ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今回、オリジナルキャラ?が登場します。

ご了承下さい。

そんな訳で初投稿です。



物語56

 

 

 

「ゼウス、嘗てオラリオに君臨していた最強派閥の片割れ!」

 

「なんでここに……て聞くのは愚問か」

 

「えぇ。今回の会合に参加して貰う為、勝手ながら私から話を通させて戴きました」

 

 勝手な事をして申し訳ないと、神でありながら深々と頭を下げてくるバルドルにベジットは気にするなと返した。

 

「ま、ワシが来たのはアルフィアに風呂を覗こうとしたのがバレて怖くて暫く家に帰れんと言うのが大部分の理由じゃが………流石に黒竜が倒されたと聞かされたら無視は出来んじゃろうて」

 

「あ、相変わらずだなぁ君は」

 

 サラリと【静寂】が生きている事を暴露する目の前の翁、この場で唯一その事を知らないヘファイストスは特に驚く事もなく静観している。

 

「ヘファイストス様、驚かないんだな。【静寂】のアルフィアが生きている事」

 

「まぁ、何となくそんな気がしていたわ。黒竜とあの眷族()達の関係性を教えたのは私だもの、アナタならきっと何とかするだろうと思ってたわ」

 

 若干呆れた様子ではあるが、嘗ての眷族達(ゼウス・ヘラの子供達)が生きていた事にヘファイストスは嬉しそうに笑う。ディアンケヒトの様にもっと呆れられると思っていただけに、鍛冶の女神の反応にベジットは珍しく照れていた。

 

 照れ臭そうに頬を掻くベジット、そんな彼をゼウスは見定めるように見つめた。

 

「それで、お前さんがベジットか?」

 

「あぁ、俺がベジットだ。悪いな、アンタ達の獲物を横取りしちまって」

 

「気にする必要はないわい。ワシとヘラの子供は黒竜を倒せると思っていた。だが敵わず敗北、それだけの話よ」

 

「…………」

 

「それに、こんなふざけた光景を目の当たりにしてしまっては、受け入れるしかあるまいて。のう、バルドル」

 

「ですね」

 

 自分達は黒竜に挑んで負け、ベジットは勝った。ただそれだけだと語るゼウス、その声音に感情はなく、ただ事実を事実として受け入れていた。

 

 ベジットが黒竜との戦いで刻んだという戦いの記憶。星が抉れ、新たな命の息吹が芽吹こうとしている地を見つめて、大神(ゼウス)の目には嬉しさと少しだけの寂しさが滲み出ていた。

 

「ねぇゼウス、君は今までどこにいたんだい? フレイヤとロキから追放されたって聞いたけど……」

 

「ン? おぉ、ちょっと孫の面倒を見ていたんじゃよ。ワシに似てプリチーな顔をしておってな。ありゃあ将来とんだ女誑しになるぞ」

 

「自慢気に言うな」

 

 ガッハッハと快活に笑うゼウス、前世でも知られている通り、女性関係にはてんでだらしないらしい。助平な所も本当に亀仙人みたいだなと、ベジットは思った。

 

「ていうか、孫がいるんだね」

 

「おぉ、アルフィアの妹とワシの眷族(息子)で授かった子じゃ。病に伏せる事もなくノビノビと育っておるわ。………最近は断末魔の叫びを上げる事が多いが」

 

「なんか今サラリと物騒な事言わなかった? 大丈夫なのそれ」

 

「流石にそこら辺は加減していると………思いたいなぁ」

 

「願望かよ」

 

「断言しなさいよそこは」

 

 どうやら目の前の大神が言うには、アルフィアもザルドも平穏無事に生活しており、二人ともかわいい息子を色んな意味で溺愛しているらしい。

 

「まぁ、色々と騒がしい日々を送っているが、総じて皆よく笑っておる。そう言う意味ではベジット、お前さんには感謝しておるよ」

 

「どういたしまして」

 

