ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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教えてくれ五飛、俺は一体誰をグランド鯖にすれば良いんだ。

愛の重いアテシ系ギャルか、特効の刺さるバサトリアか、それとも私以外要らんやろなモルガン様か。一体俺はどの鯖をグランドにすれば良いんだ。

教えてくれ五飛、ゼロは何も答えてくれない。


そんな訳で初投稿です。




物語69

 

 

 

 地下迷宮(ダンジョン)49階層、“大荒野(モイトラ)”。

 

 迷宮深くの広大な荒野にて怪物と人の雄叫びが響き渡る。

 

「陣形を崩すな! エルフ隊、詠唱始め!」

 

 無尽蔵に連なるモンスターの群れを前に、決して退くことを許さない【勇者(ブレイバー)】は前線で戦う仲間達の士気を崩さない為に最適解の指示を飛ばす。

 

 大量発生した獣蛮族(フォモール)、山羊の頭を持つ人型の獣が一人のエルフの少女に向かって飛び掛かる。

 

「ヒッ!」

 

 人類を一度は絶滅近くまで追い込んだ不倶戴天の敵、“モンスター”。人類種にとっての絶対的悪を前にエルフの少女は身を竦ませる。

 

 ダンジョンに於いて、未知と恐怖に呑まれた冒険者はその者から死んでいく。以前まで在籍していた【学区】でも、今属している【派閥】でも同じことは何度でも言われてきたのに、とエルフは迫るモンスターという自分の“死”を前に涙を浮かべた時。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛ッ!?」

 

 “死”は両断される。袈裟懸けに“魔石()”ごと切り裂かれたモンスターは、断末魔の叫びと共に塵に還る。

 

「ごめんレフィーヤ、大丈夫?」

 

「あ、アイズさんッ!」

 

 迫るモンスターから救ってくれたのは、目映い程の金髪を揺らす少女。自分と大して年齢差の無い少女は世界に名を轟かせる第一級冒険者の一人。

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン。彼女の碧眼の瞳で見つめられたエルフの少女────レフィーヤは自身が死の間際にいた事も忘れ、アイズの強さと美しさに頬を赤くさせていた。

 

「アイズさん、フォロー感謝ッス! ここは自分が抑えますんで、他へ回って下さい!」

 

「分かった」

 

 直後、黒髪の青年がフォモールをその剣で両断しながら現れる。派閥の中でも二軍のまとめ役として重宝されている彼は、先日アイズと同じ第一級冒険者(Lv.5)の仲間入りを果たした人物。

 

 第一級でありながら目立った《スキル》も【魔法】も持たず、ただ愚直に努力を積み上げてきた青年の名はラウル・ノールド。

 

「レフィーヤ、立てるッスか!? もうじきリヴェリアさんの詠唱が完了する頃ッス、退避の用意を!」

 

「は、はい!」

 

 他の救援に回るアイズを見送り、座り込んでいるレフィーヤを立たせると彼女を先に行かせてラウルは此方に突進してくるフォモールに向き直る。

 

「ここから先は行かせないッスよ!」

 

 握り締めた剣に力を込め、薄く発光させていく。微かに振動する剣を腰に構え、迫るモンスターへ横薙ぎに一閃。

 

 周囲のモンスターを巻き込んでの一閃、自身の手応えに満足したラウルは、討ち漏らしが無いことを確認すると全身に白い炎を纏ってその場から飛翔(・・)

 

 次の瞬間、大量のモンスターが蔓延る大荒野は一人の王族のエルフの魔法によって劫火に呑まれ、階層ごと消し炭にされていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、相変わらずエゲツないねリヴェリアの魔法」

 

「本当にね、危うく巻き込まれる所だったわ」

 

「うぅ、裾が焦げちゃいました」

 

 地下迷宮50階層、モンスターによる危険が他よりも低い安全階層(セーフポイント)。そこで今回の遠征に赴いていたロキ・ファミリアは幹部であるアイズ達含め、野営の準備を進めていた。

 

「ごめんねレフィーヤ、私がもう少し早く駆け付けていれば……」

 

「い、いえいえ! アイズさんに非はありません! 私がドン臭いのが悪いんです!」

 

「でも……」

 

(アァァァッ! アイズさんがしょんぼりしてる。何てかわい───じゃなくて、フォローしないと!)

