ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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新年、明けましておめでとうございます。

そんな訳で初投稿です。


物語24

 

 

 

 ソーマ・ファミリアとヘスティア・ファミリアの戦争遊戯(ウォーゲーム)から早1ヶ月。神々の熱狂は徐々に下火と化し、ヘスティア・ファミリア本拠地(ホーム)への人類達(神々含む)の突撃も少なくなってきた頃。

 

 ヘスティア・ファミリアは新たな眷族であるリリルカ・アーデと共にダンジョンへ探索に出ていた。

 

 ───ダンジョン17階層。

 

 通称《嘆きの大壁》と呼ばれる階層。上層を超え、上位の冒険者がパーティーを組んで挑むとされている領域。

 

 迷宮の楽園(アンダー・リゾート)に続くその階層は、主である巨人──ゴライアスが番人の如く現れる場所でもあった。

 

レベルに換算すれば第二級(Lv.4)相当の階層主、単独(ソロ)で挑むには自殺行為に等しく、多くの冒険者がパーティーを組んで討伐するとされている怪物。

 

 第一級の冒険者を除けば脅威的な存在であるゴライアスなのだが……。

 

「あれま、もう終わりかよ。呆気なかったな」

 

ベジットの振るった拳一つで敢えなく撃沈。壁に寄りかかり、胸元にある大きく空いた孔に手を添え、自分に何が起きたのか理解出来ていないまま、巨人(ゴライアス)は呻き声一つ出せないまま塵となって消えていった。

 

 ベジットから会敵して、僅か五秒の出来事である。

 

「あ、しまった。魔石を回収するの忘れてた!」

 

「仮にも階層主を一撃で倒しておいて、第一声がそれですか」

 

 後ろから呆れた様子で小人族(パルゥム)の少女が歩み寄ってくる。自身の体よりも大きい荷物入れ(バックパック)を背負うリリルカは、アチャーと片手で顔を覆って上を見上げるベジットに苦笑する。

 

「イヤだってさ、仮にも階層主(ボス)が一撃とか俺だって予想していなかったよ」

 

 これなら正邪決戦の時、18階層で見掛けた黒蜥蜴の方がまだ手応えがあったと、ベジットは内心で溢す。

 

「………ベジット様って、下級冒険者(Lv.1)なんですよね?」

 

「おう、レベル1のオールIだぞ」

 

 フレイヤ・ファミリアをノシた後も、ソーマ・ファミリアを叩き潰した後もステイタスの更新をしてみたが、相変わらず何一つ変動しておらず、スキル欄にある【瞬間移動】がポツンと寂しく書かれているだけである。

 

何なら、表記上だけなら既にリリルカ以下である。

 

「アッハッハ! どうしよう、俺このまま万年Lv.1なのかな」

 

「あ、一応気にしてはいたんですね」

 

「いやな、アレンに言われたんだよ、この詐欺野郎って。酷くない?」

 

第一級冒険者(Lv.6)を片手でノシているベジット様が言っても、あまり共感できませんよ」

 

「そうかなー」

 

「そうですよ。……それよりも、これからどうします? 一応ギルドからは自由に探索する許可はあるんですよね?」

 

「まぁ、ねぇ……」

 

 それは戦争遊戯から一週間後の朝、何時も通りリリルカと共に上層でチマチマと日銭を稼ごうとダンジョンへ向かっていた時だ。

 

やけに肥えたエルフ、ギルド長のロイマン・マルディール。全体的に丸いシルエットをした脂の乗った彼が、何名かの護衛を引き連れて自分達の本拠地へとやってきたのだ。

 

 やたらと上から目線でエルフ特有の傲慢さが目立つ男だが、何故かその目元は黒い隈が出来ていて、胸元辺りを抑えていたのが印象的だった。

 

