ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

81 / 125


天井で一枚。これで撤退か。いいや、まだだ!
夏のガチャを諦める覚悟で追いガチャ回すと、僕らの所長が来てくれた。

やったぜ。


そんな訳で初投稿です。



物語81

 

 

 

 その日、アイズ・ヴァレンシュタインは一つの出会いを果たした。始まりはダンジョンの18階層、“リヴィラの街”にて血と剣檄、そして一方的な因縁の出会い。

 

 【怪物祭】で現れた巨大な人喰い花。オラリオの街で現れた新種のモンスターがリヴィラの街にも出現、そしてそのモンスターを率いていたのは………赤髪の女だった。

 

 花のモンスターを操り、テイマーだと思われるその女の力は凄まじく、Lv.5であるアイズを容易く追い詰める程の実力者だった。

 

 それでも気を解放し、付与魔法(エンチャント)も駆使しての全力戦闘で押し返した事で、窮地から脱する事ができた。人喰い花のモンスターもその頃には駆逐し、頃合いを見計らっていた女テイマーには逃げられたが、18階層の騒動は無事に沈静化する事が出来た。

 

 だが、一方的な因縁は確かな宿命となってアイズを縛り付ける。赤髪の女テイマーは去り際にアイズを見てこう言った。

 

 “アリア”

 

 自分の母親、黒竜に奪われるまで共にあった大切な母親(ヒト)。アイズとアリアの関係を知る者はごく僅かで、団にもそれを知るのは主神(ロキ)とフィン、ガレスとリヴェリアのみである。

 

 なのに、あの女テイマーはアイズをアリアと呼んだ。その日、自身を母の名で呼ぶあの女テイマーと因縁が確かに生まれた瞬間である。

 

「─────ちょっと、早く起きすぎたかな」

 

 早朝。まだ朝日が顔を出していない時間帯、先日の出来事もあって中々寝付けなかったアイズは気分転換も兼ねてオラリオの街の散歩に出掛ける。

 

 迷宮都市を囲んだ壁を伝っての散策、薄暗い街に漸く日差しが差し込んでくる時間帯。人々が起き始める時間帯にてアイズの耳に金属同士がぶつかる音が聞こえてくる。

 

 一瞬冒険者同士による諍いかと思ったが、聞こえてくる音に殺気は混じっていない。

 

(誰かが戦って……うぅん、鍛練してる?)

 

 随分熱心だと感心しながら音の方へ近付くと、白い兎の様な少年が逆立った黒髪の青年に果敢に立ち向かっていく場面が飛び込んできた。

 

 その光景を見て、アイズは咄嗟に物陰に隠れる。

 

(あの子、やっぱりこの間ダンジョンで血塗れになっていた子だ。無事で良かった)

 

 一時は自分の見間違い、或いはダンジョンで亡くなった冒険者の亡霊なんて言われていたが、後の団長(フィン)の話ではあの子はヘスティア・ファミリアの新入りらしく、既にその事に付いては此方で対処したというフィンの話でミノタウロスの一件に付いてはなぁなぁに終わってしまっていた。

 

 当然、ヘスティア・ファミリアとはアイズが幼少の頃より付き合いのある派閥。自分達に“気”という力を与えてくれた恩人。時に鍛え、時に導いてくれたベジットはアイズにとって親戚の叔父さんの如く甘えられる対象でもあった。

 

 そんな彼の所の新入りを危うく死なせる所だった。本当なら今すぐ謝って頭を下げるべきなのに、ベジットに嫌われることを恐れたアイズは中々その一歩を踏み出せずにいた。

 

(うー、謝りたいのに足が前に進まない。ど、どうしよう。凄く……怖い)

 

 モンスターと対峙した時や、あの赤髪のテイマーと戦っていた時とは別ベクトルの恐怖がアイズを襲う。フィンはその件について話は付いたし、ベジットも気にしていないと言っていた様だが、当事者としてはやはり一度頭を下げに行くべきだろう。

 

 リヴェリアもそうするべきだと言っていた。時間が空き次第ヘスティア・ファミリアに向かいたかったが、ダンジョン遠征後のゴタゴタ、【怪物祭】での騒動とリヴィラの街の一件でついつい後回しにしまっていた。

 

(うぅん、謝る時は言い訳しちゃダメだってリヴェリアも言ってた。ヘスティア様にもお世話になっていたし、ちゃんとセイイある対応をしないと!)

