ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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長くなったのでちょっと分けます。

所々作者の独自解釈が入っていますが、宜しくお願いします。

そんな訳で初投稿です。


物語38

 

 

 

「ガァッ、クッソ、俺がこんな……情けねぇ!」

 

 ────意識が途切れなかったのは、ベート・ローガがこの類いの痛みに馴れていた部分が大きかった。

 

己が第一級(Lv.5)へ至れた要因の一つ、ベジットとの特訓で幾度となく蜂の巣にされた事。

 

 比喩ではない。あの特訓という名の地獄を体験してきた事で、ベートは類い希な動体視力と耐久を獲得し、昇格へ至る架け橋となる事が出来たのだ。

 

 ムザムザ奴の一撃を受けてしまったのは……己の浅はかさ。黒いモンスターを一体倒しただけで終わった気になり、意識を闇派閥の連中(ルドラ・ファミリア)へ向けた事でもう一体が隠れ潜んでいた事に気付けなかった。

 

「【凶狼】! 無事!? 生きてる!?」

 

「勝手に……殺すな、クソ女」

 

「ヨシ、意識は確りしてるわね!」

 

 最初に駆け付けてきたのはアストレア・ファミリアの魔導師、リャーナとセルティ。その後ろでは片腕を失い掛けているノインが同じく三人の少女に守られるようにベートの元へ駆け寄ってくる。

 

 恐らくは団長であるアリーゼの指示なのだろう。ベート・ローガに致命傷を与えた奴は少なく見てもLv.5以上、ランクに差がある彼女達がいてはLv.4である彼女達の邪魔になりかねない。

 

 後方に下がり、ベート・ローガを急ぎ回復させて戦線に送り出す。それが彼女達の選んだ最善の策だった。

 

「【凶狼】、ポーションは残ってる!?」

 

「腰に...……全部、差し込め」

 

「分かった。動かすけど、痛かったらゴメン!」

 

 血を流しすぎて視界がボヤける。リャーナの声が響くように聞こえてくる。

 

 傷口にポーションが流し込まれる。染み込んでくるような痛みがベートの意識を繋ぎ止めてくれる。

 

しかし、傷が思っていたよりも深いのか、既に三本以上注ぎ込んでいるにも関わらず、ベートの脇腹の傷は依然塞がらず、血も止まらない。

 

「クソッ、足りないか!」

 

「リャーナ、私のを使って……この様だとアタシ、役に立てそうにないから」

 

「こんな時にバカ言わないでよ、あんたは自分の腕を何とかすることを考えなさい!」

 

 腕が千切れ掛けているノインが自分のポーションを使うよう進言してくるが、この状況では自殺行為に等しい。ダンジョンは弱気になっている者から無慈悲に殺しに掛かるが故に。

 

 仲間を見捨てる選択肢など持ち合わせていないリャーナはノインを叱咤し、自分のポーションをベートに注ぎ込む。

 

(クソ、クソが! 弱い奴が俺を生かそうとするな。テメェの事だけ考えてりゃ良いだろうが!)

 

 内心で悪態を吐くも、彼女達が行っている行動が最善である事はベートも分かっていた。

 

今、この状況を建て直せるのはLv.5の自分だけ。ならば己の体を一刻も早く癒して立ち上がらせる事が自分のやるべき事ならそのリソースを惜しむべきではない。

 

 理屈では分かっている。しかし、ベート・ローガにとって、現在のこの状況が何よりも耐え難い屈辱でもあった。

 

(早く、早く治りやがれ……でないと、俺は、また!)

 

 繰り返す(・・・・)。ベートの脳裏に甦る自身の()、それをまた刻むのは御免だと、必死に立ち上がろうとするが……体が言うことを利かない。

 

 焦れば焦る程に無情な時間が延びていく気がする。ボヤける視界、薄れる意識、このままでいて堪るかと、意地で意識を保っていたベートに……。

 

「危ない!!」

 

 全身鎧に覆われたドワーフの少女──アスタが、庇うように盾を構えてリャーナの後ろに回ってきた。

 

「「「ッ!?」」」

 

 瞬間アスタの盾は爆散し、ドワーフの少女は吹き飛んでいった。

 

 まさか、と彼女達の視線が奴等(・・)に向けられる。

 

「よぉ、大変そうだなぁ。アストレア・ファミリア~」

 

