ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今回の話はおとなしめ。所謂地味回。

そんな訳で初投稿です。


物語6

 

 

 

 闇派閥(イヴィルス)への奇襲。潜伏先の施設を特定し、奴等との戦いを終らせる為に始まった秩序側の作戦は、闇派閥の用意周到な罠と、絶対的な力を持った二人の特級戦力により瓦解。

 

死兵と化した闇派閥の構成員の特攻により、道連れに遭った冒険者の数は数知れず、オラリオは一夜にして絶望と混沌の坩堝に叩き落とされた。

 

 “脆きもの 汝の名は正義なり”

 

 半壊したオラリオに響く邪神の声、それはオラリオに住まう多くの人々の心に根差し、そして思いしる。

 

自分達に、もう二度と平穏は訪れないのかもしれないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───神塔(バベル)。既に多くの避難民でごった返す中央広場に、ベジットはやってきた。

 

「あ、帰ってきた! ベジットくーん!」

 

「おう、ヘスティア。そっちも無事だったか」

 

 唯一の眷族が無事に戻ってきた事を確認すると、ヘスティアはツインテールを揺らしながらベジットに抱き付く。相変わらずな主神の様子に安堵し、ベジットは此処まで警護してくれたアーディ達に顔を向けた。

 

「ありがとな、うちの神様守ってくれて」

 

「いえ、道中は構成員とも遭遇しませんでしたし、何より、ベジットさんにずっと助けられましたから」

 

 これ迄、アーディは他の団員達と神()と共に中央広場に戻ってきたが、その道中は恐ろしい程に静かで、闇派閥は勿論、助けを求める救護者の姿すら確認しなかった。

 

 目にしたのは、気絶している闇派閥の団員と人がいたという形跡だけ。

 

 歩けば歩く程に事態は沈静化していき、周囲の炎が鎮火していく様はシュールを超えて幻想的であった。

 

そして、辿り着いた彼女たちが目にしたのは、大勢の避難民が互いの無事を安堵し、涙ながら抱き合う光景だった。

 

 闇派閥により、最初は多くの被害が出た。亡くなった人はこれからドンドン増えていくし、その為に多くの遺恨や禍根が残される事だろう。

 

けれど、それらを最小限に防げたのは間違いなく目の前のベジットのお陰だと、アーディは知っている。今は誰もその事まで気付ける余裕はなく、また信じる事も無いだろうが、それでも自分達だけは覚えている。

 

 あの時、彼が初めて神の恩恵(ファルナ)を刻まれる光景を目にした、自分達だけは。

 

「ん? 俺ってなにかしたか?」

 

 しかし、当の本人は惚けるだけ。自分の力を誇示するつもりは無いのだろう、笑って惚けるベジットにアーディも同意するように笑った。

 

「おいおいヘスティア、そろそろ俺達の事も紹介してくれよ」

 

「────そう言えば、そちらのお二人はウチの神様とお知り合いで?」

 

 この街に来て初めて目にする顔ぶれ恐らくはヘスティアと同じ神の一柱なのだろう。

 

ただ、清楚な女神とは対称的に、帽子を被りニヒルな笑みを浮かべる男神はどうも胡散臭く見えた。

 

「紹介するよ、此方の女神はアストレア! アリーゼ君達の主神だってさ!」

 

「あなたがヘスティアの眷族ね。私はアストレア、困ったことがあったら、何でも相談してね」

 

「あ、ご丁寧にどうも。俺はベジット、よろしくッス」

 

「そんでこっちはヘルメス。色々胡散臭い奴だから、関わる時は注意してね」

 

「この扱いの差よ」

 

「………あー、なんか分かる。神々ってのは総じてアレだからな。ごく一部除いて」

 

「熱い風評被害! でも否定しきれない!」

 

 反応からして、アストレアはかなり徳の高い神物なのだろう。アリーゼ達が慕っている女神だというから、懐の深さも相当なのモノに違いない。

 

帽子を被った男神、ヘルメスもヘスティアの言う通り胡散臭さがあるものの、悪い神では無さそうだ。最も、警戒はしなくても注意すべき神物ではあるそうだが。

 

