ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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いよいよナイトレイン発売。

楽しみだぜ。

そんな訳で初投稿です。




物語62

 

 

 

「モンスターが、喋った!?」

 

 ダンジョン下層。巨蒼の滝から少し離れた場所にてモンスターに襲われていた冒険者を助けに駆け付けたベートとリリルカ。

 

 しかし、モンスターに襲われていた者は冒険者(同業者)ではなく、同じモンスターだった。

 

 モンスターがモンスターに襲われている? いや、そもそも人語を話すモンスターなんて……!

 

「フー、フー、フー、」

 

「ぐ、グロス……」

 

 傷だらけの人蜘蛛(アラクネ)を背に、庇う様に自分達の前に立っている石竜(ガーゴイル)。それはまるで自分達と同じ人間の様で、その在り方にリリルカの槍を握る手に迷いが浮かぶ。

 

「リリルカ、フラついてんじゃねぇ。相手はモンスターだぞ」

 

「っ!」

 

 そんなリリルカの心境を見透かしたように、ベートの言葉がリリルカを現実に引き戻す。ハッと我に返り、槍を構え直す。

 

 見れば、石竜の方は酷く興奮状態になっていて此方にいつ襲い掛かってもおかしくない程だ。

 

 それでも襲ってこない辺り、逆に目の前のモンスターに理知が備わっている事の証明になっている気もしなくもないが………。

 

「───それで、テメェ等は何処のどちら様だ? 人語を話すモンスター何ぞ聞いた事もねぇが……」

 

「………ニンゲンなんぞに、話すギリはない!」

 

「そうか。ま、それもそうだ」

 

  そう言ってベートは自身の懐をまさぐり、一粒の豆を取り出す。一体何だと石竜が戸惑った瞬間、指で弾いた豆は石竜の横を通り過ぎて人蜘蛛の口に投げ込まれる。

 

「────ングッ?」

 

「ラーニェッ!? 貴様、ラーニェに何ヲした!?」

 

「吠えるな雑魚トカゲ。黙ってろ」

 

 喉を抑え、蹲る人蜘蛛を前に激昂する石竜。興奮状態から殺意を剥き出しにする石竜()を前にベートは静かな眼差しで黙らせる。

 

「────あ、あれ? 傷が」

 

「なに!?」

 

 先程まで酷い怪我だったのに、まるで傷など最初から無かったように塞がっている。心なしか体力も回復し、自分の身に起きた出来事に石竜よりも人蜘蛛自身が驚き、戸惑っていた。

 

「今人蜘蛛さんが食べたのは【仙豆擬き】、私達の団長が丹精込めて作られた回復薬です。毒の類いではありませんので、安心して下さい」

 

「ッ!?」

 

 そして、気付けば自分の隣に立っていたリリルカに人蜘蛛は驚き飛び退く。そんな彼女を見て完全に回復した事を見届けたリリルカは胸を撫で下ろす。

 

 その手には既に槍は握られていなかった。

 

「行くぞリリルカ」

 

「行くって、どちらへ?」

 

「決まってんだろ。地上に戻りベジットの野郎に問い質すんだよ」

 

「………ベート様、何でもかんでもベジット様を疑うの、止めた方が良いのでは?」

 

「寧ろコイツらに関わっていねぇと断言できるか?」

 

「─────」

 

 偶然出会ってしまった人語を喋るモンスター。この件にも奴が関わっていると確信しているベートだが、流石にそれは無いんじゃないかとリリルカは苦言する。

 

 しかし、返されるベートの言葉にリリルカは沈黙で返すしかなく。同時に、それが彼女の答えでもあった。

 

「ベジットだと? まさか貴様等────ヘスティア・ファミリアか!?」

 

「「───────」」

 

 はいビンゴぉー、知ってた。石竜の口から聞かされる派閥にベートはやはりと確信し、リリルカはアチャーと天を仰いだ。

 

「確定、だな」

 

「ですね」

 

