ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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天井まで引いて得られたのはベジット一体のみ。

分かっていたけど……ワリ

やっぱ、つれぇわ。


そんな訳で初投稿です。



物語32

 

 

 

 その力に触れた時、レオンは古代の英雄達が如何にしてモンスターと戦ってこれたのか………その理由を知れた気がした。

 

身体の内側、或いは底に封じ込め、閉じられて施錠された扉が丁寧に且つ、勢い良く解き放たれた感覚は………生涯、忘れる事はないだろう。

 

 全身に漲る力、腕を振るうだけで大気が揺れ、突風が巻き起こる。これが自分に隠された力なのだと自覚したレオンは、奥底から沸き上がる衝動を抑えるのに手一杯になっていた。

 

他の面々も同様で、ベジットの手解きにより次々と新たな力に目覚めたフレイヤ・ファミリアの面々は、末端から幹部までもが引き出されたその力に困惑し、瞠目していた。

 

 本来、今この場で力を引き出されるのはフレイヤ・ファミリアだけの筈。困惑するレオンが張本人たるベジットに訊ねれば……。

 

「ついでだから」

 

 と、あっけらかんに応えた。神の恩恵とは異なる力、それをついでで授ける彼をレオンはただ呆然となる他なかった。

 

 そして、全ての団員に“気の解放”を施すと………改めて、レオンに向き直った。

 

「さて、これで全員やったな。それじゃあ折角だから………レオン、そのまま気を扱って俺と戦ってみようか」

 

 願ってもいない話。この力をより深く理解し、より己のモノとするにはこの力を良く知る者との手合わせが必要だ。

 

 神の恩恵と“気”という新たな概念。この二つが組み合わさった事で発生する力は一体どれ程のモノなのか。

 

 試したい。目の前に突然現れた未知に対し、レオン・ヴァーデンベルクは自然と笑みが溢れた。

 

 普段の紳士とした微笑みではなく、巨大な敵を相手にした冒険者特有の………獰猛な笑み。そんな、昔の一面が強く出始めたレオンに、遠巻きで見ていたオッタルが腕を組んで観戦の姿勢に入る。

 

 他の面々も同様で、幹部達も末端の眷族達も手出しをすることなく、固唾を呑んで見守った。

 

試合を始めるなら、合図が必要だろう。そういってチラリとベジットが女神フレイヤに一瞥すると、仕方がないと溜め息を吐いて手を上げる。

 

 やれやれと本神は呆れた様子を振る舞うが、口元のニヤケは隠しようがない。何だかんだ楽しみにしてたんじゃん、そんなベジットのツッコミはスルーして。

 

「────始め」

 

 女神の手が下ろされる。

 

 刹那。地を踏み、蹴った瞬間ベジットの間合いに踏み込んだレオンの剣が振るわれる。

 

 腰に差した一振の剣、硬い事以外では特に変わった要素のない普通の剣だが、第一級の上澄み(Lv.7)の手によって振るわれるその一撃は下手な階層主を両断せしめる威力が秘められていた。

 

(これ程か!?)

 

 振るう直前、自身に起きた変化に誰よりもレオン自身が驚愕していた。身体の軽さ、踏み込みの鋭さ、どれも今まで自分のしてきたモノとは明らかに違い過ぎた。

 

 まるで、位階(レベル)が一つ上がった様な感覚。唐突に現れる内に秘められた“気”という強大な力の獣が荒れ狂っているかの様な………。

 

 そう、レオンは振り回されていた。自分に施された新たな力、その発露に。

 

このままではベジットの頚を切り落としてしまう。最早自分でも止められないその一振は………しかして、ベジットの人差し指によって防がれる。

 

 キンッと軽い音と共に空気が破裂する。

 

唖然。防がれたレオンも、周囲の面々も、瞬きの内に起きた出来事に驚愕していた。

 

「どうやら、まだ力に振り回されているみたいだな」

 

 唖然としているレオンを見て、ベジットは笑う。

 

 何故、ただの指で己の剣が防がれたのか。驚きながらもベジットの指を観察していたレオンは気付く。

 

