ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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寒すぎで鳥肌ヤバい。

鳥になりそう。

そんな訳で初投稿です。


物語27

 

 

 

「アンフィス・バエナ、それが下層の階層主なのか?」

 

 新たにベート・ローガがヘスティア・ファミリアに入団して間もない頃、ベジットは担当職員のローズからダンジョンの下層に付いて講習を受けていた。

 

「そう、他にも下層ではこれ迄以上に注意するべき項目は多いけど、アンフィス・バエナは巨蒼の滝(グレートフォール)を行き来出来る現在確認されている唯一の階層主よ」

 

「ほーん、つまり巨蒼の滝を探索する時はモンスターだけじゃなく滝から唐突に現れる階層主の事も気を付けて行動しろって事か」

 

「滝だけじゃなく、水路があるところは基本的に気を付けなさいって事。意外な所から顔を出してきた階層主の不意討ちブレスを受けて全滅したパーティーだって少なからずいるんだから………尤も、アンタにはあまり関係無さそうだけど」

 

「そんなことはねぇよ。ありがとなローズ、助かったぜ」

 

 一通りの質問も終わり、席を立つベジット。ギルドを後にする今ではオラリオの中心的人物となった男の背中を見て……。

 

「………ホント、強い癖に勤勉ね。アンタは」

 

 皮肉屋のギルド職員の呟きは、本人に届くこと無く人の多いギルドの喧騒に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァッ!」

 

 顎を開き、突進してくる巨大な竜の横ッ面をベートが蹴り飛ばす。体躯の差は歴然、それでも巨大なモンスターである階層主を吹っ飛ばした事実に、ベート自身が驚いていた。

 

(これが、“気”! これが、あの野郎が見ていた世界か!!)

 

 ベジットが教え、与えてくれた“気”の概念はベートのこれ迄の価値観を大きく揺さぶり、破壊していった。

 

全身に纏う白い炎は力の発露、振るわれる膂力はステイタスを大幅に増幅させ、一種のブースト効果をベートにもたらしてくれた。

 

 これがベジットという男が扱ってきた力、その一端に触れた事でベートは彼が普段から大胆不敵な理由の一つを知った気がした。

 

そして、ベートがベジットを畏怖する理由は他にも出来た。

 

それは……。

 

「クソッ、これ以上は厳しいか」

 

 白い炎は凄まじい力の発露と引き替えに、体力の消耗が激しい。気に目覚めたばかりのベートでは長時間の運用は困難であり、故に予定通りに別の案に変える事にした。

 

 右手に力を込める。ベジットに教わったやり方を思い出し、何度も反芻してきたベート・ローガの新たな切り札の一つ。

 

《魔法》とは異なる、新たな力。

 

 身を捩り、起き上がったアンフィス・バエナがベートを捉える。しかし、単身で挑んでくるベートに対して既に侮りはなく、寧ろ右手に宿っている光を見て階層の主は明らかに警戒している。

 

 それを察してか、ベートの口角はつり上げて……。

 

「安心しな。コイツで攻撃はしねぇ。コレは───お月様さ(・・・・)

 

 その手に宿る光を、空高く投げ捨てる。攻撃処か明後日の方へ投げ放つベートにいよいよアンフィス・バエナは混乱した。

 

「弾けて、混ざれ!!」

 

しかし戸惑うのも束の間、ベートが短文詠唱の如く何かを唱え、投げ放った右手を握ると、高く打ち上げられた光の玉は爆発。

 

 次の瞬間、27階層に小さな月がそこに浮かんでいた。

 

 理性のない筈のアンフィス・バエナが唖然としている。自分が棲む階層に唐突に月が現れたと言うのだから、さもありなん。

 

 だが……いや、だからこそアンフィス・バエナはそんな反応をしている場合ではなかった。

 

 ベート・ローガは狼人(ウェアウルフ)。その種族的特性からダンジョン探索に最も向いていない種族と揶揄されてきた。

 

その特性(スキル)の名は【月下咆哮(ウールヴヘジン)】。月の下で無いと効果を発揮せず、神々からは産廃とさえ言われてきたダンジョン探索における死に《スキル》。

 