 ロイマンの話を聞く限りだと、本来なら派閥のランクから見てヘスティア・ファミリアにはダンジョン探索への制限が掛けられている所だが、先の戦争遊戯でベジットの戦闘能力を見て、ヘスティア・ファミリアに限り特例としてその制限を解除する。という内容だった。

 

 とは言え、今の所許されている階層は下層までであって、それ以降への探索への許可はまだ検討中だとの事。

 

迷宮都市オラリオが始まって以来の異例。故にこの特例を知るのはヘスティア・ファミリアだけであり、オラリオを混乱させない為に吹聴する事は固く禁じられている。

 

 つまり、ヘスティア・ファミリアはより潤沢な資金を得られる機会に恵まれたと言うことだ。

 

但し、かめはめ波や先の戦争遊戯で見せた大規模破壊攻撃は極力控えるように釘を刺されている。

 

 さて、そんな訳でベジットが下した決断は……。

 

「いや、今日の所は一先ず此処までにしよう。18階層以降への探索はギルドからの講習を受けてからだな」

 

「ベジット様って、意外と勤勉ですよね」

 

「一言余計だ」

 

 揶揄してくるリリルカの頭を乱雑に撫でる。ガシガシと男性特有のゴツゴツした手ではあるが、それでも人らしい温かさのある手に触れられ、リリルカも満更でもない様子だった。

 

(それに、リリルカの事を考えると……ちょっと躊躇うよな)

 

 リリルカ・アーデのステイタスはベジット同様殆どが最低値(I)である。レベルも1、そんな少女を連れて中層以降を連れていくのはベジットとしても躊躇われた。

 

 サポーターは冒険者の落伍者というが、そんな事を言ってられない理不尽がこれから先待っているかもしれない。知り合いの冒険者が言うには、ダンジョンは常に悪意で満ちていて、その悪意でもって冒険者を殺しに掛かるのだとか。

 

 如何に自分が最強無敵のベジットでも、自分の強さを理由に幼いリリルカを巻き込んで良い訳がないし、何よりリリルカの成長的にも良くないと思える。

 

ならばどうするか。考えるベジットだが、答えは一つしか出なかった。

 

「────なぁリリ」

 

「は、はい。なんでしょうかベジット様」

 

 相変わらず“様”付けは抜けないか。改めて名を呼んでくるベジットにリリルカも姿勢を正す。

 

「俺の弟子にならないか?」

 

「なります」

 

 少しは躊躇をしても良いのではないか? 喰い気味に返事をしてくるリリルカにベジットは少しだけ気圧された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてダンジョンから無事に帰還した二人は、そのままギルドへの換金所へ直行。ドロップアイテムは少しだけ財産として手元へ残し、他の全てを金銭に変える。

 

金額は総額130万ヴァリス。これ迄の探索を含めれば既に3000万以上の資金を稼いだことになる。

 

しかし。

 

「こんだけあるお金が、三割近くベジット様の胃袋に収まるんですよねー」

 

「申し訳ない」

 

 遠い目をするリリルカにベジットは平謝りする他なかった。事実、ベジットはかなりの健啖家で胃袋の許容量は店の材料を喰い尽くしても腹八分目になる程度。

 

 その分の食費を賄っている事から、ヘスティア・ファミリアの懐事情は実はそこまで明るくはない。

 

とは言え、一つの店の食材を喰い尽くす事を引き換えに、要塞城を一撃で吹き飛ばす力を引き出せる事を考えれば、安い出費かもしれない。

 

……いや、割高か。

 

「お、おいアイツ、ベジットじゃないか?」

 

「本当だ。【光剣(フォトン・ブレイド)】のベジットだ」

 

「あれ? 【黄金闘士(ゴールド・セイント)】のベジットじゃなかったっけ?」

 

「俺は【超戦士(スーパー)】のベジットって聞いたけど?」

 

 何やら周囲から好奇の視線と自分に関する話がされている気がする。何となく居心地が悪いため、ベジットは早いところギルドから出ようとするが……。

 

