「それで……アタシを協力者にするってことは、何か錬金術で入りようなものでもあるんですか〜?」
一先ず落ち着いたリリリが、やってられないとばかりに酒瓶を傾けながらモリオンさんに問うた。
モリオンさんだって、ただ弟子だからだとこんな事に巻き込むようなことしないと思うし、何か策があるのだろうか。
「接続が切られた千里鏡の逆探知……お前さんならできるだろう?」
「うげっ、超絶面倒で高難度なやつじゃないですか……。師匠がやってくださいよ〜」
「残念ながら私は白亜の心眼が尻尾を出していないかの捜索と、最高司書の仕事で忙しいのさ。知ったからには協力しな」
「横暴だ! 師匠だからってあまりにも理不尽だぞそれはぁ!」
リリリさんが酒を愛し始めたのは、若干モリオンさんのせいでもあるんじゃないか。そんな疑惑が僕とツヴァイの中で生じる。
師匠があまりに自由過ぎて呑まないとやってられないのだ。たぶん。
錬金術師の二人は地下にあった千里鏡と、ホムンクルスについて調べるらしい。白亜の心眼は錬金術系のカルトで有名だったから、専門の人の方がわかることが多そうだ。
僕らは次どうすればいいのだろう。
「お前さんたちはね、前線で調べる係だが、万が一の戦闘員でもある」
「戦闘……」
「リリリも私も、戦闘が得意とは言い難いからね。もしまた錬金の泥や白亜の心眼の手先が襲って来たときは、お前さんたちが矢面に立つ事になる」
その言葉に身体が固くなる。今のところ錬金の泥に対処できるのは僕しかいない。それは良い。またショゴス君を喚べばいいし。
ただ、僕の戦い方はあまりにも周りを巻き込む物だからだ。
「ええっと、僕戦闘は……」
「コルトは錬金の泥専門でいい。それ以外は俺がやる」
逡巡した僕にツヴァイはスパリとそう言った。
確かにツヴァイはかなり戦闘向きなスペックをしている。銃の種類によっては多数相手でも物ともしないだろう。
「そうだね、それがいいだろう。錬金の泥を相手するのに、他の奴で消耗するのは危険だ」
「ツヴァイちゃんはぁ〜、戦うの自信あるタイプぅ〜?」
「ちゃん……!? え、ああ、固有魔法もその傾向だ」
「じゃあ、『祝福武装』も使えるって事〜?」
祝福武装。それは固有魔法を鍛えた先にある高位の力。
固有魔法をさらに強化し、その能力に応じた鎧……武装を獲得できる。子どもから大人まで憧れる強者の証だ。
ただ、僕とツヴァイはどちらも祝福武装は使えなかった。
「いや……情けない話だが」
「そっかぁ〜、じゃあヒック、師匠鍛えてあげなよ〜」
「忙しいって言ったのが聞こえなかったかい? 私にそんな暇無いよ」
「え〜? 師匠ならつよぉい知り合い沢山いるでしょ〜? 紹介してあげなよ〜」
フラフラと酔い始めたリリリが、絡むようにモリオンさんにしなだれかかった。
僕らとしては、鍛えて祝福武装を得られるなら大助かりだ。強くなって損はないし。
僕の固有魔法どうやって鍛えるねんという話は置いておいて。
モリオンさんは面倒そうに煙管をいじっていたけれど、ふと何か面白そうなことを思いついたのか、人の悪い笑みを浮かべた。
嫌な予感がする。
「二人合同で鍛えるのは無理だ。だが……それぞれに良い助っ人を付けてやろう。なに、悪いようにはされないさ」
「……なんか嫌な予感が」
「目標は今年の『フォークロア魔法師大会』。そこの
「……いくらなんでも近くないですか?」
祝福武装は半生をかけて編み出す秘技と言われている。だというのに、フォークロア魔法師大会まであと一ヶ月もない。期限が短すぎる。
フォークロア魔法師大会は、低学年にとっては自分を高学年や教師に売り込むチャンス。高学年は研究室や就職先に自分の力を見せる機会だ。
