ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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ワイルズ発売まで後僅か。

楽しみが過ぎる!

そんな訳で初投稿です。




物語40

 

 

 

 決着は付いた。下層に根付いて再起を、或いは別の目論みを企てていた闇派閥を討滅し、先の闇派閥の一人、【殺帝】の血にまみれた装備が見付かった事から今度こそ悪しき時代に幕を下ろす事が出来たと、誰もが確信していた。

 

 戦いに参加した先行部隊とアストレア・ファミリアはごく一部を除いて満身創痍。戦いで疲弊した身体を癒す為に先行部隊は合流する為に降りてきたアストレア・ファミリア達と合流し、18階層のリヴィラの街で一時の休息を挟む事になった。

 

 そして翌日。

 

「それで、どうしてリリルカがあの時24階層にいたんだ?」

 

 先に負傷したノイン達とリヴィラの街に戻っていたリリルカ・アーデ、寝起きの彼女を待っていたのは、両手を組んで仁王立ちしているベジットだった。

 

「リリルカ・アーデ、俺は言った筈だよな? お前は本拠地(ホーム)で休むついでに主神の護衛を任せると」

 

「あ、あうあうあうあう………」

 

 それは普段温厚で滅多に見ることのない………というか、初めて目の当たりにしたベジットの怒りだった。

 

静かにではあるものの、何時もの優しい口調とは違う声音。怒鳴られる事が当たり前だったリリルカにとって、ベジットの怒りは未知なるモノだった。

 

 怒鳴るのではなく、静かにただ粛々と問い詰める。激しく感情をぶつけてくるよりも尚恐ろしく感じるベジットの様子にリリルカは何も答えられなかった。

 

「か、輝夜、ライラ、何とか弁明の機会を設けられないだろうか。あのままでは流石に彼女が可哀想だ」

 

「うーん、とは言っても」

 

「余所の家庭に口を挟むのもなぁ」

 

 普段見せないマジオコなベジットに、【疾風】と畏れられているリオンが動揺する。地面に正座し、縮こまっている彼女を流石に哀れに思い、輝夜達に助けを求めるが……。

 

「あ、アリーゼ……」

 

「リオン、無策に突っ込むのは危険よ。今の彼は深層の階層主以上、何も考えず近付けば、次にあの威を向けられるのは私達になる。そうなったら私、チビる自信があるわ」

 

 輝夜もライラもニヤニヤとほくそ笑むだけ。団長であるアリーゼに至ってはベジットの真似をして両腕を組んでなんかドヤってる始末。

 

 というか、良い歳した淑女がチビるとか言うな。

 

 他の面々も怒られているリリルカを微笑ましく見守っているだけ、リュー・リオンも分かっていた。ベジットがただ理不尽に怒っているのではなく、その怒りが心配から来ているモノだという事を。

 

 心配させた子供を叱るのは子を持つ親ならば当然の事。アリーゼ達が微笑ましく見つめているのも職業柄、久しく見ない暖かな家族の在り方を見守っていたい故であるからだ。

 

 尤も、ベジットの怒気は凄まじく、巻き込まれたくないと言うのも本音ではあった。

 

 そんな、怒りを滲み出しているベジットの前に一人の少女が口を挟んでくる。

 

「あの、ベジットさん。リリルカを叱らないで上げて。元はと言えばアタシ達が誘ったのが原因なんだ」

 

 アマゾネスのヒリュテ姉妹であるティオナ。今回の作戦に乱入してきた者の一人で、リリルカを誘ってきた張本人。

 

「アタシ、フィン達だけ戦っているのが嫌でさ。闇派閥(イヴィルス)って連中を倒せば良いって聞いて……」

 

「ダンジョンにいる連中をぶっ潰せば、団長に褒められると思って……」

 

「みんなの助けになると思って、私達から誘ったんです」

 

「「「ごめんなさい」」」

 

 庇うティオナを皮切りに、物陰から眺めていた姉のティオネとアイズもやって来て自分達なりの考えと、勝手な行動をした事への謝罪をしてくる。

 

 それを見たリリルカも……。

 

「ベジット様。この度は勝手な真似をして……申し訳ありませんでした」

 

 三人に倣うように頭を下げてくる。

 

余所の派閥、それも色々と仲良くしているロキ・ファミリア(主神同士は犬猿の仲だが)の幼女達に頭を下げられてしまっては、ベジットがこれ以上説教する事は出来ず……。

 

「もういいだろベジット」

 

「ベート……」

 

