ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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最近暑さが日に日に酷くなっている気がする。
梅雨明けた?

そんな訳で初投稿です。




物語72

 

Lv.1

 

 ベル・クラネル

 

力 :B765

耐久:S950

器用:S985

敏捷:S920

魔力:I0

 

「「「……………」」」

 

 翌日、本拠地の執務室にて。

 

 日課のダンジョン探索から帰ってきたベルのステイタスを更新。明らかになった駆け出しの能力(アビリティ)にベルを除いた一同が言葉を失っていた。

 

「いやぁ、伸びたねぇ……」

 

「えっ、ベル様って冒険者になってまだ一週間とそこらですよね? え? 伸び具合エグくないですか?」

 

「成長期って奴か」

 

「明らかにそんな言葉で片付けられる範疇越えてんだろ」

 

 本来ならば年単位、それも良質な経験とそれに見合った修羅場を潜り抜けなければ到底有り得ない成長具合。

 

 ヘスティアやリリルカが唖然となり、ベジットが感心する一方。明らかに育ち盛りの範囲を越えたベルの成長度合いにベートは静かにツッコミを入れる。

 

「俺も長年冒険者をやっているが、此処までのは初めて見るな」

 

「流石は【静寂】の血族って事か?」

 

「それだけでは片付けられん」

 

 如何にベルがアルフィアと血を分けた家族であっても、このステイタスの伸びは有り得ない。派閥(ファミリア)の中でも随一の冒険者の歴が長いザルドをして、断言している。

 

 有り得ないと。如何に【才禍の怪物】の血族と言えど、たった一週間と数日で此処まで延びるのは不可能である。そう強く語るザルドにじゃあとベジット達は改めてステイタス更新の用紙へ視線を下ろし……。

 

「やっぱ、原因なのは」

 

「この【スキル】だね」

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

懸想(おもい)が続く限り効果持続。

懸想(おもい)の丈により効果上昇。

 

 ステイタスの欄の一番下、下界の人類(子供達)による未知の発露とも呼べるスキルの項目に如何にもな文章が付け加えられていた。

 

「これ、絶対希少(レア)スキルだよな?」

 

「うん。バレたらわりかし面倒な類いのね」

 

 これと似たスキルをベジットとベートは知っている。後ろに視線を向ければ、何故其処で自分に視線を向けられているのか分からないリリルカが首を傾げていた。

 

(オイ、確かリリルカにもあったよな。これと同じ文面のスキル(ヤツ)

 

(あぁ、憧憬追走(リアリス・フレーゼ)だね。うん、一言一句同じ文面だよ)

 

(書いてる字が違うだけで読み方は同じなヤーツ)

 

 リリルカに続き現れた第二の成長促進スキル。強い想いを抱くだけでこんなアホみたいなスキルが出てくるとか、神の恩恵システムってバグが起こりすぎじゃない?

 

 大丈夫? 修正パッチ出たりしない?

 

 因みに、このスキルの件はリリルカ本人には黙っている事にしている。正直に伝えて変に拗らせない為だ。

 

「………じゃあ何か? 今後あの兎はロキ・ファミリアの【剣姫】に想いを募らせる度に強くなるってのか?」

 

「有り体に言えばそうだね」

 

 ふざけろ。惚れた相手を想うだけで強くなるとか、そんな出鱈目があってたまるか。

 

 リリルカはまだいい。コイツが想いを抱いている相手はベジットで、その“想い”の内容も懸想というより信仰に近い。

 

 けれど、ベル・クラネルはロキ・ファミリアの【剣姫】にダンジョンで助けられた事で一目惚れし、彼女に追い付きたい、彼女の様に強くなりたいと願うだけで強くなれるという。

 

 そんなふざけた理由で強くなれるとか、出鱈目にも程がある。

 

「しかもこれ、どうやら俺が教えた界王拳と合わせて発動しているみたいだから余計数値が跳ね上がってるんだろうなぁ」

 

