ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

28 / 124

特にネタはない。

今回は日常回。

そんな訳で初投稿です。


物語28

 

 

 

 

 ヘスティア・ファミリアの眷族二人のランクアップ。その報せは瞬く間にオラリオ全土に広がり、街中で噂になっていた。

 

 とある酒場。席を囲む冒険者達の話題も専らその事に尽きていた。

 

「おい、聞いたかよ。あの【凶狼(ヴァナルガンド)】が第一級冒険者(Lv.5)昇格(ランクアップ)したんだってよ」

 

「あぁ、何でも階層主(アンフィス・バエナ)単独(ソロ)で討伐したんだろ? バケモンじゃねぇか」

 

 話の槍玉に挙げられるのはやはり件の狼人。階層主の単独討伐を果たしたという途方もない偉業は神々の間だけでなく、冒険者達の間でも話題沸騰となっていた。

 

「いや、【凶狼】は確かにバケモンだが問題の本質は其処じゃねぇ」

 

「あ? どういう事だ?」

 

「俺の仲間から聞いた話だったんだが、何でも18階層で一週間もの間【凶狼】をボコボコにし続けた奴がいたらしいんだよ」

 

 そして話の内容はズレ始め、昇格を果たした狼人……その裏の立役者へと焦点が変わり始める。

 

「はぁ!? あの【凶狼】を!? ………て、おい。まさかソイツは」

 

「あぁ、例のベジットだよ。ベジットが【凶狼】を強くする為にとか言って、一週間も中層で鍛えていたんだって。本人からはそう聞いたって」

 

「き、聞いた?」

 

「あぁ、ベジット本人は同じファミリアの仲間を鍛える為だと言っていたが、あれは地獄の類だと、仲間は青褪めた顔で言ってたよ」

 

「地獄って、特訓に使う言葉じゃねぇだろ? 一体どんな事をしてたんだ?」

 

「────まず、指先から魔法みたいな光の小粒を無数に出していた。詠唱も唱えず、間断なく降り注がれる小粒に【凶狼】は翻弄されていたよ」

 

「────は、光の小粒? え? 粒?」

 

「だよな。それが普通の反応だよな。……けど、奴の粒に当たった【凶狼】は蜂の巣にされてたよ。比喩なくな」

 

「……………」

 

「血に沈む【凶狼】を見下ろしてベジットはなんて言ったと思う? 『その程度の反応速度じゃ俺との組手に追い付かないぞ』と言ったそうだ。あれだけの惨劇を生み出しておきながら、奴にとって準備運動でしかなかったらしい」

 

「────鬼かな?」

 

 どちらかと言えば悪魔の所業である。

 

「因みに、仲間が光の小粒だと知ったのはベジットにもっとゆっくり遅くしたものを目の前で見せて貰ったからだそうだ」

 

「いやお前の仲間も充分スゲェよ。なにやってんだよ」

 

「サイン欲しかったんだと」

 

「図太いな!?」

 

「俺の分は無かった」

 

「知らねぇよ!?」

 

 只人とドワーフの会話、二人の会話に自然と周りも同調し始める。

 

「あぁ、その話俺も聞いた。【凶狼】の奴、階層主(アンフィス・バエナ)に挑む直前までベジットに散々いたぶられたらしいぞ」

 

「アタシは壁に張り付けにされたって聞いた」

 

「俺は天井に張り付いていたのを見た」

 

 人伝いの者、直接目の当たりにした者、反応は様々だが彼等の思いは一つだった。

 

「………俺、【凶狼】には散々なじられて、バカにされてきてさ。正直今も嫌いだけど」

 

「うん」

 

「「「次会ったら優しくしよう」」」

 

 喧騒溢れる冒険者の酒場で、荒くれ者の冒険者達の心が一つになった瞬間だった。

 

「あと、話は変わるんだけど……もう一人の昇格(ランクアップ)した奴、コイツ確かこの間の戦争遊戯(ウォーゲーム)時にいた小人族(パルゥム)だよな?」

 

