ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今回、繋ぎ回ですのであまり進展しないかも。

申し訳ありません。

※前回の最初の部分、女神デメテルの下りは時系列不明という括りでお願いします。

そんな訳で初投稿です。




物語59

 

 

 

 竜の谷でのドタバタ騒動から時が過ぎ、学区にてレオンとの約束どおり“気”の概念を教え、習得させる運びとなった。

 

 世界中を飛び回り、文学やモンスターとの実戦をこなしてきただけあって、学区の生徒達はオラリオの冒険者程でないにしろ精強だった。具体的に言えば数頼りのラキアより余程連携に富んでおり、若くしてLv.2やLv.3間近の子も多い為将来性もズバ抜けていた。

 

 教師を務めているレオンを始め、各クラス(派閥)教師(団長)も中々のモノで、レオン程で無いにしろその強さは第一級冒険者に届く実力者もいた。

 

 ただ、世界を周りモンスターによる被害を目の当たりにしてきた為か、学区の生徒達はオラリオの冒険者に対する風当たりは強く、色々と無茶振りなギルドに対して不満を募らせていた。

 

 ベジットがバルドルのクラスの生徒に“気”を教える時も反発は強く、中には最弱(Lv.1)のベジットを侮り、侮蔑を吐く者も少なくなかった。

 

 Lv.1の冒険者が団長とか、オラリオでは贔屓が当たり前に横行しておるのか。とある灰色の髪をした少年にベジットは何も言い返せなかった。

 

 超サイヤ人3へと至り、更にはスキル欄に新しく【神気】なんて代物を獲得しても、依然としてベジットはLv.1のまま。ステイタスアビリティも全項目がIと0で埋め尽くされているのを見た時は最早乾いた笑みしか出てこなかった。

 

 そんな訳で最初に気を教えようとしても、灰色髪の少年を初めとしたLv.2の子達は一切聞き入れようとせず、ベジットの授業は難航した。

 

 中でも、灰色髪の少年に対してのリリルカの殺気が凄まじく、無表情な顔をしておきながら眼だけを紅く輝かせて自身の槍に手を伸ばす彼女を珍しくベートが慌てながら抑える程だ。

 

 後に、ベートは語る。「リリルカの奴、マジで殺る気だったぞ」と。冷や汗を流し、真顔でそう語るベートの顔には何とかしろという訴えが滲み出ていた。

 

 故に、何とか気の有用性を伝える事で生徒達のやる気を引き出し、教える事が出来た。

 

 成功したと言えなかったのは、彼等が未だにオラリオの冒険者に対して何処か見下している部分があるからか。ベジットから気を教わってもすぐに追い抜かしてやると息巻くだけ。

 

 それでも何とか必要な人員には気を教え、その概念を伝える事が出来た。唯一救いと思えたのは、ヘスティアと同じ主神である女神イズンの生徒達が凄く素直であった事だ。

 

 レオンの生徒達も気を体験すると、その有用性を認めて素直になるのが大半だ。灰色髪の少年が素直になれないのもなまじ世界の広さとモンスターの被害、そしてギルドからの無茶振りと色々と悪いものが重なった所為という部分もある。

 

 なにより……まぁ、子供だしそういう年頃だよね。と、ベジットは終始灰色の少年の罵詈雑言を軽く聞き流していた。

 

「ベジット、今回は本当に済まなかった」

 

「止せよ。もとはといえば俺が迂闊に自分のレベルを公表したのが原因だ。レオンが気に………はするだろうが、いつまでも気に病む必要はねぇよ」

 

「そうはいかない。君はLv.1でも此処まで強くなれるという指標を伝えただけだ。なのにルークは……!」

 

 灰色髪の少年───ルーク・ファウル。若くしてLv.2へと至り、絶賛増長中の少年。彼の度重なる無礼な態度はレオンは疎か主神であるバルドルですら頭を抱えた程だ。

 

「そもそもベジット、君も君だ。君が超サイヤ人3にでもなればルークだって大人しくなるだろうに!」

 

「船が吹っ飛ぶわ」

 

 メレン港に戻ってからは、ヘファイストスは学区───【超巨大船フリングホルニ】を修理している眷族達と合流する。繊細な修理作業をしている学区でまだ慣れていない超サイヤ人3になったりしたら、それこそ学区は余波で吹き飛ぶだろう。

 

 勿論、レオンは冗談のつもりだろうが………冗談だよね?