 ベジットがベルに伝授した界王拳。気の繊細なコントロールで漸く数秒だけ扱えるようになったベル・クラネルの奥の手。

 

 界王拳は唯でさえ使用者に対して絶大な力と負荷を与える。この掛けられた負荷の影響で魔力を除く能力値(アビリティ)は伸びやすい傾向にある。そこへ成長促進スキルという激レアスキルと平行して発動すれば、こんな出鱈目なステイタスにもなろうというものだ。

 

「ステイタスは軒並み昇格間際の冒険者のソレ、“耐久”“器用”“敏捷”の項目に至っては“S”じゃないですか」

 

「魔力が0ってのが却って清々しいな」

 

「流石にミノタウロスを相手に大立ち回りしただけはある、か」

 

「おいアルフィア、お前も見ろよ。お前の義理の息子、頑張ってるぞ」

 

「────見たくない」

 

 ヘスティアが持っている用紙を唯一目にしようとしない女性。踞り、両手で耳を抑えるその様子は普段の彼女の態度から掛け離れていた。

 

「何故よりにもよって“ダンジョンの娘”なんだ。そこいらの小娘ならいざ知らず………」

 

「あ? ダンジョンの……娘?」

 

 “ダンジョンの娘”とは、アイズの事なのだろうか? 新たに増えたアイズの謎にベジット達は揃って首を傾げていると……。

 

「………何でもない。それよりも、いつロキ・ファミリアに向かう? 私も同行しよう」

 

「行かねぇよ臨戦態勢になるな」

 

 分かりやすく誤魔化すアルフィアだが、ロキ・ファミリアに対する殺意は本物。いつの間にか着替えたのか、愛用の漆黒のドレスを身に纏い、臨戦態勢になっている為、それどころではなくなった。

 

「ベルが誰に恋しようが別にいいじゃねぇか。健全な恋仲を目指すってんなら、俺は応援するね」

 

「うーん、相手はロキの子だからなぁ。絶対荒れると思うなぁ」

 

「安心しろ、荒れる余地などない程に消し飛ばしてやる」

 

「何一つ安心出来ねぇんだが?」

 

 サラリと一つのファミリアを滅ぼす気でいるアルフィアにベートは軽く引いた。この女、表立って暴れる事はなくなったが、事ベルに関することは過剰な迄に親バカ気質を発揮してきやがる。

 

「────逆に聞くが、誰がベルの相手なら納得するんだよ?」

 

「リリはアーディさんかアリーゼさんを推しますね。二人とも明るくありながら確りしてますし。まぁ、問題は二人とも年下が守備範囲なのかは分かりませんが」

 

「俺はリオンかなぁ、アイツ後輩が出来た事で面倒見も良くなったし、なんならこの間ダンジョンで会った時ベルの奴顔を紅くしてたぜ」

 

「成る程、ベル君は金髪で長髪のエルフ君が好みのタイプなのか」

 

「────なんか、フレイヤ・ファミリアの所にも似た奴いなかったか?」

 

 話はいつの間にかベルの女の趣味へ移行し始める。眷族の中で一番の年下で、何かと弄られる対象となっているベル、今後の彼の活躍でどんな女性と付き合うのか、想像の中で和気藹々としていると。

 

「ふざけるな。そこいらの有象無象に大事なベルを渡す訳ないだろうが」

 

「「「………………」」」

 

「少なくとも、私に勝てる女でない限りベルを託すことは出来ん」

 

 視線だけで人を殺せるようなアルフィアの眼光がベジット達を射貫く。分かっていたがこの女、ガチだ。マジのガチで自分より強い女性というのが最低条件にしている。

 

「………なぁザルド」

 

「………なんだ?」

 

「オラリオに今のアルフィアに敵う女性冒険者って………いる? 過去含めて」

 

「───昔ならヘラの所の女帝がそうだったが、今のアルフィアはLv.8だからなぁ。正直分からん」

 

「なら、現在()は?」

 

