ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今回は一方その頃的な話。


長くなりそうで済まない。


物語92

 

 

 

「三時の方向からモンスター、来ます!」

 

「ノインはセシルのフォローを、イセリナは前に出すぎないで! ネーゼ、行ける!?」

 

「任せて!!」

 

 人造迷宮(クノッソス)。遥か昔より名工ダイダロスとその血族達が繋いできた人工迷宮、人の手により造られてきた人の呪いと血、そして悪意で満ちていた。

 

 嘗てオラリオを恐怖に陥れ、数多の悲劇と惨劇を生み出してきた邪神の派閥───闇派閥(イヴィルス)

 

 その残党が潜んでいるとされる人工の迷宮に正義の眷族────アストレア・ファミリアが乗り込んだ。先のライラ達がもたらした情報を頼りに正義の眷族達による快進撃は進むも、途中発動したと思われる仕掛けによりそれは起きた。

 

 アストレア・ファミリアは突如起きた人造迷宮の崩落に巻き込まれてしまい戦力は分断される。其処から狙ったようなタイミングでモンスター達による波状攻撃が始まり、アストレア・ファミリアの団長と並びにその仲間達は窮地に立たされていた。

 

「団長! 回復薬(ポーション)の数、残り僅かです!」

 

「同じく精神薬(マナ・ポーション)も残り僅か!」

 

「これ以上の籠城は厳しい、か。仕方ないわね。私とネーゼが前に出るわ! ネーゼ、パワー・ボールは行けそう!?」

 

「この狭さじゃ無理だ! せめてもう少し広い所じゃないと!」

 

 新入り達からの報告にこれ以上時間を掛けるのは無理だと判断した団長────アリーゼは自分を先頭にこの場からの離脱を試みる。

 

 本当は【凶狼】から教わったと言うネーゼの切り札に期待したかったが、ネーゼのそれは場所や環境に左右される代物、惜しむのもそこそこに思考を切り替えて、アリーゼは自身の魔法を解放させる。

 

「【花開け(アルガ)】【アガリス・アルヴェシンス】!!」

 

 アリーゼは詠唱を唱え全身に紅蓮の炎を纏わせ、ネーゼと共にモンスターの群れへと吶喊。自らを炎の嵐と化せ、モンスターを蹂躙する。

 

 先行する団長とネーゼに置いていかれないよう、新入り達も懸命に走る。先輩達に守られる自分の弱さに嘆きながらも、それでも彼女達は死に物狂いで走り、迷宮のマッピングを行った。

 

 先輩冒険者であるライラが記し、そこから幾つも無数に分けたマッピングのメモ、現在自分達が走る場所を照らし合わせ、此処から1番近い脱出口を探していた時。

 

 新入り達の纏め役であるセシル・ブラックリーザは見た。アリーゼ達が通る通路、その真横の壁が唐突に開き赤い髪の女調教師(テイマー)────怪人(レヴィス)の姿を。

 

 驚きと同時に、セシルは不思議に思った。何故、団長はレヴィスの存在に気付いていないのか。

 

 アリーゼもベジットから気を教わり、オラリオの数いる冒険者の中でも上澄みと称される実力者となっている。まだまだ発展途上と彼女は言うが、彼女だって気を用いて肉体の強化だけでなく、はぐれた仲間を見つけたりする等それなりの使い手になっている。

 

 そんな彼女が剣を振りかぶるレヴィスに気付いていない。そう思った瞬間、セシルは悲鳴に似た叫び声を上げた。

 

「団長! 後ろ!!」

 

「─────え?」

 

 セシルの声にアリーゼが振り返った瞬間、彼女の視界に自分と同じ赤髪の女の姿が映り込んで───。

 

「先ずは一人」

 

 刹那、振り下ろされる凶刃がアリーゼの体を切り裂いた。

 

「団長ッ!!」

 

「アリーゼッ!?」

 

 普段は明るく、けれど時折派閥の長として厳格な一面も見せる頼れてファミリアの文字通り支柱的存在であるアリーゼが、纏う炎ごと切り裂かれた。

 

 誰もが驚愕に目を見開くなか、狼人のネーゼは冷静に目の前の怪人を分析する。

 

(嘘だろ。コイツの存在なんて影も形も無かった! 匂いだって……!)

 

 いや、そもそも目の前の怪人は人と怪物の融合体。報告にあった通りならモンスターの中に紛れてしまうのは当然かもしれない。

 

 だが。

 

(団長を一撃で切り裂いた。アリーゼはLv.6の冒険者だ! 単純な戦闘力なら輝夜やリューにだって引けを取らない! その団長を、一撃!?)

