ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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スパロボY発売!

ゴジラに会いに行くでェ!

そんな訳で初投稿です。



物語85

 

 

 

「ヴァ、【凶狼(ヴァナルガンド)】に【槍の乙女(デミ・フィアナ)】、まさかヘスティア・ファミリアが救援に来てくれるとは………貴方達も例の黒ずくめから?」

 

「そんな所だ。ンな事よりも……【剣姫】は向こうにいるんだな?」

 

 閉じられた空間、闇派閥とそれに与する者達による圧倒的物理量による波状攻撃。前から自爆特攻を前提にしている闇派閥と、頭上から随時襲い掛かってくる食人花の群れによりヘルメス・ファミリアは窮地に陥っていた。

 

 限られる物資も底を尽き掛け、団長である【万能者(ペルセウス)】が一か八かの賭けに乗り出そうとした時、彼等が来てくれた。

 

 ヘスティア・ファミリア。

 

 暗黒期、その最盛たる大抗争の時に現れた稀代の超新星。派閥の長たるベジットを筆頭に第一級冒険者の名が連なるかの派閥はオラリオに於いても話題の中心に添えられていた。

 

 ここ数年前まで、忽然と目立った活動はしていなかっただけに一時は名前も聞くことも無くなったが、先の女神フレイヤが起こした騒動の事で徐々に市井の間でその存在が真しやかに囁かれるようになっていた。

 

 【万能者】アスフィ・アル・アンドロメダの前に佇む狼人、ヘスティア・ファミリアの副団長にしてあのベジットの右腕として並び立つ強者。

 

 Lv.6の中でも頭一つ抜きん出ているとされている冒険者が、今自分の前で佇んでいる。オラリオでも指折りの冒険者が自分達の窮地に駆け付けてくれた事にアスフィも柄にもなく安堵した。

 

「呑気にしてんな【万能者】、状況はまだ何一つ変わってねぇぞ」

 

 言われ、気持ちを糺す。【凶狼】の言う通り状況は未だ鉄火場の真っ只中、安堵に呆けている場合ではないとアスフィは表情を引き締める。

 

「っ、失礼しました。【剣姫】に付きましては貴方の言う通り、赤髪の調教師(テイマー)により分断されています。今回の件に闇派閥が深く関わっているのは間違いないかと」

 

「だろうな。自爆特攻なんてクソな所業を率先して実行するのは、奴等しかいねぇ」

 

 アスフィに言われ、ベートは横目で気で感じた方向へ視線を向ける。その先にはここに来る途中に阻んでいた肉壁と同様、緑色の肉の壁が覆われていた。

 

 感じられる気の大きさからアイズもまだ余裕がありそう、ならば今の内に目の前の雑事を片付ける方が優先だなと、ベートは判断を下す。

 

「リリルカ」

 

「はい」

 

「ヘルメス・ファミリアのお守りとクソ花どもの片付けを任せる。俺は、あのいけすかねぇカスを黙らせてくる」

 

「また何とも面倒な………とは言え了解。やり遂げて見せましょう」

 

 モンスターの頭蓋、ドロップアイテムらしい悪趣味な仮面を被り、ニヤニヤとほくそ笑む男。その態度が無性に鼻について仕方がないベートは、一先ず連中の首魁らしい男を潰すことから始めた。

 

 リリルカもリリルカで面倒な指示を受けて若干辟易としているが、ヘスティア・ファミリアに名を連ねている以上無様は晒せない。背に付けていた槍を1本取り出し、獣のように低く身構える。

 

食人花(ヴィオラス)、餌が増えたぞ! 全て平らげろ!!」

 

 仮面の男が手を翳した瞬間、ボトボトと無数の食人花が目の前に降り立つ。自分達が必死に抑えていた時より数は倍近く、その全てが自分達に向けて涎を垂らしている。

 

 その圧倒的な数にヘルメス・ファミリアは戦慄する。あの物量で襲われたら、自分達の死は免れない。数秒後に訪れる惨劇を前に二人の小人族(パルゥム)が恐慌状態になり掛けた時。

 

「────餌、か。成る程、ならば鱈腹くれてやろう」

 

 それは巻き起こる。

 

「とくと味わえ、貴様らが味わうのは鈍く滴る鉄の味だ」

 

 目隠し(バイザー)の奥で朱が煌めく。赤く、紅く、朱く、血よりも紅い眼光を携えて。

 

「【謳え、槍の狂気。来たれ、戦の女神】」

 