 しかし、ベジットの教えを受けて“パワーボール”という気の放出技を学んだ事で状況は一転。ベートはダンジョン探索にて獣化という強力無比な力を【任意】で発動出来ることに成功した。

 

【月下咆哮】による恩恵は全アビリティの超高補正と状態異常の無効化。全身に滾る力の衝動のままに、ベートはアンフィス・バエナへと肉薄する。

 

「行・く・ぞ、蛇野郎!!」

 

 踏み抜いた足場が爆散する。【月下咆哮】に加え、走行速度を強化する【孤狼疾駆(フェンリスヴォルフ)】と加速時に『力』と『俊敏』、二つのアビリティを強化する【双狼追駆(ソルマーニ)】が加わった事で、ベート・ローガは現時点において最速となった。

 

 獣化と二つの《スキル》による身体能力を爆発的に引き上げたベート、彼の振り抜かれた蹴りはそのまま唖然となっているアンフィス・バエナへと向けられ。

 

「吹っ飛びやがれぇ!!」

 

 一瞬だけ、蹴りがめり込む刹那の瞬間だけ気を解放させ、自身より遥か巨大な階層主を蹴り飛ばす。

 

 壁に激突し、衝撃と振動が27階層を揺さぶる。断末魔を漏らし、沈む階層主を見つめながら、ベートは確かな手応えを感じていた。

 

(これが、今の俺の力か。認めたくねぇし、今も釈然としてねぇが、奴の力は本物だった訳だ)

 

 本来なら終始気の力を出し続けなければならない。特訓の合間、気を解放出来るようになってからずっとベジットからその事を指摘されてきたが、正直いってそれは無茶振りにも程がある。と言うのがベートの本音だ。

 

 全身を覆う白い炎、確かにアレを戦闘の時にずっと出し続けていれば強いだろう。だが、それを維持できる程の技量が今のベートにある訳がないし、下手に力を出し続けてはあっという間に体力を持っていかれてしまう。

 

 だからこそ、ベートは鍛練している間は一度たりとも白い炎を解くことはなかったベジットに戦慄し、心の底から畏怖を抱いた。

 

 ………けれど、そんなベジットの出鱈目さのお陰で自分の中にある可能性が芽生えた事は事実。実に、実に癪に障るが、その事実は認めなければならない。

 

(あの頃の俺にこの力があれば………いや、今更だな)

 

 ベートの脳裏に嘗ての過去が想起するが、言っても意味がないと断じ、意識を切り替える。

 

瞬間。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!!」

 

 双頭の竜が激昂の雄叫びを上げる。一度ならず二度までも蹴りを叩き込んでくれたチッポケな狼人を殺す為に、四つの眼光がベートを射貫く。

 

敵意と殺意。捕食対象から抹殺対象へと切り替えて、アンフィス・バエナはその口元から炎を覗かせてくる。

 

 ここからが本当の戦いだと、ベートは再び構えを取って、炎を吐く階層主へと備える。

 

 目の前に迫る炎の壁を跳躍し、アンフィス・バエナへと攻撃を仕掛ける。

 

しかし、全高20Mを超える巨竜は身を捩るだけで冒険者の脅威となる。空高く跳び上がるベートはアンフィス・バエナには格好の的と言えた。

 

 尾を振るう。横薙ぎに、払う様に振り抜かれる巨大な竜の尾は、冒険者(小蝿)を振り払うのに充分な威力を秘めていた。

 

 だが、振り抜かれる尾はベートを吹き飛ばすには及ばず、彼の鍛え抜かれた身体能力により、却って足場として利用される。

 

「くたばれェッ!」

 

 尾を踏み台にして、跳躍。今度は奴の脳天に蹴りを捩じ込もうとベートの飛び蹴りが炸裂しようとするが、読まれていたのか、ベートの動きに合わせてもう一つの竜の双眼がベートを捉えていた。

 

開かれる顎、奥から蒼白い炎を目の当たりにしたベートは咄嗟に腕を交差させて防御の姿勢に入る。周囲を燃やし尽くす竜の息吹(ドラゴンブレス)であっても、一度なら耐えきれる。

 

 これを切り抜けて改めて勝負だと、安易に判断したのがベートの致命的な油断となった。

 

