ホムルはフォークロアに転校生として所属することになった。
飛び級なのはいいとして、モリオンさんはどうやって教師を説得したのだろう。あの人の地位とか権力が気になるところだ。
ニコニコと可愛らしく自己紹介したホムルにクラスのみんなもうメロメロだ。皆んな小動物を愛でるようにホムルに構っている。
僕も、前の席にいる者として良くしたいと思ったのだけれど、顔を向けただけで半泣きされてしまった。クラスでも特にホムルを可愛がっている人たちから非難の目が向いたので、それ以来関わらないようにしている。
僕なにかしちゃったかなぁ……。
「ヒェッ……ウェ……う゛ぅ〜」
「ホムルちゃん、泣かないで」
「コルトに何か言われたのか? ほらお菓子だぞ〜」
「親がまともじゃなかったからアイツも歪んでんじゃねぇの?」
「バカッ言い過ぎ」
クラス全体で愛でるものとしての地位を早々に確立したホムルは、何故か僕を異様に怖がる。
そのせいで僕はクラスですっかり弾かれてしまった。前にクラリネが言っていた「生まれてすぐ両親が精神病棟送りとなった」噂……というか事実がそれを助長している。
最近では「頭が良いが代わりに頭がおかしい」とまで言われている。ホムルが怖がるくらいで言い過ぎではないだろうか。
しかしこれもホムンクルスの機能の一つだと言う。
ホムンクルスは人に感知できない「波数」という万物が発する波を感知できるが、一定の波数、波形を持つ人物はホムンクルスに好意を抱く。
それはホムンクルスが波数を受け取ることで本能的にパズルのピースが合ったように感じるとか、ホムンクルスが人に紛れるための生存戦略として備えている魅了だとか、色々言われている。
が、そもそもホムンクルス自体が禁術で国に見つかり次第焼却処分なので詳しくはわかっていないそうだ。
僕に当たりが強い人は特にその傾向が強いんだろう。椅子に画鋲が置かれたりはしてない、ヒソヒソと陰口を叩くのみなので現状放置している。エスカレートしてきたら何かしら策を講じるつもりだ。
「席替えしたら治まるかもしれないし」
現在は僕とホムルの席が前後ろと近いのが悪い。ホムルは何故か僕の一挙手一投足に怯えるし、僕はクラスでの印象が下がる。何も良いことがない。
授業中はマシなため先生が気付きにくいのもある。日直が一周したら席替えらしいので、あと数日の辛抱だ。
「学校の人間関係って面倒ですね、モリオンさん」
「その面倒は一生付きまとうものさ」
今日はツヴァイが日直で遅くなるので、僕は先にモリオンさんとマンカラに興じている。
フォークロアの日直は日本のより作業が多く、大体放課後が潰れる。僕は入学してすぐ体験したけど、あれは大変だった……。
久しぶりにモリオンさんと二人でボードゲームをする時間、マンカラは宝石を模したガラス玉をターンごとに移動させ、最終的な所持数を競うゲームだ。
添えられたオヤツはスティックプレッツェルである。
「しかし二歳も歳下のお前さんの方が大人とは、皮肉なもんだね」
「僕はただ面倒臭いだけですよ、実害があったらちゃんとやり返します」
「バレないようにやりなよ。学年筆記一位の言い分を信じる教師のが多いだろうさ」
「いやぁ〜ちゃんと勉強はしとくものですね〜」
中間テスト──一年はまだ実技テストは無いので筆記のみで順位が決まる──は当然僕が一位だった。全教科満点ピースピース。なんなら文章題の解答が良くて追加点貰っちゃったもんね。
ツヴァイは二位だった。長文読解で一点落としたらしいけどほぼ満点。苦手な歴史もちゃんと解けてたから僕は良いと思うんだけど、悔しそうだった。でも入試四位からしっかり上げてきたのは流石だと思う。
同級生の評価はともかく、僕は先生からの評価は高い。真面目で制服を着崩さず、実技以外の成績はトップ。穏やかで勉学に励む姿をよく見かける。つまり優等生だ。
もし僕がクラスメイトに言い返したとして、先生は僕の味方をするだろう。そんな大事にする気は無いけど。
「ホムンクルスは人より優れている。人のように変なプライドも無い分懐に入りやすいんだろうね」
「周りが勝手に暴走してるって感じですけどね。ホムル自身は僕への陰口を聞くと止めてますし……21」
「27」
「負けたぁ〜」
マンカラはシンプルだし一戦がサクッと終わるのでチェスよりカロリーが低い。だから連続で何戦もしてしまうのだけれど。
僕はプレッツェルを齧りながら思案する。
あのホムンクルスは、何のためにここに送り込まれたのか。今のところ、普通に学園生活を楽しんでいる。立ち入り禁止の場所に入ろうとしたり、嗅ぎ回るような動きも見せない。ということは、やはり探知機として一般生徒から見たフォークロアの情報を得ることが目的?
それにしてはホムルの好きなようにさせている。今日はリクトと学外のスイーツを食べに行くのだと言っていたし。
「モリオンさんは何か掴めました?」
「千里鏡を復元したけど、もう接続が切られていたよ。だがそこは問題じゃない。……このマークを知っているかい?」
モリオンさんが見せてきた紙切れには、奇妙なマークが描かれていた。
泡が集まったような丸がいくつもくっついた形の中央に、人の目が一つだけ大きく描かれている。その目の虹彩部分には24面ダイスのような図形が刻まれている。
「『白亜の心眼』のマークですよね? 第三魔法師時代、稀代の大事件を起こした宗教のエンブレム」
「うん、120点をあげよう。千里鏡を復元した際、額の部分にこのマークを刻んだ装飾がされていた」
「白亜の心眼って、100年前に解散した筈じゃ」
「何らかの人物が復興させたか、名を借りて新しく作り直されたか……。まだわからないが、あのカルトがまた動き出したのは事実だ」
「……どうします?」
「今はまだ情報も協力者も足りない。相手は巨大な宗教団体かもしれないからね、真っ向勝負は避けたい。地道にピースと協力者を集めていこう」
と言うわけで、明日放課後すぐ第二校舎へおいで。私の弟子を紹介しよう。
また閉館の合図とともに、モリオンさんは去っていった。おそらく今日はツヴァイが居ないから、明日出直せと言う意味だ。
残されたのは僕と、プレッツェルが入っていたカップ、そして片付けられてないマンカラのボード。
「あ、僕が片付けろってことですね、はい」
華麗に後片付けを押し付けて帰られたが、そんな事よりもモリオンさんの弟子の存在が気になった。
謎が多く、割と倫理観が危うい疑惑があり、何故か神話生物とまともに接することができるモリオンさん。
そもそも彼女自体ミステリアスで底がしれない。ただの最高司書が転校手続きを偽装できるのか?
しかしこれは「覗いてはならない深淵」な気がして、僕はそっとマンカラのガラス玉を袋に詰め始めるのだった。
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