ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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これまで、君の盾に俺達は何度も救われて危機を乗り越えてきた。
辛い旅路だった。悲しい別れもあった。
それと同じくらい楽しい旅だったし、愉快な出会いもあった。
この旅の最後にどんな現実が立ち塞がってもきっと俺達は乗り越えていける。

これ迄築いてきた絆が、その証明だから。

ありがとうマシュ、君との紡いだ絆でリリスの宝具レベルが3に上がったよ。

これからも宜しくね!

そんな訳で初投稿です。


物語68

 

 

 

 ──────翌日、ヘスティア・ファミリアの朝の食卓は、いつも通り静かなモノだった。

 

 新たに迎えた三人の眷族、その内の一人である元ゼウス・ファミリアの【暴食】のザルド。彼の作る料理は絶品で、グルメを自称するベジットの舌を唸らせる程であり、入団して一週間足らずですっかりヘスティア・ファミリアの料理長の座に君臨する運びとなった。

 

「いやー、本当に美味しいねザルド君の料理は。僕もオラリオに来てそこそこいるけど、君の腕前は群を抜いてるよ!」

 

「ハハハ、そう言ってくれると腕を振るった甲斐があったと言うものだ」

 

「そうなんですよ! 叔父さんの料理はどれも美味しくって! 僕も何回かお手伝いをしてるんですけど、あまり上手く出来なくて」

 

「確かに、ザルド様の作られる料理はどれも味付けが繊細でその上で飽きが来ないよう工夫されてますね。やはり長く冒険者をしているとそういう技巧(スキル)も身に付くのでしょうか? ね、ベート様」

 

「さーな」

 

 そんな凄腕のザルドの手腕を以てしても、ヘスティア・ファミリアの食卓の空気を和ませる事は出来なかった。

 

 折角の食堂に満ちる気まずさ。ベートはいつもの事だとして、リリルカは何時もと違う空気を纏う人物に眼を向ける。

 

 ベジットだ。普段はこう言う団欒の時は積極的に団員達とのコミュニケーションを図ろうとする。

 

 たとえベートにウザがられても時にはダル絡みをするのがベジットという団長………なのだが、そのベジットの様子がおかしい。

 

 別に不機嫌という訳ではない。ただ、何かを怯えている彼の様子にヘスティアもリリルカも顔を見合わせて首を傾げている。

 

「済まない。寝過ごした」

 

「!」

 

 ビクリッ、肩を震わせてトースターを噛りついたまま固まるベジット、恐る恐る声のする方へ振り向けば私服姿のアルフィアが食堂へ現れた。

 

「ザルド、私の分はあるか?」

 

「今ちょうど焼き上がった所だ。コーヒーは?」

 

「戴こう。ベル、隣失礼するぞ」

 

「あ、うん。どうぞ」

 

 いつも通り、淡々とした様子で変わりなく席に座るアルフィアにベジットも安堵した様子で小さく溜め息を溢し、落ち着きを取り戻しトーストを頬張っていく。

 

 益々分からない団長の態度に不思議がるヘスティア達、差し出される朝食を前にアルフィアはふと何かを思い出した様に口を開く。

 

「そうだヘスティア、後で私のステイタスを更新してくれないか? 昨日、久し振りに大物とやり合ってな。確認しておきたいんだ」

 

「え、お義母さんダンジョンに行ったの!?」

 

 ダラダラと汗が滴る。

 

「ああ、私もファミリアに貢献する必要があるからな。ブランク明けのリハビリという奴だ」

 

「ど、どんなモンスターだったの?」

 

「あぁ、それは………」

 

 ボタボタと傾けたコーヒーが滴り落ちる。

 

「出鱈目に頑丈な奴だったよ。お陰で仕留める事が出来ず逃がしてしまった」

 

「お、お義母さんでも倒せないモンスターなの!? や、やっぱりダンジョンは凄いんだ……」

 

 別に暑くないのに何故だろう、汗が止まらないや。心なしかヘスティアやリリルカからの視線(ジト目)に痛みを感じ始めた頃。

 

「そ、そうだベル君! 今日は俺が君に同行するとしようか!」

 

「え!? だ、団長自らですか!?」

 

「あぁ、やはり派閥を率いる身として団員一人一人ちゃんとアドバイスしないとネ! その後はダンジョンアタックと洒落こもうじゃないか!」

 

「遂に僕もダンジョンに……! はい! 宜しくお願いします!!」

 

「よし、それじゃあベル君! 準備が出来次第、大通り(メインストリート)にある噴水広場に集合だ!」

 

「はい!」

 