 

 それに、普段ベートや顔を合わせれば殺しに掛かるアレンの相手をしているベジットとしてはルークなる少年の反抗期は可愛いもの。何より、外のエルフ連中と一度だけ関わってしまった時の事を考えれば少年の言葉は正論ですらあった。

 

 尤も、ベジットの経歴を知ればその正論も容易く覆る事になるのだが……。

 

「数年前、各地でモンスターを討伐していた何者か。その正体が君である事を伝えれば………」

 

「止めろよ。別に俺は武勇伝を広げる為にやった訳じゃねぇぞ」

 

 学区の中で真しやかに囁かれている噂。数年前、一時はモンスターの被害が酷かったとある地域がある日を境に被害は劇的に減ったという。

 

 人知れず、且つ報酬は最低限。困っている人を進んで助けるその人を学区では【姿無き英雄(ミスター・アンノウン)】と呼んでいる。

 

 既に噂は廃れ、モンスターを討伐していた人物は誰だったのか、普段は学区で暮らす生徒達には想像することしか出来ず、ルーク・ファウルはそんな【姿無き英雄】を崇拝すらしていた。

 

「それに、ワザワザ子供の夢を壊す必要もねぇだろ。今回俺が教えた事を活かせれば、それでいい」

 

 自分が罵詈雑言を浴びせた相手が、その尊敬する英雄だと知ればルークの衝撃は計り知れない。事ある度にその英雄を引き合いに出すのだから、彼の入れ込み具合は相当だろう。

 

 ベジットからすればルーク・ファウルはまだまだ子供。これからも勘違いや間違いは起こすだろうし、狭い視野で価値観が凝り固まる事もあるかもしれない。

 

「世界を知り、己を知る。それが学区の存在意義だろ?」

 

 そんな間違いを含めて、ルーク・ファウルは青春を謳歌してほしい。ヘスティアと同じ処女神であるイズンが普段から「アオハルよー!」と叫ぶ様に。

 

「ベジット………やはり、学区に来ないか?

 

「懲りないなお前も」

 

 その後もレオンからの勧誘を回避しながら二人の語り合いは続き、次の指導を約束すると、互いに固い握手を交わし、レオンは学区へと戻っていった。

 

 その翌日、学区の屋台骨であるフリングホルニはその修理を終え、再び学区は世界に向けて飛び立って行く。大勢の観客の中にはヘスティア・ファミリアの面々も確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学区がオラリオを飛び立ってから翌日、未だにヘスティア・ファミリアはメレン港に留まっていた。予定より船の修理が早く終わり、余っていた日数を休暇として消化しようというベジットからの提案である。

 

 その真意は自分の無茶に応えてくれたベートやリリルカ、そして主神に対するベジットなりの恩返し。その意図を分かっているからこそ、団員達は深く追求せず、その提案に乗ることとなった。

 

「ふっふーん! どうだいベジット君、僕の水着は! 見惚れてくれていいんだぜ?」

 

「あー、うん。似合ってるよ、処女神が露出のある水着に着替えるのはどうかという疑問はさておいて」

 

「ンもう、淡白だなぁ君は」

 

 そんなヘスティア達は現在、メレン港にあるリゾート区画のビーチにて海を堪能していた。既にリリルカとアリス(アリア)は水着に着替え、海で遊んでいる。

 

 時折此方に振り向いては手を振ってくる二人に、ベジットも手を振り返す。ベート? 奴は手配した宿に一足先に戻って昼寝しております。

 

「しかし、アルテミスには悪いことをしたなぁ。日数の擦り合わせの為とはいえ、本拠地を任せてしまっているのは」

 