「冗談ッスよ、俺はベジット。オラリオに来て間もない新米ですが、ウチの主神共々、よろしくお願いします」

 

 それはそれとして、初対面の相手には挨拶はするべきだろう。自分の返しの返事で幾分か気分を良くしたのか、ヘルメスは大仰に両手を広げ、ベジットの隣に立った。

 

「いやはや、先程は凄い暴れっぷりじゃないか。まさかヘスティアの最初の眷族がこれ程まで強い力を持っているだなんて………まぁ、何をしているのかは全然分からなかったけど」

 

「はぁ………」

 

「アストレアじゃないが、困り事があったら是非俺にも声を掛けてくれ、オラリオでは俺もそこそこ名が通っているからさ。力になるよ」

 

 あ、この神は色々と不味い。ベジットは本能的にそう感じ取った。このテのタイプは機会がアレば相手の弱みを突いたり、足を掬うのに躊躇しない奴だ。

 

「あ、はーい。その時はよろしく頼みます」

 

 だから、ベジットも温厚な笑みで誤魔化すことにした。ヘルメスもそんなベジットの態度を察してか、帽子を深く被り直して距離を取る。

 

「それじゃ、俺はそろそろ眷族(子供)達と合流してくるよ。アストレアも、またな」

 

「えぇ、ヘルメス。また」

 

 そう言ってパタパタと手を振って去っていくヘルメスを見送ると、ヘスティアはフググと唸りながらベジットを見上げる。

 

「なーんでヘルメスとよろしくしようとしてるんだ君は! 僕の忠告を聞いてなかったのかい!」

 

「いや、あの手の相手は下手に強く拒絶すると後々面倒になるんだって、今は社交辞令程度の関係で距離を置いた方がいいって」

 

「何だよ社交辞令って! 君はいつからそんな社交的になったんだい! 上半身裸の癖に!」

 

「あ、言われて見ればそうだった。なぁアーディちゃん、この辺りで服買える所ない? いい加減腹が冷えてきそうで」

 

「え、えーっと………」

 

 フシャーと威嚇しているヘスティアを片手間に宥めながら、アーディに何処かで呉服屋が営んでないか訊ねていると、ふと、正義の女神(アストレア)が微笑んでいるのが見えた。

 

「ふ、フフフ」

 

「あ、アストレア様?」

 

「あぁ、ごめんなさい。あなた達を侮辱するつもりはないの。ただ、こんな状況でも普段とかわらない、自然体なあなた達を見て、ちょっと安心しちゃって」

 

 今、オラリオは嘗てない窮地に立たされている。人々は恐怖し、神々の眷族達でさえ浮き足が立っている。いつまた闇派閥に襲われるか分からない状況、それが、いつまでなのかすら分かっていないのだ。

 

そんな追い詰められた状況下になっているのに、それでも普段と変わらない振る舞いをしている彼等にアストレアは言葉にできない温かさを感じていた。

 

「兎に角、今は子供達………民間人の対応が優先ね。私達は向こうに行くから、ヘスティア達は──「ドォチィビィィィッ!!」あら?」

 

「なんでお前がここにおんねん! 何しに来てんねんクソチビオラァッ!!」

 

「ゲッ、ロキ……」

 

 アストレアの言葉を遮る程の大声、何かと思い視線を向ければ、ヘソ出しルックな赤髪の神が金髪の少年を一人引き連れてこっちにやってきた。

 

ヘスティアが苦い顔をしているから面識があるようだが……?

 

「このクソ忙しい時に何しに来とるんや、悪いこと言わんから今すぐオラリオから出て行きぃ」

 

「はぁ? なぁんで僕が君の言うことに従わなきゃいけないんだ! 大体僕達は今日………いや、もう昨日か。兎に角、来たばかりなんだぞ! もうお金も無いんだ!」

 

「あぁ? 来たばかりィ?」

 

 憤慨しているヘスティアを尻目に、ロキと呼ばれた神はガネーシャ・ファミリア(街の自治部隊)のアーディに視線を向けると、アーディは肯定する様に頷いた。

 

