俺のマイルームにいるマシュが、最近やたらと殺気だっている気がする。
一体何故だ? なにか心当たりはないかリリス。ない? そっかー。
そんな訳で初投稿です。
バチリ、迸る稲妻が走り空気を焼く。全身に滾る力に満足し、ベジットは笑みを浮かべた。
「超サイヤ人3。少々手間取ったが、どうにか届く事が出来たか」
「べ、ベベベベベジット様ぁ?」
「か、髪が、眉毛がぁ……」
身に纏う圧力は以前と比較にならず、相対するだけで気を失ってしまいそう。圧倒的な威を纏うベジットにベートやレオン達が愕然とする一方でヘスティアとリリルカはその外見に唖然としていた。
「どうよ、ワイルドで格好いいだろ?」
「格好いいと言うか……」
「悪役顔が酷いです」
「あれ?」
どうやら、彼女達には不評な模様。予想していた反応とは異なり、不良を見るような目で見てくるヘスティアとリリルカ。
まぁ、確かに眉毛が無い超サイヤ人3は違和感があるかも知れないが、慣れるとこの姿が一番しっくり来るのだ。折角辿り着いた境地、二人はもっと喜んで欲しかった。
「それが、テメェの目指していた姿か」
「あぁ、ただこれ迄以上に燃費が悪くてな。慣れるにも時間が掛かりそうだ。尤も、次に変身する時は此処まで大騒ぎになることはないが………」
「そうして貰うと助かるよ。毎度天変地異が起きるとか、心臓に悪すぎる」
「悪かったって」
ベジットが超サイヤ人3へ変身する際に起きた天変地異、恐らく今頃世界中では少なからず混乱が起きている筈。
天変地異がこれから頻繁に起きるとか、どう考えても厄災対象である。本人は超サイヤ人3に慣れる為の軽めの運動かもしれないが、この星に生きる人々にとっては良い迷惑である。
尤も、今回の様な天変地異は初回だけの様で、以降はそれ程じゃないと本人が言っている。確証はないが………レオンにはベジットの言葉を信じる他なかった。
「何はともあれ、本当にみんなありがとう。お陰で俺はもっと強くなれた」
ヘスティアからリリルカ、ヘファイストスからベート、バルドルやレオンにゼウス等今日まで協力してくれた面々に改めて礼を言う。
三人の冒険者と
(ん? 五柱………?)
あれ? 此処にいるのはヘスティア、ヘファイストス、バルドル、ゼウスの四柱じゃなかったっけ?
そういえば超サイヤ人3になる際、もう一柱の女神がいた様な………いや、いたな。
「えーっと、それで………そちらの女神様はどちら様で?」
先程から何の反応も見せていないゼウス、今まで誰も触れていないから、ベジットも敢えて触れようとしなかったが………流石に逆エビ固めをされている大神を見ては反応するしかなかった。
ゼウスの折檻に夢中で此方に気付いていない。鬼気迫る笑顔で
レオンから勇者を見るような視線を向けられているが、ベジットとしては嫌な予感しかしない。恐る恐る声を掛けると、女神は声なき断末魔を上げているゼウスを無視し、その姿勢のままベジットに顔を向ける。
グリンッ、勢いよく振り向いてきて大きく口許を歪めて笑みを向けてくる女神にベジットの口元から「ヒュッ」と吐息が漏れた。
超サイヤ人3になり、戦闘力も桁違いに底上げされたというのに、目の前の女神からは言葉にならない恐怖を抱く。
「本来ならそちらが先に名乗るべきだと指摘する所だが、黒竜を討伐した勇者を相手にそれは野暮か」
ズリズリとゼウスを下に敷きながら此方に向けて姿勢を正す。その最中にも掴んだ両足を決して離そうとしない女神にベジットは彼女の並々ならぬ執念を感じた。
「我が名はヘラ。嘗て
「あ、はい」
この女神、話で聞いていたよりずっと厄介で面倒くせぇ。逆エビ固めのゼウスの事などお構いなしに両足を掴んだままは後ろへ身体を倒していくヘラにベジットはいわれるがまま頭を下げた。
その後、ヘスティアが送還しかけるゼウスを見かねて制止を呼び掛けるまでヘラの折檻は続いた。その時の主神を目の当たりにしたベートは神格の高いヘスティアに今回一番驚いたと言う。
「じゃあ、そろそろ超サイヤ人3を解くとしようか」
バシュン、先程の力の昂りが嘘のように霧散しいつもの黒髪黒目の通常状態へと戻る。あの長い金髪も消えていた眉毛も元通りになっている事にヘスティア達は不思議そうに唸っていた。
「一体どういう仕組みをしてんだテメェの身体は」
「超サイヤ人3と言ったか。サイヤ人の変身は一体幾つ残しているんだ?」
元の姿へと戻り、少し気疲れしている様子のベジット。リリルカから手渡される水筒を受け取り、一息で飲み干すとレオンからのサイヤ人についての質問に答え始める。