「今度、何かしらの具体的なお返しを考えにゃならんな。主神共々、あの派閥には世話になりっぱなしだからな」

 

 主神であるアルテミスと眷族達はベジットから“気”を教わったり、昇格を果たした事で派閥全体の戦力が大きく底上げされた事から礼など気にするなと日頃から言っているが、此方の都合に合わせた頼み事をしてきたヘスティア・ファミリアにとってその遠慮は良心に効いた。

 

 ベジットの言う通り、何かしらの具体的な礼をしたいというのはヘスティアも同感だが、相手はこれといった物欲など持ち合わせていないアルテミス・ファミリア。主神であるアルテミスはこの後に控える女神祭で借りを返すとして、眷族達にはどんな礼をするべきか頭を悩ませる。

 

 だが、ベジットが対応しなくてはいけない事はそれだけじゃない。

 

「そういえばベジット君、女神祭が終わったら自分の所に来るようにってヘファイストスから言われてたみたいだけど………」

 

「ああそうだ。そっちの件もあったんだな」

 

 女神ヘファイストスと別れる際に彼女は言った。

 

『今回の件で解ったわ。ベジット、あなた武器を持ちなさい。手加減用の。いいわね』

 

 それは竜の谷でベジットの力と未知の部分を知ってしまったが故の判断。ベジットは強い、それこそ文字通りこの世界でブッチギリに。

 

 そんな彼がこれからも力を付け続け、万が一加減を誤って誰かを殺してしまうかもしれない。無論、ベジット本人もそんなヘマをする事など有り得ないと思うが、物事に絶対というモノはない。

 

 それに、武器を持つことはベジットも以前から興味を持っていた。具体的に言えば、オッタルが使っているような大剣。

 

 振るうとするのならああいうのがいい。

 

「まぁ、くれるってんなら有り難く貰うさ。それに………」

 

「それに?」

 

「武器を使っていた事が手加減とか、ちょっとかっこ良いよなって」

 

「君ねぇ……」

 

 子供のように語るベジットにヘスティアも苦笑う。

 

 それはともあれ、ヘスティアは自身の胸の谷間をまさぐると1本の小瓶を取り出してベジットに差し出す。

 

「それよりもベジット君、折角海に来たんだ。日焼けしないように僕の背中にオイルを塗っておくれよ」

 

「………神は不変だから日焼けはしないんじゃねぇの?」

 

「ムードってモノがあるじゃないか!」

 

 構って欲しいヘスティアとたまにはゆっくり休みたいベジット。やいのやいのと言い合っている二人の下へある一団が歩み寄る。

 

「なんやぁドチビ、まぁだメレンにいたんか。相変わらず呑気なやっちゃな!」

 

「ゲッ、ロキ……」

 

 ビーチに新たにやって来たのは、オラリオ最強派閥の一角であるロキ・ファミリア。主神であるロキの背後には彼女の護衛であるアイズ達がいた。

 

 アイズを見て一瞬眼を剥くヘスティアとベジット。未だに海辺で遊んでいるリリルカの方へ視線を向ければ、既に其処にアリスの姿はなかった。

 

 どうやら既に風を操って姿を消したようだ。両腕で輪を作るリリルカを見て、ベジットとヘスティアはホッと胸を撫で下ろした。

 

「なんや揃ってけったいなシンクロしおってからに。向こうのリリルカたんになんかあったんか?」

 

「え、ええっとそのぉ……」

 

「なんか波で水着が浚われちゃって……今見付けた所みたいッス」

 

なんやて!? くっ、惜しいことした! もっと早く来れば良かったわ!!」

 

「おい、それはライン越えの発言だぞ」

 

 余所の派閥の娘相手にもセクハラ上等なロキ。流石にそれは一線越えているぞとジト目で睨むヘスティアだが……それよりも速く彼女の脳天に眷族の鉄槌が降される。

 

「いい加減にせんかロキ、我等の恥部をみだりに晒すな」

 

