ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今更ながら、独自設定。独自解釈のタグを追加しました。

そんな訳で初投稿です。


物語58

 

 

 

 これは、今より少し先の話。

 

 

 

 ─────『笑え』

 

 深淵にも似た深い深い闇の底。重く息苦しさを感じながら、豊穣の女神(デメテル)は【その】神と対峙していた。

 

 切っ掛けは些細なこと。感じた違和感に疑問を抱かぬまま、デメテルは【その神】に深入りしてしまった。

 

 【その神】───仮面を被り、素顔を隠した道化を模した神はデメテルに命じる。

 

 笑えと。それ以外は許さないと強く命じる形で仮面の神はデメテルに告げる。

 

 デメテルは笑わなかった。笑える訳がなかった。仮面の神に付き従う様に頭を垂れる花の怪物、見たことも聞いたこともない未知なるモンスターの顎の下で、自分の眷族達(ペルセポネ)が宙吊りにされているのを目の当たりにしていた。

 

 迂闊だった。目の前の神が、自分の予想を遥かに上回る程に歪んでいた事に。

 

 気付くべきだった。仮面の奥で自身を嘲笑う神に対して自分は深入りするべきではなかった事に。

 

「止めなさい! 私の、私の眷族に手を出さないで!!」

 

 地上に降り、全知零能であるデメテル。悲しいかな、彼女の言葉は目の前の仮面の神に微塵も届く事はなく。

 

 拍手

 

 瞬間、待てをされていた怪物の一匹が眷族(ペルセポネ)の一人に食らい付く。頚から上に齧り付き、くぐもった断末魔の叫びが深淵に響き渡る。

 

 骨を砕き、肉を咀嚼する。花のモンスターに喰われる眷族を目の当たりにした主神は顔が青ざめ、周囲から悲鳴が響き渡る。

 

 ────『笑え』

 

「答えて!? どうして、どうしてこんな事が出来るの!? あの子は戦う力のない私の───」

 

 拍手

 

 バチュンッと肉が弾ける音が鳴り鮮血が舞う。夫を、父を目の前で喰い殺された家族の悲鳴がデメテルの耳を叩く。

 

 デメテル・ファミリアの眷族達は農業に従事する生産系の派閥。戦える術も能力もない彼等は花の怪物にとって格好の“餌”でしかなかった。

 

 嫌だ。死にたくない。断末魔を残し、デメテルに救いを求めても零能である彼女に眷族達(ペルセポネ)を救う手立てはなかった。

 

 ─────『笑え』

 

「お願い! もう止めて! 何でも、何でも言うこと聞くから!!」

 

 拍手

 

 仮面の神が手を叩く度に一人、また一人と女子供問わず眷族達が喰われていく。

 

 女神デメテルは気付いた。目の前の仮面の神は最初から自分達を従えるつもりなどなかった。彼が望んでいるのは傀儡、言われた事だけを行わせる人形だけを望んでいるのだと。

 

 拍手

 

 どれだけ乞うても、拍手は止まらない。仮面の神が望むのは笑うこと、ただそれだけ。

 

 意思も自我も求めない傀儡。仮面の神が求めるのはそれだけが故に、無慈悲な虐殺は止まらない。

 

 デメテルは笑みを作ろうとした。目の前で眷族達が殺され、怒りと悲しみでどうにかなりそうだったのに、仮面の神はそれを許さなかった。

 

 手を叩く度に紅い華ができあがり、頚なしの人形が出来上がる。積み重なった人形の数だけ、それは迂闊だったデメテルの罪の証明だった。

 

 残るはたった数名。次に喰われるのは自分を母親同然に慕ってくれる女の子。

 

「デメテル………様ぁ」

 

「あぁ、あぁ…………お願い、お願いだから……」

 

─────『笑え』

 

「もう、止めてぇぇぇぇッ!!」

 

 しかして拍手は打たれる。女の子に花のモンスターのおぞましき牙が突き立てられようとした時。

 

 黒き旋風が、花のモンスターを横凪ぎに両断する。

 

「ッ!?!?」

 