 

 相手が短時間でLv.6すら容易く倒せる実力者に成長している。確かにそれは驚嘆するべき事実であり、この上なく絶望的な真実だろう。

 

 今のネーゼではどうあっても敵わない。だが、それ以上に厄介なのが……。

 

(まさか、この短時間で“気”を使いこなしている!? 力の底上げだけじゃなく、力や気配の隠蔽まで!?)

 

 セシルが声を掛ける直前まで、アリーゼは怪人の存在に気付けなかった。自身を切り裂く程の力を持つ相手なら、アリーゼは間違いなく感知出来た筈。

 

 だが、アリーゼは終始目の前の怪人の存在に気付けなかった。それは詰まる所怪人(レヴィス)の気による熟練度がこの短時間で飛躍的に向上したという事実に他ならない。

 

「───チッ、僅かに浅かったか。まさか咄嗟に後ろに下がって致命傷を避けるとはな」

 

「ッ!」

 

 忌々しく呟くレヴィスにネーゼもハッと我に返る。後ろへ吹き飛んだアリーゼ、一見派手に飛んだ彼女はその実自ら後ろへ飛んでレヴィスの一撃を最低限に抑えて見せた。

 

 セシル達が駆け寄り、なけなしの回復薬を注ぎ込む。だが、アリーゼの傷は全ての回復薬を浴びせたにも関わらず、一向に回復する様子はなかった。

 

「だ、ダメですネーゼさん! 団長の傷が塞がりません! 出血も………止まりません!!」

 

「っ! 呪いの武器(カース・ウェポン)か!?」

 

 セシルの必死な叫び、加えてレヴィスの握る禍々しい得物を見てネーゼがアリーゼの不治の傷の原因に気付く。

 

 恐らく、レヴィスが手にしている剣は傷の治りを止めてしまう呪詛(カース)が込められているのだろう。ライラ達が最初に乗り込んだ際、相当数のカース・ウェポンを回収したと聞いていたが、まだ残っていたなんて……!

 

 このままではアリーゼが死ぬ。受けた傷をそのままにしてしまえば何れ失血死は免れない、猶予の無い選択肢、故にネーゼが取る選択肢は一つ。

 

「────セシル、アリーゼを。皆を連れて先に逃げて」

 

「ネーゼさん!?」

 

「コイツは私が食い止める。セシル達はその間になんとしても此処から脱出して、地上に戻り【戦場の聖女(デア・セイント)】にみせればきっとアリーゼは助かるから!」

 

「ネーゼさん! でも、でも!!」

 

 今、この場で目の前の怪人に抗えるのは自分しかいない。輝夜もリューもいないこの場においてアリーゼ達を守るのは自分しかいない。

 

 勝てるとは思えない。目の前に未だ此方を見ている怪物は不意打ちとは言えアリーゼを一撃で戦闘不能に追い詰めている。切り札(パワー・ボール)を使えない自分では時間稼ぎだって出来るかどうか……。

 

「無駄だ。お前達正義の眷族は全員此処で朽ちる。大人しく受け入れろ」

 

「へっ、やなこった」

 

「ネーゼさん!」

 

 来るッ。レヴィスが剣を握り、一歩踏み込むと同時にネーゼは拳を構える。何とかカウンターを当てて場を次に繋げなければ……!

 

 しかし、そんなネーゼの目論見は容易く破られる。レヴィスが一歩地面を踏み抜いた直後、既にネーゼは懐深くまでレヴィスに潜り込まれていた。

 

(速ッ、過ぎる!? 何だよこの動き、半分化物とは言え、非常識過ぎるだろ!?)

 

 ネーゼの視界、迫る死の刃を前に極度の緊張状態となった彼女の見る世界はその刹那緩やかになっていく。あぁ、これが死を前にした人間の状態かと、最早死は避けられない。今日まで正義の眷族として生きた自分の人生はここで潰えるのか。

 

(ゴメン、ベート。折角色々と教えて貰ったのに……)

 

 脳裏に過るのは無理を言って気に関するアレコレを教えて貰った灰色の狼。口が悪く、素行も褒められたモノではないが、それでも誰よりも優しく、誰よりも頑張っている同じ狼人(ウェアウルフ)の彼。

 

 気の真髄を、そして狼人にとって切り札とも言えるパワーボールの習得を数年前に付きっきりで教えてくれた恩人、そんな彼に申し訳ないとネーゼが悔しさの涙を流した瞬間。

 

“─────福音(ゴスペル)

 

「何ぃッ!?」

 

「ギャッフゥーーーンッ!?」

 