 最悪。まだ隠し持っていた火炎石を片手に下卑た笑みを向けてくるルドラ・ファミリアに少女達の顔が怒りに歪む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、オォォォォッ!!」

 

 一閃。目の前で己の命を取らんとしている黒い爪を、輝夜は裂帛の気合いと共に腰に差していた刃を抜き放ち迎え撃つ。

 

 己の得意とする居合いの業、並大抵のモンスターなら斬り伏せられる一刀を、しかして目の前の怪物の凶爪を逸らす事しか出来ない。

 

 持ち主の技巧に依存する得物、刀。それは卓越した輝夜だからこそ使いこなせる一振だが、その彼女を以てしても今の芸当はあと数回しか出来ないと確信した。

 

(クソ、あの人(ベジット)ならばこの程度の相手、軽々と退けていたというのに!)

 

 脳裏に浮かぶのは例の決戦。目の前の奴と同じ個体を複数相手しながら、傷一つ負わないで圧倒していたベジットの姿。

 

 彼がこの場にいれば、今頃は目の前のモンスターを簡単に打ち倒し、ルドラ・ファミリアも全員叩き潰していただろう。

 

 思い知る実力差。それを羨ましいとは言わないが、依然として自身の命を紙一重で繋ぎ止める事しか出来ない自分を、輝夜は心底情けなく思った。

 

(ライラの消耗も激しい! ネーゼもあの状態がいつまで続くか……リャーナ、頼むから急いでくれ!!)

 

 小人族(パルゥム)のライラはその小柄な体を活かして、黒いモンスターの攻撃を一番自分に引き付けて捌いている。

 

ネーゼも、大振りな奴の尾が振るわれる度に受け止めてくれている。アリーゼもリオンもその都度フォローに回っているが、それもいつまで続くか分からない。

 

 幸いなのが、こうして四方から攻めているお陰で奴の素早さが十全に発揮できず、自分達でも対処できているという事。

 

(手応えはある! 奴の魔力反射(マジックリフレクション)の外殻を削ぐ事ができれば!)

 

 微かで小さな勝ち筋。此方が力尽きる迄、この黒いモンスターを食い止め、仮にベート・ローガの回復が間に合わなくても勝機はある。奴の特性をあの戦いで目の当たりにしたから、輝夜を含めて誰もがまだ諦めていなかった。

 

 そんな時だ。自分達の後ろで聞こえてきた爆発に、全員の意識が一瞬止まってしまう。

 

 リュー・リオンは見た。ルドラ・ファミリアのジュラが、下卑た笑みを浮かべて隠し持っていた火炎石を後方に下がっていたベート達に向けて投げ、アスタがそれを間一髪防いだ所を。

 

 アスタは吹っ飛んだ。盾も鎧も砕かれ、大の字となって倒れて動かなくなった彼女に、リオンの理性は怒りで振り切れる。

 

「貴様等ぁぁぁぁッ!!」

 

「リオン、止まっちゃダメ! 攻め続けて!」

 

「ッ!?」

 

 そんな彼女をアリーゼが引き留めた。

 

「アリーゼ、ですが!」

 

「分かっている。私も、奴等を許せない! でも! 此処でコイツを野放しにしたら、今度こそ私達は全滅する!」

 

「~~~~~~ッ!!!」

 

 そうだ。今この状況で最も危険なのは、今自分達が相手をしている黒いモンスターだ。万が一自分達が敗れてこのモンスターを自由にした時、それは自分達の惨殺された未来しか残らない。

 

 悔しさと己の無力さに歯噛みする。もし彼ならば、彼ならきっとこんな苦難も笑って乗り越えるのだろう。

 

(っ、何を、浅ましい事を考えている!?)

 

 僅かに過った浅ましい考えを殺す。今、この場にいない者を頼り、すがった所で待っているのは破滅だけ。

 

彼だって今頃戦っている。己の無力を棚に上げてみっともなく頼ろうとしている自分は、一体あの戦いで何を目にして来たのか。

 

誓った筈だ。仮令自分達が倒れても残ったモノは必ず誰かに受け継がれていく。どんな困難に陥り、どんな絶望に襲われても、この歩みは止めはしないと。

 

 そう、誓ったのだ。

 

 ……でも。

 

「あっれぇ~? アストレア・ファミリアってば、仲間を助けにいかねぇの?」

 

「正義を貫くので頭が一杯で、お仲間の事なんてどうでもいいってか? かー、流石は正義の味方。凄いねー」

 

 悔しい。悔しさで涙が溢れてくる。火炎石の爆発は直撃すれば冒険者の命すら容易く奪う。なのに、ワザワザ近場で爆発させてリャーナ達をなぶっているのは、黒いモンスターを止めている自分達の意識を削ぐ事にある。

 

 聞こえてくる嘲笑も、奴等の挑発。乗ってはいけないのは、自分でも分かる。

 

でも……!

