ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

9 / 124


最近めっきり寒くなってきましたね。

そんな訳で初投稿です。


物語9

 

 

 

 

 オラリオにある工業区画のとある廃工場、面積も広く闇派閥の潜伏先としては絶好なその場所で、一つの地獄が出来上がっていた。

 

主に空気感、的な意味で。

 

「……………」

 

「……………」

 

「………あ、あぅ」

 

(空気、重ッ!?)

 

 固い地面に正座をしている覆面のエルフ、顔の下半分をマスクで覆っているから全容は分からないが、少なくとも大量の汗を垂れ流している事から、相手に対して相当負い目を感じている様子。

 

対して緑髪のエルフ、リヴェリア。彼女も覆面のエルフ同様沈黙を貫いているが、滲み出ている圧は半端じゃない。

 

正に怒髪天を衝く。ベジットとアイズの二人はリヴェリアの背中側に立っているので表情こそ見えないが、その顔が憤怒のモノになっているのは想像に難しくない

 

アイズ? ベジットのズボンを握ってオロオロしてます。

 

「ね、ねぇベジット。アレ、何とか出来ない?」

 

「いやぁ、流石に天下無敵のベジットさんも、怒れる母の前に立ちたくはないなぁ」

 

 リヴェリアというエルフは、どういう経緯かは知らないがこのアイズという少女の親代わりを務めているのだろう。最初こそは嫌々ながらでも、共に生活し、様々な苦難を乗り越えていく中で母性が芽生え、アイズという少女を我が子の様に愛せるようになったのだろう。

 

 そんな想像が出来る位には二人の仲は見ていて良かったし、確かな繋がり………絆と呼べるモノが其処にはあった。

 

それが誰かの手によって危機に陥っていたら、そりゃ怒るだろう。それが、たとえ同胞と呼ばれる同じエルフであってもだ。

 

「リヴェリアさんが怒っているのは、それだけアイズちゃんが大事って事さ。愛されてんね、アイズちゃん」

 

「────うん」

 

 照れ臭そうに、それでもちゃんと頷ける位には彼女もリヴェリアの愛情を理解していた。先の黒竜への反応といい、歳に似合わない剣の冴え具合といい、このアイズなる少女も何かと訳アリの様だが、こういった年相応の一面があると知って、ベジットも少し安堵する。

 

「私の事はアイズでいい、ちゃんはいらない。あと、年下だからってバカにしないで、私の方が冒険者としては先輩なんだからね」

 

「おっと、ここでまさかの先輩風を吹かすとは。ハイハイ、分かりましたよアイズ先輩」

 

「ハイは一回」

 

「はーい」

 

 ムゥっと、頬を膨らませてポコポコと脚を叩いてくる。こういう所もやはり年相応だ。

 

「ちょ、脚を蹴るのは無しだって、脛はヤめてぇ!」

 

 そんな自分達の緩い空気に感化されたのか、これまで沈黙を保っていたリヴェリアの張り詰めた空気は弛緩していき、深い溜め息が溢れたのが聞こえた。

 

「お前達、ふざけるのもその辺にしておけ。ここは一応敵地なんだぞ、周囲の警戒くらいはしておけ」

 

「「はーい」」

 

「急に仲良くなったな」

 

 やれやれと呆れた様子のリヴェリアだが、お陰で自分も幾分か落ち着くようになった。今ではすっかり死人のような顔色になった同胞を見下ろし、リヴェリアは静かに言葉を口にする。

 

「いつまでもそうやって座っているのも辛いだろう。早く立て」

 

「はっ、い、いやしかし………」

 

「そちらにも事情はあったのだろう? 聞いた所によると、うちのアイズも挑発めいた言葉で煽ったと聞く。幸いどちらにも怪我は無いんだ。今はそれで納得しよう」

 

 互いに抜き身の剣で打ち合ったのに、それでも怪我がないから見逃すという。それは相手が同じエルフだからか、それとも状況がそれを許さないのか、恐らくは後者だ。

 

