もいい加減見ておきたいしな」

 

「待ってくれ!!」

 

 もうここには用がない。因縁も、感傷も、何もかもが吹き飛ばされたこの地で、見るべきものはなにも無いと、嘗ての最強達はその場から立ち去ろうとする。

 

そんな二人を呼び止めて、レオンは最後に訊ねた。

 

「教えてくれ! そいつの、黒竜を倒した奴の名を!!」

 

 教鞭を執る者として有り得ざる行為。しかし、それでもレオンは知りたかった。誰も成し得なかった偉業を、この世界を終らせる破滅機構を破壊した怪物を、今すぐにでも確かめたかったから………。

 

「────ベジットだ」

 

「ベジット………っ!」

 

 アルフィアから教わったその名を忘れまいと反芻すると、レオンは二人に一礼し、すぐにその場を後にした。

 

「良かったのか?」

 

ザルドは訊ねる。

 

「なに、確かに我々はもうオラリオの地を踏み入れぬ身ではあるが………別に、あれこれ教えるなとは言われていないだろう?」

 

「あ、はい。そうですね」

 

 うっすらと眼を細めて妖艶に微笑むアルフィア。素人が見ればその美貌に見惚れるだろうが、これ迄何度もその恐ろしさを間近で見てきたザルドとしては寒気しか感じない。

 

この女、やはりしてやられた事を根に持っていやがった。

 

(これ、後で絶対拗れる奴じゃん。俺、知ーらね)

 

 クツクツと笑いながら先行くアルフィアに、ザルドは荷物を抱え直し付いていく。

 

 死する筈だった二人の旅路は、澄み渡る青空が広がっていた。

 

 

 

 





Q.なんかリリ助に変なスキル生えてね?

A.目の前で金髪碧眼の超サイヤ人が自分を助ける為だけにその力を奮う。
普通に脳が焼けますね(笑)

ですが、本人はサポーターを自負していますので、現時点ではそこまで影響はないかと。(1ガバ)

Q.なんかフラグ立ってね?

A.そ、そそそそんな訳……



次回、狼。

「ベジット、俺と勝負しろやぁ!」

「いや誰?」

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