ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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もうすぐ夏が始まる。
夏が始まるとどうなるのか。

ガチャ祭りが始まる。

今回の話を読む前に物語66の最初部分を読むと分かりやすいかも。


そんな訳で初投稿です。




物語74

 

 

 

「そんで、ワシ等はもう帰ってよいのか? あまり遅いとアミッドが心配する。話があるならなるべく早く済ませて欲しいのだがな」

 

 ロキ・ファミリアを筆頭に、オラリオの代表格とも呼べる面々からの追及から逃れたヘスティア・ファミリア。ザルドが淹れてくれたコーヒーを飲みながら一段落していると、茶菓子を頬張るディアンケヒトがそんな事を口にする。

 

 実際、医神ディアンケヒトは既に役目を終えている。アルフィアとザルドの病を癒す為に必要な知識と経験を授けたという証言は既にロキ・ファミリア達に伝えている。

 

 今更オラリオがディアンケヒト・ファミリアを手放す選択肢を取れる筈もなく、今後もこの医神がオラリオから追放されることはない。

 

 同じく医神ミアハも、拠点周辺の人々からの篤い信頼からオラリオの滞在をこれからも望まれる事だろう。

 

 ヘファイストス・ファミリアに至っては言うまでもない。

 

 そんな駆け付けた三神、中でも医神の二柱(ふたり)にはヘファイストスの一言により今も【竈火の館】の応接間のソファーに座らされている。

 

「ヘファイストス、我等に背負って貰うと言ったが……あれはどういう事だ?」

 

 ロキ・ファミリア達が館から退散していくのを確認すると、それでは我等も帰るとしようと踵を返した所、ヘファイストスの一言によって引き留められる。

 

 背負って貰うとはどういう事なのか、言葉の真意を図れないでいるミアハは窓際に背を預けているヘファイストスに訊ねる。

 

 数秒の沈黙。口に含んだコーヒーを飲み干すと、お代わりを注いでくれるザルドに目で感謝を伝える。

 

 何やら勿体ぶっているヘファイストス、ディアンケヒトは若干の苛立ちを覚えるが、ミアハには彼女の振る舞いが重い荷物を分断する作業にも見え、何だか嫌な予感がし始めた。

 

「私よりも、先ずはヘスティアから説明するのが筋でしょうね。一応、ベジットの主神なんだから」

 

「ウェェッ!? ぼ、僕がかい!?」

 

「当たり前でしょう? 七年前から続く私達の胃への負担、いい加減減らしたいと思ってるのなら、先ずはアンタからちゃんと言わないと」

 

 ヘファイストスからの正論らしき言葉にヘスティアは唸って頭を抱える。場の空気も何やら奇妙な感じだし、………再び陥る沈黙にディアンケヒトがいよいよどういう事なのかと苛立ちに怒鳴りそうになった時、顔一杯に満面の苦笑いを浮かべたヘスティアが口を開く。

 

「じ、実は! ベジット君の先程の台詞には部分的に嘘が混じってます! 具体的には黒竜討伐の辺り!」

 

「────────はぁ?」

 

 冷や汗をダラダラ流し、笑みを浮かべながらそう宣うヘスティアにミアハとディアンケヒトは凍り付く。

 

 嘘? ベジットが? よりにもよって黒竜討伐に対して? 怒りよりも困惑、医神二柱(ふたり)が呆然となる中、ヘファイストスは顔を覆って俯いている。

 

「─────おいヘスティア、それは流石に笑えんぞ」

 

「黒竜討伐は下界に住まう全ての人々の願い。人界救済の悲願をその場の言い逃れに使うのは、流石に見損なうぞ」

 

 普段は温厚なミアハが滅多に見せない怒りの顔、ディアンケヒト以上に怒りを顕にするミアハにヘスティアは身を竦ませる。

 

「─────No(ノゥ)

 

「ん?」

 

「はぁ?」

 

「No、No、No、No、No、No、No、No、No」

 

