固有魔法はSANチェック!【改訂版】   作:月日は花客

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13.コールタールはSANチェック!

 

「オレとティナが先行するわ。後ろは任せた」

「コルトは俺の後ろにいろ」

「了解」

 

 隊列を組んで地下に降りる。石材の床は硬く足音が響く。同じく石材で囲まれた通路を、カンテラの灯りだけが照らしていた。

 ティティナとリクト、クラリネ、ツヴァイ、僕の順で並んで歩く。僕の方には本日の担当猫、ハチワレのハチさんがピコピコと耳をそばだてていた。暗闇にハチさんの目が光っている。

 クラリネと気まずい雰囲気になってしまって、後続の空気が不味い。ティティナとリクトはそれに気づいているのかいないのか。現状結束力はあまり期待できない。

 

 通路は単調で、少し坂になっているだけ。あとは真っ直ぐ暗い道が続いている。魔法で照らす手もあるけど、なるべく魔力を温存したいのでカンテラのみだ。

 時折階段を挟みながら、下へ下へ降りていく。防災壕だからかなかなかの深さなようだ。

 

「長くね?」

「モリオンさん曰く700mは下るって」

「深っ」

「殆ど当時のまま手をつけてないらしいから、何かあるかも。気をつけて」

 

 流石に倒壊とかは無さそうだけど……と、僕の肩にいたハチさんがふと僕の肩から降りた。

 

「止まって」

 

 ハチさんだけが前に出る。先頭にいたティティナの数メートル先で止まると、「ニャア」と僕に知らせるように鳴いた。

 その足元をよく見ると、細い……とても細い糸のようなものが見える。しかもわざわざ黒く染めてあるようだ。カンテラの灯りでギリギリ視認できた。

 

「猫の足元に糸が張ってある。罠だろうね」

「おお……! 猫様優秀」

「ティ、ティナだって気づいてたし!」

「なに張り合ってるの?」

 

 どうやら罠が張られているようなので、より一層慎重に奥へ進む。ハチさんは引き続き先頭を歩いて、罠らしきものが確認されたら都度僕に鳴いて知らせる。

 ワイヤートラップ、偽装ボタン、落とし穴。

 古典的で物理的な物しかなかったので、回避は容易だった。しっかりスイッチを避ければ問題ないものばかり。罠にしては殺意を感じない。

 先行する三人が楽観的に歩を進める中、僕とツヴァイは何かがおかしいと冷や汗が背中を伝っていた。

 

「扉だ」

 

 しばらくひたすら一本道を歩いていると、扉が目の前を塞いでいた。どうやら最奥に着いたらしい。

 木材の扉はそこだけ劣化していて、かなり建て付けが悪そうだ。

 ノックしても当然、返事は無い。

 

「開けるねー」

「罠に気をつけてね」

 

 ティティナがノブに手をかける、そしてゆっくりと押していくと……ブツ、と紐が切れる音が最後尾の僕にすら聞こえた。

 

「ティナ!」

「ふん!!」

 

 扉の奥、対面の壁から飛んできた火矢を、ティティナは鋭い反射神経で補足し、その手刀でもって一刀両断した。

 火矢は一矢だけだったようで、落ちた矢の残骸が床に落ちても追撃は無い。ハチさんも、中に罠らしき気配はないと尻尾を振って戻ってきた。

 

「流石だな、ティナ」

「当然!」

「待って、奥に倒れてるのって……人?」

 

 部屋は防災壕だけあって人が何百人も入れる広さ。その中央に、ボロ布を纏った誰かが倒れている。

 小さな塊だ。おそらく僕らよりも小さい子どもらしき影。正直罠を疑うが……リクトはそれをかまわずに走り寄って行った。

 

「おーい、大丈夫か? 起きれるか?」

「ん……んう……」

「怪我は……無いみたいだな」

「ます……たぁ?」

「え?」

 

 遅れて僕たちも近寄る。

 倒れていたのは、紫の髪が綺麗な女の子だった。年齢は小学生くらいだろうか、まんまるな瞳がリクトを射抜く。

 緑と金の色の違う瞳が、キョロキョロと周りを確認した時……一瞬、目が合った気がした。

 その瞬間、その子どもは顔色を真っ青にして、大粒の涙を溢し叫び始めた!