「さぁな。俺自身サイヤ人の形態は幾つなのか分かっていない。今回の超サイヤ人3というのも俺が勝手に付けているだけだからな」
最近は身勝手やら我儘やら超サイヤ人とは異なる形態になったり、遂にはビーストなんて超サイヤ人なのかよく分からん変身形態が出てきたりしている。
今後、自身がその形態へ辿り着けるのかは不明だが、ベジットとしてこの世界で生きていく以上半端な実力で収まる訳にはいかない。
「ま、それはこれから先は俺の頑張り次第って事だけは伝えておくよ」
「これから次第って、まだ強くなる気でいるのかテメェは?」
「当然。黒竜を倒そうが俺が強くなることに満足する事は有り得ねぇよ」
黒竜を倒し、地上における厄災は消滅した。残す人界最大の試練は残す所ダンジョン攻略のみ、ベジット一人に押し付ける気は毛頭ないが、それでも常に強さを求め続けるベジットにベートもレオンも呆れる他無かった。
「全く、お主がワシ等のいた頃にいなかった事が悔やまれるのう」
「黙れゼウス、意味の無い後悔をした所で何になる」
「それはそうなんじゃがなぁ」
「それに、ファミリアは失っても私達には残ったモノがある筈だ。メーテリアと貴様の愚息が残した遺児、あの子が元気に生きているだけで私達の戦いは意味があった」
「────そうじゃのう、その通りじゃわい」
もしも、自分達が黒竜討伐に挑んだ時にベジットがいてくれたら。ゼウスがベジットという人間を知ってからそう思う事は幾つもあった。
それが意味がなく、あの日散っていった
「───ちょっと待て、何故お前がベルの事を知っておる?」
「そんなもの、アルフィアから聞いたからに決まっているからだろうが。あの小娘は酷く嫌がっていたな」
不敵に笑うヘラにゼウスの背中から汗が流れる。え? じゃあつまり、目の前のヒステリー女神に自分の棲みかがバレたって事?
いや、それだけじゃない。ヘラがアルフィアから話を聞いたということは………。
「そういえば、貴様またアルフィアの風呂を覗こうとしたらしいな。いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!! 私以外の女を見るなと言うのに………やはりその眼球、抉った方が良さそうだな」
「ヒィィィィッ!! 許してぇぇぇ!!」
ヘラの髪が怒りで揺らめき始める。文字通り怒髪天を衝く勢いで怒りを顕にする女神に、ゼウスは泣いて許しを乞いながらも逃走を開始する。
「もう
泣くゼウスと嗤うヘラ。相変わらずな夫婦神にヘスティアが呆れながら仲裁しようとする。
「さて、それじゃあそろそろ帰る準備をするかぁ」
「リリ達が準備をしておくので、ベジット様は休んでて下さい」
「あぁ、任せるよリリ」
超サイヤ人3へ変身出来た事で、
逞しく育ってきたリリルカとベートの後を追うようにベジットも一歩前に進んだ────その時。
ドクンッ
ベジットの心臓が一瞬、高鳴った。
「─────え?」
瞬間、ベジットの内から力が溢れだし暴風が吹き荒れる。突然引き起こされる現象にリリルカ達は勿論、ベジット本人すら面食らった様子で驚嘆していた。
「お、おい! 何してやがるんだベジット!」
「ま、まだ修行は終わってなかったんですか!?」
「違う、これは俺の意志じゃない!」
再び巻き起こる天変地異。空が荒れ始め大気が唸り出す、大海では逆巻く海流が天に向かって延びていく。
超サイヤ人3へ変身する余波で脆くなった大地が隆起し、地割れが起き始めている。
既にベジットは超サイヤ人を解いている、なのに力は際限なしに高まり続けている。自分の意思ではないと口にするベジットの顔は二人が目にしたことが無い程に焦りが浮かんでいた。
すぐに神々をベジットの力の余波から守ろうと、リリルカ達三人は行動に移る。幸いどの神も近くにいた事から確保することは簡単だったが、依然止まらないベジットの力に神々もまた驚愕していた。
「ちょっとどういう事!? ベジットってばまた修行を続けるつもり!?」
「もうワシ等の体力はスッカラカンじゃぞ!? ヘスティア! お前の眷族なんじゃからお前が何とかせんかい!!」
「やれたらとっくにやってるよ!!」
既に五柱の神々の体力は底をつき、先程の様な全開の神威を出すことは難しくなっている。心配そうに見守るヘスティアの目には苦悶の表情が浮かび上がっていた。
(な、何だこの気は!? いつもの俺の気じゃねぇ。まるで煙に包まれているみてぇだ!!)
