ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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ねぇ、秋を知らないかい?

前まであったんだよ。でも、ここ数年見掛けなくて……一体何処に言ったんだろう?

冬「やっこさんなら死んだよ。俺が殺した」


 そんな訳で初投稿です。




物語98

 

 

 

「精……霊……」

 

「なに!?」

 

「アイズ、今アレを精霊って言った!?」

 

「あの気色悪いのが!?」

 

 ケラケラと笑い、アイズをアリアと呼ぶモンスターと融合したナニカ。女性の体を持ちながら尋常ならざる目の前の存在をアイズは、アレが精霊と呼ばれ()存在(モノ)であることを理解してしまう。

 

 嘗て人類を助け、モンスターに立ち向かっていた存在。大昔に英雄と呼ばれる者達の側には必ずいたとされる神々の子。

 

 そんな彼女が悪意と殺意を漲らせて自分達を見下ろしてくる。

 

「ガレス、もしかしてアレは……」

 

「あぁ、人造迷宮(クノッソス)で見た例の牡牛の怪物、どうやらこやつと同一の輩で間違い無さそうだ」

 

 ガレスの脳裏に過るのは先の人造迷宮で遭遇した牡牛の化物。一時は階層主(アンフィス・バエナ)と融合した白髪鬼(オリヴァス・アクト)の親戚かと思われたが、今のアイズの口から出てきた精霊という一言により、それは間違いであると確定する。

 

 あの牡牛も精霊に(ゆかり)のある存在だった。モンスターに寄生する【宝玉の胎児】、アレが成長し土台となったモンスターを苗床に成長、或いは進化を遂げたのがあの怪物なのだとしたら………。

 

「精霊の分身、それも複数体存在する事になる」

 

 あくまで仮説の話だが、フィンはほぼ確定した情報だと確信した。数年前の【下層決戦】でベジットが撃破した階層主とオリヴァスの融合体、そして18階層と人造迷宮、これら全てにはあの【宝玉の胎児】が絡んでいる。

 

 そして、その【宝玉の胎児】を精霊と関わりのあるアイズが反応し、今まさに目の前にいる怪物を精霊の一種であると断定した。ここまで情報が集まれば疑いようがない、下層決戦から闇派閥は精霊に連なる者達と結託している。

 

『─────アリア、アリアァァァ!! 見付けた。見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けたミ・ツ・ケ・タァァァァァァッッ!!!!!』

 

「こ、コイツ!?」

 

「アイズをアリアって!?」

 

「動揺してんなバカゾネス共! 俺等がやるべき事を見誤ンな!」

 

 アイズを風の大精霊アリアと誤認している。その意味を知らないティオナとティオネにベートが喝を入れる。

 

 今考えるべきは目の前の存在の対処、どう見ても友好的には見えない堕ちた精霊を前に全員が身構える。

 

『あぁ、アリア。やっト見付ケタ。さぁ、早く私二食べらレテ………一緒になりましょう?

 

「ッ!?」

 

 ゾワリッ。身の毛がよだつ感覚にアイズは鳥肌が立つのを感じた。目の前の存在が口にしていることは比喩でも何でもない、真実自身を喰らおうとしている。

 

「っ、総員戦闘準備! 来るぞ!!」

 

 明確な敵対意思、対話の道も断たれた事を確認したフィンは即座に全員に戦闘態勢を促す。

 

「後ろからもモンスターが来ておるぞ!!」

 

「団長! 後ろのは自分達がッ!」

 

「頼む!!」

 

 途端に沸いて出てくる蟲達。群れを成し、後から押し寄せてくるモンスターの大軍を椿やラウル達が対処する。

 

 前方からも同様に芋虫の怪物が。其処に更に蔓状の触手が一番無防備だったレフィーヤに雪崩れ込むのを、アマゾネスの二人が切り捨てる。

 

「っ、今の手応え」

 

「地上に出てきた奴とは比較にならないわね」

 

