ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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もうすぐドカバト10周年。

激つよベジットorゴジータ来ないかなぁ。

そんな訳で初投稿です。


物語26

 

 

 

 ────リリは、このままで良いのだろうか。

 

 救われて、護られて、前と違って大切に扱われているリリは───確かに幸せで、恵まれているのだろう。

 

 ヘスティア・ファミリア。主神たるヘスティア様の庇護の下、リリは新しい生活を送るようになった。

 

ヘスティア様は慈悲深くリリを迎え入れ、夜の時は何時もリリを抱き締めてくれます。

 

 最近新たに眷族となったベート様も、口は悪いけど何だかんだリリを見ていてくれます。

 

 そしてベジット様は………優しい。ヘスティア様の様に慈悲深く、けれど間違いを正してくれる厳しさもあります。

 

きっと、父親と言うのは本来ベジット様の様な人なのでしょう。面倒見が良く、落伍者と罵られ、罵倒されてきたリリにとって、ベジット様は私にとって……。

 

 だから思う。リリは、リリルカ・アーデはこのままこの人達の優しさに甘えるだけで良いのだろうか。

 

強くなる為の術理を教えられ、何もかもがベジット様達のお膳立ての上で進む未来。

 

 …………イヤだ。

 

 イヤだ。イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!

 

 リリは! リリルカ・アーデはお人形じゃない! 何もかもお膳立てをして貰わなければ何も出来ない子供じゃない!!

 

 アイズ様やティオナ様、ティオネ様みたいにリリだってファミリアの皆の助けになりたい!

 

 無理をするなと撫でる手の暖かさが心地よくて/その暖かさが苦しくて。

 

 大丈夫かと、差し伸べる手が嬉しくて/その優しさが辛くて。

 

 お前なら出来ると、信頼の言葉に胸が高鳴って/その期待が重たくて。

 

 ────だから。

 

()は証明したい。彼のように、あの人の様に。強く、鋭い槍の様に』

 

 リリは証明したい。私も、強くなれるんだって。あの日、()に焼き付いた黄金の炎を眼にした時から。

 

『ならば、どうする?』

 

 力の使い方も、出し方も、全てを教わった。なら、全部リリのモノにするだけだ。リリの様な非力な小人族(パルゥム)が強くなるには、何もかもを費やすしかない。

 

だから!

 

『お前の力、リリに寄越せ!』

 

 ────笑う。リリと良く似た影はリリを嘲笑うのではなく、ただ優しく笑っている。

 

その眼は、宝石の様に紅く輝いていて。

 

『元より、これはお前の力だ。精々使いこなせ、彼の───遥か遠い背中を、追い続けたいのなら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────、お………リ………リ!」

 

「………ぁ、ぅ?」

 

「リリ!? 良かった、目の色も戻ってるな」

 

「よ、良かったぁ! リリ君良かったよぉぉぉ!!」

 

 意識が戻ったリリルカが最初に目にしたのは、ヘスティア・ファミリア本拠地の地下、ベッドの上で仰向けになっていたリリルカは、自分の顔を覗き込んでいたベジットとヘスティアに困惑していた。

 

「いやー、マジで助かったぜミアハ様。リリを看てくれて、本当にありがとう」

 

「良いのだ。偶々近くを通ったモノでな、有り合わせのポーションが役に立ってくれて何よりだ」

 

「今回の代金は後で必ず支払うよ。本当にありがとう、ミアハ」

 

「あぁ、いや。別に代金を戴こうとは……」

 

「テメェは仮にも一派閥の主神なんだろうが。発生した対価くらいキチンと受け取っとけ」

 

 口は悪いが遠慮がちなミアハにはちょうど良いのだろう。一瞬だけ目を丸くさせるミアハだがベートの言葉の意味を理解した男神は嬉しそうに微笑み。

 

「ベジットとリリルカ・アーデに続き、善き子を眷族にしたな。ヘスティア」

 

「うん! 三人とも自慢の眷族()さ!」

 

 医神らしき長髪の男神の言葉からして、どうやらまた自分は何か迷惑を掛けたのだろう。朧気な記憶の中で必死に思い出そうとしたリリルカは……。

 

「っ! ベジット様、リリはッ!?