 本来なら得られる事の無かった幸福。有り得る筈が無い邂逅は、一人の規格外の手によって叶えられた。

 

 黒竜が討伐され、事実上救界は成し遂げられた。ゼウスにとって予想外過ぎる出来事ばかりだが、今はただその事実に感謝した。

 

「そんで、お前さん達は此処で一体何をするつもりじゃ? 見ての通り此処は既に黒竜なき地、なぁんもないぞ?」

 

「だからさ」

 

 誰かがいたり、何かがある訳じゃない。【廃棄世界】と呼ばれるこの大陸だからこそ出来る事がある。

 

「じゃ、キャンプの準備をしたらみんな適当に寛いでてくれ。ヘスティア、準備が出来たら呼ぶからその間はみんなと一緒にいてくれ」

 

「う、うん。分かったよ」

 

 何かこれから始まるの? 不思議に思ったゼウスがヘスティアに訊ねるがヘスティアもよく分かっていないのか首を横に振る。

 

「さて、それじゃあ始めるか。俺の昇格、その為の修行を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────って、言ったのにベジット様ってばアレからずっと外で棒立ちですね」

 

「本人は暫く一人にして欲しいと言っていたが……」

 

 竜の谷(跡地)に訪れて早一週間。自身の昇格(ランクアップ)の為にとベジットに付いて来た一行だが、肝心のベジットは外に出てからずっと飲食や必要最低限な行動以外はずっと外で突っ立っているだけだった。

 

 修行というから、体を激しく動かしたり何かしらの負担を掛けるつもりなのかと予想していたが………アレからベジットは抉れた大地の際に立ち、何かをする訳でもなく立ち尽くしている。

 

 てっきり、ベートに施した時以上の責め苦を自身に課すと思っていただけに、少し拍子抜けた気分である。

 

 ただ、近付きがたい空気を纏っているのもまた事実。不気味なまでの静けさを保っているベジットにヘスティア達はただ遠巻きで見守る事しか出来なかった。

 

「一応、飯は食ってるんだよな?」

 

「はい。リリが配膳した際に確認しましたので間違いありません。尤も、いつ食しているのかは把握出来ていませんが……」

 

 流石に飲まず食わずで修行させる訳にはいかないと、毎食少しだが簡易の食事を提供していた。邪魔になるので食べ終えたの確認してからトレーを回収し、その都度綺麗に食べられていたものだからリリルカとヘスティアは最初こそは安心していた。

 

 ただ、オラリオにいる頃より明らかに食べる量は減っている。ヘスティアと旅をしていた頃は小腹が空く度にベジットが手頃な野生動物を狩ってはそれを残さず食べていた為、ベジットは間違いなく物足りなさを感じている筈。

 

 なのに、不満を口にする処か睡眠一つしていない。風の強い日も雨の降る日もただ立ち尽くしている。そんな生活を一週間も続けば普段のベジットの健啖ぶりを目にしているヘスティア達としては心配してしまうというものだ。

 

「大丈夫かなベジット君」

 

「レオン様、バルドル様、この辺りに大型の動物とか生息していないのでしょうか? 万が一に備え、蓄えを確保したいのですが……」

 

「うーん、最近は漸く小動物が近付いてきたって段階だからね。私としてはあまり狩って欲しくないと言うのが本音なんだけど」

 

「だが、俺達の食料の節約にも繋がる。ゼウスの爺に集る訳にもいかねぇし、いざとなったら遠出するしかねぇか」

 

「一応、私達の物資はまだ余裕はあるけど?」

 

「念の為だ。ベジットのバカは加減を知らねぇ。自分の限界値を見誤って空腹で倒れる何て事も有り得るからな」

 

 フンッと鼻息を飛ばして悪態を吐くベートだが、それが彼なりのベジットを案じているが為なのだと知り、ヘスティアとリリルカは気付かれないよう笑みを浮かべる。

 

