ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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グダグダと長めで申し訳ない。

そんな訳で初投稿です。


物語67

 

 

 

 拝啓。お爺ちゃん、お婆ちゃん、お元気ですか? 僕は元気です。

 

 現在、僕は夢見ていたオラリオに到着し、念願のファミリアに入団する事が出来ました。オラリオに来た当初は入団試験処か門前払いで、不安になる思いでしたが、女神ヘスティア様に拾われて無事眷族になる事が出来ました。

 

 そうそう、ザルド叔父さんもアルフィア義母さんも同じ派閥に入団する事となりました。本当は異なる派閥で僕を遠巻きから見守るつもりだったみたいですが、まさか僕がヘスティア様に拾われるとは思っていなかったらしく、二人とも珍しく驚いていました。

 

 そして、そんな僕達を快く迎え入れてくれた団長───ベジットさんには感謝してもし足りません。

 

  この時、僕は改めて決意しました。このオラリオで僕は強くなる。物語やお伽噺に出てくる英雄や叔父さんお義母さんよりも、僕は強くなって見せる。

 

 この迷宮都市で!

 

 ─────さて、そんな改めて決意を固めていた僕はというと。

 

「それではベル様、此方が医神ミアハ様の薬局店です。我々ヘスティア・ファミリアも良く買い出しに来ているので、ポーションが必要な時は此方の店で買うのがお勧めです」

 

「な、成る程、分かりました!」

 

 現在、僕は小人族(パルゥム)の先輩、リリルカ・アーデ先輩の案内でオラリオの各地を回っている所です。

 

「やっほーリリ。今日はなんか入り用かい?」

 

「こんにちはナァーザさん。今日は買い物ではなくて、新しく眷族となった方を紹介に来ました」

 

「は、初めまして! この度ヘスティア・ファミリアの眷族になりました、ベル・クラネルです!」

 

「おぉ、遂にリリ達の所に新人が。良くベジットの奴許したね」

 

「いや、別に拒んでいた訳ではなかったんですよ? ただベジット様曰く、“ティン”と来る人がいなかっただけだそうです」

 

「なにそれ、相変わらず変わってるね君の所の団長は」

 

「アハハ、知ってます」

 

 リリルカ先輩から紹介されたのはナァーザさんと呼ばれる犬人(シアンスロープ)女性(ひと)、ミアハ・ファミリアの団長さんで位階(レベル)は3と冒険者全体で中堅に位置する人で、本業は薬剤師でありながら単独(ソロ)で18階層に辿り着ける強者らしく、時折他の眷族と薬の材料を取りに向かっているらしい。

 

 団長(ベジット)さん曰く、地域密着型の薬局店なんだとか。“チイキミッチャク”ってなんだろ?

 

「しかし、本当に可愛らしい子だ。こんな子が本当に冒険者になって………大丈夫なのかい?」

 

「それは……まぁ、ベジット様が育てるのなら大丈夫かと」

 

「だから心配なんだよねぇ」

 

「え? え?」

 

 なんでナァーザさん、僕の顔を見て溜め息を吐くんだろ? 何でそんな憐れみの籠った瞳で見つめてくるの?

 

「ベル・クラネル君………ちょっと長いからベル君って呼ばせて貰うね。君の所の団長は色々とアレな所があるけど、強くなる分には間違いないから───心を強く持ってね」

 

「急に怖いこと言わないで下さい!?」

 

 え、ベジットさんってそんなヤバい人なの!? 確かに凄い鍛えている人みたいだけど、普通に優しそうな人なのに!?

 

「これこれナァーザ。余り新入りを脅かすものじゃないぞ」

 

「ミアハ様」

 

「お邪魔してますミアハ様」

 

「あぁ、良く来てくれた。そちらが例の(・・)新入り君かね?」

 

「は、はい! ベル・クラネルといいます! 宜しくお願いします!」

 

「ウム、元気な子だ。………確かに、面影があるな

 

 店の奥から現れた神様はリリルカ先輩やナァーザさんが話していた医神のミアハ様。とても穏やかで優しそうな神様だ。

 

「ヘスティア・ファミリアは色々と面白いがその分苦労も多い。が、それだけ沢山の経験が積めるだろうから、どうか挫けず頑張りなさい」

 

「が、頑張ります! ありがとうございます!」

 

「ウム。折角来て貰ったのだ。ナァーザ、コレを彼に渡しなさい。私からの餞別だ」

 

 そう言ってミアハ様の懐から取り出したのは数本のポーション。故郷の村で見た時よりも色鮮やかで、素人目線でも分かる程に高そうな品を無償で差し出そうとしてくる。

 

「え、いやミアハ様、流石にそれは……!」

 

「遠慮することはない。特にリリルカ、君はウチの可愛いナァーザをモンスターの群れから救ってくれた恩がある。投資として受け取ってくれ」

 

「そうだね。今後贔屓して貰うためにも受け取ってよ」

 

「え、えぇ……」

 

 どうやら過去にナァーザさんはモンスターに襲われ、危機的状況に陥った事があるらしい。其処へ偶然通り掛かったリリルカ先輩が助けに入ってくれた事で命拾いをしたのだとか。

 

 流石はリリルカ先輩、小さくても格好いい!