「……そうかい、そら気の毒になぁ。けどな、今のオラリオはガチで危ない危険な状況なんや。お前も見たやろ、オラリオの神々が送還されていった瞬間を」

 

 夜が開ける少し前、邪神の声がオラリオに響き渡る以前に轟いた光の柱。それは神々が天界へ還される現象で、通称“送還”。

 

闇派閥の神々が、徒党を組んでオラリオの神々を殺し、天界へ強制送還させたのだ。数は数十、現在送還された神々について調べて回っているようだが、今はまだその全容が明らかにされていない。

 

「幸いにも恩恵を失った眷族達は半分以上無事やけど、まだ改宗(コンバージョン)の振り分けも出来ておらん。次の戦いに備えてウチらは有象無象の弱小派閥まで相手には出来んのや。巻き込まれとぅ無かったら、大人しく隅っこで震えとけ」

 

「な、なんだとぉー!」

 

「なんやぁー! やる気かぁー!」

 

 何やら剣呑な雰囲気の二人、互いに睨み合っているが、アストレアは特に気にした様子はなく、まるで日常の一部のように受け入れている。

 

「アストレア様アストレア様」

 

「はいアストレアです」

 

「もしかしてあのロキって神、結構善い神だったりします?」

 

「フフ、どうしてそう思うのかしら?」

 

「イヤだって、ワザワザ忠告してくれてるじゃないッスか。本当に嫌っている相手なら、そんな手間掛けませんよ普通」

 

 前世のベジットが知る北欧神話のロキは、知る人ぞ知るトリックスター。その高い知性知略で大神オーディンの危機を得意な策略で助けたり、時には災厄を引き起こす悪戯の神。

 

そんな神が態々ヘスティアに忠告してくれるのだから、もしかしたらこの世界では善い神として知られているのかもしれない。

 

と言うか、なんでギリシャの神と北欧の神が顔見知りなの? この世界の天界の住み分けとかどうなってるの? そこら辺も少し気になった。

 

「フフ。ロキはね、天界にいた頃は悪神として知られてたのよ? 退屈凌ぎに神同士を殺し合いをさせたり、それはもうヤンチャをしてたんだから」

 

「───マジッスか」

 

 どうやら、この世界のロキは自分の知るロキよりもヤベー奴らしい。今でこそヘスティアと頬っぺたをつねり合っているが、その危険度は天界随一の様だ。

 

「でもね、そんな彼女も下界に来てから大分落ち着いてね、今では眷族(子供)達の為に頑張っているのよ」

 

「はぇー、神も変わるもんスね」

 

「………えぇ、本当にそうね」

 

 不変として知られ、その在り方から変化をすることはないとされる神々。そんな彼等彼女等が天界にいた時と比べて変わったのは、きっと神々も下界の“未知”に触れられたお陰だろう。

 

その最たる例がロキという神。

 

「────ん? 彼女?」

 

 ふと、アストレアの言葉の一部が気になったベジットはついとある部分を見比べる。

 

ヘスティア、推定戦闘力……53万。

 

ロキ、推定戦闘力………5。

 

「バカな、力の差が分からないのか」

 

「?」

 

「ベジット君、そこまでにしなさいね」

 

 戦慄するベジットにアーディは良く分かっていないが、アストレアの笑みに凄みが増した気がした。

 

そんな時、二人の神のキャットファイトを素通りして、こちらに近付いてくる人物がいた。女神(・・)ロキが連れ添っていた金髪の少年である。

 

 

「アハハ、悪いね。ウチの主神がちょっかい出しちゃって。僕はフィン、小人族(パルゥム)のフィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長をやらせて貰っている」

 

「あぁどうも、こちらこそウチの駄女神が悪かったな。俺はベジット、ヘスティアの眷族をやっている」

 

 小人族。その体格の小ささと膂力の弱さから、数ある種族の中でも最弱と位置付けられ、差別や蔑視の的にされてきた種族。

 

ベジットも度々そんな現場を見てきて、その都度お節介をしてきたが、誰も彼もが卑屈で、常に此方の機嫌を窺ってきた。

 

