ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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ヴィジランテ、シンデレラグレイ。

今期も豊作で実に善き哉。

そんな訳で初投稿です。




物語52

 

 

 

「ヘスティアァァァァッ!! アンタいい加減助けに来なさいよォォォッ!!」

 

 とある昼下がり。未だダンジョンから帰ってこないベジット達を、内心で心配しながら彼等の一日も早い帰還を祈っている今日この頃。

 

 バイト先であるジャガ丸くんの屋台に向かう途中、売り子姿のアフロディーテと大通りで遭遇。涙ながらに助けてと懇願する美の女神にヘスティアは面倒くさそうに顔を歪めた。

 

「なんだよアフロディーテ、これから僕はバイト先に向かわなくちゃいけないんだ。邪魔しないでおくれよ」

 

 あそこの店長、怒ると怖いんだぜ。涙を滲ませて懇願してくるアフロディーテに対してヘスティアの対応は塩気が強かった。

 

「アンタが私をヘファイストスに売ったんでしょーが!! お陰でアレからずっとタダ働きよ! 幾ら天界での浮気が原因だからって根に持ちすぎじゃない!?」

 

「うん、分かってたけど反省してないね君」

 

 アフロディーテとその眷族がオラリオに来て既に一年と少し、最初はアルテミス達と同様に自分達の本拠地で面倒を見るつもりだったヘスティアだが、初日からベジットの寝室に全裸で侵入しようという速すぎる行動力にブチギレ、その日の内にヘファイストスの元へ連行&献上した。

 

 因みに発覚の功労者はアルテミスである。今になって思えば、彼女も狙っていたのだろう。我が友ながら実に策士である。伊達に狩人のスペシャリストではないなと感心させられた。

 

 閑話休題。

 

「もう嫌なのよ! 毎日毎日鉄臭くて汗臭い冒険者に囲まれる生活は!」

 

「なら地元に帰れば良いじゃないか。君のいる国──メイルストラだっけ? 其処で不自由なく暮らせばいいだろ?」

 

「ベジットも一緒じゃなきゃヤ」

 

「コイツッ!?」

 

 プクッと頬を膨らませてそっぽ向くアフロディーテに、ビキリとヘスティアの額に青筋が浮かぶ。相変わらず奔放な性格だ、此処にアルテミスがいたら間違いなく彼女の尻に向けて渾身の一矢を放っていた所だ。

 

「相変わらず愉快な女神様ですね。アフロディーテ様」

 

「あら、【槍の寵児(リュース)】じゃない。それとも【殺戮姫(チャッキー)】と呼ぶべきかしら? 噂、聞いたわよ? 可愛い顔してやることが中々エグいじゃない」

 

「あ゛?」

 

「すみませんごめんなさい調子に乗りましたお願いだから凄まないで下さい!!」

 

 護衛のリリルカが主神の後ろから顔を出す。呆れ顔の彼女に言い返すアフロディーテだが、見た目幼女に予想よりドスの利いた声と凄味のある目付きで返された為、その目は既に涙目だ。

 

「その手の話題は触れないでやってくれ。リリ君も反省してるんだ。あまり刺激して手酷い仕打ちをされても僕は知らないぜ」

 

「うん、そうね。把握したわ」

 

「流石に神様相手には手を上げませんよ」

 

 ヘスティアの忠告にガクガクと震えるアフロディーテ、対してリリルカは神を相手にそんな事はしないと言う。

 

「というか、そんなの誰にもしませんよ」

 

「………リリ君、念を押して言ってるつもりだろうだけど、却って凄味が増してるぜ」

 

「……………嘘ぉ」

 

 リリルカ的には自分の印象を変えるつもりの言葉らしいが、ヘスティアから言わせれば却って現実味を与えてしまったらしい。

 

 辺りを見渡せば一般人は勿論、冒険者ですら視線を合わせようとせず、そそくさとその場から離れていく。自分の印象が既に定着しつつある事実にリリルカは頭を抱えた。

 

「と言うか、アフロディーテこそ一柱(ひとり)で大丈夫なのかい? 幾ら美の女神でも良からぬ奴に狙われたら大変だぜ?」

 