「ちょっとベジット、アタシへの報告がまだなんだけど……」

 

「げっ、ローズ……」

 

 受付から聞こえてくる気怠げだが芯の通った声、恐る恐る振り返れば、赤い髪の狼人(ウェアウルフ)の女性が、やはり怠そうにベジットを見ている。

 

「随分ご挨拶ね。散々アタシを悩ませてくれたアンタが、良い御身分だこと」

 

「そ、そんな怒んなよ。それに報告ったって特に変わった事なんて無かったぞ」

 

 ダンジョンには時として異常事態(イレギュラー)が起こり、場合によってはオラリオの存続にも影響しかねない重大案件に繋がる事もあり得る。

 

だからギルドには常日頃から冒険者にはダンジョンでの出来事を可能な限り報告するよう促してくるのだ。

 

「アンタ、今日は何処まで潜ったの?」

 

「17階層」

 

「────階層主は?」

 

「倒した。弱かったぞ、アイツ」

 

 何なら道中の罠みたいな仕掛け(ギミック)の方が個人的には楽しめたな、と呟くベジットに対し、ローズは頭を抱えた。

 

「最早、アンタの存在自体が異常事態(イレギュラー)ね」

 

「そこまで言う?」

 

「仕方ありませんよローズ様、ベジット様はミノタウロス相手にスモウ? なる取っ組み合いをするイカレポンチですので」

 

「なにそれ知らない。詳しく」

 

「お、おいリリ」

 

 まさかの後ろからの攻撃、自分の弟子になる娘からのまさかの裏切りにベジットは顔をみるみる青褪めていく。

 

こんなんでもリリルカはベジットに対し《スキル》に反映させる程に心底崇拝しているのだから、子供と言うのは不思議な生き物である。

 

 その後、モンスターで遊ぶなと言う至極全う(?)なお説教を受けた後、二人は解放されてギルドを後にする。

 

「さて、少しトラブルがありましたけど、これで漸く“アレ”が買えますね。ベジット様」

 

「あぁ、そうだな」

 

 ダンジョン探索も今日は終り。本来の目的のブツを求め、二人はオラリオの喧騒へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「ただいま帰りました。ヘスティア様」

 

「おぉ、お帰り二人ともー!」

 

 そうして本拠地の廃教会に戻ってきた二人は、主神であるヘスティアに迎えられ、帰路に就く。

 

満面の笑みで迎え入れたヘスティアは小さなリリルカに抱き付いて今日の成果を訊ねた。

 

「二人とも、今日は何処まで潜ったんだい? もう下層まで行ったのかな?」

 

「流石にそこまではまだ行ってねぇよ。リリルカの事もあるし、取り敢えず17階層の所で引き返してきた」

 

「17階層って、確か階層主ってのがいなかったかい?」

 

「あぁ、いたな」

 

「ベジット様の一撃で沈みましたけどね」

 

「くぁー、やっぱり強いねベジット君は。僕も鼻が高いよ」

 

「お陰でギルドから目を付けられているっぽいけどな」

 

 実際、担当のローズからは「早く引退したいなぁ」なんて愚痴を聞かされている。

 

「それよりも……はい! どうぞヘスティア様!」

 

「え、え、なんだい急に?」

 

 ダンジョンでの話もそこまでにして、リリルカは自身の荷物入れから一つの袋を取り出してヘスティアへと手渡す。

 

何だ何だと不思議に思いながら袋を開けると、中には一着のドレスと一対の髪飾りが同封されていた。

 

「こ、これって?」

 

「ホラ、ヘスティア様の髪留めのゴム、だいぶ傷んでいましたよね? 髪が引っ掛かると言っておられましたし、これからヘスティア様は神会(デナトゥス)に出たりと多忙な身の上になるかと思い、これを機会にと………ベジット様が」

 

「ベジット君が?」

 