様々な種目で魔法の腕を見せ合う……まぁ体育祭みたいなもの。
ダブルとは、二対二で魔法を撃ち合って戦い、勝ち抜くトーナメント戦だ。毎年熾烈な戦いが繰り広げられると聞く。
そこで、自分の祝福武装を見せる。実用段階まで完成させる。
それは一ヶ月で素人からプロ選手に成り上がれと言われているのと同義だった。
「ここはフォークロア。祝福武装持ちなんて高学年にはゴロゴロいる。なに、お前さんたちは優秀も優秀、一年からでもできるさ」
「うわ〜スパルタ〜」
「……そのためのサポーターを、モリオンさんが紹介してくれるということか?」
「ああ」
三日後。それぞれに顔合わせをさせる。
フォークロア魔法師大会の前一ヶ月は、大会準備や作戦会議として授業が半日で終わる。
その半日を有効活用し、サポーターに鍛えてもらって祝福武装を完成させること。
それが次にお前さんたちがやるべき「任務」だ。
モリオンさんのその言葉で、僕とツヴァイの瞳に真剣な、厳しい壁を見つめる光が宿った。
到底無理だと思えることでも、モリオンさんの声に乗せられて言われると「やってやる」と思えてくる。声のトーンの乗せ方なのか、強弱の付け方なのか。わからないけど、雰囲気に呑まれてしまう。
リリリもこうして一級錬金術師にまで鍛えられたのかもしれない。
でも、本当に僕の固有魔法はどうやって鍛えるんだ。
*
「さて、コルト。お前さんのサポーターなんだがね」
「はい」
三日後。いつもの図書館……ではなく、僕がかつて働いていた小料理店でモリオンさんと僕は話していた。
一番奥、衝立もある人の目が届きにくい席で、僕はコーヒー、モリオンさんは紅茶を啜っていた。懐かしい小料理店は今日も繁盛している。
「私の認識では、お前さんはそこまで倫理観が正しくないね」
「自覚はありますが、モリオンさんに言われたくないです」
「そんなお前さんだからこそ紹介できる相手さ。ま、頑張ると良い。彼奴なら、その固有魔法も体質も上手く
「……?」
なにか引っかかる言い方に僕は疑問を投げかけようとした。
しかし、現れた影にその口を閉じる。その人影が、僕のサポーターだと察したからだ。
白と黒の二色の髪を垂らし、レザーとハーネスで厳つく決めたファッション。オーバーサイズのジャケットを肩にかけた、正に「黒幕」と言ったふうな女性。
サングラスをキラリと頭に掛け直し、彼女は笑いかけた。
「キミがコルトだね。私はオルカ。モリオンの旧友で、フォークロアの卒業生でもある。──キミがこの街の裏側を知っても良いと思うなら、私は喜んで手を貸そう!」
「彼女はお前さんのサポーター。オルカ・シーグラス。オルカ、コイツはなかなかにイカレてるから、存分に使ってやり」
「相変わらずモリオンは人使いが荒いな……。まぁ良い、行くぞコルト、ここは少し人が多いからな!」
流されるがままに、店を出る。
オルカさんに手を引かれ、入っていくのは街の裏路地。
右へ曲がり、左へ曲がり、塀を越えたと思ったらまた曲がる。そんなグニャグニャな進路を経て、いつのまにか黒い扉が目の前にあった。
行き止まり、周囲は恐ろしいほど静かで、空気が冷たい。
まだ昼だというのに薄暗く、不穏な空気が漂っていた。
「オルカさん、貴方は……」
「ふふ、何か察したかな。……さて、改めて自己紹介を。私はオルカ・シーグラス。またの名を“キング”。グリモアのマフィア『ステイルメイト』の
「マフィア……」
モリオンさん、なんて人に僕を押し付けてくれたんだ。
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