覆面エルフの方は不服………というより、本当に自分が許されていいのかという、困惑の方が大きい様だ。

 

「そもそも、お前達アストレア・ファミリアが現在担当している区域は此方ではないだろう。我々はアーディから指示を受けて急遽ここへ駆け付けたが、そっちはどうした? 幾らお前がLv.3の強者でも、単独行動は危険だぞ」

 

「アイズちゃんアイズちゃん」

 

「はいアイズです」

 

「今更だけど、冒険者って具体的にどんな感じでランク分けされてんの?」

 

 オラリオに来てからちょくちょく耳にするレベルという概念。この世界に来てからもたまに聞くが、正直ランク分けの仕方が分からない。

 

ドラゴンボールでいう戦闘力の様な一種の強さの目安なのだろうが、今一つ要領を得ないベジットは自分よりも先輩のアイズに訊ねる。

 

「んっとね、Lv1が下級冒険者。Lv2で上級冒険者で第三級冒険者、Lv3、4が第二級冒険者って言われていて、Lv5以上が第一級冒険者って言われてるの」

 

「ほー、色々あるんだね。因みにアイズは?」

 

「Lv3! 第二級冒険者!」

 

 そういってドヤ顔してVサインしてくる金髪幼女の剣士にベジットは穏やかな気持ちになれた。

 

そんな和気藹々とした二人の空気にまた当てられたのか、リヴェリアから咳払いの声が聞こえてくる。

 

「ンンッ! 兎も角、お前もまだ冒険者として大成していない身だ。色々思う所はあるだろうが、今は仲間達の所へ帰ってやれ」

 

「────はい」

 

それだけ言うと、覆面エルフはヨロヨロと立ち上がり、リヴェリアとアイズの方に向けて一度頭を下げると、一瞬だけベジットの方へ視線を向けてくる。

 

それは羨望、或いは嫉妬。自分が持たないモノを持つ者への羨んだ視線。悪意の無いその眼差しにベジットは戸惑うも、覆面エルフは無言のまま工場を後にした。

 

「さて、我々はもう少しこの辺りを見て回るか」

 

「あ、その事なんだけどリヴェリアさん」

 

「“さん”はいい、余所の派閥にまで遠慮されては却って肩身が狭くなる。敬語もだ」

 

 この人本当にエルフ? そう思える程の度量の広さに笑みを浮かべ、ベジットは指を指す。

 

「今あっちの方から音が聞こえた。多分、闇派閥だ」

 

「なに?」

 

 指した方角は此方から死角になっている場所、一見すれば気配も何も感じない場所から、複数の影が飛び出してきた。

 

「ち、ちくしょう! 何故バレた!」

 

「こうなったらやるしかない! おぉ、神よ私に慈悲を、死に別れた妹と会わせてくれ!」

 

「エルヴィスー!!」

 

「アンテラ!!」

 

 しかも全員自爆兵。邪神に唆され、冒険者を道連れにする事を定められた死兵達。彼等の奇襲に、当然リヴェリアは身構えるが。

 

「フッ!」

 

「シッ!」

 

共に飛び出すベジットとアイズ、五人の内の三人を風を纏うアイズが手足を斬って無力化し、残る二人をベジットが当て身で気絶させる。

 

あっという間の秒殺劇、杖を手に掛けたリヴェリアも自分の出番がなかった事に若干の寂しさを覚えた。

 

「やれやれ、私の出番が取られたか」

 

「やっぱりベジット、強い」

 

「流石にこれくらいはな。アイズ先輩もお手並みお見事、カッコ良かったぜ」

 

 先輩と煽てられ、スッカリその気になったアイズは満足気に再びムフーッとVサインを出す。そんな二人に呆れながら………。

 

「無駄口もそこまでにしておけ。ほら、今の内にコイツらの自爆装置の取り外しと拘束の用意だ。急げ」

 

「「アイ・マム!」」

 

 

「本当に仲が良いな」

 

 リヴェリア(指揮官)の指示に従い、自爆の装備を取り外し、近くの縄で拘束していく二人。

 

