ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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日刊ランキング1位、ありがとうございます。

そんな訳で初投稿です。


物語3

 

 

 

「────ギルドには、私が話を通しておいたわ」

 

 鍛冶の神ヘファイストス。迷宮都市オラリオの中でも屈指の鍛冶職人。そんな彼女が本拠地(ホーム)にしている館兼工房、その応接間にてヘスティアとベジットは招かれていた。

 

 徹底的に人払いを済ませ、辺りには殆ど人の気配はない。対面に座るヘファイストスは酷く疲弊した様子で溜め息を吐いている。

 

「内容はこうよ、“下界に降りてきた私の友神が、手土産に持ってきた素材アイテムを法外な値段でぼったくって来たので、思わず神威を出してしまった”てね。話、合わせておきなさいよ」

 

「う、うん。分かったよヘファイストス」

 

「なんか、スミマセン」

 

 人払いをしている為、お茶も自分で出すしかないヘファイストスは一旦席を立つ。この時、甲斐甲斐しくも二人にもお茶を差し出してくれる事から、どうやら機嫌はそこまで悪くないらしい。

 

「ほ、本当にごめんねヘファイストス。まさかベジット君の持つ荷物があんなヤバい代物だとは思わなくて」

 

「……スミマセン」

 

 心底申し訳なさそうにしているヘスティアに対し、ベジットは戸惑いの方が大きく、未だ自分が何をしたのか分かっていない様子だった。

 

ベジットに悪意や害意といった意図はなく、ただ本当に分かっていなかった。それが分かっているからこそ、ヘファイストスは何処から質問したらいいか分からず、頭を悩ませているのだ。

 

「───悪いけど、謝ったからってハイそうですかって受け入れられないわよ。何せこっちは一時的とは言え眷族(子供達)全員が気絶しているのよ? 団長含めてね」

 

 あの時、ベジットが布を剥がした瞬間に溢れた呪いの如き強大な“威”。それは漏れ出した威を抑える為に二柱の神威を必要とする程で、これにより一つの派閥(ファミリア)を擬似的な壊滅状態に追い込んでいた。それも、迷宮都市の中でもトップの鍛冶職人を有するヘファイストス・ファミリアを、である。

 

 ギルドからは『そんなに怒るほどの額だったの!?』と、ヘスティアを妙に恐れるようになり、気絶から快復したヘファイストスの眷族達からも心なしか白い目で見られた気がした。

 

「────まぁ、不幸中の幸いな事に、今日が休養日で良かったわ。椿も珍しく息抜きしていたし、お陰で被害らしい被害もなく、怪我人はいない。精々頭に小さいたん瘤作っているだけだったわ」

 

「「本当にすみませんでした」」

 

 鍛冶職人は兎に角火を扱う仕事。火と鉄と四六時中向き合い、手にした鎚を振るう。その最中に気絶したらそれこそ大惨事な大事故に繋がる事がある。

 

 ヘスティアは勿論、ベジットも己の過ちに深々と頭を下げていく。原因は兎も角、自身の行いを素直に悪いことだと認めているベジットを見て、ヘファイストスは取り敢えず溜飲を下げた。

 

「………はぁ、もう良いわよ。悪気がないと言うのは分かったし、そっちの君も事の重大さの半分は分かったみたいだしね」

 

「あ、はい。………半分?」

 

 溜め息を吐き、一応あのヘスティアの眷族(子供)というだけあって、一度は赦す事にしたヘファイストスだが………まだ本題は終わっていない。

 

今回の騒ぎの原因となったベジットの“荷物”、アレに追求する為にヘファイストスは一度お茶を啜って間を置く。

 

「ベジット君、だったかしら。アナタ、あの素材アイテムは一体何処で手に入れたの?」

 

「荷物、ですか?」

 

 ベジットがオラリオに差し出すつもりで持ってきたとされる素材アイテム。布に覆われ、部屋の隅に立て掛けられたソレは一見すればただの荷物にしか見えない。

 