 爆ぜた。

 

 ネーゼに斬りかかろうとしたレヴィスも、斬られそうになっていたネーゼも、自分達の隣にあった筈の壁諸とも平等に吹き飛んでいく。

 

 その光景にセシル含めアストレア・ファミリアの眷族は目を丸くさせる中、意識が沈み掛けていたアリーゼは砂塵の向こうから現れる人影に笑みが浮かんだ。

 

「……まさか、貴方が………来て、くれるなんて……」

 

「フンッ、団長からの命令だ。業腹だが従う他あるまい」

 

 黒き麗人。漆黒のドレスを身に纏い、両目を閉ざした【才禍の怪物】。

 

「さて、一先ずお前達を地上に返すのが私の任務な訳だが………そこの小娘(雑音)、お前はどうする?」

 

「なんだと?」

 

「今の私は少し気分が良………いや、若干複雑寄りだが逃げると言うのなら見逃してやらんこともない」

 

「ほざけ、たかが冒険者が一人増えた程度で───」

 

「吠えるな、雑音。耳障りだ」

 

 一蹴。剣を掴み、音速を越えた速度で斬りかかるレヴィスをアルフィアはただの蹴りで吹き飛ばす。その威力は凄まじく、足はレヴィスの腹部にメリメリと突き刺さり、骨や内臓が潰れる音がレヴィスの耳朶を叩く。

 

 読めなかった。蹴りを放つ迄の動作、挙動、力を出すのに必要不可欠な“起こり”がレヴィスには全く見えなかった。

 

 加えて、腹部から伝わってくる痛みと衝撃はレヴィスにとって最早未知の領域に等しいモノ。

 

「が、はぁっ!?」

 

 堪らず、吐瀉物をぶちまけながら吹き飛ぶ。尋常ならざる一撃、正邪決戦より明らかに強くなっているアルフィアにネーゼはひきつった笑みを浮かべた。

 

 しかし。

 

「く、ぐぅぅぅ………」

 

「ほう、再生するのか。これは良い、調度頑丈なサンドバッグを探していた所だ」

 

 モンスターと人の融合体(ハイブリッド)。人の枠を越えた再生能力、穿たれたレヴィスの腹部がジュウジュウと音を立てて元に戻っていく様を見てアルフィアは納得したように頷いた。

 

「では、面白いものを見せてくれた返礼として、私も一手晒してやろう」

 

 レヴィスの驚異的な再生能力を面白い一芸と評し、それに応える為にアルフィアは怪人に向けて右手を掲げる。

 

 親指、人差し指、中指、三本の指を向けられたレヴィスは何をするつもりだと警戒する。

 

 魔法でも謳うつもりか? ならば、その合間に殺してやるとレヴィスが再び剣を構えた時、アルフィアは白い炎────つまりは気を解放する。

 

 燃え上がる気の炎。それが円状に変形し、軈て三本の指の間へと圧縮されていく。圧縮されていく気、凝縮される力の結晶を前にレヴィスはまさかと目を剥いた瞬間。

 

「“アトミック・ブラスト”」

 

 放たれた光の矢がレヴィスの右半身を抉る。貫き、抉られ、幾つもの超硬金属(アダマンタイト)製の壁を貫き………爆発。

 

 遠くから聞こえてくる爆音と、人造迷宮全体を揺さぶる振動にレヴィスもネーゼも誰も彼もが目を見張る中。

 

「────チッ、圧縮が甘かったか。まだベジット()の様にはいかんか」

 

 暴力の化身、【静寂】のアルフィアは一人不満そうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、同じく人造迷宮(クノッソス)にて。

 

「チィ、まだ向こうの戦力は尽きていないか。シャウ! ライラ! まだか!?」

 

「急かすな! 後少しでこの辺りのマッピングは完了する!」

 

「ライラさん! 壁画の写し、完了しました!」

 

 アリーゼ達が窮地に立たされていた頃、同じく崩落に巻き込まれて分断されたアストレア・ファミリアの面々は絶え間なく続く食人花(ヴィオラス)含むモンスターの大群の対応に追われていた。

 

 絶え間なく続く波状攻撃、其処に闇派閥の構成員である白装束の死兵が体に火薬を巻き付けて特攻してくるのだから、未だ新入りの域を出ないウランダは絶え間なく降り注がれる悪意と殺意に精神が磨り減らされていた。

 

「ウランダ、貴様は下がれ! 無理を通して倒れたら、それだけで皆の足を引っ張る事になる。引き際を見誤るなよ!」

 

「は、はい。スミマセン輝夜さん。ウランダ、下がります!」

 