 

「アヒャヒャヒャヒャ! 見ろよ! あのアストレア・ファミリアの連中、手も足も出せねぇでやんの!」

 

「【凶狼】も酷ぇよなぁ? 女共を盾にするとか、俺なら恥ずかしくて死にたくなるね」

 

「嘘吐け、嬉々として盾にするだろテメェは」

 

 ゲラゲラと聞こえてくる嗤い声。セルティが魔法で応戦しても、彼女が魔法を一つ放つ度に火炎石や魔剣による攻撃が束になって押し寄せてくる。

 

 どれだけ吼えても、奴等の嘲笑は止まらない。このモンスターが解き放たれれば自分達だってどうなるか分からないのに、奴等は自分達を嬲る事しか頭にない。

 

 正義を汚せ、正義を犯せ、正義を嬲り、正義を殺せ。

 

聞こえてくるのは怨嗟の声。自分達の悦楽を邪魔してくる正義への………聞くに耐えない罵声。

 

 悔しい。何も出来ない自分が、何も為せていない自分が。

 

あの日、自分達の壁となり次代に託してくれた英雄に……自分は、何も示すことが出来ない。

 

「───あぁ、いい加減飽きたわ」

 

 そんな、リュー・リオンの悔恨は、そんなジュラの言葉と共に終わりを告げる。

 

 最後に残った火炎石。コレを奴等にぶつけてやろうと、既に満身創痍なリャーナ達に向けて投げ放たれる。

 

「止めッ────」

 

 届かない。叫びは剣撃によって掻き消され、臨界となった火炎石が彼女達の頭上で爆発しようとした───その刹那。

 

「─────はぁぁぁぁ?」

 

 遠いところから投擲された何か、臨界となった火炎石を爆風ごと差し貫き、ジュラの前に突き刺さる。

 

流星の如く飛来してきたモノ、それは───一振の槍だった。

 

「アレは……!?」

 

「槍………?」

 

 リャーナもセルティも唖然とする中、ベートは驚愕に目を剥いた。何せ、その槍は───。

 

「あの………バカガキ!」

 

 ベートの呟きと共に、一つの影が槍の前に降り立つ。それはヘスティア・ファミリアの最年少にして小人族の新たな希望。

 

槍の寵児(リュース)】リリルカ・アーデ。槍を掴み、引き抜いた彼女の瞳には恐れはなく、油断なく闇派閥を射貫いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうにか、間に合いましたか」

 

 後ろを見て、満身創痍でありながら何とか生きているベート達を見て、リリルカ・アーデはホッと安堵の息を漏らす。

 

 主神に黙って館を出ていき、中層までは自分の行動に疑問を抱いていた彼女だが、20階層を過ぎた辺りで聞こえてきた爆発音にリリルカは彼女達(・・・)を置き去りにして走り抜けた。

 

結果、この24階層でアストレア・ファミリアとベートが死にかけていた所を目撃し、槍を投擲。どうにかこうにか間に合った事に安堵しつつ、改めてリリルカは目の前のルドラ・ファミリアに向き直った。

 

「────ルドラ・ファミリア」

 

「あぁ? なんだこのチビガキは? 何処から迷い込んで来やがった」

 

「ジュラ、コイツ知ってるぞ! つい最近Lv.2になったって騒がれてた小人族のクソガキだ!」

 

 自分達を相手に臆した様子のない子供。それが気に入らないとジュラは眉を吊り上げるが、取り巻きからの情報によりその口元を歪ませる。

 

「ハッ、昇格(ランクアップ)した小娘がイキがって出てきただけかよ……だがなぁ!」

 

「ッ!」

 

「Lv.2のテメェが、Lv.3の俺に敵うわけねぇだろうが!」

 

 派手に登場し、度肝を抜かれ、僅かにでも臆してしまったジュラが八つ当たりの攻撃を繰り出してくる。

 

