ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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暑さと寒さのバランス、もうちょいなんとかならない令和ちゃん?

そんな訳で初投稿です。




物語73

 

 

 

 迷宮都市。世界の中心とも呼ばれる世界一の都市、夜の帳が降りても荒くれ者の冒険者達は眠らず、大通り沿いにある酒場はいつも人の賑わいで溢れていた。

 

 しかし、そんな街の一角だけはまるで人の世界から切り離された様に静かだった。そこに充満しているのは人の喧騒ではなく人の敵意、眼前の“敵”から一瞬でも目を離さないという一人のエルフが放つ気迫によるもの。

 

 そのエルフの女性の名はリュー・リオン。正義の眷族(アストレア・ファミリア)の一人にして、オラリオでも有数なLv.6の強者である。

 

 そんな彼女が一切の油断なく身構えた先にいるのは……灰の魔女。嘗て七年前のオラリオにて災厄を振り撒き、闇派閥に加担して自分達の前に立ちはだかった過去の英雄。

 

 強かった。今も何故彼女に勝てたのか分からない程に、当時の彼女は強かった。当時のファミリアの皆は口にはしないが、あれは勝ったというより勝たせてもらったというのが意味合い的には近いかもしれない。

 

 嘗ての最強派閥(ヘラ・ファミリア)の最後の生き残り、そんな彼女も最期は自分達に後の事を託し、吹き荒れる炎の中へと身を落とした。

 

 死んだ筈だ。少なくとも、当時のリュー・リオンにはそう見えた。

 

 なのに───何故、彼女が生きている。

 

 いや、答えは既に出ている。彼女の背後から現れる逆立った黒髪が特徴的な只人(ヒューマン)

 

「────ベジットさん」

 

「おう」

 

「あなたの仕業ですか。彼女が生きているのは」

 

 否定して欲しかった。彼は自分や仲間、友人達をこれ迄幾度となく助けてくれた恩人。“気”という新たな力と強くなる術を与えてくれた文字通りの恩師。

 

 そんな彼が、目の前の魔女の存在に手を貸したと、そんな現実を否定して欲しかった。

 

 しかし。

 

「────そうだ。俺が彼女を助けた」

 

 彼は、否定ではなく肯定の言葉を口にした。

 

「~~~ッ何故だ!? 何故よりにもよってあなたが!?」

 

 問い詰める。リュー・リオンの慟哭にも似た追及の叫び。普段は落ち着きを払い、近年では後輩も増え、頼れる先達としての振る舞いも漸く身に付き始めた。

 

 そんなリュー・リオンが、形振り構わず追及する。それだけ衝撃が大きかった。口では軽口を吐きつつも、内心ではベジットを尊敬し、ソーマ・ファミリアとの戦争遊戯(ウォー・ゲーム)を目にした時は幼い少女を助ける為に単身で挑む彼を目にした時は正義の本質を目の当たりにした気さえした。

 

 そんな彼が、アルフィアを秘密裏に助けている。人を助ける事その事自体を責める気はないが、如何せん相手が相手。

 

 嘗てオラリオを襲撃した一派の一人となると、その意味合いは大きく変わってくる。その事を踏まえて何故だと問う。正義の眷族としてではなく、一人の友人として追及する。

 

 対して───。

 

(言える訳ねぇだろぅぅぅがぁぁぁッ!!)

 

 ベジットはベジットで、内心でこれでもかと荒ぶっていた。なんなら目の前のエルフよりも荒ぶっていた。

 

(だってコイツが闇派閥に加担したのってオラリオのレベルを底上げする為だもん! なんでそんな事したのかって? 黒竜を倒す為だもん! その黒竜はもういないけどね! 何故って? 俺が倒したから!!)