 

 喜ばしい事に、ベジットを通じて世の中の仕組みを知るようになったアイズは、物事の筋の通し方と言うのをリヴェリアから学んでいた。ダンジョンに潜り、強くなることとモンスターを殺すことしか頭になかったアイズが、世の中の渡り方を知りたいと申し出た時は主神(ロキ)リヴェリア(保護者)同伴でディアンケヒト・ファミリアの聖女に看て貰う程に喜ばれた()。

 

 今のアイズ(自分)は昔とは違う。社会性のある大人なのだと自ら言い聞かせ、ヨシと意気込んで物陰から出ようとしたその時。

 

「さっきから何してんだアイズ」

 

「ピャッ!?」

 

 背後からのベジットの言葉に、心臓が止まりそうになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、そういう訳で本日は急遽ゲストとして参加して下さったアイズ君です。拍手ー」

 

「アイズです。宜しくお願いします」

 

「」

 

 近くでコソコソとしていた色々とバレバレなアイズを不憫に思ったベジットが、いきなり今日の朝の鍛練のゲストとして参加させる事にした。

 

 ベジットは身内ばかりではなく、他所の派閥の格上と鍛練させるのも良い刺激になるだろうというベジットなりの配慮のつもりだろうが、ベルにとって憧れの存在であるアイズが突然目の前に現れた事に愕然とし、言葉を失っていた。

 

 アイズもアイズでノリノリで参加し、丁寧に頭を下げている。ベルも礼儀正しく頭を下げているが、それはどちらかと言えば【静寂】による教育の賜物、ほぼ条件反射の様なモノだった。

 

「おいベル、何時までも白目を剥いて固まんな。相手は俺達弱小派閥なんかとは雲泥の差の圧倒的格上、天下のロキ・ファミリアの【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン様だぞ」

 

「ベジット、それ止めて。怒るよ?」

 

 明らかに緊張しているベルを揶揄するベジット、後ろでは頬を膨らませたアイズが抗議の眼差しを向けている。

 

 実際、ヘスティア・ファミリアは人数こそ弱小の域を出ていないが、保有している戦力は一騎当千の強者達ばかりで一人一人がそこいらの派閥を単独で滅ぼせる実力者。

 

 それを棚に上げて自らを弱小と名乗るベジットはアイズにとってこの上なく意地悪に見えた。故にポカポカとベジットの背中を叩くが、本人にとっては蚊に刺された程度にも感じないのだろう。

 

 その光景は叔父にからかわれて怒る姪っ子の図。憧憬の対象であるアイズの決して普段は目にしない顔にベルは呆然としていた。

 

「ホレ、何時までも呆けているな。ちゃんと挨拶をしなさい」

 

「───ハッ!? ど、どうして目の前にアイズさんがっ!?」

 

「純情すぎだろお前」

 

 頭を軽く小突いて挨拶を返せと促す。すると漸く意識を回復させたベルの一言はベルが固まる前と全く同じ台詞になっていた。

 

 このままでは無限ループしかねん。困惑して白目を剥きそうになっているベルの頭をグリグリと撫で回しながら、ベジットはアイズへ向き直る。

 

「そういやアイズ、お前昇格(ランクアップ)したみたいだな。気の大きさが以前とは比較になんねぇぞ」

 

「っ、───そう、やっぱりベジットは分かるんだ」

 

「あぁ、それも例の女テイマーとやり合って?」

 

 ベジットの問いにアイズは頷いて返す。先の赤髪の女との戦いで課題となっていたアイズの“耐久”のアビリティは“S”となった。

 

 当初の予定どおりのアビリティの全項目オール“S”。これによりアイズの位階(レベル)は6となり、名実共にオラリオの上澄み冒険者の仲間入りを果たす事になる。

 

 アイズはベジットの教えを受けて、気による戦闘能力のコントロールもある程度習得している。故に、普段は気を抑えて一般市民に溶け込める程度には擬態出来るようになっているが、それでも目の前の規格外(ベジット)には見破られてしまうらしい。

 

 相変わらず凄い人だと、アイズは尊敬の眼差しを向けるが……。

 

「大丈夫かぁ~? 折角昇格したのにまた負けたら、今度こそ言い訳出来ねぇぞ~?」

 

「こ、今度は負けないもん。………そもそも、私は負けてない!」

 

 ニヤニヤと悪戯っ子の様な笑みを浮かべるベジットにアイズは再び頬を膨らませてポカポカと背中を叩く。そんなベジットと憧れのアイズとのやり取りを目の当たりにしたベルは再び白目を剥いていた。

 

「さて、いい加減話を進めるか。アイズ、昇格に伴う身体のズレは修正したか?」

 

「うぅん、まだ出来ていない」

 

「なら、先ずはアイズのズレを直す所から始めるか。ベルは少し休憩な」

 