 手にしていた鞭をしならせ、振り抜かれる。その一撃は並みのモンスターを切り裂く鋭利さが備わっているが……。

 

「なにっ!?」

 

 届かない。もとより小人族の中でも小さな子供であるリリルカが、更に身を低くさせて地を踏み込む。鞭の先端がリリルカの髪を数本弾き飛ばすが、臆する事なくジュラの懐へと入り込み……。

 

「ふっ!」

 

「ガッ!」

 

 握り締める槍をクルクルと回転させ、柄の部分で奴の顎をカチ上げて……。

 

「ヤァッ!!」

 

槍を地面に突き刺して軸にし、地を蹴り上げて回転しながら無防備となった腹を、遠心力を加えた勢いで蹴り飛ばす。

 

 直撃。リリルカの奇襲の一撃は確かにジュラの腹を捉えたが小人族特有の体格差、そしてレベル差による耐久力で自身の蹴りは耐えられてしまう。

 

精々、数M(メドル)程蹴り飛ばしただけ。しかし、それでもジュラや連中のプライドを刺激するには充分な様で……。

 

「この、クソガキィッ!」

 

「ぶち殺す!」

 

 怒り心頭。十数人からの溢れ出る殺意にリリルカも流石に気圧されるが……。

 

「もー! 狡いよリリルカ! 先に始めるなんて!」

 

「誘っておいた私達が言うのもアレだけど、仮にもパーティー組んだ相手を置いてけぼりにするのは戴けないわよ?」

 

「うん。リリルカ狡い」

 

「皆さん……!」

 

 リリルカの後ろに追随するように現れる三人の少女達。

 

「あの子達って!?」

 

「ロキ・ファミリアの!?」

 

 アマゾネスの双子姉妹、そして剣姫。幼くもLv.3へと至った若き天才児達。

 

 突然現れた第三勢力。アストレア・ファミリアもベートも、ルドラ・ファミリアの面々も面喰らう中、四人の少女が揃って構える。

 

「さて、さっさと片付けるわよ!」

 

「正義の味方の窮地を助けるお助けキャラ、これも美味しい役割だってロキも言ってたもんね!」

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

「こ、コイツら……!」

 

「参ります!」

 

「舐めるなクソガキども! 数で圧倒してやる!!」

 

 そうして、突如現れた少女達の乱入により戦局の流れは一気に変わった。数では圧倒的優位のルドラ・ファミリアだが、剣姫を筆頭に少女達の戦闘力はアストレア・ファミリアの面々と比較しても強力だった。

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは謂わずもがな、風を操って繰り出される剣技は数の差をものともせずに自由奔放に駆け巡り、ルドラ・ファミリアを斬り伏せていく。

 

アマゾネスの姉妹も対人戦に馴れているのか、此方の動きを嘲笑う様に上回ってくる。姉の方は二つの短刀を、妹の方は無駄に大きな大剣を、それぞれ卓越した動きで団員達を蹂躙していく。

 

(このガキ共、バカみてぇに強いだと!? ふざけやがって!)

 

 だが、穴はある。一見して見れば隙のない連携だが、落ち着いてみれば1ヵ所だけ他とは異なる明確な穴。

 

それは……。

 

「やっぱテメェが穴だよなぁ! クソ小人族(パルゥム)!」

 

「ッ!」

 

 四人の中で唯一のLv.2、レベルの差がありながら他の三人によく付いていけたと思うが、それでもリリルカの存在は彼女達の連携に於いて大きな欠点となっていた。

 

 三人から出遅れた隙を付いてジュラの蹴りがリリルカを蹴り飛ばす。槍の柄で防いでも体格差で吹き飛ばされたリリルカは、アイズ達から引き剥がされてしまう。

 

「リリルカ!」

 

「動くなよぉ、動けばこのガキを殺す」

 

 アイズ達の進撃のお陰で、此方の数は既に10人其処らまで減ってしまっている。だが、これで逆転の芽は摘んだ。後はこのガキを人質に取り、ダンジョンからオサラバする算段を立てるだけ。

 

下を俯き、項垂れているリリルカに迫る。ティオナが近付くなと叫び、ティオネが暴れるなか……。

 

「────え?」

 

 アイズは確かにその詩を聞いた。

 