 

 あのままアルフィア達が自分達の目的を果たそうとすると、最終的に二人はオラリオの次世代の英雄に討たれて終わるという流れになる。そうなれば言い方は悪いが二人は無駄死に、これを知ったベジットとヘスティアはそれはそれは胃を痛めたモノだ。

 

 ぶっちゃけ、一晩で対病(アルフィア限定)の“仙豆擬き”を作れたのはヘスティアや二柱の医神の協力のお陰とはいえ殆んど奇跡に等しい。もう一度同じものを作れと言われても数段劣ったモノしか作れないだろう。

 

 お陰で、ミアハ様とディアンケヒト様に命題を与える事になってしまった。

 

閑話休題。

 

「────まぁ、何て言うか成り行きだな。当時、コイツを助けるのが都合が良かった。ただそれだけの話だ」

 

「ほう、言うに事欠いて都合が良いと来たか。一方的に救っておいて放置とは酷い男だな、お前は」

 

(ウルセェちょっと今は口出さないで、マジで!!)

 

 なんでちょっと悪女っぽい振る舞いなんだよ。

 

「あなたの都合……? 一体、何を企んで?」

 

(何だろうねぇぇぇぇ!? 俺も知りたいや!!)

 

 敢えて言うなら……良心の呵責、かな。

 

 何度も言うが、あのままアルフィアとザルドを放置すれば、二人は既に黒竜討伐が成された事を知らないまま死んでいた。そんな結末は流石に胸糞が悪く、また罪悪感でこれからの冒険者活動で支障が出そうだから、急いで対策を講じ、急遽二人を生かしてオラリオから逃がす突発的な計画を立てる必要があった。

 

 けど、そんな事を身内以外誰に話せると言うのだ? 黒竜は既に自分が倒したから、お前達のやってることは無意味だぞ。なんて口にしようものなら、二人は恐らくこの上ない程に激昂し、ベジットを殺しに掛かっていた事だろう。

 

 それだけ、あの黒竜には重い意味合いが刻まれていた。そんで、その黒竜をノリと勢いで倒したのがベジット(自分)という訳です。

 

 本当、タイムマシンがあれば今すぐにでも15年前に遡りたい。嘗ての最強二大派閥(ゼウス・ヘラファミリア)が動き出す前に黒竜達を倒せてたら、こんな面倒くさい状況にはならなかった筈だ。

 

「答えて下さいベジットさん、貴方はこのオラリオで、彼女を使って何を企み、成し遂げようとしているのです!?」

 

(何にも企んでねぇよ!? なにを企むの!? 何で企むの!? 何で企むこと前提なの!? あんまり人の心を傷付ける言葉を吐くなよ、泣きたくなっちゃうだろ!?)

 

 そもそもこのアルフィアが良い様に誰かに顎で使われる事は有り得ない。七年前の時は当時の邪神であるエレボスと利害が一致したから協力したに過ぎないと、本人の口から聞いている。

 

 力で従えようとしても、この女は絶対に従う事はなく、何なら自害する道を選ぶだろう。アルフィアというのはそういう女だ。

 

「────さて、それをどう説明していいのやら」

 

 本当、何て言えば納得して貰えるかね。目の前では未だ憤慨しているエルフ、自分の後ろでは静かに事の成り行きを静観しているアルフィアが。

 

 ベジットの頭の中で言い訳の言葉が超高速で駆け巡っていく。内心は冷や汗ダラダラ、表面上は不敵な笑顔。ガワは天下無敵のベジットでも中身は平凡なパンピーなのだ。

 

「それは、僕も気になる所だね」

 

「ッ!」

 

 あーでもないこーでもないと考えること数十秒、突然現れる背後からの第三者の声にベジットの心臓は跳ね上がる。

 

 ギギギと振り返れば、現在酒場で宴を開いている筈のロキ・ファミリア、その長と主神がそこにいた。表面上、両者ともにニコニコと微笑んでいるが………。

 

「なんや、随分とオモロイ事になっとるみたいやないか。うちらも混ぜ~や。なぁ、ベジット?」

 

 うっすらと細目を開く天界きってのトリックスター。あ、これガチでヤバい奴だと、自身の置かれている立場を察したベジットは……。

 

「────一先ず、飯を食わせて貰っても、いいかな?」

 

 不敵に笑いながらも、その姿は最期の晩餐に向かう囚人の様であったと、後にリュー・リオンは語る。

 