 何だかやたらとアレに拘るなと、ベジットは戸惑いながら質問に応えた。

 

「そうッスね、でっかい谷………と、言えばいいんですかね? そこでモンスターを狩っていたら偶然手に入りました」

 

 茶を啜っていたヘファイストスの手が止まる。

 

「───谷、ですって?」

 

「えぇ、はい。矢鱈とドラゴンばっかり出てくる谷だったから印象に残ってます。特にヌシらしいデッカイ竜もいましたし」

 

「デッカイ…………竜?」

 

 カタカタと、茶飲み椀を握るヘファイストスの手が震えている。

 

「あ、はい。あとなんか全体的に黒かったし……」

 

 カタカタからガタガタに変わり、テーブルにお茶が溢れ落ちていく。

 

「へ、ヘファイストス? どうしたんだい? 顔色、悪いぜ?」

 

「他に………」

 

「へ?」

 

「他に、その黒い竜には、何か特徴とか無かったかしら?」

 

 何やら酷く疲弊している様子の鍛冶神。その顔には汗がだらだらと流れ落ち、隻眼の目がガン開いている。

 

様子のおかしい神友にヘスティアもドン引いていると。

 

「あとは………何か隻眼だったのが印象的でしたね」

 

「」

 

 声の無い悲鳴を上げて、椅子からズリズリと滑り落ちる鍛冶の女神。白目を剥いて倒れ込む神友にヘスティアは黒髪のツインテールをピンッと伸ばしながら助けに入る。

 

「ど、どうしたんだいヘファイストス! 取り乱すなんて君らしくないじゃないか!」

 

「………取り乱したりもするわよ。え? ベジット君、アナタ黒竜と出会ったの? ていうか、戦ったの?」

 

「はい。まぁ、流れ的に」

 

「流れ的に?」

 

「あ、でもちゃんと勝ちましたよ? 死体も残さず」

 

「勝った? 死体も残さず?」

 

「へ、ヘファイストス? 顔が大変な事になってるよ?」

 

 目を白黒させて、ベジットの言葉を反芻するヘファイストス。様子のおかしい彼女にヘスティアも戸惑うばかり。

 

 それから少しして、落ち着きを取り戻したヘファイストスはベジットに改めて向き直った。

 

「───じゃあ話をまとめると、アナタは竜の谷へ単身赴き、武者修行の一環で竜の軍勢を屠り、黒竜を討伐したと?」

 

「です」

 

 何やら言い回しが物々しいが、特に嘘は無いので正直に頷く。ベジットが持ってきた荷物は黒竜の鱗と爪、そして牙。

 

他には取り巻きだった竜達の素材を幾つか。某狩猟ゲーの様に取り敢えず一通りの素材を揃えて見たつもりだった。

 

 尤も、黒竜そのものはベジットが跡形もなく消し飛ばしたので、上記以外の素材は殆ど残っておらず、剥ぎ取ったというより落ちてた物を拾っただけなのだが。

 

 すると、俯いて深々と溜め息を吐き出すヘファイストスは、「ウーッ」と呻き声を上げて頭を抑える。

 

「───ベジット君、正直私は君の言うことを信じる事は出来ないわ」

 

「え?」

 

「なッ!?」

 

 頭を抑えていた手を離して改めて顔をあげると、ヘファイストスの顔は疲弊に満ちていて、そんな彼女の口から聞かされる“信用出来ない”の一言は、ヘスティアとベジットに小さくない衝撃を与えた。

 

「何を言うんだいヘファイストス! ベジット君が嘘を言っているというのかい!? 確かに彼は色々とやらかしているみたいだけど、そこに悪意は全く無い! 恩恵を受けていない人間がモンスターを倒すのは凄い事だと思うけど、それは昔の彼等だってそうだったんだろ!?」

 

 最後の言葉、それはヘスティアが地上に降りるまで、下界に興味を示さなかったからだ。

 

天界にいた頃の彼女は炉に灯る火を見守るだけ、良くも悪くも自身の役割に没頭し続けた女神だ。

 

