ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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気温の差がジェットコースターの如しなんじゃが?

そんな訳で初投稿です。


物語7

 

 

 

 薄暗い地下迷宮。本来のダンジョンとは異なり、人の手が加えられた地下空間。そこは、闇派閥(イヴィルス)の実質的な本拠地(ホーム)の役割を担っていた。

 

悪意と敵意と害意、地上のオラリオに対してありとあらゆる負の感情が詰め込められた憎悪の坩堝。その中心にて、今回の黒幕に据えられた黒銀の邪神は嘯いた。

 

「───なんか、予想より少なくね?」

 

 邪神エレボス。原初の幽冥を担い、地下世界の神として知られ、今回の惨劇悲劇を生み出した暗黒の神。

 

“絶対悪”として君臨している筈の邪神は、最初に予想していたものより人的被害の少ない地上の現状に目を丸くさせていた。

 

「あれ? 俺、ちゃんと作戦通りに諸々を配置させたし、お前らも指示通りに動いてたよな? 爆発もちゃんと起動してたし、オラリオ中に火が回るのも確認した………よな?」

 

「あぁ、その筈だ。我々の計画は全て予定どおりに進められた。私も都市が炎に包まれているのを確認しているし、貴方の命令に従い、ある程度殺戮を果たしている」

 

 報告にあったオラリオの被害規模を確認したエレボスは、予想を裏切られた結果に目を丸くさせ、隣に控えていた白髪の男に視線を向ける。

 

男も、自分の仕事は果たしただけあって、困惑気味だ。

 

 しかも、気になる事はそれだけじゃない。オラリオにいる神を複数送還したのは間違いないのに、恩恵を失い、ただの人となった眷族達の死亡報告もそこまで挙がっていない。

 

「ヴィトー、お前なにか知ってる? あれだけ準備したのに、これじゃあ俺達は道化だ」

 

 念入りに念入りを重ねて積み上げてきた今回の作戦、本来ならば今頃オラリオは憤りを超えて絶望し、民衆は錯乱状態に陥る筈だった。

 

不思議に思ったエレボスは自身の唯一の眷族に問う。彼も作戦に参加していた当事者、ただ同時に最初に倒された(・・・・)幹部の一人。

 

 投げ掛ける言葉には叱責や他の意図はなく、純粋な疑問。不思議に思い首を傾げるエレボスに対し、ヴィトーと呼ばれる細目の男は頭を抱えた。

 

「………申し訳ありませんエレボス様、我が神よ。恥を晒す様で実にお恥ずかしいのですが、私には何が起きたのかさえ分かりませんでした」

 

「………お前が? 手も足も出ずに?」

 

「………はい」

 

 ヴィトーは苦虫を噛み潰したような苦々しい表情を浮かべるが、エレボスはそんな彼を無様とは思わなかった。彼はLv.4、オラリオで言えば上級冒険者に分類され、その純粋な実力は第一級冒険者に片足を突っ込んでいる。

 

そんな自慢の眷族が誰に、何に、どうやってやられたのか、認知すら出来なかったという。ヴィトーの言うことに嘘はなく、それが分かるエレボスはフムと顎に指を添えて考えた。

 

「お前程の男が気付けなかったというと、女神の戦車(ヴァナ・フレイア)辺りか? フレイヤの所の眷族の………何でも、都市最速の眷族だとか」

 

「確かに、奴であれば可能性は無くもないが……」

 

 女神の戦車(ヴァナ・フレイア)。ゼウスとヘラの両派閥がオラリオから追放されてから、繰り上げる形で座した最強派閥、フレイヤ・ファミリアの副団長。

 

特筆するべきはその俊敏性(スピード)、戦車の名がある通り、立ち塞がる全てを粉砕する激烈さはオラリオの中でも随一と知られている。

 

「だが、それだと避難民の無事や火の急激な鎮火の説明が付かない。聞いた限りでは、他人を助けるよりも敵を倒す事を注視する性質(たち)だろ?」

 