出会ってまだ数時間程度の間柄なのに、二人の仲の気さくさにリヴェリアは苦笑いを溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ昼時か。我々もそろそろ本拠地に戻るとするか。ベジット、お前はどうする?」

 

 廃工場での調査も終わり、構成員も全員ガネーシャ・ファミリアに差し出した後、三人は何事もなくその場から離れた。

 

「俺も主神と合流するよ。今の所、アイツは大通りで炊き出しの手伝いをしているみたいだからさ」

 

「そうか、なら我々とはそこで別れる事になるな。……ベジット、余所の派閥に余計な世話だと思うが」

 

「分かってる、俺も無茶はしねぇ。まだこの街に来て数日なんだ。噂のダンジョンを目にしないまま、死んで堪るかよ」

 

 ベジットの強さはリヴェリアから見ても相当なものだということは感覚的でありながら理解している。潜在能力の高いアイズ(Lv.3)に追い付ける身体機能、闇派閥の構成員を瞬時に無力化させる高い技術力。

 

恐らくはオラリオの外で鍛えた人間なのだろう。しかし、彼のような傑物がいた事は聞いたことがない。

 

(いや、少し前にフィンを伝って商人から聞いた事があったな。モンスターを武者修行と称して狩っていた逆立った黒髪の青年の話を)

 

 成る程、であればLv.1の時点であれだけ動けるのも納得出来る。確かにダンジョン産のモンスター程強力でないにせよ、一人でモンスターを狩り続ければある程度の実力は身に付く。

 

それも、自身の主神を護りながら(・・・・・・・・)なら尚更だ。

 

 恐らくはフィンもその事に気付いているのだろう。だから本拠地で話をした時も彼に対して友好的だった。

 

『彼との関係は、可能な限り良好でいたい』

 

(………その割には、妙に拘っていた気もするが)

 

 お陰で女神ヘスティアと犬猿の仲であるロキはずっと不機嫌だったし、宥めるのに随分苦労したものだ。

 

(オマケに……)

 

「ねぇ、ベジットもウチの本拠地(ホーム)に来なよ」

 

 既に何度も前述しているが、二人の間柄はまだ出会ってから数時間だというのに、アイズはベジットに懐いてしまっている。冒険者としての先輩後輩、ベジットの妙な父性感、他にも色々と要因があるのだろうが、それにしたってアイズの心が開くのが早すぎる。

 

これも彼が処女神の眷族である事に関係しているのだろうか? 我等が主神、ロキが言うには女神ヘスティアは“すべての孤児の保護者”の側面もあるのだと言う。

 

ならば、彼に惹かれるのも無理らしからぬ事なのかも知れない。親代わりをしていた身としては、少しばかり寂しいなと、リヴェリアは柄にもなく思った。

 

「いやぁ、流石に主神と不仲な所へ向かうのは気が引けるなぁ」

 

「なら、そっちの神様も来れば良い」

 

「おっと、この幼女は神々の争い(キャット・ファイト)がお望みか?」

 

「よせ、アイズ。あまり彼を困らせるな」

 

「ムーッ」

 

 頬を膨らませ、私不機嫌ですと目一杯訴えてくる娘、それがどうも面白くて、今のオラリオが危険な状態だと言うのに、つい笑みが溢れてしまった。

 

「まぁホラ、今のオラリオが落ち着いて諸々決まったらさ、ダンジョン探索に誘うからよ。その時まで我慢してくれ」

 

「本当?」

 

「あぁ、俺は嘘は言うが、約束はなるべく破らないようにしてるんだ」

 

 少しその物言いが気になるけど、それなら良いかと、アイズもほんのり笑みを浮かべた───その時。

 

“ドォンッ”

 

「「「ッ!?」」」

 

 大通りの奥、オラリオの外壁付近で爆発が起きた。

 

突然の出来事に唖然となる三人、しかし次の瞬間には三人とも顔付きが戦士のモノに代わり、爆発の下へ向かって駆け出していく。

 

 その最中、リヴェリアは見た。立ち塞がるように佇む漆黒の騎士………ザルドと、奴と相対する二つの影。

 

(ガレス! それに彼女は……象神の杖(アンクーシャ)か!)

