ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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 グランドバサカの育成後にボックスイベだと!?

 ええい、リンゴが足りんぞ!


そんな訳で初投稿です。



物語70

 

 

 

 それから翌日。ベルがディアンケヒト・ファミリアから無事退院し、本拠地(ホーム)に戻って来れたのはお昼前の時間帯だった。

 

 元々さほど痛みを感じなかったのもあって一晩以上拘束された事に思う所はなきにしもあらずなベルだが、昨日の般若の様な微笑みを浮かべるアミッドを目にすれば是非もなく、ベルはオラリオに来て間もない内に敵に回してはいけない人物を早速一人見付けた事で良しとした。

 

「それにしても、無事で良かったよ。全身から血をブシャーって撒き散らした時は僕も卒倒したもん」

 

「お、お騒がせしてすみません……」

 

「いやいや、君が謝る事じゃないよ。………でも、随分と難儀な技を覚えちゃったね。ベジット君から聞いたけどかなり危険な代物なんだろ?」

 

「あ、はい。その辺もしっかり教わろうかと……」

 

「おー、お帰りベル。腹減ったろ、ザルドが昼飯作ってくれたから、取り敢えず話はそれを食ってからな」

 

 玄関で待ってくれていたヘスティアと共に食堂へ向かう。その途中、合流したベジットを加えてザルド手製の昼飯を味わう事にした。

 

 相変わらず叔父さんの料理は美味しい、ザルドの用意してくれた昼食を食べ終えて食器を片付けると、改めてベルはベジットに昨日の事について訊ねた。

 

「それで、その……ベジットさん。昨日僕に教えてくれた技───その、【界王拳】についてですが」

 

「あぁ、その事に付いてなんだがな。結論から言うとベル。お前の【界王拳】は暫くの間使用禁止な」

 

「えぇッ!?」

 

 折角教われると思っていただけにベジットから突き付けられる決定に席を立って愕然としてしまう。自分だけの技、それも【界王拳】なんて格好いい名前の技を使うなと言われたベルの衝撃はそれは凄まじいモノだった。

 

 そんな反応の良いベルをベジットはカラカラと笑いながら嗜める。

 

「そんな落ち込むなって。何も生涯使うなって言ってる訳じゃねぇよ、ちゃんと順を追って説明するから落ち着いて聞け」

 

「は、はぁ……」

 

 なんだかからかわれた気がする。けれど理由を話してくれるのならと一先ず納得する事にしたベルは、少しだけ頬を膨らませて席に座る。

 

 年相応のベルの態度に微笑みながら、ベジットは【界王拳】使用禁止の理由を順を追って説明し始めた。

 

「先ず前提の理由として、ベルの冒険者としての肉体が出来ていないって事が理由に上げられるな。【界王拳】ってのは使用者に絶大な力をもたらす代わりにそれに見合った代償を支払わせる。それはまぁ………ベル、お前も何となく理解しただろ?」

 

「は、はい。それは何となく……」

 

 【界王拳】はあの主人公が体験したように体得した者に絶大な力を与える代わりにそれに見合った代償を支払わせる諸刃の剣。

 

 発案者の界王をして極めることが出来なかったとされる作中でも指折りの激ムズ技だ。

 

「【界王拳】ってのは習得した奴の戦闘力を爆発的に向上させる。二倍、三倍、四倍と理論上は天井知らずに強くなれるという優れものだ」

 

「っ!」

 

 天井知らずに強くなれる。そのワードを聞いて再びベルの顔が明るくなるが……当然、そんな美味い話がある訳がない。

 

「だが当然、倍率を高めればその分使用者への負担も大きくなり、扱いを間違えれば良くて全身筋肉痛。最悪の場合───“ボンッ”だ」

 

 握り拳から手を開き、分かりやすく状態の変化を伝える。すると、ベジットの言いたいことを理解したベルは分かりやすく顔を青ざめて身体をブルブル振るわせていた。

 

「じゃ、じゃあベル君はもう【界王拳】を使えないのかい?」

 

 ベルの隣に座るヘスティアがベルの頭を撫でながら聞いてくる。無論、そうならない為の案も既に対策案も出ている。

 

「まさか。折角【界王拳】を偶然とはいえ発動させたんだ。そんな稀有な才能を潰す訳にはいかねぇよ」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「とりま、ベルは俺達の誰かが近くにいる時以外の【界王拳】の使用は期間を設けて禁止。その間、徹底的に肉体強化に時間を注ぎ込む」

 

「に、肉体強化……ですか?」

 

 今一つ理解しきれていないベルが首を傾げるが………なに、やることは別に其処まで難しくはない。

 

「先ず、ダンジョンに行ってモンスターを倒しながら冒険者としての経験を積む。アドバイザーの………エイナちゃんだっけ? その娘と話し合って自分に合った階層を攻略していく事」

 

「は、はい!」

 

「で、その後ウチに帰ってきたら、俺達の誰かに【界王拳】の練習に付き合って貰え。身体がボロボロになるまで、徹底的にな」

 

「はい! 分かりまし────え”?