「フギュッ!? い、痛ぁ~。ほ、ほんの冗談やんか~」

 

「冗談にしては笑えんぞ全く。………申し訳ない女神ヘスティア。我等の愚神が迷惑を掛けた」

 

「う、うぅん! 大丈夫さ。此方こそごめんね、見苦しい所を見せちゃって」

 

 主神の脳天に拳骨を落とすのは、ロキ・ファミリア随一の怪力無双、ガレス・ランドロック。【重傑(エルガレム)】と称される傑物が代表してヘスティアに頭を下げる。

 

「つーか、ガレスのおっちゃんも来てたのかよ。ドワーフの戦士がビーチに来るなんて珍しい」

 

「なに、学区がオラリオから飛び立ったという話を聞いてティオナ達が海で泳ぎたいと駄々を捏ねてな。引率じゃよ」

 

「そういう役割はてっきりリヴェリア辺りが担当かと思ってたわ」

 

「否定は出来んな。実は学区からギルドに何人か就職してな、その内の一人が友人の子という事で今日はそっちを優先したんじゃよ」

 

「へー、学区は冒険者としてだけじゃなく事務員も斡旋してるのか」

 

「何せ学びの機関じゃからのう。そういう意味でも、学区の卒業生は引く手あまたじゃろうよ」

 

 どうやらいつも子ども達の引率を務めているリヴェリアは別件で外れているらしい。友人の子供というからにはその子もエルフでリヴェリアにとっても子供の様なもの。就職祝いとして駆け付けてやるなんて、思ってた以上にリヴェリアは社会性が富んでいる様だ。

 

「ただ、あ奴は仮にも王族じゃろ? エルフからすれば王族は神の如く崇められる存在。そんなリヴェリアが祝いの席に駆け付けたとあっては……」

 

「祝う処じゃないってか。何というか、難儀だなエルフって」

 

「ウム、それはワシも同感じゃ」

 

 腕を組んで頷く二人。そんなガレスの背後から既に水着に着替えたティオナが顔を出してくる。

 

「ねー、もうお話はおしまいで良いでしょ! 折角海に来たんだから、一緒に泳ごーよベジットさん!」

 

「リリルカも来ているみたいだし、退屈はしなさそうね」

 

 言うや否や、ワーイと両手を上げてリリルカの下へ駆け寄っていくティオナと呆れながらついていくティオネ。相変わらず元気だなと感心していると、アイズだけがソワソワとしていた。

 

「ん? どうしたアイズ、泳がないのか?」

 

「あの……私は……」

 

「アイズー? 泳がないのー?」

 

 海というのはそれだけで子供のテンションが上がる場所。普段は建物に囲まれたシティーガールだからティオナの様にはしゃぐと思っていたのに、アイズのテンションは低い。

 

 いや、どちらかといえば低いというより怯えていると表現した方が良い気がする。

 

「もしかしてアイズ、泳げないのか?」

 

「っ!? ち、ちが……わないです」

 

「えっ!? アイズ泳げないの!?」

 

「意外ねぇ、アイズの事だからそつなく出来るものかと……」

 

 みんなの前では秘密だったのか、暴露されたアイズは顔を赤く染めて縮こまる。そんなアイズを不憫に思ったベジットがガレスに視線を送ると、ドワーフの保護者は承諾するように頷いた。

 

「良かったらアイズ、俺が泳ぎ方を教えてやろうか?」

 

「っ、いいの?」

 

「あぁ、これも縁だ。完璧に、とはいかなくても水に対する恐怖心は克服させてやるよ」

 

「こ、怖くないもん」

 

「はいはい」

 

 あくまで泳げないだけで怖くはない。年頃の女の子らしい強がりにベジットも笑みを溢す。

 

「さて、俺一人で教えるのも何だし、ティオネ達にも手伝って貰うとするか。リリー! ちょっと良いか!」

 

「はーい! 今いきまーす!!」

 

 仲間達と友達、それぞれに囲まれたアイズの泳ぎの講座が始まる。

 

