「『ブラス族は時に口から炎を吐き戦った』って書いてあるけど本当?」
「デマだ」
図書館七階は今日も人が少ない。
下の階よりマイナーだったり分厚くて持ち運びに適さない本が多いから、自然と来る人が限られて静かなのだ。
僕とツヴァイはそこの自習スペース──僕らしかいないが──で勉強会をしていた。今は息抜きでブラス族の本を読んでいるが、さっきまで数学と戦っていたばかりだ。
数字の羅列から脱し、神話の物語を頭に溶け込ませていく。ツヴァイは僕の質問に答えながらカフェで買ったオランジェットを黙々と食べている。頭を使うとお腹が減るらしい。
着々とツヴァイに腹ペコ属性が付与されている気がしつつ、僕の胴体ほどあるハードカバーをまた捲った。
「『その未知の武器はただの弓や
「見るか?」
「え?」
ツヴァイはオランジェットの容器を置き、両手を合わせた。そして左手側を胸に寄せるように引くと……そこには黒い──拳銃が現れていた。
銃には詳しくないけど、自動拳銃というやつだ。ファンタジーの世界に似つかわしくない、現代文明の塊みたいなやつがツヴァイの手に馴染んでいる。
ツヴァイはそれを慣れた手でクルクルと回し、構えた。
「流石にここでは撃てないが、こういう奴だ」
「それってじ……何?」
「“銃”というものだ。中に金属製の弾が入ってる。これは小さい奴だけど、もっと大きいやつもある。これで弾を弓みたいに撃ち出して攻撃する」
「な……なんですぐ出せたの?」
「俺の固有魔法《超越銃器》。ブラス族の固有魔法は全員共通で、この銃や弾を召喚できる」
この世界に似合わない近代武器を出されてビビってしまった。
まだ中世にあるような鉛の銃だったら理解できたかもしれないけど、がっつり現代的な黒いハンドガンだったからね。そこはリボルバーとかじゃないのかよ。
未知の武器は銃の事だったんだなぁ。それはオーバーテクノロジーだわ。プラスチックとかこの世界に無いもんね。
しかも弾にも魔法を乗っけられるらしいから、下手な魔法師より余程攻撃力が高い。
ツヴァイにすぐ銃を仕舞ってもらう。こんなの他人に見られたらそれこそ学会とかに連れてかれるんじゃないか?
「銃だけならまだ言い訳が効く。神話には“未知の武器”とは書かれてるが細かい見た目の描写はされてない。まぁ殺傷力が高すぎるからそうそう使わないが」
「うん……そうした方がいいと思う……」
飛んで近代兵器を魔法込みで撃ってくる人外かぁ。敵に回したくないなぁ。
クトゥルフ神話TRPG……CoCをやったことある人なら、銃の強力さって結構わかるんじゃないかな? 流石に邪神相手はキツイけど、奉仕種族や下位の生物は割と楽に殺せたはず。
現実では数値通りにいかないだろうけど、人が携帯できる武器ではほぼ一強だし。
ブラス族、そりゃ神話扱いされるよな。
「神に対抗する種族だから、そのくらい力がないとダメなのか」
「……怖くなったか?」
「いや、ワクワクする」
僕って神話の存在と縁があるのかな。邪神たち然りツヴァイ然り……前世で何かやらかした?