いつもはハッキリと意識できている自身の気が、全くの別物に変化している。掴もうとすれば掻き消え、煙のように霧散する。
だが、その煙は自身の気と混ざって更に変化しベジット自身のコントロールから外れようとしている。このままでは不味い、下手をしたら周囲………いや、この星を巻き込む大爆発が起きかねない。
何とかしてコントロールしなければ……。
「っ、ま、まさか……」
「べ、ベートさん?」
「何か、分かったのかい!?」
苦悶の表情を浮かべて四苦八苦をしているベジット、そんな彼を近くの岩影で隠れながらヘスティア達は様子を眺めていた。
ドンドン周囲の環境は悪化し、ヤバイ兆候を肌で感じ取る。このままでは自分達も不味いことになるのではと焦り始める時、ある仮説がベートの頭に過った。
「ヘスティア達はベジットの力を抑える為に神威を叩き込んだよな」
「う、うん。そうだね」
「あの時の私達はとても手加減できる余裕は無かったわ。思い切り、下界で許されるギリギリまでね。根刮ぎ絞り出した気分よ」
「なら、その絞り出した神威ってエネルギーは
「えっ…………ま、まさか!?」
ベートの言葉に彼の言いたいことを理解したヘスティアは改めてベジットを見据える。よく観察すればベートの言う通り、自分達の神気が渦巻いているのを感じた。
ヘスティア、ヘファイストス、バルドル、ゼウス、そしてヘラ。合わせて五柱の神の神気。神々の神威を直接浴びたベジットは自身の気と混じり合い、変異しようとしている。
「ベジット君!!」
「だめですヘスティア様! 危険です!」
「で、でも! ベジット君が!」
苦しそうにしているベジットをヘスティアは駆け出そうとするも、リリルカが手を掴んで押し留める。
「今のテメェが行って何になる。大人しくしてろ」
今すぐ駆け寄って助けてやりたいヘスティアだが、ベートの言う通り今の自分には何も出来ることはない。悔しく、酷く歯痒い気分。
「ベジット君………」
神であるヘスティアはただ祈る事しか出来なかった。
一方、ベジットは……。
(まさか、この気ってヘスティア達の神の気か!? 俺の気と神の気が混じり合って、
流石ベジットというべきか、ベジットの癖に気付くのが遅いと言うべきか。漸く自分の身体の異変、その核心に触れる事が出来た。
今の自分は五つもの神気を受けた事で一種の暴走状態に入ろうとしている。
原因はやはり先の神威。自分の力を抑えて貰うために叩き込んで貰ったのが原因、神気というものを未だ理解しきれていない今のベジットでは確かに持て余してしまうかもしれない。
だが、ベジットの懸念は其処ではなかった。
(だがあの形態って善の心をもった六人のサイヤ人がその内の一人に気を分けて初めて至れる境地の筈だろ!? サイヤ人はこの場に俺一人、なれる訳が………)
いや、いや、まさか。溢れる力を押し留めようと必死に踠くベジットの思考に一つの考察が浮かび始める。
(まさか、五人のサイヤ人の代わりに五柱の神が代用!? ヘスティア達の神気を浴びることで条件が揃ったのか!?)
あの主人公は主人公を除いた五人のサイヤ人が気を送る事で
つまり、五人のサイヤ人がいないのなら、五柱の神が一斉に神気を流し込めば条件は同じ。そういう事になるのか!?
(なんつー無茶苦茶な理屈!? いや、ある意味筋は通っているのか!?)
五人のサイヤ人がいないのなら、五柱の神で補えばいい。無茶苦茶な理論だが、神の力を手に入れる過程を考えるのなら、寧ろ後者の方が理屈は通る気がする。
どちらにせよ、このまま気を掴めなければ意味がない。一刻も早くこの力を収めなければ………と、更に力んで見せたその時。
『そんなに力まなくても大丈夫。神の気に身を委ねて……』
(っ、誰だ?)
