ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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また急に寒くなってきました。
風邪をひかないように気を付けましょう。

そんな訳で初投稿です。


物語37

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、クソが。ロキとフレイヤの所のガキ共、動きが早すぎるだろ」

 

「お陰で俺ン所のクソガキ共も全員やられちまった。強すぎんだろ」

 

 オラリオの路地裏を二柱の男神が走る。闇派閥に属し、これ迄甘い汁を啜り続けてきた神は瞬く間に狩られた己の眷族と、狩人たる敵対派閥の眷族達を思い出し、その恐ろしさに身を震わせる。

 

 唐突に行われた闇派閥残党への掃討作戦。恐らくは決戦直後から少しずつ下準備はしてきたのだろう、彼等の澱みの無い攻撃により闇派閥は満足な反撃すら出来ずに敗走。

 

 殆どの邪神達も捕まり、残るは自分達だけ。盾にする眷族もなく、ほぼ絶望的な状況の中で彼等の脚はダイダロス通りへと向けられる。

 

「ダイダロス通りに行くぞ。あそこは文字通り闇派閥の温床だ。彼処に逃げ込めば時間は稼げる!」

 

ダイダロス通りに逃げ込み、ほとぼりが冷めるまで隠れておけば、いつかは再起も図れる。彼処は熟練の冒険者も手を焼く地上の迷宮、ダイダロスに潜む同志を頼り、最悪オラリオから一時的に離れれば万事上手く行く。

 

「ルドラの野郎もそこにいるわけね。なら、話は早ぇ、連中に見付かる前にとっととズラ───ポゥッ!?

 

 そう信じ、その場からさっさと走り去ろうとした一柱の邪神の口から奇声が溢れ出す。何事かと思い振り返れば、その男神は尻を突き出す様に前向きに倒れており、その尻には一本の矢が深々と突き刺さっていた。

 

「や、矢だと!? バカな、この狭い路地裏で正確に射貫ける弓矢使いなんてオラリオには……!?」

 

「フンッこの程度の条件、森を駆け抜ける獣を射止める事に比べれば造作もない」

 

「ッ!?」

 

「特に、貴様等の様な醜悪な臭いを漂わせていては尚更な」

 

 聞こえてくる声、その声が上からだと気付いた男神は頭上を見上げると、建物の上に立ち、此方を見下ろしてくる女神がいた。

 

「て、テメェはアルテミス!? なんでオラリオに!?」

 

 蒼く美しい長髪を靡かせ、汚物を見る目で見下ろしているのは貞操と狩猟を司る天界きっての狩人、女神アルテミス。

 

【神の力】もなく、純粋な弓矢の腕前で狭く薄暗い路地裏の中を走る自分達を正確に射貫くその手腕、疑う余地もない。自分達を追ってきたのはロキやフレイヤの眷族達だけではなかった。

 

「お前の質問に応える義理も義務もない。人類(子供達)を弄び、下界に災いを振り撒いた大罪を今日こそ贖ってもらうとしよう」

 

「く、クソが!」

 

 矢をつがえ、狙って来るアルテミスに男神は悪態を吐いて逃走する。容赦なく降り注ぐ矢、しかし流石のアルテミスでも土地勘に利のある男神には及ばないのか、放たれる矢は直撃せずに服や髪に紙一重で避けられる。

 

 このまま目的の所まで逃げ切ってやる。足下に突き刺さる矢を避けて次の曲がり角を曲がった瞬間────。

 

「ンなッ!?」

 

 現れたのは金色、薄暗い路地裏でありながら尚光輝く美しき金色に、男は目を奪われ、そして理解する。

 

自分は、追い込まれたのだ。狩人の放つ矢を避けているのだと誤認し、まんまと目の前の女神の前に現れるように誘導されたのだ。

 

「ど、退け、アフロディーテッ!!」

 

 必死に退けるよう叫ぶ男神、そんな彼を一瞬だけ目の前の女神は嘲笑い。

 

「キラッ☆」

 

 その微笑みが、男神が目にした最後の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「協力、感謝するよ。女神アルテミス、女神アフロディーテ。お陰で此方の被害は最低限……いや、それ以下に抑えることが出来た」