 

「べ、ベジット君? 何かさっきと言ってること違わないかい?」

 

 ベルとヘスティアが固まっているが、構わず話を続ける。

 

「要するに【界王拳】ってのはな、気のコントロールも然ることながら、肉体の強度も必要とされてるのよ。で、冒険者は自分の経験やら受けたダメージ、主に負荷効果によって経験が蓄積され強くなっていく」

 

 色々と云々語ったが、結局はアレだ。リリルカの時と同じパターンだ。

 

 リリルカの変身魔法は使用者に精神力(マインド)の消耗とそれによる“狂化”というデバフに対する耐性も要求されたが、アレも敢えて何度も使用させる事で耐性を身に付けさせた訳だし。

 

「【界王拳】に限らず、“気”ってのは使っているだけで負荷の掛かる技だ。つまり、使えば使う程お前の冒険者としての力は底上げされていくんだよ」

 

 ロキ・ファミリアもフレイヤ・ファミリアも“気”を習得した事で習得していない者と比べて段違いに強くなっている。

 

 尤も、“気”というのは筋肉と一緒で常日頃から鍛えていないと衰える場合もあるから、向上心の無い奴には向かないのだが……。

 

 幸い此処は冒険者の街オラリオ。強くなることに燻る奴はいても、怠ける様な輩は早々いなかった。

 

「ベル、【界王拳】を会得したお前は稀有な才能の持ち主かも知れないが、その分お前は人より地獄を見ることになるかもしれない。が、その分の見返りは必ずあると俺が保証してやる」

 

 不敵に笑うベジットにベルは頼もしく思えた。任せろと、自分と同じLv.1でありながら堂々としている目の前の彼にベルはファミリアの皆が団長と認めている由縁を目の当たりにした気がした。

 

「はい! 僕、頑張ります!」

 

「良い返事だ。扱き甲斐がある。尚、この事についてはベート達も了承済みだ。これからダンジョンから帰ってきた時、遠慮無くファミリアの皆を頼れ」

 

「はい!」

 

 目を燦々に輝かせているベルにベジットも笑みを浮かべる。そんな二人を遠巻きに眺めているベートは目を輝かせているベルを見て舌打ちを打つ。

 

「チッ、あの兎野郎。自分が人権預かり書にサインした事を微塵も理解してねぇぞ」

 

「しかも本拠地(ホーム)で扱きをするって言ってますから、何気にアミッドさん対策もしてますよ」

 

 覗き見している二人、ベジットの語るプランのそこかしこに然り気無く自身の保身に関するモノが含まれている事に若干呆れていた。

 

「そしてダンジョン探索だが、基本的にベルは上層を潜る事になると思う。その際、【界王拳】は一度だけ使用する事を許可する」

 

 ダンジョンは上層こそ下位の冒険者でも探索できる領域だが、それでも地上とは違い何が起きるのか分からない危険地帯だ。

 

 ベートやリリルカ、アルフィアにザルドがいない状態で万が一異常事態(イレギュラー)に遭遇したら一人で切り抜けるのも必要だろう。

 

 【界王拳】は今のベルには不釣り合いすぎる代物。それでも使わねばならない状況に陥った時、迷わずその手札を切る思い切りの良さも必要だ。

 

「【界王拳】程の気の昂りなら、俺なら瞬時に察知できる。時間にして1分、その間お前は自分が生き残る事を考えろ。その後は俺が必ず助けてやる」

 

「はい!」

 

「………何で1分なんでしょうか」

 

「その間に兎野郎のその時の実力を見定めるつもりなんだろ。いけそうだったら続行、無理そうだったら止める。そういう事なんだろ」

 

「───因みに、一度きりと言うのは?」

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】に対する予防線だろ。一度だけなら手元にある“仙豆擬き”でどうにでもなるからな」

 

「本当、アミッド様がつくづく苦手なんですね」

 

 流石副団長、長い間団長のムチャ振りを最前線で味わっているだけにベジットへの理解度が高い。

 

 そして恐らくそんなベートの読みは的中する。そんな確信があった。

 

「さて、アレコレ語ったが先ずはベルの気を正常化させる所から始めようか、その後は軽く運動した後ダンジョンへ潜るぞ」

 

「分かりました! 宜しくお願いします!」

 

 相変わらず元気の良い返事をする。しかしベル・クラネルは知らなかった。

 

ベジットのシゴキ、その意味を本格的に理解するのはそれから約10分程後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────前略、お爺ちゃん。お婆ちゃん。お元気ですか?