 蠢く魔窟にて、静かに魔槍の魔女が目を醒ます。

 

「【槍の戦乙女(ナイツ・オブ・フィアナ)】」

 

 瞬間、力が膨れ上がる。小さな小人の体から白い炎が噴き出していく。

 

 刹那。群れを成して押し寄せてくる食人花、その花弁の悉が散る。埋め込まれた魔石の部分を撃ち抜き、或いは切り裂いて一掃していく。

 

 上下、前後、左右。全方位から向けられる花の牙、おぞましくて恐ろしい怪物の顎を前に魔槍の魔女(リリルカ・アーデ)の感情は波一つ立たず、凪の面持ちで槍を横へ振り抜く。

 

 霧散。回転しながら振り抜かれる槍の一振で生じる暴風は食人花の魔石を砕き、跡形もなく消えていく。

 

「そら、お代わりをくれてやるぞ」

 

 瞬間、空中に静止するリリルカは空いた片手に気と魔力を収束させていく。バチバチと迸る紅い稲妻、形作られるのは気で練り上げられた朱色の槍。

 

 天井に向けて放たれる一筋の朱光は瞬く間に無数に分裂し、無防備状態の食人花へと突き刺さり───。

 

「柘榴と散れ」

 

 爆散。天井に群がっていた食人花の蛹はその悉くが紅き閃光に呑み込まれ塵へと還る。

 

「「「「………………」」」」

 

 自分達が全員で何とか捌いていた食人花、その全てが塵へと消える光景にヘルメス・ファミリアは開いた口が塞がらなかった。

 

「なっ!?」

 

 そして、同じ様に目の前の光景に仮面の男は明らかに動揺している。相手が小人族と思いタカを括っていたのか、虚を突かれ、みっともなく狼狽している男に灰の狼は口角を吊り上げる。

 

「おい、何を驚いてンだァ黒幕(フィクサー)気取り。仕掛けを施した大道芸らしく、ふんぞり返ってみせろや」

 

「ッ!」

 

 いつの間にか、距離を詰められていた。バカなと動揺する仮面の男が咄嗟に殴り掛かるよりも速く。

 

「鈍い」

 

 ベートの数発の蹴りが振り抜かれ、仮面の男を撃ち抜いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベートの蹴りに吹き飛ばされ、壁へと叩き付けられる仮面の男。ダメージがあるのか一切身動きを取らない男をベートは静かに見据えている。

 

 残る明確な障害は例の赤髪の女とこの食糧庫(パントリー)の要である巨大結晶体に寄生している奴。

 

 アレはモンスターの餌を垂れ流すエネルギーの源、アレを壊せば食糧庫は崩壊するが、同時にここでの連中の目論みも潰える筈。

 

 さてどうするか。ベートが頭に浮かぶ選択肢に頭を悩ませていた………そんな時だ。天井に吊るされた食人花を含め、悉くを殲滅したリリルカはヘルメス・ファミリアの安否を確認した後、ベートの隣へと降り立つ。

 

「ベート様。一先ず雑草共のお掃除完了しました」

 

「よぉリリルカ、随分と手を抜いてたじゃねぇか。槍も1本しか使わないで………舐めプのつもりかァ?」

 

「違いますよ。アルフィアさんからご指摘を受けて今は自分の実力を見直している最中なんですぅ。そもそも、リリは本来槍は1本しか扱って来なかったんですよ?」

 

 ニヤニヤと揶揄してくるベートにリリルカは頬を膨らませて抗議する。そもそもリリルカ・アーデが槍を二本も使うようになったのは、下層の階層主であるアンフェス・バエナを単独(ソロ)討伐を行った時からだ。

 

 あの時は二本も首があって、それぞれ異なる攻撃をしてくる階層主(アンフェス・バエナ)に苛立ちを覚え、咄嗟に予備の槍を使って首二つを刎ね飛ばした事で「あれ? 槍1本よりも2本の方が便利じゃね?」と思い、何気なく使い始めたのがきっかけ。

 

 その後、団長であるベジットの鍛練を受け、実戦と我流で積み上げてきたのが今のリリルカの戦闘スタイルである。二振りの槍を自在に操り、その苛烈な戦い振りから何時しか巷では【二槍の魔女(スカーサハ)】なんて呼ばれるようになってしまっていた。

 

 リリルカは思う。いつか自分に掛けられているこの悪印象を払拭し、可愛らしくも健気なマスコット枠に返り咲いて見せると。

 

「へぇ? じゃあ近い内にあの女にリベンジするのか?」

 