「そうだな。なんか前の派閥では結構酷い目に遭っていたらしいぜ」

 

「まぁ、サポーターだからなぁ。でも、そんな娘がどうやってLv.2に?」

 

「なんでも、ベジットに一太刀浴びせたらしい」

 

「「「「ファッ!?!?!?」」」」

 

 話の話題は【凶狼】とベジットから小人族の少女へ。話半分の、半ば伝言ゲームの様に伝わっているその話は、酒場の空気を凍り付かせていた。

 

「嘘だろ? だって、ベジットはあの【凶狼】を一方的にって………」

 

「あくまで噂程度だし、実際はどうなのかは分からないが……ベジットに刃を向けたのは間違いないらしい」

 

「………お前、出来るか?」

 

「戦争遊戯で見ただろうが! 対峙した瞬間命乞いをするわ!」

 

「けど、そんなベジットにあの小人族は立ち向かった」

 

「やっぱ、アレもベジットの鍛練の賜物なのかな」

 

「いずれにせよ……」

 

「あぁ……」

 

「「「小人族、ヤベェ」」」

 

 とある【勇者】の悲願、一族の印象が変わった瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォォォォオッ!!」

 

「ヤァァァァァッ!!」

 

 早朝。朝日がオラリオの街を照らし始める頃、廃教会の前で白い炎を纏う狼人(ウェアウルフ)と赤目の小人族(パルゥム)、二つの種族がたった一人の只人(ヒューマン)に向けて蹴りと槍をそれぞれ見舞う。

 

「おっ、今のは中々良いな」

 

 Lv.5とLv.2、それぞれ繰り出される一撃はしかしベジットの両手によって簡単に掴まれてしまう。

 

「シッ!」

 

「タァッ!」

 

 それでも、狼人───ベートはもう片方の脚で蹴りを放ち、小人族───リリルカも捕まれた槍を足場として利用し、サブウェポンのナイフ(特訓用)で肉薄するが……。

 

「ホレ」

 

「ヌォッ!?」

 

「ハプゥ!?」

 

 掴んでいたベートをそのまま横に薙ぎ、リリルカ共々外壁へと叩き付けられ、仲良く二人は意識共々地に落ちた。

 

「二人とも、大分動きが良くなってきたな」

 

 それから数分、本日軽めの朝の鍛練はベジットの感心の言葉で締め括られた。

 

「ベートは気の解放と維持、最初の頃よりも大分長くなってきたし、リリルカも魔法の効果持続とデメリットの耐性も付いてきたし、何より槍の扱いが馴れてきている。これなら次の探索も期待出来そうだな」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「……フンッ」

 

 相変わらず素っ気ない態度のベートだが、リリルカの方は栗色の瞳を輝かせている。一見対称的な二人かと思いきや、ベートの方は良く見れば尻尾が微かに揺れている事から、存外満更でもないようだ。

 

勿論、口には出さないが。

 

「おぉ、ステイタスに振り回されている様子もなかったしな。ランクアップによる体のズレとやらも大分改善されたんじゃねぇのか?」

 

「ダンジョンから帰ってきてから、毎日朝稽古やらされてるんだ。体も馴れるのは当然だろうが」

 

「ですね。それでベジット様、次のダンジョン探索は何時にしますか?」

 

 ランクアップも果たし、体の違和感も消えた。体力も気力もやる気も充足しているリリルカが、次のダンジョン探索はどうするかとベジットに訊ねる。

 

早く自分の力を試してみたいのだろう。幼子らしい一面を見せるリリルカにベジットもつい頬が緩むが……。

 

「いや、当分ダンジョンには向かわねぇ。探索するにしてもそれは俺だけで行くつもりだ」

 

「え?」

 

 途端に、リリルカの表情が凍り付く。憧れた人に自分の成長を見て欲しいとアピールしていたから、その失意は大きかった様だ。

 

対してベートの方は分かっていた様で、呆れながらリリルカに現実を突き付ける。

 

「そもそも、俺達には化物どもを殺す得物が無いだろうが、その刃の潰れた槍とナイフで戦うつもりか?」

 