 

 僕、ベル・クラネルはヘスティア・ファミリアで今日も元気に地獄を見ています。

 

 先ず、朝起きたらサポーターしてくれるリリルカ先輩と一緒にダンジョンへ潜り、ギルドのアドバイザーであるエイナさんと話し合って許可された階層でひたすらモンスターを狩ってます。

 

 新米殺しと言われているウォーシャドウに最初は苦戦していたけど今は何のその、繰り返されるトライ&エラーで上層のモンスターは殆んど苦戦する事は無くなりました。

 

 でも問題はその後、魔石の換金を終わらせて本拠地(ホーム)へ戻っていた時です。僕の冒険者としての一日は寧ろ此処からスタートになります。

 

 団長───ベジットさんから教わった【界王拳】を使っての修行、普段は通常の気の解放しか許されていないけど、ファミリアの皆さん相手に組手をする時はその制限が解除されます。

 

 ベジットさんの言うとおり、界王拳の力は凄くて一瞬とはいえ僕の底力を何倍も引き出してくれる。でも、今の僕に許されているのは精々1.5倍程度、それでもかなり強化されているのが分かるからやっぱりこの技は凄いのだと思う。

 

 その分反動も凄いけど。ちょっとコントロールをミスったら筋肉がブチ切れるとか、滅茶苦茶痛いです。

 

 で、その界王拳を使っての修行なんだけど……はい、全敗です。界王拳なんて必殺技を引っ提げて内心調子に乗っていた僕の心をファミリアの皆は懇切丁寧にへし折り、砕き、踏み潰していきました。

 

 先ず、アルフィア義母さんには初見で見切られカウンターで沈められ、ザルド叔父さんにはデコピンでノされ、ベートさんには片足で捩じ伏せられました。

 

 リリルカさんは……普段はあんなにも優しそうなのに槍二本で追いかけ回されて、その日はガチ目に泣かされました。ぶっちゃけ振るわれる刃の潰れた槍よりも、赤目で追いかけられるのが怖かったです。

 

 そしてベジットさんなんですが………もうね、心が折れる音ってあんな感じなんですね。初めて知りました。

 

 何で僕の唯一とも呼べる界王拳をあっさり会得してるんですか? 何が「一体いつから、俺に界王拳が出来ないと錯覚していた?」ですか。

 

 もうね、膝から崩れ落ちちゃったよ。幾ら界王拳を知っているとは言え、ああもアッサリ………しかも僕よりも遥かに上手く使いこなしてこっちを殴り飛ばしに来るのだから、もう二重の意味で泣きたくなった。と言うか泣いた。

 

 人目も憚らず号泣した。

 

 あの時は普段厳しい義母さんも何だかんだ厳しい叔父さんも、あのリリルカさんまでもが「うわぁ」とドン引いていたから相当だと思う。

 

 ベートさんに至っては「辛かったら言え」とディアンケヒト・ファミリアの心療内科の紹介状を渡してくれたりとフォローしてくれました。

 

 ………前々から思ってたけど、あの人普段は酷く尖っているけど時々滅茶苦茶優しい時があるよね。

 

 そんなヘスティア・ファミリアの厳しさと優しさに恵まれながら、今日も僕は頑張っています。

 

 追伸。そう言えばこの館って風の精霊さんがいるんですね。黒髪黒目のアリスさん、何でもベジットさんと契約していて、この館とヘスティア様の守護を任されているのだとか。

 

 アリスさんは風の精霊だけあって掃除が得意なだけでなく、そこいらの冒険者なんて目じゃない程に強いらしくて、今はLv.4程度が相手なら問題なく撃退出来るそうです。

 

 そんなアリスさんとの出会いは………はい、やっぱり組手の時でした。そして流れるようにボコボコにされ、こうして無事にベル・クラネルはヘスティア・ファミリアに於いて最弱の眷族の称号を手に入れましたとさ。トホホ。

 

 ────でも、強くなっている。僕はこのファミリアに入団して着実に強くなれている事を自覚できている。

 

 義母さんと叔父さん、皆に鍛えられて僕は一歩ずつ強くなっている。気のコントロールも最初の頃と比べて上手く出来るようになったし、界王拳も最初の時と比べてほんのちょっとだけど長く維持出来るようになった。

 

 苦しく、大変な毎日だけど、この恵まれた環境に僕は感謝している。

 