 ベル少年のやる気に付け込むようで罪悪感が半端ないが、お陰でこの空気から抜け出すことに成功した。食べ終えた食器を片付け、共に食堂を後にする。

 

 後ろからの複数の視線に逃げるように退散していくベジット、そんな彼をアルフィアは鼻で笑い、ザルドは呆れの溜め息を溢すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────クソ、アルフィアの奴絶対根に持ってるだろ」

 

 待ち合わせの噴水広場、ベルに約束を取り付けて食堂から逃げ仰せたベジットは、複雑な面持ちでベルの到着を待っていた。

 

 思い返すのは昨日の出来事。アルフィアに挑まれたあの戦いは結局は彼女が体力の底が尽いた事で決着となった。

 

 健康体となって初めての全力戦闘、病に犯されていた時とは違って潤沢な魔力と気力を存分に使い倒した彼女は、使いこなす技量はあってもそれを極める迄の体力だけはなかった。

 

 仕方なく瞬間移動で本拠地で留守を任せているザルドの気を辿って地上へ帰還、彼女を部屋に送って寝かせた後、ベジットはザルドに改めて話を聞く事にした。

 

 何故、彼女は彼処まで取り乱してしまったのか。何でも嘗てアルフィアには双子の妹がいたらしく、その病の症状は姉よりも重かったらしい。外の空気に触れただけで血を吐き、その生涯はベッドの上の生活が殆どだったと言う。

 

 元々二人も病を治す為に一縷の望みを掛けてオラリオにやって来たようで、神々の力でも治せないのなら、神々でも見通せないダンジョンの未知に懸けようと、アルフィアは病の体に鞭を打って冒険者になった。

 

 アルフィア自身には幸か不幸か冒険者として凄まじい才能があったが、対する妹には微塵も冒険者としての才能はなく、アルフィアは妹の才能も母親の胎の中にいた時に奪ってしまったと嘆いていたらしい。

 

 で、その後は冒険者としてメキメキと実力を付け、十代の半ばにはLv.7に到達したりと最凶で知られるヘラ・ファミリアの眷族の中でも一際異才を放っていたと言う。

 

 そんな彼女も海の覇者(リヴァイアサン)討伐の貢献者となったりしたが、件の黒竜の前に敗走。妹のメーテリアを結局は救えず、病に伏せたまま亡くなったらしい。

 

 ただ、そんな彼女が唯一残したのがベル少年であり、今のアルフィアの生きる意味そのものなんだとか。

 

 いや、そんな状態でよく子供を産めたな!? しかも病も遺伝する事なく健康優良児で産まれるとか、軽く奇跡だろそれ。

 

『俺は陸の王者(ベヒーモス)討伐の際に動けなくなって、結局黒竜戦には参加する事すら出来なかった。そんな俺が言うのもおかしいが………どうか、アイツの思いも汲んでやってくれ、頼む』

 

 話の最後にザルドからあんなに申し訳なさそうに頭を下げられては、無情に突き放すのも憚られる。とは言え、今のベジットにしてやれる事が限られているのもまた事実。

 

「知った事かと突き放しても良いが………あんな泣き顔見ちまったらなぁ」

 

 再び想起するのはアルフィアの最大魔法を受けた直後、精も根も尽き果ててベジットの胸に前のめりに凭れ掛かった時。

 

 鉄面皮なのかってくらい無表情だった彼女にあんな風に泣かれたとあっては………流石に言葉も言い淀んでしまう。僅かに残っていた体力も初めての号泣に持っていかれたみたいだし。

 

 普段から無意識レベルでそう言った感情を抑制してきたのだろう。激しい感情の起伏は体力の消耗も大きい、それがこれ迄の人生の中で抑えていたモノが溢れたとあっては流石のアルフィアも耐えられなかったらしい。

 

 まぁ、仮にもオラリオのトップとして君臨していた【静寂】さんだし、【才禍の怪物】なんて言われてた女傑だからその辺りのメンタルケアは自分で出来るだろう。

 

 実際、今朝の彼女はいつも通り傲慢が服を着て歩いている様な傍若無人ぶりは復活してたみたいだし。

 

「───とは言え、ザルドのおっさんからも頼まれてるからなぁ。もう少しの間気に掛けておいた方がいいかな」

 

 なんて事を考えていると、タイミング良く白髪の少年がやって来た。

 

「すみませんベジットさん! お待たせしました!」

 

 服の上に申し訳程度の胸当て、如何にも新米冒険者ですと言わんばかりのベル少年。眼をキラキラさせながら駆け寄ってくる彼の眼差しに色々と癒されながら、ベジットは先輩冒険者として襟を正す。

 

