ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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「貴様はそうしてガチャを回すことしか出来ない男だ! エゴでしか戦っていない! 貴様の為に何個の石が犠牲になったと思っているんだ!?」

「聞きたいかね? ………昨日までの時点では99822個だ」

「─────何?」

「レディ、今日のガチャ結果は?」

「現在確認されているのはオルガマリー200連、アルクェイド80連。共に爆死です」

「分かった。………後で明細を教えてくれ」

「ハッ!かしこまりました!」

「きっ………貴様ァ!!」

 そんな訳で初投稿です。




物語80

 

 

 

 ────その日のベジットの朝は何時もより早かった。

 

 まだ迷宮都市の住人が眠り、街並みが静謐に満ちる時間帯。都市を囲む壁、その城壁の上で朝日が昇るのを待ちながら、ベジットは座禅を組み瞑想に浸っている。

 

(──────)

 

 研ぎ澄ませるのは自身の裡にある神の気。数年前の竜の谷(跡地)での一件から、ベジットは時間があれば進んで己の鍛練に勤しんでいた。

 

 身体を鍛え、想像(イメトレ)で己を追い詰め、兎に角神の気を自分のモノにしようとベジットは己の鍛練を続けた。

 

 時には自身の主神であるヘスティアやあの場にいた神々に教えを乞う事で神の気への理解を深め、自己鍛練に組み込んできた。

 

 今日まで至る日々の中、原作でも詳しくは描写されず、殆んど手探りだった神の気の鍛練。この日、そんな日々が報われる事になる。

 

(───もうちっと(・・・・・)、か)

 

 ベジットの髪が明滅する。うっすらと赤みを帯び始める頭髪、このまま行けば神の気は完全に掌握出来る様になる。周囲に溢れないよう抑えながら続けていると………ふと、此方に近付いてくる気配があった。

 

「────ベルか。珍しいなこんな朝早くから」

 

 確信した様子で名指しで呼ぶと、角の方から気配がビクリと驚く様子が感じ取れた。相変わらず反応が良い奴だと、微笑みながら座禅を解いて壁の上の通路に降り立つ。

 

「す、すみません団長。なんか……お邪魔しちゃって。鍛練、されてたんですよね?」

 

 現れたのはヘスティア・ファミリアの新入り、ベジットと同じLv.1でありながら既に次の位階(レベル)に片足を突っ込んでいる期待の新人(ベル・クラネル)

 

 ベジットの修行を邪魔をしたと思い、申し訳なさそうに項垂れるベルに派閥の長であるベジットは笑った。

 

「ハハハ、気にする必要はねぇさ。お前が来る前から鍛練は殆んど終わってたし、俺の課題も片付きつつある。何より、新入りのお前が来ただけで集中力を途切れさせたりしねぇよ」

 

 どちらかと言うと、自分のしようとしている事を見られてしまう方が問題だ。ベジットが為そうとしているのは人類史を遡っても前人未到の領域、人目に晒されては余計な混乱を恐れて敢えて人目の無い場所で瞑想を続けていただけなのだから。

 

「そんな事より、今日はどうしたんだ? 一応この間の騒動の後でステイタスも更新されたから、今日はダンジョン探索の方は休みの筈だろ?」

 

「は、はい。そうなんですけど………なんだか落ち着かなくて。神様────ヘスティア様からこんな凄い短剣(ナイフ)を戴いてから余計に、その……」

 

「ジッとしてはいられないって?」

 

 ベジットの問いにベルは小さく頷く。主神から戴いた短剣はヘスティア自らヘファイストスに頼んで造って貰えたオーダーメイド。

 

 主神であるヘスティアの神血(イコル)を垂らし、彼女の眷族だけが扱えるとされる特注品。

 

 その中でもベルの短剣は特別(スペシャル)で、持ち主に合わせて共に成長するという特異性を持ち、それは成長促進の稀少スキルと界王拳という技を会得した事で急激な成長を遂げているベルにとって、最適とも言える一振りである。

 

 素材から造りまで、全知零能な神であっても職人の神であるヘファイストスの鍛冶の腕前は天下一品。故にお値段も高く、価格は驚愕の二億ヴァリス。

 

