ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

8 / 124

寒暖の差で身体がバグりそう。

そんな訳で初投稿です。

 あまり言うほどギャグじゃないかも。


物語8

 

 

 

 その【黒】を、私は知っている。

 

 その【威】を、私は知っている。

 

 優しかった父を奪い、優しかった母を壊し、英雄を殺し、私から何もかもを消していった────化物。

 

 その【黒】を、私は忘れない。

 

 その【威】を、私は忘れない。

 

 あの化物を殺し、壊し、奪い尽くすまで、私の生は止まらない。

 

 滲み出そうになる私の中の【黒い風(憎悪)】を、僅かに残った理性が押さえ付ける。まだだと、今ではないと、ファミリア(家族)のみんなで造り上げた自我が、私を人のままでいさせてくれた。

 

けれど、その代わりに闇派閥への対処なんて頭から消し飛ばし、地を駆ける。後ろから保護者の声が飛んでくるが………聞こえない。

 

 全ては奴を斃す為、私は風を纏って駆ける。

 

 幾つもの建物を飛び越え、いつしか廃墟の教会へ辿り着いた私が………其処で見たモノは。

 

「────あ」

 

「………………」

 

 口元を血で染める黒いドレスの女の人と、それを抱える黒髪の男の人。

 

予想していたモノと違う光景に、私の荒立った精神はスンッと引き潮のように鎮まっていく。

 

「え、えっと………その、これはねお嬢ちゃん」

 

 こういう場合の対処法を主神(ロキ)から教わった事を冷静に思い出した私は、息を大きく吸って────。

 

お巡りさぁぁぁん(ガネーシャ・ファミリア)ッ!!」

 

「ちょっと待ってェェェッ!!」

 

 市民の義務を果たそうとする私の務めは、追い付いてきた保護者(リヴェリア)の拳骨によって中断された。

 

解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 危うく社会的に抹殺されそうになったベジットは、直後に追い付いてきた保護者と思われる緑髪のエルフの女性によって事なきを得た。

 

現在、三人は廃教会の中へと入り、灰の女性をチャペルチェア(教会椅子)に横へ寝かせる。

 

「連れが迷惑を掛けた。私の名はリヴェリア・リヨス・アールヴ、ロキ・ファミリアの副団長をしている。そしてこっちが………」

 

「アイズ、アイズ・ヴァレンシュタイン。同じくロキ・ファミリア………です」

 

「俺はベジット。あの状況なら仕方が無い。気にしないでくれ」

 

 エルフはプライドが高く、よく他の種族を下に見ていると聞くが、目の前の彼女にはその様子はなく、明らかに事案な光景だった自分の事を即通報したりせず、キチンと話を聞いてくれた。

 

それでも申し訳なそうに頭を下げてくるリヴェリアを、ベジットは気にするなと水に流す。

 

「そうか、君がベジットか。君の事はフィンから聞いている。今は大変な時だが、どうかよろしく頼む」

 

「ご存じの通り新米なんで、あまり期待しないでくれると助かります」

 

「フッ、そういうことにしておこう」

 

 意味深に微笑むリヴェリアに対して、ベジットは引きつった笑みしか出せなかった。

 

(いや、そういうことってどういうこと!? あの合法ショタ、俺をどんな風に吹聴しやがった!?)

 

 やはりあの小人族は油断なら無い相手だった。自分の知らない所で変な期待値が変動している気がして、ベジットの内心は荒波立っていた。

 

「と、所でロキ・ファミリアの人がどうしてここに? ここら辺一帯は廃墟しかないって聞いたんだけど」

 

「あぁ、それは………」

 

「アレから、黒竜を感じた」

 

 取り敢えず、二人の目的をそれとなく訊ねようとした時、金髪の少女アイズが応えた。

 

彼女が指を指す先には、壁に立て掛けられた黒竜の鱗、他にも牙やら爪やら色々詰められたそれを、ベジットの込めた気で補強された布で包まれている。

 

 気の所為か、リヴェリアなるエルフの気配が幾分か鋭くなった気がした。

 

「………ベジット君、君はアレが何なのか承知しているのか?」

 

「あぁ、アレは俺がこのオラリオに来る途中で拾ったモノだ。ただ………」

 

「ただ?」

 