「ソイツらは別に俺達の邪魔をしたくて来た訳じゃねぇ、そもそもこれは言葉足らずなテメェにも問題があんだろうが」

 

「言葉足らずって……お前が言うのかよ」

 

 ベートからも正論で反論されれば流石のベジットも言葉を濁す他なかった。

 

深い溜め息と共にベジットは本心を溢す。

 

「……本音を言えば、こんな血生臭い事に関わらせたくなかった。リリルカの槍は冒険を乗り越えるモノ、闇派閥を相手にする為のモノじゃないからな」

 

「─────あ」

 

 言われて初めてリリルカはベジットの真意を知る。

 

 冒険者はダンジョンを目指し攻略する者、リリルカに渡された槍だって、本来は人を斬り倒す為だけに作られた代物ではない。

 

 これから訪れるだろう危機、或いは試練と共に戦い乗り越える為にあるモノ。

 

 だから、人類同士の戦いにリリルカを起用するのは憚れたというのが、ベジットの本音である。

 

 闇派閥とケリを着け、今度こそちゃんと三人で冒険する為に。リリルカはそれまで安全な所で待っていて欲しかった。

 

「でも、それも俺のエゴなんだよな」

 

「ベジット様……リリは、リリは!」

 

 立ち上がろうとするリリルカだが、今まで正座していた為に足が縺れてしまう。

 

 転びそうになった所をベジットが抱き止め、リリルカの頭を優しく撫でた。

 

「ゴメンな、約束破って。ゴメンな、置いていって」

 

 全てはリリルカの為だった。それがベジット(⬛⬛)のエゴであっても、彼女を想い、彼女のこれからを考えての事だった。

 

「り、リリも、リリも……ご、ごめんなさい。ごめんな───ウァァァァァッ!!」

 

 ベジットの温もりに包まれた事で、これ迄塞き止めていたモノが決壊したのだろう。

 

 闇派閥という悪意と殺意、初めて人を傷付けたプレッシャー。色んなモノが弾け、感情の濁流となって押し寄せてくる。

 

 泣きながら謝ってくるリリルカをベジットは泣き止むまで抱き止めた。

 

アリーゼもリオンも何も語らず、輝夜もライラも茶化す事はせず、ベートも壁に寄り掛かって聞こえないフリをした。

 

 その一方で。

 

「────良いなぁ」

 

 ティオナは泣きじゃくるリリルカを抱き止めるベジットという構図を羨ましがり……。

 

「────ズルい」

 

 アイズのその呟きは誰にも聞こえることはなかった。

 

 そして、リリルカが泣き止んだ所で……。

 

「どうやら、無事だったみたいだね」

 

「フィン! ガレスのおっちゃんも! 来てくれたのか」

 

 タイミングよくやって来たフィンを筆頭に組まれた救援部隊。彼等のお陰で負傷した者達も恙無く運び出される事となり。

 

こうして先行部隊とアストレア・ファミリアは誰一人欠ける事なく、無事に生還を果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────オリヴァス・アクトとアンフィス・バエナの融合に変異した階層か」

 

「あぁ、嘘みてぇな話だが全部事実だ。部隊のアイツらも証人だからな」

 

「勿論、信じるさ」

 

 そうして地上に戻り、早速現地で何があったかを報告する流れとなったベジットとアリーゼは、フィン達と情報を共有される為に一緒にいつぞやのバベルでの会議室へと赴いていた。

 

 既に他の面々は帰路に就いている。今頃あの娘達も心配された事で怒り心頭な母達に雷を落とされている事だろう。

 

 閑話休題。

 

「まさか人とモンスターの合体とはのう。正に《融合体》と言うべきか」

 

 モンスター。それも階層主との融合という事例はダンジョンと人類との間には千年に及ぶ歴史が続いているが、一切前例のない未知なるモノ。

 

しかしベジットの言う通り、その異例なる存在は他の者達も目撃し証言している。ディオニュソス・ファミリアのフィルヴィスもその証言者の一人である。

 

「ただ、紅く変質した階層というのも個人的には気になるかな。具体的にはどういった効果があったんだい?」

 

「多分、階層主へのエネルギーの供給……だと思う。俺が奴の頭部を破壊した時、階層から何らかの干渉を受けてたし、受けた傷もかなりの速度で再生されていたからな」

 

「ふむ、成る程ね」

 

 再生能力を持つモンスターと言うのは、ダンジョンと言えど限られている。聞けば聞く程厄介極まりない《融合体》にフィンは内心で辟易としていた。

 