当然、下界の事情には疎く、先程から神友とベジットの口から出てくる【黒竜】なるモンスターと思われる単語も、彼女にはなんの事か分からなかった。

 

 しかし、それでも自分の眷族(子供)が嘘つき呼ばわりされるのは我慢ならなかったのか、神友相手でも怒号を飛ばす。

 

 だが、対するヘファイストスの反応は違った。

 

「────違うのよ、そうじゃないのよヘスティア。下界に於いて、黒竜はそんな軽い存在じゃないのよ」

 

「え?」

 

「いい? 二人とも、良く聞いて」

 

 そこからヘファイストスから語られるのは、下界の人々と黒竜に纏わる話だった。

 

 大穴から途切れること無く溢れ出てくるモンスター達。ある日、其処から黒く巨大な三体のモンスターが顕れ、瞬く間に下界を荒らし回っていった。

 

 陸の王者(ベヒーモス)

 

 海の覇王(リヴァイアサン)

 

 『漆黒の黒竜』

 

 これ等は後に【三大冒険者依頼(クエスト)】として語られており、迷宮神聖譚(ダンジョンオラトリオ)にも参照しており、今ではお伽噺として語られている。

 

「でも、この三大冒険者依頼はお伽噺でもなんでもない。今も達成されるのを世界中から求められているの」

 

 嘗て迷宮都市にて千年もの間、最強の座に君臨していた派閥(ファミリア)が二つほど存在していた。

 

 片やゼウス・ファミリア。団長はLv.8のマキシムと呼ばれる眷族で、世界最強の眷族と称賛された傑物。

 

 片やヘラ・ファミリア。団長の女帝と称される眷族は驚異のLv.9である。

 

千年もの間最強の座に君臨し、その歴史の中でも精鋭の中の精鋭。

 

 陸の王者、海の覇王と立て続けて撃破し、神々も人類もこれなら黒竜も倒せると期待を寄せ、竜の谷へ向かう彼等を見送った。

 

けれど。

 

「彼等は負けたわ。惨敗したと言っていい」

 

 歴史上この上ない強さと、戦力で臨んだ筈の黒竜討伐は二大派閥の敗北と言う形で幕を下ろした。

 

これによりゼウス、ヘラの両ファミリアの戦力は激減し、その後はロキ、フレイヤの女神が彼等を追放。嘗ての最強を欲しいままにした最強二大派閥は、こうして事実上の壊滅となった。

 

「………さて、これで分かったかしら? 私がアナタの事を信用出来ないと言った理由(ワケ)が」

 

 今度は、ヘスティアが震える番だった。ベジットも表面上は平静を装っているが、湯飲み椀を持つ手は微かに震えている。

 

「じゃ、じじじじじゃあ、ベジット君はそのトンでもない黒竜とやらを」

 

「一人で討伐した事になるわね。しかも恩恵も無しで」

 

 ヘファイストスの言葉の意味を漸く理解できたヘスティアはウンウンと頷くが、ベジットの方はそれ以上に別の意味で混乱していた。

 

(え? あのドラゴンってそんなヤバい奴だったの!? 確かにこれまで戦ったモンスターの中では手応えはあった方だけど……マジで!?)

 

 歴史上最強の二大派閥が、揃って壊滅。世界はその後失意と絶望に明け暮れたけれど、その後に顕れたポッとでの冒険者(恩恵無し)が呆気なく倒しましたとさ。

 

 うん、誰も信じられねぇわ。仮にこれが後の絵物語になっても、幼年幼女から大バッシング受けるわ。

 

 

(ていうか、それじゃあ俺がしたのって質の悪いハイエナ(横取り)行為をしたって事にもなるじゃん! そっちの方が嫌だわ!!)