 

「あまり気にしない方が良いわよアイズ。レフィーヤも、リヴェリアの魔法ってあれでもかなり威力を絞った方みたいだから」

 

「あぅ、先を越され……って、えぇっ!? あの威力でですか!? 階層丸ごと焼け焦げていましたよ!?」

 

「ビックリだよねー、さっきもフィン達に巻き込みそうになったって頭を下げて回ってたし、エルフ組は滅茶苦茶恐縮していたっけ」

 

 リヴェリアはロキ・ファミリアの副団長ではあるが、同時にエルフの王族でもある。エルフにとって尊き血筋の存在であるリヴェリアは神々以上に敬うべき対象なのだ。

 

 そんな彼女に申し訳なさそうに頭を下げられては、並みのエルフであれば混乱必死。自分の不手際なのに素直に謝れない環境は何気にリヴェリアにとって辛い事である。

 

「でも、リヴェリアはちゃんと出来たんじゃないの? ホラ、例の【魔力と気の合一】。あれが出来たからLv.7になったって……」

 

「正確には違うみたいだけどね。けど、殻を破った一因ではあったみたいよ」

 

「会得したのはいいけど、今度は火力加減に問題とか割りと贅沢な悩みよね」

 

 ロキ・ファミリアに於いてLv.7の冒険者は現在団長であるフィン・ディムナ、ガレス・ランドロック、そしてリヴェリア・リヨス・アールヴの三名となっている。

 

 そんなリヴェリアがLv.7に至れた大きな理由の一つとして、ここ数年頭を悩ませてきた【魔力と気の合一】の体得とされているが……事実は少し異なる。

 

 最大の理由としてとある只人(ヒューマン)の男が関わっているとされているが、詳しく知る者はいない。

 

「気……かぁ。ベジットさんが教えてくれたコレのお陰で凄い勢いで強くなれてるよね。私達」

 

 ベジット。七年前より主神ヘスティアと共にオラリオに現れ、瞬く間に頭角を現した新進気鋭の人物。

 

 自らを戦闘民族サイヤ人と名乗り、Lv.1の身でありながら数々の偉業と功績を上げた………古くからオラリオに在籍する者達にとって忘れられない人物である。

 

 ────尤も、ここ数年はその反動か比較的大人しめに活動している様で、日々新しい話題の尽きないオラリオの中では少しばかり話題に挙がる事が少なくなっていた。

 

 そんなベジットがもたらしたとされる“気”という新たな力の概念。これを習得し、修めた暁にはその者に目覚ましい成長を促し、【神の恩恵(ファルナ)】と合わさって様々な効果を与えている。

 

 その効果の一つに能力(アビリティ)の成長促進。気を習得した事でその解放に至れた者は常に身体に何らかの負荷を掛けており、そのお陰で“魔力”を除く全ての項目が以前とは比べ物にならない程に成長するようになっている。

 

 位階(レベル)が上がってもその効果に変化は無いというのだから、ロキ・ファミリアの眷族は目の色を変えて気の解放を会得しようと奔走し、努力を積み上げてきた。

 

「アイズって、何か足りないアビリティあったっけ?」

 

「私は耐久を上げたくて……他は“S”なんだけど」

 

「なぁに自慢? 因みに私は大体“SS”よ。魔力? ……ふ、捨てたわ」

 

「うわー潔い。アタシは器用かなぁ。あとちょっとで私も“S”に届きそうなんだけどねー」

 

 その結果。気を習得した者達の間で一つの課題が自然と敷かれる事になる。

 

 それはズバリ、能力値(アビリティ)の限界突破である。気を修め、強くなれる下地を得られた冒険者は折角だから能力値を限界まで極めてから昇格(ランクアップ)を遂げる事にしている。

 

 通常、冒険者が昇格を果たすには求められる能力値の基準を上回る事と神々から偉業と認められる行いを果たす事、この二つが原則的に求められている条件。

 