「あ、あぅぅ……」

 

 相変わらず言葉の悪いベートだが、彼の言っている事は正しい。余程素手の自信がない限り、冒険者が武器も持たずに探索するなど、自殺行為に等しいのだから。

 

 但し、目の前の規格外(ベジット)は除く。

 

「いいや、仮に今目の前に武器があってもお前達をダンジョンに潜らせたりはしねぇよ」

 

「あぁ? 何でだよ」

 

「自覚はねぇだろうが、二人とも……特にベートは俺との一週間の特訓でかなり体を無茶させたからな。装備を整え、飯を喰った後はウンと休ませなきゃいけねぇ」

 

「……………」

 

「で、ですがベジット様、リリは………」

 

「リリだって全身から血を噴き出す程の負荷を受けたんだ。そもそも、まだ身体が出来てない内に無茶な鍛練しちまったら、それこそ取り返しが付かなくなる。俺はそんなのはゴメンだ」

 

だから、暫くは身体を休める休養日にするとベジットは言う。

 

「これは団長命令だ。いいな」

 

「………チッ、ワァーったよ」

 

「はい、分かりました」

 

 やはり、若いだけあって血の気が多い二人。理解は出来ても納得出来ていない様子の二人にベジットは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

そこへ、第三者………ファミリアの主神たるヘスティアがお玉を片手にやって来た。

 

「三人ともー、朝御飯出来たから食べなさーい」

 

「「はーい」」

 

「親子かよ」

 

 スッカリ朝食担当となったヘスティア。エプロン姿にも違和感が無くなり、仲良く本拠地に戻る二人にベートも呆れながら付いていった。

 

「………て言うか、自分で言ってて今更アレだけど。俺が団長なんだね」

 

「本当に今更だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘファイストスー、来たよー!」

 

「あら、時間通りに来たじゃない。あのグータラ女神が随分と更正されたみたいね」

 

 そして午後、三人と一柱のファミリア総出でやって来たヘファイストス・ファミリアの本拠地にて、出迎えてくれたのは友神のヘファイストス本神だった。

 

 まさかヘファイストスと面識があり、ツテがあるとは思わなかったベートとリリルカは自分達の主神の神脈の広さに驚きを露にしていた。

 

「鍛冶神ヘファイストスとダチってのはマジだったのか」

 

「リリも半分疑ってました」

 

「ふっふーん! これで分かっただろ! こう見えて僕は顔が広いんだぜ!」

 

「こら、すぐ調子に乗らないの。割り増し請求するわよ?」

 

「そ、そんな! そこは友達価格にする所だろうヘファイストス!?」

 

「天界での世話代、請求してもいいのよ?」

 

「ウグッ、その話を持ち出すのは反則だよぅ……」

 

「と言うわけで、この駄女神の場合は本当に顔が広いだけなので、余り期待しないようにな」

 

「「…………」」

 

 顔馴染みが多いと言う事は、それだけ弱点を知られている者が多い。その実例を目の当たりにしたらベートは思っていた以上に駄目だった主神に冷たい視線を向けた。

 

「で、でも! ヘスティア様はリリ達の朝御飯を作ってくれたりしていますから、決して駄女神ではありません!」

 

「り、リリ君~!」

 

仮令(たとえ)、寝相の悪さでベッドから蹴り落とされる事があったとしても!」

 

「り、リリ君……」

 

「おい、トドメ刺してんぞ」

 

「子供は素直だからね」

 

 時々部屋からドサッと落ちる音が聞こえてきたから、恐らくはリリルカの言う通りなのだろう。

 

「ホラ、漫才は其処までにして、私の書斎に行くわよ。あんた達の装備の事、聞かなきゃいけないからね」

 

「あっ、ヘファイストス。実は他にも相談があるんだけど……」

 

「なぁに? 値段交渉なら受け付けないわよ」

 

「違うよ。僕達の拠点に付いてさ」

 

