ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今回、色々と飛び飛びで読みにくいかも。

そんな訳で初投稿です。


物語55

 

 

 

 神会(デナトゥス)。もう幾度目かになる神々の井戸端会議、既に慣れ親しんだとさえ思える会場に今回もヘスティアは来ていた。

 

 神々の退屈しのぎで始めた神会、何だかんだで情報収集にも適した社交場だが、今回は少しだけ空気が違っていた。

 

「えー、毎度お馴染みの神会だけど、最初に少しだけ僕に時間を貰えないだろうか」

 

 時間は取らせないからと席から立ち上がり、神々の前に出るのは新進気鋭でありながら、昨今のオラリオの中心的存在だった派閥、その主神であるヘスティアの登壇に神々は何かを察した様に口を噤んだ。

 

 その沈黙を了承と捉えたヘスティアは「ありがとう」と返事を返し、深呼吸と共に言葉を紡いだ。

 

「先日、僕の眷族がオラリオ中を騒がせた件について。主神として、ファミリアの代表して謝らせて貰うよ、本当にすみませんでした」

 

 先日、【猛者(おうじゃ)】と【凶狼(ヴァナルガンド)】、そしてベジットが巻き起こした騒動はオラリオ中に轟き、神々と人類に小さくない動揺を与えた。

 

 そんな騒動を引き起こした詫びとして正式に謝罪するヘスティアに対し、神々もまた苦笑いを浮かべながらこれを受け入れた。

 

「あー、まぁベート君が無事に元に戻ったのなら俺等から言う事は何もないや」

 

「確かあの時のベジットってロキやガネーシャからもお小言言われてたんだろ? だったら……なぁ?」

 

 ベジットとオッタルがベートに行ったとされる修行、当事者でない神々も耳にするとその内容に正気を疑った。

 

「ウチだけやない。あの時はアストレアも珍しく本気で説教かましてたで」

 

「仮にも同じ派閥の眷族(子供)にする事ではないもの、流石にお小言を言わせて貰ったわ」

 

ロキ(悪神)アストレア(正義の神)からガチ説教とか、これもう偉業だろ」

 

 人格を歪める程の過酷な環境、ダンジョンによる超常的な原因ではなく、二人の最強(バカ)による人為的な追い込み。

 

 事情聴取の際にガネーシャから、その後は何かと縁のあるロキとアストレアからそれぞれガチ目に説教を受けたベジットは、その後ベートに治療を施したアミッドによる制裁を受けたという。

 

「ウチは何かと影響を受けやすい子達がおんねんでな。余所の派閥と言えど、こればっかりは割りと真剣に話をさせて(もろ)たで」

 

「いや、本当にお騒がせして申し訳ない」

 

 ロキ・ファミリアにはアイズやティオナというベジットに影響を受けやすい娘達が在籍し、もし万が一今回の件が彼女達に知られたら、自分も参加すると騒いでいた事だろう。

 

 元々、アイズはその出自から自身の悲願の為ならば手段も自身も省みない危険な娘。ベジットやリリルカ、ティオナ達と触れ合って最近ではその棘も丸くなって来たと言うのに、そんな話を聞いたらまた以前のようになってしまう可能性は高い。

 

 故に、親バカと言われようがロキはベジットとオッタルにらしくもなくマジ顔で説教をした。

 

 尤も、二人とも今回ばかりは自分達が悪いことは承知し、如何なる罰も受け入れる姿勢の為にロキやアストレア達神々からのお説教もそこまで長くなる事はなかった。

 

 尚、ロキ達のお小言が長くならなかったのはヘスティアが真面目に説教していたのも理由の一つである。

 

 如何にベジットに恩義以上の感情を持つヘスティアもそれはそれ、ベートへ行った仕打ちには流石に怒りを覚え、最初の眷族だろうと関係なく説教をした事は神々だけでなく市民達への説得力として通じる事となった。

 