 うっすらと、ベジットもまた気を纏っていた。全身ではなく、防いでいた人差し指だけに。

 

 明らかに自分とは出している“気”の出力が違う。なのに、極めれば此処まで差が出来るのか。ベジットの力に触れ、恐れると同時に愉しくなってきたレオンは、そのまま後ろに下がって剣を構える。

 

 次はどう攻めるか。何の構えも見せておらず自然体のベジットだが、まるで隙が見えてこない。

 

これが、救界の英雄の力。未だ一端の力も引き出せていないのに、今の自分では勝てる気がしない。

 

そんな、レオンの胸中を察してか、ベジットはクイッと手招きした。

 

「学区の先生に教えてやるよ。気を扱う者同士の戦いって奴を、懇切丁寧に……な」

 

 不敵に笑うベジット、挑発的なその笑みに、レオンの教師としての仮面が引き剥がされる。

 

「────上等だ。吠え面かかせてやる!!」

 

 それは、嘗てのレオンの素。力だけを信奉し、実力を、己の力を高める為だけに奮闘してきた………昔の自分。紳士の仮面を引き剥がし、凶悪に笑う獅子に対してベジットも笑う。

 

 全身に、剣に(・・)、気を浸透させる。初めて気を体験し、その上で其処まで至れたレオンに感心しながら、今一度ベジットは手招きする。

 

「来いよ」

 

 再び地を駆ける。白い炎を纏い、前進するその姿は白い獅子の如く。対するベジットも全身に気を纏い、振り下ろす剣を前にまたもや指だけで応戦するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっぱりフレイヤ・ファミリアはいいな。飯が満腹に成る程出てくるなんてな」

 

「────君、一度ヘイズ君に菓子折り持ってった方がいいよ。最後辺り泣きながら笑ってたよ、彼女」

 

 それから暫くして、フレイヤ・ファミリアで一通りの鍛練を終えて夕飯をご馳走になったベジット達。

 

満腹となった腹を擦りながら、カラカラと笑うベジットにヘスティアは呆れながら諫める他なかった。

 

「いいじゃねぇか。ヘイズ達……満たす煤者達(アンドフリームニル)だっけ? アイツらにも気を教えたんだから、対価としては充分だって女神フレイヤも言ってただろ?」

 

「そうだけどさぁ……僕は不憫に思えてならないよ」

 

 最初はベジットがやってきた事に愕然とし、また世話になると言われた時は涙目になり、おかわりを際限なくしてくるベジットに泣きながら半狂乱となり、御馳走様と手を合わせて終わりを告げる頃には感情らしい感情は消え失せていた。

 

 気という新しい力を教わり、体験した事で治療師の己だから分かる“気”の有用性に驚きはするものの……それはそれ、ファミリアとは関係なしにヘイズはベジットを終生の敵として認識した。

 

「コイツ、前にも似たような事をしてたのかよ」

 

「ベジット様、流石にリリもドン引きです」

 

 最後辺りはフシャーと猫のように威嚇してくるヘイズにヘスティアもリリルカも頭を下げる他なく、ベートも泣きながら中華鍋を振るうヘイズを見て、何時もの悪態が吐けなかった程だ。

 

「まぁまぁ、それにしたって二人とも今日は良い経験になったんじゃねぇのか? ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア、共に今のオラリオを代表する最大派閥だ。連中と交流して自分なりに得るものがあったんじゃねぇのか?」

 

「「!」」

 

 仲間からの悪態も何のその、何時もの不敵な笑みを向けてくるベジットにベートもリリルカも言葉を詰まらせた。

 

 確かに、どちらの派閥も先の闇派閥との決戦を乗り越えただけあって、出鱈目に強い事が分かった。

 

特にベートは同じ第一級冒険者とは思えない程の彼等の強さに眼を剥いた。仮に、気を使わず戦ったとなれば、無惨に敗北するのは自分の方だろうと、そう察する程度にはどいつもコイツも化物みたいに強かった。

 