 二人揃って溜め息を吐露し、その場から立ち去っていく。自分達の存在を知られた石竜と人蜘蛛はどうするべきかと迷うも、二人は一度も振り返る事無く二匹のモンスターを討伐する事無く離れていく。

 

「ベート様、宜しかったので?」

 

「傷は回復したんだ。モンスターなら後は自力でどうにかすんだろ」

 

「それもですが………その、モンスターを助けて抵抗感とかなかったのかなって」

 

「………………」

 

 確かに、モンスターは有史以来この世界に存在している絶対悪とも呼べる存在。その因縁は数千年に遡り、ベート自身も過去に大切な人を失った原因である。

 

 討伐対象であっても、罷り間違っても助ける事なんてあり得ない。なのに、自然と手助けしてしまったのはあの石竜が嘗ての自分と重なって見えたからか。

 

 ベートは応えない。それ自体が答えの様なものだが、リリルカはそれを指摘する事はなかった。

 

「………テメェこそどうなんだよ」

 

「リリ、ですか?」

 

「モンスターはテメェの親の仇なんだろ? なら、俺が手助けをする事に異議があってもいい筈だが?」

 

 返されるベートの言葉にリリルカはウ~ンと頭を悩ます。

 

 確かにあのモンスターはベートの言う通り両親の仇で、実際に父母の二人ともダンジョンで命を落としている。

 

 しかし、それがモンスターを絶対に許さない理由になるかと言われればリリルカとしては微妙な所な訳で……。

 

「リリとしては仇云々よりも、喋るモンスターをそういうものかと受け入れているリリ自身にちょっと驚いています」

 

 良くも悪くも、リリルカの価値観はベジットによって粉微塵に砕かれてしまっている。黒竜の討伐、大精霊の復活に埒外な団長の強さ。

 

 それら諸々目の当たりにしてきたリリルカにとって、喋るモンスターは驚く事はあっても、受け入れられない事実という訳ではなかった。

 

「ハッ、だろうな」

 

 そんなリリルカに同じく価値観が崩壊しているベートも笑う。

 

 一先ず地上に戻りベジットを追及しよう。奴の事だ、きっと「あちゃー、バレたか」程度に軽く反応するだろう。

 

「………想像したら腹立ってきたな」

 

 取り敢えず、顔を合わせたらあの腹立つ奴の顔を蹴り飛ばすとしよう。そう心に誓ってベートは一先ず地上に向けてリリルカと共に歩き続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女神祭。これ迄と、そしてこれからの自然の実りを祝い、乞い願う為のオラリオの祭り。

 

 道行く人々の顔には笑顔が溢れ、大通りは露店で賑わい、街の至る所では歓声が沸き立っており空も快晴。

 

 正に絶好の祭り日和である。

 

「お、クレープの屋台もあるのか。うーん、仄かな甘い匂い。アルテミス様、食べていくか?」

 

「先程焼きそばなるモノを食したばかりではないか、本当に食べるのが好きなんだな君は」

 

「え? ………あ、あはは。これは失礼」

 

 人も神も賑わう祭事。今日一日アルテミスとの時間に割く事を約束していたベジットだが、何時もとは違う空気のオラリオに浮かれ、柄にもなく露店に売られている食べ物に夢中になっていた。

 

 これで五連続の飲食店。食べてばかりのベジットに流石のアルテミスも苦笑いを浮かべてしまう。

 

 今日は所謂デートの日。女神に恥をかかせてしまっていた事を漸く自覚したベジットは、顔を薄く紅くさせて謝罪する。

 

「いや、別に怒っている訳じゃないんだ。君の食べっぷりは見ていて心地いい、………旅をしていた頃もそんな感じだったのか?」

 

「あぁ、あの頃は主に狩りを軸に生活していたからな。後は訪れた村の畑を荒らす害獣を駆逐した時、ちょっとした小遣いを貰ったりしてな」

 

 勿論、狩った獣は骨以外余すことなく美味しく戴いている。余った骨だって調度品に加工したりして可能な限り使いきる様に徹底している。

 