 

「あ゛ぁー!? ヒッ、うぁ、っゔぇーーん!!」

「うわっ!? ど、どうした??」

「あー、リクトが女の子泣かせた」

「オレなんもしてねぇよ!? あーあー、泣き止んでくれ〜」

「ま゛すたー! あ゛ー! ヒック、ううあーーっ!!」

 

 ギャンギャンと泣き叫ぶ女の子。両手はしっかりとリクトにしがみつき、まるで蝉のように泣きながらひっついている。

 これには流石のリクトも困惑。必死にあやしながら、頭上に大量のハテナマークが浮かんでいるのがわかる。

 かくいう僕たちも疑問が止まらないのだが。

 

「この子が魔力反応の原因?」

「こんな子どもがどうして図書館の地下に……」

「モリオン先生に聞くのが一番よ。連れて帰りましょう」

「え゛ーーん!」

「よしよし、泣き止んでくれ〜……」

 

 リクトにビッタリと張り付いて剥がれない女の子。確実に魔力の元はこの子だろうし、一度戻って連れ帰るに意見が一致した。

 子どもの大きな泣き声を間近で聞いているリクトは既に疲れ始めている。気が散って罠を踏まないと良いのだけれど。怖いのでハチさんに先導してもらう。

 三人が部屋を出ようとする中、僕はツヴァイにひっそりと話しかけた。

 

「僕は少しここに残る。用があるんだ」

「用?」

「僕の固有魔法に関する事……って言えばわかってくれる? ツヴァイには入り口で誰も入らないように見張ってて欲しい。リクト達も引き返さないようにして」

「……わかった。怪我はするなよ」

「ありがとう」

 

 ツヴァイはこういう深く聞いてこないところが美徳だよね。踏み込まず、納得して協力してくれる。死ににくいタイプ。

 逆にクラリネは心配かも。これ以上突っ込まれないのが一番なんだけどなぁ、どうなることやら。

 ツヴァイが部屋を出て、数分。じゅうぶん遠くにいったことを察した僕は、そっと部屋の天井……奥の角を見据えた。

 

「狙いは僕?」

「────」

 

 カンテラでは照らしきれなかったそこ、既に光源も無くなり真っ暗になった空間で、それでも異様な“黒”を湛えたそこ。

 

 その“黒”が、ドロリと動いた。

 

「君はなんだろう。この世界の生き物でも、神話の生物でも君みたいなのは見たことがない。似ているものはいても、なにかが決定的に違う」

「────」

 

 コールタールのように液体のような黒で、粘性があり、しかし光沢は一切無い。全ての光を飲み込む絵の具のようだ。意思はあるのか無いのかわからないし、鳴き声は言葉にならない高周波の一音。

 生物のようにもただの現象のように見えるそれは、まるで僕を飲み込んで溶かしてしまおうと言うかのように身体を大きく持ち上げ始めた。

 

「じゃあ、僕も友達を呼ぼう」

「────?」

「最近構ってあげられなかったんだ。ちょうど良かった、君も遊んであげてくれないかな」

 

 コールタールの化け物とはまた別、僕の影が、ドロリと歪む。

 

「きっと楽しいよ」

 

 影から出てきたのは、スライムのように不定形で、悪夢のような黒っぽい玉虫色をしていた。ぐちゃぐちゃと音を立てて這い出るそれは、引き裂かれた女の悲鳴のような、虫の金切り声のような冒涜的な鳴き声を発した。

 

『テケリ・リ! テケリ・リ!』

「じゃーん! みんな大好きショゴス君だよ!」

 

 それは正に、万物に擬態する粘液であった。

 ショゴスと遭遇した貴方は1d6/1d20のSAN値チェックです。

 

「ショゴス君、この黒いやつがね、君と遊びたいんだって!」

『テケリ?』

「うん、久しぶりに遊ぼうね。でもこの黒いのは僕のことは嫌いなんだって、悲しいなぁ」

『テケリー! リ・リ!』

「怒ってくれるの? わぁありがとう、嬉しいなぁ! それじゃあ、お願いしてもいいかな」

『テケリ・リ! テケリ・リ!』

 

 ショゴス君はグワリと身体を巨大化させると、コールタールらしき存在に襲いかかった。

 ショゴス君にすっかり怯えて縮こまっていたコールタールは一瞬で飲み込まれた。

 グチャリグチュリと、潰されて飲み込まれた溶かされる音がする。

 シュウシュウと悪臭のする煙とともに、コールタールは消えて行った。

 

『テケリーリー!』

「わぁいありがとう! 僕とっても安心できたよ、さすがショゴス君!」

『テテテ、テケ!』

「うんうん、今日は寮で遊べるから、帰ったらツイスターゲームしようね」

 

 バイバ〜イと手を振れば、ショゴス君も体の一部を振って影に帰っていった。

 

「さてと」

 

 コールタールがいた場所、そこには銀色の鏡のような物が落ちていた。恐らくだがこれで望遠鏡のように見ていたのだろう、ここでの出来事を。

 

「覗き見は犯罪ですよ」

 

 思いっきり踏めば、パキンと簡単に割れる。鏡の先の存在がどうなっているかは知らないが、ショゴスを見て精神は持っているのだろうか。

 そんな事、僕の知ったこっちゃ無いが。

SAN値チェック

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