 拠点。そう言われて自分が紹介した廃教会が今のヘスティア・ファミリアの仮の拠点だと思い出し、そうだったと頭を抱える。

 

「ごめんなさい。今の今まで忘れてたわ。そうね、団員も増えてきたみたいだし、その辺りの事も考えないといけないわよね」

 

「なんかオススメの物件とかあったら紹介してくれませんかね。資金の方は自分達で用意しますんで」

 

 あの廃教会はギルドから押し付けられた物件の一つだと言う。なら、他にも何かあるのなら紹介して欲しいと頼むが………。

 

「おいおい主神殿、いい加減立ち話は止せ。早く其処の原石達を紹介してくれぬか」

 

「あぁ、椿。悪かったわね」

 

 ヘファイストスの書斎から顔を出しているのは、ヘファイストス・ファミリアの団長椿・コルブランド。

 

褐色肌と黒髪、左目の眼帯が特徴的なヘファイストス・ファミリアの団長にして最上級鍛冶師(マスター・スミス)の称号を冠する第一級冒険者(Lv.5)の女傑である。

 

二つ名は。

 

「【単眼の巨師(キュクロプス)】、テメェが出てくんのかよ」

 

「その名で呼ぶのは勘弁してくれ。モンスターみたいで好かんのだ」

 

 まさかオラリオの最高の鍛冶職人がいるとは思わず、ベートはつい声に出してしまう。

 

しかし、そんなベートの態度にも全く気にした様子もなく、椿はただ笑い飛ばした。職人気質と気持ちの良い性格も、彼女が打つ武器が売れる理由だろう。

 

尤も、実際に彼女が製作した武器は何れも強力なのは間違いないのだが。

 

「【凶狼(ヴァナルガンド)】。お前さんの飛躍も確かに大したモノだが、手前としてはそちらの小人族(パルゥム)が気になるな」

 

「り、リリの事ですか?」

 

「うむ。齢八歳そこらでLv.2に為ったと言うから、どんな修羅かと思ったが………何とも愛らしい娘ではないか。主神殿、ヘスティア殿、彼女を手前の今夜の抱き枕にしてもよいか?」

 

「駄目に決まってるでしょ」

 

「あ、アハハ。相変わらず面白い子だね。椿君は」

 

「いい加減話進めろや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………成る程、そちらの要望は分かった。【凶狼】、お主の要求は特に面倒だな。腕の振るい甲斐がある」

 

「テメェの腕は聞いている。が、生半可な出来を晒したらそん時は………」

 

「生意気な台詞を吐くな狼小僧、手前を誰だと思っている。グゥの音が出ない会心の逸品を見せてやろう」

 

 それから、ヘファイストスの書斎にて話し合わせること数分。ベートの要望を聞いた椿は注文された品の厄介さと面倒さから、自分が請け負う事を決めた。

 

不敵に笑い合うベートと椿。この短時間で仲良くなったなと、ベジットは二人を見て思った。

 

「さて、後はそこの小人族ちゃんだけど……何か希望するモノはあるかしら?」

 

「あ、えっとその、リリは槍を戴ければなと思いまして……」

 

「まぁ、ついこの間までサポーターだったモノね。そう詳しい訳がないか」

 

「す、すみません」

 

「そんな謝る事じゃないわよ。……取り敢えず幾つか見繕うから、その中から選んで振ってみなさい。椿、私達少し外に出てるわよ」

 

「アイ分かった」

 

 そして、睨み合う二人を書斎においてベジット達はヘファイストスの案内のもと、本拠地の中庭へと通される。

 

そこは自ら打った武器を試しに振ったり、出来映えを確認したりするちょっとした鍛練場。ファミリアの団員が良く利用するその場所は、運良く誰も使われていなかった。

 

「さて、取り敢えず用意できたのはこの6本ね。さて、リリルカ・アーデちゃん。この中から好きに選んで振ってみて」

 

「は、はい!」

 

 鍛冶神に言われ、一先ず一番手元にあった槍を手に取る。

 

