入学試験にやってきました!
都市グリモアの中央に聳え立つ、お城のような建物がフォークロア魔法師養成学園だ。
ステンドグラスの大窓や荘厳な石材でできた装飾がなんとも威厳の圧というか、名門のプレッシャーというか……。
受験は二日に渡って開かれ、一日目は筆記試験。
「イスの偉大なる種族が徹底的に教える、フォークロア受験のための学習カリキュラム」によって模試A判定を貰った僕に隙は無い。
5000人がすっぽり入る会場で席に着き、合図とともにペンを持つ。試験科目は数学、言語、歴史、魔法、錬金術の五つ。数学は大体日本での進学校高校3年がやるレベル。名門のハードルってすごいね。中学の時点で高校数学が“できてあたりまえ”なのだ。
正直、経済格差関係無く封書は配られるけど、この筆記試験でかなり裕福層に有利だと思う。ちゃんとした教育を受けれてるからね。僕だってイスさんたちに教えられなかったら何一つ解けなかったかもしれない。
でも、この筆記で危なくても実技で高得点を取れれば入れるパターンもあるらしい。どちらかに偏っている場合、その偏っている方が圧倒的に優秀ならば……というね。それもそれでどうかとは思うけど。
スラスラ解いていけば、見直しと自己採点込みで終了5分前に終わった。全部イスゼミでやった所だった。追い込みの週にイス先生たちが予想した出題を集中して解かされたんだけど、ほぼ同じだった。すごい、すごいけどちょっと怖い。
試験運営側を脅したり洗脳したり脳缶にして試験情報を抜き出すのはズルだからやめてねって言っておいたからそういう不正はしてないはずなんだけど……。してないと信じたい。
注意されない程度に周りを見れば、ほとんどの人が青い顔をしてペンを必死に走らせていた。僕のように涼しい顔してペンを置いてる人はほぼゼロ。改めてこの筆記試験の厳しさを感じるけど、イスゼミで詰め込まれた地獄の受験勉強を思うと……ね……。なんなら科目によってはイスゼミの方が高レベルな問題だったし。
因みに僕は傾向的には文系。数学はそこまで得意じゃ無い。というか、解いてて楽しさとか、快感を感じない。歴史とか国語もとい言語のがワクワクできて好きだ。
因みに歴史の問題は
[問5]第三魔法師時代に興された「白亜の心眼」が起こした事件について、100字以上500字未満で説明せよ。なお、必ず「白亜錬金秘技書」について触れること。
とかがあったよ。難しいね。
こういうのって、限界の文字数まで書いた方がいいのか、簡潔にまとめた方がいいのか悩むよね。僕は簡潔にまとめる派なんだけど。
歴史や錬金術は選択問題が多いと思いきやちゃんと文章書かせてきて確実に試験時間を圧迫させてくる内容でしたね。マークシートじゃない完全記入式だからただ解いてるだけで手が痛くなってくるよ……。
さて、筆記は無事に終わったので明日の実技に備えよう!