 

 弱った相手にトドメを刺すだけとか、ベジット的にアウトもアウト。しかし今更嘘でしたとか言えないし、嘘を吐くのもベジット的にアウト。

 

一体どうしたら良いのか頭を悩ませていると、ヘファイストスはそれにねと言葉を続ける。

 

「仮に、仮にアナタの言うことが事実で、実際に黒竜を討伐していたとして、それを聞いた他の神々はどう思うかしら」

 

「それって、どういう───」

 

「絶対面白がる!!」

 

 今一つ要領を得ないと首を傾げていると、隣のヘスティアが食い気味で割り込んできた。

 

「二大派閥ですら倒せなかった黒竜を、誰も知らない人間が一人で倒した。その伝聞が広まれば嘗てのゼウス、ヘラへの侮辱だと怒る人も出てくるでしょう」

 

 そうなったら最悪、迷宮都市オラリオを中心に世界中が大混乱に陥る。其処から更に面白がった神々が余計な茶々を入れて人類を煽動なんてしたら……。

 

「地上は、混沌に包まれるわ。比喩なくね」

 

 シンッと応接間が静かになる。ズズズとすっかり冷めたお茶を飲み干すと、ヘファイストスは言う。

 

「それに、私が信用出来ないと言ったのはそれだけじゃないの。アナタにも理由があるのよ」

 

「俺が?」

 

 これ以上まだなにかあるのかと、辟易としながら訊ね返す。

 

「───私達“神”にはね、人類(子供達)の隠し事が通じないの」

 

「………そう、なんですか?」

 

「そう、でもアナタからは何が嘘で何が本当なのかすらも分からなかった。………単刀直入に言うわ、ベジット君」

 

【アナタは、何者なの?】

 

 先程とは雰囲気が変わるヘファイストスにベジットは目を見開く。赤い頭髪は僅かに揺れ、空気が凍り付く。人とは異なる威圧を放つその姿は見るものを圧倒していた。

 

 これが、神威を纏った神の姿。

 

しかし、対するベジットは特に何も感じてはいない。彼が言葉を詰まらせているのは、ただ自分の事を何て言ったらいいか説明できなかったからだ。

 

 本来の自分は此処とは違う別の世界の人間で、部屋で寝て、気付いたら有名漫画のキャラクターになってました。

 

 ───先程の黒竜云々の話より胡散臭い。仮令(たとえ)正直に話しても、目の前の鍛冶神が信用してくれるとは到底思えない。

 

 けど、嘘を言うのも違う気がする。目の前の女神がこうしているのは、彼女自身が真摯でいるからだ。

 

オラリオに住まう以上、これからは様々な神々と出会う事になるだろう。そこでもしまた今回と似たような説明を求められた時、自分はまた嘘を吐くのか?

 

目の前のヘファイストスが神威を纏ってまで訊ねてくるのは、ある種の保険。似たような出来事が起きた時に「私が神威で聞き出したから大丈夫」という免罪符にしてくれる為だ。

 

 彼女が優しい女神であることは充分理解している。そんな彼女の意図には出来る限り応えてやりたいし、嘘は極力言いたくない。

 

(………やっぱり、正直に言うべきか)

 

 たとえドン引きされようと、可能な限り誠実でいたい。この世界に来るまで掲げていた自分の矜持、それを守る意味を含めて、ベジットはヘファイストスの質問に応えようとして。

 

「ベジット君はベジット君さ。僕の初めての眷族で、これから一緒に生きていくかけがえのない家族。それ以上でも以下でもないさ」

 

 いつの間にか自分の握り拳に手を重ね置いていたヘスティアが、自身の言葉を遮り代わりに応えていた。

 

「それに、僕達の嘘を見抜く力が通用しない。だから信用も出来ないなんて、そんなの傲慢の極みだぜ? そこは地上の未知として喜ぶ所だろ?」

 

 未だ神威を纏うヘファイストスを、ヘスティアはウィンクしてそんな事を言う。

 

軈て、ヘファイストスは神威を解き、呆れた様子で肩を竦める。けれど、その顔には最初の時に見せた柔らかな笑顔を携えていた。

 