 

「───分かりました。其処まで仰るのであれば戴きましょう。ベル様、受け取って貰えますか?」

 

「は、はい!」

 

「じゃあ今から包むからちょっとこっち来てねー」

 

 ナァーザさんに促され、リリルカさんから少し離れる。やはり薬を扱っているだけあって店の隅々まで手入れがされている。やっぱりオラリオって凄いな。

 

 ナァーザさんがポーションを包んでくれている一方で、リリルカ先輩がミアハ様と何かを話している。何を話してるんだろ?

 

「────それでミアハ様、ベル様の事なんですけど」

 

「あぁ、ベジットから昨日聞いたよ。彼等が来てるんだってね。しかもヘスティア・ファミリアの眷族に」

 

「はい。それでなんですけど……」

 

「ベジットにも言ったが、その時は私も正直に告白するつもりだ。ヘスティア達だけに押し付けたりはしない」

 

「ですがミアハ様……!」

 

「なぁに、ヘファイストス達もどうせ我々と同じ気持ちだ。君達は気にせず、自分のするべき事を為しなさい。ナァーザ達には叱られそうだが……」

 

「ミアハ様………ありがとうございます」

 

 何だろう、小声の所為か何を言っているのか良く聞こえない。一体なんの話をしてるんだろ?

 

「はい、おまちどうさま。高いから気を付けて持ってね」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

「本当に気を付けなよ~? ミアハ様特製ポーション。他とはモノが違うんだから、1本だけで数万いくし」

 

「すうまっ!?」

 

「これナァーザ! 脅かすなと言うに!」

 

 ナァーザさんの一言に受け取った手が固まる。こ、こんな細く小さなポーションが1本で数万だなんて、やっぱりオラリオってヤベェッ!?

 

 お爺ちゃん曰く、ナァーザさんみたいな人をダウナー系ヒロインって言ってたけど、色んな意味でブチ上げてくるよこの人!

 

「長居をしてしまい申し訳ありません。リリ達はこれで失礼します」

 

「あぁ、また来るといい」

 

「頑張ってね~」

 

 手を振ってくれるミアハ様とナァーザさんに見送られて店を後にする。

 

「さて、それでは次に………と、案内する前に先ずは戴いたポーションを本拠地へ届けに戻りますか」

 

「そうしてくれると嬉しいです……!」

 

 手元に1本数万ヴァリスの価値のある荷物を抱えたまま次の目的地に向かうのは精神的にキツすぎる。僕の心情を察してくれたリリ先輩に感謝しながら本拠地への道へ引き返していく。

 

 リリ先輩、背丈は小人族(パルゥム)らしく小柄だけど、冒険者の位階(レベル)はかなりの上澄みらしく、副団長(ベート)さんと一緒で階層主なんて恐ろしいモンスターを単独(ソロ)で討伐出来るらしい。

 

 叔父さんもお義母さんもその事で感心していたし、ヘスティア・ファミリアって凄い派閥なんだな。

 

 でも、だからこそ知りたい事がある。

 

「あ、あのリリルカ先輩!」

 

「はい? どうかされましたか?」

 

「そ、その………ちょっと聞きたい事があるんですけど……」

 

「あ、もしかしてリリの“様”付けが気になっちゃいましたか? スミマセン、これはサポーター時代の名残みたいなものでして、意識して気を付けないとつい付けてしまうんですよ」

 

 次からは気を付けますねと、苦笑うリリルカ先輩。それもあるが、それだけじゃなくて……。

 

「それもそうなんですけど、それだけじゃなくて………その、どうしてベジットさんが団長なのかなって」

 

「………あぁ、そういう事ですか」

 

 あ、あれ? 今一瞬リリルカ先輩の眼が紅く光ったような?

 

「確かにオラリオの外から見たベルさん(・・)であれば、異質に思えるのも仕方無いですね。ベジット様はLv.1、位階だけ見ればあの方はこのオラリオで数多くいる下級冒険者と変わりありません」

 

 そう、ヘスティア・ファミリアの眷族はベートさんやリリルカ先輩は第一級冒険者に対し、団長であるベジットさん唯一人が冒険者として下級に位置するLv.1のままなのだ。

 

 普通、団長となる人は位階の一番高い眷族がなるものだと思っていたから、少し異質に感じていた。

 

 そんな僕の気持ちに気付いてくれたリリルカ先輩は成る程と頷き……。

 

「答えは単純、強いからです」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ええ、仮にリリやベート様が100人いたってあの人の足元にも及びません」

 

「そんなに!?」

 

 僕の抱く疑問、それにアッサリと答えるリリルカ先輩の眼は何処までも真っ直ぐだった。嘘はない、神様でなくとも分かる程に偽りの無い彼女の言葉に、いつの間にか僕は無意識に生唾を呑み込んでいた。