「よぉベル君、待ってたぜ。ちゃんとダンジョンに入る際の準備はしてきたかい?」

 

「はい! 一応ポーションとナイフ、あとモンスターを倒した際の魔石の準備、全部してきました!」

 

 ヤル気満々のベル少年、手にしているナイフはギルドから支給された安物だが、最低限の装備だけあってちゃんと切れ味は保証されている。

 

 此方で装備やら武器やら最初から用意してやることも出来るが、劣悪な環境や状況で最適な動きも冒険者にとって必要な資質。その辺りを冒険者歴の浅い段階で鍛えるという意味で、最初の内は最低限の装備でダンジョンに挑む流れになっている。

 

 この辺りはファミリアの全員で話し合い、十全なバックアップが出来る今だからこそ。この方針にベル少年からも了承を得ている。

 

「先日の話し合いでもそうだが、ベル君はまずダンジョンの空気というものを最低限の装備で体験してもらいたい。最初からハードな内容だが、頑張って付いてきてくれ」

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

「良い返事だ。そんな君に俺からのプレゼントだ」

 

 過酷な状況に敢えて心許ない装備で身を置く。ダンジョンに於いてこの条件は上級冒険者であっても厳しい内容なのに、若干気圧されてもベル少年の瞳は輝いたままだった。

 

 そんな少年のやる気に満足し、ベジットは一粒の豆を手渡す。

 

「これ、豆……ですか?」

 

「おう。市場に出回っている豆、小さい割に栄養価は高くてな、非常食代わりとしてウチでは幾つか常備させてんだ。腹減った時に食うと、意外と腹持ちするぞ」

 

「な、成る程……有り難く戴きます!」

 

「じゃ、早速ダンジョンに向かうとするか。道中話を聞かせてくれよ。オラリオに来た理由とか、担当職員の話とかさ。俺も冒険者としてのアレコレを教えてやるからよ」

 

「あ、はい! 僕も是非ベジットさんのお話を聞きたいです!」

 

 ………前々から思っていたがこのベル少年、物凄く純朴ではないだろうか? 此方の話を聞き流したりせず、全て自分の糧にしようと努力を怠らない精神性、ギルド職員からのダンジョンに関する講座も積極的に参加して知識を力にしようとするその姿勢は先輩冒険者として嬉しく思う。

 

 なら、先輩らしく自分もその頑張りに応えるとしようか。自分の斜め後ろで付いてくる新入り冒険者にベジットもまた意気込みを新たにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、ベル・クラネルのダンジョンに於ける初動は中々と呼べる程度には洗練されていた。ダンジョンの上層という下層や深層に比べ閉鎖的な空間であるものの、索敵やモンスターを見付けてからの行動に卒がなく、ゴブリンに対してだけ言えば一種の仕事人の様に見えた。

 

「へぇ、結構動けるもんなんだな。初心者の内はモンスターを狩るのに結構抵抗感があるって聞いてたんだか……」

 

「義母がいつかダンジョンに挑み、冒険者になるのなら、モンスター退治は今の内に慣れておけって言われて……八歳の頃からゴブリンを相手にナイフを握ってました」

 

「おぉう、やっぱ中々スパルタなんだな」

 

 他にも10歳の頃にはゴブリンの巣に叩き込まれ、多対一の立ち回りを教えられたりと、純朴そうな外見とは裏腹に結構な苦労を重ねているベル。

 

 だから対ゴブリンは彼処まで綺麗に狩れるのねと、ベジットは感心するのと同時に若干引いていた。

 

「だが、この分だとこの辺りのモンスターは問題なさそうだな。コボルトやフロッグ・シューターも手間なく片付けられたし……」

 

「でも、パープル・モスやダンジョン・リザード相手の立ち回りは不完全ですので、個人的にはその辺りをちゃんと覚えておきたいかなーって。後は………」

 

「“新米殺し”のウォー・シャドウか。だが、最初はダンジョンの空気に慣れる程度でいいだろ。今日のところは軽めにモンスターを狩る程度に留めておけ」

 

「分かりました!」

 

「んで、換金も終えて帰ったら飯食って風呂入って寝る。疲れを確りとったら明日の朝にでも“気”の解放を施すからな」

 

「はい!」

 

 “気”についてはリリルカから話は聞いていたらしく、ある程度使いこなせる様になれば空だって飛べる事を教えるとそれはもう目を輝かせていたのだとか。

 

 多少の疲労くらい笑って受け入れるつもりでいるベル少年、そんな彼のやる気に応えてやる為にもまずは地面に散らばる魔石を回収してやらないと。

 