僕の前世は、なんというか日本人だったとか学校に行っていたとかそういう経験的な情報は覚えてるんだけど、具体的にどういう人格や思考していたのかは覚えてない。感情とか思想のデータを抜き取られた感じ。
でも前世の感性を引きずってたら邪神とまともに会話できないだろうし、これで正解なんだろうな。
というか邪神たちが魔改造した結果だろうし。
「おや、増えている」
「あ、モリオンさん」
そろそろ勉強を再開しようか、という時、モリオンさんが現れた。火をつけてない
ツヴァイは突然現れた知らない大人に体を固くしていた。モリオンさん圧あるしね。
「モリオンさん、この人はツヴァイ。島学習でできた僕の友達です」
「どうも……」
「ツヴァイ、この人はモリオンさんっていって、ここの最高司書さんだよ」
「ほう、コルトは漸く友人と呼べる相手ができたのかい。いつも一人だから孤高主義なのかと思ってたよ」
「あんまり賑やかなのは苦手ですけど、一人も嫌ですよ……。モリオンさんは今日もボードゲームですか?」
そう聞けば、モリオンさんは首を横に振る。視線の先には僕らがテーブルに広げた参考書、教科書、ノートの山。
あと僕が読んでたテラ神話学の本。
「一年は中間テストが近いだろう。流石に若いののテスト勉強を遮ってまでゲームには誘わんよ」
「なら、別の用事ですか?」
「適当に苦戦してるところを教えてやろうかと思ってね。日頃ゲームに付き合ってくれるお礼さ」
「ゲーム?」
「モリオンさんはボードゲームが好きで、僕がよく相手してたんだ。勝てたことないけど」
勝てたことないけど。
モリオンさんは最高司書だけあって博識で、大抵の教科は一年の範囲くらいなら教えられるらしい。専門は錬金術だけど、魔力解析や生物学にも長けているそう。
実際僕とツヴァイが後で先生に聞きにいくために置いておいた問題もスラスラ解いて解説してくれた。
ザックリと解法のヒントだけまず与えて、それで解けなければ解の流れ、そして応用と教えてくれるやり方は分かりやすく、ゆっくり話してくれるのでメモも取りやすい。
モリオンさんを先生に、ノートに書き込まれた謎は次々と溶けていった。
「お前さんたちは優秀だね。ほとんどテスト対策はできてるじゃないか」
「テストもそうですけど、半分は予習も兼ねてるので」
「応用問題や発展問題を解いた方が理解が進むしな」
「真面目だねぇ……。そんなお前さんたちにひとつ、依頼があるんだ」
「?」
詳しくはテストの後に。とモリオンさんは閉館のアナウンスと共に去ってしまった。
僕らに依頼、とはなんだろう? 図書館でのバイトとか? ツヴァイと顔を見合わせても、予想できるものは特に無く。
最後の最後に謎を落とされたと思いながら、その日はお開きになったのであった。
*
『コルトよ〜、最近ずっと勉強しておるなぁ。皆構ってもらえんと寂しがっておるよ』
「うーん、テストが近いから……。ごめんねって伝えておいてほしいな」
『しかしのう、ワシらも勉強の手伝いくらいはできるからのう、いつでも喚んでくれて良いんじゃぞ?』
寮、心配げに僕を複数の瞳で見つめるのは“古のもの”さん。
コウモリの羽のような腕をおじいちゃんのように擦り合わせながら、勉強する僕の横で話しかけてくる。
テスト前一週間はどうしても追い込み時で、受験の頃までとは言わないけどいつもより勉強の時間を多くとっている。
そのせいで皆んなに構えていないのは確かだった。
受験の時はみんなでワチャワチャと学んでいたから良いけど、今は僕一人で参考書と睨めっこしているから寂しいそうだ。
『特にウチのシモベ共がよく鳴くようになってのう、少しで良いから構ってやってくれんか』
「う、うーんせめてテスト明けまで待ってほしいかも……。皆んなと遊ぶと楽しくてつい時間が過ぎちゃうから」
『無理せんようにのう』
古のものさん達は僕のおじいちゃんポジだ。縁側で緑茶を飲むのが似合う喋り方をしている。多眼にコウモリの腕に触手という外見だけど。
たまにどこから入手したのかわからないおはぎを差し入れに持ってくるし。それ手作りなの? 南極って小豆あるの??
モリオンさんの依頼も気になるし、テスト前なのに気が散ることが多いよ〜!!
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