 楽しい時間を満喫する最中、ふとアイズは誰かに視られている様な感覚を覚えた。

 

 不快ではない。暖かくて、見守られているような感覚。何かと思い辺りを見渡しても、回りには自分達以外誰もいなかった。

 

「…………?」

 

 不思議、そう思いながらもアイズは仲間達の輪に戻り、ベジットから泳ぎの指導を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くベジットめ、アイズたんに泳ぎの指導なんて羨まけしからん事をしおってからに。これは二つ名を“ロリコンキング”に一票を投じる必要があるなぁ」

 

「おい止めろよ。僕の眷族を犯罪者予備軍にするんじゃあない」

 

 幼女に囲まれているベジットを見て、悔しそうに唸る女神ロキ。

 

 密かに進めているベジットの二つ名へ不名誉極まりない称号を刻もうとしている悪神に、ヘスティアは断固としてお断りの姿勢を見せる。

 

「───まぁ、アイズたんが年頃の女の子らしくなってきたから保留にはしている。ウチも自分には伝えたい事があったからなぁ」

 

「僕に?」

 

「あぁ。自分、今度の女神祭に奉られる側として参加する事が決まったで」

 

「───えぇっ!?

 

 突然告げられる大役。女神祭はその年の豊穣を祝し、次の実りも豊かである事を願う祭事。ここ数年闇派閥とのイザコザで中止とされてきた祭りで、初参加となるヘスティアも参加側として楽しみにしていた。

 

 なのにロキから告げられるのは奉られる側としての参加、しかも口振りからして強制。どういう事なのかと訊ねるヘスティアにロキは耳を掻きながら応えた。

 

「例年はデメテルとフレイヤの色ボケ、ハトホルにイシュタルだったんやけどな。どっかの誰かさん達がイシュタルの心をへし折ってしもたんで、代役として折った本神にやらせるという流れになったんや」

 

「うぐっ」

 

 現在、女神イシュタルは本拠地のある歓楽街の奥で眷族すら近付かせずに引きこもっているらしい。先の神会でヘスティアとベジットに虚仮にされたのが余程堪えた様だ。

 

「まぁ、来年になったらイシュタルも立ち直るやろ。今年限りの代役や、甘んじて受けとき」

 

「うぅ、分かったよぉ……」

 

 ベジット君とデートする予定がぁ、なんて嘆くヘスティアをケケケと笑う。そんな悪趣味な主神を見て、護衛のガレスは呆れたため息を漏らした。

 

「……で、本題は?」

 

「あぁ?」

 

「君がワザワザそんな事を伝える為に此処まで来るわけないのは知ってるよ。女神祭の話を口実にして僕に何を聞きたいのさ」

 

「……ほーん、ドチビの癖に察しが良くなったなぁ」

 

 生意気に。そう悪神らしい笑みを浮かべてヘスティアの成長ぶりに感心するロキ。ならば遠慮は要らないなと、笑みを浮かべたまま処女神に詰めより……。

 

何を見た?(・・・・・)

 

「────何がだい?」

 

「惚けんなや。自分達が体験学習という名目で学区に堂々と入ったのも知っとる。その後、学区から出て何処かへ消えていくのもなぁ」

 

「─────」

 

 冷や汗が流れる。この悪神、普段はおちゃらけて人類(子供達)に親しみやすい雰囲気を纏っているが、曾て天界にいた頃は暇潰しという名目で神々同士での殺し合いを促してきた生粋のトリックスター。

 

 謀略や化かし合いでこの神と張り合える者は天界下界含めてそうはいない。そんな悪神の眼差しを正面から受け止めるヘスティアにロキは更に笑みを深める。

 

「安心しい、自分達が何処に行って何を見てきたかなんてウチは知らん。何より自分等が学区から姿を消したと知ったのは一週間程後の事や」

 

 恐らくは、ラウルや空を飛べるようになった眷族を使って偵察に向かわせたのだろう。折角教わった舞空術を悪用するロキの腹黒さに呆れつつ、ヘスティアは応えた。

 