突然、ベジットの耳に入ってきた声。周囲を見ても姿は見えず、けれど気配だけは感じ取れた。
『私も手伝う。だから力を抜いて、大丈夫。貴方ならきっと神様の力だって極められるよ』
影も形もなく、声だけが届く。信じられる要素は何一つないが、それでもベジットは信じる事にした。
目を閉じる。脱力し、力みを無くし、内に荒れ狂う神気と向き合う。すると先程まで荒れ狂っていた力が嘘のように大人しくなっていた。
今なら掴める気がする。大人しくなった気を、抑えるのではなく包むように手を伸ばした瞬間───。
『流石だね。そう、それが君の神気だよ』
荒れ狂う力の結晶は、淡く優しい光となってベジットの内に解けていった。
◇
下界の未知。それは暇を持て余した神々が降臨した原初の理由。何万何億という悠久の月日を重ね、それでも目にした事の無い“ナニカ”を求めて神々は下界へと降りていった。
「────のうバルドル。確かにワシは黒竜を討ち果たした者に興味があった。実際目の当たりにして納得したし、度肝も抜かれたりもした」
「────えぇ」
「じゃがなぁ」
砂塵の奥で佇む人影、その姿を見てヘスティア達は本日幾度目の驚嘆を晒した。
最初に目にした超サイヤ人3とは異なり、まるで水面の様に静かな気配。これ迄のベジットとは明らかに違う気配だった。
「流石に、
それはまるで神威を解放した神のよう。静かで、穏やかで、けれど確かな力を纏うその姿はまさに武神。
太く大きいベジットの肢体が細く、それでいてしなやかになっている。だが、その姿を見て誰も侮りはしないだろう。
何より、その赤く揺らめく炎の如きその頭髪と瞳は神威を解放したヘスティアと酷似していた。
「────マジか」
誰よりも驚いているのはベジット自身。神の気を掴み、掌握した事で得られた新たな境地。超サイヤ人3へ漸く至れたというのにまさかその日の内に神の領域へ踏み入れる事になるとは思いもしなかった。
「ベジットくーん!」
「おっと、いきなり抱き着くなよヘスティア。危ないだろ」
「だっで、だっで、
滝のような涙を流しながら抱き着いてくるヘスティアにベジットは苦笑いを浮かべる。
「そうだな。今回ばかりは俺が悪い、心配掛けて悪かったな」
「全くだぜ。この借り、そう簡単に返せると思ってんなよ」
「本当ですよ!! ………でも、ご無事で何よりです」
「ベート、リリ、レオンも。悪かったな、本当に。ヘファイストス様達も」
「やれやれ、君に付き合うと驚きの連続だよ。まさか人が神へと至れるとはな」
「いえ、あくまで神の気を纏っただけでしょ。まぁ、下界の未知の塊である事に代わりは無いんだけど」
それぞれ呆れながらもベジットの無事に安堵する者達。ただヘファイストスの言う通り、ベジットの今の姿は神の気を纏っている事で成り立っている姿だ。
それでも下界の未知であることには違いはない。他の神々が聞けば仰天するだろう未知に立ち会えたのだ。ヘファイストスとバルドルは表面上冷静さを取り繕っているが、内心では狂喜乱舞していたりする。
「………ふぅ」
「あ、戻った」
「良かった。もしかしてずっとそのままかと思いましたよ」
超サイヤ人3でいるより自然体でいる事から、一瞬ずっとそのままではないかとリリルカは焦った。けれど意外にもあっさりと元の姿に戻れた事にホッと胸を撫で下ろす。
何故か、少し残念そうな顔をするヘスティアをヘファイストスは全力で見なかった事にした。
「流石に神の気を纏ったままではいられないよ。万が一他の神々に知られたら厄介ごとになるのは間違いないし」
「あぁ、それはそうだろうな」
「特に、ダンジョンであの姿になるのはもっとダメだよ。下手をしたら、第二の黒竜とか出てきちゃうかも」
「あ、それはちょっと楽しみかも───ってウソウソ、流石にそんな真似はしねぇよ。うん」
「あの、ベジット様?」
「ん?」
「さっきから、誰と話をしてんだ?」
見れば、ベートとリリルカが怪訝な顔をして此方を見ている。抱き着いている主神に視線を落とせばヘスティアも不思議に首を傾げているし、ヘファイストス達に視線を向ければ自分達ではないと首を横に振っている。
一体自分は今誰と話していたのか。まさか、この竜の谷で死んでいった冒険者の幽霊? しかし女神ロキが言うにはこの世界の人間の魂は基本的に死した後は速やかに天界に還るらしいし。
なら空耳? 超サイヤ人3や神の領域へ踏み込んだ所為で幻聴を聴いたのか?