 

ドワーフの方はリヴェリアと同じ第一級冒険者(Lv.5)のガレス、もう片方はガネーシャ・ファミリアの団長。

 

 並大抵の相手では敵わない頼もしき仲間だが、相対するはそんな自分達を遥かに凌駕する怪物(Lv.7)、勝てる見込みなど自分達には存在せず、奴が出てきた時点でこの場での情勢は定まった。

 

それでも立ち止まらないのは、自身に残された僅かな矜持があるから。自分達以外太刀打ち出来ない、ならばアイズと彼だけは逃がそうと思考を巡らせた時。

 

パンッと、乾いた音が響いた。見れば、ザルドが佇むその奥で黒いツインテールの少女が、白髪の男に叩かれたのが見える。

 

 人類が、神に手を出した。全知零能の神を、一方的に暴力を振るった。

 

相手は処女神、戦う術など無く。ただ眷族に寄り添う事しか出来ない弱い神。

 

───否、たとえ神でなくとも力の無い者を一方的に殴る白髪の男にリヴェリアは嫌悪と怒りで表情を歪めた。

 

(────なん、だ?)

 

 瞬間、リヴェリアの怒りと嫌悪が吹き飛ぶほどの“威”がすぐ近くで爆発的に膨れ上がった。

 

 その威圧にリヴェリアの脚が止まる。その迫力に、アイズの顔が驚きに歪む。脚が止まる二人を瞬く間に置き去りにして、彼───ベジットはその瞬間光となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────来るかッ!」

 

 目の前のドワーフ、ロキ・ファミリアのガレスの背後で爆発的に膨れ上がった気配にザルドは無自覚に口角を吊り上げる。

 

 予感はあった。あの日、オラリオが火の海に包まれた夜。誰もが嘆き、喚き、泣き叫ぶ絶望の中で、奴だけが通常で、何処までも平常だった。

 

あの地獄をまるで意に介さず、ただ己のやるべき事を粛々と行う奴の姿は異常を通り越して悍ましいとすら感じた。

 

 奴の底は何処まで深い? 奴の強さはどれ程なのか。

 

気付けば、ザルドはそんな事ばかり考えていた。

 

後進の為に、踏み台となる覚悟は出来ている。死に逝く己の時間を全てオラリオの冒険者共に使うことに躊躇いはしない。

 

だが、だが、それとは別に………。

 

(お前という獲物、喰らわせて貰うぞ!!)

 

 奴の存在感が、急激に増していく。爆発的とも呼ぶべき威圧の増大。

 

瞬間奴は光となり、気付けば己の間合いのすぐそこまで来ていた。

 

 なんと言う膂力! なんという脚力! なんという速さ!

 

しかし。

 

「捉えたぞ!!」

 

 第一級冒険者の中でも最上位(Lv.7)に位置する己の知覚が、奇跡的に奴の頚を捉えた。

 

タイミングはドンピシャ、このまま振り下ろせば己の剣が奴の頚を撥ね飛ばす。

 

既にザルドには奴を新米の冒険者とは思っていない。比べ、比較するのは自身が最後に討ち取った怪物、【陸の王者】。

 

 即ち、己の総てを懸けて相対すべき相手だと認めた。

 

 しかし。

 

「邪魔だ」

 

 奴の目は、己を映してはいなかった。奴の瞳に、己は入っていなかった。

 

 ふと、兜越しの視界の端に入ってくる拳。白いグローブに包まれたその剛拳は、ザルドが今まで目にしてきたどの拳よりも異質で───強大だった。

 

 咄嗟に剣で防ごうとするが、その剣が容易く砕かれる。愛剣である暴烈の大災塊(グラトール)には及ばないまでも、闇派閥が贅沢に拵えた特注品。

 

不壊属性が附与された特殊武装(スペリオルズ)、それを、まるでガラス細工のように砕かれていく様が、本日ザルドが目にした最後の光景だった。

 