 まぁ、実体験から来る言葉だけに説得力は凄まじいが。

 

「しかし、本当に動かんのうあの兄ちゃん。一体何を考えとるんじゃ?」

 

 長い間オラリオに君臨していたゼウスも、ベジットという人間は初めて目にするのだろう。ベジットの様子に不思議に思いながらヘファイストスの隣へと近付き、彼女の引き締まりつつ柔らかな臀部に手を伸ばす……。

 

「やめろっての、この助平爺」

 

 それをまるで来るのを分かっていた様に、ヘファイストスはゼウスの手を締め上げる。

 

「ヒギィッ! う、腕がァッ!? ヘファイストス、いつの間にこんなテクをっ!?」

 

「アストレアが教えてくれたのよ、対痴漢用護身術。まさかとは思ってたけどマジでセクハラかまそうとするなんて……」

 

「全く、相変わらず懲りないねぇゼウス。そんなんだからヘラに怒られるんだろ。いい加減に学習しろよ、次は庇ってやれないぜ?」

 

「へ、へへーん! そこにおなごが入れば絡みに行くのがワシじゃ! つーかヘスティア、お前もいつまでもワシらを子供扱いするんじゃない!」

 

「ヘスティア様ヘスティア様」

 

「はいヘスティアです。なんだいリリ君」

 

 腕を捩じ上げられ、苦悶の顔を晒すゼウスだが、その表情は冒険に挑む勇者のそれ。何度阻まれても挑み続ける彼の変わらない精神性に呆れながらも、リリルカはこの地に来てから気になっていた事を主神であるヘスティアに訊ねた。

 

「ヘスティア様とゼウス様って天界の頃からのお知り合いなのですか? 何だか身内みたいな扱いをされてますけど……」

 

「あー、まぁ実際似たようなモンだね。ゼウスもヘラも僕にとってはヤンチャな弟妹みたいなモンだし」

 

「ゼウスは兎も角あの(・・)ヘラをヤンチャ呼ばわり出来るのは、天界の神々と言えどヘスティア位ね」

 

 天界の頃より神格者として知られる女神ヘスティア。その神望は凄まじく、天界でも最大の栄誉とされる元オリンポス十二神の一柱なだけでなく、その神格に多くの神々が一目置く程であり、その中にはゼウス(大神)ヘラ(女神)も含まれている。

 

「成る程、ゼウス様やヘラ様にとってヘスティア様は姉の様な存在なのですね」

 

「ヘスティアが………姉!?」

 

「ベート君、素直にその反応は傷付くぜ」

 

 普段のほわわんとしたヘスティアを知るベートとしては自分の主神がゼウス・ヘラの姉貴分であることに驚きが隠せないらしい、そんな眷族にヘスティアは泣きそうになった。

 

「わ、悪ぃヘスティア。正直マジで想像つかねぇ」

 

「真剣に謝るなよ泣きたくなるだろ!」

 

 更にはベートにしては珍しく素直に謝罪してくるモノだから、ヘスティアとしては既に涙目モノである。

 

「あ、そろそろお昼ごはんの時間ですね。ベジット様のお膳、回収してきます」

 

「はーい。………所でヘファイストス、いつまでゼウスをそうするつもり?」

 

「いや、ね……折角こうして極めているんだから、ヘラに差し出してやろうかと」

 

「止めて許して!!」

 

 昔から逃げ足と覗き癖、オマケにかなりの女好きというゼウス。そんなゼウスをその重すぎる愛で物理的に締め付ける超絶残虐破壊衝動女(ハイパーウルトラヒステリー)な女神ヘラは周囲を巻き込んで血の嵐を起こすという。

 

 そんな傍迷惑な男神と女神を、揃ってヤンチャと評するヘスティアはもしかしたらかなりの神格者なのだろうか。ベートは訝しんだ。

 

 一方で泣きわめくゼウスにそろそろ解放して上げようと、ヘファイストスに声を掛けようとしたその時。

 