「然り。それに仮にそうだとしても、奴に其処までの力は無いと思われる。少なくとも、第一級冒険者が他にも複数人いなければ………」

 

「と言っても他に誰かいるか? 一通りの第一級冒険者の足止めは他の連中もやってたみたいだし」

 

 闇派閥には、エレボスだけでなく他にも悪徳を是とする邪神達が複数存在し、今回の抗争勃発の時もその力を存分に発揮してくれた。

 

不正を司るアパテー・ファミリア。

 

不止を司るアレクト・ファミリア。

 

 どちらもオラリオで恐れられる闇派閥の一角で、昨夜の奇襲の時も大いに暴れたファミリア、オラリオの第一級冒険者の足止めに貢献した派閥でもある。

 

彼等も自分達が如何に暴れたかを自慢気に語っていたことから、仕事をサボっていたとは考えにくい。ならば一体誰がとエレボスが思考を巡らせていると……。

 

「───違ぇ。それをやったのは、女神の戦車(ヴァナ・フレイア)………あのクソ猫なんかじゃねぇ」

 

「ヴァレッタさん、気が付かれましたか」

 

「おはよーヴァレッタ。それで? 女神の戦車じゃないなら、他に誰かいるのか?」

 

 暗闇の奥から現れたのは、全身に包帯を巻いた殺帝のヴァレッタ。先の爆発に巻き込まれ、全身に火傷を負った彼女は、それでも恐るべき執念で以てあの場から離脱し、此処まで這いずってきた。

 

今の今まで手当てに勤しみ、一時の休息をしていたヴァレッタだが、エレボス達のあの話を聞いて、構成員の肩を借りながら彼等の前に歩みでた。

 

「────そいつの名は、ベジット。ふざけた力を持った出鱈目なクソ人間(ヒューマン)だ」

 

「ベジット? 聞かない名だ」

 

「おい殺帝、その話本当なのか? 貴様の勘違いでは………」

 

「勘違いで、こんな傷が付くかよ!」

 

 ベジットという名を聞いても、今一つピンと来ない。いきなり知らない名前を出しても、今一つ理解できていないエレボスは疑問に思うばかりで、白髪の男は勘違いなのではと勘繰る始末。

 

そんな男どもの態度に激昂したヴァレッタは、胸元に巻かれた包帯を乱雑に破り、その傷を見せた。

 

 ヴァレッタの腹部にクッキリと残った足裏の痕。青黒く変色し、未だ其処から血が滲んできてより痛々しさが増している。

 

Lv.5のヴァレッタが付けられた傷痕、その痛々しさを目の当たりにしたエレボスは感心したように目を見張る。

 

「マジか。仮にもLv.5のお前が其処までのダメージを? 何者なんだ、そのベジットやらは」

 

「知らねぇよ。………あの野郎、アタシを虚仮にしやがって。次に逢ったら殺してやる!」

 

 自身に消えぬ傷を与え、何処までも此方を見下した眼を向けてくるベジットにヴァレッタは酷く憤慨していた。

 

さて、今回の下手人の名前が分かったのは良いが、この荒くれ者をどうやって宥めよう。今すぐにでも暴れそうなヴァレッタを見て、エレボスが少しだけ頭を悩ませていた時。

 

「止めておけ、貴様では奴には勝てん」

 

 別の暗闇から、男が現れた。

 

「ザルド。その口振りだと知っていたのか? ベジットとかいう冒険者の事を」

 

「名は今知ったがな。だが、どういう奴かは想像が付く。黒目に逆立った黒髪、あと男の癖にイヤリングなんてものも付けていたな」

 

 そうなの? と、エレボスがヴァレッタを見れば、忌々しそうに頷いた。

 

「それで、そのベジット君は何者なのかな?」

 

「本人が言うには昨日街に来たばかりの新参者、だそうだ。その割には俺の剣を受け止めたりしているがな」

 

「なんだと!?」

 

「バカな!?」

 

 小さな笑みを浮かべてそんな事を口にするザルドに、ヴィトーも、白髪の男も驚愕に眼を見開いた。

 