 ふと、横から聞こえてくるNo()の声、見れば眼を瞑ったベジットが静かに首を横に振っている。

 

No(違う)って、黒竜討伐は嘘じゃない?」

 

「どういう事じゃ?」

 

 黒竜討伐は嘘であって嘘じゃない。意味の分からない謎掛けにミアハとディアンケヒトは怒りを収めて顔を見合わせるが、訊ねても答えは来なかった。

 

 ヘファイストスもヘスティアも、そしてヘスティアの眷族達も肩を竦めるばかりでまるで答えようとしない。唯一なんかノリノリなベジットがニヤニヤしているのが無性に腹立つ。

 

 ヘスティアだけが申し訳なさそうにしているのが気掛かりだが、どうやらこの者達は自分達に何かを気付かせたい様だ。

 

 一体何に? 不思議に思い、若干の苛立ちを抱えながら思考を巡らせる。ヘスティアはベジットの言葉の中に嘘が紛れていると言った。部分的に、より具体的に言えば黒竜討伐の宣誓辺りに嘘があるのだと、彼女は言った。

 

 しかし、黒竜討伐自体に嘘はない。一見すれば矛盾の内容、要領を得ない二柱は最初から事態の全貌を明らかにする事にした。

 

 先ず、何故今回の会談で自分達はここへ来たのか。それはロキ・ファミリアとオラリオを守護する派閥に嘗てオラリオを襲ったザルドとアルフィアの生存を知られたから。

 

 じゃあ、何故七年前に死ぬ筈だった二人が今も生きているのか。それはベジットが二人の救済とそのやり方を明言し、自分達に手助けを求めたから。

 

 ────では、何故ベジットは二人を助けようと決めたのか。これ迄何かと忙しく、自然と頭から離れていた疑問に行き着く。

 

 あの時のベジットはザルドとアルフィアがオラリオの、自分達を打倒する冒険者に後を委ねて死ぬつもりだと、そう自分達に訴えてきた。同時に、このままでは無駄死にになると。

 

 ─────無駄死に(・・・・)? そこはオラリオの、対黒竜の為の英雄を、その可能性を生み出そうと言うのなら”生け贄”や“糧”と表現するべきなのでは?

 

 それなのに何故無駄死になると断言するのか、其処まで考え付いたミアハとディアンケヒトは次の瞬間、まさかと同時に息を呑んだ。

 

「────ま、まさか」

 

「黒竜は既に…………討伐されている?」

 

 喉が乾く、頬が吊り上がる。いやいやそんな、有り得ないと、常識と良識、そして目の前の非常識(ベジット)を前にしてオラリオの二大医神の額に冷や汗が流れる。

 

 凄い汗だ。ダラダラと流れ、口端が奇妙に歪ませる二柱。流石の非常識の塊でもそんな事はしない………いや、出来ないだろうと、早鐘を打つ心音を必死に抑えながら訊ねると。

 

「────YES、YES!! YES!! YES!! YES!! YES!! YES!! YES!! YES!!」

 

 不敵な笑みを浮かべながら全力肯定してくるベジットに二柱の医神はズルズルとソファーからずり落ちた。

 

 と言うか、さっきからなんなのそのテンション。

 

「浮かれてんなぁ」

 

「まぁ、奴にとってさっきまでは最大の山場だったらしいからな」

 

「とは言え、流石に鬱陶しいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ早速種明かしと行こうか」

 

「待って、待ってお願いホント待って」

 

「心が追い付かないから、情緒がまだグッチャグチャだから今こっち!」

 

 コーヒーを飲み干し、ソファーから立ち上がるベジットを前にディアンケヒトとミアハは互いに抱き合いながら震える。

 

「て言うか本当なのか!? 本当にあの黒竜が既に倒されているのか!?」

 

「相手は嘗てのゼウス・ヘラの二大派閥を退けた生きた厄災! 人類が総力を上げて挑むべき命題だぞ!?」

 

「だから、それを教えてやるって言ってんだろ? 大丈夫、直ぐ終わるから」

 

「「イヤー!」」

 