「いや、普通にご指南を受けるだけですよ? そりゃあ本気で技を競う事もありますけど………アルフィア様の観察眼半端じゃないんですよねぇ。生半可な技だと一瞬で見切られそうで怖いんですよ」

 

「分かる。あの女を前に下手な技は出せねぇからな」

 

 先の手合わせで今一度自分の技量を磨き直す事にしたリリルカは、取り敢えず槍1本で戦い方を見直す事にした。故に、今回の依頼はリリルカ的には割りと渡りに船だったりしている。

 

 そんな和気あいあいな雰囲気で談笑している中、ふとリリルカの視線が鋭くなる。

 

「というか、手を抜いていると言うならベート様もそうではありませんか」

 

「アァ?」

 

 そういって顎で視線を促してくるリリルカにベートは溜め息を溢す。

 

「相手の素性も明らかにしないで終わらせたら、情報が手に入らないだろうが。情報戦だよ情報戦」

 

「えー」

 

 何やら都合の良い事を言い出すベートにリリルカは露骨に不機嫌に頬を膨らませる。こう言う所は年相応で可愛らしい………いや、違う。

 

 既にリリルカ・アーデによる印象戦略は始まっている。アレだけの暴威を振り撒いておきながらぶりっ子を気取ろうとしている。普段同じ屋根の下で生活している相手にもこう言った態度を取るのだから、もう色々と自棄糞になっているのだろう。

 

 閑話休題。

 

「く、ククク……流石はヘスティア・ファミリアだ。我等の思惑をこうも凌駕して見せるとは、な」

 

 崩れ落ちる肉の瓦礫、舞い上がる砂塵の向こうから姿を表す影にベートとリリルカは目を向けた。

 

 ひび割れる仮面は二つに割れ、地に落ちる。砂塵の中から顕になる仮面の男の素顔にヘルメス・ファミリアの団長であるアスフィは驚愕に目を剥いた。

 

「────バカな、何故貴様が生きている? オリヴァス・アクト………!?」

 

「それは………」

 

「ベジットが始末したって闇派閥のクソ野郎か……」

 

 顕になった男の顔、それは暗黒期にて悪逆の限りを尽くしてきた闇派閥幹部の一人にして、ベジットが二度に亘って打ち倒したとされる人物。

 

 そんな奴が再び自分達の前に立っている。もしここにベジットがいればほぼ確実にこう言うだろう。

 

『何度も出てきて恥ずかしくないの?』と。

 

「貴方は階層主と融合し、ベジット氏によって討たれた筈。跡形もなく消え去ったお前がどうして生きている!?」

 

「君達の事はオリジナル(・・・・・)の情報で知ってるよ、同時に忌々しき我等が宿敵ベジット。その弟子たる君達は【彼女】の悲願の最大の障壁であるという事も」

 

 仰々しい身振り手振りで答えにならない独白を溢す。外見や顔は間違いなくオリヴァス・アクトその人だが、微妙に他人事のように語っている。

 

 奇妙な違和感に戸惑いながらも、アスフィはオリヴァスを見据えていると、奴の身体の半分が人のモノではない事に気付く。

 

「オリヴァス、その身体は……!?」

 

 曾て闇派閥の一員だった男の肉体は半分以上が得体の知れない怪物と化していた。人とモンスターの融合体、目の前に現れる最悪の未知にヘルメス・ファミリアは戦慄する。

 

「あぁ、これは彼女の力によって得られた新たな力。人とモンスター、そのハイブリット。新たな人類の姿である」

 

 グジュルと音を立てて開かれるオリヴァスの胸元、そこから見える極彩色の魔石は輝きを放ち、ヘルメス・ファミリアに衝撃を与えた。

 

 人と怪物の合わせた存在。それは、ある種でモンスターよりもおぞましい存在ではないか。

 

 怪人。アスフィの口から自然とそんな言葉が溢れ落ちる。これ迄の歴史を覆しかねない未知なる存在、恐ろしく、おぞましい。

 

 人間を、彼処まで変異させてしまう怪物がダンジョンにて蠢いている。その事実にアスフィの足元は酷くグラついてしまうが……。

 

「テメェ如きがベジットの宿敵だぁ?」

 

「愉快な身体になって、頭の中身も空っぽになりましたか」

 

 処女神の眷族、灰の狼と小人は意にも介さない。

 

「止めておけ。テメェなんざ付きまとった所で消し飛ぶだけだ」

 

「どうせ同じ末路なのです。大人しくここで死んでいきなさい」

 

 殺意と敵意を滲ませて相対する二人、そんな二人を前にしてオリヴァスはクククと嗤う。

 

「クキキ、人間風情が我等に仇なすと? 思い上がるなよ」

 

「その台詞、そのまんまそっちに返してやるよ」

 

「怪物風情が、身の程を弁えろ」

 

 嗤う。オリヴァスは目の前の敵を殺す為に。

 

 嗤う。ベートは目の前の雑魚を噛み砕く為に。

 

 嗤う。リリルカは目の前の塵芥を一掃する為に。

 

「良いだろう、そんなに死にたいのなら見せてやる! ────ハァッ!!