唯一、暗黒の神だけは愉しそうな笑みを浮かべて。

 

「────へぇ、マジで期待のルーキーじゃん。それで? お前がそのベジット君の相手をするのか?」

 

「機会があればな。殺帝、ああは言ったが今の俺は他人の獲物を横取りするつもりはない。お前が喰らうつもりなら、俺から奴に手を出さない事は約束しよう」

 

「………そうかい、そりゃどーも!」

 

 【暴食】のザルド、嘗ては最強の眷族(ゼウス・ファミリア)の一人で、その力には誰もが恐れた。

 

本人は撫でるつもりで振るった一撃も、上級冒険者は愚か第一級冒険者ですらも薙ぎ倒す。ヴァレッタもヴィトーも、そして白髪の男もその枠に収まるだろう。

 

故に、加減した自分の剣にも耐えられないお前では、何があっても敵わない。そう、言外に突き付けられたヴァレッタは、その顔を憎悪で歪め、その場から去っていく。

 

「しっかし、そんな奴がまだ在野にいたとはねぇ」

 

「オシリス・ファミリアの例もある。案外、俺達が知らない所でいるにはいるかもしれんぞ」

 

「お前、なんか嬉しそうだね」

 

「さてな。誰であれ、食い出がある奴は嫌いじゃない。殺帝の手に負えなかったその時は、俺が改めて食らうとしよう。ま、その時はアルフィアも誘うがな」

 

「え? そんなに強いのソイツ」

 

 さてなと吐き捨て、ザルドは近くの構成員を呼びつけ何かを受け取っていく。

 

 一見すれば薬の様なソレを受け取ると、ザルドもまたその場を後にする。残されたのは唯一の眷族であるヴィトーと白髪の男、ザルドの話を聞いて愕然としている二人を余所に、邪神は考えた。

 

(ベジット君ねぇ、機会があれば俺も会ってみたいな)

 

 ザルドから名前を覚えられ、ヴァレッタからも殺意を向けられている今は名前だけの君。

 

一体その力を以て、彼は何を成し遂げるのか。未知を求める邪神の関心は、とある正義の卵と同様に向けられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ヘファイストス本拠地(ホーム)。バベル中央広場にて、無事に合流を果たしたヘスティアとベジット。民間人の無事も確認したし、一先ず落ち着ける場所に行こうと思った二人は、取り敢えず顔見知りのヘファイストスの下へ足を運んだ。

 

当初は、こんな事態にも関わらず相変わらずな二人にヘファイストスは呆れたが、一先ず無事であることを知って安堵している。その後、ダメ元で少しの間休ませて欲しいと、ヘスティアは我ながら厚かましく思いながら懇願した所、なんと二つ返事で了承してくれた。

 

 空いていた一室を用意して貰い、ヘスティアはベッドで、ベジットはソファーで横になり、あの惨劇から少しばかりの休みを得られる事になった。

 

そして、あれから数時間。一通り回復したヘスティアを連れてベジットは眷族の一人に案内され、再びヘファイストスの待つ応接間へと足を運んだ。

 

「いらっしゃい。どう、少しは休めたかしら?」

 

「うん。ありがとうヘファイストス。何から何まで世話になっちゃって」

 

「別に良いわよ。私が用意していた宿も、昨夜の騒ぎで全焼したって聞いたし、来たばかりのあんた達を放り投げるのも寝覚めが悪いしね」

 

「ヘファイストス様、その……本当にありがとうございます」

 

「だから、お礼は良いって。それよりも、貴方にはコレ………」

 

 一宿一飯処か、二日目も世話になってしまう始末。何も返せず、ただ世話ばかり掛けてしまうヘファイストスに流石のベジットも及び腰だった。

 

そんな神友の謙虚な態度に笑みを浮かべると、ヘファイストスは自身の机の上に一つの袋を取り出し、ベジットへ手渡す。

 

「ヘファイストス様、これは?」

 

「開けてごらんなさい」

 

 何かと不思議に思いながら袋の口を開け、中のものを取り出すと、其処には山吹色のインナーと紺色の胴着上下一式が入っていて。

 