 

「リリも冒険者としてそこそこですが、未だにベジット様の影も踏めてはいません。純粋な戦闘力ならばあの方の右に出る者はいないでしょうね」

 

「ふ、ふわぁ……」

 

 リリルカ先輩の言葉が何処まで本当なのかは僕には分からない。でも、彼女の口にしている言葉にはいずれも嘘はなく、紡がれる台詞の全てがただ真実を語っているように感じた。

 

「それに、リリとベートさんを此処まで育ててくれたのは他ならぬベジット様なのですよ? その点で言えばベルさんはかなりの幸運をお持ちですね」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「えぇ、ヘスティア・ファミリアに入団した以上、あなたは凡百の冒険者にはなり得ない。たとえ才能がなくとも、一流の戦士になれるのは間違いありません」

 

「え、戦士? 冒険者ではなくて?」

 

 何故だろう、リリルカ先輩からお義母さんと良く似た雰囲気を感じる気がする。

 

「リリもお手伝い頑張りますので、ベルさんも頑張りましょうね」

 

「は、はいぃ。頑張ります!」

 

 ─────拝啓。故郷にいるお爺ちゃん、お婆ちゃん、お元気ですか?

 

 オラリオに来て早くも二日目の今日ですが、早くも心が痛いです。僕は果して立派な冒険者になれるのでしょうか?

 

 今更ですが、少し怖いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、人の恩を悉く潰しやがって。何処まで天の邪鬼なんだよお前等は」

 

 ベルがリリルカに連れられて知り合いの派閥にあいさつ回りをしている頃、ヘスティア・ファミリア団長たるベジットは、布に包まれた荷物を背負ってとある場所に向かって歩いていた。

 

「頼んだ覚えもない恩を押し付けられてもな」

 

 そんなベジットの後ろを歩くのは、灰の女アルフィア。昨日オラリオに訪れて、ベジットの気の消し方を見様見真似で模倣した彼女の姿を誰も認識出来る者はいなかった。

 

 道行く人々にはすれ違う女性が嘗てオラリオを滅ぼそうとした主犯格の一人だなんて、知る由もないだろう。【才禍の怪物】、その昔【静寂】の他にアルフィアに付けられた異名の意味を改めて知らしめた瞬間である。

 

「そもそも、その“黒竜の鱗(ドロップアイテム)”は黒竜を討伐したお前のモノだろうに。何故私達に押し付ける」

 

「………別に、深い意味はねぇよ」

 

 当時、黒竜の討伐をレイドボスのラストアタックを横取りした。その程度の認識しかなかったベジットだが、ヘファイストスから聞かされる黒竜と千年に亘る因縁を聞かされたベジットは、万が一黒竜のドロップアイテムの存在をバレた時を畏れ、オラリオから追放される二人を丁度良い送り先として押し付けた。

 

 ゼウス・ヘラの眷族達が倒し損ねた黒竜、そのドロップアイテムを渡せば二人も横取りした事を許してくれるだろうという、打算から来るものだった。

 

 要するに、ベジットは知らなかったのだ。あの黒いドラゴンがまさかそんな大それた存在だと思わなかったのだ。

 

 まぁ、やたらデカかったし取り巻きの数とか凄かったし、隻眼だったし、もしかしたら普通とは違うドラゴンなのかなー? なんて、思った事はあったりしたが……。

 

 普通のドラゴンってなに?

 

 それを、当時の当事者の前で口にしない程度にはベジットも思う所はあった。

 

「それで、何処でそれを隠すつもりだ?」

 

「今に分かる」

 

 そもそも、何故この女は自分の後を付いてくるのか。訊ねたかったが聞いた所で酷い罵倒をされることを予見したベジットは、口を閉ざして目的地まで歩き続ける。

 

 やって来たのは大通りから外れ、人の喧騒から遠くはなれた過疎地帯。長い時の中で廃れ、一種の遺跡とすら思える廃墟群。

 

 ベジットの後ろを歩くアルフィアも察しが付いた。

 

「よりにもよって………此処か」

 

 訪れたのは廃教会。七年前、ヘスティアと共にオラリオに訪れた時、女神ヘファイストスから借りた仮の拠点だった場所。

 

 アルフィアにとって妹との思い出の場所、よりにもよってここへ黒竜のドロップアイテムを隠そうとするベジットにアルフィアは露骨に顔を歪めた。

 

「言っとくが、文句は受け付けないからな」

 

「────分かってる」

 

 後ろで不服そうにしているアルフィアへ一瞥しつつ、教会へ入る。アルフィアも進んで中へ足を踏み入れると、その様相に目を丸くした。

 

「修繕されている?」

 

 アレだけ荒れ果てた教会が、まるで職人の手が入った様に整えられていた。壊れたチャペルチェアは修復され、ひび割れた壁やステンドグラスも修繕されている。

 

 妹と一緒に訪れた……まだ色褪せぬ思い出だった頃の記憶がアルフィアの脳裏を過っていく。

 