「俺達は命を食べて生きているんだ。なら、戴いた命には最大限礼儀を尽くさねぇとな」

 

 前世から続くベジット(⬛⬛)の価値観だが、この世界に来てつくづく思う。モンスターという脅威に日々脅かされている人々にとって糧となる動植物は欠片だって無駄にする訳にはいかない。

 

  そんなベジットの持論にアルテミスもウンウンと何度も頷いた。

 

「そうだな。君の狩りに対する姿勢は私にとっても通じるモノがある。狩りとは自然環境を含めた命の循環、一度狩った以上最後まで使い切る事が我々に出来る最大限の礼儀でもあるんだ」

 

「だな」

 

 狩人の女神であるアルテミスは自身の価値観と近しい視点を持つベジットに安堵していた。天界の神々の間では無慈悲に動物を狩るアルテミスを冷酷冷徹の女神と揶揄するモノがいるが、そいつ等は決まって野生の獣の恐ろしさを知らない神々ばかりだったりする。

 

 だから、なのだろうか。旅の最中で自分と同じ狩りをして命を最後まで使い切るベジットにアルテミスは言葉に出来ない安堵の様なものを感じていた。

 

「さて、そんじゃあ何処いく? 生憎、俺もオラリオに関して其処まで詳しくないからマトモなエスコートは期待出来ないぞ」

 

「あぁ、それについては私から提案がある」

 

 アルテミスとのデートをするのは良いが、肝心のデートコースは白紙のまま。行き当たりばったり処かマトモに予定も組んでいないと素直に白状するベジットだが、アルテミスの方は既に提案があるようだ。

 

 腕に抱き付き、此方に見上げる。上目遣いの女神にキョトンとしていると。

 

「君の、オラリオでの軌跡を知りたい。教えてくれないか? ベジット(オリオン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────で、なんで最初に来るのがギルドなのよ」

 

「仕方ねーだろ。女神アルテミスのご所望なんだから」

 

 ベジットのオラリオでの軌跡が知りたいというアルテミスの要望を叶える為に、先ずはギルドへ訪れた。

 

 女神祭で何時もより冒険者は少ないが、相変わらず忙しそうだ。バタバタとしているギルド職員を見渡しながら、担当のローズへ向き直る。

 

「相変わらず忙しそうだな」

 

「そう思うなら用も無いのに来るんじゃないよ。今アタシは後輩たちの指導で忙しいの。冷やかしの相手なら余所でやって」

 

「そ、そう怒るなよ。そんなに目くじらを立てると……ホラ、皺が───」

 

「あ”ぁ”?」

 

「すみません」

 

 ベジットとしては場を和ませるジョークのつもりだったが、狼人(ウェアウルフ)の女性には火に油を注いだだけになった。

 

 ベジットすら身を竦ませる眼光、狼人らしい鋭い眼差しにアルテミスは彼女の狩人としての才覚を見た。

 

「済まない。邪魔をするつもりはないんだ。ただ、冒険者としての彼の活躍を知りたくて……」

 

「そんなの、同じ屋根の下で住んでいれば自然と分かるものじゃない?」

 

 女神が相手でも何時もの態度を崩さないローズ。端から見れば失礼極まりない対応だが、当のアルテミスは気にした様子はなく、寧ろへりくだらないローズを気に入っている節さえ見せた。

 

「私が知っているのは、あくまでヘスティア・ファミリアの団長としての彼さ。でも、君は冒険者としてのベジットを誰よりも熟知している。そうだろ?」

 

「────とはいっても、最初の頃だけだよ?」

 

「構わないさ」

 

「………はぁ、良いけど休憩中の間だけよ?」

 

 アルテミスの眼差しに根負けしたローズは渋々と当時のベジットの様子を話し出す。最初期の頃からつい最近の出来事まで、事細かに説明をしだすローズにベジットは堪らず辺りを見渡す。

 

 すると、向こうの通路から書類をわんさか抱えた職員がフラフラしながら歩いているのが見えた。危なっかしぃなと注視していると。

 