 因みに一方その頃。

 

「はいベルさん、あーん♪」

 

「ちょちょ、シルさん一人で食べられますから!」

 

 団長であるベジットが窮地に立たされていた間、ベルはとある銀髪娘に色々と絡まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────翌日。ヘスティア・ファミリアの本拠地(ホーム)である【竈火の館】は嘗て無い緊張感に包まれていた。

 

 広めに設計された客室、対面で座るそれぞれの両側には座り心地の良いソファー。

 

 その席にはロキ・ファミリアの主神と団長である【勇者(フィン)】が腰掛け、並びに三巨頭である【重傑(ガレス)】と【九魔姫(リヴェリア)】が後ろに控えている。

 

 他にもアストレア・ファミリアの主神と団長(アリーゼ)、並びにその後ろでは副団長の【大和竜胆(輝夜)】と【疾風(リオン)】がガレス達同様に背後で立ち並んでいる。

 

 他にもガネーシャ・ファミリアからも主神と団長の【象神の杖(シャクティ)】が、そしてその背後には【象神の詩(アーディ)】と最近Lv.5になったというアマゾネスの少女が背後に並んでいる。

 

 壮観。オラリオでも名だたる傑物達が一堂に会するこの光景は正に壮観と言えた光景だろう。何処かの国でも滅ぼすのかな?

 

 因みに、フレイヤ・ファミリアは来ませんでした。一応「話があるんだけどこれる?」と文面は送ってみたが「行けたらいくわ」と返された。完全に事の成り行きを面白おかしく眺めるつもりである。実に良い性格してるな、あの女神。

 

「あ、アハハハハ。いやー、こうして見ると壮観だなぁー、オラリオでも屈指の冒険者が来てくれるなんてコウエイダナー」

 

 なのに対する此方の主神は錚々たる面々にすっかり及び腰になっている。いや分かるけどね、現実逃避したくなる気持ちも。

 

 何せ向かい合っている殆んどの面子が笑ってないんだもの。精々アリーゼとアーディ位、唯一の希望だったガネーシャ神は事前に釘打たれたのか、意気消沈した様子で俯いて沈黙している。

 

「ハハハ、流石に今この場でそれは嫌味というものだよ女神ヘスティア。嘗ての最強眷族を従えている貴方にとってすれば……ね」

 

「アハ、アハハハハ………すみません」

 

 場を和ませるつもりのヘスティアも、フィンの一言で撃沈する。ごめんね。

 

 因みに、ベル・クラネルは此処にはいない。既にリリルカに引き連れられ、ダンジョン探索に勤しんで貰っている。

 

 ベートは………廊下の方を一応警護して貰ってる。

 

「────はぁ、有象無象が雁首揃えてゾロゾロと、今のオラリオの冒険者は余程暇な様だな。羨ましい限りだ」

 

 重苦しい空気、それを煩わしいと引き裂くのはやはり灰色の魔女ことアルフィアだ。その憎まれ口で本人だと確信したのだろう、昔から彼女を知るロキ・ファミリアの面々は改めて息を呑み、そして口開く。

 

「そちらこそ、まさか生きていたとはな」

 

「ザルド、お主もそうだ。しかもその様子だと例の毒は癒えた様子じゃな」

 

「あぁ、そこのお節介な団長の手引きでな。お陰でこうして生き恥を晒している」

 

 敵意を織り混ぜて睨んでくる二人に主神(ヘスティア)団長(ベジット)の背後に立つ二人は肩を竦める。言外に、今の状況は自分達も望んでいないと言い含めて。

 

「………先ずは状況から簡潔に整頓しようか。【象神の詩(ヴィヤーサ)】、君は一週間位前からヘスティア・ファミリアの本拠地から妙な“気”を感知したと、そう言ってたね?」

 

「………はい。最初はリリルカちゃんとベートさんの気だと思ってたんですけど、二つの気………そのどちらもが妙に大きくて、洗練された気配なのに隠しきれていないのが違和感を感じた為、印象深かったです」

