ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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スパロボY……だと?

ははーん、さては今作の主人公、途中で強制離脱するんやな?

ワイは詳しいんや。

そんな訳で初投稿です。




物語48

 

 

 

 17階層【嘆きの大壁】。そこは18階層にある安全階層(セーフポイント)に続く最大の壁、中堅の冒険者が本当の意味でここから先の階層に挑めるか、篩に掛けられる分水嶺。

 

 多くの冒険者が素通りし、多くの冒険者が正面からでは敵わないとされるその階層には主である巨人、ゴライアスが陣取っている。

 

 定期的にダンジョンにて生まれ落とされる巨人の怪物。本来であれば第二冒険者(最低でもLv.3)が数を組んで挑まなければならないダンジョンにおける最初の試練。

 

 そんな、巨大にして強大な怪物を相手に……。

 

「「ヤァァァッ!!」」

 

「このぉッ!」

 

「フッ!」

 

 小さな少女達が果敢に挑んでいた。頭上から振り下ろされる巨大な拳をその“敏捷”で躱し、動きが鈍い巨人(ゴライアス)に各々の得物で斬り込んでいく。

 

「チッ、やっぱり短刀(ナイフ)じゃ上手く削げないか」

 

「硬くはないけど肉が厚くて致命傷には届かない。面倒ですね」

 

 ゴライアスの動きは巨大であるが故に単調だが、同時にその大きさが最大の武器とも言える。圧倒的質量を持ち、その分厚い肉がある為に、急所である魔石に攻撃が届かない。

 

 生半可な力業では通らず、生半可な小手先の技術では潰される。そんな巨人に多くの冒険者の心がへし折られ、故にこの階層は【嘆きの大壁】と称される様になった。

 

 しかし、それでも彼女達は止まらない。アマゾネスの妹は大剣で肉を削ぎ、姉の方は得意な無手でゴライアスの骨を砕いていく。

 

「アイズ様ッ!」

 

「分かってる!」

 

 そこへ、細剣(レイピア)と槍を携えた二人の少女も参戦する。二人とも既にボロボロだが、滾る戦意を武器にアマゾネスの姉妹と共に巨人へ肉薄する。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 咆哮(ハウル)。階層の大気を震わせ、冒険者の動きを畏怖で縛るゴライアスの雄叫び。耳の鼓膜を揺さぶり、三半規管を狂わせ、四人の少女達の足下がふらつく。

 

「こ、これは……」

 

「頭が、揺れる……!」

 

「うぅ、うるさーい!」

 

「クソ巨人がァッ、舐めた真似しやがって!」

 

 脚が止まる。巨人の咆哮に動きが止められ、自慢の俊敏が停止する。このままでは不味いと、リリルカがすぐに後退するが……。

 

「ティオネ様、ティオナ様! 危ない!!」

 

「「ッ!!」」

 

 二人を覆う巨大な影、見上げればゴライアスが二人の頭上に跳躍していた。

 

 見上げる程に巨大な怪物の跳躍。直撃すればタダでは済まないだろうゴライアスの踏み砕き(スタンプ)を前に二人は身動きが取れず。

 

 激震。巨人の踏み砕きは二人を確実に捉え、更には階層を揺さぶる地響きが18階層の【リヴィラの街】まで届く。

 

 息を呑む二人、ゴライアスの脚に押し潰されて生存は絶望的と見た幼き剣姫は、親しき友人達の無惨な姿に過去のトラウマが呼び起こされる。

 

「───お前!」

 

 溜まらず滲み出る黒い風。アイズの胸中に秘める黒い炎がざわめき、感情のまま爆発させようとした……その時だ。

 

「まだですアイズ様!」

 

「ッ!」

 

 隣にいるリリルカに声を掛けられ、我に返る。何だと思い振り返れば、リリルカは落ち着いた様子でゴライアスの足下を指差していた。

 

 一体何を? 気になったアイズがリリルカの指差す方向を凝視すると……。

 

「あっ」

 

 見えた。微かだが巨人の足下から二つ、白い気炎が沸き立っているのをアイズは確かに見た。

 

 二人は生きている。その事を確信したアイズはリリルカへ目を配り……。

 

「私が仕掛けます。アイズ様、トドメは……」

 

「うん、任せて!」

 