「俺が拾った時からアレはあの状態だった。形状から見て、最初は何らかの巨大な魔物の素材アイテムだと思ってな、その時はラッキー程度にしか考えず、持ってきたんだよ。まさか黒竜のモノとは思わなかったが」

 

嘘である。

 

 ベジットが現在口にしている嘘は、予め二柱の女神と共に考えたモノである。即興で練った内容である為、内心は冷や汗ダラダラの心臓バクバク状態である。

 

「アレが黒竜の鱗だと知ったのは、ヘファイストス様に鑑定して貰った時だ。あの時に初めてこの布を取ったんだ」

 

「そうか、ギルドからの報告にロキが違和感を覚えると言っていたが、そういう事情があったのか」

 

 尤もらしい事情にリヴェリアが納得し、このまま押し切ろうと、ベジットは冷静を装って話を続ける。

 

「できればこの事は内密にして貰いたい。唯でさえ大変な状況なんだ。黒竜の素材がでてきたと知られたらどんな混乱を招くか見当も付かない」

 

「確かに、それは私も同感だ。何かの間違いで闇派閥の手に渡ったと考えるとゾッとする。………そんな訳だ、今だけは一時休戦とさせてもらうぞ、アルフィア(・・・・・)

 

「へ?」

 

 今の緊迫した状況で、優先するべき事項を確認。誘導と目的意識への同調をさせる事で黒竜の話題を逸らさせる。

 

ヘファイストスと積み上げた嘘が通った瞬間に、ベジットは内心で安堵する。ヘスティア? うん、まぁ………頑張ってはいました。

 

これで話を有耶無耶にして、素材を回収して出直しを図ろうとベジットは企むが。

 

「なんだ、気付いてたのか」

 

 背後から聞こえてきた声に振り返ると、チャペルチェアを背に起き上がっていたアルフィアなる女性が其処にいた。

 

 ベジットの表情が歪む。それは目の前の彼女が起きていた事じゃない、目は瞑っているモノの明らかに苛立ちの表情を浮かべている灰の彼女が、今噂になっているアルフィアなる輩だからだ。

 

「あ、アルフィアって、ヘラ・ファミリアの!?」

 

「喚くな煩わしい。殺すぞ」

 

 怖い。出会った時からそうだが本気で怖い。自分を見るなり吐血して気絶する程だから何らかの病を抱えているのだろうが、それを悟らせない程の迫力が彼女にはあった。

 

「無理をするな、お前程の女が一時的とは言え気絶する程なんだ。………やはり病は克服できていなかったか」

 

「それがどうした。たとえこの身が病で蝕まれようと、お前達程度磨り潰すのにさほど苦労はしないぞ」

 

「!」

 

 灰の女───アルフィアから凄まじい程の殺気が辺りに充満していく。産まれた時から病を患い、三大冒険者依頼(クエスト)を経ても尚、その迫力は衰える事はなかった。

 

アイズと名乗った少女が、アルフィアの威圧に圧されて剣の柄へ手を伸ばすが、リヴェリアが手で制止する。

 

「ここでか? ここは、お前とお前の妹にとって大切な場所ではなかったのか?」

 

 呆れた様に諭すリヴェリアにアルフィアは薄く目を開いて威嚇する。翠と灰のオッドアイに射貫かれて、アイズは緊張に身を竦ませるが、ベジットは全力で目を逸らしていた。

 

軈て、その目を再び閉じると放っていた殺気を収めてベジットへ向き直る。

 

「───おい、そこの()男」

 

「お、俺?」

 

「それをここに置くことは罷りならん。別の所にでも埋めておけ」

 

「べ、別の所とは?」

 

「ここでなければ何処でも良い。エレボス達には黙っておいてやるから、さっさと失せろ」

 

 気の所為か、人に対する当たりが自分だけ露骨に強い気がする。敵意全開のアルフィアに流石に落ち込むベジット、そんな自身の背中を優しくポンポンと未だ幼いアイズが叩いてくるので、優しさを感じると同時に自分がより惨めに感じた。

 

 背を向け、それ以上アルフィアが何かを語る事はなかった。どうやらこの場で戦いを始めるつもりはないのだろう、彼女の気紛れに甘んじる流れでベジット達は教会から出ようとした。

 

その際に。

 

「────一つ聞かせろ」

 

