今回はメインヒロイン登場回。
そんな訳で初投稿です。
「盾、構えーッ!!」
無数の怪物で蠢く大荒野、見渡す限りが凶暴なモンスターで蠢く階層に一人の年若い青年が叫ぶ。
「前衛は
「了解! キッチリ知らせるから、ちゃんと決めなさいよ!」
宙に浮かぶ少年────ラウル・ノールドの指示に従い、
今回の遠征の課題である後輩達の成長具合。それを目の当たりにしたロキ・ファミリアの三巨頭は満足そうに頷いた。
「思ったより指揮が出来とるの、ラウルの奴」
「足りない所も多々あるが、アキやクリス達を使って上手い事カバーしているな」
「視野も意識的に広くしようと常に留意している……うん、まぁ悪くないかな」
第一級冒険者となり、本格的にフィンの後釜として見られる事になったラウル。ベジットに気という概念を教えられ、何の取り柄のない自分にも漸く出来ることが出来たと喜んだ彼は、授けられた力に浮かれる事なくひたすら自己の鍛練と仲間との連携に励んだ。
辛く、険しい道のりで決して楽とは言えない日々ではあったが、魔力も目立った才能も無いラウルにとって気という力との邂逅は彼に一つの転機をもたらしてくれた。
表面上はステイタスに反映されず、相変わらず地味なラウルではあったが、ロキ・ファミリア内で初となる飛行能力者となり、その偉業は神々も認める程となった。
【
色々と不名誉なあだなではあるが、気という概念と出会った事で近年はその評価を覆しつつある人物の一人。
「加えて、奴の纏う気もかなりの錬度だ。ありゃあ下手すればウチの
「ほう、お主にそこまで言わせるか。【
「余程強くなることに貪欲みてぇだな。人畜無害の面してやがるが、中身は相当煮えたぎってやがるぜ」
三巨頭に並ぶ形で戦局を見守るのは、此度の遠征で助力することとなったヘスティア・ファミリアの副団長であるベート・ローガ。
【
「伊達に俺らよりも早く舞空術を会得してねぇな。宙に佇んでも尚、纏っている気に全く揺らぎが見えねぇ。気の圧や内包している気の量は俺達程ではないが、扱い方に関してのみ言えば俺やアルフィアに迫るぞ」
ベートから下される高過ぎる程のラウルの評価に流石の三巨頭も目を見開く。日頃からベジットによる洗礼を受け、時には人格すら崩される程の地獄を見てきたベート。
その甲斐あって気の扱いに関してはベジットが太鼓判を押す程となり、そのベートが自分やアルフィアと気の扱い限定であれば互する程だと豪語する。
「ありゃあ気に関する良い教本になるな、ウチにいないのがつくづく悔やまれる」
もしラウルがヘスティア・ファミリアに入れば、気に関する教えは格段に改善されるだろう。基本的に“考えるな感じろ”な精神のベジットを長に持つベートにとってそれだけラウルの気に対する姿勢は理想的であった。
「ラウル! 右の陣営より報告があがってきたわ! 更なるモンスターの増援! 流石に手が足りないわよ!」
黒い髪の猫人の女冒険者【
現在ロキ・ファミリアは目の前のモンスターの群れを対処するので精一杯、自身もここで指揮を取っている以上、前線に立つのも不味い。
ここまでか。ため息を吐いて今の自分達の限界を悟ったラウルは、側に控えていた四人の少女に対応を促す。
「ティオネさん、ティオナさん、アイズさん、リリルカさん、対処の方お願いするッス!」
「オッケー、任せてよ!」
「漸く出番ね。ラウル、以前よりも指揮が上手じゃない」
「うん、フィンとは違うけど安心して見てられたよ」
「ラウルさんの指揮、大変参考になりました」
それぞれの得物を手に、迫りくるモンスターの群れを見据える四人。嘗て幼女部隊とオラリオで話題となった少女達はラウルの指示の下、モンスターを狩る暴風と化す。
駆ける。Lv.6となり地力が以前よりも遥かに増した四人の連携───否、波状攻撃はモンスターに断末魔すら許さず蹂躙していく。
アイズが剣と風、ティオネとティオナが暴力を、リリルカがそんな三人をフォローしながら自身も槍で駆逐していく。
「さぁさぁ、美少女部隊のお通りよ!」