重さ、長さ、どれもヘファイストス・ファミリアらしい一級品。自分が果たしてこれを手にしていいのかと迷っていると、ふとベジットと眼があった。

 

 やって見せろ。そう伝え、頷いてくる恩師にリリルカも頷いて応えた。

 

目を閉じ、集中する。人前で槍を振るうことに戸惑いながらも、それでも連日ベジットから教わった体術を駆使して……。

 

「ヤッ!」

 

 放つ。踏み込みから肩先、腕から手、力の伝わる最短の動作を意識して放たれるその一突きは、周囲にパンッと音を響かせた。

 

「うーん、何時聞いても良い音」

 

「──────」

 

 武の事など微塵も知らないヘスティアは、リリルカの放つ槍の音を小気味の良い音としてしか認識していない。これを聞くと気持ちいいよねー、なんて呑気な事を口ずさむ処女神の隣では鍛冶の神が冷や汗を流していた。

 

「……ねぇ、ベジット君」

 

「ウッス」

 

「あれ、あなたが仕込んだの?」

 

 ジト目で見てくるヘファイストス。この女神、何でも人の所為にし過ぎではないだろうか。

 

いや、言いたいことは分かるし、そう思うのも分かるけども。

 

「半分正解。アレはリリルカ・アーデが最初から持っていたモノだよ」

 

「…………マジで?」

 

「マジのマジ。俺はそんなアイツの才能を自分のモノにする為に少しだけ手ェ貸してやっただけさ」

 

「─────」

 

 ヘファイストスは鍛冶の神。人類の武には其処まで精通していないが、長年下界にて冒険者の為の武具を打ち、その使いぶりを見てきた彼女だから分かる。

 

(何よあの娘、本当にこの間までサポーターだったの!? あれじゃあまるで第一級冒険者じゃない!)

 

 当然、膂力や他の面では比べるべくもなく名だたる冒険者には遠く及ばないだろう。

 

ただあの一突き、あの一瞬だけがヘファイストスの目に焼き付いてしまって離れない。

 

リリルカ・アーデが一瞬だけ魅せた可能性、未知なる塊を前にヘファイストスの職人としての食指が動いて(疼いて)しまった。

 

「───全く、本当にアンタ達の事になると退屈しないわね」

 

「ヘファイストス、それ褒めてる?」

 

「褒めてるわよ」

 

 ヘファイストスからの返事に目を丸くさせるヘスティアだが、ベジットは何か察した様に笑っていた。

 

「リリルカ・アーデ、だったわね。あの子の一振は私が打つわ」

 

「エッ!? ヘファイストスが!?」

 

「何よ、悪いの?」

 

「い、いや嬉しいよ! 凄く嬉しい! ……でも、良いのかい?」

 

「えぇ、久々に良いものを魅せられたからね。そのお礼よ」

 

  まさか自らリリルカの一振を打ってくれるという鍛冶神の言葉にヘスティアの目が丸くなる。どうやらリリルカ・アーデに余程何かを見出だしたのか、上機嫌な神友にヘスティアは一先ずヨシとした。

 

「あ、でもちゃんとお代は戴くからね」

 

「あ、はい。ですよね」

 

「流石に其処までは上手くいかんか」

 

 それもそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、無事に問題なく装備一式の依頼を終えたベジット達は、大通りへと出ていた。が、彼等の中に主神であるヘスティアの姿はなかった。

 

「何だか、悪い事しちゃいましたね。ヘスティア様を置いてリリ達だけだなんて」

 

「仕方ねぇだろ。来る時は向こうの団員が護衛してくれるって言うし、オラリオの治安だって以前程悪かねぇ。テキトーに飯を喰ってる間に合流すんだろ」

 

 ヘスティアは現在、ヘファイストスから拠点に出来る物件に付いて相談中である。ヘスティア・ファミリアには現在三人の団員が所属しており、内一人が幼女という事もあって地下の居住スペースは主神とリリルカの占領状態になっている。

 

ベジットもベートも屋外で生活するのにあまり抵抗は無い方だが、それでもオラリオで生活している以上、いつまでも廃教会で生活するには対外的に見て醜聞が過ぎる。

 

