ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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 お前達に素晴らしい提案をしよう。

 お前達もイリヤにならないか?

そんな訳で初投稿です。


物語83

 

 

 

「モンスターの大群?」

 

 それは【怪物祭】でフレイヤ・ファミリアとの戦争遊戯が確約されて一週間にも満たないある日の午後。自身に発現した【時飛ばし(レアスキル)】の熟練度を高める事も兼ねて、自らサポーターを買って出てくれたリリルカと共に軽く深層付近まで潜ろうとした時の事だ。

 

 霧の掛かった10階層、現れるオークの群れを雑談混じりで殲滅していた最中、現れる全身を黒ローブで覆われた魔術師(メイガス)

 

 ウラノスが保有する唯一の私兵であり、異端児(ゼノス)達と深く関わりを持つ嘗ての賢者の石の創り手フェルズ。

 

 現在()愚者(フェルズ)と名乗るその魔術師は平静を装いながら二人に依頼を出す。

 

「あぁ、数日前より24階層でモンスターの大群が確認されている。現在はヘルメス・ファミリアと【剣姫】が調査に当たっているが……」

 

「アイズさんが?」

 

 リリルカの脳裏を過るのは、細剣(レイピア)を携えた金髪の少女。嘗てパーティーを組んでいたリリルカは彼女の強さはよく知っている。

 

 剣の腕前もそうだが、風を纏った時の彼女の強さは同世代の中でも頭一つ抜きん出ている。時折手合わせと称してベジットとリヴェリアの監修の下で何度か打ち合った事があるが、純粋な技と駆け引きは兎も角として戦績は此方の負け越し。

 

 そんな彼女に加えて主神を筆頭に曲者揃いのヘルメス・ファミリアが調査に乗り出しているのなら、自分達の出る幕は無いとリリルカは思ったが……。

 

「────ベート様」

 

「あぁ、どうやら事はそう単純じゃあねぇらしい」

 

 足下から感じられる強い力の気配。数あるオラリオの派閥の中でもヘスティア・ファミリアに在籍している二人はベジットから長年様々な鍛練を受けてきた。

 

 お陰で気の探知能力も他派閥の眷族より高い二人には下の階層から伝わってくる禍々しい力を他より一層強く感じ取る事ができる。

 

「なにか、感じたのか?」

 

 唯一、この場で気に関する力を概念としてでしか知り得ないフェルズが訊ねてくる。

 

「えぇ、階層主クラスの大きな気を一つ。恐らくは件の24階層からでしょう」

 

「その近くで【剣姫】と雑魚の気を幾つか………恐らく、これがヘルメス・ファミリアの連中だな」

 

 十数階の階層をぶち抜いて伝わってくる禍々しい力の気配、恐らく気を解放しているのは“気”という力を知って其処までの素人なのだろう。

 

 大きく目立つ気は周囲の見えない盤面を二人に伝え、ただ暴風にしかならない力の発露は周囲の地形をより明らかにしている。

 

「この位置、恐らくは食糧庫(パントリー)か」

 

「デカイ気の隣に気持ち悪いくらい静かな気配がありますね。これは一体……」

 

「────ここでウダウダしてても仕方ねぇ。とっとと向かって片付けんぞ」

 

「っ、では……!」

 

 心底面倒くさいが、ここで断った方が後々余計に面倒くさい事になる。長い冒険者の経験上事態の収束に乗り出すしかないと判断したベートは、溜め息を深々と溢してフェルズへ向き直る。

 

「オイ骨野郎、テメェはこの事をウチの主神に伝えておけ」

 

「あ、あぁ。分かった」

 

 依頼を出した以上、最低限の協力は惜しまない方が良い。ベートからの指示にフェルズも素直に頷いた。

 

「さて、そんじゃあ行くとするか」

 

「フェルズ、後の方は宜しくお願い致します」

 

 それだけを告げてベートとリリルカは閃光となって広い迷宮を駆け抜けていく。そんな二人を見送って……。

 

「頼んだぞ、ヘスティア・ファミリア」

 

 フェルズもまた事態収束の為に行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どぉ~おバルカちゃ~ん? 人造迷宮(クノッソス)の進捗具合は~?」

 

「見ての通りだ」

 

 深い奈落の底を思わせる暗黒の中、暗闇の中から現れる邪神は熱心に鎚を振るう男に暇潰しがてら声を掛けた。

 