 ヘスティア・ファミリアの総資産の四分の一程消し飛んだが、まぁそれは別に良い。リリルカの槍やベートの武装も似たような値段だし、それだけの性能が短剣には秘められているという鍛冶女神のお墨付きでもあるわけなのだから、ベジットとしては別に問題はない。

 

 何よりその程度二週間深層に潜れば稼げるし(震え声)

 

 ただ、そんな神装武器とも言えるベルの短剣(ナイフ)に対してベジットの持つ大剣は手加減用の“ドラゴンころし”

 

 お値段は500万とヘファイストス手製である筈なのに絶妙に低いラインで(それでも高いが)、高価な素材で造られている筈なのに滅茶苦茶軽い。

 

 使われた素材的に此処まで軽いのは椿曰く有り得ない所業らしいので、ベジットの大剣も神業で造られた神装武器である事に変わりはない。

 

 同じ造り手の筈なのに、どうして此処まで差が出てしまったのか。それだけがベジットの不服ポイントだった。

 

 何せ一度貸してみとザルドが手にした瞬間その軽さに笑い転げる程だ。一周回って名剣だと豪語するザルドをベジットはいつか泣かせてやると心に誓った。

 

 閑話休題。

 

「いいぜ、朝飯の時間までなら付き合ってやるよ」

 

「っ! あ、ありがとうございます!」

 

 強くなりたいと誓った少年、ヘスティア・ファミリアの眷族らしく向上心の高いベルにベジットは嬉しそうに頬を緩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────なに? リヴィラの街で【剛拳闘士】が殺された?」

 

「うん、今ガネーシャの所から使いの子が来てね。これからバベルの会議室で情報を共有したいから、主神共々一緒に来てくれって【勇者】君が呼び掛けているらしいよ」

 

 朝食も済ませ、眷族みんなで後片付けをしていた最中で突然館の扉を激しく叩く音が鳴り、その様子からただ事でない様子だと察したヘスティアが対応する。

 

 扉の前で酷く慌てた様子なガネーシャの眷族から渡された手紙の内容を漠然と口にすると、ヘスティア含め食堂にいる眷族全員に緊張が走る。

 

「【剛拳闘士】って、ガネーシャ・ファミリアのハシャーナ・ドルリア様ではないですか! 現時点でLv.4ではあるものの、第一級(Lv.5)への昇格も目前だった実力者の筈です! そんな方がどうして……」

 

「殺されたっつー事は、下手人は割り出せたんだよな? 何処のバカだ」

 

「その事についても話し合いたいってさ。悪いけどベート君、ベジット君。この後一緒にバベルまで来てくれるかい?」

 

「了解。ワザワザ手紙で寄越したんだ。フィンもこの事は次の神会(デナトゥス)まで悪戯に広めたくはないんだろ。ザルド、アリス、留守を頼む」

 

「了解した」

 

「はーい! 任せて」

 

「リリルカはアストレア・ファミリアに向かって【狡鼠(スライル)】から話を聞いて貰えるか接触してくれ。オラリオの情報に通じている彼女だ、何か知ってる事もあるかもしれん」

 

「了解です」

 

 それぞれに指示を飛ばしてベジットも準備をする。一体下手人は何者なのか、数年前の闇派閥との戦いを思い出しながら、ベジットとヘスティア、そしてベートはフィン達が待つバベルへ足を急がせるのだった。

 

 ………因みにベル君は朝食の後、ギルド職員に誘われて防具の下見に向かっている。

 

 そんな甥の後をアルフィアがついて回ることをベル本人は最後まで気付かない。

 

 後に、白兎の黒い背後霊というオラリオの七不思議の一つが新たに誕生する事をこの時の誰もが知る由もなかった。

 

 いや何の話?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────赤髪の女テイマー?」

 

「あぁ、【剛拳闘士】を惨殺した下手人。その正体は現時点では例の食人花を従えている女性のテイマーだと思われる」

 

 迷宮都市の中心に聳え立つ摩天楼(バベル)。そこにある会議室にて久し振りにオラリオを代表する冒険者達が顔を合わせていた。

 