 アンフィス・バエナは階層主にして、ダンジョンで現在確認されている唯一階層を移動する巨大モンスター。

 

水上での機動力でなら、第一級冒険者に迫る。つまりは………。

 

 防御の姿勢を取って、一瞬だけ視界を閉ざしていた次のベートの視界には、アンフィス・バエナの姿は何処にもなかった。

 

「なに!?」

 

 戸惑い、困惑するのも束の間。突然背後からの一撃にベートの視界が白い火花で満たされる。

 

 27階層は全体的に丸い地形をしており、己を軸に円型に高速移動する様子はベジットから見てリング上のアウトボクサーを追い詰めるインファイターの様だった。

 

 壁に叩き付けられ、血反吐と共に肺にあった酸素が吐き出される。痛みと衝撃で視界がバチバチと火花が弾け、意識が混濁する。

 

 しかし、巨竜の追撃は止まらない。壁にめり込んだベートに、止めを刺そうとこれ迄溜めてきたブレスが放たれる。

 

「ッ!?」

 

 迫る熱、近付くだけで焼け死ぬ蒼い炎を前に、意識を覚醒させたベートが横へ飛ぶ。一秒にも満たない回避劇、先程まで意識を失いかけていたダンジョンの壁は焼け爛れ、炎の余波がベートの脚を焼いていく。

 

「ぐぁっ!?」

 

 堪らず溢れる苦悶の声、声を発した事で鈍った僅かな動きを、アンフィス・バエナは見逃さなかった。

 

 尾が振り下ろされる。空中で、逃げ場の無かったベートに避けられる道理はなく。

 

「ガッ────」

 

 打ちのめされ、水面へ叩き込まれたベートはアンフィス・バエナが支配する水中へ沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ベジットとの地獄の特訓が始まって折り返しの四日目に差し掛かった頃。

 

 いつものように地面に倒れ伏すベートは(リヴィラ)の買い出しから帰ってきたベジットに疑問を投げ掛けた。

 

『……何でだ』

 

『うん?』

 

『どうして、テメェは俺に構う? 同じ派閥の人間とはいえ、出会ってそんな経ってねェだろ』

 

『どしたん急に?』

 

『茶化すな。答えろ』

 

 ヘスティア・ファミリアに入ってまだ1ヶ月程度。世話にこそなってはいるが、ベートがここまで面倒を見てくるベジットが不思議で仕方がなかった。

 

『んー。まぁ、何て言うかな。勿論俺なりの打算はあるよ? 他人が強くなる瞬間は見ていて楽しいし』

 

 特に、限界を超えて強くなろうと足掻く様は見ているこちらも胸が熱くなる思いだ。

 

『他にも、俺が強くなる為の参考とかにしたいし……何より、見てみたいのさ』

 

『………何がだよ』

 

『冒険者が、冒険する様を』

 

 “冒険者は、冒険してはいけない”

 

 いつの間にか、冒険者がダンジョンを探索している内に出来上がった不文律。

 

 一つの見落としがパーティーを危機に陥れ、悪意が冒険者を殺しに来る。悪意と殺意に満ちたダンジョンで、自然と冒険者は自分の命を優先するあまり、冒険する事を忘れてしまった。

 

 命懸けの冒険。目の前のモンスターを倒す為にただ我武者羅に戦い、これに打ち勝つ。

 

その様を見たいと、目の前の男は言った。それは他の冒険者に対する冒涜であったし、慢心を極めた暴言でもあった。

 

 けれど、ポツリと溢すベジットの目に嘘はなく、その瞳は一切の淀みなくベートを見据えている。

 

『───尚更分からねぇ。なら、何で俺なんだ?』

 

 冒険者が冒険する所をみたいのなら、別に自分に構う必要は無いだろう。

 

しかし、そんな自分の胸中を察した様にベジットは笑って。

 

『だってベート、お前冒険したがってんじゃねぇか』

 

『─────』

 

 あぁ、やはり俺はコイツが気に入らない。

 

 長い付き合いでも、特別な間柄でもないってのに、コイツの言葉は何時だって自分の核心を突いてくるのだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────牙が迫る。口を開き、ただの獲物と化したベートを喰らう為に、アンフィス・バエナはその顎を大きく開いて、意識を失っているベートを捕食せんと迫る。