 

 フィンに促されて語り始めるアーディ、ポツポツとベジット達に対して負い目を感じながら告白する彼女にフィンは「ありがとう」と返す。

 

 話を終える瞬間、アーディはベジットに申し訳なさそうにしていた。彼女も二人が生存し、その手引きをしたのがベジットだと薄々気付いていたのだろう。

 

 どうにか事情を訊ねて力になろうとしていた矢先、事態が先に動いてしまった。その事を気に病んでいるアーディをベジットは気にするなと目線で返す。

 

「さて、それじゃあ本題に移ろう。ベジット、君は七年前に二人を助けた。間違いないね?」

 

「そうだ。俺が助けた」

 

 即答。一切の迷いなく、自分の選択肢を信じて疑わないベジットの返答に僅かにフィン達に動揺の波紋が広がる。特にガネーシャ・ファミリアの赤髪のアマゾネスは酷く動揺した様子で眼を見開いている。

 

 リオンは………やはり、動揺は隠せないのか普段よりも三割増しで睨みが強くなっている。隣に立っている輝夜もまたリオンから予め話を聞いていたようで深い溜め息を吐いて頭を抱える程度に留めていた。

 

 意外なのはリヴェリアだった。普段は冷静沈着な彼女が眼を見開いているのはちょっと新鮮だった。

 

「理由は?」

 

「大した事じゃない。よってたかって病人二人をタコ殴りにしているのが当時の俺にとって酷く鼻に付いた。ただそれだけだ」

 

 傲慢。普段のベジットとは明らかに異なる態度にフィンは速攻でこれが彼の嘘だと見破る。ここ数年の付き合いでベジットが意外にも庶民的感覚を持っているのは明白で、倫理観や人格面も強くなる事以外は特に突出した破綻者などではなく、寧ろ時には清濁併せ呑む器の広い人格者であることも知っている。

 

 何より、微かに震えている指先が彼にしては珍しく緊張している事の現れでもあった。前々から腹芸は苦手な性分だとは薄々気付いていたが、此処まで必死になっているのだから余程なのだろう。

 

 実際、こういった場は目の前のベジットよりも同胞のリリルカ・アーデの方が余程適している気がする。……今度教えてあげようかな?

 

(アストレア・ファミリアは………輝夜の反応からして何らかの事情があるなと察しているな。ガネーシャ・ファミリアの姉妹は流石に嘘だと見破っている。ヨシ、大体は僕の予想通り)

 

 寧ろ何でロキ・ファミリアの参謀とも言えるリヴェリアが一番ショックを受けているのか。隣に立つガレスもベジットの嘘の言動よりも隣のリヴェリアの反応に驚いてしまっている。

 

 何でリヴェリアが動揺しているのか……まぁ、落ち着いたら後で自分で気付くだろうと放置。ベジットが真実を隠す為に嘘を吐いていることを前提の上で話を進めることにする。

 

 ロキ? とっくにベジットの嘘を見破り、今は悪ぅい笑みを浮かべて口から瘴気を吐いている。邪神かな?

 

「………君にとっては唯の病人かも知れないが、二人は嘗てオラリオに一度は壊滅的な被害をもたらした災厄だぞ。その事は分かっているのかい?」

 

「無論、分かっているとも」

 

「分かった上で背負うと?」

 

「あぁ、俺にとっては屁でもない重さだ」

 

 万が一二人の存在が明らかにされたらヘスティア・ファミリアはオラリオ中から袋叩きに合う。民衆は弱く、愚かな一面がある。相手が自分達に危害を加えない一団だと分かれば迷う事なく握り締めた拳を振り上げ、暴虐の限りを尽くすことになるだろう。

 

 それこそ、嘗てアストレア・ファミリアがされた仕打ちと同じ様に。

 

 その危険性を理解した上でベジットは背負うと口にしている。あらゆるリスクを承知の上で。

 

(本当、苦手だなぁ)

 

 自分では決して取らない選択肢。それを悩んだ上で背負う事を決断するベジットにフィンは改めて苦手意識が芽生えた。

 