「聞く意味あるか?」

 

 淡々と答えるザルドにベジットは天を仰いだ。悲しいかな、ベルの恋愛事情は今のところお先真っ暗の様だ。

 

「で、でもさ、折角ベル君が強くなる具体的な目標を見付けたんだ! 彼も今後のオラリオで活躍するにはある程度の自衛手段も求められるだろうし、アイズ君に追い付くまでは見守ってあげても良いんじゃないかな!」

 

「─────フンッ、確かに今のベルは脆弱が過ぎるからな。第一級になるまでは見逃してやる」

 

 誰を見逃すって? とは、誰も聞かなかった。ヘスティアの説得に応じたアルフィアにベジット達は一先ず胸を撫で下ろす。

 

「────所で、ベルにはこのスキルについては?」

 

「勿論黙っているよ。ベル君は良くも悪くも素直だ。もし万が一悪い神にこの事を知られたら……」

 

「そのファミリアも、私が消そう」

 

 何故だろう、手を出そうとする神々のその悉くが天界に送還される悪夢が見えた気がした。闇派閥かな?

 

 そんな最悪な未来を回避する為、全力でベルの発現したスキルを隠蔽する事を眷族全員が同意した瞬間である。

 

「因みに、ベル君にはスキルだけじゃなくステイタスに付いても誤魔化してある。流石に成長期とかでは誤魔化せないから、口頭で大体D~Bにして伝えといたから、みんなもそのつもりでいてくれ」

 

「それでも、一週間の間で上がるステイタスとしては破格なんですけどね」

 

「今、ベルは部屋に?」

 

「うん、今日は今後の事で皆と相談するから、呼ばれるまで自室で待機を命じておいたよ。………あまりにも素直だから罪悪感が」

 

 恐らく、自分の破格のステイタスにかなり機嫌が良くなっているのだろう。満面の笑顔で元気に返事してくれたベルにヘスティアは胃の辺りを抑えて罪悪感に震えていた。

 

「なら、俺はこの後ベルを連れて外食に向かうとするか。取り敢えず【豊穣の女主人】に行くから、何かあったら連絡してくれ」

 

「分かりました」

 

「食い過ぎで出禁されんじゃねーぞ」

 

 ウッセ。ベートからの揶揄に軽口で返し、ベジットは執務室を後にする。

 

「おーいベルー! 晩飯食いに行くぞー! アイズに付いて色々教えてやるから、早くこーい!!」

 

『はーい!!』

 

 遠くから聞こえてくる溌剌としたベルの返事、分かりやすいことこの上なしなベルにヘスティアも苦笑いが溢れる。

 

「それじゃあ、僕達も解散しようか。ザルド君、晩御飯の用意をお願いするよ」

 

「…………あぁ」

 

 一先ずベルに関する話も終わり、今日は解散となった。ザルドの料理にすっかり虜になったヘスティアは今日の晩御飯にワクワクするが、対するザルドは心此処に在らずな様子。

 

 数ある冒険者の中でも最高峰のザルドが、何に気を逸らしているのか。

 

「どうしたザルド、テメェが呆けるなんて珍しいな」

 

 ザルドの強さは共に生活しているだけで伝わってくる。目の前の【暴食】は間違いなく現時点での自分より格上、そんなザルドが呆ける程の考え事なんて有り得るのかと、不思議に思ったベートが訊ねると……。

 

「………ベルの【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】が発現した理由(ワケ)、分かったかもしれん」

 

「え?」

 

「理由も何も、今皆さんが察した通りなんじゃ?」

 

 リリルカの言う通り、ベルの【憧憬一途】はアイズという少女に対する憧れから発現された。

 

 しかし、ザルドが言いたいのはそういう事じゃないらしく、リリルカの言葉に否定と肯定の入り交じった曖昧な返事を返す。

 

「そうだがそれだけじゃない。【スキル】ってのは種族に関するモノだけじゃなく、ソイツの根底に根差した根っ子みたいな部分。それが神の恩恵(ファルナ)によって冒険者の【スキル】として発現する。それは分かるな?」