 気を習得し、強くなれる下地を得て、勇敢な【勇者】の指揮の下でロキ・ファミリアの眷族達は強くなった。昇格する機会を得られた眷族は主神であるロキのとある一言で待ったを掛ける事になった。

 

『こんなに短期間で昇格出来るなら、その分能力値を底上げするようにすれば………色々とお得ちゃうんかな?』

 

 昇格をすれば確かに冒険者は新たな位階へ至り、更なる強さを得られるようになる。

 

 そして、昇格する際にはこれ迄積み上げてきた経験と能力値が換算され、それが新たな眷族の地力となる。

 

 逆を言えば、昇格に敢えて待ったを掛ける事で更なる地力を得られる機会になる。それ以降、ロキ・ファミリアではたとえ昇格を出来るようになっても可能な限り能力値を鍛える方針へと切り替えた。

 

「み、皆さん凄いです。私は魔力以外てんでダメダメなのに……」

 

「言われてるよティオネ」

 

「ほーんレフィーヤ、魔力値がカスなアタシに対して宣戦布告かしら?」

 

「ふぇ!? ちが、違いますよ!?」

 

 ティオネのヘッドロックに捕まり、ウリウリとされるがままのレフィーヤ。そんな二人を尻目にアイズは一人黄昏る。

 

「アイズ、どうしたの?」

 

「うん、ちょっとこの間の事をね……」

 

「あー、リリルカの事?」

 

 それは数日前、まだロキ・ファミリアが深層に差し掛かったばかりの頃。階層主(ウダイオス)に備えてファミリア全員が一丸となって戦いに挑もうとした時だ。

 

 聞こえてきた轟音、まさかと思いアイズが先行して駆け付ければ、其処にはベートに背負われたリリルカがいた。

 

 全ての力を使いきり、ウダイオスを撃破して見せた小さな女の子。その事実にアイズは自分の心の奥底に黒い感情が滲み出てくるのを感じた。

 

「ズルいよねーリリルカってば。一人で先に行っちゃうんだもん、私達に一声くらい掛けても良いと思わない?」

 

 横を見れば、頬を膨らませたティオナが不服そうにブー垂れる。

 

「だから、この遠征で追い付こうよ。そんで、またちゃんと遊びに誘ってさ」

 

「ティオナ………うん、そうだね」

 

 アイズが冒険者になったのは悲願を遂げる為。遥か終末の大陸にて今も封じられている黒竜を倒し、大切な人を取り戻す為。

 

 だから、強くなる。その決意を胸にアイズは自分の手を強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────地上。【竈火の館】にて。

 

「─────と、大雑把に説明すると“気”というのは人間だけでなく草木、空、海とこの世界を構成する多くのモノに含まれているエネルギーという訳だ」

 

「な、成る程!」

 

 中庭にて、新入りのベルはベジットからの“気”という力の具体的な説明を受けていた。

 

 故郷にいた頃から義母であるアルフィアが何度か実践していた力の概念。魔力とは異なる力の結晶、種族や年齢に問わず会得すれば誰もが扱えるという夢のような力、ある程度極めれば空を飛ぶことだって出来る事を目の前で見せられたベルは、目を輝かせて説明を受けていた。

 

「と、具体的な説明はこの辺にして………悪かったなリリ、助かった」

 

「いいえ。それではリリはこれからザルドさんと買い出しに行きますので」

 

「今日は南の方で肉が安く出されているみたいでな、助かるよ」

 

「いえいえ」

 

 舞空術を実際に見せて、“気”の力の応用力を理解させる。協力してくれたリリに礼を言うと、リリは頭を下げてザルドと共に館を後にする。

 

 ……気による隠行を行っている為か、ザルドの存在を周知されている様子はない。ガネーシャ・ファミリアの団長辺りなら気付いてそうだが、案外気付いた上で放置されているのか。

 

 それとも、七年前の襲撃時には目元まで覆った兜を付けていたから、あまり人相までは知られていないのか。

 

(なんて、楽観視は出来ないよねぇ……)