 拳がめり込み、視界がぶれる。自身の体が宙を舞い、幾度も高速に回転していく。

 

百か、二百か、或いは千か。長きに渡り(ゼウス)の下で多くのモンスターを、強者を喰らい尽くしてきた己が、たったの一撃で倒される。

 

その事実に、頭が理解に及ぶ頃には………。

 

(あぁ、そうか。お前にとって、俺は…………)

 

 暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────数分前。

 

「い、闇派閥(イヴィルス)だぁーッ!!」

 

 ヘファイストスの眷族と共に慣れない炊き出しをしている中、奴等は現れた。嘲笑と罵声、逃げ惑う人々を追い立てる様に現れた闇の眷族達。

 

不安に怯える人々を愚かと嘲笑い、泣き叫ぶ子供を醜いと侮蔑する。

 

「フハハハハ! 【殺帝】も【顔無し】も甘ッちょろい事を言う! 踏み潰せばよいのだ、何もかもを!」

 

 溢れるように現れる闇派閥、その中から一人の白髪の男が高らかに笑いながら逃げ惑う無防備の男性の背中を斬り捨てる。

 

「奴等の【猛者】は我等が英雄によって倒された。ならば、後はただ蹂躙するのみ! 生き残った人が多い? 被害が予想より少ない? それがどうした! そんなモノ、今この場で叩き潰せば良い!!」

 

 人々の悲鳴が聞こえる。恐怖に怯える慟哭が、断末魔が、男にとっては何よりも心地良い。

 

「そら、何もかもを焼き尽くせ! 壊し尽くせ! ありとあらゆる人の痕跡を、愚かな人間の営みを、他ならぬ私の手で終わらせてや「───止めるんだ!」 ンン?」

 

 まるで演奏の指揮者のように、オラリオ崩壊の序曲を奏でようとした所へ………雑音が混じる。

 

聞きなれない鈴のような声、何かと思い視線を下げれば、神と思われる黒髪の少女が両手を広げ、男の行く手に立ち塞がっていた。

 

「───なんだ、お前は? 何処ぞの女神の様だが?」

 

「僕はヘスティア。そんなことより、こんなことは今すぐ止めるんだ!」

 

「いけませんヘスティア様!」

 

「ソイツに、近付いては!」

 

 人類(子供達)を護ろうと、嗤う悪に立ち向かう全知零能の神。ヘファイストスとガネーシャの眷族がヘスティアへ駆け付けようとするも、闇派閥の猛攻によって足止めされてしまっている。

 

「女神ヘスティア………聞かん名だ」

 

「生憎と僕達はまだオラリオに来て日が浅くてね、知られていないのは当然さ」

 

「───分からんな。如何に神と言えど、下界に降りた貴様らは零能の存在だ。如何に人の及ばぬ全知を有していようと、我等の暴力に抗える道理はない」

 

「───子供達が泣いている。痛いと、怖いと、僕は神だ。たとえ神の力が使えないからって、この下界に立った以上、その声から逃げることだけは出来やしないのさ!」

 

「ヘスティア様!」

 

「にげ、逃げて、逃げてください!!」

 

 後ろからヘスティアの優しさに触れた者達の慟哭が聞こえてくる。

 

分かっていた。今の自分が出てきた所で、何も変えられやしないと。

 

知っていたとも、自分と言う余計なお荷物の所為で子供達に余計な負担を強いていた事に。

 

 他の神々の様に何処かへ避難すれば良いのだろう。或いはロキの言う通り、隅で事が終わるまで大人しく震えていれば良かったのだろう。

 

でも、見てしまったんだ。子供達の涙を、嘆きを、そして………その絶望の中で、それでも足掻く正義の眷族達(星々)を。

 

 たとえ一度は折れ、人々から石を投げ付けられ、罵倒と罵声を浴びせられ、それでも。

 

「僕はさ、彼女たちのファンなんだ。この混沌とした時代で、泥にまみれて、傷だらけでも、空元気でも! それでも明日を信じて笑う彼女達が、どうしようもなく格好良く見えた! 輝いて見えたのさ!」