 リリルカも、【勇者】やガリバー兄弟から戦い方を教わった事で彼等が如何に高みにいるのかを思い知らされた。

 

二人とも自分の弱さを痛感し、心の内で向き合うのに頭を悩ませていた。

 

 そして今日、彼等はベジットが扱う“気”を体験した事でより強さを増していく事だろう。焦れる気持ちが表面に出てくるのを抑えきれなくなったベートは堪らず舌打ちを溢した。

 

 そんな二人を見て、ベジットはカラカラと笑い出す。

 

「なぁ、ワクワクするだろ二人とも。唯でさえ強いアイツらが、今後はもっと強くなる。そんな奴等をどう超えるか、考えただけで堪らないだろ?」

 

 それは、正に戦闘民族に相応しいイカれた思考だった。相手が強いのなら、自分もまた強くなって見せる。限界なんてモノは度外視したベジットの価値観に触れた二人は、獰猛に笑う団長に戦慄した。

 

 ワクワクする。そう語るベジットにヘスティアは深い溜め息を吐いて呆れ返る。

 

「もう、いつから僕のファミリアはそんなガチガチの武闘派になったんだよ。嫌だぜ僕は」

 

「おぉっと、悪い悪い。………まぁ、そんな訳でお前らが今後強くなる事を諦めないのなら、俺も可能な限り手伝ってやる。だから目指してみようぜ、少数精鋭の最強派閥って奴に」

 

 先程の凄みのある笑みは鳴りを潜め、ガハハと笑うベジットに二人は肩を竦めた。

 

 戦闘民族サイヤ人。過去のないベジットが覚えている数少ない自分の事、こんなのが嘗ての地上に蔓延っていたのかと思うと、良く色々と無事でいられたモノだなとベートはある種の感心すら抱いていた。

 

 そんな彼等にこれ迄沈黙していた者が話し出す。

 

「………ベジットさん、並びにヘスティア・ファミリアの皆さん。俺から一つ提案があります」

 

「レオン君?」

 

「どした? 叩かれた腹がまだ痛むのか?」

 

 フレイヤ・ファミリアでの激闘、その終幕は気が途切れた所への一撃だった。突き出された掌底がレオンの腹部にめり込み、意識もろとも奪われてのダウン。気を纏い、戦いを初めてから僅か数分の間の出来事である。

 

 そんなベジットの気遣いをレオンは首を横に降って否定する。

 

「あなた達を、学区に招待したい」

 

「学区って、それレオン君がいた所だろ? バルドルが創設者っていう」

 

「はい。我々学区──『海上学術機関特区』は世界各地を巡って優秀な人材を集め育てている移動教育機関です」

 

 改めて学区の説明をレオンの口からされるが、この中で一つ聞きなれない言葉が含まれていた。移動教育機関ってなに? 学校が移動するの? 不思議に思うベジット達を他所にレオンは言葉を続けた。

 

「もうじき、このオラリオに大点検大修理(オーバーホール)の為に港町のメレンに帰港します。その時、学区で教育された生徒がこのオラリオで眷族募集(リクルート)派閥体験(インターン)をする事になるのですが………」

 

「いや待って、ちょっと待って。情報が、情報が多い。り、リクルート? え、就職の斡旋所(ハローワーク)か何かなの? 学区って、学舎じゃなかったの?」

 

「学区で学んだ経験をオラリオで実践する。と言うのであれば、ある意味そうとも言えますね」

 

 マジか。世界を数ヶ月旅してみたけど、そんな教育機関があるだなんて今日まで知らなかった。隣を見ればヘスティアも良く分かっておらず、ベートもリリルカも頭に疑問符を浮かべている。

 

良く分かっていないのは自分だけでなかった事にベジットは安堵した。

 

「ベジットさん、あなたの授けてくれた“気”は世界に変革をもたらします。その力を我々の学区で是非俺と同じ講師として教え広めて戴きたい」

 

 レオンの目論見、それは学区で気を体得した生徒をオラリオへ浸透させる事だった。

 