 輝夜の言葉に身を強張らせ、申し訳なさそうに下がる。後輩の戦線からの離脱を確認すると、輝夜は突っ込んでくる食人花を一瞥することなく横に逸れ、すれ違いざまに輪切りにしていく。

 

 これで25体目、人造迷宮に来てからでは既に三桁以上のモンスターや闇派閥の構成員を斬り捨てて来たが、敵戦力は未だに減る様子はない。

 

「敵多数! 四時の方角から来るよ!!」

 

「輝夜、私が魔法で一掃します!」

 

 アスタの声にリューが応える。既に詠唱を終えているアストレア・ファミリアの【疾風】が前に出る。本日幾度目の魔法の行使、彼女の精神力だって有限だが、今は彼女の魔法の殲滅力に肖るしかない。

 

「【ルミノス・ウィンド】!!」

 

 迫り来るモンスターの群れに向けて無数の大光玉が放たれる。広範囲にばらまかれたリュー・リオンの魔法は確かに後続のモンスター群まで蹴散らして見せた。

 

 しかし、弾け飛ぶモンスターの中から、一つの影が顔を覗かせる。狂喜と悦楽に満ち、悪意と憎悪で満たされた凶人の笑み、その顔にリュー・リオンは見覚えがあった。

 

「【殺帝(アラクニア)】!?」

 

「よぉ~、久し振りだなぁ正義の味方ぁ~」

 

 死んでいたと思っていた。数年前の下層決戦に於いて、既に死したと思われていた闇派閥の参謀幹部。人を殺すのに誰よりも狡猾になれる殺人狂がリューの目の前に現れる。

 

 迎撃せねば、しかし魔法を放った直後でコンマ数秒身動きの取れないリューだが、【殺帝】が彼女の首を刈り取るのにそんな時間は必要ない。

 

 ここで振り下ろされる凶刃にリューが眼を見開いたその時。

 

「───待っていたぞ、お前が出てくるのを!!」

 

「あぁッ!?」

 

 突如、全身を黒に染め上げてその素顔も黒い仮面で覆った………何もかもが唐突で、その全てが歪な何者かが剣を携えてリューと【殺帝】の間に割って入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────同時刻、大砂漠を見渡すとある崖の上にて。

 

「………まさか、ここでお前達が出てくるとはな。闇派閥の差し金か?」

 

 蒼く美しい髪を靡かせ、弓を手にした乙女────ヘスティアの神友の一柱であるアルテミスが忌々しく表情を歪めて目の前の集団を睨んでいた。

 

「仕方ないだろ~。俺達は傭兵系ファミリア、フレイヤ・ファミリアに俺の眷族(子供達)みーんな殺されちゃって、漸く何人か見込みのある連中を揃えた所に、今回仕事の依頼が舞い込んできたんだ。下請けとして報酬も戴いた以上、仕事はキッチリとこなさないとね♪」

 

「ふざけた事を。お前のその短絡的な行動でどれだけ下界の人類達(子供達)に被害が及ぶと思っている! 悪神とは言え、余りにも外道が過ぎるぞ────ラシャプ!!」

 

 アルテミスの怒りに満ちた眼光を向けられて、それでも尚笑みを崩さないのは、天界でも悪神として知られていた悪逆の化身“ラシャプ”。

 

 自らの悦楽の為なら自身の眷族すら利用する。主神から眷族まで悪に染まったオラリオ外の闇派閥、ラシャプ・ファミリア。

 

 ある事情で一度は壊滅の危機に瀕した悪神だが、悪神故にしぶとく、各地で潜めていた謂わば二軍の眷族達と共に再び活動を再開。

 

 今回の件も暗に関わっていたと明かすラシャプにアルテミスの顔は一層怒りに満ちていく。

 

「いやさ、俺も最初は乗り気じゃなかったんだよ? まだ活動を再開してそんなに経たないし、フレイヤの所にまた目を付けられるのもイヤだし、実際ここ一、二年は大人しくしてたんだぜ?」

 

 でも、そう言葉を濁すラシャプと呼ばれる悪の男神は次の瞬間喜悦に顔を歪ませる。

 

「でもさ! ベヒーモスの復活に一役買わせてやる! 何て言われたらさ! そりゃあやるしかないよね!! だってベヒーモスよ? 嘗ての三大モンスターの一角よ? ラスボスよ? そんなもん、面白いに決まってるさ!!」

 

 両手を広げ、心底愉しそうに嗤うラシャプ。この悪神にとって、下界の人類の事なんて二の次三の次。滅べば滅んだで面白いし、生き長らえるのならそれはそれで面白い。

 