 突然現れる第三者、全身を黒尽くめで覆ったその人物は、頭部を切り裂かれて絶命するモンスターの触角に手を伸ばし、目にも止まらぬ早業で少女を救いだす。

 

 黒尽くめの人は少女を抱き抱え、素早くデメテルの元へ駆ける。途中、モンスターの触角に捕まっていた生き残りの眷族達を救出し、主神の元まで援護する。

 

 獲物が奪われた事で半ば暴走状態となった花のモンスター、大きな顎を開いて獲物を直接食らおうとする怪物を、黒尽くめの人は手にした武器に力を込めて急所に向けて剣を振るう。

 

 迫り来る怪物の群れを、何とか全て撃退。生き残った眷族達をデメテルの元へ連れ戻すと黒尽くめ────いや、黒仮面の人は拳を握り締めて仮面の神に向き直る。

 

『────邪魔をするのか?』

 

「はい。この様な蛮行、もはや見逃せません」

 

『お前の味方は誰もいない。お前の理解者は最早いない。お前を───愛する者は現れない。それでも?』

 

「それでも、です。貴方が惨劇を引き起こすのなら、私は何度でも阻んでみせましょう」

 

『─────』

 

 それ以上仮面の神はなにかを言い残す事もなく、奴は花のモンスター達と共に姿を消す。

 

 静まり返る空間、仮面の神と花のモンスターの姿が消えた事で自分達が見逃されたのだと漸く理解したデメテル達は自分達の受けた理不尽な惨劇に涙し、主神に抱きついていた。

 

 デメテルもまた泣いていた。自分の迂闊さで眷族達を死なせたこと、巻き込んでしまった事をこの上なく後悔した。涙を流し、生き残った少女達を抱き締める。

 

 そんな彼等の元へ黒い仮面が歩み寄る。気付いたデメテルが子供達を自身の後ろに追いやり、改めてその子に向き直る。

 

「────神デメテル。申し訳ない、私が間に合わなかった所為で貴女の眷族に犠牲を出してしまった」

 

 仮面の子は、デメテルの予想に反して腰が低く物腰が柔らかかった。膝を折り、自分の所為で死なせてしまったと、後悔しながら頭を下げてくるその子に女神デメテルは涙を拭い、毅然な表情を浮かべて立ち上がる。

 

「いいえ。全ては私の不注意の所為で起きた出来事。貴女(・・)に責はありません」

 

「ッ!」

 

 名を名乗った訳でも、素顔を晒したわけでもないのに、目の前の女神は自分の性別を言い当ててくる。やはり、仮面を被った程度では騙せる訳がなかった。

 

「私の眷族達(ペルセポネ)を守ってくれて、本当にありがとう」

 

「─────いえ」

 

 共に大地に根差して生きていく眷族達を目の前で死なせてしまったと言うのに、悲しみ染まる胸中を抑え、素顔を晒さない自分に礼を通す。

 

 女神であるが故の責務。どんなに辛くともそれを全うする彼女の在り方は仮面の少女には眩しく見えた。

 

 だが、闇は終わらない。彼女たちデメテル・ファミリアはおぞましい邪神の魔の手から未だ逃れられないでいる。

 

「………神デメテル。酷な事を言う様だが、貴女方はまだあの神の手から逃れられた訳ではない。何れ再び、貴女の前に姿を現し、脅迫してくる事でしょう」

 

「そ、そんな!?」

 

「彼の神は狡猾です。蛇の如く姿を眩まし、時には鋭く牙を覗かせてくる。ヘスティア・ファミリアの留守を狙ったのが何よりの証拠」

 

「ッ!?」

 

 現在、ヘスティア・ファミリアは【学区】に体験学習というテイでオラリオを留守にしている。その留守を狙って行動を起こしたのなら、彼等が戻ってきた時に助けを求めれば……!