「ん?」

 

「お前、私に何かしたか?」

 

 先に出ていくリヴェリア達に聞こえない程度の声量、しかしその言葉には嘘を許さぬ圧があった。

 

背を向けて置きながら、視線だけはこちらに向けてくる。敵意に満ちた翠の瞳を、ベジットは正面から見据えて。

 

「────いいや、なにも(・・・・・・・)

 

 不敵に笑みを浮かべて黒竜の素材を回収すると、リヴェリア達のあとを追った。

 

そんなベジットの背中を見送ると。

 

「ふん、嘘つきめ(・・・・)

 

 自分を終始怯えたフリ(・・)をしたふざけた怪物に向けて吐き捨てるのだった。

 

 ────それから少しして、教会から少し離れた人気の無い所で素材を埋め隠し、ベジット達はメインストリートに向けて歩いていた。

 

「いやぁ、助かったぜリヴェリアさん。お陰で闇派閥に殺されずに済んだ」

 

「偶々タイミングが重なり、幸運に恵まれただけだ。次はこうはいくまい。しかし、君も中々度胸があるな。知らなかったとはいえ、あのアルフィア相手に堂々としていられるとは」

 

「アンタという虎の威を借りただけさ。一人だったら白目を剥いて気絶していたよ」

 

「本当か? 私から見れば、君も中々の強者の様に見えるが?」

 

「それこそまさかだ。俺はこの街に来たばかりの新米だぜ?」

 

「自分を卑下する必要はない。君の佇まいは幾度も窮地を潜り抜けた戦士のそれだ。仮に君がLv1だとしても、私は侮りはしない」

 

 微笑みながらこちらを見据えるリヴェリアの瞳に、ベジットの肩はビクリと揺れる。彼女の美しさに見惚れたのではなく、鋭い指摘にビビった意味で。

 

「確か、君と女神ヘスティアは今は鍛冶神のヘファイストスの所で厄介になっているのだろう? ちょうど我々も近くを通る所だ。送っていこう」

 

「いや、それは流石に悪い。アンタはこの街でも有数の実力者なんだろ? 今の状況で、アンタ程の戦力を遊ばせて置く余裕はないんだろ?」

 

「そう言ってもな」

 

 そう言って、リヴェリアは苦笑いを浮かべて指を指してくる。視線を向けると、自分のズボンを小さな手が掴んでいるのが見えた。

 

「あの、ヴァレンシュタインちゃん………だっけ? 俺のズボンを掴んでどうしたのかな?」

 

「アイズで良い。長いから」

 

「あ、そう? いや、そうじゃなくて………」

 

「大丈夫、いざとなったら、私が守るから」

 

 最初は自分を社会的に抹殺しようとした娘が、どうしてこうも拘ってくるのか。

 

「それに、君にはまだ聞きたいことがあるからな」

 

「え? な、何か他にありましたっけ?」

 

「先程の黒竜の素材、アレは何処で手に入れた?」

 

 視線を鋭くして問い掛けてくるリヴェリア、どうやらまだ自分に掛けられた何らかの疑惑は解かれていないらしい。

 

まぁ、彼等の事情を考えれば当然かと、納得しながらベジットは応えた。

 

「竜の谷から、遠く離れた森さ。俺が見付けた時は辺りにはモンスターの影も形もなかったから、妙だとは思ってたんだが………」

 

「その森、近くに集落は無かったのか?」

 

「流石にその辺りは調べたさ。でも、マジで人っ子一人もいなくてさ、なんなら動物もいなかった。今思えば、あの素材から滲み出る威圧とやらに恐れたんだろうな」

 

 これは半分ではあるが嘘ではない。その森はベジットが竜の谷へ向かう際に訪れた場所で、人も動物も少ない所から暫くの間は修行の拠点にしていた程だ。

 

 その事に触れたのか、リヴェリアの鋭い視線は一旦閉じられ、再び見惚れる程の笑みが向けられる。

 

「いや、疑ってしまって済まない。今我々は様々な事態に警戒している最中でな、ありとあらゆる場所に闇派閥の手が加えられていないか洗っている途中なんだ」

 

「だろうな。そこで昨日来たばかりの俺が黒竜の素材を持ってきたと知られたら、そりゃ警戒もしたくなる。………なんなら、今すぐガネーシャ・ファミリアに俺を差し出しても構わないぞ?」