 オラリオは良くも悪くも実戦形式の街。常に命を懸けて未知に挑み、時には敗北し死に至る。どれも一発限りの失敗が許されない場面が数多くあるダンジョン探索に於いて、ベジットの示した気の力は剰りにも汎用性が優れていた。

 

 相手を感じ取れる感知能力、鎧や剣、他にも様々な形へと変えられる自在力。中でも翼を無しに空を飛べる力は今を生きる人々にとって魅力的過ぎた。

 

確かに習得するまで時間は掛かるだろうし、個人の素質にも大きく影響されるだろう。だが、如何なる種族を問わずに修められる力というのは、教育機関とされている学区に於いても破格であった。

 

 それに……。

 

「我々学区は、オラリオだけでなく世界中のモンスターを討伐する等、実戦体験も項目にいれてあります。当然ながら怪我人は出るし、時には死傷者も出る」

 

 今の世界には、オラリオのダンジョン程でないにせよ、数多くのモンスターが幅を利かせている。海にはモンスターが生態系を崩し、漁に出た人々を襲ったりする。

 

 他にもあらゆる場所でモンスターによる被害は数多く出ている。ベジットが旅をしている間も被害は少なくなってもゼロになった訳ではないのだ。

 

 モンスターは世界中で蔓延っている。オラリオはダンジョン攻略にばかり気を取られているが、黒竜亡き後も、外界では他にも問題が残されていた。

 

しかし、その問題もベジットが学区の生徒達に気を教えれば解消されるかもしれない。気を覚え、力を付け、外のモンスターを圧倒出来るようになれば、学区の有用性はかなり大きくなる。

 

「どうか、一考の程を宜しく頼みたい。あなたと、二人の力は今後の世界に欠かせない要素になり得るかもしれないのだから……!」

 

 世界の為に。そう言って頭を下げてくるレオン・ヴァーデンベルク。その真剣な様子にベジット達は何も答えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々教育熱心な子だったよね。レオン君」

 

 レオンと別れ、もうすぐ拠点である廃教会に着く頃となった所で、改めてヘスティアが口を開く。

 

「そうだなぁ。あんな良い奴に教わってるんだ。学区の生徒達も結構できるんだろうな」

 

 学区の存在意義と有用性、レオンの口から説明される内容にヘスティア達は圧倒されていた。外の世界は未だに多くのモンスターにより多くの被害と悲劇が生まれ、世界は未だに理不尽な力で涙を流し、辛い現実が起きていると。

 

勿論、ダンジョンの最前戦であるオラリオも重要だろう。モンスターの脅威もダンジョンのモンスターと比べれば然程ではないし、何より対抗する派閥(ファミリア)も存在する。

 

 だが、強い奴等である程他人への関心は薄く、進んで救いの手を差し伸べる者は希少で、その大抵がその弱みに付け込んで利用する事を狙う輩が殆どだ。

 

 神々も例外ではなく、下界を己の娯楽への飢えを満たす玩具である事としか見ていない連中も多い。そんな中で、実戦体験と称してモンスターと戦う学区の存在は世界中の人々にとってオラリオ以上に敬意を示す存在でもあった。

 

「ベジット様は……レオン様のお誘いを受けるおつもりなのですか?」

 

 レオンから見てもベジットの力は破格なのだろう。黒竜を倒し、救界を成し遂げたベジットの力。その力が個人差はあれど誰でも扱える力なのだと知って、世界中に広めてやりたいというレオンの気持ちもリリルカは理解出来た。

 

 勿論、ベジットやヘスティアが学区に行くというのならリリルカは止めないし、当然自分も付いていくし、なんならレオンからも直々にスカウトされている。

 

 リリルカもベジットから薫陶を受け、気を体験し習得しつつある身。彼から見ればリリルカ・アーデも充分学区に相応しい人材と言えた。

 

 ただ、問題なのは……。

 

「ハッ、無敵のベジット様なら外の連中にも救いの手を差し伸べられますってか。随分とお優しい事だなぁ!」

 

 やはりというか、予定調和というか。当然ながら噛み付くベートにリリルカはアチャーと天を仰いだ。

 

