「ツヴァイ、お前さんのサポーターだがね」
錬金釜がコポコポと音を立てている。
ここは図書館最上階、最高司書専用錬金室。様々な錬金道具が置かれ、薬草と金属の匂いが鼻をつんと刺してくる。
俺は、入り口側にある椅子に座っていた。目の前には最高司書であるモリオンさんがロッキングチェアに座り、手にある煙管をいつも通り弄っている。
学校終わりの空いた時間。俺は祝福武装のためのサポーターと会いに、ここに来ていた。
「その前に……お前さんに聞きたいことがある」
いつもならすぐ本題に入るモリオンさんが、珍しく話を変えた。
コルトに紹介されてから、俺もモリオンさんと関わる機会は多かったが、こんな事は初めてかもしれない。彼女はいつも効率的に話を進める。
「お前さんの相棒はコルトだ。だがあの固有魔法は……少し、いやかなり危険なものだ。相棒であるお前さんは、その固有魔法を間近で使われる可能性がある」
クルクルと揺れていた煙管が止まった。
モリオンさんがそのまま杖のように煙管を振ると、煙によって模られた俺とコルトが宙に現れる。
コルトを模った煙が、膨張しモンスターの形に変化すると、煙の俺を飲み込んだ。そして、残ったのはコルトの姿だけの煙。
「あの力は敵味方など関係ない。認識すれば、最悪廃人か死か……。そう、あの子の両親のように」
「……!」
コルトの両親が発狂し、精神病棟に送られた事は俺のクラスにまで噂が広がっていた。
伝達の途中で歪んだのか、わざと狂わせただの悪教の信徒だっただの根拠の無い話も飛び交っていて、正直不快だった。
コルトは、親が精神病棟にいることは否定しなかったが、あいつがわざと親を廃人にするような事するだろうか? 親がいないせいで学費や生活費に苦しんでいる様子は俺が一番よく見てきた。
ただ、その発狂要因はあいつの固有魔法のせいなんだろう。幼すぎて、魔法が暴走でもしたのか。
「コルトがわざとお前さんを魔法に巻き込むとは思っていない。ただ、何事にも事故は起きうる……私がここまで警告するほどに、あの固有魔法は強力で、厄介で、深刻だ。……それでも、お前さんはあの子の隣を歩むかい?」
それは、モリオンさんによる試験の様だった。入学直後の面談とは違う、圧のある……正しく試す様な。
ここで俺が否と言えば、俺はもうコルトと共に戦う事はない。お互い別々で任務をこなす事になるだろう。それは嫌だった。
まだ会って一年も経っていないが、俺はコルトの一番の友人である自覚がある。
俺もコルトも積極的に友達を増やすタイプじゃなく、島学習からクラスでの交友関係はほとんど変わっていない。コルトの立場なんてホムルと噂のせいでより辛辣になってきている。
別に群れてないと何もできない訳じゃないが、友人としてただ良く共にいる。そういう健全な友人関係だ。
「俺は……アイツの固有魔法を明かされた時から、守られてきた」
コルトが俺を巻き込まない様に、何かと配慮してくれていたのは知っている。
アイツ一人ならどうとでもできた厄介事を、俺がいたから何もしなかったことだってあるだろう。
俺はコルトに守られていたのだ。
「コルトは俺の秘密を知っても怖がったり疑ったりせず友人でいてくれた。なら──俺もコルトの助けになりたい。あいつの固有魔法が俺を巻き込む事になったら、その時はその時だ。覚悟はできてる」
「……それを本人が望んでいなくても?」
「アイツは案外、なったらなったで切り替えるタイプだろ、別に。それに固有魔法や祝福武装なんて、危険が伴うのは当たり前。それで俺が廃人になっても、コルトを責める気は無い」
コルトは、メンタルや思考回路が普通じゃ無い。
年齢にしてはやけに大人っぽいし、自分の評価より面倒ごとを避けるのを重視する。物騒な力を持つ割に、それを振りかざさない。
あとモリオンさんと同じく、倫理観がやや曲がっていると思う。
それが元からなのか、環境がそうさせたのかはわからないが。
きっと俺が廃人になっても、悲しみはすれ一生引きずったりはしないと思う。起きたら起きたで、さっさと整理して次に行くタイプ。それが俺の抱くコルトの印象だった。
それが悲しいとは思わない。きっと、俺も似た様な思考をしているから。
「ふふ……覚悟は硬いようだね。その意気や良し。安心して修行に送り出せると言うものさ」
「どうせわかってただろ」
「さぁ、どうだろうね。それじゃあサポーターを紹介しよう、そこの魔法陣の上に立ちな」
床に描かれた、個人用の魔法陣。淡く青く光るそれの中央に立つと、モリオンさんは魔法陣を起動させた。一瞬で視界が切り替わる。
そこは広く、何も無い立方体の部屋で、ガラスのようなガラスじゃないような材質の不透明な壁で囲われていた。
家具も自然物も無い空間だが、開けた視線の先に誰かが立っている。
日焼けした肌が眩しい、筋肉質の男だった。
「おお、来たか少年よ! ワタシが今回キミを鍛えるトレーナー、バンデック・バンドランだッ☆ フォークロア卒業生としてッ、モリオンの友人としてッ、そしてキミのトレーナーとしてッ! 存分に鍛えようじゃないか!!」
「えぇ…………」
予想してなかった性格に、思わず気が抜けた声が漏れた。
セリフと共にマッスルポーズを決めるその人が、俺のサポーター?? 確かに俺も鍛えてはいるけれど、今回鍛えるのは固有魔法なんだが。
「ワタシは学生時代から弓、ボウガン、投石などありとあらゆる遠距離武器に親しんできた!! ツヴァイ少年は特殊な遠距離武器を使うのだろう? その修行に大いに助力できると思うぞ☆」
「その筋肉で遠距離……??」
嘘だろう明らかに近距離で関節技とか極める系の体格してるぞ。そのなりで遠距離型なのかよ。
キラキラと瞳と筋肉を輝かせながら、バンデックさんは続ける。
「ここはモリオンが造り出した特殊空間!広さ、重力、的の数など自由自在☆ キミにはここで、射撃、狙撃、万が一の接近戦を学んでもらう!!」
その言葉と同時に、バンデックさんは手にボウガン、空中に動く的を喚びだした。
的は高速で動き、不規則に軸を変える。その機敏な動きは、俺ではなかなか照準を定められないほど。
そんな的を、バンデックさんは豪快な射撃音と共に簡単に撃ち抜いた。
それだけで、この人との力量の違いが明確にわかる。
この人は、強い狙撃手だ。
「何事も、まずは当てることから! 命中率、精度、速度。この順番で鍛えていくぞ! なぁに、モリオンのお墨付き、すぐに物にするだろう☆ さぁ見てばかりいないで、キミも武器を出すんだ!!」
「……! はい!」
俺は《超越銃器》によって銃を喚び出す。中距離射撃に向いた、アサルトライフルという銃種だ。久しぶりの重さが腕に馴染んでいく。
サポーターのキャラは濃いが、これから残り一ヶ月足らず。祝福武装のために、コルトの横で戦うために、気合を入れて取り組んでいこう。
…………本当になんであの筋肉で遠距離主体なんだ??
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