 感触的に以前よりも段違いで力を付けているのを理解する。一体どれだけの魔石を吸収したのか、計り知れない精霊モドキ。嫌な予感がするとフィンがリヴェリアに魔法の準備を指示しようとした時。

 

『【火ヨ、来タレ────】』

 

「詠唱!? モンスターがじゃと!?」

 

 精霊モドキから紡がれる詩、それは間違いなく魔法を発動する詠唱そのものだった。

 

「【舞い踊れ大気の精よ光の主よ】」

 

 既に防御の魔法を詠唱するリヴェリア、熟練の魔導士たる彼女ならば、如何なる状況だろうと魔力暴発なんて事態には陥らない。

 

 しかし。

 

『【猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ】』

 

「【森の守りと契りを結び───」

 

『【突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命】』

 

「ッ!?」

 

 超長文詠唱、しかも桁違いの詠唱速度にリヴェリアの目が動揺に見開く。このままでは間に合わない、相手の魔法を直撃しかねない事態を前にリヴェリアの顔に初めて焦りが浮かぶ。

 

 フィンも全員の生存が少しでも高くなるようリヴェリアの下へ集まるよう指示を飛ばす。

 

 相手の詠唱は止まらない。魔剣を放とうと、レフィーヤが魔法を放っても、精霊モドキの一部たる触手が盾となって防いでいく。

 

『【全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ──】』

 

 このままでは詠唱が完了する。誰もが訪れる衝撃に備えようとした時────。

 

五月蝿(ウルセ)ェ」

 

『アガッ!?』

 

 灰の狼────【凶狼(ヴァナルガンド)】のベート・ローガが苛立った様子で精霊モドキの口をその脚で押し潰す。

 

 中断された魔力が行き場を失い、溢れる魔力が暴発する。内側から爆発していく精霊モドキの顔が驚愕と痛みで言葉を失う。

 

 誰一人、反応出来なかった。アイズもティオネもティオナも、Lv.7に至れた三巨頭(フィン・ガレス・リヴェリア)ですらも、ベートの動き………否、挙動すら読めなかった。

 

 まるで時間を置き去りにしたような圧倒的挙動。まさか、これ迄の遠征でベートの異様な速さの秘密(カラクリ)に思い至ったフィンはひきつった笑みを浮かべる。

 

 誰しもが驚愕に目を見開く中でただ一人、リリルカだけはニヤリとほくそ笑んでいた。

 

「テメェの聞くに堪えねぇ詩なんぞ興味はねぇ。大人しく死ね」

 

 “時飛ばし(タイム・スキップ)”。

 

 如何なる速さで翻弄しようとも、それが対峙した相手であるならベート・ローガが“後”を取ることは絶対に有り得ない。

 

 天下無敵のベジットが太鼓判を押す最強の初見殺し。その力は仮令精霊が相手でも揺らぐ事はなかった。

 

 ベートの不意打ち同然の一撃、加えて蹴り込まれた衝撃による魔力暴発(イグニス・ファトゥス)の誘発。敢えて放置した事で溜まりに溜まった魔力による暴発は精霊モドキの首から上を容赦なく吹き飛ばした。

 

 これでおしまい? 呆気なく鎮静化する精霊モドキに注意深く観察していた時。

 

 それは起きた。

 

「ッ!」

 

「なッ!? あれって……!」

 

「ガレス達が人造迷宮(クノッソス)で見たって言う……!」

 

「黒い、炎!?」

 

 精霊モドキの全身から立ち上り、溢れ出す黒い炎。それは気を修得した者達に言い表し難い既視感を与える。

 

「【凶狼】、一度下がれェ!」

 

 叫ぶガレスの言葉にベートは有無を言わず後退する。そう、ガレスには見覚えがあった。目の前の精霊モドキが纏う黒い炎、アレは人造迷宮で牡牛の怪物を相手にした時と同様の代物。

 

 近年、自分達もベジットから教えを受け、今日まで飛躍することので来た万物が宿す生体エネルギー。

 

『アハ、アハハハ、アハハハハハハ!!』

 