「は、はい!」

 

「アイズに見惚れてんなよ~?」

 

「し、しませんよ!」

 

 ベルをからかいながら休むように促すと、ベジットはアイズと対峙する。久し振りのベジットとの鍛練にアイズの顔は無意識に綻ぶ。

 

「さて、久し振りの手合わせだ。ルールは覚えているな?」

 

「魔法は無し、先に当てた方の勝ち……でしょ?」

 

 トントンとその場でジャンプし、身体の調子を整える。フィンやガレス、リヴェリアとの手合わせとは違う真剣で本気、けれど不思議と楽しみにしていたベジットとの手合わせ。

 

 彼と一緒にいると心が温かくなる。まるで父と母と一緒にいたあの頃と似たポカポカとした気持ちになれる。

 

 けれど、揶揄されるのが嫌いなアイズはその事を決して口には出さない。

 

「────行くよ」

 

「来い」

 

 笑みを浮かべるベジットに対し、アイズもまた口角が吊り上げるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「ウシ、大分動きが洗練されてきたな」

 

「はぁ、はぁ……うん、ありがとうベジット」

 

「喉乾いたろ、水持ってきてやるからちょっと休んでろ」

 

 ベジットの手合わせの時間は軽く見積もって10分弱。ダンジョンでも体験しない濃密な時間を一気に体験したアイズは、全身汗だくになりながら壁に寄り掛かる。

 

(────やっぱり、ベジットは強いや)

 

 昔から、それこそアイズが今より小さかった頃よりベジットが強いことは知っていた。手合わせだって気を修得するついで、或いは身体に馴染ませる程度のモノ。

 

 けれど、今回は昇格に合わせてかなり本気でやらせて貰った。握っている得物は木剣だが、それでもLv.6の冒険者に本気で殴られれば痛いでは済まない。

 

 なのに、どれだけアイズが木剣を振るってもベジットに当たる処か掠りもしなかった。魔法も気も無し、それでもオラリオでも上位の剣士であるアイズの剣は一度も当たる事無く空を切るだけだった。

 

 時折ベジットが繰り出してくる拳や蹴りはアイズから見ても分かりやすく避けやすいが、当たれば無事では済まない威力を秘めていて、その上でフェイントや此方が体勢が崩れた時に仕掛けてくるから、何度も背筋が凍る思いをした。

 

 終わる頃には太陽の光が街を照らし、汗だくとなったアイズの視界に陽光が差し込んでくる。

 

 相変わらず出鱈目な強さ。七年前の時点でその強さは極まっていたと言うのに今も貪欲に強さを求めていると言うのだから、本当に頭が上がらない。

 

 それに…。

 

(ファミリアに属している眷族は他の派閥と必要以上に接触することを禁じられている)

 

 通常、神の眷族達はダンジョンでのトラブルを避ける為に必要以上に他派閥と関わろうとしない。それは地上でも同じで冒険者という神の眷族同士のトラブルに一般人が巻き込まれないようにする為の配慮も兼ねているからだ。

 

 勿論、そんなトラブルに一般市民が巻き込まれない為のガネーシャ・ファミリアであり、アストレア・ファミリアという治安を担っている派閥も存在する。

 

 だが、ベジットはそんな垣根も超えて簡単に此方に接触してくる。当時のアイズは特に気にしなかったが、今となってはそんなベジットの行いが少し異常な気もした。

 

 何せ、ベジットの扱う“気”という力は当時の自分達に大きな衝撃を与えた。魔力とは異なる力の概念、種族問わず鍛えれば鍛える程強くなれる力というのは当時のロキ・ファミリアにとって垂涎の代物に映った。

 

 極めれば自在に自身の力を抑制、増大させたり。コツさえ掴めば自由に空だって飛べる。その破格過ぎる力にフィン達は揃って気の獲得に専念していた時期もあった。

 

 お陰でロキ・ファミリアにはフィンを筆頭に数名の団員が空を飛ぶ術を身に付けている。アイズもその一人だ。

 

 ベジット……ヘスティア・ファミリアからすれば自分達の唯一の武器を与えたに等しいというのに、構わずベジットは自分達に気を教え続けた。結果、ロキ・ファミリア────特にラウルはベジットに対しフィンと同等の信頼を寄せている。

 

(リヴェリアもベジットと話す時は楽しそうにしてたっけ……)

 

 自分の今の強さに満足せず、常に精進を続けているベジットはリヴェリアやガレスから見ても好意的に映るのだろう。魔力と気の相違と有用さを真面目に話し合うリヴェリアと酒を呑み交わすガレスは本当に楽しそうに見えていた。

 

 フィンもそうだ。本人はベジットを苦手と言っているが、同時に懐の深いベジットについつい甘えてしまうと言っている。今でこそ互いに忙しく交流が少ないが、それでも自分達を強くしてくれたベジットにアイズ達は本当に感謝している。

 

(でも、ベジットは私達を強くして……何がしたいんだろ?)