 ベルにも促し、二人で魔石を拾い集めていると向こうの角から見知った人達が顔を覗かせる。

 

「あれ? ベジットの旦那じゃないか。なにやってんだよこんな上層で」

 

「おぉライラ、それにリオンも一緒か。そっちは遠征帰りか?」

 

「はい。といっても下層付近で素材集めをしてきただけでしたけどね」

 

「セシルちゃんもアストレア・ファミリアに大分馴染んできたみたいじゃないか」

 

「は、はい! お陰さまで、何とかなっています!」

 

「旦那の方は………って、そこの只人(ヒューマン)はもしかして」

 

「あぁ、ついこの間ウチに入団したベル・クラネルだ」

 

「は、初めまして! 僕はベル・クラネルって言います! アストレア・ファミリアの皆さんの活躍は僕の故郷にも届いてます!!」

 

 ベジット達の前に現れたのは、アストレア・ファミリアの【狡鼠(スライル)】と【疾風】。後ろに控えている少女達はここ数年で新たに加入したアストレア・ファミリアの新入りである。

 

 【疾風】であるリュー・リオンはここ数年で団長である【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】、副団長の【大和竜胆】と共にLv.6へ至っており、【狡鼠】のライラもまたLv.5という第一級冒険者の仲間入りを果たしている。

 

 そんな二人が新たにヘスティア・ファミリアの眷族となったベルを見て驚きに目を丸くさせている。

 

「マジか、遂に旦那の所にも新人が入ったのか」

 

「それは……なんとも。おめでとうございますと祝うべきか、御愁傷様ですと黙祷を捧げるか悩むところですね」

 

「ほほーう? リオン君、その根拠を聞いても?」

 

「いやだってベジットさん、貴方の行動はいつも突拍子の無いことばかりするではないですか。過去に【凶狼(ヴァナルガンド)】に行った仕打ちといい、私も加減は下手な部類のエルフだが、それでも貴方よりはマシだと自負している」

 

「おっほ、おほほーう? 言うようになったじゃないの? あのポンコツエルフ君が」

 

「いいや、今となっては貴方にこそポンコツの名は相応しい」

 

ポンッ!? おっほ、おっほ、おほほーい、おほほほーい、何処でそんな冗談を覚えたのかなぁこのポンキッキーエルフは?」

 

 なにやらベジットと金髪エルフが言い合いを始めている。けれど二人の間には剣呑とした雰囲気はなく、気の良い友人同士のじゃれ合いに見えた。

 

(す、凄いやベジットさん、アストレア・ファミリアとも面識があったなんて!)

 

 アストレア・ファミリアの事は村に流れる噂だけでなく、義母であるアルフィアからそれとなく耳にしている。義を重んじ、悪を許さない正義のファミリア。

 

 彼女たちは未だ未熟であれど、その志は大したものであると。

 

「初めまして新人君。アタシはライラ、一応アストレア・ファミリアの眷族をやっている」

 

「は、はい! ライラさんの事も村にいた頃から聞いてます! あの(・・)小人族(パルゥム)らしい知恵と勇気を持って仲間達を勝利に導く知恵者って!」

 

「ウェッ、そんな風に伝わってんのかよ。ヒャー、こっぱずかしい! リリの事言えなくなってきた。………ちょっと待って、あのってなんだあのって?」

 

「え? 小人族の人達は普段は温厚だけど怒らせたりすると物凄く怖い……とか?」

 

「おっふ」

 

 ベルから聞かされる現在知れ渡る小人族の印象、その元凶たる赤目を光らせる後輩を想起するライラは何とも言えずに手で顔を覆う。

 

「あの、こんな事を聞くのは不躾かと思うんですけど……、ヘスティア・ファミリアとアストレア・ファミリアの皆さんって仲が良いのですか?」

 

「んぁ? ………あー、そうだな。なんかウチの主神とヘスティア様って天界でも仲が良い間柄って聞いたな。その辺りの繋がりでもアタシ等も随分と良くしてもらっているよ」

 

「そうなんですね」

 

「そうだな。後は……ベジットの旦那がアタシ達の師って所もある」

 

「────え?」

 

 ベジットが、あのアストレア・ファミリアの師? ライラの言葉の意味を理解し難いベルはどういう事なのだろうと首を傾げる。

 

 そんなベルにライラは笑みを溢して。

 

「すぐに分かるよ。少年、今に君はとんでもないハチャメチャに巻き込まれる事になるってね」

 

 予想、予見の類いではない。確かな確信をもってそう口にするライラに、ベルは困惑気味に固唾を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルフィア君、君は………ベジット君の事憎んでいるのかい?」

 