 意外……とまでは言わないが、それでもベジットからこう言った贈り物を初めて受け取ったヘスティアは、驚いた様子でベジットを見る。

 

不思議そうに見つめてくるヘスティアに、ベジットは照れ臭そうに頬を掻いて視線を逸らした。

 

「……まぁ、ヘスティアは一応俺達の主神だし。こう言うのは付き合いの長い俺が提案するのが筋だろうし、お前からは一度このイヤリングを貰ったしな」

 

 そういってチリンとベジットのイヤリングが鳴る。

 

「因みに、ドレスの方は私が選びました! ヘスティア様は処女神という事で派手すぎず、装飾品の少ない清楚系で選ばせて戴きました!」

 

「サイズの方もリリが見繕ってくれたからな。多分、着ても大丈夫だと思うぜ」

 

 ヘスティア・ファミリアはこれ迄の稼ぎで潤うという程の余裕は無いが、貧乏という程金銭に困ってはいない。

 

リリルカの几帳面な性分のお陰もあって、節約出来る所はしてるヘスティア・ファミリア。お陰でウチの主神も多少の見栄は張ることが出来るだろうと、安心したのも束の間……。

 

「う、うぅ~……」

 

「お、おいヘスティア?」

 

「ど、どうかしましたか?」

 

 俯いたまま微動だにしないヘスティアに戸惑っていると、顔を上げたヘスティアの顔は涙と鼻水でグシャグシャになっていた。

 

「ベジット君、リリルカ君。僕は、僕はぁ、なんて幸せな神なんだ」

 

「え、えぇ~…」

 

「まさかのガチ泣きぃ?」

 

「だって、だって! 僕は二人に、な”に”も”じでい”な”い”の”に”! こんな、こんなぁ……ウワァァァンッ!!」

 

 様子がおかしかったのは号泣するのを堪えていた為。それが決壊し、大号泣するヘスティアに二人の眷族は顔を見合せ苦笑いを浮かべる。

 

「良いじゃねぇか。俺だって自分のやらかしでお前には迷惑掛けてんだ。その礼くらいはさせてくれよ」

 

「そうですよ。リリもお二人には助けて貰いましたし、これからも迷惑を掛けるかもしれませんから、お相子ですよ、ヘスティア様」

 

 だから気にするなと、そう笑う二人にヘスティアは遂に感極まり……。

 

「ウワァァァッ!! 二人とも、大好きだよぉぉっ!!」

 

「のワァッ!? コラ、行きなり抱き付く奴があるかぁ! 俺の一張羅がぁッ!?」

 

「涙が、は、鼻水が、リリの頬にぃッ!?」

 

 二人を巻き込む様に抱き付き、顔をグリグリと押し付ける。処女神であるヘスティアに出来る最大限の愛情表現なのだろうが、涙と鼻水まみれの顔でやられても二人に取って罰ゲームでしかない。

 

それでも無理矢理引き剥がそうとしない辺り、二人の眷族もそれなりにヘスティアの事を好いていた。

 

 尚、ヘスティアの体液で服がグチャグチャになった為、二人はこの後着替える羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、酷い目にあったぜ」

 

「本当ですよ。ヘスティア様、喜んでくれたのはリリ達も嬉しいですけど、愛情表現は程々にして下さいね!」

 

「うへへ~。ご、ゴメンネ二人とも」

 

 夜遅くもあり、夕飯は外で済ませようと二人と一柱は夜のオラリオを往く。世界の中心とも呼ばれる街だけあって、繁華街には人々と神で賑わっている。

 

「というか、ベジット様の服って同じのがあったんですね」

 

「これはあくまで替えの服さ。ヘファイストス様の所で見繕って貰った奴より丈夫じゃないからな。デザイン以外別物だぞ」

 

 幸いダンジョン用の衣服は近くの水辺で洗えた為、明日には乾いている頃合いだろう。

 