「【謳え、槍の狂気。来たれ、戦の女神】」

 

「【槍の戦乙女(ナイツ・オブ・フィアナ)】」

 

 刹那。

 

「─────はぇ?」

 

 右手と左足、それぞれを斬り飛ばされたジュラが地面に倒れる。

 

 その光景にベートを除いた全員が言葉を失っていた。アイズ達も、ルドラ・ファミリアも、アストレア・ファミリアも、そして黒いモンスターすらも、突然変わった(・・・・)リリルカに目を剥いた。

 

 紅い眼。黒いモンスターよりも紅く、深紅の瞳がルドラ・ファミリアを射貫く。尋常ならざる瞳に射貫かれ、身が竦む彼らを前にリリルカは胸元から一粒の豆を取り出し……。

 

「ベート様にこれを」

 

「え、なにこれ……豆?」

 

「それをベート様に食べさせて、伝えてください。さっさと片付けろと」

 

「あ、うん。はい。分かりました」

 

 あの初々しい小人族が一転、歴戦の勇士の様に振る舞う。そのあまりにも急激な変わり様にリャーナは敬語になってしまう。

 

 一方で、そんな場合でないことは確かなのに、遠巻きで見ていたライラは寒気を覚えた。

 

「さて、ルドラ・ファミリアのクソッタレ共。覚悟は出来たか? ガタガタと震え、命乞いの準備は終えたか?」

 

「え? り、リリルカ……さん?」

 

「大丈夫なの?」

 

「目薬、必要?」

 

 アイズ達もそれぞれ目の前の少女を気遣う中、リリルカは微笑む。

 

「えぇ、時間制限はありますが()は大丈夫です。それよりも……」

 

 手にした槍を握り締め、その穂先を闇派閥へ向ける。

 

「いい加減、目障りだ。便所の染みよりしつこい残滓ども、ここで死に果て、新時代の糧になれ───と、ティオナさんが言ってました」

 

「言ってないよ!?」

 

「ティオナ、難しい言葉知ってるね」

 

「ツッコム所そこ!?」

 

「あーもう! グダグダじゃない!」

 

 舐められている。既に目の前の少女達は自分達を脅威と認識していない。その事実が残ったチッポケなルドラ・ファミリアの矜持を刺激した。

 

「舐め腐りやがって、終われるか。終わって堪るか! テメェ等ガキどもに、終わらせられるかぁぁぁッ!!」

 

 闇派閥、最後のファミリア。火炎石も尽き、手札も失くした自分達には、これ迄の冒険で培ってきた技しかない。

 

 ルドラ・ファミリアが吼えながら突き進んでくる。そんな連中をリリルカは無表情のまま槍を構え……。

 

「ヘスティア・ファミリア、リリルカ・アーデ───押し通る」

 

 白い炎を身に纏い、群がる闇を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっっっっごぉ……」

 

 ルドラ・ファミリアが蹂躙されていく様子を見て、リャーナは乾いた笑みを浮かべていた。

 

「アレも、ベジットさんの鍛練のお陰……なのかなぁ?」

 

「私にも、教えてくれるかな」

 

 今回で自分達の力の足りなさを改めて痛感している後方組。闇派閥を相手に大立ち回りしている少女達を見て、自分達もあのくらい強くなりたいと羨望の眼差しを向けている。

 

「ボサッとしてんじゃねぇよバカ女共。最後まで気を弛めてんじゃねぇ」

 

 すっかり安心しきっている彼女達を、全快(・・)したベートが叱咤する。戦いはまだ終わっていない、自分達の仲間が戦っているのに、何を呑気にしていると、変わらない暴言で突き刺してくる【凶狼】にリャーナ達は笑った。

 

「………アタシさ、アンタの事が大嫌いだったよ。人を見下して、雑魚と呼んで憚らないアンタの事が心底気に食わなかった」

 

「あぁ?」

 

「でも、それがアンタの優しさなんだね。………アタシもう動けないからさ、悪いんだけど」

 

「アリーゼ達の事、宜しくお願いします」

 

 火炎石からベートを守る為に、その身を盾にしてきたアストレア・ファミリア。全快し、立ち上がったベートを見て自分達がやり遂げた事を誇りに思いながら、少女達は地に倒れ伏す。

 

 気を失いながらも、満足そうに笑っている彼女達を見てベートは舌打つ。

 