「タナトス、暇潰しの相手を探しているなら他を当たれ。今の俺にそんな暇は無い」

 

「今……というか、君の人生には(・・・・・・)だろ? でも、たまには休むことも大事だぜ? 良い仕事ってのは適度な休息の上で成り立つものだからさ」

 

 己の眷族に無下に扱われても、めげずに会話を楽しもうとする。

 

 神の名はタナトス。闇派閥の残党を率いて己の野望達成を目論む邪神の一柱である。

 

「バルカちゃん、最後にご飯を食べたのは何時? 剰りのめり込むとまた倒れちゃうよ?」

 

「問題ない。携帯食は持ち合わせている」

 

 神を相手に一切敬いを持たず、ただ迷宮の拡張にだけ自己の全てを捧げている男。

 

 名はバルカ・ペルディクス。ダイダロスの末裔にして一族の悲願にのみ心血を注ぐ異端者。

 

 闇派閥の中でも呪われた一族(・・・・・・)、他でもない自身の神が心配で様子を見に来たにも関わらず、バルカは背を向けたまま鎚を振るい続けていた。

 

「バルカちゃんのそういう真面目な所、俺は大好きだぜ? でもさ、俺も話し相手がいなくて暇なのよ。ヴァレッタちゃんも今留守にしてるし、邪魔しないから話し相手になってよ」

 

「勝手にしろ」

 

 現在、闇派閥は衰退の一途を辿っていた。ゼウス・ヘラという最大派閥が黒竜との戦いで敗北し、抑止力を無くしたオラリオは一時は犯罪の温床にまでなりかけ、ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアが力を付けるまでに闇派閥は嘗ての時代の頃にまで勢力を拡大できる勢いがあった。

 

 その最大の好機が七年前、【暴食】と【静寂】。嘗ての最強眷族を迎え入れた事で闇派閥の邪神達は揃ってオラリオ崩壊の未来を確信した。

 

 けれど、蓋を開けてみればどうだ。万全の状態と策、最強の駒を有しての一大蜂起は当時のオラリオの冒険者達によって阻まれた。

 

「ホント、初日から全然上手くいかないんだもの。それもこれも原因はあのベジット。なんなんアイツ? なんで地上にあんな化物がのさばってるんだよ」

 

 思えば大抗争の初日から邪神達の思惑はたった一人の………当時、まだ冒険者ですらない一人の人類によって挫かれていた。

 

 ベジット。当時のエレボスの思惑や邪神達の企みを悉く邪魔し、無自覚に抑止力となっていた男。奴が出てきてから大抗争で犠牲になる筈だった人類(こども)達は劇的に減り、【正邪決戦】の時なんて地上に現れたモンスターの群れを黄金の炎を纏って変身したかと思えば、天を割る程の光を放って大群のモンスターを撃滅して見せた。

 

 当時、その時の光景を目の当たりにしたヴァレッタの憔悴状態は酷く、ベジットの名を聞く度に発狂した程だ。

 

 その後のソーマ・ファミリアとの戦争遊戯で見せた光景はヴァレッタだけでなく、多くの闇派閥の心をバキバキにへし折って見せた。

 

「アレで本人はLv.1の冒険者だって言うんだからやってらんないよ。どうやったら殺せるのアレ? て言うか死ぬの?」

 

 最早闇派閥の邪神達にとってベジットは恐怖の象徴だった。そしてそんなベジットを己の眷族として従えているヘスティアも同様に、邪神達にとっての目の上のたん瘤であった。

 

「四年前………いや、もう五年かな? ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアを中心にそれまで細々活動していた僕達闇派閥は壊滅状態に追い込まれ、今ではこうして薄暗い人造迷宮(クノッソス)で惨めに暮らす日々。ホント、敗残兵の末路は悲惨なモノだよね」

 

「文句があるなら出てってくれて構わんぞ?」

 

 一族の悲願であり、初代ダイダロスの最後の傑作である人造迷宮(クノッソス)を遠回しに馬鹿にされた事を受けたバルカは、瞳孔の開いた眼をギョロリと向ける。

 

 珍しく怒りを顕にするバルカにタナトスはゴメンゴメンと謝罪する。

 