「さて、今日は階層主を倒した記念って事で、ヘスティアもリリも遠慮なく食って呑んでくれ」

 

「うぉー! ありがとうベジット君! 愛してるぜぇー!」

 

「あ、でもリリはお酒はまだ控えような。お酒は二十歳になってからってな」

 

「………前々から思うんですが、ベジット様のその価値観は何処で培ったんです?」

 

 8歳の子供が価値観とかよく知ってるね。なんて頭を撫でて誤魔化しながら街を歩くこと数分、目当ての酒場【火蜂亭】へやってきたベジット達。

 

味も悪くなく、値段も手頃だからと中に入ろうとウエスタン扉に手を掛けた……その時だ。

 

「ギャァァァッ!?」

 

 店の中から悲鳴と共に一人の冒険者が吹き飛んでいく。咄嗟に避けるベジットだが、冒険者の方は地面を何度も跳ねながら転がっていく。

 

幾ら冒険者の街でも治安悪くない? すわガネーシャ案件かと、二人を背にベジットは店の中を見ると………灰色の髪が特徴的な狼人がゲラゲラ笑いながら酒を呷っていた。

 

その灰色の狼人の周辺には何人もの冒険者が同様に床に転がっていた。

 

「ギャハハハハハ! 見てみろよ今の雑魚の惨めな姿を! まるで蛙じゃねぇか!」

 

 明らかに冒険者同士の喧嘩、しかもどうやらあの人数を一人でやったらしい。

 

「お、おい。【凶狼(ヴァナルガンド)】の奴、今日も荒れてるぞ」

 

「これで何回目だよ。いい加減自重してくれよ。第二級冒険者が暴れるとか、俺達じゃどうしようも出来ねぇよ」

 

 周囲の声を聞けば、どうやらあの狼は余程の問題児らしい。周囲を巻き込む冒険者とか巻き込まれる人間からすれば堪ったものではないのだろう。

 

「ど、どうするベジット君?」

 

「流石に此処で入店するのは……気が引けますね」

 

「一応、他にも候補があるからそっちに行くか? 多少値は張るけど最近評判の良い【豊穣の女主人】って店があるんだけど……」

 

 

 瞬く間に散っていく周囲の人々、ワザワザ問題ごとに首を突っ込む必要はないと、ベジット達も早々にその場から立ち去ろうとするが………。

 

「………おい」

 

 なんか、声を掛けられた。

 

振り返れば先程まで呑んでいた狼人が、扉を開けて仁王立ちして、目を見開いてこちらを見ている。

 

「テメェ、ベジットか?」

 

「確かに俺はベジットだが……そう言うお前は誰だ?」

 

 第二級冒険者と言うから、Lv.は3~4程度の実力者なのだろう。しかし悲しいかな、ベジットの記憶には目の前の狼人の情報は欠片も存在していなかった。

 

「灰色の髪の狼人……ベジット様、恐らくあの方は【灰狼(フェンリス)】のベート様かと思われます」

 

「お、詳しいなリリ」

 

「は、はい。職業柄冒険者様の名前と二つ名は覚えるようにしていますので」

 

 相変わらず物知りなリリ、そんな彼女にご褒美に頭を撫でていると、目の前のベートなる狼人が声を荒らげる。

 

「人の前でイチャついてんじゃねぇぞ三下がァッ!」

 

「おっと、コイツは失礼」

 

 彼女の境遇が今までアレだったから、ついつい甘やかしてしまう。リリルカをヘスティアに預けると、ベジットは改めてベートへ向き直る。

 

「それで、そのベート某が俺に何の用だ?」

 

「…………」

 

 向こうが用事があるみたいだから用件を訊けば、今度は狼人が押し黙り、グルルと唸りながらベジットを睨んでくる。

 

 いやなんもないんかーい。と、内心でツッコミ入れて溜め息を吐くと共にその場から立ち去ろうとして……。

 