 頷き、駆ける。事前に打ち合わせした訳ではなく、それでも示し合わせた様に二人は同時に地を蹴る。必ず勝つ、ただその誓いだけを胸に駆けてくる少女二人に、ゴライアスは初めて畏怖を感じた。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 再び、ゴライアスの咆哮(ハウル)が【嘆きの大壁】に轟く。冒険者の動きを封じる巨人の雄叫びを前にして──。

 

「【槍の戦乙女(ナイツ・オブ・フィアナ)】!」

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

 互いに短文、超短文とそれぞれの詠唱を行い魔法を行使。リリルカはその目を紅く染め上げ、アイズはその身に風を付与(エンチャント)させて──加速。

 

 音の障壁を突破し、ゴライアスの下へ急ぐ。二人の鬼気迫る勢いに圧された巨人が、近付けてはならないと拳を振り上げるが………突如として足下がぐらつく。

 

 何だと、怪訝に思ったゴライアスが足下を見ると、潰した筈のアマゾネスの姉妹がゴライアスの足裏を掴み、持ち上げようとしていた。

 

「こんの、クソ巨人がァァァッ!! 汚ねぇ足を押し付けやがってェェッ!!」

 

「んギギギ、重いィィィッ!!」

 

 馬鹿な、有り得ない。ゴライアスの重量を考えれば二人はとっくにダンジョンの染みとなってその命を散らしている筈なのに、当の本人達は染み処か原型を留めたまま。

 

 ゴライアスが驚きを顕にするのも束の間、そうしている間に巨人の体は二人の幼いアマゾネスによって押し上げられ────。

 

「私を踏んでいいのは、団長だけだァァァッ!!

 

「ダァァァァッ!!」

 

 全身から気を解放させ、力が爆発的に底上げされる。神の恩恵の枠を越え、全身から白い炎を噴出させた二人は、その勢いのままゴライアスを前へ投げ飛ばす。

 

 足下が掬われる。バランスを崩され、仰向けになって倒れ始めるゴライアスが次に目にしたのは、自身を紅い瞳で見据えている小人の少女。

 

 全身にアマゾネスの姉妹と同じ白い炎を纏い、手にした槍に力を込め、リリルカの瞳と同じ紅い魔力が迸る。

 

「いっっっけェェェェェッ!!

 

 投擲する槍、無理矢理の無意識に込めた“気”と《魔力》という二つのエネルギーは反発する事なくリリルカの槍の中で混じり合い。

 

 巨人を貫いた一槍は──ゴライアスの上半身を消し飛ばした。

 

 やった。ティオナがそう思うのも束の間、肝心な魔石部分は無傷。しかしリリルカに焦りの様子はなかった。

 

「最後の一手、お願いします────アイズ様」

 

「任せて」

 

 落ち行くリリルカに代わり、彼女の後ろから飛び上がるのは、金髪の剣姫。

 

「“(エアリエル)”────最大出力!」

 

 練り上げるのは気と魔力。炎と風が混じり、暴風となって階層を蹂躙していく。

 

 荒れ狂う嵐の中、アイズは己の全てを剣に乗せて──。

 

「リル・ラファーガッ!!」

 

 風と炎を身に纏った剣姫の一撃は、巨人の急所(魔石)を確実に捉え。ゴライアスは魔石共々粉々に砕け散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふへぇぇぇ………つ、疲れたぁぁぁぁ………」

 

 急所である魔石を砕かれ、サラサラと崩れ落ちるゴライアスを眺めて、やり遂げた事を実感したティオナは、達成感と共に押し寄せてくるダメージと疲労感から、その場で大の字となる。

 

 ダンジョンで大きな隙を晒すのは冒険者として落第モノだが、今だけは姉のティオネも口うるさく注意するのは止めておくことにした。

 

 何故なら──。

 

「凄かったぞお前ら。前の時とは別人じゃねぇか」

 

「私はヒヤヒヤしたがな。全く、心臓に悪い」

 

 近付いてくるのは二人の大人、一人はヘスティア・ファミリアの団長のベジット、彼の隣で溜め息を溢すのはロキ・ファミリアの副団長にしてアイズやヒリュテ姉妹のお目付け役であるリヴェリア。

 

 それぞれ手に回復薬(ポーション)を持ち、階層主を打ち倒した四人を労う。

 

「リリルカとアイズの二人は精神薬(マジック・ポーション)も飲んどけ、二人とも結構精神力(マインド)も消費しただろ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「ありがとうベジット」