 未だ心の準備は出来ておらず、何なら気持ちの整理すら出来ていない。黒竜討伐という人界最大の難題を既に果たされていると告げられたミアハとディアンケヒトの心境はぐちゃぐちゃだ。

 

 そんな男神の心境などガン無視して、ベジットはディアンケヒトの肩に触れると、人差し指と中指を額に当て“ピシュンッ”という軽い音と共に姿が消える。

 

「うぉ、マジで消えたぞ」

 

「これが瞬間移動なのね。本当、何でもアリねベジットは」

 

「本人は移動の楽しみが減るからとあまり多用しないけどね。必要な時以外は基本使わないつもりだってさ」

 

「その気になれば戦闘にだって幾らでも応用出来そうなのに………甘い男だ」

 

「いや、既に戦いにも応用出来るようにはなってるって話だぞ」

 

「─────チッ、あの三味線野郎、そこまで手を抜いていたか」

 

「あ、アルフィア君? 怖いよ?」

 

 目の前で姿を消す二柱の医神とベジット、空間や途中にある物理的障害を一切度外視したワープ移動。相変わらずの出鱈目具合に呆れていると、ヘスティア達の前にベジット達が姿を現す。

 

 消える時と同様、“ピシュンッ”という微かな音共に現れるベジットと医神二柱、早い帰りだなとヘスティアがお帰りと声を掛けるが……。

 

「「──────」」

 

「うわぁ、なんと言うか………」

 

賭博(カジノ)で有り金全部溶かした様な顔ね」

 

 微かに震える両者。無機質で、なのに今にも溶けてしまいそうな呆けた顔を晒す医神。恐らく二柱(ふたり)あの(・・)光景を目の当たりにしたのだろう。

 

 脳が理解するのに追い付けていない。そんな二人にヘスティアは心底同情した。

 

「────ッハ!?」

 

「我等は────一体!?」

 

「あ、戻ってきた」

 

「お帰りなさい。どうだったかしら? 【新・竜の谷】は」

 

 漸く意識を取り戻したミアハとディアンケヒトにヘスティアは苦笑いで迎え入れる。ヘファイストスの口にした新・竜の谷なる言葉にそうだと思い出した医神はベジットに問い詰める。

 

「そうじゃベジット! アレは、アレは一体何なんじゃ!?」

 

「竜の谷────いや、大精霊の風印は顕在していた。なのに、中身はまるで別物だった」

 

 どういう事なのかと問い詰める二柱の神、必死に訊ねる彼等に再びベジットは笑みを浮かべて……。

 

「それでは改めて種明かし────の前に、紹介して貰うとしよう。アリスちゃーん!」

 

「はーい!」

 

 名を呼ぶと、何処からともなく風が部屋に満ちてベジット達の前に一人の少女が現れる。黒髪黒目の少女、風の力を司るとされるその少女は噂に聞くベジットが契約したという風の精霊。

 

「こちら、今はアリスと名乗っていますが、本当の名前は違います。本当の名前は【アリア】、千年前から続く黒竜を封じていた功労者です」

 

「どうも~アリアでーす! 他の所ではアリスって呼んでね!」

 

 瞬間、黒髪が金髪へ変わり、眼の色も金色へ変わる。同時に力の本質までもが変異していく。

 

 その力、今は小さいが確かに質は大精霊のソレ。故に目の前の少女はアリアである事に間違いないと確信したミアハとディアンケヒトは再び表情を驚愕に変えて固まる。

 

 理解が追い付かないのではなく、拒絶している。未知を求める筈の神が目の前で起きている異常に辟易している。

 

 しかし、彼等を呼び出した時点でこちら側に引き込むつもりでいたヘファイストスとベジットはそんな事など知るかと改めて話をしだす。

 

「さて、それじゃあ説明するとしますか。お二人の脳に刻まれるようにじっくりと、ね」

 

 意識を取り戻した二人が再び抱き合う。止めて、もうお腹一杯なの、これ以上はお腹壊しちゃう。そんな、命乞いに等しい彼等の嘆願を。

 

