ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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Re:810から始める異世界生活。

見たいな二次小説、誰か書いてくれないかなぁ(チラッ

そんな訳で初投稿です。



物語47

 

 

 

 ──数刻前、ロキ・ファミリア本拠地(ホーム)『黄昏の館』にて。

 

 ゼウス・ヘラの派閥がなき後、新たにオラリオの二大派閥として君臨する事となったロキ・ファミリアの長、フィン・ディムナ。

 

 執務室の窓から見えるオラリオの街並みを一望している彼のもとへ古くからの仲間──ガレスとリヴェリアが入室してきた。

 

「ロキの護衛、ラウルとアナキティに任せて来たぞ」

 

「あぁ、ありがとう二人とも」

 

「しかし、本当に良かったのか? 確かに二人ともLv.2に至ったとは言え、いきなり主神の護衛という事で些か気後れしていたが……」

 

「これから二人には僕達だけでは手が回らない事態に遭遇した時に備えて、自立した思考を持って貰わなくてはいけないからね。今回はその予行演習みたいなものさ」

 

 闇派閥が壊滅し、与していた連中もあらかた掃除が出来た。これからは自分達の実力だけでなく、後進の育成にも力を入れなければいけないとフィンは語る。

 

 既に将来のロキ・ファミリアの在り方を見据えている団長に、副団長のリヴェリアは肩を竦め、ガレスはガッハッハと豪快に笑う。

 

「やれやれ、二人ともまだ若いのにこれから苦労掛けそうだな」

 

「特にラウルはベジットから目を掛けられておるからのう。感じるプレッシャーも一入じゃろうて」

 

 大抗争や闇派閥との決着からそんなに時間が経っていないのに、既に次世代の精鋭の一人として数えられている二人。

 

 これからの二人の事を考えれば溜め息ばかり出てしまうが、この先の苦労を糧に出来れば、それは二人にとって大きな糧となる。

 

 ロキ・ファミリアのこれからについて早くも楽しみになっている三人。しかしフィンだけは何処か憂鬱な様子だった。

 

 珍しく気落ちしている団長にガレスが問う。

 

「────どうしたフィン、随分浮かない顔をしておるが?」

 

「……参ったな。そんなに分かりやすく顔に出していたか?」

 

「ほんの僅か、といった所だな。……何か気掛かりな事でも?」

 

 自分達が知るフィン・ディムナはその小さな体躯に似合わず、大きな野心を抱えた小人族(パルゥム)の中でも異質な存在。

 

 常に前と未来を見据え、仲間達を導いてきた次代の英雄候補の一人。そんな彼が珍しく気落ちしていると言うのだから、長い付き合いの二人から見ればただ事ではなかった。

 

「……レオンの事、聞いていたかい?」

 

「【ナイト・オブ・ナイト】か。まさかオラリオに戻ってきていたとはの。つい先日【学区】に戻ったそうだが……」

 

 それは先の闇派閥討伐の際のこと。地上での戦闘に人知れず加勢に現れた彼の姿を捉えた時だ。白い炎を全身に纏い、剣を一度振っただけで連中を凪払う様は、第一級冒険者である自分達と比較してもなお、圧倒的に見えた。

 

 闇派閥討伐後は、主神たるバルドルに報告する為に【学区】へ戻っている様だが……。

 

「彼も、ベジットに挑んだらしいね」

 

 絞り出すようにその話題に触れるフィンに、二人はそうだったなと溜め息を吐き、同時に彼の憂いているモノを理解し、互いに顔を見合せ苦笑する。

 

「ゼウスとヘラ、嘗ての最強達が健在だった頃、僕達は幾度となく敗北した」

 

「挑む度にボロ雑巾になったな」

 

「物理的に地に捩じ込まれたりもしたな」

 

 思い出すのは嘗てこの場にいる三人が共通して味わった苦い記憶。挑む度に捩じ伏せられ、奴等はその度に自分達を嘲笑っていた。

 