 

「確かに、彼であれば問題なく対処してくれるでしょう。ですが、そうなればあの神は何がなんでも道連れを仕掛けてくる。たとえ【神の力(アルカナム)】を使ってでも」

 

「…………」

 

 あの神の危険性は相対したデメテルがよく理解している。その歪さも、内に秘めた狂気も。

 

 ヘスティア・ファミリアのベジットに助けを求めれば、必ず彼は手を差し伸べてくれる。だが、向こうにその事が伝わった瞬間、あの神は迷いなく【神の力】を行使するだろう。仮面の少女の言葉通り、オラリオを道連れにするつもりで。

 

 仮に他の神が世界の修正力宜しく、【神の力】で相殺してもそれに伴う代償は他ならない下界が支払う事になる。

 

 そうなれば下界は今度こそ終焉を迎える事になる。豊穣と慈愛を司り、人類と下界を愛しているデメテルにとって、それは受け入れられない事実だった。

 

 なら、現時点でデメテル・ファミリアが取れる手段は事実上一つしかない。

 

「重ねて済まない神デメテル。私は貴女方に惨い頼みをしようとしている」

 

 今しがた命の危機に晒されたと言うのに、近い将来再びその時は訪れる。もうじきヘスティア・ファミリアが戻ってくると言うから、其処まで派手な行動はしないだろうが、それでも自分達の命が脅かされる日々が続く事にデメテル・ファミリアは俯く事しか出来なかった。

 

「この罪は、何れこの身で贖いましょう。恨んで下さい、憎んで下さい。貴女方に苦難を強いる私を………許さないで下さい」

 

 仮面の少女はデメテルにだけ見える様に仮面を外す。露になる少女の顔を見て、デメテルは驚嘆し目を見開き、次いで苦悶に目を瞑り、最後は慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

 

「────そう、それが貴女の選んだ道なのね」

 

「申し訳ありません。神デメテル、そして眷族の方々」

 

 頭を下げて再び仮面を手に取り、少女もまた闇に融けていく。後に残されたデメテル達は直ぐに日の当たる場所へ引き返し、日常へ帰っていく。

 

 だが、全てはまだ始まったばかり。闇の終わりは未だ果てしなく、安寧の光は未だ見えてこない。

 

 ただ、それでもデメテルは願わずにいられなかった。仮面の少女のその行く末を、孤独の道を往く勇ましき冒険者を。

 

「あぁ、どうか。下界の可能性が彼女に一縷の救いとなります様………」

 

 神の身である自分が、一体何に祈るのか。それでもデメテルは祈らずにはいられなかった。

 

「───やはり、彼の様にはいかないか」

 

 深淵を歩く。その足取りは重く、その身にはただ絶望だけが具現していた。

 

 あの日から、私の全てが変わり。そして終着した。

 

 既に末路は定められていて、命は踏みにじられ、魂は瀆された。

 

 もう、夢を語る事はなく、二度と未来を望める事はない。

 

 何もかもが失われ、何もかもが終わりを迎えた。

 

 ───けれど。

 

 ───だとしても。

 

「まだ、あの時の憧憬はこの胸に……!」

 

 嘗て目にした黄金の光は、今もこの胸に焼き付いている。

 

 深淵を往く。いつか訪れる自身が滅ぶその日まで、仮面の少女は進み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで全部片付いたな」

 

「こっちも終わったよベジット君」

 

「おー、サンキュー」

 

 翌朝。色々と驚くべき出来事を数多く引き起こしたベジットの修行は終わりを迎え、朝食も食べ終えた一行はいよいよ竜の谷(跡地)を後にする事となった。

 

 野宿のテントも全て終い、焚き火の後始末も完了。それぞれの荷物を抱えてオラリオへ帰る支度を整えた一行は、最後にある問題に向き合う事になる。

 

「さて、粗方の後始末は片付けた。残る問題は……」

 

「この大精霊をどうするかだな」

 

 ベジットの背負う荷物の上に乗り、一緒に帰る気満々でいるアリア(大精霊)。黒竜討伐の生き証人である彼女の存在はベジット達に頭が重い問題になってのし掛かる。

 

「ね、ねぇアリア君。君ってば本当に僕達と一緒にオラリオに戻るつもりなのかい?」

 

「うん。そのつもりだよ? アイズが元気にしているか見てみたいし、今のオラリオがどうなっているのか気になるんだもの」

 