「この教会、少し前にヘファイストス様から買い取ってな。その時にヘスティアが折角だから可能な限り直してやろうって言い出して、ゴブニュ・ファミリアに修繕を依頼したんだよ」

 

 それ以来、定期的に訪れては掃除したりしているのだとベジットは語る。

 

「何故、そんな事を?」

 

「………まぁ、オラリオに訪れて最初の拠点ってのもあるが、思い出ってのは出来るだけ形に残しておきたいと思ったのさ」

 

 まさか、嘗ての思い出の場所がまだ残っていると思わなかったアルフィアは、ステンドグラスを見上げて固まっている。

 

(そういや、コイツと初めて会ったのも此処だっけ。なんか因縁感じるな)

 

 左右色の異なるオッドアイの瞳でステンドグラスを見上げている彼女に、ベジットは言葉を掛ける事なく地下へ続く扉の鍵を開けて下へ降りていく。

 

 地下の方も修繕の手が入っており、今でも水道を通せば最低限の生活は出来るようになっている。が、最近この場所の役目は専ら物置小屋。

 

 生活できる最低限の空間の脇にベルが持ってきた荷物を下ろすと、辺りを見渡して自分達以外の手が入っていない事を確認すると、満足に頷いて引き返す。

 

 アルフィアにとって思い出深い場所に黒竜のドロップアイテムを隠すなんて、色々と酷い話と思えるがそれはそれ。小言を言われる事を覚悟して地上へ戻る……。

 

「アルフィア、今は思う所があるだろうが我慢───」

 

 恐らく、自分の思い出深い場所が黒竜のドロップアイテムの隠し場所として選ばれた事に不満を抱いているだろう、彼女の機嫌を損なわないようどう説得したものかと頭を悩ませていると。

 

「ベジット………」

 

 其処には、ベル・クラネルの義母であるアルフィアでなく。

 

「何も言わず、私と闘え」

 

 いつの間に着替えたのか、漆黒のバトルドレスに身を包んだヘラ・ファミリアの【静寂】がステンドグラスの光を浴び、灰と翠の双眼を以てベジットを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リド、最近みんなの様子はどうだ?」

 

「元気だよ。最近は深層からも同胞が来てるし、賑やかになった。ただ、数が増えてきたからそろそろ拠点を増やそうと思ってる」

 

 下層、未開拓領域。冒険者達の足と目に入らぬダンジョンの隅で、異端児(ゼノス)達のまとめ役である蜥蜴人(リザードマン)のリドは黒衣の魔術師であるフェルズに近況の報告を行っていた。

 

「分かった。ウラノスに話を通し、ヘスティア・ファミリアに依頼を出すとしよう。彼等ならばきっと力を貸してくれるだろう」

 

「ベジッチ達か。手助けをしてくれるのは有り難いが、なんか良いように利用してるみたいで気が滅入るな。これまでも色々と俺達を助けてくれたし」

 

「“気”だったか、凄まじい力だ。これが嘗て古代の英雄達が扱っていたかもしれない力だと考えると、英雄譚も単なるお伽噺とは思えなくなるな」

 

 異端児とヘスティア・ファミリアが関わって数年、異端児達の存在はヘスティアとその眷族達によって秘匿され、保護されてきた。

 

 モンスターの群れに囲まれた時、冒険者に自分達の存在が気取られそうになった時、ベジットや彼の仲間達にその力で何度も救われてきた経験がある。

 

「ただ、瞬間移動だっけ? アレでいきなり地上に連れていかれた時は腰を抜かしたなぁ」

 

「私は腰抜かすどころか胃痛で死ぬかと思ったぞ。無いけど」

 

 思い出すのは自分達が冒険者に襲われた時、現れたベジットの手により地上へ逃げる事が出来た。初めて見る外の景色、限られた空間でありながら目にした空の蒼さ、太陽と呼ばれる天体の輝き、あの時感じた感動はこれから先二度と忘れる事はないだろう。

 

 一方で、突然リド達の存在が消失したという報せを耳にしたフェルズは最悪の事態に瞠目し、次の瞬間目の前に事情を説明する為に現れたベジットに腰を抜かした。

 

「何だよ瞬間移動って、あんなん出てきたら何でも有りじゃないか」

 

 事実、ベジットの使う瞬間移動の有用性は凄まじく、その気になったら戦闘にも応用できるという。

 

 出鱈目の強さを持つベジットがいきなり目の前、或いは死角から現れるとか、敵対する者にとっては恐怖以外の何物でもない。

 

 ダンジョン探索に於ける革命的な代物、アレも気という力の応用だというのだから、ふざけた話である。

 

 まぁ、その出鱈目な力のお陰で異端児達は誰一人欠ける事なく今日まで生きてこられたのだから、文句を言うのは筋違いなのだろうが……。

 

「いや、このままではいかん。これからも奴のハチャメチャな言動に振り回されるとか、どんな悪夢だ。次に奴とあったらガツンと言ってやらねば」

 