「別に、ベジット君の修行に付き合っただけだよ」

 

「………それだけ?」

 

「それだけさ」

 

 尤も、世界を巻き込んだ天変地異を引き起こすレベルだけどね、とヘスティアは内心で愚痴った。

 

「───ふーん。ま、そういう事にしといたる。ウチの慈悲深さに感謝するんやな」

 

 絶対怪しく思っているだろうロキからの追求を躱したヘスティアは、立ち去っていく彼女の後ろ姿を見てホッと息を吐く。

 

 実際、ベジットの強さは天井知らずで仮に超サイヤ人3の事を話しても呆れるだけで終わるだろう。

 

 だがもし、万が一【神気】を習得した事や大精霊アリアの存在が矢継ぎ早でバレた場合、オラリオは未曾有の大混乱に陥ることは間違いない。

 

 そんないろんな意味で爆弾を抱えることになった自分達の派閥だが、その爆弾も日頃からベジットが他派閥に“気”という力の概念を教え授けた事で、相手に貸しを作れたのが大きい。

 

 勿論、ヘスティアもベジットもそんな意図はまるで意識していなかったが、結果として今日までの貢献が良い具合に防波堤となり、クッションとなっている。

 

 ともあれ、いつかはバレるかもしれない。その時が来るまでどうにか大事にならないよう、今から考える必要があるのだが……。

 

「ま、それは明日以降の僕に任せよう。オーイ、ベジットくーん! 僕も混ぜておくれよー!」

 

 しかし、そこはグータラ好きな処女神。竜の谷での激務を終えた彼女はこれ以上の考え事は一旦止めて、先ずは浮くことから教えているベジットに向かってルパンダイブをかますのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、夜。

 

 海で遊び疲れ、予約を取っていた宿屋にて、泥のように眠る主神とリリルカを見て、ベジットは微笑みながら外へ向かう。途中、昼間から寝ていたベートとすれ違い。

 

「明日も早ぇんだ。時間掛けんなよ」

 

 そんな忠告を受けて外に出る。

 

 夜の海、日中とは違い静寂で人気のない浜辺を一人歩く。

 

 こうして一人気ままに歩くのなんて何時ぶりだろう。そんな、呑気にしていたのも束の間。

 

「ヘスティア・ファミリアの団長、ベジット」

 

「悪いけど、お命頂戴するにゃ」

 

 暗闇から現れる二人の刺客、片方は握り締めた拳を。

 

 もう片方は毒が塗られた刃を、それぞれベジットの急所に向けて放たれる。

 

 避ける素振りもなく、気付いた素振りもない。三億の首を獲ったと確信した二人の渾身の一撃が月下にて振るわれる。

 

 

 

 

 

 






捕捉

学区の生徒。

ベジットの教えた新たなる“気”という力の概念は学区の生徒達に衝撃を与えた。が、一部の生徒はオラリオの冒険者を一方的に敵視、或いは下に見ている為にその生徒はある種の差を付けられる事になる。

生徒一部抜粋。

 ・ルーク某。

 オラリオの冒険者であるベジットを見下し、気を教えようとするベジットを頑なに拒絶した生徒筆頭。

学区の船に乗り、世界の広さとモンスターによる悲劇をその眼で見てきたが故の偏見。なまじベジットも世界を旅して少年の気持ちを理解できるが故に反論できずにいた。

 そんな少年は数少ない報酬で、世界各地を巡りモンスターを討伐していた【姿無き英雄】を崇拝している。

 その英雄と比較し、尚且つ扱き下ろす少年をレオンは厳しく諌めるが、もし彼の叱責がなければ灰色の少年は一人の小人族の少女によって朝日を拝めなくなっていただろう。

 とあるレベル6の狼人は語る。あんな澄んだ眼差しで得物に手を伸ばす奴は見たことがないと。

 純粋な殺意というのは、時に宝石の如き輝きを放つという。

 尚後日、自身が崇拝する英雄がベジットその人だと知り、ルーク某は盛大に曇る模様。



次回、暗殺者うるよ!

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