 その内の一つ、ロキ・ファミリアの団長であるフィン。18階層で起きた出来事を話す彼の情報はベジット達に少なくない衝撃を与えた。

 

「ギルドに登録されていない赤髪テイマー、か」

 

「【剛拳闘士】を殺せるという事は、少なくとも相手はLv.5以上は確定か」

 

 【怪物祭】でも現れた食人花。千年の歴史を誇るオラリオでも未確認とされている新たなモンスター、それを従えて18階層のリヴィラの街で暴れたと言うのなら、間違いなくその赤髪のテイマーは食人花の関係者と見て間違いないだろう。

 

 であれば、そのテイマーの背後にいるのは……。

 

「闇派閥の残党、ソイツらが水面下で動いてやがったのか」

 

「その可能性も高い」

 

「その可能性“も”、という事は他に何か心当たりがあるのか?」

 

 闇派閥の残党、数年前に綺麗に掃除した筈なのに再び性懲りもなく動き出したか。しつこすぎる生命力にベートは苛立ちを見せるとそれだけではないようなフィンの口振りにアストレア・ファミリアの副団長、輝夜が追求する。

 

 すると、フィンは懐から一枚の丁寧に丸められた紙を取り出し、ベジットに向き直る。

 

「───ベジット、君は数年前の“下層決戦”。27階層の出来事を覚えているか?」

 

「え? ………あぁ、覚えているぜ」

 

 数年前、まだこの場にいる殆んどが第一級の域に届いていなかった頃。大抗争で生き延びた闇派閥、長きに渡りオラリオに存在する邪神とその眷族達を確実に倒し、暗黒期に完全なる終止符を打つ為にフィンを筆頭に行われた掃討作戦。

 

 当時、ダンジョンに潜んでいる闇派閥を倒すためにベジットを筆頭に多くの冒険者達が討伐に名乗り出た。その中にはディオニュソス・ファミリアの面々もあり、話を振られたベジットは久し振りに思い出せた記憶の中の彼等を懐かしむように笑みを浮かべる。

 

 だが、懐かしい思い出の中に紛れているおぞましい影、階層主と融合し27階層を丸々変異させた異質の怪物の存在もベジットの脳裏に甦ってくる。

 

「あの時は色々と衝撃的だったなぁ。まさか人間とモンスターが融合するとはな」

 

「確か、あの時はベジットさんが階層主(アンフェス・バエナ)ごとオリヴァスを倒したのよね?」

 

 確認するように訊ねてくるアリーゼにベジットはそうそうと頷く。

 

「そう、ダンジョンという事もあって派手な技は使えなかったからな。再生する奴を倒すにはアレしか───待て」

 

 其処まで思い出し、ベジットはフィンへ向き直る。

 

 まさか、といった様子でフィンを見ると、フィンは肯定するように深く頷き、丸められた紙を全員の前で広げる。

 

「赤髪のテイマーがハシャーナ・ドルリアを殺害した原因、それがこの───”宝玉の胎児“だ」

 

 紙に描かれているのは球体の宝石に不気味な胎児が入っている奇妙な絵柄、ベジットの地味に高い絵心で描かれたその絵には言葉にできない異質さが滲み出ていた。

 

「うわぁ、なんと言うか………言い方悪いけど気色悪い絵だね」

 

「しかも結構絵心があるから余計にキモく見えるわ。コレ、ホンマにこんな感じやったんか?」

 

「直接目にしたアイズが確認している。間違いないと認識しても問題ないよ」

 

 ヘスティアとロキから若干懐疑の眼差しを向けられるが、フィンの間違いないという確信の言葉に二柱の女神はウゲーと顔を歪める。

 

「じゃあ、やっぱり闇派閥の残党………いや、それに類似する別組織の存在が?」

 

「あぁ、確実にいると僕たちは確信している」

 

「更に付け加えるのなら、闇派閥の残党もこの組織に深く関与している可能性もある」

 

「なら、やっぱり先日の【怪物祭】で現れた例の新種のモンスターは」

 

「あぁ、闇派閥(奴等)である可能性が充分高い」

 

 成る程と、フィンの説明していく内に当てはまっていく符号にベジットは納得したように頷く。

 