 即ち“気”。魔力暴発により吹き飛んだ精霊モドキの顔が瞬く間に再生されていく。

 

 それだけじゃない。気を纏い、狂気の嘲笑を発露する精霊モドキの肉体が震える大地と呼応するように黒い鱗に変異し、覆われていく。

 

 アレもガレスには見覚えがあった。自らをより攻撃的に変化させ、人造迷宮で派手に暴れまわった形態。

 

 目の前のモンスターの体躯の大きさはその時の牡牛型の倍以上、であれば暴れる際の影響範囲は純粋に先の倍以上。

 

「不味いのう、あの形態はアルフィアの魔法すら弾く高い魔力耐性を獲得する。一筋縄ではいかんぞ」

 

「だが、それでも僕達がやるしかない」

 

 変異が終わり、触手を含めた全身が黒い鱗に覆われた精霊モドキは笑う。これでお前達は終わりだと。

 

 瞬間、精霊モドキは動き出す。その巨大さでありながら、立ち上り蛇のように這いずり回り、精霊モドキはフィン達を翻弄するように周囲を回り出す。

 

「コイツ、動けんの!?」

「なろう、シャラ臭い真似を!!」

 

 地を這う様な動きではあるが、想像以上に素早い。ティオネ、ティオナのアマゾネス姉妹が攻撃しようと身構えたその時、黒い触手の先端が花開き、禍々しい極彩色の光を放ち始める。

 

「不味い、二人とも離れろ! レフィーヤを守れ!!」

 

「「ッ!?」」

 

「────え?」

 

 その光景にフィンの脳裏に嫌な予感(イメージ)が過り、即座に二人にレフィーヤを守るよう指示を出す。

 

 対象となったレフィーヤは一瞬、理解できなかった。気付いた時には彼女の前に先輩であるティオナとティオネが覆い被さってきて……。

 

 次の瞬間、レフィーヤ達は触手から放たれる光の奔流に呑み込まれていく。

 

「レフィーヤ!?」

 

「アイズ、隊列から離れるな!」

 

 仲間達が光に呑まれる様を見て、アイズに動揺が走る。それでもフィンの言葉に従い、未だ自分達を中心にして旋回している精霊モドキを警戒する。

 

「ティオナとティオネの頑丈さを信じろ! ワシ程で無いにしても、あの程度の光でどうにかなるタマではないわい!!」

 

「うん、分かってる」

 

 しかし、あの精霊モドキが放つ光は詠唱などしてはおらず、威力も第二級冒険者ではマトモに受ければ致命傷になりかねない代物だった。

 

『【地ヨ、唸レ──』

 

「「「ッ!?」」」

 

 その時、黒化した精霊モドキから凄まじい魔力の高まりをアイズ達は感知した。

 

「そ、そんな。モンスターが並行詠唱!?」

 

「しかもあの光線も絶え間なく撃ってくる! 何なのアイツ、本当にモンスターなの!?」

 

『【来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢ノ契約ヲモッテ反転セヨ空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災──】』

 

 瞬く間に紡がれていく詠唱、超長文でありながら高速で詠唱し、更には並行詠唱すらこなして見せる精霊モドキにラウル達後衛組は驚きを通り越して感心すらしてしまった。

 

 加えて絶え間なくあの触手から光線が降り注ぎ、常に此方の動きを封じようと牽制してくる。

 

(認めるしかない。あの精霊の成れの果ては魔力と気、その二つを使いこなしている!!)

 

 光線のエネルギーの源は恐らくは黒い炎、気を纏い魔力と異なるエネルギーを使用することで魔法と気を別々に扱えることを可能としたのだ。

 

『【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊大地ノ化身大地ノ女王──】』

 

「チィッ!」

 

「行きます!!」

 

 もうじき詠唱が完了する。膨れ上がる魔力に誰もが愕然とする中、ベートとリリルカが詠唱を阻止しようと精霊モドキに向かって吶喊する。

 

 振り抜かれる蹴りと槍。深層は勿論、階層主すらダメージを与えられるその一撃は……。

 

「───マジですか」

 