 

 ヒリュテ姉妹もそうだが、リリルカとアイズの二人は体力だけでなく魔法を行使する際に消費する精神力も著しく消耗している。表面には出していないものの、二人とも相当疲弊しているのだろう。滲み出ている汗や顔色から相当辛そうなのは目に見えて分かった。

 

 やはり階層主が相手だからプレッシャーもあったのだろう。なんにせよ、無事に勝てて何よりだとリヴェリアは安堵した。

 

「しかし、お前はつくづく人がいいなベジット。ウチの団長から一方的に絡まれたと言うのに、今日もこうして私達に付き合ってくれるとは……」

 

「ん? あぁ、別に気にしてねぇよ。聞けばフィンはオッタルやレオンと同期で今ではそれぞれ派閥の長を務めているんだろ? で、その三人の中で自分だけが俺に挑んでいない。昔からライバル関係でもあった二人に出遅れたと、そんな背景を言われちゃ俺としては責める気にはなれんよ」

 

「相変わらず、察しがいいな。それもフィンから?」

 

「あぁ、本人から詫びと一緒に語られてな。そういう事情があるなら尚更とやかく言えねぇよ」

 

「……済まんな」

 

「だからいいって」

 

 リヴェリアから振られる話は、先のロキ・ファミリア団長フィンからの一方的な勝負のお誘いの件だ。

 

 大派閥の長が自ら単身で他派閥の長に勝負を挑むなど、普通ならば宣戦布告をされたに等しい。そんな真似をされたらたとえどんなに友好的な派閥が相手でも一瞬にして敵対関係が出来上がってしまう。

 

 況してや此方は“気”という力を教わっている側の立場。そんな自分達の長が一方的に戦いを挑んだとすれば、それは両派閥の関係の解消も意味してくる。

 

 なのに、ヘスティア・ファミリアの長は気にする必要はないとにこやかに答える。そんなベジットにリヴェリアも微笑んだ。

 

「それに、リリルカから友達を取り上げる様な真似は俺もしたくないからな」

 

 ヘスティア・ファミリアとロキ・ファミリアは主神こそが犬猿の仲ではあるが、団員同士の交流は一部の例外(ベート・ローガ)を除いて悪くはなく、ロキもベジットに対して表面上は親しくしている。

 

 ヘスティアも余所の派閥だろうと分け隔てなく接してくれる神であるが故に団員達も無碍に扱おうとはしなかった。

 

 体力も回復し、早速じゃれ合っている目の前の子供達を見て染々と語るベジットに、リヴェリアもつい頬が弛んだ。

 

「そうだな。友人を我々の都合で引き離すのは……あまり、褒められた事ではないな」

 

「今回の件は1個貸しにしておくよ。またそっちに顔出すから、ロキ様にも伝えておいてくれ」

 

「あぁ、了承した。フィンには私から伝えておくとしよう。今回の件、本当にありがとう」

 

 懐の広いベジットに救われ、改めて謝罪と礼をする【九魔姫(ナインヘル)】。そんな彼女にだから気にするなとベジットは苦笑う。

 

 本当に色々と気遣いの出来るエルフだ。これがあの高慢ちきなエルフの王族だと言うのだから、世の中は分からないものである。

 

(ガレスのおっちゃんが言うには、これでも昔はかなり酷かったみたいだけど……)

 

 身内評価だから辛辣なのかな? とてもそうは思えないリヴェリアの物腰の柔らかさにベジットは首を掲げる。

 

「ねぇねぇベジットさん! 私達、どうだった!? 凄かったでしょ!」

 

 リヴェリアと大人の話をしていると、じゃれ合っていた幼女達が走り寄ってくる。目をキラキラさせてくるティオナにベジットも笑う。

 

「おぉ、さっきも言ったが四人とも凄かったぞ。ティオネもティオナもよく彼処から盛り返したな」

 

「えへへ~、ベジットさんから教わった“気”! 覚えるの難しかったけど、慣れると体に凄く馴染むんだ! まだ団長(フィン)やラウルみたいに空は飛べないけどね」

 

「けど、彼処まで自力で気を高める事が出来たなら、その段階までもうすぐだ。焦らず、一歩ずつ確りと修行すれば大丈夫さ」

 

「うん! えへへ、ありがとうございます!」

 

「ティオネもだな。正直俺はティオネには少しだけ親近感が沸いてる」

 