 先の【怪物祭】で暴れだしたモンスターに紛れて現れた新種のモンスター(食人花)。そして正邪決戦の時に現れたダンジョン産のモンスター。アレも闇派閥の何らかの目的で地下の下水道区画に潜めていたトラップであり、ダンジョンから別ルートで輸送したモノだったのだろう。

 

 そしてトドメにアリス(アリア)曰く、あの食人花は自分(精霊)を探し、求めていたと言う。

 

(いや、この場合食人花というより────その大本か。アリスを狙っているっていう存在ってのは)

 

 食人花を通してアリスが感じ取った悪寒、既に歪みに歪んで原型は最早留めていないが、もしかしたらアレは自分と同胞だった存在なのかもしれない。顔色の悪かったアリスはその時に感じた出来事をそう語っている。

 

(なら、アリスを狙っているのは精霊? 何で精霊がアリスを? 歪んでいるとアリスは言ったが、その原因は? そもそも、何故ダンジョンに精霊が?)

 

 うーん、と腕を組んで答えのでない難問に唸っていると、フィンの方から声が掛かってくる。

 

「ベジット、単刀直入に訊ねるがザルドとアルフィアから何か聞いていないか? 恐らく相手はダンジョンへの別の出入口を有している。大抗争の時、闇派閥に与していた彼等なら……」

 

「その事だがな【勇者(ブレイバー)】、何でもあの二人闇派閥に与していたのは良いが、殆んど別行動だった為に其処まで把握していないんだとよ」

 

「本当か? ………まぁ、確かに【暴食】も【静寂】も闇派閥の拠点に居座れるとは思えないが」

 

「ザルドは臭いが、アルフィアは音が酷いから連中とは其処まで付き合おうとしなかったらしいぜ。仲介役は例の邪神が担当していたらしい」

 

「エレボスね」

 

「ただ、アルフィアは18階層に向かう際、目隠しをされて移動していたみたいでな、何かしらの秘密の通路を通ったのは間違いないらしい。一応戻ったらもう一度確認するつもりだ」

 

「ロキ……」

 

「────嘘は無いな」

 

 アルフィアとザルドから何か情報は掴めないかと話を振るフィンだったが、代わりに答えるベートからの言葉は否、ロキに目配せても嘘は無かった。

 

 ただ、アルフィアの言う秘密の通路とやらが気になる。

 

「一応本人から聞かされた言葉をそのまま伝えたが、疑いがあるならウチに来て本人に直接聞き出す他無いんだが……」

 

「いや、それには及ばないし、恐らく無意味に終わるだろう。二人の言葉に嘘は無い。恐らく闇派閥も其処までは二人を信用してはいなかったんだろう」

 

「まぁ、当時の二人が病で弱っていたといっても、未だに破格の強さやからな。好き好んで自分達の腹に爆弾を飲み込もうとする奴はおらんやろ」

 

「ちょっとー、二人とも今は僕の眷族なんだから、余り悪く言わないで欲しいんだけど~?」

 

 ザルドもアルフィアも、恐らく嘘は言っていない。だからこそ途絶えた情報にフィンは頭を悩ませるが……。

 

「………いや、待て【凶狼】。ザルドは臭いが酷いと、そう言ったのか?」

 

「あ? ………あぁ、連中は決まってドブの様な酷い臭いを纏っていたとか」

 

「なら、闇派閥の残党が根城にしているのは下水道区画と見て間違いないわね」

 

「問題は、何処の下水道っちゅーかや」

 

「下水道と一言でいってもかなり広いよ? 伊達にオラリオのインフラを支えていないし……」

 

 うーん、と頭を悩ませる一同。そんな時ふとアリーゼが何となく口を開く……。

 

「……ねぇ、悪党って普通人の目を掻い潜れる場所を選ぶわよね?」

 

「え? まぁ、うん」

 

「なら、その辺りを条件として調べればある程度絞れるんじゃないかしら? 人目に付かないように、と言うのは逆を言えばそれだけ神経質になっているって事だもの」

 

 一理ある。アリーゼの何気なく口にした理屈に確かにと納得するフィン達、そんな彼等に自慢気に胸を張るアリーゼを輝夜が調子に乗るなと軽く小突いた。

 