「フレイヤはヘスティアにちゃんと謝ったんか?」

 

「とっくに済ませてるわよ。オッタルには清掃の他に1ヶ月私の側仕えを外しているし、アレンにもヘスティアの所へ謝罪に行かせているわ」

 

「あぁ、ちゃんと来たよ。ワザワザ高いお菓子を持ってさ、礼儀正しい良い子だったよ」

 

「あの【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】が頭を下げるレベルか」

 

「まぁ、ベート君の悲劇を考えたら……ねぇ?」

 

 事の発端となったオッタルとアレンにも、主神であるフレイアから直々に罰を受けている。ならば今更掘り返す必要もないだろと神々も納得するのだった。

 

「───なぁ、やっぱベジットにも何か二つ名与えるべきなんじゃないか?」

 

「え?」

 

 最初に言い出したのはとある神。抱える眷族も下級(Lv.1)が殆どで、先日漸く団長がLv2となった派閥の主神。

 

 影響力も発言力も微塵もない神であったが、その神の一言に誰も反論しなかった。

 

 オラリオに来てから、ほぼ確実と言って良い程に話題の中心にいるベジット。その強さから既に神々も認めている規格外の戦闘民族。

 

 これまで幾度となく偉業を成し遂げても、未だLv.1という事で敢えて触れてこなかったベジットの二つ名。

 

 二つ名を付けることで一端の冒険者として自覚するのなら、付けた方がいい。今回の騒動を聞いてそう思ったその神は、意外にも自分の発言が通った事に内心で動揺する。

 

「つってもなー、アイツ巷では既に色々と異名で呼ばれてたりしてんだろ? 【光の剣(フォトン・セイバー)】とか」

 

「俺は【超闘士(ハイ・ウォリァー)】なんて聞いたぜ」

 

「金髪碧眼に変身するから、【黄金聖闘士(ゴールド・セイント)】ってのもあったな」

 

 本来は昇格したベートとオッタルの名付けの場なのに、いつの間にかベジットへの名付けへシフトしている。こう言う話題のすり替えは問題あるとして、後日議題にする際は気を付ける事を神会の注意事項に追加された。

 

 閑話休題。

 

「ホレホレ、話がズレ取るでー。気になるのは分かるがベジットへの二つ名云々は次の議題にしようや」

 

「「「はーい」」」

 

 ロキの先導に従い、ベジットへの話題は一時中断。その後、オッタルとベートの二つ名の話題に移るのだが、特に変わることなく二人の二つ名はそのままとなった。

 

 相も変わらず騒がしいオラリオ。そんな神々が多く住まう迷宮都市にて、遂にあの組織が訪れる。

 

 【学区】。迷宮都市オラリオとは異なる、世界を旅する方舟。

 

 可能性の塊たる若き才能が集う【学区】の来航に、オラリオは今まで以上に沸き立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、ここがオラリオの港町【メレン】か」

 

 オラリオから南西3K(キルロ)の距離にある巨大汽水湖であるロログ湖に港町【メレン】。管理・運営している派閥は神格者として知られる男神ニョルズ。

 

 海路とオラリオを繋ぐ玄関口であり、オラリオへの輸入・輸出を担う貿易港であるため、異邦の船が多数入港し、異国の人と物で溢れている。

 

 尚、ニョルズ・ファミリアは漁業を営んでいる為、オラリオの台所と称されるデメテル・ファミリアと並ぶ都市の生命線を担っている。

 

「───だ、そうですよ」

 

「いつも思うんだけど、リリ君の情報収集能力どうなってるの?」

 

 事前にリリルカから調べて貰った【メレン港】の情報。やたらと信憑性が高く、的確な内容に主神であるヘスティアは戦慄した。

 

「頑張りました!」

 

「答えになってねぇんだが?」

 

 ベートも目の前の小人族(パルゥム)の末恐ろしさに冷や汗を流す。サポーター時代から培われてきた一面が遺憾無く発揮された瞬間である。

 