 現在、アフロディーテの眷族はガネーシャ・ファミリアの預かりとなっている。体育会系のシャクティ・ヴァルマが立派な憲兵に仕立て上げると豪語している事から、日頃から相当キツイ訓練をされているのは予想できる。

 

 其処まで言うと、アフロディーテは目をカッと見開き、ヘスティアの両肩を掴んできた。

 

「そうよ! 私が抜け出してきたのはまさにそれが理由よ! 私の可愛い眷族(子供)達がガネーシャに染まっていないかを、この目で確かめたいの!!」

 

 ガネーシャに染まるってなに? 不思議に思うリリルカだが、その時タイミング良くアフロディーテの眷族がガネーシャ・ファミリアの面々と警邏に出ているのを見掛ける。

 

「あ、噂をすれば」

 

 リリルカの一言に顔を上げ、自分の可愛い眷族に向かって走り出す。嗚呼、我が愛しい眷族(子供)達よ、早く私を慰めて。

 

そんな淡い気持ちを抱き、嬉し涙まで流しながら駆け寄るアフロディーテは………。

 

「さぁ! アフロディーテの眷族(ガネーシャ)よ! 今日も街の警備、宜しく頼むゾウ!」

 

「「「イエス、ガネーシャ!!」」」

 

「」

 

 象の仮面を着け、筋骨隆々と化した自身の眷族達。変わり果てた彼等にアフロディーテは白目を剥いて固まった。

 

「あ、アフロディーテ様だ」

 

「見てみてアフロディーテ様! 俺、こんなに逞しくなれました!」

 

「シャクティ様のご指導のお陰で、皆強く逞しく成長出来ました!」

 

「今度ステイタスの更新に伺いますので、アフロディーテ様もお元気で!」

 

 ガネーシャガネーシャと騒ぎながら街の警邏に向かう。アレではアフロディーテの眷族というよりガネーシャの眷族じゃねぇか。

 

「どぼじで、どぼじでごぉなるのよぉぉぉっ!?」

 

 オラリオに美の女神の叫び声が木霊する。そんな彼女にヘスティアはやれやれと肩を竦め。

 

「仕方ない。ヘファイストスを呼んできてやるか」

 

「………ヘスティア様も容赦しませんね」

 

 アフロディーテは打てば響く名女神だからね。そう笑う主神の目は笑ってなかった。

 

 前々から思っていたが、ウチの主神は慈悲深いと同時に容赦がない。今更ながらそう思うリリルカ・アーデであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深層48階。そこはこれ迄の階層とは打って変わって、茹だるような暑さが立ち込む火山タイプの階層だった。

 

 辺りには歪な岩の塊がそこかしこに散らばっており、中には岩石に擬態したモンスターがここまで到達した冒険者に襲い掛かってくる。

 

 出てくるモンスターもそうだが、劇的に変わる環境にオッタルを除いた二人は初めての体験に驚いた。

 

「いやー、まさか地下に火山地帯まであるとは、ダンジョンってのは底が知れねぇな」

 

「この辺りには岩石に扮したモンスターが襲って来たりしているが、それ自体は大した脅威じゃない。問題は火山が噴火し、マグマで進路が塞がれた時だ」

 

「ロキ・ファミリアみてぇな大規模な派閥では分断される恐れがある、か。最早なんでもアリだな」

 

 これ迄中層や下層でもそうだったが、深層からは本格的にダンジョンの仕掛け(ギミック)そのものが冒険者を殺しに掛かってくる様だ。

 

尤も、それらに対応できなくては第一級冒険者とは呼べないが。

 

「そんでオッタル、この先の49階層に例の階層主がいるんだな?」

 

「あぁ、奴はバロール。『単眼の王』の異名を持つ階層主、奴を討伐すればLv.8に到達出来ると聞いている」

 

「それは、ゼウス・ファミリアにいたマキシムって奴の情報か?」

 

 ベジットの問いにオッタルは頷いて返す。嘗てオッタル達が幾度となく挑み、そして敗北してきたオラリオに於ける絶対強者。

 