 脳裏に過る記憶の断片、想起するだけで腸が煮え繰り返る思いだが……同時に懐かしく思う時もある。

 

「あの頃の僕達は未熟も良い所だった」

 

「我武者羅に突っ走り、時には激しく躓き転げ回ったな」

 

「わ、私は止めたぞ? お前達が考え無しに奴等に突っ込んで、それの巻き添えになってたんだ!」

 

 過去の記憶を捏造マシマシで美化するリヴェリア。自分だけ綺麗なままでいようとする彼女に二人はジト目を向け……。

 

「そう言えば、誰かさんは一度だけ【静寂】に奇襲を仕掛けた事があったなぁ」

 

「ッ!」

 

「そうそう、『私に良い考えがある』…そういってエルフの某王女(おうじょ)様は夜の街で偶々外に出ていた彼女に挑み」

 

「ボロッボロにされとったなぁ。杖も折られ、衣服も吹き飛ばされ、儂等が駆け付けた時には……」

 

「ロキ曰く“イヌガミケ”な状態にされてたっけ」

 

「わぁぁァァァッ!! やめ、ヤメロォォォッ!!」

 

 アレは酷かったなぁ。腕を組んで懐かしむ二人にリヴェリアは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「私が悪かった! 悪かったからその話は二度としないでくれ! 後生だ!!」

 

 エルフの王女に嘆願されては仕方がない。リヴェリアの慟哭をニヤニヤと笑う二人、そんな彼等に吊られてリヴェリアも笑い出す。

 

 地を這い、無様を晒し続けてきた若き日の自分。そんな彼等の中にはあの【猛者】と【ナイト・オブ・ナイト】の姿もあった。

 

 互いに敗北を刻まれ、打ちのめされてきた者達。そして今、この時代で新たに現れた規格外の怪物に既に二人は挑んでいる。

 

「……僕だけが出遅れている。そんな状況に甘んじている訳にはいかない」

 

 二人は挑んだ。彼に、自らを天下無敵と豪語する男に正面から挑んで見せた。

 

 ならば次は自分の番だと、冒険者フィン・ディムナの本心が叫んでいる。

 

「────行ってこい、フィン」

 

「ガレス」

 

「お前がいない間は私とガレスがファミリアを支える。何て事ない、今までと同じだ」

 

「リヴェリア」

 

 ロキ・ファミリアの団長である事を重く見ているフィンにとって、自分のやろうとしている事は看過していい事じゃない。

 

 団長が勝手な行動をしては他の団員に示しがつかないと、本来なら諌める立場のリヴェリアも、フィンの背中を後押しするように語り掛けてくる。

 

「先に行って見てこい。新たに現れた最強(頂天)を、その力を」

 

「帰ってきたら聞かせてくれよ」

 

「────あぁ、ありがとう。二人とも」

 

 道を譲るように開ける二人にフィンは手短に、且つ最大限の礼を口にし、槍を手にして執務室を後にする。

 

 瞬く間にダンジョンへ向かう小人族の団長の背中を見送りながら、リヴェリアが口を開く。

 

「お前は行かなくて良かったのか?」

 

「……口惜しい気持ちは無くはないがの。ま、次の機会に取っとくとするわい。そういうお前こそ良いのか? 今回の件で奴に聞きたかった事が叶わなくなるかもしれんのだぞ?」

 

「そんな狭量な男なら、フレイヤ・ファミリアと頻繁に関わろうとしないさ。彼は」

 

「戦闘民族と言う割には礼節も弁えとるしな」

 

「なんなら嘗ての最強派閥(ゼウス・ヘラ)の連中の方が蛮族だったな」

 

「それはそう」

 

 ガハハとガレスが笑い、フフフとリヴェリアも笑う。帰ってきた団長がどんな風に奴と戦ったのか、それとも何らかの奇跡を起こして勝ったりするのか。

 