「さて、そろそろ港に入るわけなんだが……噂の【学区】とやらは何処だ? もう此方に着いている筈なんだけど……」

 

「来たぞ」

 

 辺りを見渡しても人集りが見えるだけで噂の【学区】の姿は見えない、移動型の教育機関と謳うのだから相当巨大な建造物の筈。

 

 ベートの指差す方へ視線を向ければ、空に浮かぶ巨大な舟がベジットの視界に入り込んだ。

 

「おお、アレが【学区】か。予想以上に大きいな」

 

 メレン港に寄港する巨大浮遊船、レオンが自慢するだけあって【学区】は見上げる程に大きく、その全貌は威容にすら感じた。

 

 オラリオを含めたこの世界の叡智が詰め込まれた機関【学区】。成る程、これくらい大きいのなら世界中を巡りながら人材を集める事も出来そうだなと、ベジットも腕を組んで納得した。

 

「確かに、アレだけのデカさなら学生達を抱えて世界中を巡るのも訳はなさそうだな」

 

「それに、中からそこそこ強ぇ奴の気配がするな。どうやら、見てくれだけの連中ではないらしい」

 

 ベジットが学区の威容を称賛する一方でベートが中にいる強い気配の眷族に興味を抱く。Lv.6へと至り過去最大級の地獄を乗り越えた事で“気”への理解度はより深まり、気を纏う事もより自然に行えるようになった。

 

 その気になれば空を飛ぶ事だって出来るだろう。尤も、支払った代償を考えれば安いのか高いのかは一考の余地はあるだろうが……。

 

 そんなベートの“アレ”に対して、ヘスティア・ファミリアは極力触れないようにする事で可決した。

 

 閑話休題。

 

「さて、レオンとの合流までまだ時間はあるし、何処かで時間潰すか? 折角の港町なんだ。美味い魚料理とかあるんじゃねぇか?」

 

「ベジット様、一応リリ達は学区への体験入学という体で来ているのですから、少し控えるべきかと」

 

「遊びに来てるんじゃねぇんだぞ。シャンとしやがれ」

 

「グフゥ、二人が厳しい……」

 

 そう、ヘスティア・ファミリアは先のラキア王国への対応の件もあって、ギルドから報奨という形で今回の学区への体験入学の権利を得ている。

 

 日頃から突発的に宣戦布告してくるラキア王国をあしらい、気を教える事と引き換えに、外で蔓延るモンスターへの対処を任せたのはラキア王国の対応に年々頭を悩ませてきたギルドにとっても有益だった。

 

 本来なら人目を盗んで抜け出すつもりだった為、今回の報奨は渡りに船である。お陰で堂々とオラリオから抜け出せるし、噂のメレンの港町も観光できる余地が出来た。

 

 尤も、先に述べた通りベートとリリルカの二人は全くそのつもりはない様だが……。

 

「ま、まぁまぁ二人とも、そう言わないでおくれよ。ベジット君も日頃から頑張っている二人を労いたくて言ってる事なんだから」

 

「普段来ない港町の飯を食いたいだけなんじゃないのか?」

 

「ギクリッ」

 

 勿論、ベートとリリルカには予定どおり昇格(ランクアップ)した事に対する労いも嘘ではない。が、普段は来ない港町、それも海路と湖を繋ぐオラリオの玄関口と言われるメレンの港町ならではの飲食に興味があるのも事実。

 

 ジト目を向けてくる二人に背を向けて、ベジットは態とらしく咳き込んだ。

 

「ンンッ! と、兎に角! 二人には日頃から迷惑を掛けたし、食の出会いは一期一会とも言う。レオンを待って無意味に時間を潰すのもアレだし、団長として慰安の一時を過ごすのも吝かではないというか」

 

「話が回りくどい」

 

「凄い早口でしたよ」

 