「その台詞、もう何度目なんだろうな」

 

「うっさい」

 

 ケタケタ笑うリドの指摘を一蹴するフェルズ、そんな彼等との団欒に二つの影が割って入る。

 

「よぉリド、ちょっと通るぜー」

 

「おーう、出口は何時もの所な」

 

「良い剣だな、借りるぞ」

 

「ハイヨー壊すなよー」

 

 横を通りすぎる二人にリドは気さくに返事を返す。

 

 数秒後、一体自分は無意識に何をしたのかと、冷静になったリドは「ん?」と首を傾げて……。

 

「今の……ベジッチか? 他にも誰かいたような?」

 

 ベジットの他に人間の雌がいた気がする。不思議に思ったリドはフェルズへ向き直ると……。

 

「なぁフェルズ、ベジッチと一緒にいた奴って……」

 

「─────【静寂】のアルフィア?」

 

 驚愕、黒い仮面はずれ落ち、伽藍堂な筈の愚者の顔が愕然といった様子で膝から崩れ落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間移動でダンジョンの下層、異端児達の隠里を経由して進むこと少し。

 

 深層の37階層、ウダイオスの出現する【玉座の間】にまで二人は足を運んでいた。

 

 地上のオラリオの街がすっぽり入る程の巨大な空間、アルフィアの戦いの誘いに乗ることにしたベジットが急遽選んだ闘技場。

 

ここなら、派手に暴れても周囲を巻き込むことは無いだろう。

 

「さて、此処なら大丈夫だろ。ロキ・ファミリアも今は遠征中でもっと下の階層にいるみたいだし、派手に暴れても────」

 

 そこまで言い掛けて、振り向いたベジットの目の前には、鈍く光る刃が迫っていた。

 

 唐突の不意打ち。しかしそんなLv.7の不意打ちをベジットは首を傾けて回避する。

 

「チッ、やはり避けるか」

 

「………随分余裕がないんだな。そんなに俺が嫌いか?」

 

「あぁ、大嫌いだ」

 

 何気なく口にした言葉が、より大きく返される。ていうか、大嫌いなのかよ。其処まで嫌われる事したっけ? ベジットの繊細な心は若干傷付いた。

 

 其処からも突き、薙ぎ、振り下ろし等、様々な剣閃をベジットへ見舞うが、その全てが見切られて躱される。

 

「………まぁ、人間どうしても相容れない人間ていうのは少なからずいるかもしれないけどさ、其処まで目の敵にされる謂れはねぇぞ?」

 

「…………」

 

 間断なく振るわれる刃、その隙間から絶妙なタイミングで後ろへ飛んで抜け出したベジットは、背負っていた大剣に手を伸ばす。それを見越してアルフィアは改めて踏み込んで間合いを詰めるが……。

 

「ったく、少しは慎みを持てよ」

 

 ガキンッと突き立てた刃が、大きな剣の腹で受け止められる。

 

「────成る程な」

 

「ん?」

 

「妙な感触だ。貴様が武器を扱っているのに違和感を感じたが………“手加減用”というわけか。つくづく舐めてくれるな、貴様は」

 

 一度だけの打ち合い、だというのにベジットの握る大剣の特異性に気付くアルフィアに舌を巻く。

 

「だったらどうするよ?」

 

「その余裕、切り刻んでやる」

 

 瞬間、荒ぶる剣の暴威がベジットを襲う。先程よりもより速く、より鋭く。その剣速はオラリオの誰よりも凄まじかった。

 

 しかし、そんな猛威を振るう【静寂】の剣をベジットは軽くいなしていく。嵐の様な剣撃を何一つ動じないまま捌いていく。

 

 そんな中、ベジットは違和感を覚えた。

 

 らしくない。目の前のアルフィアとは七年前と合わせて数回しか会話をしていないというのに、何故か今の彼女をらしくないと思ってしまう。

 

 【静寂】のアルフィアとは、フィンやリヴェリア、オッタルから聞く限り傍若無人が人の形をした奴だと言われていて、敵対する者には冷徹になんの干渉もなく踏み潰し、感慨に浸ること等有り得ないとされている。

 

 要するに、感情がないのだ。幼き頃から病に掛かり、生まれた時から制限されてきた彼女が冒険者として大成する為に培われてきた謂わば極限の効率。

 

 そんな彼女が現在振るっている剣は、なんというか………感情が感じ取れるのだ。彼女の放つ刃は悉く此方の急所を狙ってきているが、それが逆に分かりやすく、防ぎやすくなっている。

 

(俺がコイツの病を治したから? だからこんな分かりやすい攻撃をするようになったと?)

 

 七年前に病を治し、普通の人間として生きていけるようになった。だからこうして生の感情を晒け出せるようになった。

 

 ………本当に?

 

 嘗て最強の眷族の一人として知られた彼女が、その程度で揺れる事はあるのだろうか?