「それで、お前さんはそんな化物をどうやって倒した? いや、他の連中に聞いてもピンと来なくてな」

 

「あぁ、奴の首……階層主の方な。分かれた首の付け根に妙な宝玉が埋め込まれててな、それが奴の基点みたいだったんで」

 

「直接叩いたと。前々から思っていたが、判断からの行動が早い奴じゃなお主は」

 

 ベジットの戦いにおける判断は、第一級冒険者から見ても的確で早い。冒険者となって一年程度の経歴しかないベジットの戦闘センスの高さにガレスは感心し、同時に呆れていた。

 

「……因みに、それがどんな宝玉だったかは?」

 

「あぁ、かなりのアレな見た目だったから覚えているぜ」

 

 会議室に備えられている紙と羽ペン。インクに浸して書き綴られていく図にフィンとガレスが覗き込み……。

 

「あの宝玉の中身は、奇妙な赤子……いや、胎児が入ってたな」

 

 人間のそれとは異なる、異様なる胎児。これが例の《融合体》の核であった事をベジットは語る。

 

「うっわ。これは確かにアレね。気持ち悪いわね!」

 

「正直だねアリーゼ。でも、確かにこれは普通じゃない」

 

「俺はダンジョンについては素人だから何も言えんが……そんなにか?」

 

「あぁ、長年ダンジョンに潜ってきたワシ等でも初めて見たわい。恐らくはフレイヤ・ファミリアもそうだろうよ」

 

「下手をするとゼウス・ヘラの派閥も知らないかも知れないね。……いや、或いは知ってて公表しなかったか」

 

「まぁ、確かに秘匿した方が良さそうな内容だよな。我ながらちょっとおぞましい」

 

「というか、私としてはベジットさんに絵心があった事に驚いているんだけど?」

 

 張り詰めた空気がアリーゼの明るさで緩和されていく。こういった場面ではこの子の明るさが助かるなと、ベジットは思った。

 

「なぁ、やっぱこれも闇派閥の仕業なのか?」

 

「流石に無いとは思いたいけど……そうなると、別の問題が浮上してくるね」

 

「闇派閥とは異なる別の組織、か……」

 

「或いはそれに類似した何か、ね。………はぁ、折角闇派閥を叩いたのにまた悩みの種が増えて、私も溜め息が溢れちゃう」

 

 闇派閥を倒して一安心。そう思っていた所に新たな問題の浮上に流石のアリーゼもウンザリしていた。

 

「この件は僕達の方でも持ち帰る事にするよ。ベジット、この絵を貰っても?」

 

「あぁ、構わねぇさ。……因みに、27階層の様子は?」

 

 ベジットが書いた【胎児の宝玉】なる絵をフィンは丸めて懐にしまう。

 

「あぁ、既に確認は取ってある。無事に巨蒼の滝(グレートフォール)は元の景観を取り戻しつつあるってさ」

 

 フィンからの話にベジットも一先ず胸を撫で下ろした。

 

 紅く変質した27階層、破壊し尽くされ、崩落寸前だったあの階層は元凶である《融合体》を倒した事で元通りになり、階層の方も既に修復されつつある様だ。

 

「と、まぁ俺の方は大体はこんな所だな」

 

「次は私達ね。と言っても、ベジットさん達の所よりはインパクトに欠けるけどね」

 

「別にそんなモン望んどらんわい」

 

 ベジット達が担当した27階層での出来事は一先ず把握した事で、次はアリーゼ達が相手したというルドラ・ファミリアと現れた黒いモンスターの件について触れ出した。

 

「成る程、やはりルドラ・ファミリアは罠を仕掛けていたか」

 

「えぇ、けれど正義の味方である私達は幸運をも味方して、何とか全員無事に生き残ったわ!」

 

「そこで現れたのが例の黒いモンスターか」

 

「ガレス、君とリヴェリアはその黒いモンスターと交戦した事があったよね」

 

 思い返すのは正邪決戦の時、18階層に現れた【大最悪(モンスター)】と共に現れた骸骨(スカル)系統のモンスター。

 

やたらと速く、攻撃に特化して耐久力のあるガレスの身体を切り裂いたとされる凶悪なモンスター。

 

 他のモンスターより冒険者を殺すことに特化した怪物。これ迄出現条件があやふやだったが、今回の話を聞いてフィンは確信した。

 

「恐らく、そのモンスターの出現条件は過度にダンジョンを破壊した時に現れるのだと思う」

 