 ヘスティアの問いにアリアはにこやかに答える。不完全な状態で復活した所為か見た目は幼女時代のアイズとなっており、そんな肉体でいる為か精神年齢も幼くなっている。

 

「と言うか、本当にアイズさんはアリア様の娘なのですか? いや、外見が此処まで似てくると疑う余地はないのですが」

 

 精霊とは、その在り方から基本的に子供が出来ない存在、故にアイズがアリアの娘であるとアリア本人から聞かされた時は、リリルカはそれはもう驚いたものだ。

 

「そうね。詳しいことは話せないけどアイズが私の娘だと言うのは間違いないわ。現に、あの娘私と同じ“風”が扱えるでしょ?」

 

「まぁ、はい。それはもう」

 

 アリアは風の大精霊であり、アイズの扱う魔法もまた“風”である。本人がそう断言するのなら頷く他ないが、それでもアリアとアイズの関係性は驚くばかりだ。

 

 尤も、一番驚くべきなのは諸々の騒動の中心にいるベジットなのだが……。

 

「アリアとアイズの関係性もそうだが………どうする? 本当にこのままこの大精霊を連れていって騒ぎになったりしねぇか?」

 

「………難しいわね。オラリオの中にはアリアの存在について知っている神はいたりするわ。万が一ロキ辺りに知られたら根掘り葉掘り詰問されるのは間違いないと見るべきよ」

 

「そしてそのまま黒竜討伐の大暴露へ、か。もう本当に余計な事しかしねぇのなテメェは」

 

「流石に今回ばかりは理不尽だと抗議したい」

 

 このままアリアを連れていけば、近い将来必ず騒動の種になる。特にアイズを預かっているロキ・ファミリアからはヘファイストスの言う通りどういう事なのか根掘り葉掘り詰問される事になるだろう。

 

 そうなれば黒竜討伐もバレる事は必至。下手をすれば地上は忽ち大混乱に陥るのは想像に難くない。

 

 これ等の爆弾を流れるように発生させるベジットを不可抗力だと思いながらも、それでもベートはジト目を向けずにはいられなかった。

 

「要するに、私がアリアだとバレるのが不味いのよね? なら────」

 

 そう言うとアリアの身体が僅かに発光し始め、金髪だった彼女の髪が黒色へ変色していく。瞳の色も変わっていき、纏う雰囲気はまるで本当の子供のよう、唐突に姿が変わるアリアにベジット達は面喰らう。

 

「アリア、お前って姿とか変えられたんか?」

 

「まぁね、私大精霊だから」

 

 フフンッと胸を張ってドヤ顔を晒すアリアにベジットは素直に感心する。大精霊というだけあってちょっとした変装はお手のものらしい。

 

 それに、僅かに気の質も変わった気がする。恐らくこれはアリアがベジットの神気を吸収した影響なのだろう。

 

「お望みなら、姿を消すことだって出来るわよ? 風を操って光の角度を変えれば………ホラ!」

 

「わっ、本当に消えました」

 

「汎用性が凄まじいな」

 

 風を纏い、少し細工をすれば姿を消す事も出来る。器用な風の使い方に改めてベジット達は感心した。

 

「その時が来るまで、私がアイズと直接顔を合わせる事はしない。仮に会うとしても姿は徹底して隠したりするから、お願い───パパ」

 

「そのパパっての止めろ。俺はまだ未婚の身だぞ」

 

「でも、彼女は君の力を吸って顕現したんだろ?」

 

神々(私達)的に言えば、普通にあり得る話よね」

 

「やっぱりパパ?」

 

「そこ、シャラップ」

 

 上目遣いで懇願してくるアリア、そのあざとさに後ろでリリルカが青筋を立てているが、誰かと添い遂げるつもりは今の所無いベジットとしてはパパ呼びは普通に御免被りたい話である。

 

「どちらかと言えば使い魔の類いじゃろ。ベジットの神気を受けて顕現したと言うのなら、その表現が適切じゃろうて」

 

「成る程。じゃあベジットはこれからは私のマスターだ!」

 