 楽しみにしながら、二人もまた執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリ、ちょっと離れてろ」

 

「は、はい!」

 

 槍をヒュンヒュンと左右へ回し、やる気満々な【勇者(ブレイバー)】。彼からの挑戦を受けて立つ事にしたベジットは、リリルカを巻き込まないように配慮し、離れるように指示を出す。

 

 リリルカもベジットの意図を理解した様で、二つ返事で壁際へと離れていく。ロキ・ファミリアの団長であるフィン・ディムナは小人族(パルゥム)でありながらオラリオでも屈指の冒険者の一人。

 

 等級(Lv.)も6と最高峰の実力者。口にはしなくとも、その戦闘力は同じ小人族であるフレイヤ・ファミリアのガリバー兄弟や、同じく槍使いのアレンも認める程の強者である。

 

 つまり、リリルカ・アーデが学べる相手として最有力の一人。彼が如何にしてベジットを相手に戦うのか、リリルカは可能な限り見て学ぼうと【嘆きの大壁】の壁際に辿り着くと、座って二人を凝視する。

 

 強くなることに貪欲なリリルカ・アーデ、彼女の在り方に満足した様に笑みを浮かべて、フィンはベジットへ言葉を投げ掛ける。

 

「──さて、先手は此方が貰っても?」

 

「ご自由に」

 

 回していた槍を止めて、構える。低く、小人族故の体格差を利用したフィン独自の構え。

 

 対するベジットは両手を組んで待ちの姿勢。構えは見せない、見せる必要がない。

 

「遠慮も容赦もしない。悪いけど全力で勝ちに行かせて貰うよ」

 

「存分に」

 

 笑みを浮かべる。【勇者】は挑戦者らしい獰猛な笑みを、ベジットは強者として不敵な笑みを。

 

 白い炎がフィンの全身から滲み出る。滾る力を腹の底から噴出させ──。

 

「行くよ」

 

「来い」

 

 瞬間、フィンの脚が、ダンジョンの床を踏み抜く。爆散し、音を置き去りにして、フィンは槍の切っ先をベジットの額に向けて突き立てる。

 

 数十M(メドル)はあった間合いを一度の一呼吸、一度の踏み込みでゼロにして見せた。圧倒的なフィンの瞬発力に、早速リリルカは目を剥いた。

 

 しかし。

 

「ッ!?」

 

 突き立てられる筈だった切っ先は、ベジットに当たらず透過する。すり抜けた眼前の現象にフィンは目を見開くが、ベジットは変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、通りすぎて行くフィンを見送る。

 

(今のはッ!?)

 

 フィンは困惑しながらも体勢を立て直し、地に脚を付ける。ガリガリと地を削ることなど気にも留めず、己との距離が開いていくベジットの姿を見失わないようにと視界に入れ続けた。

 

「──残像だ」

 

「ッ!?」

 

 しかし、突如として耳許で囁かれる声にフィンの心臓が跳ね上がる。

 

「ッ!」

 

「おっと」

 

 振り向くのと同時に槍を振るう。其処にいたのはやはりベジット。困惑する自分を御しながら、再び間合いを取り、槍を構えて仕切り直す。

 

 ベジットが立っていた方向へ目を向ければ、変わらず彼はそこに立っている……と、そう思った矢先。

 

(消えた? まさか、今のは本当に彼が残した残像だと言うのか)

 

 フッと、煙に撒かれた様に消えていくベジットの残像にフィンは愕然としていた。第一級冒険者ですら欺く虚像。残像でありながら数秒は保つ実像感。

 

 こんなのもう一種の魔法だろとフィンは驚き、同時に呆れた。

 

「今のも……“気”の応用かい?」

 

「まぁ、そんなモンだ。ちとコツはあるがな」

 

 フィンの時間稼ぎの問いに、ベジットは当然のように応える。

 

(ベジットは金髪碧眼のままだけど、例の黄金の炎は纏っていない。つまり、本気にならずしてこれ程の差があるって事か……)