「ダメよ☆」

 

 ヘファイストスは笑顔で却下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────まぁ、とはいってもやった事はそこまで難しい事じゃない。黒竜討伐、本来なら人界が諸手を挙げて喜ぶべき話だが、生憎まだ地上には多くのモンスターが存在し、未だに人類の脅威となっている。

 

 未だ不安定な下界に黒竜討伐の報せを伝えるにはまだ前準備が必要だと察した俺は、其処のアリスと一緒にとある工作作業に乗り出した。つまりは、結界の再現(・・・・・)。風の大精霊がもたらしたとされる風印の再現(・・・・・)をすることになった。

 

 勿論、それはあくまでガワだけで実際はちょっと強めの結界程度。風の大精霊たるアリス(アリア)の協力の下、俺は時間を見計らっては彼女と一緒に結界についてアレコレ考えた。

 

 最初は本当にマジの風印を考えたが、それだと再びアリアを犠牲にしかねない。それは流石に不味いし、したところで意味もないと言うことで、代案にあったちょっと強めの結界に風印っぽいガワを乗せる。

 

 天候も操りどんよりとした空気にして、周囲の動物達にも彼女を通して暫くの間立ち退いてもらうように説得。今にして思えばこの時の説得が一番大変だった。せっかくの自分達の住みかを一方的に奪われるのなんて嫌なんだと、それもそうだと納得した俺達は周囲に変な輩が近付いてこないか、これを監視して欲しいという事を条件に“廃棄世界”での生活を保証することにしたのだ。

 

 何なら結界内で生活しててもいいしね。

 

 その後は俺と黒竜の戦いの反動で傷付いた大地もアリアの力で誤魔化し、パッと見で廃棄世界の竜の谷、そこにある黒竜を封じた風印は再び完成したと言うわけだ。

 

 …………え? それだけの工作、一人の精霊で成し遂げるとは思えない? 見れば今のアリアは質は兎も角力の程は普通よりチョイ強めの精霊程度にしか見えない?

 

 ………ふぅ、やれやれ。どうやらすっかり騙されていたようだね。仮にも神が嘆かわしい。

 

 今のアリアを普通の精霊と言ったね? 逆に聞こう、一体何時からアリアが嘗ての力を取り戻せていないと錯覚していた?

 

 アリアが契約を結んだ相手はこのベジット。自分と契約を結び、パスを繋いだことで俺の力が彼女の方へ流れ込み、既に彼女の力は全盛期の頃を取り戻しているのだよ。

 

 その彼女が自ら分身………いや、分霊か? を造り出す事に成功し、現在は風印の管理、動物達と共に監視、廃棄世界を守護してもらっているという事だ。

 

 本来の大精霊の力が、Lv.4程度の力の訳がない。その程度の力しか出せないのは文字通り力の大部分を結界の維持に割いているからだ。

 

 因みに、分霊との意志疎通は出来ているので何かあったらアリアを通してベルを除いたヘスティア・ファミリア全員に連絡が届くようになっている。

 

 とは言え、ここまで来るのに数年掛かった。何だかんだアリアが力を取り戻すのにそれなりに掛かったし、結界の維持には俺も手助けをしたりしている。

 

 他にも時々ラキア王国に様子を見に行って気の指導とかしてたから、ここ最近オラリオでの活動はすっかり下火になってしまった。

 

 ────以上。これが、ヘスティア・ファミリアが隠す黒竜討伐。その全貌という訳だ。

 

 あ、それとこの事はレオンとバルドル様も知ってるから、何かあった時話を合わせて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベジットー、ミアハとディアンケヒトを別室に寝かせてきたよー」

 

「おう、ありがとうなアリス」

 

「食堂の冷蔵庫にプリン作っておいたから、一つ食べて良いぞ」

 

「わーい!」

 

 日もすっかり落ち、夕焼けがオラリオの街に色付いていく。外から聞こえてくる人々やダンジョンから帰ってくる冒険者達の声を聞きながら、ベジットはやり遂げた様に背を伸ばす。