「それと、これも」

 

さらに奥から取り出してきた白いグローブと先端が独特なシューズ、それらをベジットに差し出すように手渡してきた。

 

「貴方の服、随分ボロボロでしょう? 丁寧に扱われているみたいだけど、流石にもう限界よ。折角オラリオに来たのだから、これを期に一新しときなさい」

 

「そんな、こんなの受け取れませんってヘファイストス様。唯でさえ大きな恩があるのに……」

 

 

「もう、既にこの街は貴方には大きな借りがあるのよ? 服の一つや二つ、素直に受け取りなさいな」

 

 ヘファイストスからの贈り物を丁重にお断りしようとするが、そんな低姿勢のベジットにヘファイストスは呆れながらも笑みを浮かべる。

 

「“オラリオの奇跡”」

 

「へ?」

 

「ヘファイストス、なんだいそれ?」

 

「今、オラリオで少しずつ広まっている噂の事よ。昨夜の闇派閥による大規模な爆発テロ、それによる火災と複数の神々の送還。本来なら大多数の被害と死傷者が出た筈なのにその数は極めて少なく、被害は予想よりも圧倒的に下回っていた」

 

 “オラリオの奇跡”。ベジット達が一休みしていた間に広まり始めた噂、オラリオの歴史上類をみない邪神による災害に対し、その被害が少なかった事から広まったモノ。

 

火の手に巻き込まれた筈なのに、気付けば中央広場に佇んでいた。神の恩恵を授かってもいない民間人の身に起きた奇妙な体験、それが数百人もの規模で起きている事から名付いた摩訶不思議な奇跡。

 

「その奇跡が起きる際に、白い星がオラリオを照らしたと聞いているけど………アレ、貴方の事でしょ?」

 

「え、えーっと………」

 

「あなたが自身の力を隠したいというのならそれで良いし、私もとやかく言ったりしないわ。でもね、そんなあなたが起こした奇跡は計り知れない。だから、そんな貴方に多少の報酬があっても良いと、私が判断したの」

 

「ヘファイストス様………」

 

「受け取りなさい。少なくとも、貴方にはそれだけの資格と義務があるわ………それに」

 

「?」

 

「いつまでも上半身裸じゃ、格好付かないでしょ?」

 

 そう言って微笑むヘファイストスにベジットは込み上げてくるものを感じた。この世界に来て泣きそうになるのは今回で二度目(・・・)、隣のヘスティアも頷いて微笑むのを見て。

 

「ウス、ありがたく頂戴します」

 

 深々と頭を下げて受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、お待たせしました」

 

「うわー! 良く似合っているよベジット君!」

 

 それから少しの時間を借りて、渡された衣服を受け取ったベジットは、ヘファイストスの好意を受け取り、近くの空き部屋で着替えた。

 

戻ってきたベジットの格好、色合い自体は以前と同じだが、余程素材が良いのかベジットを今まで以上に()せるモノとなっている。

 

「普通、ああいう目立った色合いは着た人を隠しちゃんうんだけど、貴方が着ると違和感が無いわね。寧ろ、貴方の為だけの色合わせの様な気さえしてくるわ」

 

「だろー! 僕の眷族は着こなしだって最強なんだぜ!」

 

「どんな自慢よ。………それでベジット君、着心地は如何かしら」

 

「最高だぜ、ヘファイストス様」

 

 肌感から質感、履いたシューズや手に嵌めたグローブ、その全てがベジットに自信を与えてくる。ヘスティアから神の恩恵(ファルナ)を刻まれた時とは違う、奇妙な全能感すらあった。

 

「本当なら、部屋で休んで貰う前に用意したかったんだけどね、中々似たような素材を見付けられなかったのよ。ごめんなさいね」

 

「よしてくれヘファイストス様。アンタに頭を下げられたら、いよいよこのオラリオに居られなくなっちまう」

 

「そうだよヘファイストス。それに、それよりもお互いに話したいことがあるんだろ?」

 