 いつか、この力で誰かを助け、物語に出てくる英雄の様になりたい。そんな、曖昧な目標と一緒に今日も僕はダンジョンに潜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────しかし、それでもダンジョンというのは何処までも残酷で、無慈悲な所だった。

 

 普段は馴れ親しんだ階層も、その日によって様相は大きく変わる。特に今日は不運な事に、この日は下位の冒険者にとって最悪の一日でもあった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ………なんで、5階層にミノタウロスが」

 

 全身が血に染まり、手にした唯一の武器であるナイフは半ばで折れてしまっている。

 

「他の冒険者達は………みんな、無事に逃げられたのかな」

 

 この日、珍しく誰とも予定が組めず、仕方なく単独でダンジョンを探索する事になったベル。普段お世話になっているファミリアに少しでも貢献しようと欲張ったのがいけなかったのか………この日、二体(・・)のミノタウロスと遭遇する事になった。

 

 逃げ遅れた冒険者を庇い、自分に目を向けさせたのが運の尽きだった。

 

「一体目は何とかなった。二体目はほぼマグレ……はは、駆け出しにしては上々かな」

 

 既に体力は底を尽き、界王拳も許された範疇を超えて二度も使っている。モンスターの攻撃ではなく技の反動でボロボロになったしまったベルは、片足を引き摺りながらダンジョンの壁に寄り掛かる。

 

「仙豆擬き………ポーションも使いきっちゃった。ハハ、これならちゃんと遠慮しないで三粒持ってくるんだった」

 

 皮肉なことに、ミノタウロスと戦った事で“仙豆擬き”というアイテムの凄さを身を以て思い知ったベル、これなら遠慮しないでちゃんと言われた数を持ってくるんだったと、今更ながら後悔する。

 

「────でも、ミノタウロスを二体も倒したんだ。流石に、これ以上は……」

 

 出てこないだろう。通常なら有り得ないモンスターの出現、異常事態を乗り越えたと安堵するベルだが……。

 

 聞こえてくる足音、人ならざる息遣いと唸り声にベルの目は見開く。

 

「─────嘘、だろ?」

 

 もう、ベルに戦える余裕はなかった。二度に渡るミノタウロスとの連戦、アイテムは底を尽き、唯一の武器は自身の身体同様使いモノにならない。

 

 なのに、ダンジョンはそんな弱った冒険者を執拗に狙ってくる。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 三体目(・・・)。牛頭人身の怪物が、その目をギラつかせて見下ろしてくる。

 

 眼前に現れるモンスターに幾らなんでもあんまりだと、この時のベルは絶望よりもあまりの理不尽さに怒りすら抱き始めた。

 

 戦う力なんて残されていない。けど、沸き上がったのが怒りで良かった。絶望に心がへし折れるのではなく、抱いた気持ちが怒りであった為、ベルはまだ戦う意思を持てる。

 

 負けない、負けたくない。そんな気持ちで折れたナイフを握り締めて戦う意思を燃やす────その時だ。

 

 風が、ミノタウロスの身体を横薙ぎに一閃。魔石ごと両断されたモンスターは塵となって消えていく。

 

 少年、ベル・クラネルは目が離せなかった。両断されたミノタウロス───ではなく、怪物を両断した風の少女に。

 

 その少女は黄金(こがね)色に輝いていた。長い髪、あどけない瞳、そのどれもが美しく、綺麗だった。

 

「酷い怪我。あの、大丈夫ですか」

 

 吸い込まれるような彼女の声音、その全てに恋い焦がれ……。

 

「─────あふん」

 

 自身の意識が暗闇に落ちる刹那、ベルは自分が恋に落ちる事を自覚した。

 

 

 

 

 






Q.ベル君、現時点で強くなりすぎじゃない?

A.ヘスティア・ファミリア一同が頑張って育てました。


Q.ベル君、誰との修行が一番しんどかった?

A.「一番怖かったのはリリ先輩でしたけど、一番心に来たのは団長でした」

Q.逆に一番優しかったのは?

A.
「───その、皆さん厳しかったのは代わり無いんですけど、あの………ベートさんが一番親身になってくれたかなって」

「ベートさん。普段は怖いんですけど、団長との組手の後、色々と相談に乗ってくれて、安くないのにディアンケヒト・ファミリアのポーションとか譲ってくれました」

「……ベルが世話になったな。ベート・ローガ、感謝する」

「流石は俺達の副団長だ」

「もうベート・フォローガに改名しろよ」

「リリにもその優しさ出してくださいよ」

「殺すぞテメェ等」

「ウンウン、仲が良いのは良いことだね!」


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