「へ、ヘスティア様!」

 

「リリルカ君、どうかしたの?」

 

「ベジット様がお呼びです。準備の方、宜しくお願いします!」

 

 少し慌てた様子のリリに呼び掛けられ、ヘスティアを含めた全員が表情を引き締める。

 

いよいよこの時が来たのか、ベジットへ視線を向けるが相変わらずベジットは何処か遠くを見据えたまま。

 

「分かった。すぐ行くよ」

 

 今こそ自分の出番だ。頬を軽く叩き気合いを入れたヘスティアは勇んだ足取りでベジットの元へ歩み寄っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たぜ、ベジット君」

 

「おぉ、待たせて悪かったな。ヘスティア、みんなも今日まで付き合わせて悪かった」

 

「それは別にいいがよ……」

 

「ベジット様こそ、大丈夫なのですか? 一週間も立ちっぱなしでしたが………」

 

「マジ? そんな時間経ってたのか。時折来てくれる飯で日にちを数えてはいたんだが……」

 

 一週間ぶりに言葉を交わすベジットは、何時もと変わらぬ様子で首を掻いていた。

 

「どうりで腹が減っている訳だ。……ま、でも丁度いいか。この程度の空腹感なら問題ない」

 

「それでベジット。これから君はどうするつもりだ? 何でも、女神ヘスティアの神威を負荷として利用すると聞いたが」

 

「あぁ、俺はこれから気を高めるから、ヘスティアには俺の気を抑える役割をして欲しいんだ。神威ってのは下界の人類に対して抗いがたい畏怖を与えるんだろ?」

 

「え、仮にも神の威をトレーニング器具として扱ってる? 何を言っとるんじゃこの兄ちゃんは」

 

「これが僕のベジット君さ」

 

「自慢に聞こえないのは何故かしらね」

 

 神威という人類には抗えない圧を負荷として利用する。嘗て千年もの間オラリオに君臨していたゼウスとしても初めて耳にする鍛練方法。

 

 ゼウスは思った。なにコイツ、頭おかしいの?

 

「実際は鍛練というより、封印だな。多分俺が本気で気を解放したら地上がヤバい事になると思うからさ、ヘスティアは神威でその被害をなるべく抑えて欲しいんだ」

 

「「「「なにそれ聞いてない」」」」

 

 鍛練というより封印。自分の力の発露を抑えて被害を抑えるのがヘスティアの役割、此処へ来て初めて聞かされる内容にヘスティアを含めた全員がツッコンだ。

 

「おいベジット、修行はどうしたんだよ」

 

「俺の修行は此処へ来る前に大部分は終わっていたんだよ」

 

「あ、常時超サイヤ人になっていたのは……」

 

「そう、これから目指す超サイヤ人の二つ先の形態、その出力に耐える為だ」

 

「?????」

 

 一時期、ベジットが常時超サイヤ人となっていたのはその負荷に慣れるだけでなく、目指す形態への適合と気のコントロールをより巧みになる為の布石であり、修業だった。

 

 ベートとリリルカ、レオンの三人が成る程と頷く一方で、何も知らないゼウスは頭に疑問符を大量に浮かべて首を傾げていた。

 

「じゃ、早速始めるぞ。一先ず超サイヤ人になるから、少し離れてくれ」

 

「分かりました。ヘスティア様、此方へ」

 

「わ、分かったよ」

 

 これから始まるベジットの昇格。これ迄の彼の言動から本気でヤバい事になると察した一同が即座にベジットから距離を取る。

 

「え、え、なになになに、みんなどしたの?」

 

「ゼウス、怪我したくないなら下がりなさい」

 

 唯一、よく分かっていないゼウスが戸惑い、ヘファイストスが下がるよう忠告するが……。

 

「────ハッ」

 

 ドゥンッ。ベジットから発せられる黄金の威が周囲の大気を弾き飛ばす。予め退避していたリリルカ達は土埃を被る程度で済んだが、逃げ遅れたゼウスはバタバタと地面を転がっていく。