 

 濃厚な経験値を秘めた久方振りの獲物、コイツを喰らえば自分はまた強くなれると、アンフィス・バエナはベートを喰らおうとして。

 

 爆発する。

 

「ッ!?」

 

 突如として水中が爆発し、堪らずアンフィス・バエナは後ろに下がる。何が起きたと水中から顔を出して、立ち上る水飛沫の奥へ視線を向ければ、人影が一つ階層主を見据えていた。

 

「───あぁ、そうだよなァ。相手は仮にも階層主だ。体力の温存とか、小難しい事を考えられる相手じゃなかったわ」

 

 アンフィス・バエナの炎は水上でも燃え続ける。27階層は灼熱の空気で満たされ、立ち入る者を肺から焼き尽くす。

 

その業火の中心で、その狼人は笑っていた。

 

 アンフィス・バエナのもう一つの顎から紅い霧が散布される。魔法の威力を減衰させ、攻防共に隙の無い布陣を形成させる。

 

相手に何一つ有効手段を取らせない為の布石、なのに何故か。アンフィス・バエナの本能が目の前の狼人を危険だと叫んでいる。

 

「────三分だ。この三分でテメェを噛み殺す」

 

それは、今の状態を保っていられる現在のベートの限界地点。これを過ぎれば………自分は体力を今度こそ使い果たして死ぬ。

 

 瞬間、空気が爆ぜた。ベートを包んでいた蒼い炎と紅い霧は吹き飛び、全身に白い炎を纏ったベートがアンフィス・バエナを見据えている。

 

“────さぁ、冒険を始めよう”

 

 駆ける。白い炎を身に纏い、そのままアンフィス・バエナへと肉薄する。

 

反応は出来なかった。出来ない程の速さだった。片足が焼かれ、機動力が削がれた筈なのに、依然として目の前の狼人はアンフィス・バエナの感知力を振り切る程の速さを保っていた。

 

 いや、或いは削がれて尚この速さなのか。

 

「オラァッ!」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛ッ!?」

 

 加速からの回転、物理法則を上乗せしての回し蹴り。胴体にめり込み、そのまま吹き飛ばされるアンフィス・バエナは、先の意趣返しの様に壁へと叩き込まれる。

 

 追撃を防ごうと火を放つが、其処には既にベートの姿はなかった。見れば、足場の上で何かを………唱えている?

 

「【戒められし悪狼(フロス)の王】」

 

「ッ!?」

 

「【一傷拘束(ゲルギア)。ニ傷痛叫(ギオル)。三傷打杭(セピテ)。飢えなる(ぜん)が唯一の希望。川を築き血潮と交ざり涙を洗え】」

 

 それは、ベート・ローガの疵。理不尽に嘆き、不条理に怒り、そして………護れなかった弱者に対する誓い。

 

「【癒せぬ傷よ、忘れるな。この怒りとこの憎悪、汝の惰弱と汝の烈火】」

 

「⬛⬛⬛⬛ッ!!!」

 

 アンフィス・バエナが炎を吐く。あの詠唱を唱えさせてはならぬと、本能に命じられるがままに双頭の竜はベートを屠らんと蒼炎を吐き捨てる。

 

「【世界(すべて)を憎み摂理(すべて)を認め(すべて)を枯らせ】」

 

 止まらない。全身を焼かれ、爛れても、ベート・ローガの詠唱は止まらない。

 

「【傷を牙に慟哭(こえ)猛叫(たけび)に──喪いし血肉(ともがら)を力に】」

 

 ベートの眼が巨竜を射貫く。恐れはなく、痛みを抱えたままただ倒す事だけを目的に立っている孤狼にアンフィス・バエナは初めて恐怖というものを抱いた。

 

 だから、今度こそ詠唱させないと無防備なベートに向けて横薙ぎの尾を振り抜くが。

 

「【解き放たれる縛鎖(ばくさ)、轟く天叫(てんきょう)。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ】」

 

 受け止めた。20Mの怪物の一撃を、白い炎を纏う疵だらけの狼が受け止めてみせた。

 

「【その炎牙(きば)をもって平らげろ】」

 