「ティオネさん、マジでその部隊名を採用するつもりですか!?」
「ロキの言ってた奴かー、アタシ気恥ずかしくてちょっと苦手ー」
「私も……」
現在背丈も伸び、成長した四人にとって幼女は適切ではない。だったらこれならどうやとトリックスターな
「何言ってんのよ、ここで
「うーん、理不尽」
リリルカにとってフィンは槍使いとしての師の一人であり、派閥間の付き合いもあって感覚的には頼りになる親戚の叔父に近しい。
当然恋愛的な感情もない事からティオネの懸念は杞憂に過ぎないのだが、本人はまだ納得出来てないようだ。自分が想い人の一番になるのだと豪語するアマゾネス、そんな色んな意味で分かりやすい彼女を若干呆れながら、リリルカも彼女達に続くのだった。
大荒野を埋め尽くすモンスターが瞬く間に蹴散らされていく様子を、ロキ・ファミリアの面々………特に入団して間もない新入りはその光景に唖然としていて。
「────凄い」
山吹色の髪のエルフ、レフィーヤはただその光景に自分がいないことに微かな焦りを抱いていた。
◇
「ベヒーモス………だと?」
その頃、地上では突然現れた黒い竜巻の対応に多くの冒険者達が対応に追われていた。幸い物理攻撃の通る不思議な風であった為、上位の冒険者により鎮圧し、現在のオラリオは表面上は普段通りいつもの日常を謳歌していた。
しかし、バベルの一室に設けられた対策会議室。そこでは嘗て【暴食】と恐れられた男の言葉によって、室内は大きなざわめきに包まれていた。
「ベヒーモスだと!? バカな、奴はお前達ゼウス・ヘラの二大派閥によって打ち倒された筈だろう!!」
冒険者達が困惑している中、最初に声を張り上げたのはギルドの統括者であるロイマンだった。
ベヒーモスとは嘗て千年前に黒竜と共に地上に進出した三大モンスターの一角、その強大さから15年前にゼウスとヘラの二大派閥が討伐するまで世界に厄災を振り撒いていた怪物。
討伐され、既にこの世界にはいないとされる怪物であったが、黒い竜巻を見てベヒーモスだと確信する【
「あぁ、奴を倒した味は今でも覚えている。奴は間違いなく当時の俺達が倒した」
「では、何故ベヒーモスだと?」
「匂い、としか言えんな」
落ち着いた様子でザルドに訊ねるのはガネーシャ・ファミリアの長、シャクティ・ヴァルマ。
ベヒーモスは確かに倒した。それは当時ベヒーモスの肉を食らい、その強さを得たことで討伐したザルドが間違いないと断言する。
だが実際にオラリオを襲った竜巻からベヒーモスの匂いを感じ取ったのもまた事実。腕を組んで押し黙るザルドにロイマンは頭を掻きむしって悶絶していた。
「ロキ・ファミリアは………今頃はダンジョンの深層か」
「呼び戻すのは無理だな。その間に奴が動き出さない保証もない」
「アストレア・ファミリアとの連絡も途絶えている。恐らく、例の人造迷宮で何らかのトラブルに巻き込まれたのだろう」
「タイミング的に考えて、今回の件とは多分無関係では無いのだろうな」
「恐らくな」
現在、オラリオは推定ベヒーモス並みの厄災クラスのモンスターに狙われている。ロキ・ファミリアは深層に向かっているという事で救援に呼ぶのは現実的では無いし、アストレア・ファミリアも現在は
しかもそのアストレア・ファミリアとの連絡は向こうでトラブルがあった為か途絶えてしまっている。彼女達が全滅する事は無いとは思いたいが、それでも人造迷宮の全貌は明らかにされておらず依然と未知な領域が数多い。
アストレア・ファミリアの救援に向かいたくとも、ベヒーモスを相手取る以上戦力の分散は避けたい所。ロイマンやシャクティが頭を抱える中………。
「んじゃ、取り敢えず人造迷宮の方はアルフィアを向かわせるか。アイツも前回の探索でそこそこ構造を把握しているみたいだし、初見の罠にも対応出来るだろ」
オラリオに危機が迫っている中、あっけらかんとした様子で口を開いたのはベジットだった。
先の
第一級冒険者の中でも
「い、良いのかベジット。アルフィアはそちらとしても貴重な戦力の筈では………」