「んじゃあ、次はウチからええか? そもそも二人とも何でオラリオに来たん? 折角命を拾ったんやからそのまま隠居すればええのに、なして?」

 

「「………………」」

 

 トリックスターによる素朴で、当然出てくる当たり前の疑問。一度は死に瀕し、実際死ぬつもりでいた二人。命を繋いだのならいい加減只人として隠居すればいいのに、何故またこのオラリオに来たのか。

 

 口を閉ざす二人、ベジットもこれには口を挟むつもりはないのか腕を組んで黙秘している。

 

「────義息子(むすこ)の為だ」

 

「なんやて?」

 

 長い沈黙の後、深い溜め息と共に吐き出すように口を開いたのは、【静寂】のアルフィアだった。

 

「────良いのか?」

 

「良いも悪いもない。既にここまで詰められている以上、口を割らない訳にはいくまい」

 

 ザルドの問いにアルフィアは半ば諦めた様に笑う。

 

「………え? 息子って、アルフィア自分、子供がおったんか!?」

 

 ガタリッと、あまりの情報にロキは席から立ち上がる。他の面々も眼を丸くさせる中。

 

「私のではない。妹のだ」

 

 その一言に何故か安堵するように座り込む。

 

「因みに、相手は俺達の所(ゼウス・ファミリア)の末っ子な。フィン、お前が俺達の中で唯一勝ち星を拾った相手だ」

 

「っ!? 彼か………」

 

 苦笑いを浮かべ、此処まで来たら話せるとこまで話してやろう。開き直ったザルドの口から聞かされる内容に今度はフィンが驚きを顕にする。

 

「え、じゃあ何か? ドチビ、自分の所にはこの二人だけや飽き足らず、ゼウスとヘラのハイブリット眷族もおるっちゅう事か?」

 

「………言っておくけど、意図してやった事じゃないからね」

 

 ロキからの問いにヘスティアは答える。

 

 ……嘘はない、眷族同様に嘘は苦手な女神の言葉にロキは唸りながら顎に手を添えた。

 

「────此方からも質問するが。先日、ロキ・ファミリアがダンジョン遠征から帰ってくる同時期にミノタウロスが三体程上層に現れたとあるが、心当たりはあるか?」

 

「ッ!?」

 

「しかも階層は5階という浅い所だ。幸いにもミノタウロスによる死傷者はいなかったらしいが………」

 

「其処で俺達の義息子が巻き込まれた」

 

 投げ込まれる爆弾。うっすらと殺意と敵意を滲ませる二人に主神達の背後にいる眷族達は身構える。

 

 自分達も七年前よりずっと強くなっているというのに、未だに二人からの覇気に身が竦む。

 

(いや、明らかに七年前より“圧”が増しとるのぉ)

 

(あれから私達は強くなった。研鑽を弛まず積み上げてきた。それなのに………!)

 

 怪物。特にアルフィアから垂れ流れる“威”は七年前よりも遥かに圧力(プレッシャー)が増している。

 

(間違いない。ザルド同様にアルフィアの病も完治している!)

 

 アルフィアはザルドとは異なり、先天的な病にその身を犯されていた。【才禍の怪物】と恐れられた彼女が唯一その身に抱えていた弱点。

 

 それが完全に消え去っている。充実した気力から考えられるある意味で最悪の事実にフィン達は瞠目した。

 

(やってくれたな、ベジット!!)

 

 単にアルフィアとザルドを助けただけじゃなく、二人を蝕んでいた病すら治してしまっている。嘗て医神すら匙を投げてしまった不治の大病を、医学の知識など無いベジットが癒してしまっている。

 

 これがどれだけの意味を持っているのか、果たして彼は分かっているのか。睨んでくる輝夜達の視線にベジットはフッと笑みを溢すだけだった。

 

「ねぇーねぇーベジットさん。その例の新入りの子ってどんな子なの? 私、気になるわ」

 