「───全く、アンタには敵わないわね。いいわ、そこまで言うなら追求しない。でも、何かあっても自分達で何とかしなさいよね」

 

「うん! ありがとうヘファイストス!」

 

「ありがとうございます。ヘファイストス様」

 

「礼なんて良いわよ。さて、そろそろ夕飯時だし今日の所はこのくらいにして、食べていきなさい。宿の方も私が手配しておくわ」

 

「「何から何までありがとうございます!」」

 

 やっぱりこの神は良い神様だ。そしてヘスティアも。

 

「───ヘスティア」

 

「ん?」

 

「ありがとな」

 

「にっへへ~」

 

 色々とダメな所はあるけれど、それでもこの女神を主神にして良かった。照れ臭そうに笑うヘスティアを見て、ベジットは改めてそう思うのだった。

 

「───所でベジット君、あの素材を包んでいる布の事なんだけど」

 

「あぁアレですか? 一応ちゃんと洗ってますけど………臭いますか?」

 

「いや、そうじゃなくて、何かとてつもなく強い力が込められているのが気になったから、天界から盗んだりしたモノなのかなって」

 

「違いますよ。適当に落ちていた布を拾ったモノですよ。まぁ、俺の【気】を込めてますけど」

 

「────キ?」

 

「あ、そこからか」

 

 数分後、ヘファイストスは宇宙を背負った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、一時はどうなる事かと思ったけど、話が分かる良い神様だったな」

 

「だろー? 僕の自慢の神友なんだぜ。天界にいた頃から色々と世話になったんだから!」

 

「其処は自慢する所じゃないだろ」

 

 夜も更け、ヘファイストス・ファミリアで夕食をご馳走になった二人は、手配された宿屋に向かう為に月明かりのオラリオを歩く。

 

「ていうか、そういうベジット君だって遠慮無しにドカ食いしてるじゃん! ヘファイストスの眷族(子供)達、ドン引きしてたよ」

 

 ジト目で返すヘスティアにグヌッと言葉を詰まらせる。久し振りのマトモな食事でつい二十人前程ペロリと食べてしまい、同席していたヘファイストス・ファミリアの面々に引かれていた。

 

 椿という団長や一部の眷族は良い食べっぷりだと喜んでくれたが、ヘファイストスは苦笑い。換金の査定(黒竜素材は除く)から引いておくと言われた時は、応接間で詰められた時よりもションボリした。

 

「───でも、明日も話し合いなんだよな」

 

「いっそのこと、現場まで連れてったら? ベジット君空飛べるし」

 

「それも良いんだけど、それだとアンタ等の事を考えなきゃいけないしなぁ」

 

 未だに決まっていないのは持ち込んだ素材の事、話を聞いた限りだと歴史の長い迷宮都市でも黒竜を素材とした武具は存在せず、扱える者もまたいないと言う。

 

 だったら直接手に入れた場所に赴いて素材を置いてくれば良いとヘスティアは言う。確かにその方が手っ取り早いし、黒竜討伐の証明にも繋がる………いや、それは別に良いか。

 

 ただ、仮にヘファイストスを連れに行くとしても、辿り着くには数日の時間を要する。当然その気になれば一時間もしないで辿り着けるが、それだと全知零能の身であるヘファイストスが耐えきれない。

 

それにその間余所の女神様を連れ出すのも外聞的に問題あるだろう。

 

「もういっその事、向こうの団長君とかも連れていけば? 君なら僕とヘファイストス、コルブランド君の三人乗せても飛べるだろ?」

 

「悪いなヘスティア、俺の背中は1人乗りなんだ」

 

 出来ないとは言わない。ただ端から見て大の大人の女性が三人背中に乗ってくるのが嫌なだけである。

 

(あーあ、瞬間移動が使えたらすぐにでも出来たんだけどなぁ)

 

 早いところ瞬間移動や他の技も覚えなければ。そんな事を考えながらオラリオの道を歩いていくと、複数の影が向こうから横切って行くのが見えた。

 