「でもさぁ、実際問題このままじゃヤバイよねぇ。万が一連中にここの事がバレたら俺等もバルカちゃんも終わりよ?」

 

「問題ない。その為に数年前から準備は進めてある。床に散りばめた火薬石も、毒や神経ガスを始めとしたトラップも、モンスター各種も以前よりも量も質も増している。この人造迷宮を制圧するには第一級冒険者が1個師団で来ても不可能だ」

 

 依然として無感情、無機質的なバルカだが、その声音には微かだが“熱”があった。

 

 それは一族が千年の時間を費やして造り上げた人造迷宮に対する誇りか、それとも邪魔者に対する明確な憤りなのかタナトスには分からないし、なんならバルカ自身も自覚はしていない。

 

 それでも確かに感じられたバルカの“熱”にタナトスも嬉しく思った────その時だ。

 

「た、タナトス様ぁ!!」

 

「た、大変です! 侵入者が、この人造迷宮に侵入者が現れましたァッ!!」

 

「ゲッ、マァジでぇ?」

 

 現れる白装束の信者達からの報告にタナトスの顔が歪む。貴重な戦力(ヴァレッタ達)がいない時に面倒なと吐き捨てて、タナトスは信者達と共に監視の間へと場所を移す。

 

 水瓶に入っている水を媒介に迷宮内の様子を映す鏡を起動させ、問題の区画を顕にする。すると、バコンバコンとあちこちで爆発と砂塵を撒き散らす光景にタナトスは頬を引く付かせた。

 

「あぁもう、派手に暴れてくれてるじゃん。何処のどいつだよ」

 

 千年を越える時間の中で地道に資金を稼ぎ、拡大と拡張を続けてきた人造迷宮。その主な素材は超硬金属(アダマンタイト)を存分に使い倒した頑強なる砦。

 

 そのアダマンタイトで構成された迷宮の壁や天井がまるで虫食いの様にあちこちで抉られている。これではバルカが発狂しかねないと冷や汗を流しながら映像を拡大していくと………。

 

「─────あ、アルフィアちゃん!?」

 

 写し出された漆黒のドレスと灰色の髪。その姿にタナトスは一瞬己の目を疑ったが、どれだけ目を擦ってもその姿は変わらない。

 

「な、なんでアルフィアちゃんがここに? え? てか、何で生きて……」

 

 タナトスが覚えているアルフィアは病に蝕まれ、余命幾ばくもない燃え尽きる前の炎。弱々しく、放っておいてもその内亡くなる筈だった命。

 

大抗争の時も、鬱陶しい秩序側の冒険者や神々を道連れに滅べば良いと軽く考えていた嘗ての最強が、どういう訳か澄まし顔で人造迷宮の解体作業に勤しんでいる。

 

「いや待ってよ、アルフィアちゃんが生きていたことは百歩譲って良いとして(良くない)、なんでここが分かったの? 目隠しはちゃんとしてたし、扉だって最硬金属(オリハルコン)製で………ッ!?」

 

 映像を切り替え、画面は出入り口付近に切り替わる。地上と人造迷宮を繋ぐ扉は現在最も硬いとされる最高純度のオリハルコン。

 

 長い時間と年月を掛けて加工されたオリハルコン製の扉、あらゆる魔法も物理攻撃も通さない無敵の盾は………無惨な姿となって転がっていた。

 

 なんで、どうして? 混乱する意識の中、それでも神としての頭脳を持ってタナトスは一つの答えを導き出す。

 

(………ま、ましゃか、ましゃかぁぁぁ……!?)

 

 嘘だ。あり得ない。あって欲しくない。お願いだから嘘だと言ってくれ。

 

 神の身でありながら神頼み。必死に祈りながらタナトスは先程の四人の侵入者が暴れる区画を映し出す。

 

 先程よりも明らかに広がっている被害規模、それを目の当たりにした信者達が信じられない様子でドン引く中………タナトスは見た。

 

 好き放題暴れ散らす四人の侵入者、その中でも自由奔放に壁を破壊していく一人の男。

 

 逆立った黒髪、他の侵入者とは異なり鎧も武器も持たず素手のみでアダマンタイトの壁を、敷き詰められた罠を、モンスターを、その悉くを破壊していく。

 

 ベジット。

 