「キャッ!?」

 

 案の定、その職員はバランスを崩して書類をぶちまけてしまう。

 

「────あ、あれ?」

 

 床との激突を覚悟していたピンク髪の只人(ヒューマン)の女性、しかし体に痛みはなく恐る恐る閉じていた目を開くと、冒険者達が普段座る椅子に腰掛けていた事に気付く。

 

「え、え? 今私、確かに転んで……」

 

「ほいお嬢ちゃん。これアンタの資料だろ?」

 

 自分の身に起きた出来事に首を傾げていると、目の前のテーブルに頼まれていた書類の束が置かれる。

 

「え? あ、あの………え?」

 

 未だ混乱から立ち直れずにいる職員。ベジットと書類の束を交互に視線を送ると、背後から新たに第三者がやってくる。

 

「ちょっとミイシャ、どうしたの?」

 

「あ、エイナ! その、私も何がなにやら……」

 

 後からやって来たのは眼鏡を掛けたエルフの少女。ローズとは異なり、その初々しさから恐らくは彼女達が最近【学区】からやって来たという新人なのだろう。

 

「なに、そこの彼女が大事に抱えていた書類をぶちまけそうになったのを見兼ねてな。ちょっとお節介をさせて貰っただけさ」

 

「そ、そうなんですか。もうミイシャ、一人で無理しないって先輩達から散々怒られたのにまだ分かってなかったの!?」

 

「ご、ごめんなさぁい」

 

 眼鏡エルフの少女は同僚らしき只人を注意するが、新卒社会人のあるあるにホッコリ胸が暖かくなる思いを抱いたベジットは、まぁまぁと宥めながら間に割って入る。

 

「まぁまぁ、二人とも。見た所ギルドで働いて日が浅いんだろ? そう焦らずとも、腰を据えてゆっくり仕事を覚えれば良いからさ」

 

「は、はぁ……」

 

「あの、失礼ですが貴方は?」

 

「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はベジット、ヘスティア・ファミリアの団長をしている」

 

 初対面の相手、それも女性相手に我ながらそつなく自己紹介が出来たと思う。

 

「へ、ヘスティア・ファミリア!?」

 

「ヘスティア・ファミリアって、あの(・・)!?」

 

「………あり?」

 

 なにやら思っていた反応と違う。互いに抱き合い顔を青くさせている二人の職員に流石のベジットも戸惑っていると………。

 

「ちょっと、ウチの新入りにいきなりナンパしてんじゃないよ」

 

「そうだぞベジット。見境ないのは感心しないぞ」

 

「ナンパじゃねぇよ。あと見境なしってなんだ」

 

 下心なんて微塵もないのに、どういう訳か軟派に見られてしまうらしい。

 

 代わりに説明して貰おうにも、ミイシャなるギルド職員は未だに自分の身に起きた出来事を理解できないでいる。それどころか既に忘却の彼方へ置き去りにして、書類を持ってそそくさとその場から立ち去ってしまう。

 

「そもそも、何でそんな格好してんのよ。ハッキリ言って違和感バリバリよ」

 

「ンなの俺自身が一番分かってるわ。そんな事より話はもう終わったのか?」

 

「あぁ、君の活躍を彼女から随分と聞かせて貰ったよ。とても面白く、ワクワクしてまるで冒険譚を見聞きしているようだったよ」

 

「別にそんな大した話はしてないけどね。………さ、用件が済んだのなら出てった出てった。アンタ等冒険者は休みかも知れないけど、ギルドの職員はそんなのないから」

 

「はいはい、仕事中邪魔して悪かったな」

 

「邪魔をしたな」

 

 ローズに背中を押され、ギルドを後にする二人。人混みの中へ消えていく二人を見送るローズを、後ろに控えていた新人はヒソヒソと話し出す。

 

「ね、ねぇエイナ。私、ローズ先輩が彼処まで感情を出すの初めて見たんだけど」

 

「うん、私も初めて見た」

 