「気にすんな。ただ、その代わりと言っては何だが………ウチの主神の事、面倒を見てやってはくれねぇかな?」
既にオラリオでは外からの脅威である黒い竜巻に対しての部隊を編成しつつある。その中には当然の如くベジット達の名もあり、結果としてヘスティア・ファミリアは殆ど戦力を空けてしまう事になってしまう。
アリスが一応側にいるようにしているが、先の食人花の件もありなるべく一人だけで対応させたくはない、と言うのがベジットの本音だ。
そこで足りない人員を他で補う為にベジットはシャクティにガネーシャ・ファミリアから本拠地の護衛を頼み込む……。
「あぁ、勿論だ。そちらがアルフィアという特大の戦力を出してくれたんだ。私も、最大限の支援はさせて貰う」
ガネーシャ・ファミリアの眷族は数だけでなく、団員一人一人のレベルも高い。抱えている第一級戦力の数ならフレイヤ、ロキ両派閥を凌駕する
そんな彼等を束ねる長から了承を得られたベジットは満足そうに頷いた。
「さて、残る問題はフレイヤ・ファミリアだが………」
「フレイヤ様からのお達しだ。ベヒーモス討伐には俺が出る」
「他の連中はオラリオの防衛か?」
「そうだ」
部屋で唯一沈黙を保っていた【猛者】が口を開く。黒き竜巻を操る推定ベヒーモス、その討伐に際しフレイヤ・ファミリアからはオッタルだけが出撃するという。
事実、
尤も、第一級の中でもLv.7という戦力を複数人有しているフレイヤ・ファミリアがオラリオの防衛に当たるというのなら申し分もないのも事実。
「じゃあ、決まりだな」
「出発は明日。外にいる協力的な派閥と連携し、竜巻の発生源である推定厄災級モンスターの討伐。任せるぞ、冒険者」
ロイマンの一言に全員が頷く。ロキ・ファミリアとアストレア・ファミリア抜きの討伐戦。当然、誰しもが不安に思った。
だが、同時にこれは好機でもある。ベヒーモスは先の海の覇者と黒竜に並ぶ三大怪物の一体、奴をここで打ち倒す事ができればそれは黒竜再戦への大きな意味合いにも繋がる。
そして、先日ベジットが発した黒竜再戦への意気込みの件はフィンを通してロイマンにも伝わっている。
これは試金石だ。終末の黒竜に人類が今一度挑める為の、避けては通れない道。
(頼むぞベジット、頼んだぞ、冒険者!)
会議室を後にするベジット達をロイマンは期待に満ちた眼差しで見送るのだった。
◇
「はい、そんな訳で明日から推定ベヒーモスの討伐に乗り出す事になりました」
「またかい」
本拠地に戻り、主神であるヘスティアに開口一番告げられる言葉にヘスティアは何となく既視感を覚えた。
「というか、本当にベヒーモスなのかい? そのモンスターってザルド君やアルフィア君達が倒したんだろ?」
「あぁ、ギルド長にも言ったが、あの黒い竜巻には奴と良く似通った匂いがした。全くの同種とは言わないが、近しい存在なのは間違いないだろうな」
ザルドの嗅覚は
そんな彼が言うから間違いは無いのだろう。唐突に現れた推定ベヒーモスの出現、それを聞いてヘスティアはウゲーッとゲンナリしているが、そこまで悲観に満ちている様子はなかった。
「じゃあ、明日は皆その推定ベヒーモスを討伐しに行くのかい? もしかして、結構かかりそう?」
「奴が生み出す黒い竜巻次第だな。どうもあの竜巻はこの大陸のあちこちに撒き散らしてるらしくてな、オラリオの冒険者を筆頭に神の眷族達が総出で対処しなくてはならんそうだ」
「超広範囲の拡散攻撃。規模こそは凄まじいが、そこいらの冒険者でも対処できるのは幸いか」
実際、オラリオを襲った竜巻は世界各地で観測されており、確認されただけでもラキア王国や
末端の冒険者でも対処可能といっても規模は凄まじい、放っておけば被害はドンドン拡大していく。それを防ぐ為にも元凶となるモンスターの討伐は急務となっている。
「ああ、ただアルフィアはアストレア・ファミリアの救援の為に人造迷宮に向かってくれ」
「………………仕方ない。従ってやる」
眉間に皺を寄せ、凄まじく嫌そうな顔をしながらも最後はキチンと頷く。なんだかんだ言うことを聞いてくれるアルフィアに安堵しつつ、ベジットは話を纏める。