 

 久し振りに目にした金髪碧眼のベジット。身に纏う黄金の炎も変わらなく見えるが、発する威圧は以前より増した様に見えた。

 

「これが超サイヤ人、そしてこれが────」

 

「ちょ、待て待て待て!」

 

 またあんな空気の爆発が起きるのかと身構えるゼウスだが、次の変化は其処まで異変が起きる事はなかった。

 

 バチバチと放電し、金髪の髪の毛がより逆立つ。最初の超サイヤ人とは違い此方は比較的穏やかな変化だが、それでも身に纏う圧力と迫力は遥かに増したのが分かる。

 

 この時点で、ベートもリリルカも目の前のベジットの姿を目にした事はなかった。平時の黒髪黒目の姿の時点で、自分達とは隔絶した実力のベジット。

 

 そんな彼が超サイヤ人という変身形態を有し、更にはその上の段階も既に持ち合わせている。一体、我等が団長は何と戦うつもりでいるのか、ベートは真剣に問い質したくなった。

 

「さて、それじゃあヘスティア」

 

「うん」

 

「頼む」

 

「任せて」

 

 ベジットの頼みにヘスティアは即座に了承する。彼の力は尋常じゃない、それは彼女も重々承知の筈。それを間近で目の当たりにして尚、女神ヘスティアの決意は揺るがなかった。

 

「待ちなさい。流石にヘスティアだけに任せる訳には行かないわ。私も参加させて貰うわ。バルドル、貴方もよ」

 

「ヘファイストス」

 

「あぁ、今のを見せられては私も黙って見ている訳にはいかないな」

 

「バルドル」

 

 先のヘスティア・ファミリアの本拠地にて、こうなることは薄々分かっていた。神友の性格から一柱(ひとり)で眷族の無茶に付き合おうとするのも。

 

 だから、自分もそれに加わる。やれやれと肩を回しながら、ヘスティアの隣に立つヘファイストス。

 

「ヘファイストス様、良いのか? 結構無茶させちまうと思うけど」

 

「その無茶に、ヘスティアだけ巻き込もうとしたじゃない。今回の件は貸しにしとくから、私達も参加させて貰うわよ」

 

「まぁでも、こうして下界の未知に携われるのだ。そう悪いことでもあるまい」

 

 ヘスティアの他にヘファイストスとバルドルの二柱が加わる。一人の人間の力を抑えるために神が三柱、いよいよ大事になってきたなとベートは嘆息する。

 

「仕方ねぇ。女神ヘファイストスは俺が守る。リリルカ、テメェは確り俺達の主神を護れ」

 

「はい、勿論です」

 

「ならば私はバルドル(自分の主神)か」

 

「あれ、ワシは?」

 

「あ、手伝ってくれるなら私が守りますよ」

 

「宜しくお願いしまぁす!!」

 

 新たにゼウスも加わり、炎と稲妻を纏うベジットを、囲むように配置する四柱の神。

 

 ヘスティアは髪飾りを外し、リリルカに手渡す。それはベジットから初めてプレゼントされた大事な髪飾り、それをリリルカは丁寧な手付きで身に付けていたポーチにしまい込む。

 

「ヨシ、じゃあ────行くぞ!!」

 

 各々の準備は完了したのを見て、改めてベジットは気を解放する。

 

 瞬間、嵐の如き暴威が竜の谷(跡地)に吹き荒れる。物理的に吹き飛びそうな威圧、眷族の力を借りながら踏み留まったヘスティアは、ベジットの力を抑える為に自身の神威を解放する。

 

 瞬間、ヘスティアの髪が紅く変色していく。炉の女神ヘスティア、貞操の他に司る事物は【護り火】。【悠久の聖火】や【不滅の炎】とも称される神威を放つ彼女の髪は、炎の様に深紅に染まっていく。

 