「………ハッ、女連れて仲良く外遊とは。随分と調子が良さそうじゃねぇか、えぇ? 【黄金戦士(ゴールデン・ウォーリアー)】さんよ」

 

「なんだ羨ましいのか? お前だって自分のファミリアがあるんだろ? 其処で好きな女でも囲って豪遊したら良いじゃねぇか」

 

「─────」

 

 ベジットとしては軽口を返しただけだが、相手にとってはそうでもないらしい。途端にベートの顔色が変わり、周囲の人間も引いた様子で蒼褪めている。

 

空気が重くなっていくのを感じたベジットは、周囲を見渡す。すると、同じく顔を蒼褪めたリリルカが、チョイチョイと手招きをしてくる。

 

「な、なぁリリルカさんや。俺、なんか不味いこと言った?」

 

「その、ベート様の元いた派閥ヴィーザル・ファミリアは先日……事実上の解散になったそうで、彼の主神様も今はオラリオから半ば追放という形で出ていってしまっているのだとか」

 

「ゲッ」

 

 そう言えば、なんかどっかのファミリアが壊滅したという話をギルドの講習で耳にしたような記憶がある。いや、あの時は中層の仕掛け(ギミック)やら出てくるモンスターの習性やら特徴やらを夢中になって調べてたから、余り他所様の事情に気に掛ける余裕はなかったっけ。

 

 思わず失言しちまった。いやでも先に挑発してきたのは向こうだし、此処はお互い様として見逃して貰え───。

 

「ベジット様!」

 

 瞬間、ベートの鋭いハイキックがベジットの頚を捉えた。第二級冒険者(Lv.4)の蹴り、並みの人間なら首から上が吹き飛ぶ威力。

 

しかし。

 

「今のは俺の失言を吐いた事へのお返しという事で見逃してやる。だが………」

 

「ッ!?」

 

「これ以上やるって言うなら………覚悟しろよ?

 

 無傷。それ処か意にも介していないベジットから、溢れるように滲み出る怒気に圧され、ベートは大粒の汗を流してその場から後ろへ跳躍。

 

冷や汗もダラダラと流し、心音も煩い程に高鳴っている。こんな事、ダンジョンを潜る時でもこうはならなかった。

 

(クソが、最初は只人(ヒューマン)程度にしか見えなかったのに、今では階層主を相手にしているみてぇだ!)

 

 当然ながら、ベジットの発する威圧は相手に合わせたモノになっている。何せこちらはただ外食に出歩いているだけ、余計なトラブルは避けたいのが今のベジットの心境だ。

 

けれど。

 

「………ハッ、テメェは良いよな。それだけ強けりゃあ何も失うモンはねぇだろ?」

 

「あ?」

 

「この世界は理不尽だ。弱い奴から死んで強い奴だけが残される。弱者が淘汰される世界でお前だけは失わずに生きていける。あぁ、そりゃあ楽しいだろうよ、嬉しいだろうよ。テメェの周りには何時だって大切な奴がいるんだからよ!」

 

「お前……」

 

 ベート・ローガの慟哭。酒に酔った影響か、無意識な発露か。すっかり人気が無くなった通りで吠える目の前の彼は雨露に打たれた傷だらけの狼に見えた。

 

大切な人を失い続けてきた孤狼。それでも、彼の眼は多少濁っていてもその輝きは失っていなかった。

 

きっと、今の彼は迷っているだけなのだろう。派閥から抜け、それでもオラリオに拘るのはベート自身が強くなる事を諦めていないから。

 

 だから、ベジットは少しだけ余計なお世話をする事にした。

 

「悪いヘスティア、リリ、少しだけ時間をくれ」

 

「………ベジット君って、意外と面倒見が良いよね」

 

「だから、一言余計だ」

 

 慈愛の笑みを向けてくるヘスティアにベジットもまた笑みで応える。リリルカと共に後ろへ下がるヘスティアを見ると、ベジットは改めてベート・ローガへと向き直った。

 