 ヘスティアに促されてヘファイストスは頷き、その顔から笑みを消す。

 

「それで、ベジット君。君はあの大火災の時、ゼウス・ファミリアのザルドと遭遇したと言ったわね」

 

「あぁ、小樽さんを救助した時にな。アイツ、俺を見るといきなり斬りかかって来やがったんだ」

 

「小樽?」

 

「………多分、オッタルの事ね」

 

 当時の事を思い出し、腕を組んでプンプンと怒るベジット、そんな彼をよしよしと宥めるヘスティアだが、対するヘファイストスは早速真面目な顔を崩し掛けていた。

 

「なんで嘗ての最強に斬りかかられて無事なのよ。………まぁ良いわ。それで、何か言っていたかしら?」

 

「あぁ、なんか人を獲物扱いしてたな。あと、アルフィアを呼ぶとも。誰、アルフィアって?」

 

「アルフィア。………そう、あの娘も来ているのね」

 

「知っているのかい? ヘファイストス」

 

「アルフィア。ゼウス・ファミリアと双璧となっていたヘラ・ファミリアの元幹部。【静寂】の二つ名を冠し、ザルドと同じ最強の一角として名を馳せた女傑よ」

 

「女傑。はー、ヘラの幹部だけあって相当ヤバそうだね」

 

「………なぁヘスティア、ヘラって女神はそんなにヤバイの?」

 

 ヘラと聞いて冷や汗を流している主神にベジットは恐る恐る訊ねた。ベジットが知る女神ヘラはゼウスの妻として知られており、その性質はとても嫉妬深く、ゼウスの浮気相手の女性を人間・女神問わず恐ろしく悲惨な目に遇わせるという、ゼウス共々厄介極まりない神の一柱だ。

 

「まぁね。ヘラはゼウスに愛憎入り雑じったやっベーくらい執着しててね、一度ゼウスの浮気がバレたら血の雨どころか血の嵐が吹き荒れて天界では前が見えなかったんだよ

 

「ヤベー女神じゃねーか」

 

「それでも、ゼウスの浮気癖は直らなかったけどね」

 

「ヤベー男神じゃねーか」

 

 しみじみとした様子で当時を語るヘスティアとヘファイストス。気の所為かその背中は少し煤けた様に見えた。

 

尤も、ヘスティアは「根は良い子なんだけどねー」と、よく分からないフォローを入れている。

 

「………確かゼウスとヘラのファミリアって、黒竜と戦って敗北。ほぼ壊滅状態となりその後はロキとフレイヤの両派閥によって追放………なんだっけ、それも8年くらい前だろ? それがなんで今更オラリオに?」

 

「うーん、追い出したロキとフレイヤへの復讐、とか?」

 

「いや、それは無いわね」

 

 自分達が弱った所への追撃、そんな事をされてオラリオから追い出された様なモノだから、てっきりそれの報復かと思ったが違ったらしい。

 

神妙な顔付きでそう語るヘファイストスにベジットとヘスティアは顔を見合わせるが、それ以上語ることの無いヘファイストスに一先ず無理矢理納得する事にした。

 

「復讐でないなら、一体なんだ? ────っ!? ま、まさか」

 

「べ、ベジット君? 何か気付いたのかい?」

 

「お、俺が黒竜を倒したこと、もうバレたりして……」

 

 唯一ベジットが思い浮かんだ心当たり、それはやはり黒竜関連だった。

 

シナリオはこうだ。

 

 ゼウスとヘラの二大派閥がオラリオから追放されて早8年。その間にザルドとアルフィアなる眷族は必死に修行をして、遂に黒竜へリベンジを挑む事になった。

 

しかし、そこには黒竜の存在はなく、あるのは戦いの軌跡と黒竜消滅の確証だけ。獲物を横取りにされて激昂したザルドとアルフィアは、世界の中心都市とされるオラリオへ向かい、黒竜という獲物を横取りした自分の存在を探す事になった。

 

「じゃ、じゃあその二人は、ベジット君を探すために!?」

 

「そう考えると、納得してしまう自分がいる……!」

 