「え、そ、そうなの……ですか?」

 

 まさか自分にも話が振られると思ってなかったらしく、辿々しく返事するティオネ。そんな彼女に無理して敬語はしなくていいと、ベジットは笑みを浮かべる。

 

「あぁ、感情を爆発させて力に変えるのは俺達サイヤ人も似通った部分があるからな。そう言う意味ではティオネが一番力を出しやすいのかもしれないな」

 

 ティオネは時折感情が昂ると、激昂して言葉遣いも乱暴になる。妹のティオナは元々はアレが素だったと語るが、意識して普段から抑えているのならそれはそれで大したもんだとベジットは評価する。

 

「あとは感情に力が振り回される事なく、そのパワーを自在に引き出せるようになれば、お前はもっと上にいけるようになる。頑張ろうな」

 

「は、はい。………ありがとうございます」

 

 自分も正当な評価を付けられると思わなかった為、気まずそうに返事をするティオネ。そんな姉をからかい、怒った姉と追いかけっこを始めるが、アレが姉妹のじゃれ合いなのだと察したベジットは次にリリルカとアイズへ向き直る。

 

「リリルカもアイズも、まさか魔力と気を同時に使いこなすとは思わなかったな。こればかりは俺も予想外だ」

 

「えへへ」

 

「そ、そうですかね?」

 

 ヒリュテ姉妹もそうだが、幼女部隊の面々は成長具合が目覚ましい。戦闘種族であるアマゾネスの二人もそうだが、目の前の二人は別ベクトルで成長が凄まじい。

 

 リリルカの先に見せた槍に込められた力もそうだが、アイズも自身の風の付与魔法(エンチャント)と上手い具合に溶け込めている。

 

「けど、だからこそこの分野に関して言えば俺から教えられる事はない。手探りで大変かと思うが……」

 

「大丈夫、リヴェリアが教えてくれる」

 

「リリも、一瞬で済ませますからそこまで難しくはありません」

 

「……これでも必死にやって来てるんだけどなぁ」

 

 リリルカの方は兎も角、アイズは完全に保護者(リヴェリア)頼りのつもりでいるらしい。ふと隣を見れば、困った様子で頭を抱える彼女にベジットも笑みが溢れる。

 

「ハハ、先生役は大変だな」

 

「そう思うのならお前も手を貸してくれ、正直私も手一杯なんだ」

 

 生憎、此方は魔法の分野に関しては素人以前に無知なのだ。魔法のスペシャリストであるリヴェリアが大変では、自分が加わった所で焼け石に水だろう。

 

「その辺は次の機会に取っとくとするさ……さて、みんな体力もそろそろ回復したな。他の冒険者も来るだろうし、撤収の準備をしなきゃな」

 

 階層主(ゴライアス)も無事に討伐し、アイズ達の成長具合も確かめられた。後は帰るだけだと促すベジットにティオナが先程とは態度を変えてオズオズと手を挙げる。

 

「ん? どしたティオナ。なんか忘れ物か?」

 

「……ねぇ、私達もベジットさんに付いていっちゃダメ?」

 

「ちょ、ティオナ」

 

「だってさ……」

 

 今日階層主を討伐したアイズ達四人はこの後ロキ・ファミリアの本拠地である【黄昏の館】にて反省会という名のお泊まり会をする予定だ。

 

 つまり、この後のベジットとは別行動(・・・)。予め聞かされていたのにそれでも納得が出来なかったティオナは子供らしい我が儘を口にする。

 

 当然、姉のティオネが咎めるが、珍しく駄々を捏ねるティオナはだってと顔を俯かせる。

 

「ティオナ、階層主と戦ったばかりのお前を流石に連れていく事は出来ねぇよ。俺がこれから向かうのはそんな甘い所じゃねぇ、それはティオナも分かってるだろ?」

 

「…………うん」

 

「なら、今日は大人しく帰って、旨いモンを腹一杯食べてウンと休め。いいな」

 

「……うん」

 

 幾ら回復薬で身体を治しても、蓄積されたダメージは簡単には消えやしない。ダンジョンで重ねてきた生死を掛けた戦いは、確実に彼女達の身体を蝕んでいる。

 

 帰ってゆっくり休めと指示を出すベジットにティオナも渋々と了承した。

 

「アイズとリリルカもいいな?」

 

「は、はい」

 

「分かりました」

 