 

(それに、振るわれる剣から伝わってくるのも殺意というより………なんつーか、もっと幼い(・・)というか)

 

 殺意とは違うモノ、ベジットがアルフィアから向けられている感情に戸惑っていると……。

 

「呑気に考え事か」

 

「っ!」

 

「ならば、此方からその気になってやる」

 

『ゴスペル』

 

 ゴォ───……ン。響く鐘の音が辺りに轟き、音の暴風が周囲を蹂躙する。

 

 振動と衝撃、火や氷の様な熱に依存しない魔法。超至近距離より放たれた魔法は、しかしてベジットに当たる事なく、超スピードで後ろへ下がる事で回避に成功する。

 

「無事にヘスティアから恩恵を刻めたみたいだな」

 

「あぁ、お陰で再び神の傀儡に成り果てた。本当、無様な事だよ」

 

「イチイチ憎まれ口を叩いて……構って欲しいのか? 意外とお子様だな」

 

「貴様こそ、挑発と言うには些か稚拙だな。程度が知れる」

 

「歳を考えろって言ってんだよ」

 

「“ゴスペル”」

 

 突然襲う不可視の魔法、僅かに見える大気の揺れの“起こり”を見切って回避する。そこへ、当然とばかりに剣を突き立ててくるアルフィア。

 

 気のせいかその顔は先程以上に怒っている気がした。

 

「“ゴスペル”“ゴスペル”」

 

「二連射?」

 

「ゴスペルゴスペルゴスペルゴスペルゴスペルゴスペルゴスペルゴスペルゴスペルゴスペルゴスペルゴスペル」

 

「ちょ、お、おぉぉぉっ!?」

 

 訂正、気がするじゃなくガチでキレてる。飽和気味に引き起こされる音の爆撃が、着実にベジットの避ける空間を狭めていく。

 

「おい! 自分は毒舌な癖に人から言われるのは嫌だとか、少し我が儘が過ぎないか!?」

 

「聞こえんな。炸響(ルギオ)】!!

 

 瞬間、周囲に散りばめられた魔力の残滓がアルフィアの唱えるスペルキーに反応して起爆する。囲まれた自身の状況を某包囲弾に囲まれた某17号に重ねたベジットは、こういう気分かとちょっと感心していた。

 

 刹那、ベジットの姿が音の魔力に呑み込まれていくのを、確かにアルフィアは見届けた。

 

「────これで、少しは通ると良いが」

 

 アレだけの音と振動の濁流。並みの冒険者は勿論、階層主すら屠れる魔力爆破。しかしアレだけの攻撃を見舞いながら、依然としてアルフィアは自身の勝ちを微塵も感じてはいなかった。

 

 何せ、“気”という力を得て、ベジットの内包する力を誰よりも理解しているのは自分だと、他ならぬアルフィア自身が自負しているからだ。

 

 アレは人の形をした化物。黒竜を屠り、それでいてその事実を誰よりも(・・・・)軽く(・・)扱える理外の怪物。

 

 奴は英雄などではなく、況してや勇者なんかじゃない。ただ自己を極める事しか頭にない、イカれた求道者。

 

「やれやれ、随分と派手に暴れてくれる。病が治った事で溜まっていたフラストレーションを晴らしに来たか」

 

「ッ!?」

 

 背後からの声に息を呑む。額から流れる汗を拭うこともせずに振り返ると、傷一つ処か塵一つ付けていないベジットが其処にいた。

 

 どうやって? いや、確かこの男には点から点へ移動するふざけた【スキル】があった。現にそのスキルで、外の人目を掻い潜ってダンジョンに来たのだから。

 

「────瞬間移動か」

 

「ちげぇよ、単に少しばかり速度(スピード)を上げただけだ」

 

 呆れた笑みを浮かべるアルフィアに対し、ベジットは冷淡だった。瞬間移動と思われる程の速さ、けれど実際は今までアルフィアに合わせて動いていただけなのだと、首をコキリと鳴らす目の前の男に、アルフィアは頬を引くつかせた。

 

「…………全く、分かっていたが何処までもふざけた奴だな。私が追うので精一杯なその速さが、お前にとっては全力でなかったと言うのか」

 

「逆に聞くが、いつから俺が全力を出していたと?」

 

 久し振りの全力戦闘、七年に及ぶブランクと急な戦いでアルフィアは既に肩で息をしているのに対し、ベジットは汗一つ流してはいない。

 

 如何にアルフィアが過去に【才禍の怪物】と恐れられようと、明確な“差”が二人の間にあった。

 

「───やはり、手の内を全て晒さないと、一矢報いる事すら出来んか」

 

「ほう? 奥の手があると?」

 

「あぁ、尤も今回が初めてのお披露目だがな」

 

 自分にはまだ切り札がある。そう口にすると明らかにベジットの目の色が変わる。

 

(やはりコイツ、戦いを楽しむタイプか)

 

 それは自身を圧倒的強者であると疑わない故か。ならば、其処に唯一の勝ち筋がある。

 