 まだ学区を卒業して日が浅く、ギルドの仕事も馴れていない二人。しかし、普段から無愛想で同じ職員相手でも感情を表に出さないローズがベジットを相手にすると自然に感情を出している。

 

 そんなローズに二人の後輩が不思議に首を傾げていると、背後から銀髪のエルフが声を掛けてきた。

 

「それはね、ローズにとってベジットが特別だから。かしらね」

 

「あ、ソフィ先輩」

 

「と、特別なんですか?」

 

 特別と聞いて二人の関係を深掘りしたくなるミイシャだが、ソフィなるギルド職員は誤魔化すように微笑むだけだった。

 

「フフフ。さ、そろそろ仕事に戻りましょ。あんまりサボっているとこわーい狼さんに食べられちゃうわよ」

 

 言われて自分達に狼人の鋭い視線を向けられていた事に気付いた二人は蜘蛛の子を散らすように散開。

 

 次の瞬間、ギルドには狼の怒号が響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからも、二人の逢瀬は続いた。ある時は屋台を巡り、またある時は近くのベンチに休憩し、またある時はアクセサリーの露店を巡る。

 

 様々な催しを堪能し、気付いた頃には既に空は暗くなり始めていた。祭の熱気も覚め始める頃、ベジットとアルテミスは最後にとある名所に訪れていた。

 

「ここは………」

 

「“英雄橋”。古の頃より、モンスターや数多の苦難を乗り越えてきた英雄達が奉られている場所か」

 

 大通り並みに大きな橋。両端にはお伽噺や英雄譚で知られている英雄達の彫像が飾られている。

 

 しかし、多くの英雄達の嘗ての姿が飾られているのに、その場は荘厳というより静謐な空気に包まれていた。像の彼等は何かを語ること無く、ただ静かに今の人類を見守るように鎮座している。

 

 そんな彼等に見下ろされながら進んでいくと、一つの違和感に気付く。

 

「あれ? ここだけ不自然に空いているな。何でだ?」

 

「それは多分、この英雄に関する事だろうな」

 

 アルテミスの言葉に振り返ると、其処にも一つの彫像が鎮座していた。剣を掲げている一人の英雄、この世界の英雄譚なんぞ欠片も知らないベジットが首を傾げていると、微笑んだアルテミスが解説をしてくれる。

 

「彼は英雄“アルバート”迷宮神聖譚(ダンジョン・オラリオトリア)を始め、数多くのお伽噺に語り継がれる英雄史上最強と謳われる大英雄さ」

 

「ほー、大英雄ねぇ。強そうだ」

 

「実際強いぞ。彼はかの黒竜が現れた時、その身と引き換えに黒竜の片目を奪いオラリオから追い出したのだからな」

 

「」

 

 黒竜と聞いてドキンとベジットの心臓が跳ね上がる。最近黒竜と聞くとこんな反応をしてしまい、ちょっとトラウマ気味のベジットであった。

 

(───ん? そういやアルバートってアリス(アリア)の夫、なんだよな?)

 

 思い返すのは、事ある度にアルバートで惚気るアリスの事。ベジットも団のみんなも当時の事など興味が無いために質問はしなかったが、本来アリスは千年前から存在する大精霊。

 

 つまり、アルバートも必然的に千年以上前の人物になる。それは別に構わない、問題なのは───。

 

(確かアイズはアリス(アリア)の娘なんだよな? じゃあ父親はやっぱりアルバート?)

 

 以前、アイズが両親の仇としてモンスターが憎いと吐露した事を思い出す。アイズが大精霊の娘だというのは分かったが、そもそも精霊との間に子供は出きるのか?

 

 いやそれ以上に、アリスの言葉を鵜呑みにするのならアイズは千年前から存在していた事になる。これは一体どういう事だ?

 

(千年前からタイムスリップ? それともアイズも長い間何処かに封印されていた? だとしたら理由は? 黒竜との戦いに巻き込まない為?)