「幻聴じゃないよ」
「ッ!?」
「ワッ!? だ、誰だい!?」
突然、自分の背後から現れた少女にベジットがビクリと震え上がる。
「あ、アイズさん!?」
突然現れた少女にリリルカはオラリオにいる筈の友人と見間違う。普段の軽装備とは異なり、白いワンピースを着ている事や纏っている雰囲気の柔らかさから、リリルカは目の前の少女がアイズで無い事に気付く。
「いえ、違いますね。貴方はアイズさんじゃない。どちら様ですか?」
敵意もなく、害意もない。ベジットの後ろから現れた少女に軽く警戒しながら訊ねると、少女はリリルカへ向き直る。
「貴女、アイズの事を知ってるの?」
「あ、アイズさんは私の………その、友達です」
「まぁ!」
照れ臭そうにアイズとの関係性を明かすと、アイズ似の少女はパッと花を咲かせたような笑みを浮かべ、リリルカの両手を掴んだ。
「まさかあの娘にお友達が出来たなんて! ねぇ、アイズは元気してる? お腹とか空かせてない? 風邪とか引いてない?」
「ち、近い近い近い!? 何なんです貴女は!?」
人懐っこく、グングンと距離を詰めてくる少女にリリルカもタジタジとなっている。一体この少女は何なのか、アイズとどんな関係なのか、戸惑い見守る事しか出来ないベジット達に………。
「まさか、お主───
「アリア?」
「誰?」
ゼウスが言うには、目の前のアイズに似た少女の名はアリアというらしい。ベジットとベートは初めて耳にするが、レオンやバルドル、ヘファイストスは知っているらしい。
いや、プルプルと震えている事からどうやらリリルカも知っているようだ。
「アリア、黒竜を封じていた風の大精霊……!」
「生きて………いえ、甦ったのね」
「これも、下界の未知か」
なにやら訳知り顔で驚いているレオン達、そんな彼等を見てベートはまた
◇
“精霊”。それは神々が地上に降臨する以前古代において、モンスターに苦しめられる人類を救うために神々が地上に遣わした存在。
神々の力を最も色濃く受け継いだ神の分身。人類や英雄を手助けする導き手であり、時には武器として姿を変えて人類と共にモンスターと戦ってきた存在。
強力な魔法種族であり、神のように不滅の存在ではないが、エルフ以上の長寿族として知られている。
中でも大精霊として知られる者は精霊の中でもより上位の存在として歴史に刻まれており、現在では物語やお伽噺の中に記載されている。
「君が本当に“アリア”なら聞かせて欲しい。千年もの間黒竜を封じていた君が、どうして封印を解いてしまったのか」
用意された椅子に座り、アリアと呼ばれる少女にリリルカは温かいお茶を差し出す。柔らかい微笑みと共にありがとうと礼を口にする少女は、やはり何処かアイズと重なって見えた。
ベートも知り合いの少女と似ている所為か絶妙にやりづらそうにしている。
尚、ベジットは先程から一人茹でた乾麺(醤油味)をズルズル啜っている。現実逃避とも言う。
誰もが視線を向ける中(約一名を除き)、ポツリポツリとアリアは語り出す。
「………もう10年近く経つのかしら。ゼウスとヘラの眷族が黒竜に挑み、敗れたのは」
「「…………」」
「あの時点で、私の力は限界に達していた。神々が勝てると確信していた彼等の敗走は、私にも大きな精神的ダメージになっていたかもしれない」
精霊とは魔法、つまりは精神的要素を多く含んだ種族。大精霊ともなればその程度で消耗する事など有り得ないが、千年に亘る封印は想定以上にアリアへの負担となっていた様だ。
「次代の英雄が現れるまで結界を維持し続けようとしたけど、私の力はいつ消えてもおかしくなかった。この際私の自我を犠牲にしてでも、そう決意しかけた時……」
そこまで言い掛けて、アリアの視線がベジットに向けられる。ヘスティア達もベジットに視線を向けているが、構わずベジットは麺を啜り続けていた。
いい加減話に混ざれ、ベートは軽く小突いた。