「そんな訳で、明日は俺とザルドは本拠地にいないから」
「あ、ザルド君もなんだ」
「あぁ、今更だとは思うが相手がベヒーモスだと言うのなら、放ってはおけんだろう」
「なんだよザルド、お前ベヒーモスとヤるつもりか?」
「いいだろう団長、アンタはこの間地下で一暴れしたんだろ? 俺もいい加減暴れてみたいんだ。リベンジを兼ねて、な」
そう言って獰猛に笑うザルドをヘスティアは呆れたように肩を竦めた。普段から現役を退いた退役軍人みたいな人間なのに、機会が巡ってきたと思うと血が騒いでしまうらしい。
孤児院の子供達には炊き出しの際に気さくなオジサン呼ばわりされてるのに、今は全盛期時代の冒険者のソレ。
時折一人で鍛練していたのも知っていたし、ベヒーモスとは因縁があるのも事実。
「分かったよ。その代わり、絶対に生きて帰ってくること! ベル君を悲しませたらダメだからね!」
「無論だ。完膚なきまでに喰らい尽くしてやる」
すっかりベヒーモス(推定)と闘う気になっているザルドだが、ベジットは一つだけ懸念に思う所があった。
(多分、オッタルも自分がヤるとか言い出すんだろうなぁ)
聞けば、当時の対ベヒーモス戦ではゼウスとヘラだけでなく、それ以外の派閥の冒険者も裏で色々と協力していたらしい。
脇役に押し込まれていた屈辱を晴らす為、オッタルもベヒーモスと闘うことに拘るかもしれない。
(仕方ない。その時はジャンケンで決めるしかないか)
相手は嘗ての生きた厄災。危険度も、その強さも全てが未知数な不確定な怪物。
だと言うのに、ベジット達の会話は終始穏やかなものだった。
それよりも……。
「そういや、ベルはまだダンジョンなのか?」
そろそろ日も落ちてきた。今頃ならダンジョンから帰ってきている筈の末っ子が今日は少し帰ってくるのが遅い様子。
仕方ない、明日の件もあるし迎えに行こうとベジットがベルの気を探った………その時。
「────なんだと?」
感じられる強い気配、その感覚にベジットは珍しく困惑するのだった。
◇
「ヴェルフ! 確りして、ヴェルフ!」
「ぐっ……くそったれ、ふざけろ……っ!!」
迷宮七階層、今日はふとした縁で赤髪の鍛冶師であるヴェルフなる青年とダンジョンへ潜っていたベル。
探索も順調で、魔石やドロップアイテムもそこそこ採れてきた。二人で分けても充分賄えて、相方の青年も確かに手応えを感じ、そろそろダンジョンから引き上げようとした時。
奴は現れた。
牛の頭を持った人型の怪物────ミノタウロス。上層では出てくる筈の無い、多くの冒険者にとっては死そのものの化物。
しかし、ただのミノタウロスであれば問題はなかった。初めてダンジョンへ探索した日、ベルは不運にも三体のミノタウロスと遭遇し、その内二体はベル本人が単独で撃破している。
界王拳なる必殺技でのゴリ押し。これを使えば今度もベルは窮地を乗り越えられると、そう思っていた。
(チクショウ! なんでだ。なんで、ミノタウロスが……
赤いミノタウロスが纏うのは、白い炎。それはベルがオラリオに来てから幾度となく目にして来た神時代に於ける新たな力の概念。
「■■■■■■■■■■■ッ!!!」
怪物の雄叫びが階層を震わせる。
置いて自分だけ逃げる? 論外。ここで誰かを見捨てて逃げれば自分はもう冒険者は名乗れない。
あの人の後を、追いかける事が出来なくなる!
(やらなきゃ。僕がやらなきゃ、誰がやるんだ!!)
ここでこのミノタウロスを放っておけば、被害は確実に増えていく。今、この場で闘える冒険者は自分しかいない。
身構え、覚悟を決める。疑問も困惑も今は横に置いて、今は目の前のミノタウロスだけを見据える。自身の唯一の武器である女神から賜った短剣を構えるベルに……。
「──────」
ミノタウロスの口元が喜悦に歪んだ気がした。
Q.なんでこのミノタウロス、気を使えんの?
A.愛です。愛ですよナナチ。
Q.このミノタウロス、誰の差し金?
A.
「………いや、流石に今回は私じゃないわよ!? いやホント、マジで!!」