 この二人、最近なんだか自分に対して容赦がなくなってきた気がする。冷たい二人の態度にいい加減泣きたくなった時、一人の男神が近付いてくる。

 

「ハッハッハッ、噂どおり面白い連中だな。ヘスティアの所は」

 

 快活な笑い声と共に声を掛けてきたのは上裸にサンダル、首にタオルを巻いた青年───神と思われる男性が数人の眷族を引き連れてやって来た。

 

「あ、もしかして君がニョルズかい?」

 

「あぁ、俺がニョルズ・ファミリアの主神。ニョルズだ。初めましてだなヘスティア。そしてその眷族達! お前達の話はメレンにまで届いているぞ。何でも冒険者が集うオラリオで連日大暴れだそうじゃないか」

 

「お、大暴れ……」

 

「何でしょう、そこはかとなく悪評の気が……」

 

「あぁ、そしてその悉くが否定し辛い奴だ」

 

 明るく笑うニョルズだが、後ろに控えている眷族達の表情は明るくない。敵意や害意とは違う、何か思い詰めている様な表情にベジットは訝しんだ。

 

「そんで、そのニョルズ様が俺達に何の用だ? 一応俺達これから予定があるんだが?」

 

 恐らくは自分達の噂を聞き付け、何らかの依頼(クエスト)を頼みたい所だろうが、今日は以前から細かく予定を立てていた大事な日。

 

 眷族からの表情を見て、かなり切羽詰まった様子だが、生憎此方にもそんな余裕は無い。

 

「────あぁ、実は折り入って君達に頼みたい事があるんだ。俺の眷族達に君達が扱うとされる“気”という力を、どうか授けてやって欲しい!」

 

 深々と頭を下げてくる主神と眷族達。やはりなと予め分かっていた展開に溜め息を溢すベジットは、申し訳なくと思いながら断りの一言を口にしようとする。

 

 何せ今日は大事な日、綿密な計画からなる始まりの日なのだ。そんな大事な日を前に別件を入れる等愚の骨頂。

 

 この日にはレオンやまだ見ぬ神バルドルとの密会が予定されている。下手に人目は付けたくないし、時間を取られるのも御免被りたい。

 

 必死に頭を下げてくる神ニョルズには申し訳ないが……。

 

「勿論タダとは言わない! 聞き入れてくれればこの街一番の飯処に案内するし、何なら奢る! だから頼む!! 俺の頼みをどうか聞いて───」

 

「詳しく聞かせて貰おうか」

 

 よくよく考えれば、自分は天下無敵のベジット。そこら辺の三下冒険者とは訳が違うのだ。

 

だから、神格者として知られる神ニョルズの頼みなんてチョチョイのチョイなのである。何なら今後の為に恩を売るのすら悪くないとすら思える。

 

 決して、そう決して海の幸を奢って貰える事に釣られた訳ではないのだ。其処だけはキツく言っておこう。

 

「「………………」」

 

 後ろで二人の視線の温度がマイナスに振り切った気もするが、気のせいという事にしよう。

 

 だから人をチョロットとか呼ばない。ブッ殺すぞ。

 

「───所で」

 

「ん?」

 

「噂では金髪碧眼の姿と聞いてたが、今は違うんだな?」

 

 現在、ベジットの姿は金髪碧眼の超サイヤ人ではなく、通常の黒髪黒目の状態。

 

 噂とは違うベジットの姿にニョルズは不思議に思い訊ねると……。

 

「あぁ、一段落(・・・)付いたからな」

 

 不敵な笑みを浮かべてそう返すベジットに、ニョルズは得も言われぬ凄味を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、それで向こうの海面からド派手に水柱が上がっていた訳ね」

 

「お騒がせしてすみませんでした」

 

 現在時刻は夜、既に暗くなったメレン港。人気の無いとある宿屋の一室にて待ち合わせをしていたレオンと先に合流していたヘファイストスと共に、やはりやらかしていたベジットに苦笑いを浮かべていた。