 女神ヘスティアが本気で神威を放つ一方で、ヘファイストス、バルドル、ゼウスも各々神威を発していく。四柱の神々が放つ神威は一種の結界を形成し、ベジットを封じる勢いで追い込んでいく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁァッ!!!!」

 

 しかし止まらない。四柱の神々が苦悶を晒す勢いでベジットに神威を向けているのに、ベジットの放つ威圧は減衰処か更に勢いが増していく。

 

 大気が唸り、空気が弾け、大地が鳴動し空が荒れる。

 

 天地を揺さぶる天変地異。その勢いは竜の谷だけに留まらず廃棄世界、更には世界を────この惑星全体を巻き込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オラリオにて。

 

「な、ななな何やぁこれ!? 一体何が起きとるんや!?」

 

「この地震、以前にも似たような事があった気が……」

 

 突然起きた地震。迷宮を蓋する大地の上で有り得る筈がない事象。

 

 神々が動揺し、人類が悲鳴を上げる。

 

「ウラノス、これは………!」

 

「いや、ダンジョンではない。まだ“その時”ではない筈だ」

 

 ある者はダンジョンの変異かと誤認し、ある神はまだその時ではない筈だと冷や汗を流す。

 

 また、オラリオから遠く離れた山奥のとある田舎集落では。

 

「お、お義母さん! 大丈夫!? 転んでない!?」

 

「あぁ、私は平気だ。ありがとうベル」

 

「揺れ幅も徐々に大きくなっていく………この揺れはいつまで続くんだ?」

 

「だ、大丈夫だよ! いざとなったらお義母さんは僕が守るからね!」

 

「フフ、お前は優しいな。ベル」

 

(しかし、あまり長いと家から離れる選択も出てくるぞ? どうする?)

 

(この家が潰れたら、()をシバキに向かうか)

 

 現役を退いた嘗ての最強は、元凶たる者に苛立ちを募らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大気が唸る。風が逆流する。天が逆巻き、地が割れていく。

 

 神々の張る結界の中で、未だに天井知らずに高まっていく力。海が荒れ狂い、空から雷が降り注ぐ。

 

 世界が一つに圧縮されていく感覚。巻き込み、ねじ切れ、破断されて世界自体が瓦解していく中でリリルカとベートはベジットの変化に気が付いた。

 

(髪が………伸びて!?)

 

 身に纏っていた炎は光の繭となりベジットを包んでいく。その中で二人は自分達の団長が確かな進化を遂げようとしているのを目撃した。

 

 荒れ狂う大気、鳴動する大地。星すら震え上がる力の波動を前にして二人はただその光景に視線を奪われていた。

 

【う、くぅぅぅぅ!!】

 

【ま、まだなの!?】

 

【流石に、これ以上は……!】

 

【ワシ、もう泣きそう】

 

 神威を解放した神々ですら押さえ付けられない力、四柱の神が神威を解放して尚収まりきれない力。

 

【誰でも、誰でも良いから助けてくれぇぇぇ!】

 

 しかし、ここは黒竜によって遺棄された廃棄世界。人は(おろ)か動植物ですら生息していない無人の世界。

 

 それこそ、地上に降りた全知零能の神がいる筈がない。そう、思っていた。

 

【何を情けない声で叫んでいる!!】

 

【【【【ッ!?!?】】】】

 

 声が聞こえて来た方へ振り返ると、既に神威を解放した長髪の────恐らくは女神が形振り構わず此方に向かって走り寄ってきている。

 

 え、誰!? 突然の乱入者にベートとリリルカが目を丸くさせていると、他の面々が酷く驚いた様子で声を張り上げる。

 

【【【「ゲェっ、ヘラッ!?!?」】】】

 

 陸上のアスリートの如き見事な走法を披露するのは、天界でも下界でもその名を知ればトラウマ必須な天上天下唯我独尊、伝説のスーパーヒステリー女神、ヘラ御本神だった。

 