 闇派閥の邪神の間で恐怖の大王と化している超弩級のヤベー奴。身に纏う服も、空気も、雰囲気も、他の奴とは何処か違うその男────。

 

『────ヘッ』

 

 目が合った。

 

「ヒッ!!??」

 

 探知なんてされるわけがない、見透かされることなんて有り得ない。全知全能な神とは違い、相手は何の力のないただの人間。

 

 その、筈なのに……。

 

「────出せ」

 

「は、……は?」

 

「タナトス様、出せとは?」

 

「アレだよ! アレを出すんだ!! レヴィスが持ってきた兵器!」

 

「で、ですがタナトス様! アレはイシュタル・ファミリアへの献上品では!?」

 

「うるさい!! スポンサーの意向とか知るか!! 今ここでアイツ等を何とかしないと消されるのは俺達だ!! 急げ!!」

 

「ひっ、ひゃい!!」

 

「直ちに~!!」

 

 必死な主神の圧に押され、悲鳴を上げてその場を後にする信者達。タナトスはタナトスで必死にこの状況の打破に思考を巡らせているが、一向に良い考えは浮かばない。

 

 いっそ逃げる? 逃げたら逃げた先で確実に滅びの運命が確約されているが、それでもこのまま手をこまねくよりはマシか。いや、別にそうでもないな。

 

 明確に自身が追い詰められていることを自覚したタナトスが頭を抱えていると、背後からこの場にいない筈の声が掛けられる。

 

「どうしたタナトス、トラブルか?」

 

「────ホント、つくづく間の悪い」

 

 今は聞きたくなかった女神の声、やれやれと肩を竦めて振り返るタナトスの視界に映るのは、男を侍らせた美の女神と。

 ローブで素性を隠した狐の尾を生やした亜人(デミ・ヒューマン)が佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、出入り口の扉はオリハルコン、道中の壁はアダマンタイトだなんて、闇派閥ってのは随分儲かってる組織なんだなぁー!」

 

「古今東西、悪の組織ってのは金に困らんと言うが、自分達の足下にこうも根深くあるとはのぅ。流石にいい気分はせんわい」

 

「だからこうして嫌がらせを兼ねて壊して回ってるんだろ? おっ、隊長ォ! また隠し部屋を発見! なんか色々と物資が詰め込まれてるぜ!!」

 

「よっしゃ奪えェ!! 奪えば奪う程闇派閥の戦力は落ちる! 可能な限り奪え! もしくは燃やせェ!!」

 

「合点!!」

 

「最早どちらが悪か分からんな」

 

 人工的に造られた通路。その規模と広さと入り組み様はまるでダンジョン、地上で報告を待っているフィン達に可能な限り情報を持ち帰る事にしたベジット達は、闇派閥への嫌がらせを兼ねて破壊工作を行っていた。

 

 出入り口の扉はオリハルコンで固められ、通路もアダマンタイトという強く硬められる中、ベジットとガレスは素手でアダマンタイトの壁をバターの様に軽々と砕き、ライラがダンジョン探索の要領でマッピングしていく。

 

 その様は丁寧に描かれた網目模様を瞬く間に虫食いされた用紙。相手が闇派閥というだけあって一切の容赦も遠慮もなしに壊して奪うベジットの方針にアルフィアは若干引いていた。

 

「別に連中に慈悲を掛けろと言わないが、もう少しこう……スマートに物事を進めたりしようとは思わないのか? 正直、雑音が酷すぎて気持ち悪いのだが……」

 

 更に言えば、ベジット達のやっていることは質の悪い強盗の様にも見える。いや、悪いのは勿論闇派閥な訳なのだが……。

 

「いやいやアルフィアさんよぉ、なぁに甘ッチョロい事を言ってるのさ」

 

「そうだぜ。ここは闇派閥、悪党の拠点だ。そこをぶっ壊し、機能を奪うのはアタシ達正義の眷族の役割さ。使命といって良い」

 

「正義かなぁ?」

 

「更に言えば、この拠点の殆どはアダマンタイト等の高級素材で出来ている。これ等を回収し、市場に卸せば経済は回り人々の暮らしの豊かさにだって繋がる」

 

「つまり、我等の行いは全てが正義。問題なんてオールナッシングだっぜ!!」

 

「おい、今すぐガネーシャ・ファミリアを連れてこい。小悪党二人追加だ」

 

 ベジットとライラ、心なしかこの二人の波長は中々に似通っているようで、ゲラゲラと笑う二人にアルフィアはつい憲兵の出動を要請してしまう。

 

 そんな彼等を遠目で眺めていたガレスは呟く。コイツら、ここが敵の拠点だと言うのを理解しているのだろうか?