「じゃな。件の【大最悪】が現れた時も奴等は取り巻きの様に出てきたわい。取り巻きにしてはふざけた強さじゃったが」

 

「しかも、その階層の破壊具合で出てくる数も増えてくる、と」

 

 フィンとガレスが深い溜め息を溢す一方で、ベジットは違う意味で辟易としていた。

 

例の黒いモンスターはダンジョンを破壊すれば出てくるというのなら、今後ベジットは火力のある技を悉く封じられる事になるのだから。

 

(え、じゃあダンジョン内ではやっぱりかめはめ波とか撃っちゃダメな感じ? ギャリック砲も? ファイナルフラッシュも?)

 

 派手な技を使って相手を圧倒するのはドラゴンボールの醍醐味。勿論、体術にも手を抜く事はないが、それでもベジットの活躍が七割程減らされた感じがするのは否めない。

 

(き、気功砲は? 操気弾なら? あ、気円斬ならワンチャン!? アレ、線であって面の攻撃じゃないし!)

 

 瞬間移動からの気円斬は我ながら極悪な戦術だが、仲間の危機に介入する際は有用な技である。ダンジョンも、それくらいなら許してくれるだろう。

 

(スピリッツ・エクスカリバーも、威力を抑えれば大丈夫だろ。前の戦争遊戯(ウォー・ゲーム)の時の五分の一程度なら……!)

 

 折角ベジットとして生まれたのなら、ベジットみたいに活躍してみたい。ダンジョンに掛かる負担とやらを考慮しつつ、冒険も楽しみたい。

 

どちらもやり遂げなきゃいけないのが辛い所である。そんな事を考えていると……。

 

「じゃあ、これらの事をギルドに報告するとして、街の皆にも公表するのか?」

 

「それは……」

 

「その事について、此方から連絡がある」

 

 会議室に響く第三者の声、声のする方へ振り返れば老年の肥えたエルフが佇んでいた。

 

「ロイマンか。まだ情報の整理が終えて無いんだけどね」

 

「それらも含めて、ウラノス様より話があるそうだ」

 

「ウラノス様が?」

 

「おっちゃんおっちゃん」

 

「なんじゃ?」

 

「ウラノス様って、ギルドの主神なんだっけ?」

 

「あぁ、ワシもそこまで詳しいわけではないがな」

 

 ギルドの主神で、神時代が始まる千年前に下界へ降臨した最初の神の一柱であり、迷宮都市オラリオを創設した最初の神でもある。通称【都市の創設神】。

 

その在り方は“君臨すれども統治せず”を徹底し、基本的に都市の問題に干渉する事はほぼ無いという。

 

 現在はギルド本部の地下にある祭壇にて祈祷を捧げ、大神としての圧倒的な神威でモンスターの大移動や地上への進出を抑え込んでいるらしい。

 

 肥えたエルフ……ギルド長のロイマンに付いていく内に聞かされる大神ウラノスの話を聞いて、ベジットは感心したように呟いた。

 

「ほーん、要するに大神ウラノスはダンジョンに対する楔みたいなもんか」

 

「私も難しいことは良く分からないけど、感覚で理解しているから大丈夫よ!」

 

 ガレスとアリーゼで雑談しながら地下へ進むこと数分。ベジット達はウラノスが祈りを捧げているとされる祈祷の間へと通された。

 

「うぉ、デッケー爺さん」

 

 松明で灯された空間、薄暗い部屋の中心にある巨大な椅子には2Mはあるだろう長身の翁が鎮座していた。

 

「こ、コラベジット! 無礼であろう!」

 

「良いのだロイマン。ご苦労だったな、下がってくれ」

 

 ベジットの呟きを耳にしたロイマンがいち早く無礼だと諌めるが、目を閉じている翁───ウラノスは穏やかな口調で口を開いた。

 

「神ウラノス! ………はっ、失礼しました」

 

 傲慢で、色々と敵の多いと噂のロイマンも自ら主神と仰ぐ神には従うらしい。ウラノスの言葉で祈祷の間から引き下がるロイマンを見送り、改めてベジット達はウラノスへ向き直る。

 

「改めて、今回の闇派閥の討伐。ご苦労だった。ギルドを代表して感謝しよう」

 

「受け入れよう。神ウラノス、ルドラ・ファミリアの主神も既に捕えられている。今夜辺りで邪神達の一斉送還がされるが……」

 

「民衆には、その旨を伝えるよう此方から手配しよう」

 