 

 全て思い出し、謝ろうと身を乗り出して………全身に走る激痛に悶えて言葉を詰まらせる。

 

「あわわわ、駄目だよリリ君、まだ動いちゃ!」

 

「そうだ。お前全身から血がブッシャーって噴き出したんだぞ、無茶すんな」

 

 事実、正気を失っていたリリルカは全身から血を流しながらもベジットにその槍を突き立ててきた。

 

尤も、それが隙となりアッサリと避けたベジットの手刀が彼女の頸にチョコンッと当て身をして、意識を絶つことができたのだが……。

 

「ウム、今は全身が酷い筋肉痛でキツイだろうが、二、三日大人しくすれば回復するだろう。それでは、痛み止めは置いておくのでお大事に。何かあればまた来てくれ」

 

「ありがとうミアハ!」

 

 リリルカも目が覚めて、いよいよ自分のやるべき事は無くなったとミアハは痛み止めの薬をヘスティアに預けると最後まで笑みを浮かべたままヘスティア・ファミリアの本拠地を後にする。

 

 流石の神格者。ヘスティアの友神らしい優しい医神に感謝しつつ、ベジットは近くの椅子に腰掛けた。

 

 来客用の椅子やらを片付け、リリルカの痛みが引いて落ち着いた頃、改めてヘスティアが話を切り出した。

 

「それでリリルカ君、君は自分に何が起きたのか覚えているかい?」

 

「は、はい。少し欠けている部分もありますが………大体は覚えています」

 

 ポツリポツリと話し始めるリリルカ。その話の内容は昨日の交流会にまで遡る。

 

「ベジット様から教えて頂いた“気”の体験を経て、リリはリリなりに気を体得しようとしました」

 

「それはやっぱり、さっきの槍の素振りの時にか?」

 

 ベジットの問いにリリルカは少しの間を置いて頷いた。

 

「力を引き出そうと、半ば瞑想状態………だったんだと思います。昨日の感覚を思い出そうとして、ベジット様の教えに従い、自分の内側にあるという“気”を引き出そうとしたら……」

 

「あんな風になっちゃったと?」

 

 今度はヘスティアの問いにリリルカは頷いた。

 

「うーん、これはやっぱり一度ステイタスを見た方がいいね」

 

「ん? 何でだ?」

 

「《スキル》か《魔法》、何れかが発現したんだろうよ」

 

「知っているのかベート!?」

 

「それやめろ」

 

 ステイタスを更新した方が良いと言い出すヘスティアにベジットは疑問に思うが、どうやらベートは知っているようだ。

 

「噂で耳にした程度だが、冒険者は魔道書を読み込んで覚えるだけでなく、過去の体験やトラウマが原因で発現する事もあるらしい。不確かな情報だがな」

 

「マジで? じゃあ、この場合リリは………なんでだ?」

 

「俺が知るか」

 

「兎も角、一旦二人とも外に出ていてくれ。リリ君、少しずつで良いから動けるかい?」

 

「は、はい」

 

 ヘスティアに促され、一旦外へ追い出される二人。そう言えばリリルカのステイタス更新は改宗(コンバージョン)以来だなと溢す。

 

「………もう、いいーよ」

 

 そして、待つこと数分。何だか掠れた声で呼んでくるヘスティアを不思議に思いながら部屋へと戻ると、唖然とした様子のリリルカとヘスティアが魂が抜けた様子でベッドに座り込んでいた。

 

「おいどうした。何があった」

 

「愉快な銅像みたいになってんぞ」

 

 ム○クの叫び見たいな顔になっているヘスティア。彼女から差し出されるステイタスが刻まれた用紙を受け取ったベートがそれを見ると……。

 

「ッ!?」

 

 その目を驚愕に剥いて驚きを顕にする。

 

「な、なんだ? 何が書いてあるんだ?」

 

 仲間達の様子に戦々恐々となるベジットが、恐る恐るベートが握る用紙を横から覗き込むと……。

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

Lv.1

 

力 :S980

 

耐久:SS1050

 

器用:SS1080

 

敏捷:SSS1245

 

魔力:S950

 

 

 

 なんか、メッチャ増えていた。

 

「お、おぉ、なんかメッチャ増えてんな」

 

「それだけじゃねぇ、魔法を見てみろ」

 

「うん?」

 

 魔法、そう言えばリリルカには魔法が一つあったなと、ベートに言われるがままに魔法の欄を見てみると。

 

 

 

 

《魔法》

 

槍の戦乙女(ナイツ・オブ・フィアナ)

 古の力を引き出す。

 全アビリティ超上昇補正。

 単騎の時に更に高補正。

 

デメリット1:肉体の限界を超えた時、自身にダメージが蓄積される。

 