ひねくれて、皮肉屋であれば良い方で、中には自分の身の安全の為に、自ら進んで奴隷になろうとする者もいた。

 

顔を殴り飛ばされているのに、痛くて苦しい筈なのに、それでも媚を売るために作り笑いを浮かべている。そんな彼等を見て衝撃的だったのを今でも覚えている。

 

 そんな種族の一人が、一つの派閥のトップに立っている。小さい体には見合わない彼の強さに、ベジットは素直に称賛した。

 

「────凄いな、アンタ」

 

「え?」

 

「小人族というだけで見下され、中には自分から奴隷に堕ちようとする者すらいる。そんな一族の中で、アンタは一つの派閥のトップに君臨している」

 

「─────」

 

「きっと、小人族はそんなアンタを一族の希望と見るだろうな。そんな重荷を進んで背負うとか、並みの人間が出来る事じゃねぇ。尊敬するよ、マジで」

 

 思惑はどうあれ、自分以外の誰かの為に頑張れる人間を、ベジットは笑わない。重荷を背負い、しがらみに囚われても、それでも懸命に足掻く人は心から尊敬できる。

 

そんな、ベジットの心からの称賛を感じ取ったのか。

 

「───参ったな、初対面の人にそんな事を言われたのは初めてだ」

 

 フィン・ディムナは、照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「いや、こちらも不躾な真似をして済まなかったな。お詫び………ではないが、何か困った事があったら言ってくれ、新米の冒険者ではあまり力になれそうにないが」

 

「そんな事はないさ。うん、その時になったら、遠慮なく頼らせて貰うよ。………それは兎も角として」

 

「うん?」

 

「実は、オラリオが火の海に包まれてから少しの後、悲鳴は急速に消え、民間人の避難民が劇的に中央広場に集まってきた。アレだけの規模の数を、誰にも気付かれずに、だ」

 

「はえー、そんな不思議な事ってあるのか」

 

「あぁ、とても不思議な事だ。君、何か知らないかい?(・・・・・・・・)

 

 あ、コイツやばい。不敵に笑みを浮かべる小人族にベジットは鳥肌が立った。避難民が何故無事だったのか、大規模な火災や闇派閥の奇襲にあったにも関わらず、被害が()()()()()()()()()()()

 

確信こそはしていないが、目の前の小人族はこれ迄の不思議な現象に自分が関わっている事を何となく気付き始めている。

 

(いやどういう理屈で? 俺この人と今の今まで関わらなかったよね? 何処から気付いたの? 何で気付けたの? 明らかに外見と合わない落ち着き様だし、なに? 見た目は子供で頭脳は大人なの? リアルコ◯ン君なの?)

 

 だったら早くこの街から逃げなければ。事件に巻き込まれて俺とヘスティアが死ぬぅ!

 

「いやぁ、どうかなぁ。俺も火の手から逃げるのに必死だったし」

 

「────成る程ね、うん、分かった。今はそういうことにしておこう(・・・・・・・・・・・・・・)

 

(今はじゃなくてずっとそういうことにしておいて!)

 

 先程までは畏敬の念すら抱いていたのに、今ではすっかり苦手意識がこびりついてしまっている。

 

この小人族怖い。クスクスと紳士的に笑うフィンにベジットは神々以上に厄介さを感じた。

 

 この手合いとも適切な距離を置いた方が良い。

 

 ここまで話して分かった。ヘルメスといい、目の前のフィンといい、彼等はベジット(自分)というオラリオに於けるイレギュラーに注目している。

 

それが良いことなのか悪いことなのかは分からないが、もし自分の力が今回の騒動で露見したら後々面倒になるのは確実。自分の行いを自ら言いふらす真似をしなくて良かったと、ベジットは常々思った。

 

 向こうもあくまで疑問程度であって、確信には至っていない筈。アーディやアリーゼ達もイチイチ言いふらす真似はしないだろう。

 

(この場は誤魔化して離脱! ヘファイストスと相談したい事も出来たし、そろそろヘスティアを拾って逃げねば!)

 

強くなる向上心はあっても、悪目立ちする趣味は持ち合わせていない。早い所ヘスティアを連れてこの場から離れなければ!