 黒竜に挑み、壊滅した後も未だにオッタルの中での最強は彼等なのだろう。先の戦いで闇派閥に与したザルドと戦った時もオッタルの中では完全に消化されきっておらず、今回ベジットとベートの遠征に同行したいと言い出したのもそういった心境も理由の一つなのだろう。

 

「んで、オッタル。勝算はあるのか?」

 

「その為にお前達の遠征に同行し、今日この日を迎える事になった。刮目しておけ、俺が壁を乗り越える様を」

 

 負けるつもりで挑む馬鹿はいない。ベジットを一瞥してくるオッタルの顔には絶対に打ち勝つという決意と覚悟が滲み出ていた。

 

 少々気負い過ぎな気もするが、真面目なオッタルにはアレぐらいで丁度いいのだろう。ベジットも噂のバロールがどんなモンスターか気になるし、今回の見学でバロールの攻略法を発見できれば次にベートが戦う際に大きなアドバンテージになる。

 

「それは楽しみにしておくとして………ベート、お前も本当に良いんだな? 先に本拠地(ホーム)に戻っていなくて」

 

「あぁ、俺もバロールの面は拝んで置きたいからな。でしゃばるつもりはねぇから、安心しろ」

 

 先のウダイオスとの戦いを乗り越え、既に偉業を果たしているベートだが、ベジットが言うように一度地上に戻る選択肢を蹴り、その上でベート自身もバロールという階層主の姿を直接見ておきたいと言う。

 

 一時はアーパーになった事でちょっと不安になったが、後遺症も無いようだしこの分なら大丈夫だろう。

 

 装備はウダイオスとの戦いで消費されてしまったが、気力と体力は“仙豆擬き”のお陰で充実している。

 

自身のやるべき事を終えて、今は荷物持ち(サポーター)に徹しているベート。そんな【凶狼】に仕方ねぇなと呆れる一方、未だに消えないベートの闘争心に感心していた。

 

 49階層に続く階段が見えてきた。次はいよいよ階層主が待つ場所、ならば此処が最終確認出来る場所だとベジットは一度足を止める。

 

「さて、此処から先はいよいよ階層主が待つ49階層だ。オッタル、お前の話では此処から先は火山地帯じゃなく荒野が広がっていると聞くが?」

 

「通称【大荒野(モイトラ)】。獣蛮族(ファモール)という大型モンスターが大群を為している階層だ」

 

「成る程、聞いた感じ【白宮殿】と似た感じか。なら、こっちに来るモンスター以外はオッタルに任せて良いな?」

 

「あぁ、それでいい。手出し無用で頼む」

 

「OK。なら、俺達が手を出すこと無くバロールを討伐した暁には、ウダイオスがドロップしたこの黒剣をくれてやる」

 

「っ、良いのか?」

 

「あぁ、ベートには既に話は通してある。だろ?」

 

「うるせぇ、こっちに振るな」

 

 先のベートがウダイオスを討伐した際にドロップしたウダイオスの黒剣。素材的にも超一級なドロップアイテムを景品の様に扱うベジットに流石のオッタルも目を剥く。

 

 何でも既にベートとは話が済んでいると言うが……当のベートは話したがらない様子だ。

 

 ベートもアレンと同様にプライドが高い所がある。ウダイオスを倒した本人が構わないと言うのだ、ならばここは素直に甘える事にしよう。

 

「感謝するベジット、【凶狼】。お前達二人の期待には俺の冒険で以て応えるとしよう」

 

「おう、頑張ってな」

 

「ケッ、もう勝った気でいやがるのか」

 

 二人に一度だけ頭を下げ、49階層へ続く階段をオッタルが先頭に立って降りていく。階段を降る事数十分、火山地帯の熱気は過ぎ去り遂に階層主(バロール)が待つ階層へ降り立った。

 

「「「⬛⬛⬛⬛⬛⬛っ!!」」」

 

 蔓延っている山羊の頭を持つ獣蛮族(ファモール)が三人を目にした瞬間、大群と為して押し寄せてくる。

 

 ベジットとベートの二人は迎え撃とうと身構えるが、遮る様にオッタルが前に出て……。

 

「ヌンッ」

 