「いいや」

 

 その頃、アルフィアの頼みを聞いて自室へと招き入れた。美しく艶やかな背中に映し出される竈のエンブレム、そこには自身の眷族の証したる恩恵が刻まれている。

 

 更新されるステイタス。上昇していくアビリティを眺めながらヘスティアは彼女に問う。

 

恨んで(・・・)はいた(・・・)。何故もっと早く来てくれなかったと。15年前、或いはそれよりも数年早く奴がオラリオに来てくれれば、全ての運命は変わっていた筈だと」

 

 我ながら女々しいとアルフィアは思い出して自嘲の笑みを浮かべる。自分だって似たような事を言われた事はある。まだ闇派閥の勢いがあった頃、巻き込まれた市民、冒険者の何故もっと早く助けてくれなかったとすがり付く手を、自分は手酷く振り払ってきた。

 

「そもそも、私にはその資格はない。最強派閥の一人として奉り上げられ、良い気になっていた小娘が現実に打ちのめされただけ、これはそれだけで片付く話なんだ」

 

 事実、過去のアルフィアは煩わしいという理由だけでダンジョンに挑む冒険者をモンスターごと吹き飛ばした事がある。悪名高きヘラ・ファミリアの一員として時には派手に暴れたりもした。

 

 だから、好き勝手生きてきた自分が今さら悔いたりする事は許されない。

 

「それは違うよ」

 

 だと言うのに、この小さな女神はこうも簡単に否定してくれる。

 

「君のその感情は何一つ間違っちゃいない。もしも(If)の話だなんてそれこそ神だって考える時はあるんだ」

 

 過去に憂い、今に虚ろい、そして未来を羨む。死ぬ筈だった運命が覆され、なまじ人並みの幸せを得てしまったが故に抱いてしまった感情。

 

 強欲と嘲笑われるのがオチなこの感情を、この小さな女神は間違いじゃないと肯定する。

 

「だから、君は何度もベジット君を、僕達を恨んでくれて良い。それで君が、君自身が幸せを得られると言うのなら僕達は何度でも受け入れるよ」

 

「………本気で言っているのか?」

 

 ベジットにとって、それはやっかみ以外の何ものでもない筈だ。酷い八つ当たりで、言われる筋合いもないのにワザワザ何でそんな事を口にするのか。

 

「だって、僕達はもう家族(ファミリア)じゃないか。家族の辛い気持ちを分かち合いたいと思うのはそんなに不思議なことかい?」

 

 此方の問いを疑問で返してくる。その気持ちが暖かくて、その言葉が嬉しくて、枯れ果てた筈の涙腺が刺激されてしまう。

 

「それに、これは他でもないベジット君の言葉でもあるんだぜ? “何度でも掛かってこい”ってさ」

 

「………そうか」

 

 これ以上口を開いてしまうと、また無様な自分をさらけ出してしまいそうで、アルフィアはそれ以上口を開くことはなかった。

 

「さぁ、新たな門出だ。君自身の幸せを掴むために、改めて前を向くとしよう」

 

 渡される用紙、そこに刻まれる新たな自分の可能性に目を落として、アルフィアは笑う。

 

「ヘスティア」

 

「ん?」

 

「お前は、傲慢な女神だな。あのヘラよりもずっと傲慢で、傍若無人の化身だ」

 

「えぇっ!? それは流石に言いすぎだよ!」

 

 プリプリ怒る小さな女神、そんな彼女に釣られてつい笑みを浮かべてしまう。

 

 ベル(息子)の事、これからの事、話したい事は沢山あるし、これからもきっともっと増えていく。

 

(そっちに逝く時は、沢山の土産話を持っていくから……だから)

 

(その時まで待っていてくれ────メーテリア)

 

 眼を閉じ、最愛の妹を思い出す。

 

 自身の内にしか存在しない妹、そんな彼女の顔は───飛びきりの笑顔が咲き誇っていた。

 

 

 

 

 

 

 【静寂】のアルフィア、昇格(ランクアップ)

 

 

 





Q.アストレア・ファミリアって現在どのくらいの強さ?

A.ロキ・フレイヤの派閥に次ぐ戦力を保有する一大派閥。
 Lv.6が三人でLv.5が五人以上という質だけで言えば二大派閥にも負けない少数精鋭部隊。

 現在、新たに加入した後輩たちの育成に力を入れている模様。そんな彼女たちも先輩達から気を教わり、必死に力を付けている模様。

Q.ベル君、リューと出会ったのに反応うすくね?

A.いきなり好みの美人に話し掛けるとか難易度高すぎでしょうが!


次回、ベルの可能性。

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