 

 神ニョルズの願いを聞いてラキア王国の時と同様に選抜した10人の眷族に“気”を目覚めさせた後、アフターサービスとして海に潜むモンスターを数匹程度残し狩り尽くした。

 

 以前にひとり旅をしていた時以来の水中での戦いだった為、つい夢中になってしまった。

 

 その為メレンに近しい海面では大きな水柱が幾つも巻き起こり、比較的近くにいた学区の生徒達は騒然となったとか。

 

「本当ですよ。お陰でメレン支部のギルドから難癖付けられて、折角の魔石が殆ど取られてしまいましたし」

 

 隣でプンスカと憤るリリルカ、ベートも何やら不機嫌な様子で腕組をしている。

 

 実はベジットが港に戻る際、一つトラブルが起きた。

 

 メレンのギルド支部の総責任者であるルバート・ライアン。彼は快活でおおらかなメレンの人々とは対称的な神経質で陰険な気質で、騒ぎを起こしたベジットを一方的に目の敵にし、難癖を付けて魔石の殆どを没収したのだ。

 

 本来の目的の為、あまり騒ぎを起こしたくないヘスティア・ファミリアは抵抗する事なく魔石を差し出した(今更とか言わない)。

 

 ベジットとしてはダンジョンに一日そこら籠っていれば稼げる量の為、其処まで気にする事はなかったのだが……。

 

「大変だったのはニョルズ様達の説得だったな。まさか俺達の為に彼処まで怒ってくれるとは……」

 

 ニョルズ達漁業を営んでいる者は日々モンスターの影に怯えながら漁に出て、何とか生活を保っている。

 

 今でこそダンジョンの水棲のモンスターはある事情(・・・・)から流出を止められているが、数百年続いたモンスターによる被害は今も尚深いまま。

 

 神ニョルズの眷族達も漁に出る度にモンスターに襲われ、被害者を増している。

 

 そんな自分達に神の恩恵とは異なる力を授けてくれただけでなく、海に蔓延る恐ろしい水棲モンスターも一定数間引いてくれた。そんなニョルズ・ファミリアの恩人とも呼べるベジットから財産を奪おうとするギルドを主神含めた眷族達はそれはもう激怒した。

 

 怒れるニョルズとその眷族達を宥める方が時間を割いた程だ。

 

「まぁ良いじゃねぇか。彼処で変に騒いだら、それこそギルドに勘づかれちまう。アレがベストでなくともベターな結果だと俺は思うぞ」

 

「───まぁ、今後メレンで何かあればニョルズ・ファミリアと地元自治体と連携しやすくなりそうですし、あの只人(ヒューマン)にも今回の件は付け入れる隙になりそうですしね」

 

「ヤダ、リリルカってば怖いこと言ってる」

 

 今回の件はニョルズ・ファミリアに貸しを一つ作れただけでなく、ギルド支部に対してもニョルズ・ファミリアの怒りを鎮めた事でメレンでのベジットの影響力を無視できなくなった。

 

 これ等のカードを上手く使えば悪戯の一つくらい出来る。クックックッと若干黒く笑うリリルカにベジットもまた末恐ろしさを感じていた。

 

「さて、そろそろ時間だ。表にバルドルが馬車を用意してくれている。守衛に気付かれる前にオラリオから離れよう」

 

「分かった」

 

 レオンに促され、手際よく出立の準備をする。それぞれ荷物を背に予定していた場所に向かう途中……。

 

「───所でヘファイストス、本当に君も来るのかい?」

 

「あら、ここまで来て仲間外れ?」

 

「そうじゃなくてさ。君は下界に降りて一層公平さを厳守するようになったじゃん? そんな君が僕達にここまで肩入れしてくれるのが申し訳ないと言うか」

 