 

 何せ、時々アーディちゃんと顔を合わせるもの。頻繁に、不自然な程に。

 

(そりゃバレるよねぇ。アーディちゃん達姉妹に気の探知を教えたの、俺だもん……)

 

 取り逃した犯罪者を捕まえるべく、相手の気の感知能力を教えたのはベジットである自分に他ならない。

 

 その甲斐あって一度犯罪者を取り逃す事はあっても、感知能力に優れた二人と彼女達に次ぐガネーシャ・ファミリアの眷族が検挙をする為、現在のオラリオは表面上例を見ない程の治安の良さと言われている。

 

 他にも、ダンジョンで異常事態(イレギュラー)に遭遇し、一時行方不明となった中層付近にいる冒険者の救出を行ったりと、街の治安維持以上の活躍を見せたりしている。

 

 探索系の二大派閥がロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアなら、都市の治安維持の二大派閥はガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアというのが、最近のオラリオの常識だったりする。

 

 尚、そんな迷宮探索系派閥も治安維持部隊派閥も揃って頭が上がらないのがデメテル・ファミリアだったりする。いやもう、オラリオという大都市処か世界輸出にまで浸透しているデメテル様マジパネェわ。流石は天下の食卓事情を担う地母神だわ。

 

 たとえ天地や神々に逆らってもあの女神様だけは敵に回しちゃいけねぇわ。直接的な面識はないけど。

 

 閑話休題。

 

(事が起きるとするなら、ロキ・ファミリアが遠征から帰ってきた時だよなぁ。はぁ、憂鬱)

 

 当時の関係者がヘスティア・ファミリアに説明責任を要求しないのは、ロキ・ファミリアが現在ダンジョンへの遠征の最中だからだろう。彼等と自分達は他派閥というにはあまりにも距離感が近かったりする。

 

 殆んど同盟扱いをされてきた身としては嘗てオラリオを襲撃した連中を囲っているのは彼等からすれば背信行為に近しいモノだろう。

 

 ヘスティアやベルを除いた仲間達にもそれとなく伝えてはいるが、正直憂鬱なのがベジットの本音である。

 

 フレイヤ・ファミリア? アイツ等はホラ、良くも悪くも女神至上主義だから。

 

「あの、団長?」

 

「ん? おぉう、悪いなベル。ちょっと考え事をしてた」

 

「それは良いんですけど……その、大丈夫ですか? 何だか団長忙しそうですし、僕は大丈夫なので気の解放については後日後回しにしても……」

 

(うーん、良い子)

 

 心配そうに此方を見てくる深紅(ルベライト)の瞳、白髪の頭髪と合わさって兎を想起させてしまう。

 

 ついつい手を伸ばして頭を撫でてしまうが……まぁ、これくらいの扱いは良いだろ。

 

「バァカ、子供が遠慮すんじゃねぇよ。お前も一端の冒険者を目指すってんなら、強くなることに妥協するな」

 

「で、でも………」

 

「舐めんなよ。お前がこれから師事するのは天下無敵のベジット様だぞ?」

 

 ホレ、早くこっちこいと気安く手招きしてくるベジット。対して相変わらずどこか遠慮がちなベルだが、強くなることを目標にしているのなら、確かに躊躇う場合ではない。

 

 自分が足踏みをしている分だけ、他の人達はドンドン強くなっていく。気の特性と、気という力の強大さを直感で察したベルは、意を決してベジットに言われるがままに側に立つ。

 

「そんじゃ、先ずは深呼吸をしろ。力を抜き、自然体になれ」

 

「はい……」

 

 言われるがままに脱力。目を閉じ、ベジットの大きな手が背中に触れる。それは、まるで【神の恩恵】を刻まれるのに何処と無く似ていた。

 

「そんじゃあ、気を解放させるぞ」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 掌から伝わってくる熱、そこから伝わってくる力がドンドン大きくなるのを感じた────次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────あれ?」

 

 気付けば、ベル・クラネルの視界は見慣れぬ天井で覆われていた。

 