「あれ? 今誰か通ったかい?」

 

「あぁ、アレは確かアーディ、だったか?」

 

 夜の道で暗くとも、横切る人の顔は確りと視認できた。しかも感じられる気からして、オラリオで道案内してくれたアーディ・ヴァルマで間違いないだろう。

 

「どうする? もうすぐ宿に着くし、ヘファイストスからあまり出歩かないように言われているけど……」

 

「あー、闇派閥(イヴィルス)だっけ? 今オラリオを騒がせているっていう」

 

 ヘファイストスから聞かされた闇派閥なる集団。ゼウス・ヘラの二大派閥をオラリオから追放してから暴れるようになったと言う所謂反社会組織。

 

この頃は比較的大人しくなったけど、最近また何かと騒がしくなってきたらしい。

 

 自分達がオラリオに来る前も、闇派閥の幹部らしき眷族が派手に暴れ、多くの死傷者を出したのだとか。

 

成る程、道理で街がヒリついている訳だ。

 

「確か、ガネーシャ・ファミリアって街の治安を守っているんだよな」

 

「うん。アーディ君もその仕事に駆り出されているんだろうね」

 

 15歳の少女がやる仕事じゃねぇよ。ベジットは内心でそう溢すが、それが許されないのが今の世の中なのだろう。

 

なら、今の自分………ベジットとしてやるべき事は。

 

「───ヘスティア」

 

「良いよ。僕も友神の眷族の事は気掛りだし、それに───何かあったら、君が守ってくれるんだろ?」

 

 やはり、ウチの主神は話が分かる。ヘスティアを背中に乗せると、ベジットはそのまま跳躍。夜の街を行くアーディ・ヴァルマとガネーシャ・ファミリアの眷族達を、空から追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────全ては、神の掌の上だった。

 

 ゼウス、ヘラの二大派閥が消え、悪が蔓延り、闇が深まった。見せ掛けの平穏を徐々に蝕むように闇派閥は蠢き、連日不可解な程に侵略行為は続いている。

 

 嘲笑い、嘲笑し、人の尊厳を踏みにじる。そんな輩が許せないと、私は木剣を奮う。

 

『いいね、君の正義。実に心地いよ』

 

 黙れ。

 

『巨正で悪を踏み潰す。成る程、それも確かに正義の形なんだろう。力こそが正義、実に分かりやすい』

 

 黙れ。

 

 頭に擦り続けるのは、神の言葉。心の底まで見透かしているような言動で此方を惑わすのは、神の中でも悪神に近いモノだろう。

 

でも、かの神の言葉に私は反論出来なかった。違う、黙れの言葉しか出ないのは、私が幼いからか。

 

 正義とは何か? そう訊ねてくる神の幻影を振り払うように、私は剣を振るう。

 

しかし。

 

「ヒャハハハハハッ!! どうしたクソ妖精(エルフ)、その様でアタシを殺れんのかヨォッ!?」

 

 狂喜の笑みを張り付けて得物を振り回す。闇派閥の主力の一人、殺帝(アラクニア)

 

この女を止めるには、今の私では未熟に過ぎた。

 

「ダメよリオン! 一人で先走らないで!」

 

「っ、ですが!」

 

 状況は数の差で此方がやや劣勢。ガネーシャ・ファミリアも【象神の杖(アンクーシャ)】も、伏兵を忍ばせていた闇派閥の相手に手を焼いている。

 

 いや、そもそも殺帝がそうなるように私達を分断しているのだろう。此方を嘲笑い、喜悦に顔を歪めているのがその証拠。

 

悔しいが、今の私ではこの女を抑えきれない!

 

「そら、吹き飛びなぁッ!!」

 

「アグッ!?」

 

 隙を晒してしまった脇腹を蹴り飛ばされ、壁に突き刺さる。衝撃と痛みで血を吐き出してしまった私は、今の一撃で暫くは身動きが取れなくなってしまった。

 

(早く、動かなければ……、奴に、殺される!)