 誰もが二人の覇気に戦慄し、身構えるなかで彼女───アリーゼ・ローヴェルは呑気にそんな事を考える。そのあまりにも能天気な台詞にフィン達がギョッと眼を見開き。

 

「おぉ、ベル・クラネルっていってな。白髪で眼の紅い兎みたいな奴だよ」

 

「へー」

 

 あっけらかんと即答するベジットに今度は後ろの二人が絶句する。

 

 アリーゼの一言で先程までの空気が霧散する。そんな時だ、部屋の扉を叩く音が響く。通路にはベートがいる、そんな彼が扉を叩くということは……。

 

「ベジット、女神達が来たぞ?」

 

「へ?」

 

「はぁいヘスティア、ベジット。そして嘗ての最強眷族達。久し振りね」

 

「【勇者】達もおるのか。やれやれ、壮観じゃのう」

 

「ヘファイストス!? ディアンケヒト!?」

 

「ミアハ様まで………どうしてウチに」

 

「言った筈だぞベジット。咎を問われる時、その時は我等も裁かれる時だと」

 

 駆け付けてくれた三柱の神、七年前から付き合いのある神々の登場にベジットは戸惑い、ヘスティアは泣きそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ヘファイストスを始めとした二柱の医神の説得もあって、ロキ・ファミリアとガネーシャ・ファミリア、アストレア・ファミリアの面々は僅かな条件を突き付けるだけに終わり、現在は三派閥のトップ達は近くの喫茶店で顔を合わせていた。

 

「全くドチビめ、ファイたんだけじゃなくディアンケヒトの守銭奴まで味方に付けるとは、厄介な奴に育ちよってからに」

 

「別に女神ヘスティアは味方に付ける意図は無かったと思うよ? まぁ、だからこそあの三柱(さんにん)の神は彼方に肩入れしたみたいだけどね」

 

「けれど、本当にこれで良かったのでしょうか。如何にベジットさんといえどあの【暴食】と【静寂】を従わせるのは困難に思えますが……」

 

「そうかしら? 私は見た感じ【暴食】の方は話に聞いた程危険性は無いと思ったけど? ガレスのおじ様はどうだった?」

 

「そうじゃのう。身に纏う覇気自体は七年前より増したが、それ以降の奴の雰囲気は随分と和らいだように思える。楽観的に言うつもりはないが、ワシもザルドに付いては其処まで心配無いように感じるな」

 

 ヘスティア・ファミリアとの会談で行われた質問の数々、その全てが完璧に答えられ、その全てに嘘や偽りの類いは無かった。

 

 ベジットに関する話もそう、此方が出せる質問は実直な彼らしく真摯に向き合い答えてくれた。尤も、彼に関しては追及するべき質問はまだまだ残されているが。

 

「【静寂】の方は相変わらず恐ろしかったがな。威圧された時、軽く死を覚悟したぞ私は。イルタも済まなかったな、巻き込んでしまって」

 

「き、気にしないでくれ姉者! アタシは殆んど置物だったからな!」

 

「気にするなイルタ、 俺が一番役立たずだからな! そう、俺がガネーシャだ!!

 

「「ガネーシャ五月蝿い」」

 

「(´・ω・`)」

 

「どんな顔やそれ」

 

 けれど、実際にヘファイストス達の登場で場の空気の流れは変わった。オラリオの大手医療派閥のディアンケヒトと、一般人や零細派閥からは高い人気を誇っているミアハ。

 

 彼等医神だけでなく、鍛冶派閥の最大手であるヘファイストスまで二人の生存に関わっているのだと公にしてしまえば、それはオラリオに大きな打撃を与えかねない。

 

事実、彼等が登場した時点でフィン達はヘスティア・ファミリアに追及できる手立ては無くなっていた。

 

「リオンではないが、本当に良いのか団長。奴らの存在は嘗ての大抗争における恐怖の象徴、幾ら我等が秘匿しても……」

 

「うーん、大丈夫じゃないかしら? 輝夜の心配は分かるけど……ホラ、丁度ヘスティア・ファミリアには“オラリオの奇跡”がいる事だし」

 