 両腕をだらんと落とし、手にしていた剣すら手放し地に落とす。過剰な迄の脱力、何をするんだとベジットの眉がつり上がった時。

 

 アルフィアの体の中に二つの力が蠢き出す。

 

「っ、コイツは……」

 

 それは、ここ最近になって漸くリヴェリアが見出だしたとされる【気と魔力の合一】。裏でフレイヤ・ファミリアのヘディンと時折情報交換し、切磋琢磨しながら遂に掴んだベジットをして未知の領域とされる局地。

 

 気と魔力、相反されるとした二つのエネルギーがアルフィアの中で反発せず融け合っていく。

 

 単独で、独自で、独学で、完全なる手探り状態で其処まで辿り着いたアルフィアにベジットは惜しみ無く称賛を贈った。

 

「やるじゃねぇか。伊達に【才禍の怪物】なんて呼ばれてねぇな」

 

 二つのエネルギーが一つとなり、アルフィアの全身を覆っていく。膨れ上がった力の波動を前にベジットはパチパチと拍手を送る。

 

「───行くぞ」

 

「来な」

 

 剣を片手にチョイチョイと手招きをする。相変わらず舐めた奴だと、アルフィアも笑みを浮かべて───突撃。

 

 離れていた間合いを一瞬でゼロにする。振り抜かれる貫手を、ベジットは笑って受け流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白き宮殿の空を二つの閃光が彩っていく。ジグザグに軌道を描き、まっさらな空間(キャンパス)に音の爆撃が抉られていく。

 

 ベジットの舞空術を見て覚え、自身のモノに昇華せしめた【静寂】は正に【才禍の怪物】の名に相応しい。

 

 反発し合う魔力と気を合一させ、更なる力を会得した彼女は、オラリオのあらゆる冒険者とは一線を画す存在と成り上がって見せた。

 

 紛れもなく最強。

 

 しかし。

 

(これだけやっても、届かないか!)

 

 病が治り、人並み以上の体力を手に入れたアルフィアの攻撃。繰り出される拳はモンスターの外皮を容易く貫き、放たれる魔法はベジットの先を読んでいる。

 

 だが当たらない。どれだけ追い詰めようと、どれ程攻撃を当てても、全て奴の手によって弾かれて逸らされてしまう。

 

 挙げ句の果てには……。

 

 “パンッ”

 

「ッ!?!?」

 

「何を驚いてんだよ、これだけ見せられたんだ、お前の魔法を相殺するのなんてワケねぇよ」

 

 ベジットが両手を叩いた瞬間、起動する筈だった魔法が霞の様に霧散し掻き消えてしまう。

 

 ベジットは音は波だの、周波数がどうのだと言っていたが、既にアルフィアにはそれを聞き入れる余裕は無かった。

 

 強い。目の前の男は、自分よりも遥かに強い存在だった。それも、七年前のあの時点で己を軽く捻り潰せた筈。そうしなかったのは、単にベジットが知らなかっただけ。

 

(そんなに強い癖に、こんなにも強いのに、何故お前は────)

 

 其処まで考えて、口から出ないように強く歯を噛み締める。認めたくない、認めてしまえば今日まで自身が抑え込んでいた感情が溢れ出てしまいそうだから。

 

 だから。

 

「【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪】」

 

「!」

 

(これで、終わりにしよう)

 

「【(みそぎ)はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】」

 

 飛行しながらの戦闘をこなしながら、それでも止まらない並行詠唱。魔導師ならぬベジットも想像する事しか出来ない荒業を当然の様にこなすアルフィアに眼を剥く。

 

「【神々の喇叭(らっぱ)、精霊の竪琴(たてごと)、光の旋律、すなわち罪禍の烙印】」

 

 全身に合一させた気と魔力を纏い、唯でさえ制御困難な状態に身を置きながら高速戦闘。

 

 更にダメ押しの並行詠唱まで実行する。器用だなとベジットが感心する一方、アルフィアの体力は刻一刻と削られつつあった。

 

「【箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ砕け散れ。私は貴様(おまえ)を憎んでいる!】」

 

 紡がれる旋律、アルフィアが唄を口ずさむ度に周囲の大気が揺らいでいく。

 

 だが、その一方で。

 

(なんか………悲しい唄だな)

 

 アルフィアの声は透き通っていて、いっそ聞き入れる程美しいのに紡がれる唄は何処までも自罰的で自傷的であった。

 

「【代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す】」

 

 鐘が鳴る。大気を震わし、白き宮殿を揺さぶる程の鐘の音がたった一人の人間を倒す為だけに向けられる。

 

「────ったく、仕方ねぇな」

 

 ベジットも腹を括った。自分を倒す為だけに自身の限界を超えようとしているアルフィアを、ベジットは避けるのを止めて向き直る。

 

 そんなベジットの思惑も理解した上で。

 

「【哭け、聖鐘楼】」

 

 鼻先まで縮まった距離、正面から見据えてくるベジットにアルフィアは自身の最大にして最強の一撃を叩き込む。

 