 オラリオに於ける最大派閥の一角を担うロキ・ファミリアの団長と、都市神のやり取り。如何にもやり手な出来る者同士の会話だが、彼等の本題は別であった。

 

「それで、このタイミングで僕達を呼んだと言うことは、やはり黒いモンスターと例の融合体の事かな?」

 

「その通りだ【勇者】。今回諸君等が相対したとされる黒いモンスター……【破壊者(ジャガーノート)】は君達だけの秘匿情報にして欲しい」

 

 【破壊者】、そう名付けられたモンスターは確かにそう呼ばれるだけの破壊と厄災を撒き散らす程の危険性を有していた。正邪決戦と今回でアストレア・ファミリアが生き残れたのは、偶々彼女達の運が良かった事に他ならない。

 

「何でだ? 奴等はダンジョンを傷付けた際に出てくる仕掛けの(ギミック)モンスターなんだろ? 注意喚起の意味も含めて、広めた方が良いんじゃないのか?」

 

 ダンジョンで探索し、休憩する際は冒険者はダンジョンの壁に傷を付けるという。そうするのはダンジョンを修復している間はモンスターが産まれないという仕組みを利用するからである。

 

 もし通常よりダンジョンに傷を付けてしまい、其処からあの黒いモンスターと出会してしまったら……それこそ冒険者達は冒険処ではなくなる。

 

 それを危惧したベジットが、そうならない為の注意喚起として広める事を提案するが……。

 

「いや、ジャガーノートが現れたのは正邪決戦と今回、共に大規模な破壊で産まれたモンスターだ。恐らくは意図して………或いは悪意(・・)を以て破壊しない限り、その危険性は少ないんじゃないかな?」

 

 そう言って、同意を求めるように視線を向けてくるフィンにウラノスは頷いた。

 

「然り。その通りだ【勇者】。ジャガーノートは今回の様な事態でない限り、自ら生まれる事はないモンスターであると、我々も踏んでいる。それに……」

 

「却って余計な情報を持ち込めば、良からぬ事を企む輩も増える。それを懸念しての箝口令、という事かの」

 

 髭を撫でながら説明を付け加えるガレスにウラノスはもう一度頷いた。

 

 オラリオには多くの派閥があり、その派閥一つ一つに様々な思惑を秘めた神々がいる。闇派閥の様な邪神、或いはそれに類した神々が万が一この事を耳に入れれば、暇潰しを兼ねて余計な計画を企てる可能性も出てくる。

 

 そうなれば再び、オラリオは疑心暗鬼の暗黒期に突入してしまう。その為の箝口令なのだと納得したベジットとアリーゼもそれぞれ頷いた。

 

「成る程ね。そう言うことなら仕方がないな」

 

「えぇ、私も異存はないわ。言い触らさないように皆にも注意しないとね!」

 

「ワシ等は幹部と……アイズ達に厳命してく必要があるの」

 

「だね。それとウラノス、27階層で起きた出来事だけど……」

 

「その事も既に把握している。無論、此方の方も他言無用だ」

 

 どうやらウラノスは既に27階層で起きた出来事を把握しているらしい。相変わらず動きの読めない神にフィンは僅かに警戒を強めた。

 

 誰にも知られる(・・・・・・・)事の無い斥候(・・・・・・)、それを有するウラノスもまたフィンにとって油断ならない相手である。

 

「分かった。尤も、この件に関しては誰も信用出来ないと思うけどね」

 

「おい、それを俺の前で言うのかよ。フィン」

 

「アハハハ」

 

 ジト目を向けてくるベジットをフィンは笑って誤魔化した。まぁ、確かに普通に聞けば信じられない事だろう。モンスターと人が融合するなんて話は、冒険者にとって悪夢でしかない。

 

「箝口令の件は此方からおって話を通す。ロキ・ファミリアとアストレア・ファミリア、そしてヘスティア・ファミリアはくれぐれも……」

 

「あぁ、分かったよ」

 

「こればっかりは仕方ない、か」

 

「皆にも後で伝えなくちゃね」

 

 先行部隊の面々にも、今頃は似たような話が及んでいる頃だろう。こういう時のギルドの動きは早いから、とフィンが補足する。

 

「私からの話は以上だ。皆、今日は本当にご苦労だった」

 

「やれやれ、やっと解放される。すっかり肩が凝ったわい」

 

「揉んであげましょうか? ガレスのおじ様」

 

