「マフィア『ステイルメイト』……都市グリモアを拠点に、世界の裏側に存在する反社会組織」
扉の奥に通され、沢山の警備員やロックをパスした先、黒と白で統一された応接室らしき場所に、僕とオルカさんはいた。
革製のソファがギチリと音を立てている。
オルカさんは対面の一人がけソファに座り、いつのまにかテーブルに置いてあったコーヒーを啜る。
その姿は貫禄があり、プレッシャーが毛先にさえ伝わってきた。
実質的な世界の黒幕。表舞台には滅多に出て来ず、“キング”と呼ばれるボスの呼び名だけがわかっている。
暗殺、襲撃、違法取引。その他
しかし、それはこの都市グリモアを他の勢力から守る、一つの盾でもある。
都市上層部は、苦虫を噛み潰しながらもこれを黙認していた。
「と、いうのが私の組織についての概要さ。何か質問はあるかい」
「ええと……どうして僕のサポーターになってくれたんですか?」
「モリオンに頼まれたから……という部分もあるが、聞いたぞ、白亜の心眼が何やら動いているそうじゃないか」
この街で暗躍するなんて、ステイルメイトに唾を吐いたのと同じ。ならば、報復は当たり前だ。
その為にも、協力者の助力は惜しまない。
という事だそうだ。裏社会の人間として、思うところがあるのだろう。
煙草の火を点けながら、オルカさんはその深い藍の瞳を鋭く尖らせる。銀製ライターの点火音が部屋に響く。
「
「っ僕の固有魔法を知って……!?」
その剣呑な雰囲気に、思わずソファから腰が浮きかける。
すると、オルカさんはさっきとはコロリと雰囲気を変えて、最初に会った時のようなフレンドリーさを戻してきた。
鋭かった視線が丸さを帯びる。
「キミ、どうせモリオンに振り回されてるんだろ? 意趣返しとして、彼女の秘密を教えてあげよう」
「……?」
「モリオンの固有魔法は《その物の本質を見透かす》のさ。正体を見破る、と言うのがわかりやすいかな。あの瞳の前では隠し事ができない」
「あ……それで、僕の固有魔法を……」
「私が、モリオンから聞いたキミの固有魔法は、詳しくは聞かされてないが《精神を発狂させる》ようなものだと聞いている。容易に人を廃人にしてしまえるものだとね」
間違ってはいない。それにプラス国や世界を滅ぼせる事が追加されるが。彼女には言わない方が良さそうだ。
僕が頷くと、オルカさんは「おっそろしいねぇ」と笑う。
オルカさんは、それを聞いて自分にも得、僕にも得な鍛え方を思いついたそう。
しかしここはマフィア。人道に反する事は基本だ。
「それでも良いなら、鍛えてあげよう。祝福武装が使えるほどにね」
「……やります。尻尾を切られないならね」
その言葉に、オルカさんは今度こそ思いっきり破顔したのだった。
*
「さて、早速だが仕事の時間だ。っと、これを見えるところにつけておけ」
「……チェス駒?」
「私の“客人”の証さ。これを付けてないと侵入者として処理されてしまうからね、失くすなよ」
「絶対失くしません」
それは銀色のキングの駒だった。キラキラと照明を反射して、派手。
僕はそれを首に下げると、部屋を出ていくオルカさんに続いた。飲みかけのコーヒーが少し名残惜しい。
また、薄暗い廊下をしばらく歩いた先にあったのは、鉄製の扉が並んだ場所だ。
厳重に施錠された何十もの扉は、まるで檻のよう。耳をすませば、微かに呻き声も聞こえる。
ここで僕の固有魔法を鍛えるらしい。
「多少暴れたり口汚い言葉を吐くだろうが、キミに怪我させたりはしないよ」
その言葉と共に扉が開けられる。
そこには、ギチギチにベルトで拘束された、屈強な男が座らされていた。
「来やがったなアバズレ。さっさとこの縄を解けぇ!!」
「
「あ、はい」
「あぁ? 今日はそのガキンチョが尋問相手かよ。バラバラにして好きモノに売り捌いてやろうか!? あぁん!?」
つまり、これから情報を聞き出せるようにしろ。と言う事らしい。
オルカさんが出て行ったのを確認すると、僕は相手に向き直った。
聞き出せるようにするだけなら、ミ=ゴさんとかムーンビーストさんらに任せれば一瞬だろう。
しかし今回は僕の固有魔法の訓練だ。ただ召喚するだけじゃ足りない。
なら、どうするか。
姿を出さず、僕の体に一部を使って身一つで発狂させられないだろうか。
例えば、瞳の中に神話生物の存在を映す、とか……。
「目を見て」
「あ゛? ……は?」
「みえる? 深淵が、なにかが」
「あ……あ……」
「逸らさないで。じっと、そう、覗き込んで」
「ひ……が、あ、泡……泡が……!」
「逸らさないで」
「あ゛あああああああぁぁぁ!?!?!?」
男は白目を剥き、泡を吹いて失神してしまった。うーん、精神が持たなかったようだ。おそらく、もう起きる事は無い。
これは……うーん、失敗だ。良い感じに精神を削って従順にしようと思ったのに。
それか発狂させて多弁症あたりを任意で引けるようにするか。
取り敢えず、オルカさんに報告しよう。
「ほう……また派手にやったね」
「途中までは良かったんですが、耐えられなかったみたいで」
「キミの課題だが、とにかく手加減や力を弱める事を覚えよう。今のままでは被害が大きすぎる、もっと小出しにする事を体に叩き込むんだ」
「小出しに……」
今回、瞳に邪神を映す事は成功した。因みにさっき映したのはウボ=サスラのおじ様。
虹彩や反射の中に呼び出すつもりでやってみたが、邪神の姿ではオーバーキルか。瞳の中だからまだリアルで会うよりSAN値チェックが軽減されると思ったのだけれど。
発狂させるのか、恐怖を与えて従順にするのか。どちらかに先ずは絞った方が良さそうかな?
「何、まだまだ練習相手はいる。追加も入ってくるだろうしね。重要度の低いやつは積極的に回すから、一つ一つしっかりと学ぶつもりで相手をしろ」
「はい、ありがとうございます」
「殺すよりも掃除が楽だし、情報が聞き出せれば上々……いやぁ、ウチに欲しいくらいの能力だ」
オルカさんは部下を呼んで、廃人となった男を片付けさせた。
時間はまだあるので、数をこなして検証していこう。
オルカさんは別の仕事に戻るらしいが、近くに部下を置いてくれて、聞けば対応してくれるそう。
黒服に仮面をつけた部下さんは圧があるけど、割りかし穏やかに接してくれた。マフィア相手に言うことでは無いだろうが、良い人そうだ。
「じゃ、頑張れよ」
「はい、ありがとうございます」
コートを翻して、オルカさんは尋問室を出て行った。
ここからは僕の工夫次第。オルカさんのためにも、情報を吐かせられるよう頑張るぞ!
張り切る僕を黒服さんたちが少し引いた目で見ていたが、気にしないで! 僕とオルカさんの倫理観がおかしいだけなの!
SAN値チェック
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成功
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失敗
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発狂