 

 分かっていた事だが、改めて自覚すると何もかもを投げ出したくなる。此方は最初から全力だと言うのに、向こうは本気どころか僅かな(リキ)みすら出していない。

 

 明らかに此方を下に見ている。だが、それを糾弾する資格は今のフィンにはない。だから、今はその隙を如何にして突くかを考えるとしよう。

 

「どうした。お勉強がしたいなら、“戦い”から“稽古”に切り替えてもいいんだぜ」

 

 思考を巡らせるフィンをベジットは笑みを浮かべて煽り出す。安い挑発、しかし次のベジットの言葉は流石のフィンも無視出来なかった。

 

「そら、掛かってこいよ勇者様。アンタの勇気、俺に示してみろよ」

 

 笑い、手で招いてくるベジットに、フィンも覚悟を決める。

 

「────上等」

 

 勇気を示せと言われたら、そうせざるを得ない。ベジットの挑発に乗ることにしたフィンは再び“気”を纏い、ベジットへ肉薄していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────」

 

 空気が弾け、地面が爆ぜる。階層主(ゴライアス)が出現する【嘆きの大壁】で繰り広げられる戦いを、リリルカ・アーデは食い入るように見つめていた。

 

 広い階層主の出現区域を縦横無尽に駆け巡る戦いの軌跡。地が抉られて天井が穿たれ、左右斜めに激突の音と衝撃が轟く。

 

 意識を集中させ、二人の動きを観察する。

 

 凄まじい戦いだった。繰り出されるフィンの槍は突き出す度に枝分かれし、避けるベジットの逃げ先を的確に潰し、選択肢を奪っていく。

 

 対するベジットもそんなフィンの槍を掠り傷一つ負う事なく避けきって見せる。目で見て判断しているのではない、完全にフィンの動きを見切った上で予測して回避している。

 

 眼が良い、なんてレベルじゃない。未来を見通す千里眼染みたベジットの動体視力に、リリルカは改めて仰天した。

 

 そして……フィンの槍はベジットの手により唐突に掴まれる。

 

「ッ!?」

 

「さて、次はこっちの番だな」

 

 放たれる蹴り、避ける余地などなかったフィンは腕を交差させて防御に回る。瞬間、叩き付けられる衝撃と痛みに顔が歪む。

 

「ガッ」

 

 磔の様に壁へと叩き付けられるフィン。衝撃が強制的に肺から血と酸素を吐き出させ、苦しみ噎せる。が、呑気に口許を抑える暇はなかった。

 

 眼前に迫る刃、ソレが自身の槍の穂先だと認識したフィンは咄嗟に頚を捻り、文字通りの紙一重で回避する。

 

 フィンは首筋から滴る自身の鮮血を拭う事もせずに突き刺さった槍を引き抜き、ベジットへ向けて跳躍する。

 

 Lv.6の脚力を以て、弾丸の如く吶喊。当然ベジットにそんな直線的な動きは読めていない筈もなく、間合いに入ってくるのに合わせてカウンターを仕掛ける。

 

 これは避けれない。慣性の法則に従い突っ込んでくるフィンにベジットはこれで終わりだと確信する。

 

 ベジットの振り抜かれる拳が当たる刹那、吶喊してくるフィンの体が突然止まった(・・・・)

 

「!」

 

 突然引き起こる事象、間近で目を見開くベジットの瞳は、此方を見てしてやったりと笑うフィンの瞳を確かに捉えた。重なる視線──。

 

「シッ!」

 

 振り抜かれる蹴り。ベジットの横っ面目掛けて放たれる【勇者(フィン)】の一撃は、しかしてベジットの手によって阻まれる。

 

 これ迄防御する素振りを見せなかったベジットが、初めてフィンの攻撃を防いだ。それは、ベジットの読み(・・)を振り切ったという事。

 

 ベジットは笑う。

 