 

「それはまぁ、何となくですが……」

 

 【スキル】や【魔法】はベートや亜人のエルフが持つ種族的な特性に因んだモノだけでなく、その者に深く根差した経験、体験、トラウマ、病魔など様々な理由で先天的、後天的に発現することがあり、それは時には“前世”という不確かな要因も関係したりしている。

 

「例の娘と遭遇した時、それはそれはベルにとって運命的な出会いだったんだろうな。自分の根底に根差す程の憧憬、それは言ってしまえば一種の狂気とすら言える」

 

「き、狂気って……流石に考えすぎでは?」

 

「そうだといいがな。生憎、俺はそんな狂気的な妄念に駆られる連中に心当たりがある」

 

 気付けば、ザルドの額には大粒の汗が流れていた。深層から単騎で生還も出来る規格外の怪物、最強の眷族の一人として数えられている【暴食】のザルドが真面目な顔して冷や汗をダラダラ流している。

 

 そんなザルドにヘスティアも何となく理解する。

 

「────まさか、ベル君の【憧憬一途】の原因はヘラの眷族の名残だって言うのかい!?」

 

「「ッ!?」」

 

 驚愕するヘスティアの言葉にベートもリリも驚きを顕にするが、幾分か落ち着きを取り戻したザルドは冷や汗を拭い息を吐く。

 

 深いため息だ。余程ヘラ・ファミリアに対してトラウマがあるのだろう、嘗てオラリオを襲撃した時以上の真剣な眼差しでヘスティア達を見る。

 

「これはあくまで推測だが。ベルの【憧憬一途】はヘラの眷族だった母親の側面が出たんじゃないかと、俺は睨んでいる」

 

「ベル君の母親って……確かメーテリアって子なんだろ? アルフィア君の妹の」

 

 ザルドは頷く。

 

「その娘はアルフィアよりも病が重く、普段は派閥の本拠地から出られない程の病弱だが……一度逆鱗に触れるとその怒りはあのヘラですら平伏する程に恐ろしく、アルフィアですら逆らえなかったんだとか」

 

「マジか」

 

 聞かされる逸話につい口に出してしまうベートだが、ザルドは気にせず「マジだ」と返す。

 

「そんな女を孕ませた男が、俺達の末っ子だった男なんだが………俺はある日ふと不思議に思った」

 

「な、何がだい?」

 

「………確かに俺達の末っ子はどうしようもない程に弱く、情けなく、よくゼウス(オヤジ)と一緒に女風呂を覗いたりする等、しょーもない逃げ足だけの男なんだが」

 

「ぼ、ボロクソに言いますね」

 

 仮にも可愛い甥っ子の父親なのに酷い言われようである。

 

「だが、病で伏せる女を無理やり襲うようなクズではない」

 

「「「…………」」」

 

 真剣な眼差しに三人は押し黙る。

 

「そんな逃げ足の男が、何故逃げなかったのか。それとも逃げられ(・・・・)なかった(・・・・)のか、それは定かではない」

 

「……つまり、何が言いてーんだテメェは?」

 

「分からないか? ベルは半分とはいえ、そんな女の血を引いているんだぞ」

 

 強がり染みたベートも、恐怖に歪んだ顔でそう溢すザルドの一言で押し黙る。

 

「アルフィアも、その妹であるメーテリアも、あの(・・)ヘラの眷族。そしてベルは半分はその末裔とも言えるんだ」

 

「じゃ、じゃあベル君は……」

 

「あぁ、この先ヘラの眷族みたいになる可能性も………なきにしも非ずって事だ。それこそ、【憧憬一途】が別の何かに変異するようなアレっぷりに……!!」

 

 そこまで言って、ザルドは自身の腕を抱き締めて何も言わなくなった。辺りに充満する重苦しい空気、軽いホラー体験をした気がする一同には揃って嫌な汗が流れていた。

 