 

「君達の力になれたのなら幸いだ」

 

「フッフーン! 当然よ、もっとこの私を褒めなさい! 崇めて奉りなさい!」

 

 闇派閥の残党、連中の地上からの掃討する作戦は予想外の二柱の女神により、被害規模は【勇者(ブレイバー)】の予想を下回る最善の結果で終わる運びとなった。

 

 ロキとフレイヤ、そしてガネーシャによる炙り出しによって、大多数の闇派閥を掃討され、その討ち漏らしも目の前の彼女達の活躍によって摘み取る事が出来た。

 

 女神アルテミスが矢で射止め、女神アフロディーテが魅了で以て無力化させる。彼女達の眷族の連携もあって、地上に蔓延る闇派閥は今日で壊滅の日となった。

 

 神時代の始まりから続く因縁の終着。その一区切りにロキは肩を解すように回しながら共に顔馴染みである女神達に歩み寄る。

 

「しかし、何で自分らがオラリオにいるん? 二柱(ふたり)共、地元でそれぞれやる事があったんとちゃうんか?」

 

「あぁ、それは………」

 

「愛しのダーリンを迎えにきたのよ!」

 

 アルテミスの言葉を遮るアフロディーテ。彼女の口から出てきたダーリンなる言葉にロキは面白さ以上に厄介事を感じ取った。

 

「はぁ? ダーリンやと? 自分、下界で伴侶でも見繕ってたんか?」

 

 唯でさえ、アフロディーテにはとあるネタ(爆弾)が隠されているのに、更に火薬を混ぜ込もうと言うのか。面白く思いながら恐ろしくもある目の前の美の女神に戦慄している一方で。

 

「おい、ふざけるなよアフロディーテ。お前のようなトンチキ女神に纏わり付かれてはオリオンに迷惑だろう」

 

「お、オリオンッ!?」

 

 天界で“恋愛アンチ”として知られるアルテミスが、男に懸想している!? 突然降って来た超特大のネタに悪戯の神であるロキの細目がガン開く。

 

「ハァーッ!? アンタみたいな堅物にベジットが靡く訳ないでしょうが!? ベジットを可哀想だと思わないの!?」

 

「お前のような頭がパーな女神に側にいられる事の方が彼にとって苦痛だろう。彼の様な風来坊は気ままに旅をしながら狩りをして生きるのが性にあっている」

 

「私の隣でって? カーッ、貞操を語っておきながらなんて意地汚い。見んねロキ、卑しか女神ば───イダダダダ!? あ、アイアンクローは止めてェッ!」

 

 二柱の女神によるキャットファイト(一方的)を眺めながら、ロキは思う。

 

(え、あの恋愛アンチのアルテミスが男にホの字? しかも相手はヘスティアん所のベジットやと!? しかも、競争相手はあのアフロディーテ!?)

 

 しかもしかも、あのヘスティアも自身の初めての眷族がベジットという事もあって、少なからず想っているのは見ていて分かる。

 

この二柱の女神が、それを知っているのかそうでないかは定かではないが。

 

 そんなの、そんなの………。

 

(絶対、面白い事になるやろがい!!)

 

 ロキは確信した。このネタは今後のオラリオにおける嵐になると。神と人との恋愛事情は神時代の始め頃から言い伝えられている一種のラブロマンス(コンテンツ)

 

 それも三柱の女神、内二柱が処女神である彼女らが一人の男を巡って恋のバトルが行われる。

 

 絡みたい。もうメッチャ絡みたい。天界にいた頃から悪神として名を馳せ、時には神々さえ殺し合わせる天界きってのトリックスターである女神ロキは、この恋愛前線に如何にして横槍を入れてやろうか一瞬迷った。

 

 けれど、悪神であるが故に聡明なロキは気付いてしまう。こういうラブコメは、下手に茶々を入れずにただ見守るだけで充分美味しいのだと。

 

下手に介入してしまっては折角の素材が死んでしまう。しかし、悪戯の神である自分としては、さりげなくで良いから介入したい。

 

自分の介入によって傾く陣営、その恋心とか甘酸っぱい展開とか「アレ、ウチの入れ知恵やねん」と、後方理解者面して酒を飲みたい!