「────驚いたぞ。まさかもう【舞空術(・・・)】を修得していたとはな」

 

「──────」

 

 その光景にリリルカは唖然となった。

 

 浮いている(・・・・・)。既に肉体はボロボロで満身創痍の筈なのに、向き合ったまま笑みを浮かべてベジットを見下ろす【勇者】の姿に、リリルカ・アーデは言葉を失っていた。

 

「舞空術……か。やはり、単に空に浮かぶだけの技じゃないんだね」

 

「おうよ。それが出来るって事はアンタも“気”のなんたるかを理解したみたいだな」

 

「実感は無いけどね。ラウルが懸命に君の真似をしているのを参考にさせて貰っただけさ。君のいう“気の真髄”には程遠い」

 

「だが掴み(・・)は得た。理解してんだろ? それが出来る前と後の自分では驚く程に差がある事によ」

 

 ベジットが笑い、フィンも笑う。ベジットは称賛するように、【勇者】は照れ臭そうにそれぞれ笑っている。

 

「さて、どうする? 防がれたとは言え俺に一撃入れたんだ。満足してここでお開きにするか?」

 

「まさか。漸く暖まってきた所だ。これからさ」

 

 嘘だ。本当はもう体がボロボロだし、ベジットの言う舞空術だって長くは保てそうにない。

 

 けれど、冒険者の自分がまだ終われないと叫んでいる。まだ終わりたくないと、子供心さながらに。

 

「良いぜ。大サービスだ」

 

 そんな、フィンの心情を見据えた様にベジットが応える。

 

 全身に黄金の炎を纏ってフィンと同じ高さまで浮かび、この日初めて構えを見せた。

 

「さぁ、第二ラウンドの始まりだ」

 

 掛かってこいよと手招きをしてくるベジット。ああ、やはり君は苦手だなと槍を構えたフィンも笑う。

 

 この日、リリルカ・アーデが眼にしたのはオラリオが始まって史上初となる【空中戦】である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、クソ、クソ、クソ、クソ、クソがぁッ!!」

 

 摩天楼(バベル)を降り、肩をいからせながら行くのはオラリオに君臨する美の女神の一柱。

 

 怒れる美の女神に近付く者はおらず、眷族の少女も先行く女神の八つ当たりを受けないように距離を取っている。

 

「ヘスティア、あの芋女神めが、よくもこの私に恥をかかせてくれたな。この借りは何倍にもして返してやる!」

 

 思い返すだけで腸が煮え繰り返る。このままでは済まさないと、怒りに震える女神の前に──。

 

「いやぁ、流石はロキ・ファミリアの団長。頭脳派だけあって物覚えが早い」

 

「もう、ベジット様。仮にもフィン様は主神同士が仲の悪い派閥の長なのに、塩を送り過ぎですよ」

 

 女神イシュタルが執着し、心底欲しいと思った男がのこのこやって来た。ダンジョン帰りだろう二人の姿に、美の女神の顔が卑しく歪む。

 

「そうかぁ? 俺としてはそこそこ楽しめたから気にしてないんだがな。それにフィンの魔法、ヘル……ヘル……“ヘルアンドヘブン”だっけ? 向こうの手札も拝めた事だし別に良いじゃん」

 

「“ヘル・フィネガス”ですよ。全く、そろそろアイズ様達と階層主(ゴライアス)に挑む予定なのですから、あまり禍根を残すような真似はしないで下さいね」

 

「“仙豆擬き”を渡しておいたし、大丈夫だろ」

 

 子供の小人(パルゥム)に窘められながら歩いていく二人に、イシュタルもまた近付いていく。そうだ、何を遠慮する必要がある。どれだけ下界の人類(子供)が強い意志を持とうとも所詮は人間。

 

 如何に足掻こうとも、絶対に覆る事のない差があるのが神々(自分達)と人類なのだ。

 

(ベジット。お前を私のモノにしてやるぞ。ヘスティア、お前の驕り、後悔するがいい!)