 だからこそ、ヘスティアは眷族の皆が同じ屋根の下で暮らせる様に友神であるヘファイストスに相談を持ち掛ける事にしたのだ。

 

(………仕方ねぇ、店に着いて時間を見付けたら、迎えに行ってやるか)

 

 普段は駄女神やら何やらと言われている主神だが、眷族の為にアレコレ奮戦しているヘスティアをベジットもやはり気に掛けていた。

 

 そんなこんなで大通りを歩くこと数分、目的の店へと辿り着いた。

 

「ベジット様、此処ですか?」

 

「おぉ、【豊穣の女主人】。値は張るがそれに見合った飯が出るっつーから、前々から気になってたんだよ」

 

「予約の時間には少し早ぇーが……ま、遅れるよりはましか」

 

 予定の時間より5分程早いが……まぁ、もし駄目だったら店の外で待っていたら良いだろう。三人は軽い足取りで店のウェスタン扉へと手に掛けて……。

 

「すんませーん、ヘスティア・ファミリアの者ですがー……」

 

 瞬間、店の中が凍り付いた。

 

否、より正確に言えば店の従業員が戦慄した様子で此方を見ていた。

 

 ガクガクと、猫人らしい従業員が震えだす。

 

「き、来たニャ。とうとう、遂に!」

 

「あ、えっと………少し早かったけど、席空いてます?」

 

 何故だろう、初対面の筈なのに猫人から化物を見るような目で見られているんだけど………。

 

「ミア母ちゃぁぁん! 来たニャ! 【大食い荒らし(ビッグ・イーター)】が遂に来てしまったニャァァァァッ!!」

 

「び、ビッグ?」

 

「何やらかしてんだよテメェは」

 

「ベジット様、また二つ名増えたんです?」

 

 何やら恐慌状態で店の奥へと消えていく従業員。ベートとリリルカがジト目で見てくるが、ベジット本人は全く心当たりが無いので困惑する他なかった。

 

 ただ、周りの他のお客は知っているらしく、ベジットの姿を見るなりヒソヒソと小声で話している。

 

「おい、あのベジットが【大食い荒らし】なのか!?」

 

「あぁ、俺も人伝いで聞いたから詳しくは知らないが、何でも大食いで客引きしていた店を一晩で閉店に追い込んだらしい」

 

「彼処って、バカみたいな量の飯を出して食いきれなかった奴から高額な賠償金を請求する悪質な店だった所だろ!?」

 

「食べきったら無料。その言葉を最期に奴はこの業界から足を洗ったそうだぜ。店のモノを跡形も残らず食い散らかす【大食い荒らし】、遂に此処にも目を付けたか!」

 

「ど、どうすんだよ。俺ここの店気に入ってんだよ! 従業員は可愛いし、飯も美味いから、コレを目標にして頑張ってたのに!!」

 

「なら実力で排除するか? 相手は一つのファミリアを一瞬で消し飛ばす化物だぞ」

 

「もう駄目だ、おしまいだぁ……」

 

 何だか店内がお通夜状態になっている。え、これ俺の所為なの? ベジットは訝しんだ。

 

「………お前、そんな事をしていたのかよ」

 

「ベジット様、世の中には慈悲という言葉があってですね」

 

「ち、違うって! 俺別に最初はそんなつもりは無かったんだよ!」

 

 あの時はまだマトモにダンジョン探索も出来ず、復興作業に勤しんでいた頃。お金も無く、主神であるヘスティアを食わせていくのだけで精一杯だった。

 

 いっそ、ダンジョンに強行突破してモンスターを狩りまくってやろうか。正邪決戦の影響で、当時ダンジョンは一時的封鎖されていた為に、半ば自棄になっていたベジットであったが。

 

 そこに偶々客引きをしていた店の店主が腹が減っているなら好きなだけ食わせてやると、誘ってくれたのだ。ベジットは二の句も継げずに店へと入っていった。

 