「……で、でもさ! それはあくまで可能性の話だろ!? 大丈夫さ! あの純真無垢なベル君がそうそうヘラみたくなるわけ……なる、わけ……」

 

「確りして下さいヘスティア様!」

 

「否定するならちゃんと否定しろや! 不安を煽ってんじゃねぇよ!?」

 

 最悪の未来を想像して青ざめるベート達。結局この話は忘れる事にして空元気を装いながら夕飯を食べ終えると、そのままヘスティア・ファミリアは一足早く就寝するのだった。

 

 尚、この時不安に駆られていた彼等は気付かない。ヘラの最後の眷族がいつの間にか姿を消していた事実に、恐怖に駆られたザルド達はその事に気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミア母ちゃーん、席空いてるー?」

 

「来たかい大食い坊主!」

 

 ワイワイガヤガヤ。冒険者達で溢れかえる酒場兼飯処【豊穣の女主人】、荒くれ者な冒険者が酒と食い物を口にしながら騒いでいるのを見て、ベジットに付いてきているベルは緊張気味だった。

 

「ゲェッ、何で来たにゃ大食漢。此方は今忙しいんだからさっさと回れ右するにゃ!」

 

「そうだにゃ! これ以上ミャー達の仕事を増やすんじゃないにゃー!」

 

「そうカテェ事言うなよ。今日は店に新しい客を用意してやったんだからよ」

 

 ぶつくさと文句を言いながらも、店員である二人の猫人は渋々ながら席へと案内する。用意されたのは奥のカウンター、女将であるミアの料理を作っている様子が最前席で目に出来る場所である。

 

「なんだいその可愛らしいボウヤは? その子がアンタの所の新入りかい?」

 

「応よ、コイツはベル・クラネル。先日ウチに入った期待の新人よ」

 

「は、初めまして! ベル・クラネルって言います!」

 

「アッハッハ! 元気があって良いじゃないか! じゃあ、そんな子には激励って事でサービスしとくよ!」

 

「でも、お金取るんでしょ?」

 

「当たり前さね、アンタも派閥の長ならそのくらいの甲斐性は持ちな!」

 

「はーい」

 

 ベジットの軽口にも応えるミア、豪快かつ洗練された動きで次々と料理を作る彼女の手腕はベルに調理中のザルドを想起させる。

 

 きっと、この人の料理も美味しいんだろうなと、ワクワクしながら待っていると、ふと自分の背後に人の気配を感じた。

 

「今晩は冒険者さん。お酒は飲まれますか?」

 

「えっと……貴女は?」

 

「私はシル。此処でウェイトレスをしている従業員です」

 

「あ、初めまして。僕はベル・クラネルって言います。お酒は………その、戴きます」

 

「ハイ、どうぞ♪」

 

 唐突に現れたのは、銀髪の少女。可愛らしさの中に美しさもあるこの店の看板娘の様な少女にベルは若干尻込みしながら木のジョッキを差し出す。

 

 万人受けする可愛らしい笑みを浮かべながらエールを誘いでくれるシル。チラリとベジットに視線を向ければ女将と談笑していた。

 

「ん? 何だベル、お前もう酒飲んでるのか? 味分かるのか?」

 

「もうベジットさん、あまり子供扱いしたら可哀相ですよ。ベルさんだって立派な冒険者なんですから、過干渉は良くないですよ」

 

「そうは言うがなシルちゃん、ベルの親御さんはそれはもう過保護でさ。バレたら俺の身が危ないのよ」

 

「大丈夫ですよ。ベジットさん頑丈だから」

 

「うーん、この腹黒ウェイトレス」

 

 やはりと言うか何というか、我等が団長とシルなる少女は予想通り顔見知りだった様だ。しかも会話の様子からして結構親しげ、ウフフアハハと笑い合う二人にベルは何だか疎外感を覚えた。

 

 飲みやすく、喉を通るエールの味だけがベルの慰みとなりかけたその時、ベルの目の前にドカッと山盛りのパスタが置かれた。

 