 

 一歩、二歩、呑気に歩いていく二人に美の女神が近付いていく。主神の狙いを悟った眷族が止めようとするも、既にそこは女神イシュタルの領域。

 

 止める間もなく、イシュタルはベジットへ近付き──。

 

「ベジット」

 

「ん?」

 

「お前は、私のモノになれ!!」

 

 【魅了(チャーム)】。下界に降りて全知零能の身となっても美の女神が有する一種の洗脳(ギアス)。美の化身であり、美しさの具現化とも呼べる女神の魅了は、神々すら誑かす武器でもあった。

 

(勝った!!)

 

 イシュタルは確信する。直に目が合い、全力の【魅了】を掛けてやった。目の前の雄はこれで自分のモノだと、美の女神は笑みを浮かべ──。

 

「──────いや、誰だよ」

 

「………へ?」

 

 固まった。これ迄魅了してきた男は例外なく自分に傅き、跪いてきた。恋人を持つ男も、伴侶を持つ男も、貞操を誓った男も、その全てが自分の魅了に呑まれ、己の肉体に溺れていった。

 

 なのに、目の前の男は傅く処か────嫌悪すらしている。顔をしかめるベジットに、イシュタルは茫然となっていた。

 

「いきなり顔を突き出して自分のモノになれとか、流石は女神。思考がブッ飛んでやがる」

 

「ベジット様、此方の女神が噂の美の化身イシュタル様です。恐らくはベジット様を魅了し、これ迄と同様に自身の眷族に引き入れようとしたのでしょう」

 

「なにそれ、絶対後で火種になる奴じゃん。他の女神とかめちゃくちゃ反感抱いているだろ」

 

「それはもう」

 

 すっかりベジットにとっての知恵袋になりつつあるリリルカ。彼女の解説にドン引くベジットが再びイシュタルに目を向けると、先程よりもより嫌悪感が増した顔付きになっている。

 

「な、んで…………」

 

 対するイシュタルは自身の魅了が全く効いていないことに、驚きを通り越して絶望していた。

 

 後ろではイシュタルの眷族──アマゾネスの少女も愕然としており、そんな彼女に対してベジットは大変そうだなと見当違いな同情心を向ける始末。

 

「しっかし、コレ(・・)も美の女神の一柱かぁ。なんかフレイヤ様やアフロディーテを見てると、ちょっとガッカリしちまうな」

 

「ッ!!??」

 

 茫然自失となっていたイシュタルへ掛けられるベジットの言葉。何気なく放たれたその一言は、イシュタルの逆鱗を踏み抜くには十分過ぎた。

 

 ガバリッと顔を上げ、ベジットの胸元を掴み上げる。憤怒に変わるイシュタルの顔には、美の女神の威厳なんて欠片もなかった。

 

「私が、私がフレイヤだけでなくアフロディーテにまで劣るだと!? 下界の人間風情が、私を侮辱するのか!?」

 

 神威が滲み出る。怒りに燃え、顔を歪めて問い詰めるイシュタルに対してベジットは何処までも冷静だった。

 

「侮辱じゃなくて事実な。アンタ、今の自分を客観視出来てるか? 酷い有り様だぞ」

 

「黙れ! この私が、この、私が! たかが下界の雄一匹に!」

 

 男とは、女とは、性欲に縛られ、情欲によって振り回される生き物である。

 

 故に、性愛を司る己には永遠に逆らえない絶対の存在。他の美の女神には追随も許さない──と言うのに、目の前の男はあろうことか二柱の女神と比較して自分を“下”だと口にしている。

 

「私が、私の何処が奴らに劣っていると言うのか!? フレイヤに、アフロディーテに何処で負けていると言うのだ!」

 

 負けていない。負ける訳がない。己こそが史上最も美しい女神であり、男女問わず羨み仰ぎ見るべき至高の存在。

 

 他の女神なんぞ比較できる訳が──。

 