デメリット2:狂化される。(耐性により緩和される)

 

 

 詠唱式:【謳え、槍の狂気。来たれ、戦の女神】

 

 解呪式:【戦は、此にして終い】

 

 

 

 なんかメッチャ書かれていた。

 

「………うん、なんかメッチャ書かれてんな」

 

 

「いや感想浅ッ!?」

 

「浅はかが過ぎんだろ」

 

「そこまで言う?」

 

 ヘスティアとベート、双方からのツッコミに泣きたくなる。

 

「ていうか、魔法変わってね? 前は………シンダーエラとか、そう言う名称だったろ?」

 

「そうだね。………どうやら、リリルカ君の魔法は今のモノに変化された様だ」

 

「そうなのか?」

 

「知らねぇ、俺に聞くな!」

 

 どうやら熟練のベートから見ても中々に類を見ない現象らしい。フム、とベジットは改めてリリルカのステイタス表をベートから受け取り、じっくりと見ると……。

 

「成る程な。つまり………成長期って事か

 

「「絶対違う」」

 

 最早既定路線なのだろう。ベジットの結論にヘスティアもベートも疲れてそれ以上何も言わなかった。

 

「切っ掛けは……やっぱ気を修得しようとした時か」

 

「なんか古代の力を引き出すとか書いてあったし、もしかしなくてもバレたら面倒な事になる?」

 

「なるね。確実に」

 

 リリルカが自ら気を修得しようとして思わぬ結果を招いてしまった。頭を悩ますヘスティアだが、対するベジットはそこまで深刻に考えることはなかった。

 

「まぁでも、書いてある限り其処まで悪いモノでは無いんじゃねぇか? デメリットだって、要は使い所を間違えなきゃ良いだけだしな」

 

「で、ですが狂化という異常ステイタスが付与されます! またベジット様達に迷惑が……」

 

「いやいや、耐性による緩和って書いてあんじゃん。つまり、使えば使う程この魔法はお前に馴染む様になるんじゃねぇのか?」

 

「で、ですが!」

 

 どうやら先の暴走が余程リリルカに堪えた様だ。このままでは折角出来たリリルカの強みが消えてしまいかねない、どうしたモノかと悩んだのも束の間。

 

「ハッ、ガキが。強い魔法を手に入れたらすっかりその気か?」

 

「べ、ベート様……」

 

「テメェ如きのガキが何をしようとも俺に敵うわけねぇだろうが。碌に使いこなせねぇバカが、雑魚は雑魚らしく、折角できた浮き輪(魔法)にしがみついとけ」

 

「ッ!」

 

 最悪の悪態。ベートの容赦の無い言葉にリリルカはショックを受けるが、ヘスティアは言葉の裏にあるベートの優しさを汲み取って微笑み……。

 

(ちょっとツンデレ過ぎない? なんて、口に出すのは野暮かな?)

 

(野暮過ぎるから絶対言わないでね!)

 

 コテコテ過ぎるツンデレなベートにベジットはヘスティアの言う通り揶揄しないで静観を決め込んだ。

 

 ただ、言葉の通り受け取ってしまったリリルカはすっかり消沈してしまう。そんな彼女の気持ちを掬い上げようと、ヘスティアはパンッと両手を叩いて場の空気を変える。

 

「っと、そうだ! 今回のステイタス更新でリリ君、君は無事にランクアップが出来る様になりました!」

 

「……ランク、アップ?」

 

「おぉ、マジか。凄いじゃねぇかリリ」

 

「─────」

 

 ランクアップ。その言葉を耳にしたリリルカは先ほど迄の沈んだ顔色から一気に歓喜のモノへと変えていく。

 

 冒険者にとって何よりも求めるモノ、ランクアップを果たせば器は昇華され、更なる強さを手に入れると聞く。

 

一度は目指し、そして早々に諦めたリリルカの夢。それが今一度自分の目の前に置かれた事実にリリルカは歓喜を通り越して頭の理解が追い付いてこなかった。

 

 ただ、今度はベートの方が沈んだ顔色になるのを、ベジットは見逃さなかった。

 

「ヨシ、ならお祝いをしないとな」

 

「お、お祝い………ですか?」

 

「そうだ。折角ウチから最初の上級冒険者(Lv.2)が輩出されたんだ。此処は一つ派手にやらないとな。そうだろ、ヘスティア」

 

 なにやら意図のあるベジットの物言いにヘスティアは目を丸くさせるが、後ろに控えているベートの様子を見てそう言う事かと納得したヘスティアはそうだねと頷いた。

 

