「ついに、当日かぁ……!」
修行を始めて一ヶ月。
僕とツヴァイは無事に修行を終え、祝福武装を獲得していた。
ツヴァイは、授業中よく傷だらけで学校にきて、「抗争に巻き込まれた」「喧嘩に明け暮れている」なんて噂が立ったり。僕もクラスメイトに絡まれたりしたけれど……。
無事に今日を迎えることができた。
僕は、祝福武装を獲得すると同時にある程度の魔法の制御が可能になっていた。
瞳にぼんやりと神話生物を映すことで気絶程度にSAN値を減らしたり、今まで通り普通に召喚したり。
後半はほとんど、ステイルメイトの尋問担当として働いていたのでオルカさんから報酬も頂いてしまった。律儀な人なんだ。
ツヴァイもツヴァイで構える速さとか命中精度が上がったらしい。
それぞれ強化された固有魔法でもって、フォークロア魔法師祭に挑むぞ!
改めて、フォークロア魔法師祭はフォークロアの生徒が先輩や教師、就職先にアピールできる体育祭のようなもの。
それぞれの学年、クラスごとに競技があり、同じ学年同士で競い合う。学年が離れてると競技にならないからね。
優秀な生徒には賞が与えられたり、成績に加点がされる。
色々な競技があるけど、僕らが今回出るのは
コンビを組んで、相手と魔法を撃ち合い戦う戦闘競技だ。
場所は入試で使ったコロシアム。全体に死亡防止魔法が張られ、客席に余波が行かないように結界も貼られている。
死なないけど大怪我は負う。でも身体の後遺症は残らないというなんとも便利なコロシアムですよ。魔法師の世界って物騒だね。
今回はこれで優勝を目指します!
「ただ、悪いけどギリギリまで僕は《猫の召喚》として参加させてもらうね」
「ああ、固有魔法の偽装は忘れてない」
そう、僕は学校では固有魔法は《猫の召喚》だと偽っている。しかしこの戦いでガンガンに本来の《クトゥルフ神話TRPG》の力を使ってしまうと意味が無い。
祝福武装のみ、本来の固有魔法を解放する予定なのだ。
それまでは、本日の担当猫、錆柄のサビさんに頑張ってもらう。
「ニャーア」
「うん、頼りにしてるよ、サビさん」
別に一匹しか召喚できないとは言ってないので、サビさんを筆頭に複数召喚したりする時もあるだろう。みんな優秀な軍猫として、力を発揮してほしいな。
「終わったらちゅ〜るあげるからね」
「ンニャ」
「俺たちの最初の相手は……C組のやつららしいぞ」
一年はA、B、C組があるので、一試合で全クラスの選手がでることになるのか。
ダブルスはトーナメント戦で、最大4戦ある。魔力と体力を温存しつつ、確実に勝っていこう。
「あ、いたいた〜」
「リリリ先輩! どうしたんですか」
「うん、先輩としてちょっと応援してあげようと思って。ハイこれ」
「?」
リリリに渡されたのは、僕は杖。ツヴァイはモノクルのようなグラスだった。
どちらも魔力真鍮でできており、魔法が込められているのを感じる。
「コルトのには『撹乱』と『回復』の魔法が、ツヴァイのには『視界補助』と『魔力消費減』かけてあるの。ぜひ使ってね」
「また、なんというかとんでもないものを……」
「ありがとうございます。……今日はお酒飲んでないんですね」
「流石に外部の人も来る中で酒は飲めませんわぁ〜」
猫の意匠が施された杖は、相手の魔法を妨害し、割り増しで魔力を消費するが傷を癒してくれる力が込められていた。ちゃんとした店で買うと六桁はいく代物だ。大事に使おう。
「ツヴァイ、モノクル似合ってるじゃん」
「そうか? ……先輩、ありがとうございます。行ってきます」
「勝ってきますよ」
「頑張れ〜。くぅ、観戦しながら呑めないのが辛い……!!」
相手はC組で優秀だと言われている二人らしい、油断せずいこう。
コロシアムの中央に入場する地下通路に移動すると、赤と青の揃いの帽子が見えた。
「あれが一回戦の相手、“紅藍”ベン&ベド。炎と水の使い手で、双子らしい」
「お前たちがオレらの対戦相手、“猫と翼”かぁ?」
「なんか、期待はずれだな。弱っちそう」
赤い方がベン、青い方がベドだそう。双子の兄弟で、揃ってフォークロアに入学した珍しいコンビ。
因みに“紅藍”“猫と翼”は登録チーム名で、僕のチームはモリオンさんが安直に決めた。
早速挑発してくる二人。でも、僕もツヴァイもそれくらいじゃ動じない。
というか、僕らって絡まれすぎじゃないか? この学校、良いとこの坊ちゃん校と思ってたら治安悪いんだよな……。
いかんせん才能があって、それが報われてきた人しかいないから、プライドがみんな高いんだ。悪くいうと高慢なのだな。
にしてはチンピラみたいな言動によく遭うけど。
「左のやつ倒せば、簡単に勝てそうじゃないか」
「まーそう行ってやるなよベド! オレたちが勝つのは決まってんだ。調子乗ってるA組に吠え面かかすチャンスだぜ!」
「そうだなベン、早く戦おう。俺たちの魔法をとくと味わうが良いさ」
そうして、指定の入り口に向かっていく“紅藍”。
「なんだか安っぽい挑発だったね」
「C組はなにかとA組に突っかかってるらしいからな、お前も気をつけろ」
A組に優秀な生徒が多いから、クラス全体で嫉妬されて対抗心を燃やされてるらしい。それ自体は別に良いけど、またねちっこい事に巻き込まれないと良いなぁ。
僕は杖を振って撹乱の感覚を覚えつつ、コロシアム入り口へ向かった。
戦いが、始まろうとしている。
*
「うわー!? なんだあの武器は!?」
「このっ猫! うろちょろするなぁ!!」
チンピラはやはりチンピラだった。
ツヴァイの銃撃に気圧され、サビさん達に翻弄される姿はとても“紅藍”なんてかっこいい二つ名で呼べない。せいぜい“ずっこけ兄弟”だ。
ツヴァイの弾は安全なゴム弾に変えられているが、それでも痛い。
高速で撃ち出されるそれにビビり、猫たちのつけ入る隙を作ってしまった。猫の集団が顔に、背中に飛び乗り、爪を立てる。
振り払おうとすれば大振りな動きにツヴァイの弾幕が当たり、また混乱が強まっていく。
僕は遠くで、猫たちが攻撃の対象にされれば撹乱し、傷を負えば回復する。デバッファー兼ヒーラーみたいな役割になっていた。
猫で埋まっていてもツヴァイの弾が猫に当たることはないのは、モノクルの視界補助のおかげだろうか。
「ひぃぃ! ベド、助けてくれ!」
「落ち着いてベン! うわぷっこの猫風情がっ!!」
すっかりベンは錯乱しているし、ベドも身動きが取れない。
そこにツヴァイがゴム弾を叩き込めば、あっという間に気絶、勝利!
準備運動にはちょうど良かったが、対戦相手としては物足りない。
大口叩いた割に……という無様さ。そんな紅藍二人が担架で運ばれていく。
「一戦目の勝者は、“猫と翼”コルト&ツヴァイ〜!!!」
そんな実況の声も聞こえるけれど、会場はイマイチ盛り上がっていない。
そうだろう、一方的過ぎた。観客を温めるにも、すこし大味すぎたと言えよう。
「二回戦も油断せずいこう」
ツヴァイは真面目だなぁ。
SAN値チェック
-
成功
-
失敗
-
発狂