 

「いやー、やり遂げたー。重荷も大部分下ろせた気がするぜー」

 

「重荷というか爆弾だな。医神の二人の顔を見たか? ほぼ廃人だったぞ」

 

「千年前から続く黒竜は人知れず討伐され、表面上その事実は隠された。他ならぬ討伐した本人と風印を施した大精霊の手によって」

 

「バレたら後が怖い。何てレベルじゃねぇぞコレ」

 

「ベート、バレると思うからバレるんだ。逆に考えたら良いんだ、バレちゃってもいいさと」

 

「その開き直り、絶対他のみんなの前でやらないでよ? 袋叩きにされるから」

 

 軽口を叩き合う仲間、ベート達は白けた様子でベジットを見るが、対するベジットは終始気分は上々。フィン達の追求も逃れられ、隠蔽工作も完璧の仕上がりだと自負するベジットにとって黒竜討伐による問題は最早片付けられたと判断していた。

 

「ミアハ様とディアンケヒト様もこちら側に落ちた。今後は二人も話の辻褄合わせに協力してくれるだろうよ」

 

「協力というか、協力せざるを得ないというか。バレたら下界は大混乱になる事を考えると、半ば強制だった気もするけど?」

 

「ハハハ、ヤダなーヘファイストス様。人聞きの悪いことは止めてくれよ。俺はただ、下界の安定に協力してくれと言っただけだぜ?」

 

「黒竜討伐。まさかその詳細を聞いただけで共犯になるとはねぇ。時代の流れは残酷だわ」

 

「何時だって世界には残酷な現実で満ちてるものさ」

 

「あら、知ったかぶっちゃって。それならこの間の大剣修復の件、割引は無かった事にしても?」

 

「あ、あ、嘘嘘ゴメン。謝るから割引無しは勘弁して」

 

 ヘファイストスはすっかりベジットの扱いも馴れたようで、手慣れた感じでベジットを転がしている。それを面白可笑しく弄る神友に微笑みながらヘスティアも話に参加する。

 

「でも、何はともあれこれで一安心なんだろ? それなら、次は未来の話をしようじゃないか」

 

「未来?」

 

「そうさ。自分のやりたいこと、目標は生きていくのに必要なモノ。例えばザルド君、君はこれから何がしたい?」

 

「俺か? そうだなー……冒険者は実質引退した身だし、店でも開きたい、かな」

 

「おー、良いじゃねぇか。ミア母さんのライバル店になりそうだ」

 

「アルフィア君は?」

 

「ベルを一人前の男にする。……一先ず、それ以外は今は考えられん」

 

「まっ、可愛い妹の忘れ形見ってんなら、それもアリだな。ベートは………例のあの技(・・・・・)は? 進捗はどうなってる?」

 

「────焦らなくても、その内テメェに叩き込んでやるよ」

 

 過去の話に一先ずの区切りを打ち、次にこれからの話をしだすベジット。明るく、楽しそうに笑い合う彼等にヘファイストスとヘスティアも嬉しくなる。

 

「それじゃあ、私も今日はご相伴に預かろうかしら。噂の【暴食】の手料理、アタシも堪能したくなっちゃった」

 

「良いだろう。準備しておく」

 

「じゃあ、その前に………やる事片付けようか」

 

「あ? なんかやる事あったっけ?」

 

 何やら最後の一仕事があるようなヘスティアの言い方にベジットは訝しむ。

 

「何言ってんだいベジット君、ミアハとディアンケヒトの本拠地(ホーム)に連絡しなくちゃでしょ」

 

 言われて気付く。そう言えば現在医神ミアハとディアンケヒトはベジットの黒竜討伐の詳細を聞いて絶賛気絶中。現在は館の一室でそれぞれベッドでスヤァとお眠り中。

 

 あの様子だと明日の朝まで起きないだろう。そこまで考えてベジットはハッと我に返り……。

 