 

「なぁ~にが都市最大派閥だ! 君の所の眷族()より僕のベジット君の方がずーっと凄いんだい!!」

 

「あぁ!? 法螺吹いとる場合ちゃうねんぞゴラァ!! でかいのはその乳袋だけにせいやドチビ!」

 

「おい、そろそろいい加減にしとけよお前……」

 

 未だにキャットファイトを続ける二柱の神。これ以上ヒートアップされると余計な事まで口走られるかもしれない。

 

髪を引っ張り頬を引っ張りと、神同士の闘いというには剰りに幼稚ないざこざにベジットは溜め息を漏らした時。

 

「キャアッ!」

 

 離れた所から、女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

 この状況で女性の悲鳴、その場にいる誰もが脳裏に闇派閥の奇襲が過り、アーディ、フィン、そしてベジットの三名は同時に駆け出していく。

 

悲鳴が聞こえてきたのは、眷族や民間人の怪我人が多くいる治療区画。臨時に建てられたテントの数々、中には多くの負傷者が床に敷き詰められ、医者や治癒術者が数多く怪我人の治療に従事している。

 

 そんなテントの一つに、一人の看護師の格好をした銀髪の少女が、誰かを抑え込もうとしていた。

 

「いい加減にして下さい【猛者(おうじゃ)】! 今のあなたは重傷者なんです。この場に送られた以上、最低限の治療を受けて貰わなくては困ります!」

 

「手当てなど無用、それよりも俺には、やるべき事がある!」

 

 銀髪の少女を押し退けて現れるのは、全身が包帯まみれの猪人(ボアズ)。見る限り重傷者にしか見えない屈強な男は、その瞳に大きな怒りを滲ませている。

 

「オッタル!」

 

 満身創痍な都市最強を見て、フィンは息を呑んだ。先の南西での激しい戦闘の音、あれはやはり彼によるモノだったのかと納得し、同時に戦慄する。

 

(やはり、ゼウス・ヘラの二大派閥の眷族が敵に回ったと言うのは事実だったか!)

 

 嘗ての都市最強派閥であるゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリア、その眷族の生き残りが自分達の、ひいては迷宮都市(オラリオ)の敵になった。

 

(だが、今はオッタルを落ち着かせるのが優先だ。彼もLv.6の冒険者、此処で下手に消耗させる訳にはいかない)

 

 ザルドとアルフィア、共に昔の自分達に関わりのある眷族達。二人が敵対した意味の重圧に耐えながら、目の前の満身創痍の猛者を取り抑えようとして………。

 

「はいはーい小樽(・・)さーん、取り敢えず落ち着きましょ? ナースさんや他の皆さんの迷惑になるからねー」

 

「─────なっ」

 

 ビクリと、脚を止めてしまった。

 

 気炎を吐き、暴れだす五秒前なオッタル。その迫力は上級冒険者ですら震え上がり、周囲の民間人は腰を抜かして悲鳴も上げられずにいる。

 

そんな中で、全く臆した様子のないベジットが、かの猛者の前に立っている。アーディや銀髪の少女看護師も困惑してる中、ベジットは現在都市最強を宥めようとしている。

 

「負けて悔しいのは分かるけど、今は大人しく治療を受けとけって。今は街中が余裕のない状況なんだからさ。ちゃんと怪我を治して、余裕を持って次に備えようぜ、な?」

 

 聞き分けのない子供を諭すように、相手を極力刺激させないように声を掛ける。しかし、当のオッタル本人には、それがどうしても我慢出来ず。

 

「────邪魔だ」

 

 ただ一言、それだけを告げてベジットの肩に手を置いた………瞬間。

 

(なん、だと?)

 

 動かない。どれだけ力を込めても微動だにせず、オッタルの顔に動揺と困惑が浮かぶ。

 

仮令(たとえ)満身創痍であっても彼はLv.6、上級冒険者が何人束になっても一振で吹き飛ばせる膂力はあった。

 

なのに、自慢の腕力ではびくともしない。

 

(なんだ、誰なんだ? コイツは一体────!?)