 1000年もの長い間、オラリオにて最強の座に君臨していた二大派閥。その中でも歴代眷族の中でも最強とされてきた彼等が、黒竜にやられた程度で諦めるとは思えない。

 

ロキとフレイヤの派閥に大人しく追い出されたのも、外の世界で黒竜での傷を療養する為の口実だと思えば、分からないこともない。

 

 8年という時間の中で傷を癒し、修行に励み、今度こそ黒竜を倒そうと決死の覚悟で挑もうとしたら……その黒竜は死んでいて、なんなら谷ごと消滅していた。

 

彼等からしてみればメンツを潰された処の話ではないだろう。獲物を横取りされ、本来自分達が手にする筈だった栄光すら奪われた。もしも相手がベジータ系だったら、間違いなくそういう思考になる………筈!

 

 横取り(ハイエナ)行為は断罪すべし。前世からネトゲ等でその掟をよく知るベジットだからこそ、事の重大さが理解できた。

 

「ど、どどどどどうする? 今から素材アイテム(黒竜だったモノ)持って頭を下げに行くか? 素直に謝ったら腹パン一発くらいで許して貰えるかな」

 

「お、おおおおおお落ち着くんだベジット君、先ずは落ち着いてタイムマシンを探すんだ!」

 

「アンタこそ落ち着きなさいな」

 

 頭を抑えて震えるベジットと、そんな眷族に触発されて応接間にある机の引き出しを開けて中に入ろうとするヘスティア。明らかに錯乱状態にある二人を、ヘファイストスは深いため息を溢して窘める。

 

「あの子達がその程度で恨みを持つ筈ないでしょう。仮にも彼等は世界最強、獲物を横取りされた事で怒るなら、この街はとっくに火だるまよ」

 

「………蛮族かな?」

 

「で、でも、それじゃあどうしてその二人はオラリオに戻ってきたんだい?」

 

「それは………私にも分からないけど」

 

 流石に黒竜は既に倒されたという情報は知らない筈。知っていたら二人が闇派閥に与する事は絶対に有り得ないし、あとの問題である迷宮攻略を他の冒険者達に任せて、自分達はひっそりと表舞台から姿を消す筈だろう。

 

だが、それ故に狙いが分からない。黒竜に敗れ、今更戦う意味も意義も失った筈の二人が、今更どうして自分達の前に現れるのか。どれだけ推察しても辿り着けない答えにヘファイストスはため息を吐いて首を横に振った。

 

「でも、こんな事をしでかした以上、二人はオラリオの明確な敵となったわ。今更後には引けないし、二人もそれは重々承知している筈よ」

 

「相手の思惑を知るには、戦うしかないってか」

 

「え? ベジット君、その子達と戦うつもりかい?」

 

「まさか」

 

 嘗ての最強派閥の眷族、その二人の狙いが自分に無いというのなら、此方から進んで接触する必要もない。

 

「俺はこの街に来て日の浅い新米だぜ? ルーキーがシャシャリ出た所で、周りの迷惑になるだけだろ? 精々雑用や裏方に徹するさ」

 

「それも今更な気もするけどね」

 

 あくまでも自分は部外者で、進んで目立った事はするつもりはないとベジットは語る。奴等との決着は、因縁のある者同士で付けるべきだ。

 

それでも戦わざるを得ない状況になってしまったら、流石に腹を括るが………。

 

 そんな訳で最強派閥の眷族二人の対応は、結局アドリブ頼りの丸投げとなり、次は今後の二人の活動に付いての話し合いが行われた。

 

「それじゃあ、貴方達のこれからの方針はオラリオの、ひいてはギルドの方針に従うという事で良いのかしら?」

 

「というか、それしかなさそうだしね」

 

「それじゃあ、ヘスティアは私達と一緒に炊き出しの準備をするわよ。極限状態にとって飢えは鬼門、空腹を満たせれば、暴動が起きる可能性も必然的に縮まるわ」

 

「俺はどうします? 外から獣でも狩って来ますか?」

 