 先の事(【下層決戦】の時)もあって目をギラつかせて忠告してくるベジットに、二人は背筋を伸ばして承諾する。彼女達は一度【下層決戦】でやらかした問題児、こう言うのは徹底的に躾けないと……と、リヴェリアも断じている。

 

「さて、そろそろ俺は行くよ。二人(・・)を待たせているしな。それじゃあリヴェリア、後は……」

 

「あぁ、任せておけ」

 

 リリルカをリヴェリアに預け、ベジットは背嚢(バックパック)を肩に担いで18階層へ向かう。

 

 手を振ってくるティオナ達に答えながら、ダンジョンを降りる事数分。【リヴィラの街】、そこで目的の二人を見付けたベジットは片手を挙げて……。

 

「よぉ、待たせたな」

 

「来たか」

 

「おっせぇーんだよ。いつまで待たせるつもりだ」

 

 待ち合わせの場所にいたのは猪人(オッタル)狼人(ベート)。共にオラリオに名を連ねる英雄候補の二人、並みの冒険者ならば前にしただけで震え上がる二人にベジットは笑って応える。

 

「んじゃ、早速向かうとしますか────【深層】に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────【深層】。

 

 中層の最初の死線(ファーストライン)。下層の第二の死線(セカンドライン)と続き、ギルドからは真の死線(トゥルー・デッドライン)と定められている迷宮の最大危険領域。

 

 適正基準は第二級冒険者の上澄みでもあるLv.4とされているが、油断していては第一級冒険者(Lv.5以上)でもあっという間に呑まれる危険地帯。

 

 そのあまりの過酷さから冒険者達が絶望し、心が折れないようにギルドに厳しく情報が管理されており、深層の内実を知るのはそれに見合ったほんの一握りの実力者だけとなっている。

 

 38階層。そんな恐ろしく過酷な環境を、一人の男は呑気に鼻歌混じりで歩いていく。

 

「しっかし、深層というからどんなもんかと思ってたけど、随分と広いのな」

 

「ここら一帯は【白宮殿(ホワイトパレス)】と呼ばれ、通路や広間の規模はこれ迄とは比較にならん程の規模になっている。全体の範囲領域はオラリオがすっぽり収まる程。その広大さ故に、未開拓領域が多く存在している」

 

 白濁色の壁面の特徴から白宮殿なんて洒落た名称が付けられているらしい。音の反響具合やこの領域に来てから感じられるモンスターの気配と数からして、オラリオがスッポリ収まる程の広さと言うのは誇張ではないようだ。

 

「いやぁ、助かったぜオッタル。お陰で滞りなく探索が捗りそうだ。お前がいなかったらもっと手こずってたかもな」

 

「お前達の遠征に同行したいと申し出たのは俺だ。これくらい、当然だ」

 

 ベジットとベートの他に今回新たに深層へやって来たのは、フレイヤ・ファミリアの団長の【猛者(おうじゃ)】オッタル。

 

 嘗ての最強の一角であるザルドを降し、新たにLv.7へ至った彼は更なる高み(Lv.8)へ到達するべく、ベジットとベートの遠征に同伴する事となった。

 

 同伴の条件として、深層での情報と知識を惜しみ無く教えると、改めて提示された事でベジットは勿論、後ろで不貞腐れているベートも無碍には出来ず、オッタルの同行を認める他なかった。

 

「おいベート、いつまで不貞腐れてンだよ」

 

「ウルセェ。別に不貞腐れている訳じゃねぇよ、テメェの能天気さにウンザリしている所だ」

 

 深層に入ってから、急激に口数が減ったベートをベジットは不貞腐れていると思っていたが、どうやら違ったらしい。

 

 ベジット同様、気に関してそれなりに習得していたベートは団長同様にこの階層に蔓延るモンスターに戦慄していた。

 

 数もそうだが、深層に充満する冒険者への殺意が数段濃くなっている。一瞬でも油断すれば死は免れない、そんな根拠のない確信がベートの精神を磨り減らしている。

 

 当然、ベジットもオッタルもこの空気には気付いている筈。なのに二人とも全く気にした素振りすら見せていない。

 

「【凶狼(ヴァナルガンド)】、お前の本能(ソレ)は正しい。深層(ここ)は冒険者にとって最も生存意識を刺激する領域、全身から蜘蛛の巣のように警戒心を張り巡らせろ。そうすればいずれ馴れる」