 ベートとリリルカを除いた神々とレオン。彼等の驚嘆の叫びを全力無視(フルシカト)して、恐るべき女神はゼウスの隣へ並び立つ。

 

【一体これは何の騒ぎだ! 神々が四柱揃って。精霊の六円環を再現するつもりか!?】

 

【違うわ! 彼処にいる兄ちゃんの力を全力で抑えてるんじゃよ! つーか何でここにいるの!? いや、この際お前でも構わん。さっさと手伝わんかい!】

 

【───良いだろう、久々の共同作業だ。合わせろよダーリン!!】

 

【は、はーい!!】

 

 ゼウスとヘラ。オラリオでその名を欲しいままにした二柱の神、夫婦揃って放たれる神威はより大きな波となり、ベジットに押し潰さんとしていく。

 

 明らかに増した神々の圧力、確かに感じ取ったベジットは光の中で不敵に笑う。

 

(明らかに圧力が増した! これなら!!)

 

 今まで力を出し渋り、届かなかった領域へ手を伸ばせる。全力を注いでくれたヘスティア達に感謝しつつ、ベジットは遂に自身の最大限の力を発揮する。

 

「ダぁぁぁぁぁぁァッ!!!」

 

 雄叫びと共に放たれる気。圧倒的な光の奔流に押し負けたヘスティア達が吹き飛ばされた瞬間。

 

 竜の谷は光で覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぅぅぅ………」

 

「うぅ、一体どうなったんだい?」

 

 光と嵐に吹き飛ばされ、眩暈がする頭を抑えながらヘスティアはゆっくりと起き上がる。

 

 怪我はない。リリルカが必死に護ってくれたお陰で傷一つない事に気付いたヘスティアは、自分の横で目を回している彼女の頬を慈愛の籠った笑みを浮かべて撫でる。

 

「っ! そうだ、みんなは!? ベジット君は!?」

 

 既に先程までの天変地異は収まっており、大陸を呑み込んだ光も消えている。

 

 他の面々は無事なのかと辺りを見渡すと、ヘファイストスを含めた全員が無事であることを確認できた。

 

 恐らくはベートとレオンが頑張ってくれたのだろう。ベートがヘファイストスとバルドルを、レオンがゼウスとヘラを各々抱えている。

 

 神友も眷族も無事の姿に安堵する。が、彼等の様子は何処かおかしかった。

 

 此方の事を気に掛ける訳でなく、ある一点に視線を向けて固まっている。目を大きく見開き、大粒の汗を流しながら……。

 

 ヘファイストス達神々もそうだ。バルドルもゼウスも、ヘラですらも信じられないものを目にした様子でベート達と同じ方向を凝視して固まっている。

 

 ヘスティアからは砂塵が酷くて見えない。一体あの向こうで彼は………ベジットはどんな姿になっているのか。

 

 砂塵が晴れていく。聞こえてくるのは火花が散る音と静かに炎が燃える音。

 

 息を呑み、消え行く砂塵の向こうから人の輪郭が露になり………ヘスティアは、ベート達同様に目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 バチリと火花が散り、燃え盛る黄金の炎が天地を照らす。

 

「漸く、漸く此処までこれた」

 

 背中にまで伸びた黄金の髪は、古の竜を想起させ。

 

「ありがとう、みんなには本当に世話になった」

 

 その鋭い眼光は万物を震わせる。

 

 新たな境地へ辿り着いた男は拳を握り、不敵に笑う。

 

「超サイヤ人3。これが、俺の昇格(ランクアップ)だ」

 

 天下無敵。そう自称する男の姿は真実であると世界は思い知る。

 

 

 

 





今回新たに出てきたヘラですが、断片的な情報により高圧的なメンヘラ女神として出させていただきました。

ツッコミ所は多々あると思いますが、どうか深く考えないよう宜しくお願いします。


次回、《大精霊》


ベジット、n度目の大やらかし。



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