 

嗚呼、なんというジレンマか!

 

(しかし、相手は美の女神と狩猟の女神、下手に手を出したら万が一の時に火傷や済まへん! 何と言うハイリスクハイリターン! ベジットめ、やるやないかい!!)

 

 悪戯の神とロキ・ファミリアの主神としての立場がロキの心情を掻き乱し、羽扇で口元を隠すベジットを幻視する。

 

 そんな神々のやり取りを聞き流しながら、ロキ・ファミリア達が闇派閥の邪神達の送還の準備をしていた時。

 

 神塔───バベルより、一人の団員が団長であるフィンの元へ駆け寄っていくのが見えた。

 

「団長、報告です!」

 

「どうした」

 

「ダンジョン24階層、大樹の迷宮にてルドラ・ファミリアとアストレア・ファミリアの交戦を確認。ヘスティア・ファミリアの団長と先行部隊は無事に27階層に向かわれたとの事です!」

 

 予定通り。此方が地上を担当している間、向こうも既に戦闘に入っているのはフィンも予想していた。

 

「し、しかし、ルドラ・ファミリアが大量の火炎石を爆破。これにより戦況の確認は難しくなったとの事です」

 

「やはり手札を隠していたか。……よし、部隊を編成する! 僕達とガレスはこのままダンジョン24階層に向かい、アストレア・ファミリアと先行部隊の救援に向かう!」

 

 部下からの報告を耳にし、即座に次の作戦を構築する。体力も気力も充分。継戦にも支障がない事から、選ばれた団員達は即座に返事をして準備を進めている。

 

 今日で暗黒期を終らせる。その気概を欠片程鈍らせないまま次の闘いに備えて動こうとしていた時。

 

「だ、団長、団長ー!!」

 

 黒髪の少年、ラウル・ノールドが酷く慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「ラウル、どうした? 何かあったのか?」

 

 ラウルが今回担当しているのは後方の備えと本拠地の防衛。先の戦いを経て、順当に力を付けてきたと判断しての抜擢。

 

“気”という新たな未知の力に覚醒し、将来有望視していた彼が、顔中汗まみれで走ってきている。

 

 親指が微かに疼くのを認識したフィンは、内心で沸き上がる不安を圧し殺してラウルに訊ねる。

 

「あ、あの、アイズさんとアマゾネスのお二人が、本拠地から抜け出しました!」

 

「なにぃっ!?」

 

 反応したのは、ロキ・ファミリアのオカン、リヴェリアである。

 

 アイズの母親代わりであり、最近ではアマゾネスの姉妹の面倒も見ることになっていた気苦労の絶えないエルフの王族。

 

 迫力マシマシで反応する彼女に怯えながらも、ラウルは涙目で続けた。

 

「そ、そして……ヘスティア・ファミリアの【槍の寵児(リュース)】と一緒に、ダンジョンへ向かったって……その、報告が」

 

「「「────oh」」」

 

 嫌な予感が連鎖爆発している。遠くから聞こえてくるもう一柱の処女神(ヘスティア)の声に、ロキ・ファミリア一同は天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、殆ど運だった。アストレア・ファミリアのノインが迫り来る黒い爪に反応できたのは、目の前のモンスターが既知の存在で、その速さを遠巻きながら見たことがあったから。

 

 剣を投げ、盾を構えて後ろに下がる。刹那、自分の居た場所に鋭い爪が通り過ぎ、剣も盾も奴の爪によって細切れにされていった。

 

 そして盾を構えていた腕も、奴の振るった爪先が掠り、ぱっくりと寸断される。肉と骨が断ち斬られ、鮮血が辺りに散っていく。

 

「ノインッ!!」

 

 近くにいたネーゼが避けろと叫ぶ、薄皮一枚で繋がっている自身の右腕。脳が痛みを理解する前にノインは下がろうとするが……間に合わない。

 

 大口を開けて迫るモンスター、自身の最悪の最期を予見したノインの目が恐怖で歪んだ時。

 

「ゼラァッ!!」

 