 ただ、どちらに転んでも面白いならやってより面白くなる方へ選ぶのが悪神ラシャプの在り方。人類の、下界に住まう存在には理解し得ない破滅願望。

 

 そんな人の形を模した怪物に、アルテミスは無言で弓矢を構える。

 

「…………止めときな。確かに君の弓矢の腕は天界一だが、それでもこの状況を覆るには至らない。それともここで今天界に送還され、眷族達を見殺しにする? 俺はどっちでも構わないけど?」

 

「────ッ」

 

 現在、アルテミスの周囲はラシャプの眷族によって取り囲まれている。ベヒーモス(オルタ)の進軍を少しでも阻む為、眷族達を全員向かわせたのが仇になった。

 

 別にこの選択自体をアルテミスが悔いる事はない。だが、自分の選択で眷族達が窮地に陥るのを容認することも……また出来ない。

 

「………やってみろ。お前の眷族が私を捕らえるよりも速く、その眉間を撃ち抜いてやろう」

 

「ヒヒヒ、やってみなぁ」

 

 ここで目の前の悪神に利用される位なら、自ら送還(自害)も辞さない覚悟がアルテミスにはあった。

 

 だが眷族が、自分を親と慕い今日まで共に生きてきた彼女達を見捨てるには………アルテミスもまた下界に染まりつつあった。

 

 ………そう言えば、似たような状況が前にもあったな。あの時もこうやって、窮地に立たされていたっけ。

 

(最期に、もう一度お前に逢いたかったな。ベジット(オリオン))

 

 覚悟は決まった。一縷の望みを懸けて、アルテミスが崖下へ身を投げようと後ろへ一歩下がった───その時だ。

 

 ────天と地が割れる音が大砂漠から聞こえてきた。

 

「「「「…………は?」」」」

 

 あれだけ歪んだ笑みを浮かべていたラシャプが、それに連なる眷族達が、揃って目と口を大きく見開いて唖然としている。何が起きたのかと振り返るアルテミスが目にしたのは……。

 

「よぉアルテミス様、久し振り。元気してたか?」

 

 逆立った黒髪とイヤリング。アルテミスにとってのオリオンが其処にいた。

 

 

 

 

 

 







オマケ。

もしもベジット&ヘスティアが15年前からいたら。

三大腕試し編。





 ────それは、陸の王者。大地を穢し、山を汚し、人の生存圏を脅かす生きた厄災。

 その風は空を腐らせ、自然を死滅させ、人類を滅ぼす死の嵐。

 千年前から続く厄災の怪物。あらゆるものを腐食させて融解させるそのケダモノの名はベヒーモス。

 人類を脅かす怪物の前にこの日、一人の人間が現れた。

 男は無防備だった。剣も槍もなく、弓矢を構える事もない。大地を死滅させる権能を持った巨大な怪物を前に、男はどこまでも自然体だった。

「はー、随分とデカイモンスターだなぁ。どれ、先ずは小手調べに……」

 すると、男が全身に力を込めると逆立っていた黒髪は黄金に代わり、瞳は翡翠色へと変化し、その体には黄金の炎を纏っていた。

 嘗てない事象を前にベヒーモスは身構える。目の前の奇妙な人間を前に本能で“敵”と認識した千年続く厄災は、その巨体を起き上がらせる。

 しかし、ベヒーモスが攻撃するよりも速く……。

「取り敢えず小手調べの“アトミック・ブラスト”」

 圧縮されたエネルギー、放たれた光の一矢は文字通り光となってベヒーモスを貫き、重力圏を抜けて遥か彼方へと消えていく。

 死を撒き散らす風も、毒の嵐も、酸で満ちた大気も、何もかもが貫き、吹き飛ばされ、消失していく。

 天と地を穿つ一矢、頭部から尻まで綺麗に撃ち抜かれたベヒーモスは断末魔を遺せず消滅する。

「──────あれ?」

 残されたのは男ただ一人。これから起きる激闘に期待を寄せていただけに目の前の光景に首を傾げていた。

 その後。

「あれ、ベジット君。腕試しは終わったのかい?」

「あぁうん。なんか一撃で終わったから別にいっかなって」

「そうなのかい? 僕は下界の事はよく知らないから何とも言えないけど………もしかして狙いのモンスターじゃ無かったんじゃないのかい?」

「どうなんだろ? ………ま、それならそれで次の機会にしとくわ。ドロップアイテムも回収したし、次は海に行こうか」

「わーい! 海だー!」



 その後、様子を見に来たトール・ファミリアはその光景に唖然となるのはもう少し先のお話。

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