「いや、お主の方が疲れとるんじゃからいい加減休め、ぶっ倒れるぞ?」

 

「ふっふーん! そうなったらおじ様におぶって貰うからいいもーん!」

 

「ぶれんのう……」

 

「やれやれ……」

 

 アレだけの死闘を乗り越えて、それでも尚元気を振り撒くアリーゼ。本当は疲労で今にも倒れそうな癖に、それでも顔に出さない強かさ。

 

 彼女の強さに呆れながら頼もしく思ったフィンとガレスも祈祷の間から出ていき、ベジットも三人に続こうとした所で……。

 

「待てベジット。お前に話がある」

 

「へ、俺?」

 

 突然ベジットだけが呼び止められ、祈祷の間は再び閉じられる。

 

え? 俺何かした? 心境は居残りをさせられた学生の気分。気まずくなる空気にベジットが押し黙っていると……。

 

「………お前には聞かなければならない事がある」

 

「えっと………何がでしょう?」

 

 まさか、黒竜の件がバレた!?

 

 有り得ないが、呼び止められる心当たりはそれしかない。勿体振って間を空けるウラノスにベジットの鼓動が早くなる。

 

 すると、彼の隣からスッと一つの影が現れる。全身を黒のローブで覆われ、素顔を隠したその者はまるで幽霊の様に存在が希薄だった。

 

 事実、その者の気はベジットがこれ迄感じたことが無い程に薄い。一体何者だと警戒する一方で。

 

「先日、君が遭遇したとされる喋るモンスターの事だ」

 

「あ、そっち?」

 

黒ローブから告げられる言葉、その内容が先日出会った異端児(ゼノス)の事だと知ったベジットはホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、話というのは存在希薄な黒ローブことフェルズからの異端児達に関する口止めという内容だった。

 

彼等の存在は人類の歴史から紐解いても類を見ない可能性で、これが明らかになってしまえば世界中が混乱してしまうという、至極当たり前の理由付きである。

 

「我々は彼等の存在を一つの契機だと認識している。だから………」

 

「あぁうん。黙っとけというのは分かったさ。でもさ、ファミリアの皆にも黙っておく必要はあんのか? ベートもリリルカも、進んで口を割る性分じゃねぇぞ?」

 

「そうだな。お前の主神ヘスティアも、事情を説明すれば受け入れてくれるだろう。しかし」

 

「仮に受け入れても、変に迷いを抱えてしまうのも忍びない。彼等は、自分達の所為で戦う事に躊躇する事を望んではいないのだ」

 

「あー……」

 

 ベートもリリルカも、ヘスティアに見込まれるだけあって性根は優しい連中だ。ベートも何だかんだ迷いそうだし、リリルカに至ってはリド達の人当たりの良さでこれからの冒険に……モンスターに刃を向ける事に躊躇いが出来てしまいそうだ。

 

 そうなれば危険に陥るのはリリルカ達だ。そうなるのはリド達も望まない、だから出来るだけ秘密にするよう頼んでくるフェルズにベジットも無碍には出来なかった。

 

「なら仕方ない、か。ウワー、バレたらまたどやされそう。恨むぜアンタ等」

 

「済まないな。ベジット」

 

「この礼はいつか何処かで……」

 

「いいっていいって。その様子だと色々と手が足りていないんだろ? 俺で良ければ暇な時にでも依頼してくれや」

 

「あぁ、その時は手を貸して貰うよ」

 

「おう、報酬も期待してるぜ」

 

 自分だけが抱える秘密なら、せめて少しでもファミリアに利益のある繋がりは持つとしよう。ベジットの言葉に頷くフェルズに満足したベジットは今度こそ祈祷の間を後にしようとして……。

 

ふと、あることを思い浮かんだ。

 

「────なぁ、ウラノス様。1個だけ質問良いか?」

 

「なんだ?」

 

「もし、もし仮にだけどよ………黒竜討伐と異端児、バレるとしたらどっちが世界的にヤバいかなぁ?」

 

「「──────はぁ?」」

 

 荘厳な祈祷の間に、心底間の抜けた声が響いた。

 

 

 

 

 

 





と、今回は特にワチャワチャしていない地味な回でした。

次回も多分似たような話になるかも。






Q.ティオナ、もしかして父性を求めてる?

A.
「ベジットは、私の父になってくれるかも知れない男性だ!」


Q.ティオネは?

A.
「団長以外の雄に興味ありません」


Q.………アイズは?


A.おっと、剣姫の様子が……?






 
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