「そうだね。うん、それがいい」

 

「ただ、そうなると資金を集めなきゃいけねぇ。ちっとばかしこれからベートと一緒にダンジョンへ潜るから……リリ、少しの間ヘスティアと留守番しておいてくれ」

 

「あぁ? テメ、何を勝手に?」

 

「え、べ、ベジット様?」

 

「それじゃあ善は急げ、だ。一週間程ガッツリ潜るから、その間の資金は好きに使ってくれ」

 

「え、い、一週間!? ベジット様、一体何を!?」

 

 リリルカとベートはベジットの突然の言動に困惑するばかり、一週間もダンジョンに潜るとか、それはもうちょっとした遠征だ。二人、それもそのままダンジョンに向かおうとするベジットに、リリルカは止めようとするが………。

 

「ヘスティア」

 

 困惑しているベートの首根っこを引っ張り、本拠地を後にするベジット。

 

その際、一度だけヘスティアへ向き直り。

 

「なんだい?」

 

これから(・・・・)色々大変な事になるだろうが………ヨロシクな」

 

「安心しなよ、君と家族になった時からとっくに覚悟は出来てたさ」

 

 ベジットの意味深な言葉にもヘスティアは笑みを浮かべて了承する。そして、ベジットは困惑しているベートを連れてダンジョンへと向かうのだった。

 

 途中、ガネーシャ・ファミリアに一週間の本拠地(ホーム)の護衛を依頼して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからダンジョンを練り歩いて数時間。先のベジットの到達点である17階までやってきた。

 

「おい、どういうつもりだ。仮にも主神とチビガキをホッポリ出してダンジョン探索とか、なに考えてんだ」

 

 嘆きの大壁を半分まで進み、そこで漸く足を止めたベジットにベートは問い詰める。

 

しかし、ベジットはその質問に応える事はなく。

 

「ベート、お前から見てリリルカ・アーデはどう思う?」

 

「あぁ?」

 

「不幸な境遇に生まれた憐れな子供か? 弱い自分に甘んじる雑魚か?」

 

「……………」

 

 イケすかない。此方を一瞥し、相変わらず不敵な笑みを向けてくるベジットにベートは心底苛立ちを覚えた。

 

何故なら、それは他ならぬベート自身が抱いた思いで、同時に覆された事実でもあるのだから。

 

「………アイツは、確かに雑魚だ。誰にも逆らえず、これ迄誰かの言いなりだったあの小人族は吼える事も出来ねぇクソガキだ」

 

 けれど。

 

「だが、あの時のアイツは確かに吼えた。テメェに敵わなくても挑んで見せた」

 

 あの時、リリルカ・アーデは気概を見せた。荷物を運ぶだけの支援者(サポーター)ではなく、護られるだけの人形でもなく、自分達と一緒に戦えるという気概をあの朱く染まった目の奥で訴えてきた。

 

戦いの狂気に身を浸されていながら、あの小さな少女は抗って見せた。仮令(たとえ)、それがあの魔法の力のお陰だとしても。

 

「だったら、()()()()()()()()()

 

 自分より小さい少女がその力と覚悟を示したのなら、雄である自分が燻っている訳にはいかない。

 

己の眼光でそう訴えるベートにベジットはにこやかに笑って見せた。

 

「だよな。だからこそ、ここに来た」

 

「あぁ?」

 

「ベート、お前にはこれからここで俺と一週間修行してもらう」

 

「─────は?」

 

 いつもの不敵な笑みとは違う、まるで子供のような無邪気な笑みを顔面に張り付けて、いきなり変な事を言い出してきた。

 

「安心しろ。幸いすぐ下には迷宮の楽園(アンダーリゾート)がある。腹が減ったら飯を買ってきてやるし、お前が疲れて寝ている間は俺が見張ってやる」

 

「お、おい待て! テメェ、何を言って───」

 

「お前をランクアップさせる」

 

「ッ!?」

 

「気の基本を叩き込み、ある技をお前に教える。今出来る悉くを使いお前を……ウチの第一級(Lv.5)にする」

 

 したり顔で、なんて事ないようにベジットは語る。自分をランクアップさせると、ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアにしかいないような第一級冒険者の高みへ、この一週間で至らせると、目の前の男はそう言ってのけた。

 

ふざけている。馬鹿げている。そう言葉にするのは簡単で、ここから踵を返すのもまた簡単だ。

 

 けれど。

 