 

 ベジットは自分達が強くなる様を見たいと、このまま何もしないのは勿体ないと手を貸してくれる事はあるが、その具体的な目的は聞いたことがない。

 

 (どうして、ベジットは自分達を強くしてくれるのかな。単なる趣味? それとも………)

 

 アイズの脳裏に過る黒く巨大な影、自分から何もかもを奪った憎き仇。奴を討ち滅ぼす事がアイズの何物にも勝る重大事項。

 

(もし、もしもベジットが奴の討伐に乗り出してくれたなら………)

 

 嬉しいな。

 

 自分達を強くしてくれるのも、こうして師事してくれるのもその為だと言うのなら、こんなに嬉しいことはない。

 

 そんな昏き願望を抱く己を自制し、首を横に振る。

 

 と、そんな時だ。白い何かがプルプルと視界の端で揺れ動いているのが見え、視線を向けると……何処かで見覚えのある白兎の少年が何やら涙目になって震えていた。

 

「フフ、勇気を出して話しかけたのに何一つ反応して貰えなかった。所詮僕はミジンコ、アウトオブ眼中の敗北者じゃけぇ……」

 

「ッ!!」

 

 し、しまったーッ! 色々と考え事をしていて隣の白い少年の事を今まで忘れてしまっていたアイズは自身の迂闊さに衝撃を受けた。

 

 孤独の辛さはアイズも理解している。特に魔力と気の扱いで四苦八苦となり、熱心に鍛練しているリヴェリアが自分を無視した時は柄にもなく落ち込んだものだ。

 

 勿論リヴェリアには悪意はなく、鍛練に熱中し過ぎてアイズを結果的に無視してしまった事を深く謝罪されたのも今となっては良い思い出である。

 

 兎も角、無視をされた時の心の痛みを知るアイズはリヴェリアに倣って謝る事にした。

 

「ご、ごめんなさい! 私、その……考え事をしてて」

 

「い、いえ! 僕もすみません! アイズさ……ヴァレンシュタインさんに変な事を聞こうとして……」

 

 ………?

 

 アレ、何だか………避けられてる? 無視してしまった事を謝ろうと、つい前のめりになってしまった事も悪いとは思う。

 

 だが、露骨に自分から距離を取られた事に何故か……苛ついてしまう。

 

「……ねぇ」

 

「ッ!」

 

「ちょっと……」

 

「ッ!!」

 

 距離を詰めれば詰める程に、逃げようとする白兎。そんな彼に遂にアイズ・ヴァレンシュタインの苛立ちは頂点に達し……。

 

「逃げちゃ……ダメ!!」

 

「ウヒィィッ!!」

 

 どういう訳か、追いかけっ子が始まった。

 

 顔面赤面の白兎と金髪【剣姫】の追いかけっ子、そんな二人の楽しそうな一時を。

 

「青春だねぇ~」

 

 ベジットはニマニマと笑みを浮かべて見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、良い逃げっぷりだったぜベル。朝から腹抱えて笑ったよ」

 

「ぜぇ……ぜぇ……助けて……んく、くれても……はぁ………良かったのでは?」

 

「イヤだよ面白ェもん。アイズもお疲れ」

 

「す、凄いね君。逃げ足が………半端じゃない」

 

 既に息も絶え絶えの二人、二人分の水を用意したベジットはアイズとベルに水の入ったコップを差し出すと、二人は一斉に飛び付き一気に呷る。

 

 プハーと冷たい水が火照った身体を冷ましていく。その心地よさに一息つくと、ベジットはケラケラ笑いながら二人の前に腰を下ろす。

 

「ベル。お前のその逃げ足は天性のモノだ。その脚を上手いこと戦闘に利用すりゃ、強力な武器になるし、窮地を脱する一助になる。恥じと思わず、有効に使いこなせ」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

「そんで………アイズ」

 

「は、はい」

 

「ウチの新入りに言いたいことがあったんだろ? 俺は席を外すから、ちゃんと言っておけ」

 

「あ……」

 

 追いかけっ子に夢中で忘れていたが………そうだ。自分はこの白兎の少年に言いたいことがあったんだ。

 

 肩に手を置いてその場から離れるベジット、気を遣わせてくれた大人の彼に内心で感謝を溢し、アイズはベルへと向き直る。

 