「硬ェ……!」

 

 ガギンと、恐ろしい程に頑強な漆黒の鱗に阻まれる。

 

『【メテオ・スウォーム】』

 

 そうして唱え終わる詠唱、瞬間59階層全体に魔法陣が浮かび、無数の巨大な岩が顔を覗かせる。

 

 広範囲に及ぶ殲滅魔法、その規模と内封された威力に誰しもが驚愕する中で………。

 

「【ヴィア・シルヘイム】!!」

 

 後ろからリヴェリアの防御結界が展開される。

 

「全員、リヴェリアの下へ!!」

 

 言葉少なく、堕ちてくる無数の隕石から少しでもダメージを抑える為、リリルカはベートへしがみつき、ベートはスキル(時飛ばし)を使って離脱。

 

 結界内で動けるものはラウル達を守るようにと指示を飛ばし、リヴェリアは全力で魔法を展開し続ける。

 

 刹那、無数の隕石は地に落ち、59階層は生い茂る密林の大地を根刮ぎ吹き飛ばして行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────う、うぅ。皆………私………どうなって………ゲホッゲホッ」

 

 朧気ながらレフィーヤの意識が回復する。ぼやける視界、辺りが砂塵で満たされ、吸い込んでしまったレフィーヤの肺が吸えないと拒絶反応を引き起こす。

 

 ゲホゲホと咳き込みながら辺りを見渡すと………やはり、辺りは砂塵で充満していて一寸先すら見通せずにいる。

 

 ティオナとティオネは………無事だ。呻いてはいるし、傷も浅い。この分なら直に目を醒ます事だろう。

 

「アイズさん、団長、リヴェリア様………み、みんな………」

 

 他の皆は無事なのか。痛む体に鞭を打ち、それでも立ち上がろうとした時………。

 

「────え?」

 

 レフィーヤは見た。

 

 いない筈の人間、いるわけがない筈の人間、有り得る筈がない。しかし、目の前に佇むその人物はチリンとイヤリングの音を鳴らし、気がついたレフィーヤを一瞥する。

 

「な、何で貴方が………ここに?」

 

 目の前に佇んでいるのは、ヘスティア・ファミリアの団長。Lv.1の下級冒険者でありながら派閥の長となっている曰く付きの怪物。

 

 そんな人物がどうして深層にいるのか。戸惑うレフィーヤの前に彼はシーッと、自分がこの場にいるのは内緒だと伝えるように人差し指を立てている。

 

 どういうことなのだと、問い詰めたくなったレフィーヤの視界を舞い上がる砂塵が塞ぐ、突然の目眩ましに目を瞑るも、次に目を開けた時、彼の姿は何処にもいなかった。

 

「………幻?」

 

 影も形もなく、存在していた形跡すらない。

 

「レフィーヤ、無事?」

 

「怪我、していない?」

 

「二人とも、目を醒まされたんですね! スミマセン私の所為で……今回復します!!」

 

 目を醒ましたアマゾネスの二人。先ずは彼女たちの回復が最優先だと、レフィーヤは手持ちの回復薬(ポーション)を全て注ぎ込む。

 

 結局、レフィーヤはこの時見たベジットを自分の心の弱さが見せた幻影だと結論付けた。彼があの場にいる筈がない、いる訳がないのだと自身の常識と掛け合わせて消化させる。

 

 しかし、彼女は気付かなかった。リヴェリアの結界魔法の範囲外(・・・)にいた自分達が、精霊モドキの魔法からどうやって生き延びたのか。

 

 自分達の倒れた場所、その周辺だけがやけに綺麗に残っていた事など、誰一人気付く事なく………戦いは更なる局面を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウフフフ、アハハハハハハ!!』

 

 砕かれた世界(59階層)を前に精霊モドキ─────否、穢れた精霊は嗤う。

 

 邪魔者は排除した。これで後はアリアを捕食し、一つになるだけ。

 

 そうすれば計画は完遂される。この奈落の底を思わせるダンジョンではなく、あの青空の下へ………あの場所(・・・・)へ帰ることが………。

 