「………なんの、つもりだ?」

 

「なにって、強くなりたいんだろ? 良いぜ、相手してやるよ」

 

「っ!」

 

 見透かされた自身の本心。悔しくて、何でもお見通しな不敵な笑みを向けてくるベジットにひたすら苛立ちが募ってくるが………それでも、このどうしようもない気持ちをぶつけられる相手が出来た事に、ベートの口元は無意識に歪む。

 

「そら、来いよ。相手してやるぜワンころ」

 

「ブッ殺す」

 

 しかし、それはそれとして目の前の男は気に入らない。心底気に入らないが……挑んでいる最中のベート・ローガは、この瞬間の間はあらゆる苦悩から解放されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────男は、強くなりたかった。

 

 何もかもを奪う不条理から、全てを踏みにじる理不尽から。己を、己を慕う弱者を護る為に、ただそれだけの為に────男は、強さを求めた。

 

 けれど、自分が護りたかった妹は、家族は、恋人は、その悉くが自身の手からすり抜けて溢れ落ちていった。

 

弱い自分が許せなくて、奪ったモンスターよりも、奪われた自分自身に殺意を抱いた。

 

 どれだけ自分が強くなっても、世界は容赦なく自分の大切な人達を奪っていく。奪われ、護りたくても護れない弱者を、ベートは突き放す事でしかその術を見出だす事が出来なかった。

 

護りたい。けど、自分では護れない。だったら遠ざける事だけがベート・ローガに出来る最後の“守護”であった。

 

けれど……。

 

(あぁ、解ってるよ。ンなことしても何も護れやしねぇって事くらい)

 

 結局は自己満足。護れない自分に見切りを付け、その負債を弱者に押し付ける………弱い自分のみっともない抵抗。

 

けれど、アイツなら、あのベジットなら、全部を護りきる事が出来るかもしれない。

 

 あの日、正邪決戦の時のように、巨大な光でモンスターを葬った時。

 

 あの日、たった一人の少女を救い出す為に一つのファミリアを一撃で粉砕した時。

 

何れも、あの男は不敵な笑みを浮かべていた。この世の理不尽を、不条理を笑って圧倒して見せた。

 

 あの黄金の姿が、ベート・ローガにはとても眩しく見えて……。

 

『ベート、アタシ達だってアンタを護りたいんだ』

 

(あぁ、解ってる。解ってるさ。───セレニア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、ベジット様は本当に人が良いですよね」

 

「なんだよ急に」

 

 翌日、早速始まった二人の朝の鍛練。どうにかこうにかやり遂げたリリルカはベジットの背中におぶさりながら、昨夜の事を語り出す。

 

「あのまま放置すれば良かったのに、わざわざディアンケヒト・ファミリアまで送っただけじゃなく、治療費まで支払って。少しあの狼人に甘過ぎると思います!」

 

「良いじゃねぇか、大した額じゃなかったし。それに、アミッドだって褒めてたぞ。あなたが相手にしたとは思えない程丁寧に壊されてますねって!」

 

「それ、褒めてないです。呆れられてます」

 

 実際、ベート・ローガの怪我は手足の骨が折れている程度のダメージしかなく、アミッドの手に掛かれば一晩で治せるだろう。

 

精神的にも追い詰めていないし、あくまでベートが満足するまで相手してやった程度。これには流石のアミッドも怒りはしなかったと、ベジットは語る。

 

 尤も、相変わらず怪我人を寄越してくるベジットにアミッドは相当怒りを募らせているのだが………本人は知らない。

 

「それに、またあの狼人が絡んできたらどうするんですか? また昨晩みたいに相手をするのですか?」

 

「んー、それは別にどっちでもいいんだけどな」

 

 挑んでくるのなら相手をしてやる。既にフレイヤ・ファミリアの某猫戦車は突発的に襲ってくるのだ。一人くらい増えた所で今さらではある。

 