 

 オリヴァスが両拳を握り力みを入れた瞬間、奴の全身から黒い炎が噴き上げる。同時に奴から爆発的な力の膨れ上がりを感じたベートとリリルカが目を剥いた瞬間───。

 

「さぁ思い知れ! 奴のもたらした力と技にひれ伏し、惨たらしく死んでいけ!」

 

 瞬きの合間の高速移動、オリヴァス・アクトの拳がベートに向けて振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アアアア、アアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 雄叫びが人造の迷宮を震わせる。ビリビリと突き刺すような圧は増していき、周囲の壁や天井に皹を入れ始める。

 

「ぬぅ、コイツは……!」

 

「オイオイ、不味いんじゃねぇのかこれ!?」

 

 巨大な牡牛と女性の融合体、目の前の怪物から発せられる黒い炎は自分達が近年会得した力と同質のモノ。

 

 “気”。ベジットという男がもたらした筈の新しい力の概念、それが何故目の前の怪物から発せられるのか、疑問に思ったアルフィアは率直な疑問を口にする。

 

「なんだベジット、お前こんな奴にもご丁寧に気を教えてやったのか?」

 

「生憎、俺が教えてやった相手にこんな奴はいなかったよ」

 

 依然として巨大牡牛の威圧と力が増していくのを前にして、軽口を叩くアルフィアとベジット。そんな二人にガレスが真面目にやれと激を飛ばす。

 

「【狡鼠(スライル)】、お前さんも万が一の時は逃げる準備をしておけ。その間の足止めはワシ等がする」

 

「いや、それ以前に余波で崩壊しそうなんだけど? 大丈夫なのかこれ!?」

 

 この面子の中で一番戦闘力が低いのは自分だというのはライラ自身よく理解している。手にしているマッピングした迷宮の地図や情報の価値基準から、ガレスの言っている事は尤もだ。

 

 だが、力を高めつつある怪物とそれを迎え撃つベジット達。彼等がぶつかればその余波でこの人造迷宮は崩壊するのではないかと、ライラは別方面で危惧していた。

 

 そして、そんなライラの危惧が的中するように事態は急変する。

 

“─────大きくなァれ”

 

「………またこの声か」

 

 何処からか聞こえてくる祝詞、恐らくは何処かの誰かが魔法を行使しようとしているのだろうが、発生源が分からない。通常魔法を行使する際は使用者の敵意を高めたりするモノなのだが、この魔法にはそれがない。

 

 気も感じ取れる程大きくないし、止められる術は無いだろう。すると、祝詞の声は止み、辺りに一瞬の静寂が訪れた────次の瞬間。

 

『おぉ、オォォォオオォ、オオオオオオォォォォッ!!!』

 

 怪物が吼える。白目を剥いて、涎を垂らして吼え散らかす巨大牡牛の肢体に光の粒が集まり始める。

 

 瞬間、高まり続けていた怪物の気は更に爆発的に上昇していく。あり得ない強化幅、それはまるで昇格を果たした冒険者の様で……。

 

「なん……だ、アレ?」

 

「変異、しておるのか?」

 

 白目を剥き、雄叫びを上げる怪物を覆う黒い鱗。バキバキと音を立てて頭部から胴体、腕や脚、身体の至る箇所から現れる黒い鱗にライラは嫌な予感を感じた。

 

福音(ゴスペル)

 

 すかさずアルフィアが魔法を放つが、高度な魔力耐性でもあるのか、直撃であるにも関わらずアルフィアの音の爆撃は怪物に当たった瞬間霧散する。

 

「アルフィアの魔法を弾いた!?」

 

「随分と高い魔力耐性を獲得したのう。アレも黒い鱗の所為か?」

 

 変異を終えた怪物の姿はよりおぞましく、より悪魔的となっていた。初めて目の当たりにする怪物の変容に誰もが言葉を失った瞬間───。

 