 背に担いだ大剣を横薙ぎに一閃。技術もクソもない力だけの一撃はモンスターの大群を遥か彼方まで両断していく。

 

 一瞬で築かれる屍山血河。気を纏ったLv7の圧倒的膂力、先の闘技場とは違うオッタルの本気の一撃にベートは唖然となり、ベジットはヒューッと口笛を吹いた。

 

「二人とも、此処からは手出し無用で頼む」

 

「だな。向こうも今ので気付いたみたいだし、予定通り此処からは見学に徹する事にするよ」

 

 広がる大荒野に晒される獣蛮族の死体、その向こうから巨人と竜の姿を併せ持つ『単眼の王(バロール)』がオッタルを敵として認識し、見据えている。

 

 自分達のいる場所から相当離れているにも関わらず、それでも分かる巨大(おおき)さ。目測でウダイオスの倍、或いはそれ以上ある巨大な怪物を前に……。

 

「さぁ、始めるぞ。俺の冒険を」

 

 大剣を肩に担いだオッタルが悠然とバロールの前へ歩いていく。

 

 これから始まるオッタルの戦いを、新たに生まれるモンスターを蹴散らしながら、二人は観戦に徹するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的に言えば、戦いは終始オッタルが優勢で幕を閉じた。背負った大剣も終盤で破砕されるまでは主の無茶な戦いに最期まで付き合ったし、決め手となった拳での一撃もバロールの急所を打ち砕いて見せた。

 

 満身創痍。けれど決して地に倒れず、血にまみれながらも、美の女神(フレイヤ)の最強の眷族は折れず、曲がらず、バロールを打ち倒した後もその両足で仁王立ちを崩さなかった。

 

 ───さて、見事深層に於ける第二の階層主を打ち倒し、今回の遠征の目的を全てやり遂げたベジット達遠征組は……。

 

「うっし、これで荷物は全部だな。そっちは忘れ物はないな!」

 

「ああ」

 

「此方も回収し終えたぞ」

 

 バロールのいた49階層より一つ下の50階層。深層に於ける第二の安全階層(セーフポイント)にて、遠征最後の一日を過ごし終えていた。

 

 激戦を制し、偉業を成し遂げたオッタル。本音を言えばその時直ぐにでも地上に戻ってフレイヤの下へ戻りたかったのだろうが、相手が階層主だけあって流石に消耗も激しく、物資がまだ余っている事と50階層の安全領域を把握したいというベジットの願いもあって、一日だけ遠征を引き延ばす事になった。

 

 焚き火の跡も消し、ゴミも回収。やること全部やり終えたベジットは二人以上に満足そうにしていた。

 

「いやー、やっぱオッタルも中々出来る様になったじゃねぇか。“デアゴスティーニ”だっけ? 魔法を連発したり圧縮したりと随分と応用が出来てるみたいじゃねぇか」

 

「【ヒルディス・ヴィーニ】だ」

 

「その絶妙な語感で間違う癖、わざとやってんのか?」

 

 思い返すのはバロールの目から放たれる光線とオッタルの剣撃の打ち合い。魔法だけでなく気を練り込ませて放たれたその一撃は、バロールの肉体ごと光線を斬り飛ばして見せた。

 

 その後の連続の撃ち合いも獣化というオッタルの切り札を併用した事で悉く打ち勝ち、ダメージを負いながらも、オッタルは終始勝ち続けて見せた。

 

「しかしアレだな。やっぱ冒険者の昇格にあたって一番ネックなのはやっぱLv.7なんかな」

 

「………ああ、確かに言われて見ればそうかもしれんな」

 

 今回の遠征でベートはLv.6でオッタルはLv.8とそれぞれ高みへ至る事が確約されている。これ迄のオラリオでの生活でほぼ全てのレベル帯の冒険者を見てきたが、今回の遠征でLv.7への昇格が一番難しいとベジットは確信した。

 

 最初の難関であるLv.2はミノタウロス等の中層のモンスターを倒せばそこまで難しくないだろうし、Lv.3はパーティーを組んでゴライアスを何回か討伐すれば自然と成れる。

 