「それは最後の手段、貴方にはアレを別の場所に移して欲しいの」

 

 そう言ってヘファイストスが指す指先の先には、今ではもう弩級の特級呪物となった黒竜の素材(布巻き仕立て)が鎮座していた。

 

一晩経ってより一層存在感が際立つそれ、ニコニコと微笑む鍛冶神の指示に、ベジットが抗える筈もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────はぁ、ヘファイストス様、やっぱり怒ってんのかなぁ。でも、衣服の請求はしないって言ってくれたし、俺の考えすぎなんかな」

 

 あれからヘファイストスの本拠地を後にして、ベジットは言われた場所に向かってトボトボと歩いていた。

 

背中に担いでいる黒竜の素材、ヘファイストスから追加の布切れを受け取り、背中に担げるようになった事で、ベジットは亀の甲羅ならぬ黒竜の鱗を背負う形になってしまっている。

 

 まさかここで某武天老師と同じスタイルになるとは。嬉しいというより、ちょっぴり恥ずかしくなった。

 

「教会、教会……と。お、ここがそうか」

 

 人目に付かないよう気配を殺しながら街を彷徨うこと数分、目的の場所に辿り着いたベジットは、人気の無い廃教会へと辿り着いた。

 

「ここがヘファイストス様が言っていた教会ね。確か奥に地下へ続く階段があるんだよな?」

 

 黒竜の素材なんて呪物をいつまでも本拠地に置きたくない。そう言ってヘファイストスは取り敢えずの保管場所にオラリオの僻地とも呼ばれる廃墟が建ち並ぶ土地へ場所を移す事を指示してきた。

 

 其処はギルドからヘファイストス・ファミリアに押し付けられる形で所有する事になった土地で、ヘファイストス自身も持て余したという。事が収まったらその土地をヘスティア達に貸し与えようかという話もあった為、今回ベジットが単身で足を運んだのは下見の意味もあった。

 

「廃墟と言っても、景観は其処まで悪くはないな。この教会も掃除すればまだまだ使えそうだし───ヨッと」

 

 そう言って、担いでいた荷物を一度地面に下ろそうとした時、素材を巻いていた布が一瞬解れた(・・・)

 

「おっと、危ね。またヘファイストス様に怒られる所だった」

 

 素材から途方もない“威”が漏れ掛けた瞬間、ベジットの手が瞬時に解れた布へ手を伸ばし、目にも留まらぬ速さで結び直す。

 

ベジットにはこの素材から放たれる威圧というモノは分からない。ただ、くれぐれも外さないようにヘスティア、ヘファイストスの女神達からキツく言われていた事から、ベジットも黒竜の素材を無闇に外へ出さないことに留意していた。

 

「はぁ、ここが人のいない廃墟で良かった。でないとまた気絶した人達で溢れちまうからな。気を付けないと」

 

 初日に起きた出来事を繰り返していては、いつかギルドへの誤魔化しも利かなくなる。ヘファイストスの厳命を今一度自分に刻み込み、今度こそ教会へ隠そうとした………その時だ。

 

「貴様、そこで何をしている」

 

 《灰》がいた。長い灰色の美しい髪を揺らし、黒のドレスに身を包んだ灰の女。

 

翠と灰の双眼を見開き、大粒の汗を垂れ流しているその女は廃教会の前で立ち、剥き出しの敵意と共にベジットを見据えている。

 

それを見てベジットは思った。やっべ、やっちまったと。

 

そして……。

 

「────っ!!??」

 

「? どうした、急に立ち止まって」

 

「今のは──間違いない!!」

 

「あ、おい待て、急に動くんじゃない!」

 

 

 

 

 

「アイズ!!」

 

 

 

 

 

 ベジットとヘスティアがオラリオに来て二日目。

 

 この日最大の混沌が、もうすぐ其処まできていた。

 

 

 

 

 





Q.アストレア・ファミリアは今どうなってるの?

A.生き残った一部の人から無事に石を投げ付けられてます。予定調和ですね。


次回、ギャグ「よっしゃー!」
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