 

 全身が痺れ、身動きが出来なくても必死に立ち上がろうとする。それを殺帝はただ嗤いながら見下ろすだけ。

 

(………? 何故、追撃して来ない?)

 

 今の内に逃げるなり、トドメを刺す事も出来た筈。しかし、当の奴は此方を嗤うだけで何もしてこない。

 

ふと、視線の端で人が見えた。それは私の友人で、親友で、アリーゼ達と同じくらい大切な───。

 

「大丈夫かい君! 怪我とか無い!?」

 

(嗚呼、こんな時でも貴方は他者を労れるのですね)

 

 こんな時で、この状況で、それでも他者を重んじる。そんな彼女だから、私は………。

 

「─────ヒャハ」

 

 その声は、やけに耳に届いてきた。此方を嘲笑う嘲笑、舌を垂らして此方を見る殺帝はこれ迄で一番の醜悪な笑みを見せ付けてくる。

 

(───まさか!?)

 

 それに気付いたのは、殆ど偶然だった。度重なる闇派閥の奇襲、奪われたマジックアイテム、異様に増えた闇派閥の信徒達、そして────子供。

 

そんな欠片が私の中で嫌な形となって組み上がっていく。

 

 逃げろと叫んでも声がでない。助けに行こうとも脚が動かない。色褪せていく景色の中で、アーディは幼き少女の所へ駆け寄り………。

 

「─────神様」

 

「え?」

 

「パパとママに………会わせてください」

 

「ッ!?」

 

 目に涙を浮かべて、体には幾つもの火薬が巻かれ、その手には────起爆の撃鉄が。

 

「アー……」

 

 瞬間、爆発が起きた。施設を揺さぶる程の大きな爆発。

 

 空気が凍り付いた。

 

「────嘘」

 

「自爆、だと」

 

 アリーゼも、【象神の杖】も、仲間達もその光景が信じられなかった。

 

動けるのはただ一人、この悲劇の片棒を担いだ殺帝だけ。

 

「ヒャハ、ヒャハハハハハッ!! して殺ったぜ狂い咲きィッ!!」

 

 嗤う。殺戮を悦び、殺戮を愉しむ帝王は、冒険者ですらないただの子供が、見事にLv.3の冒険者を道連れに出来たことを喜ぶ。

 

そんな嘲笑の叫びを聴きながら、私は動けなかった。目の前の現実を受け入れず、ただ泣いて喚くだけ。

 

「う、嘘、嘘だ………あぁぁぁぁぁ、アーディィィッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、あっぶね。まさか自爆するとはなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────は?」

 

 

 

 

 

 

 その声を漏らしたのは、誰だったか。アリーゼ? 輝夜? ライラ? 或いは殺帝か、はたまた私か。

 

しかし、聞こえてきた此処にはいない第三者の声は、私達だけでなく闇派閥も凍り付かせている。

 

 だってそこには………。

 

「よっ、さっきぶりだなアーディ」

 

「──────ベジット、さん?」

 

 アーディと気絶した闇派閥の少女、どちらも無傷(・・)で塵一つ付いてはおらず。

 

アーディ本人も、何が起きたのか分かっていないようで、目を丸くパチパチさせていた。

 

 世界は、動き出す。秩序(我々)ではなく、闇派閥(奴等)でもなく、突然現れた彼を中心に。

 

 軈て、視線に気付いたその男は、二人をゆっくりと地に下ろし。

 

衣服の上半分が吹き飛んでもその姿には傷一つなく。

 

「オッス、俺ベジット。ヨロシク」

 

 場違いな程に、超然としていた。

 

 

 

 

 





Q.大丈夫? 黒竜討伐の件、誰かにバレたりしない?

A.某鍛冶女神「無いわね。そんな話、普通は誰も信じないわよ」

「ゼウス・ヘラの派閥の眷族が、確認しに行かない限り」

あとは某学院が通り掛からなければ。



次回、【大抗争】

「バカな事やってないで、働け!」

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