 天界にいた頃も下界に降りた後も何かと世話になってきたヘファイストス。今回の旅にも同行してくれると聞いて心強く思っているが、ヘスティアとして神友である彼女に付き合わせてしまっている事に罪悪感を抱く。

 

 そんなヘスティアにヘファイストスはニコリと笑い。

 

「もう、今回は私が我が儘を言っている側なんだから、あなたが気にしなくても良いのよ。それに気になるじゃない、黒竜が(・・・)倒れた地(・・・・)。観光地としてはビッグネーム過ぎるわ」

 

「あはは」

 

 嘗て世界を絶望に叩き落とし、千年前から終末機構として君臨する黒竜。その黒竜が倒れた地に向かうことにヘファイストスは何だかんだ楽しみにしていた。

 

 珍しくワクワクしているヘファイストスに対してヘスティアも期待と不安が入り交じった複雑な気持ちを抱く。自分が眷族にする以前より冒険を続け数多のモンスターを打ち倒してきたベジット。

 

 そんな彼の今も残る戦いの記録。ヘスティア自身も初めて目にする【救界の記憶】に内心浮き足立っていた。

 

「やぁ、待っていたよ」

 

 合流地点の馬車、二台ある内の一つから声が聞こえる。立ち止まる一行の前に現れるのは軽くウェーブの掛かった金髪の男性。

 

「救界を成し遂げた【最後にして偉大なる英雄】よ、お会いできて光栄だ」

 

 バルドル。レオンの主神にして学区の創設者、微笑みを浮かべながら手を差し伸べる神に対して……。

 

(なぁんかこの神、胡散臭いな。系統としてはヘルメス様に似ている)

 

 割りと本気で失礼な事を考えながら、握手に応えるベジットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────成る程、“気”という力は其処まで汎用性が高いのか」

 

 黒竜が封印されていたとされる大陸最北端にある【竜の地】。其処に向けて馬車に揺られる一行は男女二つに別れていた。

 

 バルドルはレオンと同様にベジットの扱う“気”について興味を抱いており、極めれば極める程に汎用性が高まる力に舌を巻く。

 

「この間俺とベートが見せたように、気は身体能力を大幅に引き上げるだけでなく空を飛ぶ事だって出来るようになる。まぁ、個人差はあるが」

 

「私もアレから一人で特訓しているが、飛行能力は未だに習得出来ていない。ベジット、学区へ戻ってきたら早速教えて貰いたいのだが………」

 

「あぁ、構わねぇよ。俺も噂の生徒の実力が知りたいしな」

 

「やれやれ、君程の男に期待されるのは嬉しいが、些か緊張してしまうな。……ラキア王国も最近は周辺諸国のモンスターを狩っていると聞くし、アレも君が?」

 

「あぁ、学区に気を教える予行練習としてな。そっちの負担も少しは減らせると思ってたんだけど……余計なお世話だったか?」

 

「まさか。彼の国の力の使い方には以前から私も頭を悩ませていたからな。一つの方向性を導いて見せた君には感服する思いだ」

 

「ベジット、やはり君は学区に必要な人間!」

 

「まだ諦めてねぇのかよ」

 

 ベジットの話に興味津々なバルドルと未だに学区の正式な教師としての勧誘を諦めきれていないレオン、ブレない【ナイト・オブ・ナイト】に馬の手綱を引いているベートもこれには呆れ顔である。

 

 オラリオを離れて早一週間。途中挟んだベジットとベートによる飛行もあって旅は恐ろしい程順調に進んでいた。

 

 途中不必要な浪費を避ける為に獣を狩ったり、モンスターを討伐して小遣いを稼いだりと、割りと充実な旅を経て。

 

 そして、遂に彼等は辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「────────」」」」

 

 言葉が出なかった。

 

 リリルカもベートも、ヘファイストスもヘスティアも、嘗て【竜の地】と呼ばれた跡地を見て何一つ言葉にする事が出来なかった。

 