 灰色の狼が裂帛の気合いと共にモンスターの顎を蹴り上げる。

 

 振り抜く───よりも速く、モンスターはその場から後ろへ跳躍。背後の大樹へ飛び移り、自身を蹴り上げた存在を確めるように見下ろした。

 

 赤く不気味な相貌、モンスターの筈なのに何処か機械的な黒い奴をベートは見据えながら檄を飛ばす。

 

「さっさと退がれノロマ! 死にてぇのか!?」

 

「ッ!」

 

 死ぬ寸前だったノインを罵倒し、困惑していた彼女を無理やり我に戻させる。痛みと恐怖に耐えながら、ノインはベートに頭を下げて後方に移る。

 

「【凶狼】! ソイツの特性は速さと攻撃力を備えた特化型! 魔法は反射してくるぞ!」

 

「おぉっ!」

 

「物理攻撃が有効! 爪と牙、あと尻尾に注意!」

 

「それは見りゃ分かる!!」

 

 再び襲い掛かってくる黒い奴を、ベートは白い炎を身に纏って応戦する。

 

速い。その速さは下層でも最速とされる閃燕(イグアス)以上で、純粋な膂力は第一級に匹敵するとベートは数回やり合って理解した。

 

 だったら、出し惜しみはしない。ファミリアの秘匿情報だとか、個人の秘匿情報だとか、そんな事を気にしている場合ではない。

 

その決断と共に、組み付いて来る黒い奴を蹴り飛ばして一瞬の隙を作ったベートはその手から頭上に向けて光を放ち。

 

「弾けて、混ざれ!」

 

 即席の月を生成。当然、アストレア・ファミリアはその現象に驚き目を剥いた。

 

「え、えぇ!? だ、ダンジョンにお月様!?」

 

「今のは、ベート・ローガの魔法!? 詠唱してたか!?」

 

「詮索は後回しだ。ネーゼ!」

 

「行ける。これなら!!」

 

 ファミリア内の狼人(ウェアウルフ)のネーゼが、ベートの造り出した人工的な満月の光を浴びてその獣性を解放させていく。

 

種族の恩恵を解放させ、駆けていくネーゼ。ベートが蹴り飛ばし、無防備となった黒い奴の尾を掴み。

 

「ダリャァァァァッ!!」

 

 回転し、その勢いを乗せて上へと投げ飛ばす。

 

「ベート!」

 

 そして次に身を屈めて、足を揃えるネーゼの意図を察したベートは即座に駆け出してネーゼの足へと降り立つ。

 

「いっけぇぇぇっ!」

 

 瞬間、勢い良く脚を伸ばし、ベートを上空へ投げ飛ばした黒い奴の所まで押し上げる。即座に黒い奴は体勢を整え、迎え撃とうと爪を伸ばすが……。

 

「遅ェッ!」

 

 銀の弾丸と化したベートの蹴りは、振るわれる奴の爪牙よりも速く突き進み……。

 

 異常事態(イレギュラー)の塊とも呼べる奴は、ベート・ローガの一撃によって貫かれ、結晶の華となって散っていった。

 

「や、やったァ!」

 

 歓声が、アストレア・ファミリア達から沸き上がる。

 

 あのモンスターは今の自分達では対処に厳しい相手、【凶狼】がいなければ今頃どうなっていたか……。

 

 ベート・ローガという隠し玉がいたお陰で、黒い奴を速攻で片を付けられた。

 

「……さて、後は改めて連中を片付けるとしようか」

 

 残す問題は本来の目的であるルドラ・ファミリアのみ、そう誰もが意識を逸して───。

 

 

 

 

 

 

「クルルル────」

 

 

 

 

 

 

 それが間違いだった。

 

 大樹の陰から、此方を見据える赤い相貌(・・・・)漆黒の体躯(・・・・・)。目が合ったベートはこの事を皆に教えようとして……。

 

「ガッ!?」

 

 切り裂かれた。伸びてくる鋭い爪が攻撃後の一瞬の無防備を晒していたベートの脇腹を切り裂き、灰色の狼はアストレア・ファミリアの真後ろへと吹き飛んでいく。

 

「─────え?」

 