 人数を減らせば先の幼女部隊の様にLv.4にだって手は届くだろうし、Lv.5やLv.6だってそれぞれ座している階層主を単独で討伐すればそこまで難しい問題じゃない。

 

 問題なのはLv.7、これ迄多くの冒険者を見てきたベジットだが、Lv.7の冒険者はオッタルとレオン以外目にしたことがない。

 

 ゼウスやヘラの派閥には結構な人数がいたらしいが……。

 

「なぁオッタル。ゼウスとヘラの眷族がLv.7になった時、どんな偉業を成し遂げたか知ってたりしないか?」

 

 ベートのこれからと次の段階を見据えるなら、今の内に考えておく必要があるだろう。

 

 ベジットの問いに腕を組んで考える事数秒、何かを思い出したオッタルはそう言えばと前置きしてベジットに向き直る。

 

「そう言えば、【静寂】はウダイオスの強化種を倒したとか何とか」

 

「強化種? 階層主も魔石食ったりするのか?」

 

 “強化種”。それはモンスター同士が争う中で魔石の味を知った特異種を指す。

 

魔石を食らったモンスターは劇的にその強さを増すとされており、場合によっては中層、下層帯のモンスターでも第二級冒険者(Lv.3~4)では歯が立たないモンスターになってしまうのだとか。

 

 魔石を喰らえば喰らう程、モンスターは瞬く間に強くなる。故にギルドは強化種を発見した場合も速やかな討伐を示唆している。

 

「───成る程、じゃあウダイオスに魔石を食わせてソイツを倒せば良い経験値になると」

 

「止めておけ、万が一ギルドに知られれば重い罰(ペナルティ)を課せられる事になるぞ」

 

 ベジットが悪い顔で企みを溢すと、真顔のオッタルが止めておけと忠告してくる。強化種の人為的な誘発は他の冒険者が巻き込まれるリスクが伴う。

 

 強化種の発生はあくまで自然現象、異常事態(イレギュラー)から派生する偶発的なモノだからこそ、討伐した冒険者に正当性と報酬が認められているのだ。

 

「まぁ、それもそうだよなぁ。あーあ、どっかにLv.7相当のモンスターとかいないかなぁ」

 

「─────60階層の後半からはLv.7相当のモンスターがいるとされているがな」

 

「あ、そうなの? というか、それくらいの階層あるんだ」

 

 オッタルから第一級の冒険者の中でも一部にしか報されてない極秘情報がポンポンと出てくるが、相手はあのベジット。いずれは其処へ勝手に行くことを見越して、オッタルは独断で情報を提供する。

 

 それに、今回の遠征で既にオッタルは多くのモノを得られている。客将として同行している以上、最低限の情報提供は必要経費だろう。

 

 尚、ベジットはベジットで60階以上あるというダンジョンの奥深さに安堵(・・)していた。

 

 30階よりちょっと降りただけで深層と呼ばれ、人類にとっての最難関と言われているダンジョン。ベジットとしてあまりにも物足りない話であった為、まだまだ続くダンジョンの深さに満足するように頷いていた。

 

「ったく、人の人生設計を勝手に組みやがって。言っとくが当分ダンジョン探索は無しだからな、本当に俺がLv.6になったならやるべき事は山積みなんだ」

 

「おぉ、俺もいい加減自分の鍛練に集中したいしな」

 

「それは、例の超サイヤ人を超えるという?」

 

「そんな所だ。……さて、いい加減長居をし過ぎた。そろそろ帰るとするか。ベート、オッタル、俺の肩に触っとけ」

 

「しかし、本当なのか? “瞬間移動”とは……」

 

「コイツの唯一の発現したスキルだ。分かっているだろうが……」

 

「あぁ、他言はしない」

 

 話も終わり、いよいよ帰還の時となった。人差し指と中指を額に当てて集中力を高めていく。目を閉じ、気を探るベジットが目的地………否、目的神を見付けて跳ぼうとした瞬間。

 

「オッタルゥゥゥ!!テメェ何を勝手しやがってんだァッ!?」

 

 50階と49階を繋ぐ階段から突然起きる爆発。幾つもの岩を吹き飛ばし、礫を撒き散らしながら現れたのは、フレイヤ・ファミリアの副団長アレン・フローメル。

 

 不機嫌どころか殺意マシマシで現れる猫にベジットもオッタルも目を丸くさせる。

 

 そんな二人の反応を意にも介さず、アレンはズカズカと歩み寄る。

 

「アレン、何故此処にいる」

 

「質問してるのは俺だ。いつからテメェはベジットの腰巾着に成り下がった」

 

「────」

 

 オッタルの胸ぐらを掴み、怒りを顕にしている。何故、この猫人はこんなにも怒っているのだろうか? もしかして今回も主神にだけ伝えて他にはノータッチだったり?