「だから、ベート」

 

『どうする?』

 

 その不敵な笑みを向けられてしまったら、他の選択肢なんて介在する余地は無かった。

 

「ンなの、決まってんだろうが!」

 

 一歩、踏み込む。目を見開いて牙を剥き出し、獲物を前にした捕食者の如き眼差しを受けて、ベート・ローガは地獄への片道切符を手に身を乗り出し。

 

「そうこなくっちゃな」

 

 ベジットもまたより笑みを深めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、ベート・ローガは地獄を見た。何度もボロ雑巾の様に地面を転がされ、何度も血反吐をぶちまき、何度も土の味を堪能するハメになった。

 

打たれ、蹴られ、吼えた所で牙ごとへし折られる。全身をズタボロにされ、その身体は痩せ細った狼の如くみすぼらしかった。

 

 時折り、行き交う冒険者達が血達磨になったベートを見て青褪めて17階層を走り抜けていく。今頃は変な噂がオラリオ中に広まっている事だろう。

 

 その後もあらゆる技がベートを襲い、壁や床、時には天井に叩き付けられたりもした。

 

 それでもベート・ローガの心が折れなかったのは、ベジットによる技を授けてくれた事と不思議な豆を事あるごとに食べさせられ、回復したお陰だろう。

 

どんなに酷い状態になろうと、その豆を食べれば忽ち回復する。体力も、傷も、魔力も、軒並み回復出来たお陰でベートは今日まで戦い抜く事が出来た。

 

 そして………。

 

「ヨシ、良い感じに仕上がったな」

 

「何がヨシだ。人を散々いたぶりやがって」

 

「良いじゃねぇか。お陰である程度気の感覚も掴めただろ?」

 

 一週間………いや、七日目の始まりを迎えたベートはカラカラと笑うベジットを恨めしく睨み付ける。確かにベジットの扱きのお陰で気というモノを理解できたし、何なら臨死体験も出来たりした。

 

「それに、身に付けているその防具だって俺が用意したんだぜ? 少しは感謝しても罰は当たらんだろ」

 

「これ迷宮の楽園(アンダーリゾート)のだろ? ボッタくられたんじゃねぇのか?」

 

 現在ベートが身に付けているのは迷宮の楽園(アンダーリゾート)で高値で売られている装備一式で、武骨ながらモンスターの高品質な素材を使用された特注の戦闘衣(バトルドレス)だった。

 

「いやそれがさ、彼処のボスのボールスって奴が格安で譲ってくれたんだよ。いやー、良い奴で助かったよ」

 

「…………」

 

 そう言えばと、ベートは微かに残るこの一週間の記憶を思い出す。確か一度、ドカンドカン五月蝿ぇと怒鳴り込んできた奴がいた。

 

 ソイツは自分………というより、自分を殴り飛ばすベジットを見て顔面蒼白となり、親しげに声を掛けてくるベジットにそれはもう酷く怯えていた。

 

 その後は二、三回程話をして納得してもらい、その後は例の豆を作るために冒険者の町(リヴィラ)へ繰り出したという。

 

その時に何やらちょっとしたトラブルがあったそうだが………気疲れしそうなのでベートはそれ以上考えないようにした。

 

「それで、これがテメェの考えたプランか?」

 

「いいや、仕上げがまだだ」

 

「?」

 

 一週間に及ぶベジットの扱き。文字通り血反吐を吐きながら行われたそれは、修行というより拷問に近かった。

 

だが、ベジットが時折食わせてくる豆のお陰で身体の調子は良く、寧ろ今は力が滾ってくる様だ。

 

 しかし、これでもランクアップを果たしたとは言い難い。確かにステイタスは向上しているかも知れないが、ランクアップには神々が認める程の偉業が足りていない。

 

そう疑問に思うベートだが、どうやらまだ次があるようだ。

 

「ならとっとと終わらせるぞ。いい加減帰らないとアイツ等が五月蝿ぇからな」

 

「それはお前次第だな。………ついてこい」

 

 言われて、そのまま18階層へ降っていく。この時、ボールスや多くの冒険者達が敬礼して見送ってきたのが気になったが、ベートはドンドン進んでいくベジットの後を追った。

 

そして、降りていく階層はそのままドンドン進んでいく。19階層から24階層まで連なる【大樹の迷宮】を瞬く間に踏破し、遂には25階層【巨蒼の滝(グレートフォール)】まで辿り着く。

 