 ベートは過剰な程の実力主義者だ。弱者には容赦なく罵声を浴びせ、歯向かってくる者を笑って蹴り飛ばす。それが彼の無意識な発破なのだとしても、言われた方は絡まれた方は堪ったモノじゃない。

 

 ベジットに敗れ、ヘスティア・ファミリアに改宗した所で、その本質は変わらない。

 

外にいる連中が日々モンスターの恐怖に晒されても、それは変わらなかったソイツが悪い。そう断じ、ベジットに噛み付くベートだが……。

 

「いや、学区に行くつもりはねぇよ」

 

「──────あ?」

 

 アッサリとレオンの誘いを拒否する姿勢を見せるベジットに、ベートの顔が固まる。

 

「イヤだって、俺達まだ拠点の一つも手に入れていねぇ弱小派閥だぞ。武器もまだ受け取ってねぇし……そんな零細ファミリアが学区に誘われても、なぁ?」

 

「あ、あー……そうでしたね」

 

 至極当たり前な団長の言葉にそうだったとリリルカは頷いた。

 

「それに、いきなり世界の為だとか言われてもピンと来ねぇよ。此方はまだまだオラリオでやりたい事があるんだ。仮に誘いに乗るとしても、それはやることやってからだ」

 

「───やる事、だと?」

 

「あぁ、その為にも先ずは拠点に就いてだな。ヘスティア、何か良い物件あったか?」

 

「ふっふーん! 聞いて驚くなよ。なんと遂に! 僕達の本拠点(候補)が見付かりました!」

 

 ベジットのやる事とは何なのか、首を傾げるベートを他所にVサインを出すヘスティアは続ける。

 

「うん! ちょっと大きめな館なんだけど、立地も悪くないし、中庭もあるし、僕としては彼処が一押しかなーって!」

 

「お、マジか。なら明日早速見に行くか」

 

 上機嫌で物件を語るヘスティアにベジットも感心の声を出す。そうして廃教会の前へとやって来たベジット達だが……。

 

 何やら、教会の前に人集りが出来ていた。

 

「あれ、どちら様ですかね。あの方達は?」

 

「あれは、ガネーシャん所の………【象神の杖】の妹どもと」

 

「アストレアの所の……輝夜君にアリーゼ君だね。どうしたんだろ?」

 

「他にも随分といるな……誰だ?」

 

 見て分かるのはオラリオの治安維持部隊のガネーシャ・ファミリアと、同じくオラリオの平和を護る正義の眷族達が、他にも大所帯の人間と何やら話をしている。

 

少なくとも乱闘をしている訳ではなさそうだが……一体何が起きている?

 

 不思議に思うヘスティア・ファミリアだが、次に聞こえてくる声にベジットの顔が歪んだ。

 

「アーッ! 見付けたァー!」

 

「こ、この声って……!」

 

「まさか……!」

 

 金髪の長い髪が人垣の奥で揺れる。聞き覚えのある声にベジットとヘスティアが揃って顔を歪めるが、ベートとリリルカは頭に疑問符が浮かぶだけだ。

 

 なんだと思ったのも束の間、神の恩恵を受けた眷族が眼を剥く程の敏捷(すばしっこさ)で、人集りを抜けて……。

 

「会いたかった。会いたかったわ! 私のベジット!」

 

「あ、アフロディーテ!?」

 

 飛び掛かり、両手を広げながら迫ってくる金髪の女神、ヘスティアよりも細いツインテールを揺らしながら、口元を尖らせる美の女神。

 

 ウゲェッと顔を歪めたベジットが黒竜戦でも見せたことのないガチ回避を披露し掛けたその時。

 

「やめろ」

 

「アフンッ」

 

 パシュンッと、何処からともなく飛んできた矢(鏃は吸盤になっていた)がアフロディーテなる女神の蟀谷に直撃。

 

フレイヤに並ぶ美の女神アフロディーテは、そのまま池ポチャし、沈んでいった。

 

「「「アフロディーテ様ァッ!?」」」

 