『……………………どこ?』

 

 思考に一瞬だけ過るノイズ。不快に思うも、微かに響いたノイズは瞬く間に消え失せている。

 

 一体自分は今、何を思い出そうとしていたのか。考えても答えは出ることはない。そんな事に意味はない。

 

 今は兎に角アリアを、可愛いあの子を食べよう。黒く汚染された体を使い、未だ消えぬ砂塵………冒険者達の亡骸が転がっているであろう場所に近付こうとしたその時。

 

 光の玉が、突如として砂塵から現れる。何事かと目を見開く穢れた精霊、呆然と上昇していくソレを眺めていた時。

 

「弾けて、混ざれ」

 

 聞こえてきた言霊、それが穢れた精霊の耳に入った瞬間、光の玉は弾けて神々しい月の光が照らし出す。

 

『────え?』

 

 その光景を前に穢れた精霊の思考は停止する。

 

 あの光は覚えがある。遥か昔、満天の星空の中でも一際輝く夜天の月。何故、あの光がここにあるのか。

 

 いや、それ以前に……。

 

「やれやれ、初見とは言えまさかここまで好き放題されるとは………」

 

「猛省すべきだな。ここ最近、確かに我々は弛んでいた。肉体ではなく、心が」

 

 何故、奴等は生きている?

 

「ベジット様も仰ってました。油断慢心ダメ絶対と」

 

「心底胸糞悪ぃが………今回は認める他ねぇな」

 

 何故、無傷で立っていられる?

 

 舞い上がる砂塵が晴れ、穢れた精霊の前に立つのは複数の冒険者達。

 

 誰も倒れず、誰も絶望せず、誰一人心が折れていない。自分達の前に立つ全員が白い炎を纏い、穢れた精霊を見上げている。

 

『せ、【閃光ヨ駆ケ抜ケヨ闇ヲ切リ裂ケ───』

 

 見上げている冒険者達の目、貪欲で獰猛。まるで獣のように見つめてくる彼等の視線に堪らず詠唱を開始する。

 

 しかし。

 

「させるかよ」

 

 月の光を浴びて、任意に獣化を発動させた灰色の狼が黒い鱗に覆われた穢れた精霊────頭部を含めた左半身を先程より力を込めた蹴りで吹き飛ばす。

 

「引き続き背後よりモンスターの軍勢多数!」

 

「背後のモンスターは任せよ。他は任せたぞロキ・ファミリア!!」

 

 再び攻めてくるモンスターの群れ。酸を吐き出し、此方の装備を融かそうと仕掛けてくる悪意の塊に隻眼の巨匠が魔剣を奮う。

 

「さて、後顧の憂いは断てた。久し振りの前線だ。僕も少し暴れるとしよう─────リリルカ・アーデ」

 

「はい?」

 

「数年振りの相席だ。付き合ってくれるかい?」

 

 まるでダンスでも誘うかのような謳い文句、階層主すら凌駕する怪物を前に何て悠長なと思うが………忘れてはならない、フィン・ディムナはロキ・ファミリアの団長。

 

 落ちぶれた一族の希望となるべく自ら【勇者】であることを定め、あのベジットすら手放しで称賛する傑物。

 

 そんな彼に誘われた以上、ヘスティア・ファミリアの一番槍に断る理由はない。

 

「仕方ありませんねぇ、一度だけですよ?」

 

「充分さ」

 

 遠くで暴れているアマゾネスを無視しつつ、二人の小人は駆け出す。

 

「【魔槍よ、血を捧げし我が(ひたい)を穿て】」

 

「【謳え、槍の狂気。来たれ、戦の女神】」

 

「【ヘル・フィネガス】」

 

「【槍の戦乙女(ナイツ・オブ・フィアナ)】」

 

『あ、アアァァァァァァァッッ!!!』

 

 紅い眼光を放ち、それぞれの両手に槍を握り締めて、二匹の猛獣が戦場を駆け抜ける。迫り来る二匹の獣、その紅い眼光に死を連想した精霊は取り乱し、一心不乱に無数の触手を花開かせ、二人に向けて光の雨を叩き込む。