 一体、自分に何が起きたのかと困惑していると、扉の向こうから一人の銀髪の女性がやって来た。

 

 綺麗な女性だった。義母の教育がなかったら、軽くどもってしまいそうな程に、その女性の姿は美しかった。

 

 言葉にするのなら白衣の天使。以前祖父から教わった単語がベルの脳裏に浮かび上がる。

 

「起きましたか」

 

「えっと、ごめんなさい。貴女は? それにここって……病院?」

 

「貴方は貴方の所のクソボケがやらかしたお陰でここへ運び込まれたんですよ。覚えていませんか?」

 

「え、えっと……クソボケ?」

 

 おかしい、天使とは思えない程の罵詈雑言が飛び出してきたぞ? き、気のせいかな?

 

「失礼しました。貴方の……ヘスティア・ファミリアの団長もといクソボケの所為で貴方はここディアンケヒト・ファミリアに担ぎ込まれたのですよ」

 

「でぃ、ディアンケヒト・ファミリア!?」

 

 その名を聞いてベルは震え上がる。其処はオラリオの最大医療派閥。ミアハ・ファミリアが地域密着型の薬局店ならば、ディアンケヒト・ファミリアは最大手の総合病院医科大学。

 

 そこの団長であるアミッド・テアサナーレは謂わばオラリオ医療界隈の首領(ドン)。患者の巡回の際は多くの医師看護師が付いて回り、少しでも彼女の気分を害すればその道の出世が閉ざされるという闇派閥よりも闇深い白き巨塔の実質的支配者!」

 

「成る程、そうあのクソボケから教わったのですね?」

 

「────ハッ!?」

 

 どうやら思わず途中から口に出してしまったらしい。言われて咄嗟に口を両手で覆うベルだが、目の前のアミッドの髪はメラメラと炎の様に燃え上がっている。笑顔の筈なのに全く目が笑っていない、閉じていた筈の瞼からウッスラと垣間見える白と黒の反転した瞳にベルは心底震え上がった。

 

「ベル、無事か?」

 

 その時、扉から男性───件のベジットが部屋へと入ってきた。間が悪いというか何というか、両手を口で抑えてモゴモゴしているベルに不思議に思うが、次に向けられるアミッドからの笑みを見て、諸々悟ったベジットは冷や汗を流しながら用意された椅子に座る。

 

「それでは私はこれで。ベルさん、どうか今日一日は大人しく入院されて下さいね」

 

「は、はい!」

 

「それとベジットさん、貴方には私からお話がありますので、後で逃げずに私の所へ来て下さい」

 

「………ひゃい」

 

 一瞬だけ見せたアミッドの般若の笑み、それを背にして冷や汗を垂れ流すベジットにベルは若くして二人の力関係を何となく理解してしまった。

 

 色々とツッコミ所は多々あるが、今はそれはおいて目下一番知りたい事を切り出す。

 

「それであの……団長、あの後僕に何があったんですか? 何で、僕はディアンケヒト・ファミリアに?」

 

 知りたいのはあの時自身の身に起きた出来事。自身に流れ込んだ力に呼応して、体の底にある蓋が外された様な感覚。

 

 覚えているのはそこまで、あの後何が起きたのか訊ねるベルに、ベジットは難しそうな顔をして頭を掻いた。

 

「あー、まぁ取り敢えず言葉にするのなら、お前が倒れたのは病気とか、気の解放による不具合とかじゃない。命に別状もないし、何なら気の感覚だって今なら何となく分かるんじゃねぇか?」

 

 ちょっと確かめてみな、そう言われて目を閉じて自身の内側へ集中すると、確かに微かだが力の胎動を感じる。

 

 集中すれば、その力の塊を自在に大きくさせる事も出来る気がして………これなら。

 

「其処までだ」

 

「────あ」

 

 気付けば、ベルの手にベジットの手が置かれていた。

 

「あ、あれ? 団長、僕……一体何を?」

 

「全く、才能があるのも考え物だな。流石はアルフィアの息子と言った所か」

 

 呆れ半分、感心半分。ベジットの反応に依然と混乱するベルだが……。

 