 その光景に誰もが目を剥いた。土煙の中で、鮮血に染まった【凶狼】を見てアストレア・ファミリアの全員の顔が絶望に染まる。

 

「オイオイ、ふざけろよ。誰がお代わり要求したよ」

 

 自分達を見据えるもう一体の(・・・・・)黒い奴(・・・)。そう言えばあの時も複数体出てきたっけ、等とライラが溢す。

 

「リャーナとセルティはノインと【凶狼】をお願い! アスタ、イスカ、マリューは後方へ下がりつつルドラ・ファミリアを警戒して!」

 

 即座に指示を飛ばす団長(アリーゼ)、彼女の迷いのない指示に彼女達の士気は持ち直し、それぞれ行動を開始する。

 

 アレとマトモに戦えるのはLv.4の自分達だけ。リューと輝夜、ライラとネーゼが言葉もなくアリーゼの下へ集う。

 

「ネーゼ、その状態はまだ保ちそう?」

 

「うん、まだ続けられそう。【凶狼】が造ってくれたアレ、凄いね。マジもんのお月様みたい」

 

「アレもベジットさんの薫陶の賜物か」

 

「先の白い炎の付与(エンチャント)といい、彼が来てから未知の事ばかり起きる」

 

「この戦いから戻ったら、私達も教えてもらいましょ」

 

 クルルルと呻き、此方を見据える黒いモンスター。仕掛けてこないのは先のベートの動きを警戒しての反応か。

 

「さぁ、私達の意地と正義、貫くわよ!」

 

「「「「応ッ!!」」」」

 

 相手は既知、しかして脅威。これから始まる冒険を前にアストレアが正義を為そうとする。

 

………その横で。

 

「────ケヒ」

 

 悪意がまた、その舌先を伸ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィルヴィス・シャリア。ディオニュソス・ファミリアの一員で、神々から【白巫女(マイナデス)】の二つ名を賜った彼女。

 

彼女もまた闇派閥の討伐の為に先輩達と共に先行部隊として派遣された一人である。

 

 悪しき時代、混沌を世に広め悲しみの連鎖を生み出してきた闇派閥、彼等を打ち倒す為にその力を存分に振るう────筈だった。

 

「あ、あぁ……」

 

 言葉が出なかった。自分達を見下ろし、その目を悪意ある眼で見つめてくるオリヴァス・アクト。先の戦いで半死人となり、ディアンケヒト・ファミリアで終らぬ半死半生の状態でこの先の人生を消費するだけだった男。

 

 そんな奴があろうことか階層主と融合し、自分達を見下ろしている。おぞましいその威容は見る者全てに恐怖と絶望を振り撒いていた。

 

 加えて、本来荘厳な蒼だった階層が反転したように紅に染まっている。血の様な紅、鮮やかでけれど毒々しいおぞましき紅。

 

「も、モンスターが来る! モンスターが来るぞ!」

 

 穿たれた孔から沸いて出てくるモンスターの群れ、大規模な怪物の宴(モンスター・パーティー)の発生が先行部隊を更なる恐慌状態へと陥る事になったその時。

 

「大丈夫さ」

 

 その声は、どこまでも澄み渡っていた。

 

「お前らが持っている力、それを全部出し切ればこんな場面簡単に乗り越えられるさ」

 

「ベジット……さん」

 

 目の前に立つ一人の男、それは自分達先行部隊の実質的な隊長。その彼が自分達に鼓舞をする。

 

【勇者】の様な奮い立たせるモノではなく、寄り添って励ます言葉。けれどその言葉の裏には確かな厳しさもあり、優しさでもあった。

 

 聞こえてくるモンスターの足音、此方の戦力を優に超える相手を前に彼は死力を尽くせと言っている。

 

 ───無理だ。目の前の巨大な階層主を前に奴らを相手にできる強さも勇気も自分達は持ち合わせていない。アストレア・ファミリアや【勇者】、【猛者】とは違うのだ。

 

 自分達では、所詮誰かに寄生する事でしか何も為し得ない半端者。頭を垂れ、項垂れる彼等は自らの罪を吐露するように吐き出した。

 