「コラシルッ! 油売ってないでとっととホールに戻りな! ベジットも! 今日は其処のボウヤが主役なんだからちゃんと立ててやんな!」

 

「っと、そりゃそうだったわ。悪ぃベル、ほったらかしにして」

 

「あう、ちょっと失敗しちゃいました。ごめんなさいベルさん、ベジットさん。この埋め合せはまた今度」

 

 手を振り、ホールの喧騒へ戻っていくシル。そんな彼女に苦笑いを浮かべながら手を振り返すと、ベルはひきつった笑みを浮かべてベジットに訊ねた。

 

「あ、あの、良いんですか団長。なんかこのパスタ結構お高い値段みたいですけど?」

 

「おう、此処の飯は旨いけどそれに見合った値段で設定されている。高いのは女将の自信の現れであり、同時に旨さの裏付けでもあるのさ。だからこそ毎日昼夜問わず繁盛してるんだよ」

 

「そ、そうなんですか? その………もしお金が足りないのでしたら僕は自分の分は自分で」

 

「オイオイ、今日はお前の活躍を祝杯する為に来たんだぞ? ワザワザ俺の顔を潰す様な真似はしてくれるなよ」

 

「ソイツの言う通りだよボウヤ。こういう時は年上の顔を立ててやるもんさね。ほい、今日のオススメだよ!」

 

 追加でドンッと置かれる大きな魚の煮付け。匂いからして食欲がそそられるが、これもまた随分とお高そう。

 

 隣のベジットに視線を向ければ、ニシシと笑っている。どうやら本当に懐事情は大丈夫な様だ。

 

 なら、自分も遠慮なく食べるとしよう。勢い良く目の前のパスタを頬張ると、口全体に濃厚なソースとピリッとした味が食欲を刺激してくる。

 

 夢中になって食べるベルに女将はカカカと笑う。

 

「なんだいなんだい、随分と良い食べっぷりじゃないか!」

 

「は、はい! 女将さんの作る料理、とっても美味しいです!」

 

 叔父さんの作るモノとは違う。とはベルは口にしなかった。どちらも作り方が違うだけで味は美味しいし、ついつい食が進んでしまうのも同じ。

 

 なら、比べるのも無粋だと思いベルは口を噤んだ。そんなベルをベジットはどこか安心した様子で見守っていた。

 

「あー、何だかベルの見てたら俺も食いたくなってきたな。スイマセーン、俺にも同じのをー!」

 

「ハイヨォ! ちょっと待ってなー!」

 

 ベジットの注文を受け取って、料理を始めるミア、豪快な勢いで鍋を振るうその手腕は正に小さな巨人と言えた。

 

「────さて、それじゃあ料理が来るまでちょっと話をしようか。ベル、改めてダンジョンでの活躍、おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ウチはLv.1から育てていくノウハウが足りてなくて色々と驚かせる事もあるだろうが、キチンと面倒を見るつもりだから安心してくれ。ベートもリリルカも協力的だし、お前の叔父さんや義母も手を貸してくれるだろう」

 

「はい」

 

「勿論、俺もヘスティアにも出来ることがあったら協力してやる。だから何かあったら言え、遠慮するな。お前は俺達のファミリア(家族)なんだからよ」

 

「─────」

 

 そう言って笑い、頭を撫でてくるベジットにベルは目を見開いた。

 

 ザルドの叔父さんと似ているようで違う、頭を撫でられた時の暖かい感覚が胸の奥でじんわりと広がっていくのをベルは感じた。

 

「おっと、頭を撫でるのはちょっと失礼だったかな。同じ男にすることじゃなかったか」

 

 これじゃあシルちゃんにまた叱られるなと、カラカラ笑うベジットにベルはそんなことはないと首を横に振った。

 

「あ、あの、そんなに嫌じゃなかったので………その、気にしないで下さい」

 

「おっ、そうか?」

 