 

「とは言え……こうも静かだと流石にちと不気味じゃのぉ」

 

 闇派閥の拠点と思われる場所に進むこと数時間、これ迄幾つもの通路、幾つもの仕掛けを踏破し好き勝手暴れてきたベジット達だが、相手側の反応は今一つ。

 

 時折奇妙な小蠅のモンスターが群れとなって押し寄せてきた事もあったが、いずれもベジット達が一蹴。ガレスが剛力を振るい、ライラが短刀で切り刻み、アルフィアが魔法で粉砕。

 

 そして、ベジットの何気なく放たれた気功波はモンスターの群れだけでなく周囲の壁をも巻き込んで消滅させてからは、向こうからの妨害はピタリと止んだ。

 

「アチャー、もしかして旦那、やらかした?」

 

「え、俺の所為?」

 

「アレだけの破壊音を撒き散らしたんだ。当然、向こうには気付かれているだろうな」

 

「尻尾巻いて逃げたか。もしそうだとしたら、責任は貴様だな」

 

 アルフィアの言葉に一瞬顔が青ざめるベジットだが、勿論そんな事があるわけがない。

 

 連中は依然として沈黙しているのは兎も角として、此方の動きは(・・・・・・)とっくに把握(・・・・・・)している筈(・・・・・)。こうして悪巫山戯をしているのも向こうの出方を吊り上げる為の安い芝居によるもの。

 

 別に連中が逃げ出したと言うのなら、それで構わない。地上に逃げても騒ぎを起こせばすぐにガネーシャ・ファミリアに捕捉されるだろうし、ダンジョンに落ち延びても奴等に先はない。

 

 全ては此方の計算通り。こうして茶番劇をしているのも相手側の動きを吊り上げる為のモノで、決して高級素材に目を奪われた訳ではない。

 

 …………ホントだよ?

 

「ンンッ! さて、そろそろ本格的に攻略していくとしますか。ガレスのおっちゃんは俺と前衛を、アルフィアは遊撃、ライラは引き続きマッピングを頼む」

 

((誤魔化したな))

 

 ガレスとアルフィアからの冷たい視線も受け流し、改めてこの人工的な迷宮とも呼べる場所の探索に本腰を入れようとした時。

 

「────ン?」

 

 ふと、ベジットは何かが動き出すのを感じた。

 

 強大な気配、現在ベジット達がいるのは六階層程。上層程度の浅い所だが感じられる力の大きさは階層と比べて明らかに逸脱している。

 

「ほう、これはまた」

 

「なんか、ヤバそうなのが近付いてない?」

 

「動揺するな【狡鼠】、ちゃんと構えろ」

 

 ガレスもライラもアルフィアも、近付いてくる気配に気付きそれぞれ反応している。聞こえてくる蹄の音、砕かれる壁の音が近付いてくるのに合わせて三人が身構えた瞬間。

 

『アハハハハハハハハハ!!!』

 

 アダマンタイトの壁を粉砕しながら現れる巨大な牛、そして……。

 

「な、何だよアレ!?」

 

「アレは……女、か?」

 

「むぅ、以前ベジットが倒したかという融合体か!?」

 

 剰りにも禍々しく、おぞましい気配を携えて現れる怪物。巨大な牛の背に生えた女体は明らかにこれ迄の異常事態を越えている。

 

『ねぇ、あなた達が私とあそんでくれるの?』

 

 怪物が見下ろしてくる。歪んだ笑みを携えて、尋常ならざる空気を撒き散らす化生を相手に……。

 

「おぉ、相手してやるよ。盛大にな」

 

 ベジットもまた不敵に笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 





 何を、何を言ってるんだみんな。

 帰り道、自転車の後ろに座って夕焼けの下り坂を降ったのも。

 遊園地の観覧車で一緒に乗ったのも。

 告白の木の下で抱き合ったのも、全部……全部……。

 ティアマトママだったんじゃないか!!(存在しない記憶)




 あ、本作の闇派閥はフリー素材以上の意味はございません。
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