 そう、先の追及の一つにアリーゼはベジットに一つの質問を投げ掛けた。七年前の大抗争、闇派閥の侵攻で一時は火の海になったオラリオにもたらした未だ謎深き奇跡。

 

 空に白い星が瞬いた時、被害に逢っていた当時の人々は気付けばオラリオの摩天楼(バベル)付近に立たされ、難を逃れたと言う。

 

 当時の被害規模からして人的被害はせいぜい一~二割程度、人命を軽く扱うつもりはないが、予想していた被害は明らかに少なかった。

 

 そんな有り得ない事象をいつの間にか人神問わず“オラリオの奇跡”と呼ぶようになった。

 

 しかし、アリーゼはその奇跡を不可思議な現象ではなく、一人の個人によるものではないかと予想し、奇跡を起こした張本人─────ベジットに訊ねた。

 

 返ってきたのは…………肯定。照れ臭そうに頬を掻くベジットにアリーゼは嬉しそうに笑った。

 

「“恐怖”と“奇跡”でプラマイゼロってか? 流石にそれは都合が良くないかアリーゼたん」

 

「でも、実際あの時の皆をベジットさんが助けて【暴食】も【静寂】も助けたのがベジットさんなら、私達が横槍するのは違わないかしら? 【勇者(ブレイバー)】もそう思わない?」

 

「そうだねぇ。加えて、ロキ・ファミリア(僕達)は二人の………嘗ての最強派閥(ゼウス・ヘラ)の末裔を失態に巻き込んでしまっているからなぁ」

 

 アイズとベジットの証言も合わせて、恐らく兎の様な少年とはベル・クラネルとやらで間違いないだろう。

 

 そういえばあの時の酒場にもいた気がする。ベジットとアルフィアにばかり気が向いてあの気弱そうな少年の事など頭の隅に追いやってしまっていた。

 

(───あれ? それじゃああの少年がミノタウロスを二体討伐というLv.1でありながら大金星をあげたの?)

 

 なにそれ怖い。凄いやヤバいを通り越して寧ろ恐怖さえ感じてしまう。流石は最強派閥の末裔といった所か。

 

「アカン、色々と情報が多くて頭が沸騰しそうやわ。フィン、簡単に纏めといてー……」

 

「はいはい」

 

 確かに、今回の件は色々と情報やそれぞれの感情が入り交じっていて頭が混乱するが、そこは頭脳明晰な【勇者】フィン。

 

 色々と出てきた情報を横に置いて今は確かな事実を口にする。

 

「今回の会談で僕達は二つの“実”を得た。一つは僕達ロキ・ファミリアの次の遠征時にヘスティア・ファミリアの眷族から最低二人、手を貸してくれるという事」

 

「ベジットが来たらアイズが騒ぎそうじゃのう」

 

「私としてはリリルカ・アーデが来てくれるのが好ましいが……」

 

「【暴食】と【静寂】が選択肢に出ない辺り、徹底してるな」

 

「アハハ……」

 

 これから先、ヘスティア・ファミリアはオラリオの為に方々へ手を貸す事になるだろう。アストレア・ファミリアやガネーシャ・ファミリアの様に街の警邏に駆り出されたり、ロキ・ファミリアの遠征時には手を貸したりと、色々と忙しい事になるだろう。

 

 その見返りとして今回会談した派閥はヘファイストス、ミアハ、ディアンケヒトと同様にザルドとアルフィアの存在を公表したりせず、敢えて様子を見守る運びとなった。

 

「そして、もう一つ。これは僕達………いや、下界全ての者にとっての朗報。彼は来るべき時が来た時、黒竜討伐の意思を明らかにしてくれた」

 

 そしてフィン達全員が納得してくれた理由の最大の要因。それはベジットによる黒竜討伐の意思を明確にしてくれたこと。

 

 黒竜は古き時代より続く【黒き終末】。ザルドとアルフィアが警鐘を鳴らし、自分達がオラリオの冒険者達の踏み台になる事も厭わなかった最大の原因。

 