「なら、調べる場所を……目標を簡潔だが取り決めよう。条件は“人目のない閉鎖的な場所、その下水道”」

 

「となると、やはりダイダロス通りが候補に挙がるな」

 

「せやろな。恐らく連中が隠しルートを持ってるなら、其処が一番怪しい」

 

「だが鉄板でもある。一応他にも候補を挙げてくれ」

 

「メレン港も一応人目には付かないか。彼処は嘗てダンジョンと直通の孔があった所だし」

 

「可能性は低いが……そこも手を入れるべきか。確かメレン港に居を構えるファミリアがいたな」

 

「あぁ、ニョルズ様の所だな。彼処とは俺も面識があるし、暇な時に顔を出しておくよ」

 

「なら、メレン港はベジットが担当やな」

 

 怪しいところ、候補に挙がるところ、それぞれ意見を出しあい誰が担当するか決めていく。

 

 そんな時、忘れてはいけないとロキがとある場所を挙げる。

 

「後は………歓楽街か。彼処も閉鎖的と言えば閉鎖的やな」

 

「歓楽街と言えばイシュタルのお膝元じゃないか。僕達はパスするぜ、純粋に顔を合わせ辛い」

 

「んな事言うとる場合か。大体その件はイシュタルの阿呆が一方的に敵意剥き出しなだけやろがい、手ぇ出してきたら軽く捻り潰せばええやろ」

 

「ロキは僕達を何だと思ってるんだ」

 

「ついこの間フレイヤん所を力ずくで反省させたバリバリの武闘派」

 

「オラリオの裏ボス」

 

「薩摩系小人族(パルゥム)発祥の地」

 

「おいこら」

 

 未だ深いイシュタルとの確執を気にしているヘスティアだが、ロキはそんなモノ気にせずに最悪強硬策(ゴリ押し)で通せば良いと言う。

 

 基本的に博愛主義なヘスティアとしてはそんな手段を取りたくないが、ロキ達から聞かされるヘスティア・ファミリアの印象を聞いてツッコミを入れざるを得なかった。

 

「別にええやん。ベジットなら気付かれることなく歓楽街を調べられるし、イシュタルの所に目ェ付けられても捩じ伏せられるやん」

 

「何なら【凶狼】一人でもどうとでもなりそうよね」

 

「逆に【静寂】が行けば更地になりそう」

 

「「「「分かる」」」」

 

「き、君達ねぇ」

 

 それからも話し合いは続くが、結局歓楽街への調査は一時保留という事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────チッ、アリアめ、妙な力を付けてくれる」

 

 モンスターが跋扈するダンジョンの奥深く。血のように赤い髪を揺らしながら、その女は巨大な植物のモンスター────オラリオで現れた食人花を操り、近場に蔓延るモンスターに食らい付き、瞬く間に魔石を徴収。

 

 大量の魔石を頬張り、噛み砕く。忌々しく表情を強張らせる赤髪の女はリヴィラの街で起きた闘いを想起し、更に苛立ちを募らせる。

 

「アリア………奴もそうだが他の冒険者も面倒極まりない。なんだあの白い炎は、連中がアレを纏い出した途端、急に強くなりやがって」

 

 思い出すのはアリア(アイズ)を筆頭に追い詰められた途端白い炎を纏い出し、一時は追い詰めた奴に押し返される羽目になった。

 

 そして最悪なことに、あの白い炎を纏えるのはアリアだけに非ず、小人族の男やエルフの羽虫までもが纏い、爆発的に地力を上げてきた。お陰で用意していた食人花(ヴィオラス)も全滅、虎の子の“胎児”も諸とも打ち倒されてしまった。

 

「明らかにオラリオの冒険者の力が上がっている。………面倒だな」

 

 あの様子だと、地上には他にも“白い炎”を纏える奴が控えているのだろう。そうなれば益々此方の目的は遠ざかってしまう。

 

 どうする。頭を悩ませてる赤髪の女テイマー。そんな彼女の元へ一つの報せが届く。

 

「─────なんだ。今はお前の相手をしている余裕は………なに? その力に心当たりがある?」

 

 赤髪の女以外に人影はなく、あるのは喰われるモンスターと喰らう食人花だけ。

 