 眼前に広がる大瀑布。巨大な滝が水飛沫を上げて落ちていく様は、ただ圧倒された。

 

 しかし、ここまで来てもベジットは止まる様子はない。………いや、崖の淵にまで迫って漸く足を止めた。

 

「ベート、ほれ」

 

「っと」

 

 投げ渡されたのはこれ迄何度も世話になってきた豆。

 

「それが最後の“仙豆擬き”だ。使い所、誤んなよ」

 

「おい、一体何がしたい……」

 

 抗議したかったのも束の間、いきなり自分を肩に担ぐベジットにベートは困惑した。

 

「て、テメェ、何を!?」

 

「暴れんなよー、舌噛むぞ」

 

「ま、まさ……!?」

 

 瞬間、ベジットはベートを担いだまま、崖から降りた。まるで自宅の階段を降りる様な軽い足取りで底の見えない谷底へ落ちていく。

 

 一瞬悲鳴を出し掛けたベートだったが、次に見えた光景に言葉を詰まらせる。

 

「おっ、いたいた」

 

 巨蒼の滝、流れ落ちるその先で蠢く巨大な影を見て、ベジットは笑う。

 

未だ此方を見付けていないのに、その存在感は圧巻。ゴライアスよりも巨大なその影にベートはベジットのこれ迄の意図を理解した。

 

「さて、俺が出来るのはここまでだ」

 

 影が此方に気付くギリギリの範囲外、其処にベートを下ろし、次に手にした様々な武具を手渡していく。

 

「ベート、後は言わなくても分かるだろうが……」

 

「ベジット」

 

「ん?」

 

「手ェ出したら、殺すぞ」

 

 最後に激励の言葉を贈ろうと思ったが、どうやらその必要は無かった様だ。視線だけを此方に向けるベートの眼には殺る気で満ちており、生半可な冒険者が受ければ失禁間違いなしな視線を受けて。

 

「あぁ、分かった」

 

 ベジットはやはり笑って送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力が滾る。全身に漲る力を必死に抑えて、自分自身に言い含めるようにベート・ローガは目の前の巨大モンスターに気付かれるギリギリまで力を抑え付けた。

 

いつ以来だろう、こんなに冒険するのに前向きになれるのは。

 

いつぶりだろう、こんなにも目の前の脅威を乗り越えるのにワクワクしているのは。

 

 逸る気持ちを抑え、それでも僅に溢れた感情がベートの口元を歪めていく。

 

 そして、目標まであと20Mを切った所で───巨影が動き出す。

 

【アンフィス・バエナ】

 

 双頭の頚を持つ水棲の竜。その戦闘力はLv.5相当とされているが、水上での危険度は脅威のLv.6

 

 今までのベート・ローガでは決して勝てない怪物。

 

 あまりに無謀、あまりにも無茶。通常なら逃げの一手を選ぶしかない相手を前にして………ベートは構えた。

 

それはこの一週間でベートが無意識に身に付けたモノ。前例など無く、あくまでベート・ローガのオリジナルでしかないその構えは………。

 

 しかし、その姿はベジット(⬛⬛)に嘗てのZ戦士達を想起させる。

 

「それじゃあ、始めるかぁ……」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!!」

 

 モンスターの雄叫び。決戦の場である27階層全体を揺さぶる階層主の咆哮。それを浴びてもベートは揺るがなかった。

 

 寧ろ、その笑みをより深くさせ……。

 

「行くぜトカゲ野郎。テメェは俺の糧になれ!」

 

 顎を開き、此方を呑み込もうと迫る竜を前にベートはその瞬間全身に白い炎を纏わせ。

 

階層主を正面から迎え撃った。

 

 

 

 

 

 





Q.リリちゃんランクアップするのはおめでたいけど、偉業判定は?

A.バカ強いベジットの髪を1本とは言え刃の潰れた槍で切り飛ばしたから。

Q.なんかステイタスがエライ事になってね?

A.例のスキルと今回出てきた魔法の影響ですね。

Q.現在リリちゃんはどれくらい強いの?

A.現時点ではLv.2相当ですが、魔法と条件が揃えば充分格上にも通用する………予定です。





オマケ


今日のベル君

「………ねぇ、お義母さん」

「どうした?」

「空、浮いてない?」

「浮いてるな」

「なんか、白い炎が身体から出ていない?」

「出ているな」

「なんで????」

「頑張ったからだ」

「???????」

「おぉう、ベルの奴とうとう宇宙を背負い始めたぞ」

「俺はもうつっこまんぞ」



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