拍子抜けな一回戦だったが、二回戦からはそうもいかないだろう。相手も一度戦い、勝ち抜いた存在。ウォーミングアップは済んでいるはず。
相手はC組の──って、またC組? ダブルスに偏ってるのかな。
あ、ダブルスの他に
「“風鬼の杖”サント&ハズー」
「やぁ“猫と翼”。よろしく」
「まさか君たちが二回戦にくるとはね」
“風鬼の杖”の二人組は、薄緑の髪をした青年、サントと、オリーブの髪をした青年、ハズーだ。
どちらも優しい好青年といった雰囲気で、穏やかそうだ。細身の長身というのも、なんというか物語の王子様のよう。
その腰元には、チーム名の由来だろう杖が差されている。
「良い試合にしようじゃないか」
「うん、よろしく」
「ただし、容赦はしない……いいね?」
「臨むところだ」
そうだよこう言うのだよ。
チンピラみたいなセリフとか、余計な煽りとかは要らなくてさ。こういう真摯に試合に向き合う心が大事なんだって。
サントが僕の肩をポンと叩く。試合相手への激励だろう、僕も彼の背中を数度叩き、その心意気に応える。
「どんな結果になろうと恨みっこなしだ。それじゃあ、僕らはもう行くよ」
「よろしくな、“猫と翼”」
「ああ」
「お互い頑張ろう!」
正々堂々、と言う言葉が似合う。そんなカードだろう。
なかなか油断できない相手、僕も祝福武装を切ることになるかもしれない。
僕とツヴァイはそれぞれ装備を整えると、コロシアム入り口に向かった。
「次の試合はダブルス、“風鬼の杖”VS“猫と翼”だぁー!! 一体、どんな試合を見せてくれるのかー!?」
ハイテンションの実況が頭に響く。試合中はほとんど気にすることはないけど、こうしてコロシアムを見回すと観客の多さにプレッシャーを感じるなぁ。
外部の人や商会の職員なんかもいるらしいから、余計にそう思えるのかも。
生徒によっては、あそこに家族が……なんて事もあるんだろう。僕とツヴァイは残念ながらそういった身内の応援は無い。
でも、モリオンさんやリリリ先輩が応援してくれてるもんね!
「さぁ試合開始のゴングが鳴ったぞ!」
「悪いね、プセヴドニモくん」
「え?」
直後、僕の左肩を風が切り裂いた。
「コルトッ!?」
「っう……大丈夫! そのまま続けて!」
相手は詠唱や杖を振った素振りも見せなかった。それなのに風魔法が発動したと言うことは……無詠唱? でも、一年は無詠唱での魔法行使は禁じられてたはず……。
それに魔力の流れを一切感じなかった。考えられるとしたら……
「僕の固有魔法は、事前に魔力を付着させた場所に風を発生させる! うまく引っかかってくれて助かったよ」
「っあの時か! 試合前の妨害は禁止のはず」
「バレなきゃ良いのさ、さぁさぁどうした!? プセヴドニモくん!?」
さっき肩に手を置かれたのは、激励ではなく魔力を付着させるためってことか……。試合開始直後に発動させて、混乱を狙ったんだろうけど。
「ネタバラシが早いよ」
「っ! もう復活したか!!」
リリリの杖があって助かった! すこし魔力消費が大きいが、肩の傷を回復させて猫たちに指示を飛ばす。
肩口の大きな傷は癒えたが、その間につけられた細かい傷までは癒してる暇がない。
ツヴァイは上手く避けているようだから、僕もこのまま猫たちで押し通す!
「卑怯な手を使うよね……そんなに僕らに勝ちたいの?」
「A組には容赦なく、それがC組の意思だ! 優秀だからって調子に乗ってる連中を俺たちが超える!」
「調子に乗ってるのはどっちだよって……! 猫たち、挟撃して!」
C組の妬みは本物らしい。
サントは風魔法で僕を集中して攻撃し、魔力が付着すればすぐ固有魔法で刻もうとしてくる。なんとか撹乱で避け、猫たちで妨害する。
ハズーはツヴァイを相手しているようだが、ツヴァイも風魔法が得意だから上手く相殺していて、あまり優勢ではない。
ツヴァイはまだ大丈夫。でも僕はこれ以上傷を重ねるわけにはいかない。
切り札の使い所だろう。
「ツヴァイ、《祝福武装》を使う!」
「! わかった」
猫たちを翻弄するフォーメーションに変え、僕は杖をしまった。
手元に魔力を集中させ、目を閉じる。
精神統一、そして集めた魔力を極限まで抽出し……顕現させる!!
「《祝福武装:The Keeper of Arcane Lore》」
祝福武装は、その名の通り武装。抽出された魔力が物体を型取り、その者の一番適した装備に変質する。
そして、その武装は決して壊れず、決して使用者を裏切らない。
僕の武装は、口元を覆う仮面、手にある分厚い
まさにクトゥルフ神話TRPGにおける
「あれは……!?」
「祝福武装か!? もう習得してるのかよっ……!!」
「うん、問題なく起動できた。それじゃあセッションを始めよう」
僕の祝福武装の効果は、
・僕自身への攻撃の無効化。
・周囲の生物が行動する際、ダイスロールを発生させる。
・一部判定の数値は僕が決められる。
・邪神の完全顕現。
の四つ。
ちょっと最後がヤバすぎるけど、今回使う予定は無い。世界滅んじゃう。
クトゥルフ神話TRPGにおけるKPとは、キャラクターやシナリオよりも一つ上の次元の存在。
ダイスロールによって成否を判定し、プレイヤーに情報を与え、時に試練を与える。
故に、キャラクターはKPに攻撃することはできない。
僕に向けられた風魔法は全て逸れ、無効化される。
そしてその風魔法にはダイスロールによる成否判定が必要だ。僕の周囲に浮いた幾つものダイスが、彼らの行動を1d100で判定している。
勿論ツヴァイと猫の行動もなのだけれど、どちらも優秀だからそもそもの基礎数値が高い。出目も安定しているし、なんならクリティカルも出している。
逆に“風鬼の杖”は固有魔法に頼って鍛錬を怠ったのか、風魔法の成功値はあまり高くない。サントよりハズーの方が高いが、それでもツヴァイとのステータス対抗で負けている。
周囲のダイスロール対象のステータスは、数値化され僕の持つ魔法書に書き込まれている。変更があるたびに都度更新され、じわじわと減っていく二人のHPが見える。
「っこうなったら……! 僕たちも奥の手だ、サント!」
「そっそうだな! 温存しておくつもりだったが……しょうがない!」
サントとハズーが並び、杖を構える。
杖の先に魔力が集まり、風を巻き起こす。
合体魔法だ。
緑の旋風が辺りを舞い、収縮する魔力によって髪が靡く。
おそらくこのコロシアム全体を風の魔法で埋め尽くす《合体魔法:風龍の怒り》を使うのだろう。そうすれば、僕はともかくツヴァイは大ダメージを負ってしまう。
猫たちを一時退避。ツヴァイにも防御魔法を張るように言い、僕はその合体魔法の判定を行う。
「運命のダイスロール……1d100、成功値50」
「二分の一か……」
「100面ダイス、ロール!」
カラン、カランとダイスが舞う。
1から100。数字を刻まれた真っ白なそれが、数度跳ねた後カラコロと転がり…………止まった。
その数値は────
SAN値チェック
-
成功
-
失敗
-
発狂