「そ、そういう事なら仕方ない。ミアハ様の所には俺が────」

 

「んじゃあ、ちっと【医神の忠犬(ミーヤル・ハウンド)】に話を通してくるわ」

 

「よろしくねぇ」

 

 しかし、既に先手は打たれていた。ベジットが挙手するより早くベートは外出し、スタスタと館から離れていく。

 

 ザルドはそろそろ帰ってくるベルとリリルカに備えて晩飯の用意。アルフィアは………既に姿を消していた。

 

 残されたのはベジットとヘスティアだけ、ヘファイストスはザルド同様食堂へ向かってしまっている。

 

 ダラダラとベジットの顔から汗が流れ脳裏に先日の銀髪の聖女(悪魔)の顔が過る。ベジットは断言する、黒竜なんぞより怒れる看護婦(ナイチンゲール)の方が余程恐ろしいと。

 

「ベジット君、僕も付いていくからさ、ね? 頑張ろう?」

 

「─────うん」

 

 慈悲深い処女神に促され、ソファーから立ち上がる。トボトボと歩き出すベジットの前に……。

 

「ベル・クラネル、ただいま帰りましたー! って、あれ? 団長、今からお出かけですか?」

 

「あぁ、ベルか。ダンジョンから帰ってきたのか」

 

「は、はい。そうなんですけど………その、大丈夫ですか?」

 

 ベジットの並々ならぬ雰囲気に戸惑うベル。新入りも、それもまだ十代の半ばの幼さが残る少年に心配されたベジットは、自嘲の笑みを浮かべ……。

 

「────フッ、覚えておけ少年。大いなる力には大いなる責任が伴うものさ」

 

「は、はぁ………」

 

「今はまだ分からなくて良い。それじゃあヘスティア、行こうか」

 

「はいはい」

 

 先程まで項垂れていた背筋を立てて前を向く。確りとした足取りで館を後にするベジットの背中をベルはただ呆然と見送る事しか出来なかった。

 

「えっと………何か、あったのかな?」

 

「どうかご無事でベジット様。晩御飯の確保はリリがしておきます」

 

 隣で色々と察したリリ、その敬礼はとても凛々しく、去り行くベジットの背中をずっと見送っていた。

 

 後にベル・クラネルは語る。あの時の団長は、まるで刑罰を受ける囚人のようであったと。

 

 

 

 

 

 

 





補足説明

Q.結局竜の谷はどうなってるの?

A.ベジットとアリアの工作により、現在竜の谷は元の形(黒竜存命時)に戻っております。
但し、結界の中は動植物で満ちており、なんなら日頃から天候が穏やかで住みやすい環境となっている。

Q.本当にバレないの?

A.数多の困難を乗り越え、遂に黒竜討伐へ乗り出したオラリオ在住の幾多の冒険者達。

 覚悟と決意を胸に竜の谷へ乗り込み、黒竜との決戦に挑むが、一人の男が待ったを掛ける。

「黒竜の気配がない」

 男がそう呟くと風の大精霊の風印は解かれ、結界内部は明らかになる。

 そこに広がるのは自然に満ちた世界だった。廃棄世界と呼ばれ、人類から見捨てられた筈の大地が新たに生命の苗となっている。

 誰もが戸惑うなか男────ベジットは呟く。

「そうか、黒竜はとっくに倒されたのか」

 そう、人類が乗り越えるべき終末機構である黒竜は既にゼウス・ヘラのファミリアの手によって時間差で倒されていたのだ。自分達の前に置かれている黒竜の鱗がその証。

 こうして、下界救済は成された。ありがとうゼウス・ファミリア! ありがとうヘラ・ファミリア! 君達のお陰で下界は救われたのだ!

 めでたし、めでたし。

「と言うのが、俺の計画という訳だぁ」

「………何というか」

「絶対何処かで破綻するだろ。それ」

「無問題だぜベート。この事はバルドル様も承知している。レオンは渋ってたけどな」

「あっ」(察し)

 はてさてこの先どうなりますことやら。



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