 

(………前々から思ってたけど、オッタルって結構ポンコツだったりする? 普通主神だけでなく副団長とかにも話は通すだろ)

 

 仮にもフレイヤ・ファミリアはオラリオの中でも大規模な派閥。仮にもそこの長が連絡一つもマトモにしない事なんてあり得るのだろうか。

 

 尤も、アレンの様子だと怒っているのはそれだけが理由ではないみたいだが……。

 

(あーあ、あの分だと長くなりそうだなぁ。早く帰って“豊穣の女主人”に行こうと思ってたのに………ん?)

 

 ふと、大人しいベートに違和感を抱く。アレンとベートの相性は最悪で、目が合えば互いに罵詈雑言が飛び交い、しまいには殺し合いにまで発展するレベル。

 

 そんなベートが大人しくしているから流石に疲れているのか? と、不思議に思ったベジットが横にいる筈のベートを見ると……。

 

「大体テメェは……「ヌァァァァァァッ!?」……あぁ?」

 

 オッタルへのガン詰め中に聞こえてきたベジットの叫び、あのベジットらしからぬ動揺に不思議に思ったアレンとオッタルが振り返ると……。

 

「ベートォォォッ!! しっかりしろぉぉぉぉっ!!」

 

 大きな岩の破片が脳天にぶっ刺さったベートが、白目を剥いて倒れていた。

 

 第一級冒険者らしからぬ失態。いや、この場合ベートの疲労を軽く見ていたベジットにこそ失態だった。

 

 意図せぬ惨劇を前に、原因であるアレンも流石に押し黙る。

 

「お、オッタル! ポーション、ポーションはまだ残ってるか!?」

 

「あ、あぁ、あるぞ、使え」

 

 あまりにもあんまりな光景を前にして普段は武骨なオッタルも動揺している。オッタルから投げ渡されたポーションを受け取り、破片を引き抜いたベジットはその全てをベートに浴びせていく。

 

 一瞬だけ吹き出す脳漿、次いでポーションによる回復効果で傷は直ぐに塞がるが………ベートは目を覚まさない。

 

 ゴクリと喉を鳴らす二人、オラリオでもNo.1とNo.2の実力ある二人が酷く動揺している姿にアレンはただなにも言えず、眺める事しか出来なかった。

 

 一秒、二秒、刻まれる時間の流れが緩やかに感じ始めた時、ベートの目がパチリと開く。

 

「め、目覚めたか……」

 

 悪態どころか言葉一つ口にする事なくムクリと起き上がるベートにベジットとオッタルの間に不穏な空気が流れ始める。

 

一体何なんだと、先程から置いていかれたアレンがそろそろ怒鳴りそうになった───その時だ。

 

「シャイ☆」

 

「──────────────────は?」

 

「お待たせしました凄い奴。グレート・ウルフ・キング、ベート・ローガ只今復活! 知っているかい? 主人公ってのは復活してからが勝ち確なんだっZE☆」

 

 時が止まった。普段は誰であろうと無愛想で、同じ派閥の眷族相手でも不機嫌さを隠そうとせず、どんな格上が相手でも噛みつく第一級冒険者のアレン・フローメルは、目の前ではっちゃける【凶狼】に思考も肉体も停止した。

 

 我に返るのは数えて十秒近く。深層であれば間違いなく危機に陥る時間、アレンは呑気に気絶に近い状態に陥っていた。

 

我に返り、ベジットとオッタルに説明を求めるが、当の二人も頭を抱えたまま踞っている。

 