「品性」

 

 そんなイシュタルの自尊心も、ベジットの口から紡がれる一言にて瓦解する。

 

 品性。ただ一言そう口にすると、イシュタルは再び茫然自失となり、ズルズルとその場に崩れ落ちた。

 

 不快感と軽蔑の眼差し。これ迄向けられた事のない眼差しに射貫かれたイシュタルは、震えながら踞る。

 

「行くぞ、リリ」

 

「あ、はい」

 

 厄介な女神から解放され、二人はその場を後にする。小さくなっていく女神の背中を一瞥し、リリルカは問う。

 

「珍しいですね。ベジット様が女性に対して彼処まで辛辣になるなんて」

 

「そうか?」

 

「はい。普段アルテミス様やアストレア様には敬意を払っていましたから、余計に気になっちゃって。いや、いきなり【魅了】なんてしてきたから嫌うのは当然ですが……」

 

 【魅了】は相手の自由意思を縛り、尊厳すら踏みにじるモノ。使われたモノにとっては一生涯に渡って消えない疵になる下界に於ける最悪の攻撃手段。

 

 しかもそれが【神の力(アルカナム)】ですらないと言うのだから始末に悪い。

 

 だが、それはそれとして普段は女神に対して一定の礼儀を持ち合わせているベジットが彼処まで辛辣になれることの方がリリルカとしては意外だった。

 

(まぁ、女神イシュタルのアレな所は前世で散々見てきたからなぁ)

 

 主にゲームという媒体で。女神イシュタルという神性は数ある神話の中でもギリシャの神々(連中)にすら引けを取らないアレッぷり。

 

 その最たる例が某運命の派生作品な事から、ベジットが初見からイシュタルに対して嫌悪感を見せるのはある意味当然の事であった。

 

「まぁ、あの女神、やたらと香水臭かったからな。鼻が効く俺としてはあまり関わりたくないのよ」

 

「……確かに。言われてみるとちょっとキツかったですね」

 

「だろ?」

 

 そもそも自分がベジットになってからと言うもの、性欲(そういうもの)が希薄になった気がする。

 

 現に、以前女神フレイヤの肢体(あの格好で見るなは無理がある)を見ても情欲は沸いてこなかったし、どちらかというと戦う事や強くなる事にばかり拘りが強くなった気がする。

 

 これが噂のサイヤ人三大欲求である“睡眠欲、食欲、戦闘欲”というものか。

 

「さて、そろそろ帰ろうぜ。リリも今日見た事を忘れず、自分のモノに出来るようになろうな」

 

「はい!」

 

 何はともあれ、無事に女神イシュタルの魅了を乗り越え、美の女神の誘惑にも打ち勝って見せたベジットは、その事を誇る事もせずリリルカと共に帰路に就く。

 

 その途中。

 

「あ、ヘスティア様だ」

 

「アストレア様達も一緒だな。おーいヘスティア、神会終わったのか?」

 

「あ、ベジット君」

 

 何やら団欒している神達を見付けると、二人もまたその輪に加わり、賑やかな一団となって夜のオラリオに消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、【黄昏の館】にて。

 

「フィン、なんかドチャクソにステイタスが跳ね上がってるんやけど……なにしたん?」

 

「まぁ、ちょっと冒険をしに……ね」

 

 

 

 






Q.フィン、昇格しなかったの?

A.流石に今回は出来ませんでした。

けれどもアビリティは軒並みAを越えたので、三首領の中では頭一つ抜きん出ました。

Q.フィン、飛べるの?

A.まだ其処までではなく、あくまで推進力を得た程度。
しかし、舞空術という一つの岐路に辿り着いたので今後飛躍するかもしれない。

尚、舞空術よりも気の消し方を先にマスターするべきだったと、未来の【勇者】は少し後悔する。

Q.リヴェリア様が犬神家?

A.他愛ない昔話なので、掘り起こさない様に。イイネ?
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