「ったく、どいつもコイツも!」

 

 弱い奴が強い奴を庇う。それはベートにとってこの上なく屈辱的な事。後は任せたと、満足そうに後を託された所で、重荷にするのはゴメンだ。

 

だから……。

 

「おい、クソ骨」

 

「ッ!?」

 

 白い炎を纏う。未だ月は翳りを見せず、月光の下で狼が牙を剥く。

 

「終わらせるぞ」

 

 屈み、地を蹴る。足場となった地面が爆散し、灰色の狼が閃光となる。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 先のリリルカの紅い眼差しを受けて、すっかり萎縮してしまった黒いモンスター。この個体が迫る灰の閃光(ベート・ローガ)を前に選択をしたのは……後退。

 

 後ろへ飛び、アリーゼ達を乱雑に振り払い一時の撤退。本来ダンジョンの防衛本能とも呼ばれるこの個体は、奇しくも“恐怖”という感情を学んでいた時だったからだ。

 

 だが、その撤退は成功しない。いつの間にか、足に爆弾が括り付けられていたのだ。

 

 爆弾が爆ぜ、自身の脚が取られたことに怒りの雄叫びを上げる黒いモンスタ-。

 

しかし、件の張本人である小人族(パルゥム)のライラはニシシと笑みを浮かべ。

 

「散々此方を引っ掻き回してくれたんだ。今更逃がすかよ」

 

 黒いモンスター………【破壊者(ジャガーノート)】が振り返った先にいたのは。

 

「とっておきを食らわせてやる」

 

 既に、自身の懐まで跳躍していたベートが、その足に炎を集約させ────回転。白い炎を起点に弧を描くその様は、一つの輪を完成させていた。

 

 ベジットが提案し、ベートが自身の体術に合わせて生み出した技────その名は。

 

「“気円脚”!!」

 

 それは、格上殺しの代名詞。編み出した本人のその技は宇宙の帝王の尾すら切り落とす必殺の一撃。

 

 ジャガーノートは最後の抵抗に己の爪を振り下ろすが、その爪もアッサリと切り落とされ。

 

 真っ二つ。ベートの一撃を受けた黒き破壊者は、断末魔の絶叫すら上げられず、結晶の華と散っていった。

 

 

 

 

 

 





次回。

「フハハハ! 地獄から甦った私が第二の海の覇者(リヴァイアサン)になってくれる!」

「ほう? だったら───地獄に送り返してやるよ」


【下層決戦・決着】

その日、彼等は神話を見る。







オマケ。

もしもベジットがフレイヤ・ファミリアにいたら?
Extra3

『………ねぇ、ベジット。アナタは私の魅了に掛からないのね』

『あ、急になんだよ。自分の力が通じないのが不服か?』

『まさか。寧ろ、嬉しいのよ』

『はぁ』

『私は愛の女神。愛を振り撒き、愛に生きる存在。でも、ただ私に愛されるだけなんて、そんなのつまらないじゃない』

『…………』

『だから、アナタの様な変わり種がいる事、それ自体が私にとっては未知の存在なの。分かる?』

『フレイヤ、お前は……』

『言わないで。お願い』

『─────』

『ねぇ、ベジット。もしも、もしも私に、私が伴侶を見つけたとき………応援してくれる?』

『────あぁ、俺なりのやり方で、な』

『ありがとう』







「オッタル。交代だ、女神の下へ迎え」

「ベジット、ロキ・ファミリアはどうした?」

「俺がこの場にいる時点で察しろよ。ホラ、さっさと戻って宥めてやれ」

「………分かった」

 突如として、その男は現れた。

空から降ってきた最強のLv.1。神々のもたらした(ルール)を覆し、オラリオに君臨する正真正銘の最強。

「【No.1】、ここで来るのか!」

「ベジットさん……!」

 ロキ・ファミリアは、対ベジットに用意されていた切り札。その彼等をして無傷なベジットにベル・クラネルの顔色が青ざめていく。

「さて、見せてもらおうかベル・クラネル。お前の持つ未知、その可能性を! ────願わくば」

 女神の楔を解き放てる事を祈りながら、ベジットは気を解放する。






「────のう、フィン。あやつは何がしたかったのかのう?」

「さてね。彼も何を考えているか分からない節があるからね。ただ、僕の勘で言わせて貰うのなら……」

「恋のキューピッド、かな」




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