 三大冒険者依頼(クエスト)の最後の目的にしてゼウス・ヘラのやり残し。生きた厄災の討滅をベジットは確約してくれた。

 

『ベジット、一つだけ聞かせてくれ。君はザルドとアルフィアを救いだして何を企む。何を求める』

 

『黒竜討伐』

 

 あの時の彼の眼は何処までも真っ直ぐだった。本気だった。彼は本気で黒竜討伐を自身の手で成し遂げようとしている。

 

 その為の準備段階で嘗ての【暴食】と【静寂】に助力を求めると言うのなら、充分理解できる。

 

 だが、それだけでは恐らく足りない。如何にベジットが規格外と言えど、彼一人に人界救済を押し付ける訳にはいかない。

 

「────はぁ、全く。彼の言うことはいつも突拍子がない」

 

「確かに黒竜討伐を成し遂げるには嘗ての最強眷族の助力も必要だろう」

 

「そして、きっと彼は私達の力も求める事になる」

 

「意外とがめつい所があるからのう、きっとフィン以上にムチャ振りしてくるじゃろうて」

 

「……成る程、だから彼はリリルカ・アーデとベート・ローガを育てることにした。黒竜討伐に必要だからと」

 

 あの時のベジットの瞳にフィン達は彼の凄絶な覚悟を見た。黒竜討伐を成し遂げるには生半可な力では対抗すら出来ないと。

 

 だから彼は傷だらけの狼を鍛えた。その牙をより鋭く、その爪をより頑強に鍛え、自身の走狗とするために。

 

 だから彼は小さな小人の少女を救い、鍛えた。彼女の潜在能力を限界以上に引き出し、黒竜討伐とその後を生き抜く様にする為。

 

 だから彼は自分達に力を授けた。神々の恩恵だけでなく、人の可能性を思い出して欲しいが為に。

 

 黒竜。人界の誰もが理解しながら、それでも眼を逸らし続けてきた終末機構。彼────ベジットはその終末と一人向き合い続けてきた。

 

 そりゃあ狼が一度は人格が崩壊する程追い詰められた訳だ。そりゃああの小人の少女が崇拝する訳だ。現時点のオラリオで、恐らく彼以上に黒竜討伐を真剣に考えている者はいないのだから。

 

(参ったな、覚悟の度合いなら負けていないつもりだったのに……)

 

『─────凄いな、アンタ』

 

「全く、謙遜も良いところだ」

 

「フィン?」

 

「なんでもないよ、ちょっと対抗心が燃えてきただけさ」

 

 この日、小さな小人の【勇者】に一つの目標が新たに生まれた。いつかその時が来た時の為に、生意気な後輩に目にモノを見せる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ヘスティア・ファミリアの本拠地(ホーム)では。

 

「はぁぁぁぁ………乗り切ったぁぁぁぁ」

 

 酷く疲れた様子のベジットがズルズルとソファーに座り込んでいた。

 

 

 

 




Q.あの後、ベル君は帰れたの?

A.終始隠れていたのでアイズ達には気付かれず、ベジットの会計後普通に帰りました。

Q.結局ベジットは何で二人を助けたの?

A.黒竜討伐の為。アルフィアは対黒竜戦の唯一の生き残り。情報を知ってる彼女を見す見す死なせる訳にはいかなかった。
 咎は受けよう。全てを終えたその後に。

 以上がフィン達視点。

Q.リヴェリア様の心境は?

A.「何故、何故お前だけがそんな覚悟をしている! 何故、私に話をしてくれなかった!!」

「貴様では役不足と言うわけだ」イマジナリーアルフィア

「ッ!?」



Q.………実際は?

A.「WRYYYYYY─────!! 勝ったぞ!! このベジットは過去からの苦難を、試練を、乗り越えて見せたぞぉぉぉぉッ!!」

 「荒ぶってんなぁ」

 「うぅ、罪悪感で胃がぁ……」

 「ヘスティア、後で胃薬を渡そう」

 「つーかなんでワシらまだ帰れんの?」

 「アンタらにも背負って貰う為よ」

 「「え?」」

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