「うーん、まぁそれなら………」

 

 ゼウスからの助け船のお陰でアリアからの呼び方が父親(パパ)から主人(マスター)へと変更されベジットは胸を撫で下ろす。

 

 これでご主人様呼びとかされたりしたらそれこそロリコンの謗りは免れない。強くなることに喜びを感じても、変態呼ばわりされて悦ぶ程ベジット(⬛⬛)の人格は歪んでいないのだ。

 

「それで、結局どうすんだ?」

 

「あー………」

 

 色々言ったが結局の所、決定権はベジットにある。どんな決定もベジットならば従うつもりでいる二人を見て、ベジットは次にヘスティアへ視線を向ける。

 

 自分の主神は、笑みを浮かべて頷くだけだ。自分で決めて良いと、そう無言で告げてくる彼女にベジットは有り難く思いながらも結論を下した。

 

「わぁったよ。アリス(・・・)、お前をウチの団員として歓迎する」

 

「やったー! ありがとう、ベジット!」

 

 両手を挙げてピョンピョン跳ねてベジットに抱きつく、ヘスティア・ファミリアの一員になれた事を喜ぶ少女を見つめ、ヘスティアはふと気になった事を指摘する。

 

アリス(・・・)?」

 

「アリアのままだとマズイだろ。俺達の所にいる間はそう呼ぶ事にする。いいか? アリス」

 

「うん、私もそれで良いと思う」

 

 アリア改めてアリス。外見も変え、名前も変えた事で魔法種族で精霊であるアリアが変質するかと思ったが、そこは大精霊。

 

 新たに付けられた名前に満足に頷きながら、改めてアリスはベジットの肩によじ登る。

 

「それじゃあ、儂等もそろそろお暇するとするわい。色々と面白い物が見れたし、孫にいい土産話が出来た事じゃしな」

 

「その後は久し振りに夫婦旅行(ハネムーン)に勤しむとしようか? なぁダーリン。色々と聞きたい話が出来たことだしなぁ」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

二柱(ふたり)共、本当に世話になった。ありがとうな!」

 

 そうして、ゼウスとヘラはベジット達と別れ竜の谷を後にする。首根っこを掴んでドナドナされていく大神を見てベジットは乾いた笑みしか浮かべられなかった。

 

「………大丈夫かな、ゼウスのじっちゃん」

 

「近い内に送還されんじゃねぇか?」

 

「ちょ、怖いこと言わないで下さいよベート様!」

 

 ヘラがこちらと合流してから、目に見えてゼウスの生気は萎んだ気がする。たった一日そこらの関係でしかないのに既に三人はゼウスの最期を予感していた。

 

「いや、あの調子だと明日には逃げ出してるね」

 

「どうかしら、私はお昼頃にはヘラを撒いていると睨んでいるわ」

 

「そうだな。以前よりも観念した演技が上手い。アレは事を起こすのは早いぞ」

 

 対してヘスティア達は天界の頃からの経験を活かして、ヘラからの逃走劇を予想し合っている。説得力の高い神々の言葉にベジット達はマジかと引いていた。

 

「────じゃあ、帰るか」

 

 そんなこんなで、ゼウスとヘラを見送ったベジット達もオラリオに向けて歩き出す。新たに得た力と予想外に得た力、これ等にどう向き合っていくか何だかんだワクワクしているベジットは次の冒険に向けて胸を高鳴らせるのだった。

 

 

 

 

「────良かったのか?」

 

「何がじゃ?」

 

 遠ざかっていくベジット達の気配を感じながら、ヘラはゼウスへ追求する。

 

「【天の炎】だ。黒竜を単独で打ち倒したベジット、奴ならば未だ燃える穢れたアレ(・・・・・)をどうにか出来るのではないか?」

 

「……………………」

 

 それは、嘗て天界から地上に落とされた“原初の火”。ある一柱の神がモンスターに苦しめられている人類の助けとなる事を願って神々の目を掻い潜って落としたそれは、今も彼の地にて燻っている。

 