「───良いだろう。そちらに戻る、準備をしておけ」

 

 それだけ口にして、女は闇へと消えていく。全ての魔石を食らい、全ての屍を踏み砕いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────夢を見ていた。

 

 それは、多くの───剰りにも矮小な命が消えていく光景。

 

 ────夢を見ていた。

 

 それは、一人の男が死に際に立ちながらも己の片目に斬り付ける光景。

 

 ───夢を見ていた。

 

 それは、己に挑み、敗北した者達の魂からの慟哭。

 

 そして────夢を見た。

 

 己の前に立ち、己れを見据え、己れを圧倒する力を。

 

 この夢を覚えている。鮮明で、苛烈で、バチバチで、ギラギラした────目映い光。

 

 嗚呼そうだ。己はこの光を覚えている。

 

 己の一切を打ち砕き、凌駕していく黄金の光。

 

 己は、これを覚えている。

 

 夢中だった。この光に、炎を消すことに夢中になり、けれど己とは隔絶した力がそれを阻む。

 

 苛立った。不愉快だった。苦痛だった。憤慨だった。屈辱的だった。

 

 そして────何より楽しかった。

 

 あの輝きをもう一度見たい。あの炎にもう一度触れたい。

 

 そして、そしてどうか願わくば─────。

 

 “────楽しかったぜ、またな”

 

 ──────再………セン…………ヲ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────眠れ、眠れ。母の子よ。

 

 ─────眠れ、眠れ。迷宮の子よ。

 

 ─────未だ時は来ず、未だ時は来ず。

 

 ─────眠れ、眠れ。愛し子よ。

 

 ─────眠れ、眠れ。終の子よ。

 

 ─────未だその時は来ず、永劫訪れず。

 

 ─────眠れ、眠れ。竜の子よ。

 

 ─────眠れ、眠れ。黒き子よ。

 

 ─────今はまだ、甘く蕩ける微睡みの中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

『───────ウフフフフフ

 

 

 

 

 





オマケ

その後の一幕。

「さぁて、一先ず話は纏まったし。飯でも食いに行くか」

「待ってくれベジット、少しだけ話をさせてくれ」

「あれ、リヴェリア? どしたん?」

「一言謝罪をしたくてな。先日の騒動の件、ウチのレフィーヤがお前に酷い態度を取ったらしいな。本当に済まなかった、お前とウチの関係は口酸っぱく教えたつもりなのに、アイツはまだその辺り理解していないみたいでな」

「仕方ねぇさ。エルフは他の種族より魔法の適性が高いけど、その分”気“との相性は悪い。特にレフィーヤは砲撃型の魔導師みたいだし、気を理解するのに時間が掛かるってレオンも言ってたしな」

 理解出来ていないのなら仕方ない。そう語るベジットにリヴェリアは首を横に振る。

「いや、それでもレフィーヤの態度は目に剰る。私もこれからはアイツを厳しく見ているつもりだが、ベジット。お前も不快に思ったら厳しく言ってくれても良いからな」

「別に気にしてねぇって。それにレフィーヤは普段は良い奴じゃねぇか、俺が最初に出会した集落のエルフ達に比べれば真っ当に会話が成立出来る時点でめっけもんさ」

「────以前から思ってたが、お前が出会ったというエルフの集落、そこで何があったんだ?」

「あぁ、何とかって森の大聖樹? そこからなんか枝かなんか盗まれたらしくてさ、俺が取り返したらなんか首謀者扱いされてよ」

「─────」

「いやー、危うく死刑になる所だったから、檻を破って逃げてきたわ。あの頃からエルフにはどうも苦手意識があってな。これでもリヴェリア達と出会って改善されたんだぜ」

 あの森の連中に比べたらレフィーヤはまだ可愛い方だ。だから気にするなと、笑い飛ばすベジットの肩にリヴェリアは手を置き……。

「────ベジット、本当に済まない。今度、私に食事を奢らせてくれ」

「………? お、おう」

 後で、【疾風】にも話を通しておこう。そう誓うリヴェリアだった。







「───何でしょう。今、言い知れぬ悪寒が」

「リュー、サボってんじゃないよー」

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