 

 浮かんでは消えていく仮説。どれも的を射ているようで見当違いな考察な気がして、その内面倒くさくなったベジットは考えるのを止めた。

 

「ベジット」

 

「ん?」

 

「君は、ここに立つ気はないのか?」

 

 アルテミスの指差す方へ視線を向ければ、アルバートの対面してある空の座が其処にある。

 

 空席となった英雄の座。その意味をこれ迄の話の流れからある程度察したベジットはフッと笑みを溢し……。

 

「なら、今よりもっともっと強くならねぇとな」

 

「ああ、期待しているぞ」

 

 きっとベジットはこれから先、黒竜との戦いに身を投じる事になる。その時こそ、下界の救済は為されるのだとアルテミスは予感する。

 

 対し、ベジットはと言うと……。

 

(え、じゃあ何か? 黒竜討伐の件がバレて、尚且つ俺だと知られると………俺、ここに銅像建つんか!? なにそれ絶対ヤなんですけど!?)

 

 死んだ後なら兎も角、生きている頃から銅像を建てるとか、そんなの独裁者がやる事だ。悪目立ちを嫌うベジットは改めて決意する。絶対、黒竜討伐はバレてはいけないと。

 

 最近、それは無理なんじゃね? なんて思っていたけど、その果てにこんな銅像を建てられるとあっては羞恥心の余りオラリオにいられなくなるし、なんなら自分がダンジョンごとオラリオを消してやる。

 

 そんな決意を新たにして、大英雄アルバートを見上げれば………何だろう、鼻で笑われた気がする。

 

「な、なぁベジット」

 

「ん?」

 

 呼ばれて振り返ると、何やら顔を赤くしたアルテミスがベジットを見つめている。何だろうと彼女の言葉を待っていると……。

 

「もし、もし黒竜を倒して、オラリオの外に旅に出るのなら、その時は───」

 

“ドォォォッン”

 

 何かを伝えたかったのだろうアルテミスの言葉は、打ち上げられる花火の音によって掻き消されていく。

 

「おぉ、花火まで上げてンのか。豪勢だねぇ迷宮都市」

 

 この世界に訪れて初めて目にする花火。夜空を飾る火の華に視線を奪われるベジットだが、アルテミスの言い掛けていた言葉があることを思い出し、彼女に向き直る。

 

「っと、済まねぇアルテミス様。話の途中だったのに余所見をして。何か言ったか?」

 

「いや、なんでもないさ。気にしないでくれ」

 

「そ、そうか?」

 

 注意深く様子を窺うが、アルテミスは本当に気にしている様子はない。表情も何時も通り穏やかで、ただ少しばかり頬が紅くなっているだけ。

 

 何だかんだ歩き続けて疲れたのかな? 話を聞けなかったお詫びとしておんぶくらいするよと提案すると。

 

「そうだな。ではお姫様抱っこで頼む」

 

 クスクスと笑みを浮かべるアルテミス。仕方がないなと観念したベジットは彼女を抱え、オラリオの夜空を飛翔していく。

 

 上から眺める花火は、長い神生の中でも色濃く残る。そう確信できる程に素敵な1日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、本拠地に帰ってきたベジットはベート達に呼び出され。

 

「おいベジット、テメェ喋るモンスターの事隠してやがったな」

 

「オッフ、バレたでござる」

 

 予想通りふざけた反応で返す団長を副団長は蹴り飛ばすのだった。

 





Q.ベート君とリリルカちゃん、異端児に対する反応薄くない?

A.黒竜の討伐から始まるベジットのやらかしに一部価値観が崩壊した結果です。

正直二人とも異端児を見ても「あ、そうなんだ」位の反応しか出せません。

Q.ベル君やる事なくね?

A.メインヒロインとの逢瀬があるじゃろ。

Q.他には?

A.某美の女神の救済だったり、兎に角色々!(投げ槍




次回、細かい所を書いたらいよいよ原作へ突入予定……だと良いなぁ。

崩壊したフラグ、回収しろベル君!(マリュー並感)

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