「【ハティ】」

 

 炎が、ベートの四肢に宿る。アンフィス・バエナの放つ蒼い炎と対比するような紅い紅蓮の炎。

 

 ベート・ローガの持つ魔法【ハティ】、身に纏う炎の効果は魔力吸収(マジックドレイン)損傷吸収(ダメージドレイン)の二つを併せ持っている。

 

ダメージを受ければ受ける程にその威力を増していき、魔力もベートが纏う炎に触れる程に敵味方問わず見境無く喰らい尽くされる。

 

 周囲に助けられる味方もいなければ、助ける味方もいない状況に限り使用されるベート・ローガの切り札。

 

 魔力も吸われる事から味方からの回復魔法も受けられない諸刃の剣。

 

損傷も回復せず、ただ全てを燃やし尽くすまで止まらない───灰塵の炎。それを全身に纏う白い炎と併用させたベートはこの時、誰も到達し得ない未知の境地へ脚を踏み入れた。

 

「行くぞ」

 

 静寂とすら思えるベートの合図、極限まで脱力させその一瞬だけ踏み込んだその一歩は最初の時に見せたソレとは比べようが無い程に静かで、それでいて速かった。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!!」

 

 双頭の竜が吼える。辺りに炎と霧を撒き散らし、ベートの行く手を遮っていく。辺り一面が火の海となり、水中にも逃げ場はない。

 

魔法の効果も霧によって減衰される。………だが、何処を見てもベートの姿は無かった。

 

 そこで、漸く気付く。自身が最初に壊すべきだったのは、あの狼ではなかった。

 

壊すべきだったのは────。

 

「遅ぇよ」

 

 月を背に、己を見下ろす狼が其処にいた。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!!」

 

 炎が溜められる。今度こそあの狼を屠る為に、あの忌々しい月を砕くために、今度こそ!

 

「ねぇよ。テメェに次はねぇ」

 

 しかし、そんなアンフィス・バエナの思惑を読んだかの様に、狼は空を蹴って(・・・・・)加速する。

 

「くたばれぇぇぇっ!!」

 

 溜めに溜め、傷付きに傷付いた孤狼が放つ極大の炎は、アンフィス・バエナを周囲まるごと呑み込んでいき………。

 

27階層は紅蓮の炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────何もかもが焦土に変わり、27階層にあった水場は全て蒸発した。

 

想像以上の威力を出してしまい、予想以上の惨禍を撒き散らしてしまった事に若干の気まずさを覚えたベート・ローガは大の字の状態から全身の痛みを堪えて、なんとか上半身を起き上がらせる。

 

そこへ、降り立つ一つの影がベートへ近付いた。

 

「よっ、おつかれさん」

 

「テメェこの野郎、マジで手を出さなかったな」

 

「お前がそれを望んだんだろ? 流石に逆恨みが過ぎるぞ」

 

「ケッ!」

 

 勿論、ベート・ローガは本当に助けられるつもりではいなかったし、何なら途中からベジットの存在を忘れかけていた。

 

 懐に忍ばせていた“仙豆擬き”を取り出して口へ放り込む。今の反応からベートが仙豆擬き(コレ)を本気で忘れていた事を察したベジットは、呆れた様子で肩を竦めた。

 

「そんで、どうだったよ。手応えの方は?」

 

「………悪くない」

 

 アンフィス・バエナ(階層主)の単独討伐。これによりオラリオは新たな時代の幕開けを本格的に実感する事になるだろう。

 

「───ベジット」

 

「あん?」

 

 本当なら、もっと時間が掛かる筈だったランクアップ。今回の一件で自分は間違いなく新たな位階へ進むことになる。

 

 その道を示してくれたのは、間違いなくベジットのお陰だ。自分を強くしてくれたコイツに、らしくはなくても礼の一つくらい伝えるべきなのだろう。

 

心底、心底腹が立つし認めたく無いが、ベジットという男は自分のランクアップに一役買ってくれた立役者。

 

 ならば、認める他ないだろう。だから……。

 

「あ、ありが……」

 

「おっ、ドロップアイテムめーっけ!