 

 自分を止めようとしている誰か、オッタルが驚愕しながらその人物の顔を目にした瞬間。

 

「──────」

 

 オッタルは、唐突に白目を剥いて崩れ落ちた。

 

「おっと、ほーら言わんこっちゃない。まだダメージが回復していないのに無理するから。………えっと、アミッドだっけ? 悪いんだけど」

 

「あ、はい。此方へ……」

 

 完全に意識が断たれ、ベジットにもたれ掛かる。大柄なオッタルをもう一度肩に掛けてテントヘ運んでいく彼等を見て、フィンは愕然としていた。

 

「───何が、起きた?」

 

 オッタルの力は普段は対立している自分も良く知っている。ゼウス・ヘラの両派閥を除いて唯一Lv.6の冒険者。

 

その力は化物(モンスター)を容易く引き千切り、数多の闇派閥の構成員を粉砕してきた。

 

 手負いであってもそれは健在、たとえ満身創痍であっても、新米の眷族に一蹴される道理はない。

 

 確認できたのは、オッタルの顎が僅かに跳ねた(・・・)事くらい。それも、見間違いと思われる一瞬の出来事だ。

 

 ────親指が震える。危険や脅威を報せてくれる自身の親指が、奴は恐ろしい存在だと告げてくる。

 

けれど、それでも……。

 

「アーディ、彼の名前は?」

 

 勇者(フィン)は改めて訊ねる。その名を決して忘れないために。

 

「あ、はい。ベジットさんです。昨日でオラリオ入りした新人さんで、まだ冒険者登録もしていないそうです」

 

「そうか」

 

 何処か、期待している自分がいる。彼の存在は、きっとこれからの迷宮都市にとって一つの起点になる気がする。

 

 その後、ヘスティアをロキから引き剥がしたベジットはフィン達に一時の別れの挨拶を済ませると、ヘファイストスの本拠地へ向かった。

 

 そんな彼の背中を見つめるフィンの眼は、今の状況とは正反対の、一種の希望に満ちていた。

 

「ウォォォォッ!! アーディを救ってくれたという子供は何処へ!?」

 

「あ、ベジットさんならヘスティア様と一緒にヘファイストス様の所へ戻られましたよ?」

 

「ガッデム! またお礼を言えなかった! ガネーシャ悲しい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、俺はいつまで上半身裸なんだ?」

 

「さぁ……」

 

 

 





Q.ベジットは冒険者のランク分けにどれだけ精通しているの?

A.殆ど分かっていません。上級とか第二級とか第一級とか言われても、現段階では全く区別が出来ておりません。

だってどれも同じなんだもの、仕方ないよね。





オマケ


もしもベジットがフレイヤ・ファミリアだったら?2

「あーあ、やっぱヘディンを副団長に選べば良かったなぁ」

「……何度も言うが、今更言っても遅いぞ。我が派閥は完全なる実力主義。貴様も実力でその座を勝ち取った以上、いい加減覚悟を決めろ」

「イヤだってよ、此処にいる連中の殆どが書類仕事が出来ないってどういう事? マトモに出来るのがヘディンとヘグニとアルフくらいとか、派閥の規模に反して事務出来る奴が少なすぎるだろ」

「貴様もそんなにやらんではないか」

「それに関しては悪いと思ってる。ヴァンやレミリア達の稽古もしているからさ、どうしても時間がないんだよ」

「……まぁ、貴様の派閥を団結させようとする方針は分からんでもない。実際、我等は個で最強を自負しても、群となった時は粗さが目立つ」

「そうそう、折角最強の派閥なんて言われているんだからよ、突き詰めなきゃ勿体ないだろ?」

「……フン、貴様のその強さへの飽くなき欲求、相変わらず寒気がするな」

「あれ? それ褒めてる?」

「知るか愚猿め」

「突然の罵倒」

 フレイヤ・ファミリア。ベジットが団長となった暁は団員同士の軋轢は少しばかり減る。

尚、ベジットはフレイヤを特に敬っていないので、それが原因で衝突することはシバシバある模様。


比較的にオッタル、ヘグニ、ヘディン、アルフリッグとは仲が良い。

アレン? 一方的に敵視されてます。

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