イスゼミの先生方に感謝しつつ、明日の実技をどうやって乗り切るかの会議を始める。
何故ならば、僕の固有魔法は使っただけで周囲にSAN値チェックを要求するからだ。
この世界では魔法というものを使うのに資格がいる。
最初は資格がいらない生活魔法から入って、初級、中級、上級……と上がっていくのだ。基本的に小学生〜中学生で初級か中級の資格を持ってれば優秀とされる。
魔法を覚えるには魔法専用の参考書である魔導書が必要なのだけれど、この魔導書はただの本屋さんには売ってない。魔導書店という専門店で買わないといけない。
そして買う時にはその魔導書の要求レベルにあった資格証を提示しなければならない。
使い方間違えば大惨事になるものが書かれた本だからね、扱いは慎重に。
基本そういう手続きは学校側がしてくれるんだけどね、僕は行ってなかったので。
食器の汚れを落とすとか、簡易的な照明を作る生活魔法から始まって、マッチレベルの火を出したり〜みたいな段階を踏んでいくんだよね、本来は。そう、本来は。
ここで僕の弱点を教えよう。
SAN値チェック確定の時点で大分犠牲が大きい固有魔法なのだけれど、神話生物、旧支配者、果ては旧神すら呼び出せるこの魔法のために、僕はその他の魔法を犠牲にする事になったらしい。
固有魔法以外の魔法がからっきし使えないのだ。魔法師として致命的です本当にありがとうございました。
僕の固有魔法は強すぎる。それこそ秒で世界を滅ぼす魔王になれるレベル。勇者だって相手にならない。
しかしそんな力をただの人の子が持つには、その子の身体や精神が持たない。
という事で、クトゥルフおじさんたちは僕がまだ揺籠で眠るだけの生活を送っていた時に、僕の身体や魂を……“弄った”そうだ。
魔法が無意識レベルで染み込むほどに馴染ませて、発狂しない精神を造り、必要ない身体パーツを削除した。
結果、所謂排泄器官や生殖器官、魔力器官その他諸々が“意図的に欠落させられた”僕の身体が完成した。
固有魔法の発現は生まれて1ヶ月ほどらしいから、そこから身体を改造している最中に両親はSAN値チェック案件の現場に遭遇してしまい廃人になったわけだ。
僕の外見は普通に人間だ。黒色で、肩に掛からないくらいの髪。真っ黒な瞳。他の子より少し発育が遅れたのか、背丈は155センチほど。腰には例のマークことエルダーサインが彫られている。
ただ内臓や器官を覗けば、色々欠落し切除されているのがわかるだろう。まぁこの世界にレントゲンとかCTとか無いけど。
僕を見るだけならSAN値チェックなんて起こらないし普通に小柄な男の子にしか見えないだろう。たまに女子に間違えられるのは生殖器官持ってかれた結果ということで。
なんか体のアレコレ持ってかれたらしいけど、特に生きる上で苦労はしてないので気にしていない。
さて、それで僕の固有魔法をどうカモフラージュするのかというと……。
「ニャ〜」
「よしよし、学園ではよろしく頼むね」
この猫ちゃんである。
適当な街中で拾ってきたわけじゃ無い。この子達は僕の固有魔法で召喚された、「ウルタールの猫」なのだ。
見た目は普通の猫!
鳴き声も普通の猫!
行動は頭のいい猫!
でも奇妙な所はやっぱり奇妙。猫を絶対に殺してはならない街からやってきた、とっても可愛い神話生物? である。
ただの猫に見えるけど、普通の猫より圧倒的に頭が良く、僕のいうことをよく聞いてくれる。動きも機敏で、戦闘行動もできる。軍猫というのが正しいかもしれない。
仲間……同じ猫が害されるのをなにより嫌っているのだけれど、何故かこの子達は僕も猫──それもまだ幼い仔猫──だと思っているのか、すごく世話を焼いてくれる。
そう、彼らに協力してもらい、僕の固有魔法が《猫を召喚する》ものだと誤認させるのだ!
猫を召喚し、使役する。それが本当の固有魔法で、唯一使える魔法。そう偽ってこれから生活する!
基本的に固有魔法はプライベートな情報という認識なので、学校側が無理に聞くことは無いし偽装したからと言って罰せられるものじゃ無い。本当にその人の切り札みたいな力だからね、大っぴらにしてる人のが珍しいよ。
ということで僕の計画に穴は無い。これで実技試験も安心して挑める……かなぁ……?
体を魔改造されたせいでどれだけ魔力がない人でも扱える生活魔法すら使えないんだもん。やんなっちゃうね。
あ、別に僕の魔力が少ないわけじゃないよ。むしろ平均よりかなり上だと思う。それが全て固有魔法《クトゥルフ神話TRPG》に持ってかれてるだけで。
明日の実技試験のためにシュブ=ニグラスママが作ってくれたカツカレーを食べながら、試験内容を考察するのだった。
SAN値チェック
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成功
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失敗
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発狂