 

 しかし、元々牽制程度の威力しかなく、何より遅い(・・)。避けられ、弾かれる光の弾幕では止められないと察した穢れた精霊は二人を潰す為に触手を1本の槍へと変化させる。

 

 槍というより巨大な破城鎚、当たれば第一級冒険者でも粉微塵に吹き飛びかねない質量兵器を前に、獣と化した二人が止まることはない。

 

 振り抜き、投擲した槍が鎚となった槍を打ち砕き、そのまま穢れた精霊の右半身を貫く。

 

 ………なんだコイツらは? なんだ、この力は? 精霊ですら分析出来ない力、自分の扱う気よりも更に洗練された力。

 

「あーもう! やっぱりリリは油断出来ない!! 私の団長と、あああんな踊るように戦っちゃって………ウギギギ、脳が………脳が………震、える!!

 

「はいはーい、バカ言ってないで私達も行くよー」

 

「頭がおかしくなりそう………なのに何故? 興奮している………私がいる???」

 

「ヤバーイ、ティオネがなんか変な扉開こうとしてるー」

 

 更に、頭の悪い会話をしながら二人のアマゾネスが再生したばかりの精霊の肉体を破壊していく。振りかぶる一つ一つに恐るべき威力を込められた一撃に、モンスターから得られた肉体や魔力が悉く砕かれていく。

 

『いや、イヤァァァッ!!』

 

 このままでは死ぬ。突き付けられた死を前に穢れた精霊が選択するのは………逃亡。身を捩らせ、懸命に下へ逃げようとする精霊だが………。

 

「ここまで来て、逃がすわけがなかろう!!」

 

 ドワーフの戦士が、精霊の尾を掴み引き留める。

 

 引き剥がせない。純粋な膂力ならウダイオス(階層主)すら凌駕する自分の力が、まるで通じない。

 

『イヤァ!! 放して、放セェェェッ!!』

 

「喚いてんじゃねぇよ化物が。テメェがウチのマスコット(アリア)とどう関係してんのかは知らねぇが……」

 

『────』

 

「テメェは、ここで死んどけ」

 

 頭上から聞こえてきた声、見上げれば氷の様に冷たい眼差しで見下ろしてくる狼が一人、脚を振り上げている。

 

 振り下ろされ、地に叩き伏せられ這いつくばる精霊。詠唱なんて謳う暇がない。どれだけ足掻こうともその全てが完封される。

 

 それでも逃げなくては、自分にはやるべき事が、果たすべき願いがある。

 

 けれども……。

 

「────ごめんなさい」

 

 光が穢れた精霊の前に顕れる。

 

「きっと、貴方は他の精霊達と同様に人を守り、英雄を守り抜いた精霊なのでしょう。ありがとう、人類の為に一緒に戦ってくれて」

 

 でも……。

 

「それでも、今の貴方はここにいちゃいけないの────さようなら」

 

 圧縮された光と風、振り下ろされる一撃(覇光)を前に精霊は何かを悟った様に目を閉じる。

 

“────ごめんなさい、ありがとう”

 

 その言葉は、誰に向けたモノなのか。

 

 光の中へ溶けていく曾て精霊だった存在に、アイズ・ヴァレンシュタインは静かに黙祷を捧げていた。

 

 

 

 

 

 





Q.なんかベジット来てね?

A.「オラ、何かしたんか?」(すっとぼけ
 因みにベートやリリルカは勿論、穢れた精霊にすら気付かれませんでした(笑)



Q.今回の穢れた精霊は推定レベルは?

A.純粋な膂力で言えばLv.8相当。純粋な戦闘力で言えばベジットが瞬殺した天の牡牛以上。

Q.リヴェリア様は攻撃不参加だったけど?

A.リヴェリア様は皆さんのフォローに徹していました。
 彼女が本気で魔法を行使したら階層ごとボンッしちゃうので。




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