 アフロディーテの眷族と思われる男性達がこぞって池にダイブしていく。もうなんなん? ヘスティア達は目の前の光景に困惑する他なかった。

 

「久しぶりだな。ヘスティア」

 

「っ!? き、君は……まさか、アルテミス!? アルテミスなのかい!?」

 

「知り合いか? ヘスティア」

 

 割れた人集りから現れたのは藍色で長髪の女神だが、その出で立ちはヘスティアやロキとは違い、武人の様な厳粛な雰囲気を身に纏っていた。

 

いや、手にしている弓と先の正確な矢の軌道といい、どちらかと言えば狩人に近しいその女神は、ヘスティアを見てニコリと微笑んでいた。

 

「あぁ! 彼女は女神アルテミス! 僕の神友だよ! 嬉しいよアルテミス、まさか君にまで会えるなんて!」

 

「私もだ。お前と下界で再会出来たのは望外の喜びだ。本当はお前との再会を祝したい所だが……済まない、先ずは彼の方を優先させて欲しい」

 

 そう言って、アルテミスはベジットへ向き直り……。

 

「君の名はベジットと言うのだな。……うん、誠実で、大きな男だ。私のオリオン()となるのなら、君の様な男がいい」

 

「────はい?」

 

「私の眷族(子供)達を救い、黒き蠍を打ち倒した英雄よ。私と婚姻を前提に付き合って欲しい」

 

 瞬間、絶叫。雄叫び、慟哭、驚嘆、あらゆる感情が込められた叫びが爆発し、オラリオに轟く一方で。

 

(────学区の件、受けた方が良いかもしれねぇな)

 

 これから訪れる嵐の予感に、ベートはレオンからの誘いを前向きに検討し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





「……所でさ、ヘスティアが学区の教師になるとしたら、担当科目はなんだ?」

「やっぱり、家庭科かなぁ」



オマケ。

もしもヘスティアとベジットが15年前にいたら。

「………やはり、届かんか」

「いや、割りといい線いってたぜ。何度かヒヤリとした場面はあったからな」

「抜かせ、未だ本気を見せていない貴様が言っても、説得力はないぞ」

 オラリオにある巨大な敷地。最強派閥の一角を担う灰色の少女は、地に座り汗にまみれる己を見下ろす忌々しい男を睨み付ける。

 ベジットと名乗る男はある日、主神であるヘスティアと共にオラリオに突如やって来て、最初の内は平穏に暮らしていたという、

 しかし、闇派閥が暴れ、街へのテロに巻き込まれてからは進んでその力を発揮した。

 最弱(Lv.1)の身でありながら、並みいる第一級の冒険者を塵芥の如く吹き飛ばし、その身に黄金の炎を纏った時は正に理不尽の権化と化していた。

 そんな奴との出会いは……我ながら最悪だった。ダンジョンで戦う他の冒険者を煩わしいと諸とも吹き飛ばした時、奴の拳に地に沈んだのが、最初の始まり。

 それから、私を始め派閥の連中やゼウスのバカ共も挙って奴に挑み始めた。奴のあまりの強さに一度は二大派閥総出で挑んだりもした。

 結果。奴には一度も跪かせる事は敵わず、それは病が癒えた今も変わらない。

 気に入らない。心の底から気に入らない奴だが、その大胆不敵さには……救われた事もある。

「そういやよ、メーテリアちゃんの方は大丈夫なのか? もうすぐ子供が産まれるんだろ?」

「あぁ、お前に病を治してもらってからは、進んで外に出るようになった。お陰で私もあの傲慢な女神も何時も気が気でならんよ」

「ハハハ、それは何よりだ」

「ベジット、貴様は何れ私が倒す。外に蔓延る黒竜どもを片付けたら、また挑ませて貰うぞ」

 だから、それまで誰にも負けるなよ。そう告げる私を前に……。

「あー、うん。ガンバッテ」

 おい、何故眼を逸らす。





その後、気炎を吐いてベジットを追い掛ける灰色の少女の姿があったとか。

「フィン、オッタル、助けてー!」

「「巻き込むなバカ!!」」


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