 

 やっぱり止めた。アンフィス・バエナのドロップアイテムを見つけ、ルンルン気分ではしゃいでいるベジットを見て、ベートは微かに抱いた感謝の気持ちを噛み殺した。

 

「いやぁ、何か色々と見つかったし、ドロップアイテムはウハウハだし、今回の探索は大成功だな!」

 

「あぁ? テメェ、27階層にいたんじゃなかったのか?」

 

 見れば、奴の持っている荷物入れはリリルカ・アーデが普段使っているような大きなモノだった。

 

そこにパンパンに敷き詰められた魔石、及びドロップアイテムを見てベートの蟀谷(こめかみ)に青筋が浮かぶ。

 

「いやぁ、何かベート長い詠唱し始めたし、勝ち確な流れっぽかったし、暇だったから……」

 

「だから、呑気に宝探しをしていたと?」

 

「いやぁ、探しというか宝ばっかだなここは! お陰で懐が潤ったぜ!」

 

 この野郎! と、一瞬ベートは憤慨しかけたが、詠唱が聞かれなかったのならそれでいいやと、半ば諦めた。

 

ベートの魔法、その詠唱は自身の過去と弱さを知らしめるモノ。あの魔法を使うのはベートにとって屈辱以外の何者でもない。

 

 同情されたくないから、憐れみなど今の自分にとって最も屈辱的なモノ。だから呑気なベジットに文句を言うのは控えられた。

 

ただ。

 

「ベート」

 

「あ?」

 

「ナイスファイト。かっこ良かったぜ」

 

「────フンッ」

 

 人に褒められるのは、階層主の攻撃よりも骨身に効いた。

 

 

「それに戒められし悪狼(フロス)の王とか、メッチャかっこいいーじゃん。良いなぁ、俺もカッコいい詠唱とか欲しいなぁ」

 

「やっぱ死ねェッ!!」

 

 その後、顔を真っ赤にした【凶狼】がベジットを追っ掛けるという光景が多くの冒険者達に目撃される事になるが………それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、オラリオは新たな冒険者の台頭に沸き立つ事になる。

 

ベート・ローガ。【Lv.5】

 

リリルカ・アーデ。 【Lv.2】

 

 新たに輩出されるランクアップを果たした冒険者。いずれも同じ派閥の眷族にオラリオ中からヘスティア・ファミリアは注目される事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RESULT

 

ベート・ローガ《最終ステイタス》

 

Lv.4

 

力 :SS1092

 

耐久:SSS1258

 

器用:SS1056

 

敏捷:SSS1300

 

魔力:S945

 

《魔法》

 

【ハティ】

 

【】

 

【】

 

《スキル》

 

月下咆哮(ウールヴヘジン)

 

孤狼疾駆(フェンリスヴォルフ)

 

双狼追駆(ソルマーニ)

 

《発展アビリティ》

 

狩人:I

 

対異常:G

 

拳打:G

 

魔防:I

 

 

 

 




Q.ベートさんのステイタス、ヤバくね?

A.ベジットブートキャンプのお陰です。
さぁ! 皆さんも入会してLet's ランクアップ!






次回、拠点。

「よーし、リリとベートの装備、揃えるぞー!」

「なんで人の装備であんなはしゃいでんだ?」

「それはホラ、ベジット様は基本装備とか必要としないお方ですから」

「………でも、僕達はいい加減別の事にお金を掛けるべきだと思うんだ」

「別の事?」

「拠点」

「「「そうだった」」」






オマケ

もしも、古代の世界にいたら。


「兄さん、眼は大丈夫?」

「あぁ、心配いらないさ。仮令私の眼が見えなくとも、お前の姿を見紛う事はないよ。アリアドネ、君もだ」

「アルゴノゥト……」

「それは何よりだ。それ」

「ングゥ!?」

「ちょ、ベジットさん!?」

「いきなり何を!?」

「ゲホ、ゴホ、………あれ、眼が見える?」

「頑張った英雄君に俺からの些細な贈り物さ。じゃあな」

「ちょ、まっ! ………行っちゃった」

「相変わらず、神出鬼没な人でしたね」

「ハハハ、流石は師匠だ。私の英雄日誌には必ずこう綴ろう!」


“英雄の師匠は最強でした”とね!




「誰が師匠だ」





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