 

 僕の眷族の次くらいにね! なんて、吼える女神。

 

彼女の声に、少し離れた所で邪神に打ちのめされていたエルフの脚に、微かだが力が戻った。

 

「そんな格好いい眷族(子供)がいるんだ。()の僕も、影響を受けてもおかしくないだろ」

 

 下界に降りて初めて向けられる敵意と悪意、自分も怖くて仕方がない癖に、それでも格好付けて笑う少女に、何時しか民衆も立ち上がろうとして……。

 

「そうか、なら先ずはお前から穢してやるとしよう」

 

 パンッと、白髪の男の振り抜いた手が、ヘスティアの頬を叩いた。

 

「貴様の送還を以て、オラリオ崩壊の序曲を奏でてやる! その前に穢して穢して穢し尽くした貴様の姿で、今度こそこのオラリオを狂乱(オルギア)で満たしてやろう!! 他ならぬ、このオリヴァス・アクトが!!」

 

 既に、白髪の男には道理など無かった。神の神威でも怯まない男は己自身に心酔(・・)していた。

 

 倒れるヘスティアに誰よりも歪んだ笑みを浮かべ、次にどうなぶろうか思案していた時。

 

 

 

 

 

 

 

奴がいた。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か? ヘスティア」

 

 両の耳に付けた耳飾り(イヤリング)が風に揺れ、チリチリと軽い金属音だけがいやにその場に響いた。

 

突如として現れた第三者、地に倒れそうになったヘスティアを、男────ベジットが優しく抱き抱える。

 

「ベジット、君………」

 

「悪いな。ちょっと寄り道してた」

 

 零能の神は下界の人類と肉体の強度は変わらない。闇派閥の、それも幹部クラスのオリヴァスに叩かれたヘスティアの頬は痛々しい程に紅く染まっている。

 

そんな己の主神の頬に手を添えると、ヘスティアの頬に浸透していく暖かく柔らかい光、それに当てられたヘスティアは、これ迄の疲労が一気に押し寄せてきて。

 

「エヘヘ~、お姫様抱っこ……だぁ」

 

 何とも幸せそうに眠りについた自身の女神に、ベジットは呆れながらも笑みを浮かべる。

 

 そして、ヘスティアを信頼できるヘファイストス・ガネーシャの眷族達のもとへ歩み寄り。

 

「悪い。家の主神を頼む」

 

「は、はい!」

 

 一方的なその頼みを、ベジットより先輩である筈の眷族は断れなかった。

 

断れる筈がなかった。

 

何せ……。

 

「いきなり出てきて、なんだお前は! 我が狂乱の宴を邪魔をする。その罪は万死に値するぞ!!」

 

「──────」

 

「ひ、ヒィッ!?」

 

 彼の怒りに満ちた形相は、深層の階層主ですら竦む凄味があった。

 

 ベジットの周囲の瓦礫、その破片が宙に浮いては弾け飛ぶ。逆立った黒髪が点滅し、火花が散る。

 

オリヴァスへ一歩進むと、周囲の闇派閥の構成員が吹き飛ぶ。

 

 一歩、また一歩進む度に闇派閥の手先は倒れ、瓦礫が消し飛び地面が抉れる。理解不能な超常現象を前に、オリヴァスの酔いはすっかり醒め、オラリオを囲む城壁に追い詰められていた。

 

「な、なんなのだ。なんなのだお前はぁぁぁ……!」

 

 怯え、竦み、現れた時とは正反対の顔を晒す。そんな、降伏宣言も止む無しなオリヴァスの前に。

 

「どうした? 間合いだぞ」

 

 ベジットは掛かってこいと一蹴する。降伏も、懺悔も、総てを赦さない。そう断じ、見下ろしてくるベジットの圧に………遂に、オリヴァスは耐えきれず。

 

「ヒィッ!!」

 

 涙と鼻水を垂れ流し、グシャグシャとなった顔で刃を振るう。

 