「ほんの一日二日の間だが、あの人間の力は文字通りの規格外だ。純粋な強さも天界にいた頃の武神と同等かそれ以上、奴であれば黒竜討伐の次に片付けるべきだった我々の仕事も代行してくれるのではないか?」

 

 自分達の尻拭いをヘスティアの眷族に丸投げするのはヘラとしても憚れるが、ベジットの力を目の当たりにした以上、無視することは出来ない。

 

 てっきりゼウス()ならばとっくに託しているだろうと思っていたのに、今の今まで伝えていなかった。【天の炎】は黒竜と並ぶ下界救済に必要な取り除くべき必要案件。それを伝えないとは如何なる神意があるのか。

 

 問い掛けるヘラに対し………。

 

「─────ヤッベェ、素で忘れてた

 

 冷や汗ダラダラのゼウスにヘラは思わずスッ転げた。

 

 振り返り、後を追うにも既にベジット達は遥か彼方。頼むタイミングを完全に手放したゼウスは、そのままヘラと鬼ごっこをするハメになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、コイツ等の内の誰かを暗殺すればいいのね?」

 

「あぁ、そこに並んでいる奴なら誰でも良い。アストレア・ファミリアの連中なら一人1億……いや、2億出そう」

 

「景気が良いニャー、そんなに自分達の面子が大事ニャ?」

 

 薄暗い路地、異なる場所で同じ依頼を受けた二人の暗殺者。これ迄何度も暗殺を成功させてきた彼女達はそれぞれの依頼主から最後の殺しの依頼に目を通す。

 

 報酬の額から、恐らくは今までで一番の髙難易度。長い間殺しを続け、そろそろ裏家業から足を洗いたかった二人の少女は渋々ながら依頼を了承する。

 

「とは言っても、流石にオラリオの冒険者だと分が悪そうだなぁ……」

 

「それにアストレア・ファミリアって、ほぼ全員がLv.4にゃ。成功したとしてもズラかるだけで命がけニャ」

 

 渡された裏の手配書、そこに描かれている標的はドイツもコイツも実力者ばかり。他のファミリア───ロキ・フレイヤの眷族に関しては、近付いただけで殺されそうですらある。

 

 嘗ての大抗争で闇派閥と繋がっていた死の商人。彼等のオラリオに対する恨み辛みは並々ならぬものだった。それこそ、断ろうとした自分達を道連れにしようとする位には彼等の瞳は薄暗く濁っていた。

 

 バックレたりすれば、一生追いかけてきそうである。そうなったら自分達の今後の人生設計はおしまいだと、項垂れながら暗殺者の少女はベッドで横になる。

 

「はぁ、何処かに楽に殺せる標的(ターゲット)はいないかなぁ」

 

「────ニャ?」

 

 別の宿屋、別の部屋に陣取っている二人は同時に一枚の手配書を見付けた。

 

「────ヘスティア・ファミリア」

 

「構成員3名」

 

「レベル6が一人にレベル4が一人」

 

「「レベル1が一人!?」」

 

 ガバリッ、身を乗り出してその手配書を凝視すれば、三億ヴァリスの文字が書かれていた。

 

「ヘスティア・ファミリア、一人三億ヴァリス!?」

 

「ベジットの暗殺が成功した場合、更なる報酬も上乗せ!?」

 

「「こ、これだぁッ!!」」

 

 暗殺という裏家業から足を洗うには余りにも好条件。繰り返される殺しの仕事にウンザリしていた二人は気付かない。Lv.1とされる冒険者に懸けられた高額報酬、そこに込められた意味を知らない少女達はニコニコと笑みを浮かべながら明日に向けて眠りに就くのだった。

 

 

 

 

 





Q.オリンピアにはいかないの?

A.まだじゃ。もう少し先なんじゃよ

Q.アリアがオラリオに来たら“ヤツ”にバレない?

A.アイズの事も長年気付かなかったし、バレへんやろ。

Q.最後の暗殺者二人、ベジットの事知らないの?

A.あんまり広まっていないor信じられていない。

レベル1の冒険者にそんな真似出来る訳無いだろ、的な。



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