 その後も話は進み、ベジットとの二人での談笑を行った。

 

 そして出された料理も食べ終え、いよいよ例の話(・・・)に移ろうとした時。

 

「ミア母ちゃーん! 来たでー!」

 

 予約していた団体客、ロキ・ファミリアがやって来た。

 

「アイよぉ! 席は取ってあるから座りな! アーニャ、クロ! 案内しな!」

 

「「はーい!」」

 

 オラリオでも最大派閥の一角を担うロキ・ファミリア、幹部含めての錚々たる面々に自然と酒場の空気がピシリと固まる。

 

「あ、アレは……!」

 

「おぉ、ロキ様達じゃん。遠征から帰ってきたのかな?」

 

 見た感じの様子から、どうやら今回もロキ・ファミリアに欠員は出ていない様子。ファミリアの仲間を誰一人犠牲にする事なく全員で生還を果たした【勇者】の手腕をベジットは内心で称賛する。

 

 隣のベルを見れば案の定、席に座るアイズを見てアワアワと赤面している兎が一匹。分かりやすいなとエールを口に含ませると、ベジットの気の探知にある気配が引っ掛かった。

 

 深い溜め息を吐いて席から立ち上がる。

 

「悪ぃベル、ちょっと席外すわ」

 

「え、団長?」

 

「女将、便所貸してもらって良い?」

 

 あぁ、そう言うことねと、食事をする場もあってそれ以上追及する事をベルはしなかった。一方、女将であるミアも察して、無言で親指を立てて後ろの通路を指差す。

 

 サンキューと礼を口にして喧騒から離れるベジット、そんなベジットの背中を見送ってミアも溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────何故、何故あなたが此処にいる!? 何故生きている!?」

 

「…………」

 

 月夜も通らない薄暗い路地、自身のバイト先から目と鼻の先の位置でエルフは吼える。

 

 正義の眷族の一員となり、Lv.6という高みに到達しながら、それでもエルフの女性は吼えながらも構えを解くことはしなかった。

 

 手に木剣を携え、相手を油断なく見据える。不穏な動きをしたら即斬りかかる、そんな殺伐とした敵意を前に……。

 

「喚くな雑音。耳障りだ」

 

「ッ!?」

 

 灰の魔女は淡々と語る。Lv.6というオラリオ屈指の強者を前にしながら魔女は目を閉じたままエルフへ向き直る。

 

「お前に語ること等何一つない。失せろ、二度は言わん」

 

「ふざけるな! お前を目にして、引き下がること等出来るか! 何故死んだ筈のあなたが此処にいる!?」

 

「答えろ! 【静寂】のアルフィア!!

 

 凄まじい剣幕。が、エルフのその必死さは過去を知る者にとって、その剣幕は致し方が無かった。

 

 何せ、相手は嘗てオラリオを恐怖に陥れた怪物の一人。冒険者にとって恐怖の象徴とも呼べる相手。

 

 そんな人物を相手に、油断や慢心はそのまま死を意味する。

 

 しかし、対する魔女は何処までも憂鬱そうで、目の前のエルフを騒音を撒き散らす女性をこの上なく冷たく見据える。

 

「────喚くしか出来ないのなら、先ずはその口を黙らせてやろうか?」

 

「ッ!?」

 

 途端に沸き上がる殺意、肌を突き刺しながら周囲の空気が重くなるこの感覚、やはり………間違いない!

 

 色々とエルフ───リュー・リオンが決意したその刹那。

 

「止めろ、アルフィア」

 

「ッ!?」

 

 【静寂】の背後から現れる自分達にとって師とも呼べる青年が現れるのだった。

 

 

 

 

 

 





次回、邂逅。

過去と今が交差する時、物語が始まる。


「一体、これはどういう事なんだい?」

「応えんかい、ベジット」

「応えなさい、ベジットさん!」

「応えて下さい、ベジットさん!!」

「……ワァ……ア……」

「泣いちゃった!」



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