「あ、あの……」

 

「は、はい?」

 

 やはり、怖がられている様だ。肩を竦ませて何時でも逃げられる用意をする少年にアイズは胸の内に痛みが走るのを感じた。

 

 当然だ。彼は一度ダンジョンにて死にかけている。それも自分達の不手際、自分達の不甲斐なさの所為で、だ。

 

 加えて先程の追いかけっ子。ベジットとの鍛練で満身創痍だったとは言え、逃げ足の早い彼についムキになってしまった。第一級冒険者は下位の冒険者と比べればその力は雲泥の差、彼等から見れば人の形をした階層主が街中を闊歩するようなモノ。

 

 そんな人達と同じ、目の前の新米の少年は自分も恐ろしい怪物に見えるだろう。

 

 でも………。

 

「ごめんなさい」

 

「─────え?」

 

 この筋は、絶対に曲げてはいけない。

 

「あの日、5階層にミノタウロスが現れたのは私達の所為なんです。私達が、ミノタウロスを逃がしてしまったばかりに……ごめんなさい」

 

「そ、そんな、謝らないで下さい! アイズさん達の所為なんかじゃないですよ!」

 

「でも……」

 

「そもそも、僕はあの日の段階では5階層に来ては行けないって言われてたんです。その約束を破って………だから、アレは僕の自業自得であってアイズさん達は悪くないんです」

 

「─────」

 

 頑固な子だ。真っ直ぐで、純粋で、いっそ眩しい深紅の瞳の前の少年にアイズは言葉を呑み込んだ。

 

 冒険者には似つかわしくない綺麗な瞳、けれどその眼差しにアイズは何処か救われた気持ちになった。

 

「……そっか。私、君に掛ける言葉を間違えたみたい」

 

「え?」

 

ありがとう(・・・・・)。あの日、私達の代わりにみんなを守ってくれて」

 

「─────ファッ!?」

 

 あの日、三体のミノタウロスの内二体も倒したのは恐らくは目の前の少年なのだろう。Lv.1の新米がどうやって中層の怪物を単独で倒せたのかは分からないが、それでも自分達の代わりに戦ってくれた少年にアイズは惜しみ無い感謝を口にした。

 

(私、ちゃんと伝えられたよ。リヴェリア)

 

「あ、ああああああああアイズさんの笑顔ぉぉぉぉ………キュウ」

 

「────え?」

 

 どうやら、【剣姫】の微笑みは白兎の少年には少し刺激が強すぎたらしい。顔を真っ赤にして倒れるベルを前にアイズはオロオロと戸惑うのだった。

 

 そして、そんな二人の様子を遠巻きから眺めていたベジットはと言うと。

 

「いやぁ~、若い子の青春は見ていて楽しいね。心の潤いになる」

 

 ラブコメもかくやという二人の様子をこれまたニマニマと笑みを浮かべながら眺めていた。

 

 さて、ラブコメも堪能したし、声を掛けて帰るとするか。今日はまだ始まったばかり、ザルドもそろそろ朝飯を用意し終える頃合いだろう。

 

「折角だからアイズも誘ってやるか? 汗も掻いただろうし、帰ったら風呂を沸かして……」

 

 ふと、とある気配に気付く。見れば、物陰から山吹色のポニーテールのエルフが、愕然とした様子で二人を見つめ……。

 

「─────」

 

 更にその背後では、黒く、灰の魔女が両目をカッと開いてカリカリと壁を引っ掻いていた。

 

「……スゥ────ッ」

 

 そんな二人を偶々目にしたベジットは人差し指と中指を額に当てて……瞬間移動でその場から離脱するのだった。

 

 その後、兎の断末魔が聞こえた気がした。そんな朝の一幕である。

 

 

 

 

 

 




はい、そんな訳で今回は日常回でした。


Q.ベルはアイズに何を聞こうとしたの?

A.主にベジットとの関係。親しく話しているベジットをどう思っているのか、それとなく聞き出そうとしていた。

Q.なんでアイズはベルがミノタウロスを倒した事を確信してるの?

A.ベジットが直々に鍛えているから。事実、遠巻きから見ていたベルの動きはアイズから見てLv.1とは思えない洗練されていた。


Q.その後、朝の鍛練はどうなったの?

A.最初はベジットとベルしかいなかった朝の鍛練。何時しかそこには金髪の【剣姫】と灰の魔女も参戦するようになったとかならなかったとか。


次回、迷宮の異変。復活の“O”

 オラリオの地下深く、怨霊の声が冒険者を誘う。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。