 ──────ニィ

 

 嗤う怪物の視線の先、不用意に佇むベジットを見据えて────突撃(チャージ)

 

 突進する巨体は雷霆を纏い、ベジットへ肉薄する。

 

「ベジット!!」

 

 巨体に似合わないその速さ、雷霆の轟く音だけを残して迷宮を砕いていく。

 

『死んじゃェェェェェッ!!!』

 

 ベジットを巻き込み、迷宮のいかなる障害も排斥しながら突き進む巨大な牡牛、その様はまるで────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“天の牡牛”、と言った所か! クハ、クフフハハハハ!! 凄いじゃないかタナトス! アレさえあればフレイヤの眷族(ガキ共)だって目じゃないよ!」

 

「そいつはどうも」

 

 水瓶に映し出される映像、そこに映し出される光景にオラリオの歓楽街の盟主である女神イシュタルは上機嫌な様子でゲラゲラと笑い転げていた。

 

「しかも……プフ、見ろよベジットのあの無様な姿! 好き放題されるがままじゃないか! ザマァないね、このイシュタルを袖にした天罰だよ!」

 

 更に、未だ暴れまわる牡牛の蹄がベジットを叩き潰す光景にイシュタルの機嫌は更に鰻登りとなる。

 

 一方、タナトスはタナトスで予想外な力を発揮する牡牛に若干引いていた。

 

「えぇー、あの怪物こんなに強かったの? もう一種の災害じゃーん。しかもなんか黒く鱗? 鎧? みたいなの纏ってるし、え? マジで良いとこまで行けそう?」

 

 アダマンタイトで構成された人造迷宮(クノッソス)、牡牛が暴れている周辺はその悉くが砕け散り、既にその階層は見るも無惨な姿になっている。

 

 バルカちゃんが見たら発狂しそうだなぁと、後の怖さを誤魔化すように死の神は美の女神の後ろで震えるローブを纏った狐人(ルナーリア)へ目を向ける。

 

「というか、俺としては彼女の方が気になるんだけど? 何なのこの娘の魔法、何か光ったかと思ったら天の牡牛に吸い込まれて、そんでパワーアップしたみたいだけど?」

 

 そういってタナトスが目を向ければ、狐人の少女はビクリと肩を震わせて萎縮。逃げるように付き人の男の後ろに隠れられてしまいタナトスはあれまと目を丸くさせる。

 

「ククク、あまり怖がらせるなタナトス。コイツはアタシの切り札の様なもの、あまり詮索してくれるな。その代わりきっちりと代金は弾ませて貰うさ」

 

「────まぁ、スポンサーを続けてくれるのなら此方としては文句はないけどさ」

 

 そう言うが、あの狐人が魔法を使ってから牡牛の戦闘力は明らかに上昇した。恐らく何らかの補助(バフ)を掛けた様だが……。

 

(イシュタル・ファミリアの狐人、ね。覚えておこ)

 

 唯の補助でモンスターが彼処まで強くなるのはあり得ない。恐らくはもっと強力な力の譲渡、或いは底上げの類いなのだろう。

 

 あの力があれば闇派閥(自分達)も建て直せるかもしれない。そう期待を込めながらもタナトスは水瓶の鏡から視線を外す。

 

 その一方で。

 

(あぁ、あぁ! ごめんなさい。冒険者様、ごめんなさい! 私の、私の所為で……!)

 

 狐人は自分の所為で死に掛ける冒険者を前に目を瞑る。良いようになぶられ、踏み潰され、蹂躙される。この光景を造り出したのは自分の所為だと、恐怖と後悔で涙を流す少女はただ謝る事しか出来なかった。

 

 女神は嗤い、死神は企む。人を超越した神の意思の前に何も出来ない狐の何と無力な事か。

 

 もう、自分にはこの所業に耐えられない。後で女神にどんな折檻をされようが、構わず狐人は魔法の解除をしようとしたその時。

 

 鏡の役目を担う水瓶の表面が黄金色に輝き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 





Q.リリルカちゃん強くね?

A.団長や女神の役に立てたくて頑張って強くなりました。

 そんな彼女の最近出来た細やかな野望は自分の印象を払拭し、ヘスティア・ファミリアのマスコット枠に返り咲く事。

 尚、その野望が叶うことは絶対にない。


 次回、本領発揮。

 地下深く蠢く悪意の迷宮に、黄金の炎が顕れる。


「止めて下さぁぁい! 迷宮がァッ! 迷宮そのものがァァァっ!!」


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