「スゴい力の持ち主だというのは見て分かった。これ迄の英雄────アルバートすら超えうる力の持ち主、そんな彼を目の当たりにした私は結界の解除に踏み切った。独断で世界の行く末を彼に委ねたの」
当時の竜の谷には黒竜の他にも凶悪なドラゴンが夥しい数で犇めきあっていた。中にはLv.7相当の怪物も含まれており、一度封印を解いてしまえば瞬く間にドラゴン達は分散し、地上は地獄絵図と化していただろう。
その独断は間違いなくアリアの罪過。だが、そもそもアルバートと彼女の力が無ければその時点で人類は詰んでいたし、ゼウスとヘラの眷族達が黒竜を討伐していればアリアが限界を迎える事はなかった。
故に、誰も彼女を責めたりはしない。責める資格がない、けれどアリアは結果的にそれが間違っていなかった事を断言する。
「封印を解いて大気と一体化する最中、私は見たの。彼が黒竜に打ち勝つ所を」
何処か満たされた笑みをアリアは浮かべる。永い時の中で漸く重い荷物を下ろせた事への安堵感、彼女の今日まで抱え続けていた重荷を思えば、仕方がない事だろう。
「そして、力の全てを失った私はそのまま消滅。と、そう思っていたのだけれど………」
「────そういうことか」
「バルドル?」
「何か、分かったのですか?」
アリアが言うには、既に彼女には消滅という末路が確定していたという。そんな彼女が復活できたのはベジットのお陰と言うのなら、バルドルの心当たりは一つしかない。
「ベジット君が纏う神の気、アレに触れた事で君は復活出来たんだね」
精霊は神の分身、そして魔法種族という特異性。先のベジットから放たれたトンでもない神気に触れたのなら、消滅間際の精霊が復活したっておかしくはない。
「不完全だけどね」
ベジットの内に荒れ狂う神気、それを鎮める手助けをしただけ。それだけで不完全ながら復活できた。
相変わらず規格外な奴。誰もがベジットに視線を向ける中、アリアは椅子から立ち上がり、相変わらず食べることに夢中なベジットへ歩み寄る。
「でも、お陰で私はこの世界にいられる事が出来た。ベジットに触れた事で私は生まれ変わることが出来た」
「んぉ?」
自分のした事がどれだけの偉業で、どれだけの奇跡なのか。自覚処か理解すらしていないベジットは自分を見つめてくるアリアを不思議に思い………。
頬に、柔らかな口付けの感触が伝わってくる。
「ッ!?!?」
ズガァァァァンッ!! ヘスティアの頭上に落雷が落ちる。そんな様子を幻視する。
「ありがとうベジット。────うぅん、パパ♪」
「ッ!?!?」
ズガガァァァァンッ!! 今度はリリルカの頭上に落雷が落ちる光景が幻視される。
「な、な、な、なぁぁぁぁぁ!!??」
「何を言ってるんですかアリア様ァァァッ!!??」
「え、私何かおかしな事言った?」
「言ったよ! 全面的におかしな事だらけだよ!!」
「撤回を! 発言の撤回を要求します!!」
「えー? ………嫌♪」
「「ムキィィィッ!!」」
精霊的に言えば、存在する為の力を分け与えてくれたベジットは親的な立場なのだろう。しかし、頬にキスや満面な笑顔を浮かべてのパパ発言はヘスティアとリリルカにとって衝撃的な光景なのだろう。
ギャーギャーと騒ぎ立てる神と眷族。相変わらず騒がしい連中だなと、ベートがゲンナリしているとベジットからある違和感に気付く。
「おい、ベジットの野郎気絶してんぞ」
超サイヤ人3への負担や、予想だにしなかった神気の獲得。オマケに大精霊復活とトドメのパパ発言、立て続けに起きた予想外の出来事の連続に流石のベジットもキャパオーバーとなっていた。
白目を剥いて気絶するベジット。それでも完食した彼の食への執着に呆れながら。
「どうやら、もう一泊が確定した様だな」
レオンは目の前の騒がしい光景を慈しみながら、そう締め括った。
Q.アリアは現在どんな容姿?
A.ロリッコアイズたんに酷似してます。
Q.アリアはベジットの娘になったん?
A.はてさてどうなりますことやら。
「………なぁレオン」
「なんだい?」
「【学区】に年少組とかあったりしない?」
「ど、どうだったかなぁ………」