「ジェノス・アンジェラス」

 

 文字通り、自身の全てを出し切るつもりで放たれた魔力は光となって弾けていく。

 

 嘗て海の覇者(リヴァイアサン)を屠ったとされるアルフィアの一撃は、白き宮殿の全てを呑み込み。

 

 深層の37階層は跡形もなく吹き飛んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────っ、はぁ」

 

 全てを吹き飛ばした。【玉座の間】も、外に蔓延るモンスターも、隔てる外壁も何もかもを形一つ残さず破壊の限りを尽くした。

 

 オラリオ全土に及ぶ白き宮殿の全てを余すこと無く、逃げる余地無く蹂躙した。

 

 その代償でアルフィアの身体は満身創痍。文字通り、全てを出し切った。

 

「────それでも、病に犯されている頃よりは遥かにマシか」

 

 これが健康体の肉体か。全力を出したことで改めて思い知る自身の力。

 

 だからこそ考えてしまう。この力が、あの時の自分に備わっていれば────。

 

「よぉ、満足したかよ」

 

「っ!」

 

 聞こえてきた奴の声、何処か納得した様子で振り返ると……。

 

「ったく、人の一張羅をボロボロにしやがって。うわ、剣まで!? これ高かったんだぞ!?」

 

 服装こそボロボロになれど、その身にダメージは愚か掠り傷すらなく、埃はついても一切翳りのないベジットが其処にいた。

 

 自身の全てを出し切った上でこの結果。最早、乾いた笑みしか出なかった。

 

「─────強いな、お前は」

 

「当然だ。俺は天下無敵のベジット様だぞ」

 

「あぁ、そうだな。認めるよ、お前は私が出会ってきたどの冒険者よりも───強い」

 

 ゼウスの“マキシム”もヘラの“女帝”も、目の前のベジットと比較すれば霞んでしまう。霞んで………しまう。

 

 ヨロヨロと、覚束ない足取りでベジットに歩み寄る。敵意も、戦う前から感じていた怒りも今の彼女からは感じられず、無防備のままベジットは近付いてくるアルフィアに佇んでいる。

 

「お前は強いよ。私程度では足下にも及ばん。本当に、笑える程にな」

 

 ハハハと、彼女らしからぬ乾いた笑み。その笑みに隠された真意を何となく理解してしまったベジットは、そのまま自身の胸元へ前のめりに凭れるアルフィアを受け止める。

 

「そんなに強いのに、どうしてお前は来てくれなかった?

 

「─────」

 

 顔を上げ、翠と灰のオッドアイからこぼれ落ちる涙にベジットは何も言い返す言葉が無かった。

 

「それだけ、それだけ強ければ、お前は……みんなを、みんなが……」

 

 死ぬことは無かった。マキシムも、女帝も、黒竜やその眷族に貪られ、食い散らかされる事はなかった。

 

 仲間が死んだ。友が死んだ。宿敵が死んだ。あの日、黒竜に敗北した自分達は何もかもを失い、何もかもが蹴散らされた。

 

 言ってはいけないことなのは分かっている。思っても、そんな未来を望んだ所で今が変わる訳じゃない。

 

 分かっている。自分のコレ(・・)はただの幻想で、ただの八つ当たりに過ぎないと。

 

 だから、吹き飛ばしたかった。自分の妄執は単なる妄想に過ぎないと、目の前の男を倒すことでそれを証明したかった。

 

 でも……。

 

「何で、7年前なんだ。どうして15年前じゃないんだ!!」

 

 それでも、そんなもしも(If)を考えずにはいられなかった。

 

 あの日、自分達が三大冒険者依頼(クエスト)を受けた時、或いはその前日に。

 

 もしくは自分が冒険者になった時、その時に目の前の男がいてくれたら。

 

「お前なら、お前なら………メーテリアを、妹を………救えた、筈なのに……!」

 

 感情が溢れ出す。嗚咽が零れ、大粒の涙が流れる。

 

 トントンと、握り締めた拳でベジットの胸を叩く、軽く、吹けば飛ぶようなそれは、アルフィアが繰り出すどの魔法や攻撃よりも重くのし掛かってくる。

 

「メーテリア、私は……私は………」

 

 崩れた白き宮殿に響く泣き声。大粒の涙を流し、すがり付いてくる彼女を、ベジットはただ受け入れる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 





Q.異端児達、密漁されてないの?

A.ちょくちょく様子を見に来ているベジット達がいるため、何とか今日まで無事に生存出来てます。

ただ、未だに某ファミリアは狙い続けている模様。

PS.この日よりフェルズ&ロイマンの胃が死にます。
  ウラノス様もストレスで何度も死にかけます。

 ヤッタネ!


Q.アルフィアの目的は?

A.ベジットをぶちのめして、自身が抱く妄想を否定したかった。そんな事は起こり得ないと、たとえあの時代にベジットがいたとしても、運命は変えられないと。

 因みに、一番誰も彼もが救われるルートは15年前スタートである。

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