 その昔、古代最強の英雄アルバートが命を懸けてオラリオから撃退し、風の大精霊によって千年に亘って風印(・・)されてきた隻眼の黒竜。

 

 彼の厄災により【廃棄世界】と呼ばれた大陸。暗雲に包まれていたとされる空は雲一つなく澄み渡っており、何なら渡り鳥が見える。

 

 常に瘴気に包まれ、生半可な人間ではそれだけで死に至る空気も、何ならオラリオより美味しい気さえする。

 

 色々と言いたい事は多々あるが、ベート達が気になるのは其処ではない。

 

 遥か彼方の地平まで続く抉れた大地。それを目の当たりにしたヘファイストスはこの光景が単なる戦いの余波だけで付けられたモノではないと看破する。

 

 これは、星が(・・)抉られた(・・・・)跡だ。地を裂くだけでは飽き足らず、空を砕くだけに留まることはない。

 

 天界下界が一つに住まう星が、人為的に抉られてしまっている。

 

 その張本人たるベジットは照れ臭そうに頭を掻いている。今までヘファイストスは彼の言葉を鵜呑みにしていた訳ではないが、改めて確信した。

 

 黒竜は討伐されている。自分達が知る由もなく、気付く訳もなく。

 

「────これ、バレたら大騒ぎってレベルじゃないわよ」

 

 廃棄世界と呼ばれた大陸が色を取り戻し命を吹き返している。嬉しい事の筈なのに、何よりも喜ぶべき事の筈なのに何故かヘファイストスの額からは滝の様な汗が流れている。

 

 ベートも同様で、額に大粒の汗を流して立ち尽くしている。

 

 肝心のヘスティアはというと……リリルカと一緒にハワーと目を丸くさせている。許容オーバーなのだろう、ヘスティア達の反応にツッコミを入れる余裕はヘファイストスにはなかった。

 

「いやはや、私は二度目だがやはり圧倒されてしまうな」

 

 圧倒にして圧巻。黒竜とベジットの戦いは予想を遥かに上回る形としてこの地に残されていた。

 

 ヘスティア達が目の前の光景に圧倒されている一方、ベジットはふとあることに気付く。パチパチと聞こえてくる焚き火の音、何かと思い音のする方へ視線を向ければ、そこには一つのテントが建てられていた。

 

「ったく、漸く来おったか。女を待つのは兎も角、野郎を待つ趣味はないんじゃがのぅ」

 

「誰だ、あの爺は」

 

「ゲッ───」

 

「ヘスティア様、お知り合いですか?」

 

 気配からして何らかの神なのだろう。焚き火に当たっていたその翁はベジット達の存在に気付くと、ヨッコイショと立ち上がり此方に向き直る。

 

 ヘスティアはあからさまに顔をしかめ、ヘファイストスは溜め息を吐いている。彼女たちの様子から顔見知りの様だが……。

 

「ベジット君達は初めてお目にかかるな。此方の老神はゼウス(・・・)、嘗てオラリオに君臨していた主神の片割れであり、黒竜に挑んだ眷族(こども)達の()だった御方だ」

 

「ヨロシコ」

 

 嘗ての最強の一角、千年オラリオに君臨していた神の登場にベートもリリルカも再び言葉を失う一方。

 

(────成る程、亀仙人枠だな)

 

 ベジットは一目でゼウスの本質を見抜いていた。

 

 

 

 

 





Q.ヘスティア・ファミリアの本拠地はどうしてるの?

A.留守の間、アルテミス・ファミリアが護る事になっております。流石に都合よく扱っている為、アルテミスとその眷族達には後日ちゃんとした礼をするつもりである。

Q.具体的にはどんな礼をするつもり?

A.「そう言えば、君達が帰ってくる頃は調度女神祭の時期だったね。ウフフフ……」


Q.学区の創設者が出払って大丈夫なの?

A.「学区の事はイズン達に任せてあるから心配要らないさ」



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