 

「…………」

 

 何時もなら例えオッタル(格上)が相手だろうと噛み付くベートだが、彼の言葉を余計なお世話と断ずる事は出来なかった。

 

 オッタルが話しているのは、深層で必要な必須技能。【猛者】や【勇者】、【ナイト・オブ・ナイト】の様な連中が泥と血にまみれながらも獲得した、神の恩恵に反映されない技術。

 

 きっと、これから先更なる高みへ目指すにはそういった技巧も要求されているのだろう。長い年月の果てに掴んだオッタル独自の情報源、これを鼻で笑う程ベート・ローガは無知蒙昧ではなかった。

 

「単に馴れるだけじゃダメだぞー、常に自分を更新し続ける事も忘れるなー」

 

 そんなベートの心境とは別にベジットからもダメ出しが投げ込まれる。ただこの環境に馴れるだけでは不足、ダンジョンという未知に溢れた魔窟を前にただ馴れるだけでは必ず足下を掬われる。

 

 馴れるだけではなく、気という技術と合わせて常に周囲に気配を探る。まだ“周囲への気の察知”を覚えたばかりのベートでは精神的負担も大きいが、団長のベジットが言うのだから不可能では無いのだろう。

 

「うっせ、分かってるよ」

 

 漸く悪態を吐いて調子を取り戻したベートにベジットも笑う────その時だ。

 

 此方に顔を向けてくるベジット、彼の前方より光る何かが飛んできて………。

 

「んあ? なんだこれ──針か?」

 

 当然の様に指で挟んで掴みとる。マジマジと2本の針を見つめるベジットにオッタルが解説する。

 

「それはペルーダの針だな。気を付けろ、猛毒が仕込まれているぞ」

 

「因みにこれ、素材に使えたりは……」

 

「無理だな」

 

 断言するオッタルにチェーとベジットは露骨にガッカリする。ヒュッと手首をしならせて針を投げ返すと、暗闇の向こうからモンスターの絶命する声が二種類木霊する。

 

「今の声、片方はスカル・シープだな。体表を覆った皮でカムフラージュをし、間合いを読み辛くさせる曲者だ」

 

「ほー、結構色々といるもんだな」

 

「まだまだ、奥に潜むモンスターはこんなモノじゃない。精々楽しみにしておけ」

 

「あぁ、そうさせてもらうぜ」

 

 ギルドから教わった情報よりも遥かに緻密な内容にベジットも舌を巻く。この分なら退屈せずに済みそうだと、不敵に笑うベジットを見てオッタルも笑みを浮かべる。

 

(……コイツら、相性いいのか?)

 

 互いに強くなることを妥協せず、常に上を目指し続ける二人。

 

 ベジットとオッタルが意気投合するのも、そこまで難しい話ではなかった。

 

 そうして、モンスターを駆逐しながら白宮殿を彷徨うこと数時間。三人は漸く目的の場所へ辿り着く。

 

「着いたぞ。ここだ」

 

「──────」

 

 オッタルが連れてきた場所、その広大な広さと目に写る光景にベートは絶句する。

 

 円形の大空間、その中ではこれ迄深層で出会ってきたモンスター達がひしめき合い、殺し合う異様な空間。まるで闘技場(コロシアム)と思えるその空間にベート・ローガは戦慄し、言葉を失っていた。

 

「今から15年前。三大冒険者依頼(クエスト)を受ける前にゼウスとヘラの派閥が発見したとされる……公にはされていない領域だ」

 

「へぇ!」

 

 互いに殺し合い、そして生まれる。死と生が繰り返し行われるその闘技場は見方によっては何かの実験場にも見えた。

 

 一体、ダンジョンは何を目的としてこんな空間を作ったのか。少しだけ混乱するベートに、ベジットは意気揚々に告げる。

 

「よし決めた。ここを、今回の仮拠点とする!」

 

 相変わらず突拍子もなく決断するベジットにベートは愕然し、何故かオッタルは腕を組んでウンウンと頷いていた。

 

 

 

 

 

 





Q.現在、三人の心境は?

A.ベジット「ほー、ええ場所やないかい。せや、今後ここを将来ウチラ(ヘスティア・ファミリア)の修行場にしたろ」

 ベート「」(絶句

 オッタル「それでこそだ」


こんな感じ。

尚モンスター達の心境

「帰れ」

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