それに……。

 

「多分、アイツとは違う形で逢うことになる────と」

 

 足が止まる。本拠地まであと少しの所で足を止めたベジットにリリルカが不思議に思い顔を上げると……。

 

「ゲッ」

 

「─────」

 

 昨夜の狼人、ベート・ローガが相変わらず不機嫌な様子で自分達の本拠地前に佇んでいた。

 

 そして、向こうも此方に気付き、向き直る。身体中に至る所に巻かれた包帯が痛々しさを増しているが、本人は気にした様子はなかった。

 

「よぉ、随分元気そうじゃねぇか」

 

「…………」

 

「ちゃんとアミッドには礼を言ったか? アイツ一度怒らせるとしつこいからよ」

 

「…………」

 

 ベジットが気さくに話しかけても、ベートは何も応えない。昨夜の憎まれ口も、凶暴な雰囲気も鳴りを潜め、その目はまるで此方を何か見定めるような鋭い目線だけを向けてくる。

 

「………なぁ」

 

「あん?」

 

「テメェの下にいれば、俺は強くなれるのか?」

 

 漸く口にした言葉は、強くなる事への渇望。その態度は相変わらず高圧的だが、リリルカには彼の姿が何処か少し前の自分と重なって見えた。

 

「さぁな。お前が何処まで強くなれるかなんて、俺には解らんよ。そんなモノは全てお前自身に掛かっている。そうだろ?」

 

 それはそうだ。解りきっている応えにベート・ローガは口を噤むが……。

 

「だから、どうする?」

 

「ッ!?」

 

 逆に訊ね返すベジットにベートは目を剥いた。

 

 その顔はあの時と変わらない不敵な笑み。何処までも挑発的で、何処までも不遜な大胆不敵なベジットの笑み。

 

その彼が言っている言葉を、正しく理解した【凶狼】は……。

 

「俺を、ヘスティア・ファミリアに入れやがれ。損はさせねぇ、テメェにはいつか、必ず! 吠え面かかせてやる!」

 

 笑った。牙を剥き出しにし、今にも襲ってきそうな凶暴な狼。

 

その後ろをベジットとリリルカが見れば、いつの間にか外に出ていたヘスティアが、笑顔でグッと親指を立ててくる。

 

 ならば、自分から言うことはない。

 

「ヘッ、やってみな。出来るもんならな」

 

 この日、ヘスティア・ファミリアへ新たに凶暴な狼が参入した。

 

 

 

 

 





Q.ベジットの二つ名はどうなるの?

A.まだ決まっておらず、その為一部の神々から好き勝手言われている模様。(笑)



次回、ロキ・ファミリア。






オマケ。


その頃のベル君。その1


「ね、ねぇお義母さん」

「なんだ?」

「これ、重たいんだけど……?」

「あぁ、特注で作らせた亀の甲羅だからな。これからはそれを背負って生活してもらう」

「死んじゃうよ!?」

「何を言う。英雄になりたいんだろ? この程度の試練、笑って乗り越えろ」

「最初のハードルが高過ぎる!!」

「───チッ、ゼウスの糞爺め、またいらん知識をベルに与えたな。後でこの力の実験台にしてやる」

「ねぇ待って、それ近くの岩を粉微塵にした奴でしょ!? ダメだよお義母さん! お祖父ちゃんが死んじゃうよ」

「寧ろ殺す。……それよりも、自分の心配をするんだな。これからお前は寝る時以外この甲羅を外すのは許可しない。破れば………解っているな?」

「ひ、ヒイィィッ! 助けてお祖父ちゃん! ザルド叔父さん!」

「済まない。済まないベル! 偏にワシ等が弱いせいじゃ!」

「アイツ、今は恩恵ないんだよな。何であんなに強いの?」

 以上、クラネル家の平穏な日常でした。

「何処が平穏!?」



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