「こんな、こんな筈じゃなかったんだ。俺達はただ、あんたの近くで、戦っているあんたの隣で、自分も戦っていると思い込みたかっただけなんだ」

 

「団長……」

 

 フィルヴィスの後ろで団長のバークスが地に膝を折っている。自分はこれ迄、単なる運の良さで生き残ったのに過ぎないと、自白する様に語る団長にフィルヴィスは何も言えなかった。

 

 他の面々もそうだ。強くなりたい、でも怖いのは嫌だ。痛いのは嫌だと、必要な冒険はしてこなかった彼等にとって、この苦境を乗り越えるには冒険者としての素質以上に勇気が足りなかった。

 

 バークスは己が憎かった。弱い自分が、何を犠牲にしても生き延びようとする生き汚さと、こんなに涙を流しても心の何処かでベジットが何とかしてくれると、そう思っている自分が心底気持ち悪く、吐き気がした。

 

 情けなくて死にたい。イヤだ、死にたくない。それがこの場にいる多くの冒険者達の心境だった。

 

 結局、自分達は黄金の炎という目映い光に集る蟲でしかないのだと、バークスが自嘲の笑みを溢していると。

 

「なぁ、お前ら。夢はなんだ?」

 

「─────え?」

 

「俺はワクワクする事。強い奴と戦ったり、未だ誰も眼にしていない未知に挑むこと。俺はそれを求めてこのオラリオに来た」

 

「……………」

 

「お前達は、何の為に冒険者になったんだ?」

 

 それは責める訳ではない。ベジットからの心からの問い掛け。

 

 その胸に何を抱き、何を想って冒険者という道を選んだのか。境遇? 惰性? それとも………情熱?

 

「これを乗り越えて、全員生きて帰ったら教えてくれよ。お前達の夢をさ」

 

 そう言って笑い掛けてくるベジット。その笑みは彼等が知る不敵な笑みではなかった。

 

無邪気で、何処か子供の様。自分達が夢想する英雄像とは駆け離れた微笑み。

 

「───お、れは」

 

 気付けば、バークスは立ち上がっていた。副団長のロフィナも、恐怖と絶望に心が折れていた彼等がその手に自身の武器を握り締めて立ち上がっていた。

 

 今も手が震える。怖くて脚が竦んでいる。恐怖に抗いながらそれでも戦おうとする彼等を……ベジットは笑わなかった。

 

「俺から出せる指示は簡単なモノだけ。死ぬな、みんなで生きて戦え。あのデカブツは俺が片付けるからよ」

 

 ─────心を燃やせ。

 

 最後のベジットの一言に部隊の士気が最上に高まっていく。四方から押し寄せてくるモンスターの群れに対して各派閥の団長、或いは幹部がそれぞれ魔剣や魔法を駆使して迎撃していく。

 

 その様子を見て、怪物は笑った。無駄な足掻きだと嘲り、下卑た笑みを浮かべて扱き下ろす。

 

「嗚呼、ナンテ惨メ、ナント無様! 冒険者二ナッタ者ガ冒険ヲ恐レル等………ソノ恥、私ガ死ヲ以テ灌イデヤロウ!」

 

 顎が開く。炎が凝縮され、熱が周囲の大気を歪める。

 

 放たれた火球、その凄まじい熱量を秘めたソレを………。

 

「フンッ」

 

 ベジットは素手で握り潰す。

 

「ッ! 貴様……」

 

「アイツらの冒険を邪魔するんじゃねぇよ」

 

 宙に浮かび、自身と同じ目線に立つベジットをオリヴァス・アクトは忌々しく睨み付ける。

 

そんな奴に対し、ベジットは不敵な笑みを浮かべて……。

 

「来いよ。余り物同士、仲良く()ろうぜ」

 

「ホザケェェッ!!」

 

 手招きするベジット。大胆不敵な彼を前に海竜の怒りの雄叫びが27階層に轟いた。

 

 

 

 

 

 

 





Q.何でディオニュソス・ファミリアはこんなに卑屈なの?

A.
???「それは彼等が最上の“生きたがり”だからさ! 今頃、彼等は見事な狂乱(オルギア)を奏でてくれる事だろう!」


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