「要するに、気の過剰解放(オーバーフロー)って奴だ。過剰な迄の気の解放に、自身の身体が耐えられなかったんだよ」

 

「そ、そんな事があるんですか?」

 

「うんにゃ、俺にも初めての現象だった。普通気ってのは白い炎として現れるんだが、お前の場合“紅い炎”だったからな」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「あぁ、血のように身体まで赤くなっていくもんだからアルフィアの奴珍しく慌ててたぞ。で、自分の“技”に身体が参って、此処に運ばれたってわけ」

 

 あの時は運悪く、ちょうど“仙豆擬き”のストックが切れていた為、ディアンケヒトに運ぶ流れとなってしまった。

 

 実際、気の解放に耐えきれなかったベルの身体は全身から血を噴き出したり、見栄えこそヤバかったものの、その後全身にミアハ特性のポーションを身体全体にぶっかけたり、応急処置を素早く行った為に大事にならずに済んでいる。

 

「さて、そんじゃあベルが無事なのも確認できたし、俺ももう帰るわ。アルフィア達にも報告しなくちゃならんしな」

 

 そういって椅子から立ち上がり病室を後にするベジット……だが、一つの気掛かりのあるベルは待って下さいと声を掛ける。

 

「ベジットさん、さっき貴方は僕のアレを“技”って言いましたよね?」

 

「ん? おー、言ったな」

 

「それ、それって、なんていう技なんですか!?」

 

 今日一番興奮した様子で訊ねてくるベル、目を爛々と輝かせて訊ねてくる彼にベジットもニヤリと笑みを浮かべる。

 

「────気になるか?」

 

 ブンブンっと、分裂する勢いで首を縦に振る白き兎にベジットはカラカラと笑みを浮かべる。

 

 そんなに知りたいなら教えてやると、軽く咳払いをして───。

 

【界王拳】。俺はその技をそう呼んでいる」

 

「─────界王拳」

 

 ブルリ。身震いするベル、そんな彼にもう今日は無理するなと釘を刺して、ベジットは病室を今度こそ後にする。

 

 コツコツと通路を歩くなか、ベジットは一人溢す。

 

「まさか、ベートやリリルカを差し置いて先に界王拳を会得しちまうとはな。分からないもんだなこの世界」

 

 本来なら然るべき相手(界王様)に弟子入りし、然るべき方法で会得するのが筋の技。

 

 確かに界王拳は気の解放の強化版に当たるが、それはあくまで気のコントロールをある程度極めるようになってからの話である。

 

 それを、一時失敗しかけて全身血だらけになったとはいえ、一瞬でも界王拳を出したのは凄まじい才能と言う他ない。

 

 それとも、あれは実際は界王拳に似た別物だったりするのだろうか? いや、あの気の膨れ上がり具合は……。

 

「ともあれ、これからが楽しみだな」

 

 クックッと笑い、受け付け付近にまで脚を運ぶ。

 

 ……そう言えば、何か忘れているような? 其処まで考えて、ふと受け付けの方へ視線を向ければ……。

 

「………………」

 

 腕を組んで此方を見据える、銀髪の聖女(悪魔)様が其処にいた。

 

「………………」

 

 こっちこいや。親指と顎でクイッと此方に来るよう促してくるアミッドに色々と察したベジットは肩を落として彼女のいる倉庫へと脚を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 





Q.現在のオラリオってLv.7そんなにいるの?

A.結構います。ロキ・ファミリアの三巨頭もそうですが、フレイヤ・ファミリアも数人。

ベジットから気を教わった事で習得した全員が一種の劣化版憧憬一途な状態なので、ステイタスの成長具合は結構ヤバイです。

Q.ベル君そんな才能ヤバイの?

A.本作では冒険者としての才能が無い代わり、そっち方面の才能は結構エゲツナイ、という事にしました。
あのアルフィアから鍛えられてるし、なんなら妹のメーテリアも魔力とか冒険者の才能は無かったけど実は………みたいな。

Q.アミッドさん怖くね?

A.対ベジットの最終兵器です。尚、対オッタルの最終兵器も存在します。

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