 

「そこまではしないさ。君の事はフィンから聞いていると言ったが、それ以上に女神ヘスティアの神格をロキから聞かされている」

 

 それはもう耳に蛸ができる程に、と、呆れた様子で肩を竦めるリヴェリアにベジットも苦笑いを浮かべた。

 

「リヴェリアさん! ここにいたんですね!」

 

 そんな時、メインストリートの向こうから一人の少女、アーディが少し慌てた様子で走り寄ってきた。

 

「良かった。ベジットさんも一緒だったんですね」

 

「お前は、象神の杖(アンクーシャ)の妹の……」

 

「アーディです。お忙しい中大変恐縮なんですが、闇派閥制圧の為に力をお借りしたいんです。正式な依頼(クエスト)として、後日ギルドから報酬を………」

 

「バカを言うな。この状況で金勘定の事まで口にする必要はない。場所は?」

 

「はい。此処から少し離れた工業区画の工場にて闇派閥の活動を確認──って、え?」

 

「あ、おいアイズ!」

 

 アーディからの質問を途中に、金色の光が風となって駆けていく。恐らくは子供の正義感故の先行なのだろうが、振り回される保護者は大変そうだ。

 

ただ───。

 

「これ、もしかして俺も向かった方がいい流れ?」

 

「た、多分………」

 

 ここで何も言わずに別れるのは少しアレかと思い、アーディの後押しもあって、ベジットも二人の後を追うのだった。

 

「アーディ! ここに噂のベジットが来たというのは本当か!?」

 

「あ、はい。今さっき向こうに行っちゃいましたけど」

 

「Noooooッ!!」

 

 象神、二度目のすれ違いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、報告にあった工場に向かってから数分、ベジットは辺りに転がされている闇派閥を見て、一人感心する。

 

「いやーあのアイズって幼女、かなりやるなぁ。切り口が素人のソレじゃねぇぞ」

 

呻き声を漏らして倒れる闇派閥の手足は、鋭い刃物で切り裂かれており、どれも一太刀で付けられていたモノで、自爆されないよう配慮されたモノだと分かる。

 

時間と経路からして、アイズという幼き剣士がやったモノ。リヴェリアは恐らく魔導士とやらなのだろう、杖持ってたし。

 

 まだ10代になるかならないかの年頃の少女が、剣を片手に大人相手に無双している。マジで修羅の街じゃねーかと、ベジットはドン引いた。

 

そうして辿り着く目的の工場、聞こえてくる剣戟の音から、どうやらアイズが誰かと戦っているらしい。

 

 中へと入ればやはり闇派閥の構成員が倒れている。だが、リヴェリアの姿はない。思ったより規模が大きいからはぐれてしまったのだろうか?

 

 仕方なしとベジットが音のする方へ向かえば、予想通りアイズが誰かと斬り合っていた。

 

そしてその相手は覆面のエルフ、アレは確か………アストレア・ファミリアの所の眷族じゃなかったか?

 

「正義のファミリアが、幼女と斬り合っている?」

 

「────は」

 

 何やら追い詰められた様子のエルフだったが、此方を見掛けると動きを止める。

 

「あ、ベジット。来たんだ」

 

 そしてアイズの方もベジットに気付いて動きを止める。

 

 沈黙する事数秒、その間に全ての事情を察したベジットは、大きく息を吸い込み。

 

「あ、あの、これは………」

 

リヴェリアさぁぁぁんっ!!(ママァァァァァッ!!)

 

「違うのォォォォッ!!」

 

 廃棄された工場に、エルフの慟哭が木霊した。

 

 

 

 





Q.ベジット、下手に出過ぎじゃない?

A.現在ベジット君は自分の力が周囲にバレないように工作作業をしている(つもりの)模様。

尚、一部には勘づかれている模様。

 そして、その工作は長続きしないものとする。
具体的には死の七日間の決戦日辺り。

Q.このアイズ(幼女)、ベジットに懐いてね?

A.懐いているというより、興味を抱いている感じ。

ベジットの本質(パンピー的精神性)に妙な父性を感じている……そんな感じ。

尚、冒険者としてはベジットの方が後輩なので、後々先輩ぶる予定。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。