「ど、どどどどどどどうする!? ベートの奴またアレになっちゃったよ! またなっちゃったよ!?」

 

「ポーションはもう使いきってしまった。いや、そもそもアレはダメージでなったモノなのか!? 精神的、或いは呪詛(カース)的要因が原因じゃないのか!?」

 

「どっちにしてもこのままじゃあベートは元に戻らねぇ………いや、そうだ。俺達にはアミッドが、アミッドがいる!!」

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】か! ヘイズをして最高の治癒師(ヒーラー)と謳われる……だが、出来るのか!?」

 

「信じるしかねぇ! オッタル、行くぞ!」

 

「分かった。アレン!」

 

「!」

 

「こい!」

 

 手を伸ばし、有無を言わさないオッタルの迫力に圧され、アレンは抵抗の言葉も吐けず手を伸ばす。

 

 オッタルの手を掴んだ瞬間、“ピシュンッ”と軽い音ともに四人は姿を消え、ダンジョンは再び静寂に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘスティア様、ジャガ丸くんプレーン味を一つ下さいな」

 

「お、ディアンケヒトの所のアミッド君じゃないか! そっちはもうお仕事終わりなのかい?」

 

 お昼下がりの時間帯、オラリオの人々が賑わう大通りの道沿いにてバイトに勤しんでいたヘスティアの元にディアンケヒト・ファミリア随一の治癒師(ヒーラー)、アミッド・テアサナーレがやって来た。

 

何時もは怪我をした冒険者を癒す為に従事したり、ファミリア内で生産したポーション販売の売り子など、日頃から忙しい彼女が珍しく外出している。

 

 ヘスティアにとっても既に顔馴染み以上の間柄の少女、闇派閥との戦いを経て少しだけ大きくなった彼女にヘスティアは微笑みながら注文の品を手渡した。

 

「はい。今日はディアンケヒト様のご厚意で午後から休みを貰いまして、折角だから普段とは違うことをしてみようと思いまして」

 

「うんうん、仕事を充実するには適度な休息も大事だよ。リリ君、君も休憩に入っていいよ」

 

「あ、はい!」

 

 ヘスティアの護衛だけでなく、バイトの手伝いも進んで行うリリルカ・アーデ。賄いのジャガ丸くんを幾つか戴くと店の側にある備え付けの椅子にアミッドと共に腰を下ろす。

 

「しかし、あの時のあなたがまさか此処までの冒険者になるとは……正直、予想外でした」

 

「アハハ、リリもまさかLv.3にまでなれるとは思ってませんでした。それもこれも、ベジット様とヘスティア様がリリを救ってくれたお陰です」

 

「………ベジットさん、ですか」

 

 サクサクという噛み応えのある衣の奥から口の中に広がってくるジャガイモの甘めの味わい。塩を好みに振り掛ければ更に味が際立つジャガ丸くんを頬張りながら、アミッドはポツリと呟く。

 

「ベジットさん……彼が来てから、オラリオは日々驚きの連続です。ディアンケヒト様も仰ってました。奴が来てからと言うものの神々は暇を持て余す事が無くなったと」

 

「それは……良い、事なのでしょうか?」

 

 退屈を嫌い、暇潰しの感覚で下界に降りた神々は数多く存在する。中には暇を持て余した神々が人類を弄んだりと悲劇的な事もしている為、そう言う意味ではベジットの行いは神々に対する一種の抑止力とも言えるのだろうが……。

 

 ただ、アミッドとしては少々複雑な心境らしい。

 

「……あの人が来てから、色んな出来事が起きています。中でも再起不能となった方を押し付けてきたりと、中々遠慮がありません」

 

「あ、アハハハ……」

 

 アミッドの言う再起不能とは、恐らくはザニスの事なのだろう。未だ廃人状態から抜け出せず、今ではディアンケヒト・ファミリアの医療治験の検体にされているとか。

 

「私としては、もう少し落ち着きを持って欲しいと言うのが本音です。リリルカさん、貴女もですよ? 幾ら腕に自信が有るとはいえ、レベル差が二つもある相手と戦うのは自殺行為に等しいですよ?」

 

「あう」

 