 そこが膨大な量の飯を提供し、残した者には法外な請求を叩き付けるという悪質な飲食店だと知らずに……。

 

 結果、店の食べ切ったら無料、御代わりも無料という最高の謳い文句にホイホイ釣られたベジットはそのまま店にあるすべての食料を平らげ、悪質として知られた飲食店を破滅へ追い込んだのだ。

 

「だって、あの頃はマジでヤバかったし、ダンジョンにも入れなかったし、食べきったら無料(タダ)って言ってたし……」

 

 ベートとリリルカは何も言わなかった。いや、言えなかった。

 

「来たかい」

 

 そんな時、店の奥から先程の猫人と共に体躯の大きな女性がやってきた。

 

身長はベジットやベートとほぼ同等、180c程あるその女性は、何やら凄味のある笑みを浮かべていた。

 

「アンタの噂は聞いているよ【大食い荒らし】。アンタの胃袋に挑めるとは、料理人冥利に尽きる」

 

「あ、ベジットです」

 

「ならベジット、今日はアタシがアンタを満足させてやる。シル、案内しな」

 

「ハイ! ミアお母さん!」

 

 どうやらあの迫力のある女性がこの店の主人らしい。

 

 何だか酷いスレ違いが起きているみたいだが、食べられるならまぁ良いかと、ベジットはやって来た銀髪の少女に目を向ける。

 

目を、向けて……。

 

(は、え? 何でいんの?)

 

 シルと呼ばれる従業員の少女を見て、ベジットは目を丸くさせる。しかし、ベジットが気付いた事に気付いた少女は、一瞬だけ目を開かせると……。

 

(内緒、ですよ)

 

 そう、人差し指を唇に当ててウィンクしてきた。実にあざとい。

 

「おい、何してんだ。早く座れよ」

 

「ベジット様?」

 

「お、おぉ悪い悪い」

 

 二人に急かされ、大人しくシルの後を付いていく。まぁ、余所の派閥の事だからと追及しないことにしたベジットは、彼女をシルとして扱う事にした。

 

 そして、案内された席に座り、注文を取る。

 

「ベートは兎も角、リリルカはお酒はまだ止めておこうか。さて、なに食べる?」

 

「何でもいいから早く決めろ」

 

「リリも大丈夫です」

 

 どうやらこの場は自分に任されている様だ。

 

それなら……。

 

「取り敢えず、メニューに書かれている奴全部で。あ、お酒はまた随時聞いてくれ」

 

 店は、再び時が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回、神会。

神々が集う場所で、ヘスティアは問われる。

奴は、何者なのかと。





オマケ


その頃のベル君。

「………やはり、独学ではこれが限界か」

 あの日から、神の恩恵とは異なる力を知り、自在に扱えるように鍛えてきた嘗ての静寂。

しかし、如何に空に浮けようと如何に岩を砕ける光を放とうと、女神を吹き飛ばせる程に膂力を引き上げようとも、それ以上の成果を引き出せる事は出来なかった。

 師が必要だ。これ以上この力を引き出すには自分一人では限界だ。

そこまで考えて、アルフィアは首を横に振る。

「フッ、現役を退いた私が、今更何を極めるというのだ」

それに、今のオラリオには奴がいる。最強を越えた最強。ザルドを、自分を、簡単に退ける規格外の化物が。

 世界の終末は既に取り払われ、残す問題はダンジョンの攻略のみ。

それも、奴がいれば事足りる問題だろう。

もう、英雄を望む必要はなくなった。なら、自分に出来ることは……。

「お義母さーん、ご飯出来たよー!」

「あぁ、今行く」

この小さく、愛しい子を守って行こう。いつか、自らの意思で私の手から巣立っていく………その日まで。

「今日はお義母さんの嫌いな野菜も沢山いれたからね。チャンと残さず食べるように!」

「………フッ、メーテリアに似てきたな。少しは勘弁してくれ」

「ダメ!」

「……………ウヌゥ」

「マジか、ベルの奴マジか」

「流石のアルフィアも愛息子には勝てなかったか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。