しかし、当然ながらそんなオリヴァスの起死回生の一撃は虚しく空を切るだけに終わる。………否。

 

「?」

 

 彼の絶望は、ここからだった。

 

オリヴァスの胸元に添えられる指先、その主たるベジットは誰もが見る程に脱力していた。

 

一体何を? 明らかな隙を晒すベジットに疑問符を浮かべた………次の瞬間。

 

 ドッと、重く鋭い衝撃がオリヴァスを貫き、全身を内側から粉砕していく。首から下のあらゆる箇所、あらゆる筋肉、あらゆる骨が、ベジットの放つ一撃により砕かれていく。

 

ゼロ・インチ・パンチ。脱力からの圧倒的加速、それにより繰り出された一撃は、オリヴァスの全身を微塵に粉砕していった。

 

「殺しはしない。だが、それだけだ」

 

 これから先、オリヴァスは自身で歩くことは勿論、立つことも、満足に人並みの生活は送れなくなるだろう。

 

「薄暗い闇の中で、精々地に這いつくばって生き足掻け」

 

 血を吐き、白眼を剥いたオリヴァスはそのまま地に倒れ伏す。

 

奴の背後にあった城壁は拳の形でくり貫かれ、その遥か先の暗雲を円状に吹き飛ばしている。

 

 その光景に、言葉を出せる者はいなかった。

 

ただ、事の顛末を見守っていたヘルメス・ファミリアの臨時(・・)団長である万能者(ペルセウス)、アスフィ・アル・アンドロメダは呟く。

 

「────英雄」

 

 暗雲が消し飛び、光が注いでくる。彼の英雄の背中を目にした者はどうしようもなく。

 

新たな英雄の誕生を、思い知るのだった。

 

 

 






自分はノリと勢いで書いているので、意味とか特に考えていません。

解釈違いや物語の展開に苛立つのも分かりますが、深く考えず適当に読んでいただければ幸いです。

最後にお目汚し、失礼しました。







オマケ。

もしもフレイヤ・ファミリアに属していたら?3

「ベジット、貴方は酷い眷族ね。主神たる私を、ああも堂々と裏切るなんて」

「裏切ったのはヘディンも一緒だろ? 何で俺だけアンタの背凭れにされてるんだよ」

「あら、良いじゃない。私の派閥は実質ヘスティアの傘下に降った訳だし、その責任を団長であるあなたが取るのも当然でしょう?」

「だから、誰にも告げずにオラリオから飛び出すのかよ。酒場の仕事はどうした?」

「ミアには有給と言うことで休みを貰ったわ。オッタル達も今はあの子の言うことに従っているしね」

「この性悪女神が」

「そうよ、私は悪い女神なの。知ってたでしょ」

「ケッ」

「………ねぇ、ベジット」

「あん?」

「私、また好きな人と……ベルみたいな人と出逢えるかしら」

「………知らね、性悪女神の恋愛事情なんざ興味ないね」

「もう! 本当に酷い子!」

「まぁ、でも」

「?」

「次に好きな人と出逢えるまで、お前の無茶振りに付き合ってやるよ」

「────フフ、ありがとう。ねぇ、ベジット」

「あん?」

「大好きよ」




フレイヤ・ファミリア世界線。

暗黒期、黒竜の討伐の報せと素材を手土産に派閥入り。

当初は団長の座なんて微塵も興味が無かったが、大抗争の際にベジットの力を目にしたオッタルがザルドを撃破後に挑み、敗北。

新参者がいきなり団長となった事に当然反発が起きたが、その全てをベジットは一蹴。実力至上主義の派閥で見事力を証明した。

その後、空を飛べると主神に知られると、良く外へ抜け出すのに利用された。その度に他の眷族からやっかみを受け、仕方なく激突。

懲りもせず毎日の様にベジットに挑むモノだから、オッタルを筆頭に軒並みレベルが上がっており、原作開始後にはフレイヤ・ファミリアの全員がレベルが二つほど上がっており、名実ともに最強の派閥となっている。

 尚、このベジットはイヤリングをしていないし、主神から受け取っていない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。