 どうやらアミッドの中ではリリルカも中々の問題児として認識されている様だ。尤も、医療従事者であるアミッドの言葉に間違いはないし、今後お世話になる可能性もある身として、リリルカは素直に頭を下げる他なかった。

 

「その、何時もご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 

「…………いえ、私も他派閥に対して出過ぎた事を言いました。こちらこそ、失礼しました」

 

 アミッドも自身が言いすぎた事を反省し、リリルカに倣って頭を下げる。そうして、改めて親睦を深めようとした時……。

 

 ソイツらはやって来た。

 

 “ビシュンッ” そんな音と共にアミッドの目の前に現れるのは今しがた話題にしていたベジット。彼の側にはオッタルとアレン、そしてベートの三人がそれぞれ佇んでおり、いきなり現れた四人に周囲の人々も驚きを顕にしている。

 

「アミッド! 早速で悪いが急患だ! 対応頼めるか!?」

 

「べ、ベジットさん? 一体何処から?」

 

「説明は後でするから、頼むからベートの奴を診てやってくれ! 出来れば極秘に!」

 

「極秘って、穏やかじゃないね。何があったんだい?」

 

「そりゃあもう、今のベートが他所にお出し出来る状態じゃ………」

 

 いきなり現れて捲し立てるベジットであったが、主神であるヘスティアの声を聞いて、自分達のいる場所に疑問を抱く。

 

 あれ? 此処ってディアンケヒト・ファミリアの本拠地じゃなかったの? 何時もなら診察室か店の売り子をしている筈のアミッドが、何故ヘスティアと一緒にいるのか。

 

 と言うか、普通に隣にリリルカが座っているし、何なら此処は屋内ですらない。自分達が開けた空間、行き交う人々や露店で賑わう大通りだと気付いた時。

 

「イェーイ!! 超絶イケメン紳士、ベート・ローガ様のご帰還だァーッ!! 者共、刮目するが良い!!」

 

「「「」」」

 

 空気が死んだ。いち早く、秘密裏に治療して欲しかったベートはこの日、多くの人々の観衆の下で最大限の痴体を晒す事となった。

 

 普段から恐れられ、【凶狼】と恐れられたベート・ローガの凄まじいまでのキャラ崩壊は瞬く間にオラリオ全土に広がり、多くの人々はそこまで追い詰めたベジットとオッタルの扱きに恐怖を抱く事になる。

 

 キラキラと輝き光るベート、それを遠巻きからでも目の当たりにした者は愕然とし、身内であるヘスティアとリリルカも開いた口が塞がらないでいる。

 

 唯一、ベートに何かしたであろうと察したアミッドは凍り付く程の満面の笑みを浮かべて……。

 

「ベジットさん、少しお時間戴けますか?」

 

「─────はい」

 

 ビキビキと青筋を浮かべる少女に、ベジットはなすすべなく従う他なかった。

 

 尚、今回は覚えているパターンであった為、ベートはその日から一週間、本拠地の自室から出てくる事はなかった。

 

「………アレン」

 

「な、何だよ………」

 

「今度、【凶狼】に謝罪しておけ」

 

「────────────────あぁ」

 

 流石にこの場で噛みつく程、アレンは人の心を捨ててはいなかった。

 

 

 

 

 

 

RESULT

 

ベート・ローガ《最終ステイタス》

 

Lv.5

 

力 :SSS1260

 

耐久:SSS1348

 

器用:SSS1298

 

敏捷:SSS1406

 

魔力:SS1025

 

 

 

 

 

 

 

 

「大いなる力には、大いなる代償が伴う、か」

 

「カッコつけてる所悪いけど、後で僕からも説教だからね」

 

「ウッス」

 

 

 

 





Q.ベジットの瞬間移動、公にされてね?

A.瞬間移動の話題はこの後一度も出てきませんでした。ありがとう、ベート君。


Q.今回でベート君に新しい魔法とかスキルとか発現しなかったの?

A.もう許してあげて。

Q.ベート君、復帰出来そう?

A.僕らのベート君を信じるんだ!

次回、進撃のアレス軍。

 それは、脳筋が奏でる鎮魂歌。



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